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火種発見

皆さん、あけましておめでとうございます。

本年第1回目の投稿となります。

既にオミクロン株の流行が始まっていますので、諸々に注意しつつ、上手く人生を楽しみましょう。

――西暦1749年 12月15日 ワスパニート王国領土 フィリップ島

 ここは、ワスパニート王国の領土の1つであるフィリップ島という島。具体的には、旧世界のフィリピンに相当する場所である。

 ここには、日本の海上保安庁の1800tクラス(具体的には『あそ』型)の巡視船を参考に、小型かつ安価な小型フリゲートとして建造された『ハルサメ』級フリゲートという船が10隻配備されていた。

 ここは大陸部を除けば最も蟻皇国との距離が近いポイントであると同時に、旧世界には存在しなかった鉱山と油田が存在したため、日本の指摘を受けた王国側も多くの戦力(ただしワスパニート王国基準で)を集結させて守りを固めていた。

 そんな海域に配備されているこのフリゲートは、ワスパニート王国がベトナムやタイなどの大陸の一部のみならず、フィリピンやインドネシアなどの島嶼部を多く領有していることから、存在をシンドヴァン共同体から聞かされていた2年以上前からフリゲートとして輸出できるようにと計画していたものである。

 1800tのフリゲートとはいうが、海上自衛隊で最も小さい戦闘艦である『はやぶさ』型ミサイル艇の200tと比較するとその9倍もの排水量である。

 最初は具合を見る意味もあって日本で何隻かが建造された。

 この船は日本の厚意でワスパニート王国各島内に設置された造船所において現地人を雇用したノックダウン生産を行うことで、現地の雇用も確保していた。

 また、システム類はFCSと海上保安庁基準の対水上レーダー、さらにこのレベルの船舶に搭載できる対空レーダーがうまく見つからず、既存の技術でどうにかしようと考えた防衛装備庁が苦肉の策として、『Fー15』のものと同じ『小型改良対空レーダー(具体的には『Fー15』に搭載される小型対空レーダーを船舶に無理矢理搭載できるように改良したもの)』を搭載しており、対空戦闘ならば同時に18の目標を探知して6目標を追跡可能(本来は24目標の中から8目標を追跡するのだが、少しスペックダウンされている)な、これまでの王国基準からすると100年以上未来の技術でできあがった船となっていた。

 また、『ハルサメ』という名前は、日本海軍の歴史を調べた王国海軍の軍人が『日本が初めて国産した小型艦(この場合は駆逐艦だが)の名前をいただきたい』と言って日本側もOKを出したことで採用されたのだ。

 結果、ワスパニート王国では『雨』にとどまらず『風』や『雪』などの天候に関わる日本の駆逐艦の名前を次々と採用することになるのだった。

 ただし、これはノックダウン生産を認めている国ごとに異なり、アヌビシャス神王国は日本に生息している『海の生き物』の名前から、フランシェスカ共和国は日本に自生している『果樹』の名前からとるなど、それぞれバリエーションがある。

 ただし、なぜか皆日本語の名前を付けたがったのだが。

 そんな『ハルサメ』級フリゲートは、巡視船時代に搭載されていた機材の中で残っているのは脱出用のボート2隻だけで、それ以外は武装に変更されている。

 武装は以下の通りとなる。



『ハルサメ』級フリゲート・武装

○16式機動戦闘車砲塔流用型・52口径105mm単装砲(戦車砲ではない) 1基

○RWS12.7mm機関銃 1基

○28式近距離間対空誘導弾(陸自の93式軽SAMを改良して艦載型に変更した) 1基8発



 費用を抑えるための既存兵器の流用ばかりなうえに、第二次大戦レベルならばちょっとした駆逐艦が装備しているのではないかと考えられる主砲(日本でも『秋月』型駆逐艦が連装砲とはいえ65口径10.5cm砲を装備していた)を海上保安庁の巡視船の船体に装備している。

 まぁ、第二次世界大戦時の日本は700t前後の水雷艇や掃海艇に12.7cmの大砲を搭載していたので『今更』感はあるが。

 逆にそんなことをするのならば、なぜ海上自衛隊で採用されている127mm速射砲や76mm単装速射砲が採用されなかったのかと言えば、『哨戒をメインとするフリゲートにはオーバーキルであり、〈程々の射程〉と、〈それなりの威力〉を両立させよう』ということと、『速射砲ではすぐに弾切れしてしまう』という試算が出た結果、16式機動戦闘車の砲塔に白羽の矢が立ったのだ。

