解析の結果
今月2話目となります。
実は、パソコンの不調だったのかつい先ほどまでワードやアウトルックなどが開けない状態に陥っていたのですが、たまたまセキュリティソフトを更新したら開けるようになりました……よかったぁ……。
――2030年 9月12日 日本国 東京都 防衛装備庁
日本の防衛に役立つ技術を研究しているこの場所では、ここ半年近くはこれまでに輪をかけて多忙だったにもかかわらず、職員たちは皆イキイキとしていた。
なぜならば、オーストラリア大陸から持ち帰ったパワードスーツや未来兵器の設計図など、解析していて楽しすぎるものばかりだったからである。
今も、昼食をとりながらタブレットに映っているパワードスーツを見て会話する職員の姿があった。
「すごいな! このパワードスーツと全く同じものを今の我が国で作ることは不可能だ! いや、『形だけならば』できるかもしれないが、その場合、重量がはるかに重くなる! 最低でも20t……悪ければ、25tは優に超えるぞ!」
持ち帰って重量を量った結果、パワードスーツ本体だけだが、約10.2tと判明した。
「あぁ。武装もそうだ。この腕に装備されているのは短砲身の機関砲のようだが、推定で35~40mm近くはある。こんなものを『人間を二回りほど大きくしたような存在』からぶっ放そうと思ったら、その反動ともなると、とんでもないことになるだろう」
当然のことながら、銃や砲という兵器は大口径になればなるほどその反動はすさまじいことになる。
有名な話と言えば、『大和型戦艦』はその砲撃の威力が強すぎて、甲板上に人間がいた場合、主砲発射時に砲口から生じる『爆風』だけで人が死んでしまうほどの破壊力であった、と言えばわかりやすいだろう。
当然、そんなものをぶっ放せば、発射する『本体』にかかる負担と反動も尋常ではない。
35mm~40mmというと、日本でいえば巡視船の機関砲や『装甲戦闘車』の主砲、各国のフリゲートや哨戒艦の主砲サイズである。
本来人間の『生身の』能力では『12.7mm重機関銃』の反動にすら耐えられないと考えられている。
12.7mm重機関銃ですら、使用する際は車載か艦載か、三脚に乗せて腹ばいで運用するのである。
余談だが、この世界の種族であるドワーフ族やオーク族など、筋肉量が通常種人間族よりはるかに多い種族は、ブローニングを撃ちながら『持ち上げる』ことができることが判明しているため、種族的な差次第ではできないこともない。
このパワードスーツにどれほどの技術が組み込まれているかは不明だが、『本来車や船に載せて運用する兵器』と同じかそれ以上の威力を発揮しかねない物体を扱えるという時点で、『いかに高度な技術が用いられているか』が窺える。
「それに装弾数も問題だ。大口径弾になればなるほど、装弾数が少なくなるだろう。巡視船や哨戒艇のように、『ある程度のスペースが確保できる』船ならばまだしも、『人間より二回りほど大きなパワードスーツ』にそんなものを大量に仕込むなんていう真似は、無茶にもほどがある」
日本では本格的な戦闘艦で『やまと』型護衛艦に『ボフォース社製40mm単装機関砲』が搭載されているが、これには4門で合わせて1万発以上が発射できるように砲弾が