 この105mm砲は砲塔もろとも表面に防錆加工を施してあり、さらに砲弾は対艦・対地空両用弾と訓練弾の3種類を発射可能となっている。

 対艦向けは敵の装甲を抜いて指揮系統を破壊するためのHEAT弾で、もう1つは対人・対空向けの近接信管装備の砲弾である。

 これは弩級戦艦くらいまでの相手であれば、甲板で作業する乗員に大きな効果を発揮する。

 対空面の性能でも、第二次世界大戦基準の航空機までであれば十分に撃墜できるようになっている。

 HEAT弾は日本の設計により、500mm以上の装甲を貫通することも可能なものとなっているため、当てることさえできれば、と言う条件が付くが、『大和型戦艦』のバイタルパートをぶち抜くことも十分に可能なのだ。

 しかし、速度も30ノットという高速を出せはするが、本来の設計上装甲などというものは砲塔を含めてほとんどないに等しい(砲塔部分を含めた一部だけ105mm砲に耐えられる設計を用いているので多少は頑丈だが)ので、基本は一撃でも『食らえば終わり』である。

 しかし、元々哨戒及び主力艦のサポートが主な仕事なので、主力はもっと充実している『ピストリークス』級巡洋艦がこなせばよい。つまり、『これで十分』なのである。

 旧世界の米軍で言えば『LCS(沿海域戦闘艦)』に近いコンセプトだが、日本の場合は既存技術の詰込みによるグレードダウンタイプの輸出用軍艦と言うところが大きな違いである。

 主砲も本来は人力装填だったところを『10式戦車』の主砲の装填装置を転用して105mm砲にも対応できるものを製造した。

 搭載兵装の多くは現在生産しているものでありながら『コストダウンを図ったもの』であったり『旧式ながら今ならコストを下げて製造できる』ものを多数用いていたりしたことが幸いした。

 これでお値段なんとたったの90億円(はやぶさ型ミサイル艇より18億も安い)である。これはグランドラゴ王国を除く友好諸国にも大量輸出することが決定した(フランシェスカ共和国やスペルニーノ・イタリシア連合、さらに今となってはニュートリーヌ皇国やエルメリス王国にも)ため、量産効果でここまで安くなったのである。

 というか、本来の『あそ』型巡視船よりも安くなっているというトンデモというか、トンチキぶりであった。

 もちろん、各国に建設したノックダウン生産用の工場もフル稼働しているので、それのおかげで旧世界のアメリカが第二次世界大戦時に経験した『週刊駆逐艦』ならぬ『月刊フリゲート』状態になっている。

 そしてなによりも、ここまで値段が安くなったのを見た日本はいかに『旧世界の米国軍事企業が暴利を貪っていたか』を改めて思い知ったのであった。

 加えて、ブロック工法からのノックダウン生産を用いることで現地人も多数を雇用することができており、諸国の経済の活性化にもつながっていた。

 結果、歳出もかなり……いや、『相当に』多いものの、ワスパニート王国は日本と関係を持ったことにより、瞬く間に景気が大きく上向いたのだった。

 具体的には農作物及び漁業の収穫量の増量と工業製品の低コスト化、そしてインフラの整備によって、国内の流通も活発化し、さらに交流のあった諸国からも多くの人が訪れるようになったのである。

 日本が各諸島を整備してリゾート地にしようという計画もあるため、シンドヴァン共同体の商人の一部には先行投資を始める者までいる。

 話が長くなったので本筋に戻ると、『ハルサメ』級フリゲート21番艦・『ユキカゼ』は、ワスパニートフィリップ島北西50kmの海域を哨戒していた。

 艦長のミルモスは、この日も異状なく当直を終えられるかもしれないとホッとしていた。

「どうやら、今日も異状はなさそうだな」

「はい。見えるのは海鳥ばかりです」

 レーダー監視員からも報告が上がる。

「レーダーにも感ありませんね。平和なものですよ」

 日本と言う国と国交を結び、様々な先進技術を教わった。中には付き合いのあるフランシェスカ共和国のエルフやニュートリーヌ皇国の猫耳族など、色々な種族が日本の大陸にある教育場で訓練を積んだ。

 基本的な攻撃は機械がやってくれるので、機械の操作を間違えないこと、それと操船の方法などが主だった。

 これまでの王国を基準とすると、とてつもない兵器を手に入れた、というのが王国海軍軍人たちの共通した感想だった。

 これでも日本の主力艦には全く手も足も出ないというのだから、日本がどれほどの力を有しているのか、まるで想像がつかない。

 ミルモスがそんなことを考えていた時だった。

「ん……?レーダーに感あり‼ 本艦より9時の方向‼」

「なに!?」

 ミルモスと副艦長のケリャーノがレーダー監視員のそばに行くと、輝く点が2つ、浮かび上がっていた。

「国籍はわかるか?」

 日本が作った船を運用している国ならば、識別装置による信号が作動するはずである。この近辺では、基本的に自分たち以外には日本の大型貨物船かグランドラゴ王国の船舶しか来ないはずであった。

「国籍不明! 恐らく……蟻皇国の船と思われます‼大きさ……1千tほどの小型艇かと考えられます」

「ふぅむ……遠洋漁業の超大型漁船が迷い込んだか? この辺りは割といい漁場だしな……いや、そんなことでこんな近海まで来るか?」

「あ、もう1つ出ました……これも……1千t近い船舶です‼距離、60km‼」

「なんだと!?」

 慌ててレーダーを覗き込むと、確かに反応が3つ出ている。どうやら、この先にある島の陰に隠れていたのが出てきたらしい。

「もしかしたら、蟻皇国軍の偵察かもしれないな。こちらは1隻だけだが……対話を求めてみるしかないな。よし、当該海域へ向かう。取舵一杯‼」

「とーりかーじいっぱーい‼」

 『ユキカゼ』は左へ90度旋回すると、速力を上げて現場海域へ向かい始めた。

「国籍不明艦、移動開始。速力5ノット」

「5ノット……巡航速度に入る前、と言ったところだな。追いつけるか?」

「こちらはその6倍の速度ですからね。なんとかしてみせます」

 『ユキカゼ』は疾風のごとく水の上を疾走する。本来ならば燃料の消費が激しいところだが、元々哨戒がメインの任務なので予備の燃料も多少搭載している。

 それを加えれば、当該海域へ向かったとしても戻ってくることは十分可能であった。

「しかし、なぜ急に蟻皇国が?」

「もしかしたら、今までも密漁とかよくやっていたのかもしれませんよ? 我々がレーダーを持っていなかったから気付かなかっただけで」

「だとしたら情けない話だな。対空レーダーに反応は?」

「対空レーダー、異常ありません」

 少なくとも、航空戦力は来ていないようだ。ミルモスは日本から提供された、恐らく蟻皇国が保有していると考えられる航空機の情報を思い出す。



○同国の保有艦上戦闘機は、旧世界のイギリスと言う国が保有していた『フェアリーソードフィッシュ』と呼ばれる複葉機に酷似。

 乗員3名

 全幅13.87m

 全長10.87m

 全高3.76m

 690馬力エンジン

 最大速度224km

 航続距離843km

武装

 7.7mm固定機銃1丁

 7.7mm旋回機銃1丁

 730kg魚雷或いは680kg爆弾1発懸架可能



 少なくとも、王国が現在導入し始めた『ヒルンドー』型戦闘機と比べてしまえば赤子のような性能だが、もし仮に敵軍艦と連携してこの船に攻撃を仕掛けて来たら非常に厄介であることは間違いない。

 特に、この『ハルサメ』級フリゲートは、対艦攻撃に使えるのが主砲の105mm砲だけである。

 本当は『ASGMー1』ロケットブースター設置艦載改良型の発射ランチャーを1基搭載する予定だったのだが、残念なことに誘導弾の方の量産が間に合わずに、今の時点では見送られている。

 それでもいずれ搭載可能なようにスペースは残されているのだが。

「まぁ、相手が駆逐艦と同等であれば、こちらもある程度は戦えるがな……こちらは紙装甲だ。一撃でも弱い箇所に被弾すれば大破炎上は免れないぞ」

「せめてもう1隻……『ムラサメ』がいてくれたら、と思いますけどね……」

 『ムラサメ』は、『ハルサメ』級フリゲートの2番艦で、この海域の警備をしているフィリップ島海上警備隊の旗艦である。

 練度も申し分なく、相手が蟻皇国の同レベルの排水量を誇る船であろうとも、十分に戦えるだろうと言われていた。

 だが、ないものねだりをするわけにはいかない。

「本部に通信を入れておけ。『我、国籍不明艦を発見す。これより臨検に向かう』とな」

「了解」

 通信士一言一句間違えずにミルモスの言葉を伝えた。

 ちなみに余談だがこのミルモス、ワスパニート王国では存在が『当たり前』の女性軍人である。

 日本人に近い顔立ちに、キリリと引き締まった眼差しが特徴の、『女侍』や『女剣士』という言葉が当てはまりそうな凛々しい系美人である。

 船の中には男性も女性もおり、それぞれの仕事をしているが、ワスパニート王国では昔からのことなので何も問題はない。

 それから30分後。

「該当船舶を目視で確認‼」

 見張り員の報告を受け、ミルモスは双眼鏡(日本から『こんなものでよろしければ』とタダで譲り受けた)で相手艦を確認する。

 距離は既に30kmを切っていた。

「あれは……やはり、蟻皇国の旧式駆逐艦と新型駆逐艦だな」

「新旧織り交ぜられているという辺りに、我々をなめているというのが窺えますね……」

「仕方あるまい。彼らからすれば、我々の方が『総合的』に劣っているのは事実だからな」

 ミルモスはそう言いながら、再び日本から提供してもらった情報を確認する。

 ちなみに『情報』とは言うが、政府がその手の雑誌をよく発行している宝諸島社に依頼して、『読みやすく理解のしやすい資料をヨロシク』と依頼して作ってもらった、『これさえ読めばあなたも各国の兵器ツウ‼』と書かれた冊子だった。

 兵器のページには様々な写真も載せてあるため、非常にわかりやすい。

「えぇと……あぁ、これだ。砲術長、確認してくれ」

「砲術長、受け取りました」



○蟻皇国の旧型駆逐艦は旧世界のイギリスが保有していた『アカスタ級駆逐艦』に酷似している。

○最新鋭の駆逐艦は『メディア級駆逐艦』に酷似している。



 マイナーな船なので敢えて詳細な性能は書かないが、知りたい方はネットで調べてみてほしい。

 ちなみに最後の欄には『ただし、魚雷(水中をスクリューで自走する爆弾)は搭載されていない模様』と書かれていた。

 安心できる要素かどうかはわからないが、相手の攻撃要素が少ないというのはそれだけでも喜ぶべきなのかもしれないとミルモスは思っている。

 それでも、あの駆逐艦には10.2cm砲が主砲として搭載されているため、純粋な砲力という点では脅威である。

 これを見た砲術長は難しい顔をする。

「中々手ごわいかもしれませんね」

「日本から情報のあった魚雷という兵器は元々搭載されていないようだが、それでもその魚雷より射程の長い大砲がある。十分に注意してかからないとな」

「はい。そうだと思います」

 やがて、距離が20kmを切る。すると、向こうも気づいたようだった。速力を上げようとしているのか、甲板上の乗組員たちが慌てて動いている様子が見える。

「どうしましょう?」

「そうだな……距離5kmを切った時点で呼びかける」

「もしも、その前に攻撃を受けた場合は?」

 ミルモスは『キッ』と一瞬目を鋭く細めると、すぐに見開いた。

「全責任は私が負う。全力を以て、正当防衛を実施しなさい」

「了解」

「ちなみに通信士、今までの一連のことは……」

「ばっちり録音しています。万が一我々が撃沈してもいいように、日本特製の頑丈なブラックボックス入りの奴です。この海域なら日本が引き揚げをしてくれるでしょうから、問題はありません」

「上出来だ。総員、思い残すことはないな?」

 すると、レーダー監視員の女性が手を挙げた。

「私、帰ったら夫と子作りするんです」

 公共の場で言っていい内容かどうかもさておき、それは明らかな死亡フラグである。

 ちなみに、こういった発言に関しては日本側も悪ノリして(ある意味心配して、とも言うが)『帰ったら何々するという発言は悪い運命を引き寄せる可能性がありますので、十分注意してください』と通達をしていた。

 わざわざ戦争系の映画やそういった発言の出てくるアニメなどを見せて教導した、と言えばその熱の入れ方が窺える。

 入れる方向を間違えている、とか言っちゃいけません。ジンクスは意外と大切なのです。

 日本人はその点で、ゲン担ぎやジンクスをとても大切にする種族であった。

 そして、『そういう発言はNG』ということをわかっていながら発言したことに、艦長以下、誰も文句を言う者はいなかった。

 むしろ、ニヤリと悪そうな笑みまで浮かべている。

「全く、仕方のない奴だな。ならば私も敢えて返そう。『そういうことは家でやれ』とな……他にはないな? よし、速力このまま‼」

「ようそろぉー‼」

 『ユキカゼ』は加速の遅い皇国艦に瞬く間に距離を詰めていく。そして……遂に5kmを切った。

 副艦長がマイクを取りながら敬礼する。

「艦長、拡声器による声掛けを始めます」

「よし、やれっ!」

 副艦長のケリャーノがマイクに向かって話しかけると、『ユキカゼ』の艦橋の上部に取り付けられている拡声器から、大きな声が響き始める。

『こちらはワスパニート王国海軍所属フリゲート艦、〈ユキカゼ〉です! そこの蟻皇国籍の船、止まってください! 貴艦は我が国の領海を侵犯しています‼ 臨検を行いますので、止まってください‼』

 領海・領空の概念も日本からの勉強で入ってきている。少なくとも、フィリップ島から見て西に70kmほどのこの海域は、れっきとした王国の領海だ。

 だが、皇国の駆逐艦は止まる気配がない。それどころか、もっと加速しているようにも見える。

 だが、これも致し方のないことである。皇国軍側からすれば、『領海がどうした』程度の認識しかもっていないのだから。

 地球の同年代(戦間期辺り)がどうだかはわからないが、少なくとも、各国間の境という概念が割と曖昧であるこの世界では、よくある話である。

『止まりなさい‼ 止まらないというのであれば、警告射撃します‼』

 先ほどよりも語気を強めるが、それでも止まる様子がない。ちなみに、信号旗や発光信号の類はこの世界では発達していないので、それらを掲げる様子はない。

 日本側はそれらの概念も通達したのだが、相手がそれらの存在を知らない蟻皇国では、せっかく教わったことも意味がない。

「艦長、警告射撃の許可を」

「今より、警告射撃を行います。主砲、弾種訓練弾‼」

「選択、訓練弾‼」

 船首に備え付けられている『52口径105mm単装砲』が敵の一番大きな船……この場合は『メディア』級に似た駆逐艦の方を向く。

「距離、3km‼」

「撃ちぃ方始めぇ‼」

「撃ちぃ方始めぇ‼」



――ドォンッ‼



 訓練弾は、日本が開発した『後で自然分解される』ペイント弾であり、命中しても人に直撃しなければ死者は出ない。

 しかも、今狙ったところは艦首下部である。

 猛烈な発砲炎が一瞬見えた直後、黄色い塗料がブワッと蟻皇国の駆逐艦の艦首に広がった。

「警告射撃命中を確認!」

「再度声掛け開始‼」

『こちらはワスパニート王国海軍所属フリゲート艦、〈ユキカゼ〉です! そこの蟻皇国籍の船、止まりなさい! 貴艦は我が国の領海を侵犯しています‼ 臨検を行いますので、止まってください‼次は実弾を当てます‼繰り返します‼次は実弾を当てます‼』

 すると、相手の駆逐艦の主砲がこちらを向いた。

「艦長!敵主砲、こちらへ指向‼」



――ドォンッ‼



「敵艦発砲‼」

 砲弾は命中せず、『ユキカゼ』の50m以上手前に着弾した。

「敵艦より発砲を確認しました。艦長、正当防衛射撃の許可をお願いします」

「……今より本艦は、蟻皇国駆逐艦に対して、正当防衛射撃を開始します。総員、反撃を開始せよ‼」

「了解」――『総員に通達。これより本艦は蟻皇国駆逐艦に対して正当防衛射撃を開始する。各配置員は所定の位置に付き、攻撃に備えよ‼』

 こうして、蟻皇国駆逐艦とワスパニート王国フリゲートの偶発的な戦闘が始まってしまったのであった。

……輸出用フリゲートに関しては色々ぶち込みました。

ですが、これくらいはあってもいいだろうと思いました。

次回はいよいよ現地勢力同士のドンパチパートです。

次回は22日か23日に投稿しようと思います。

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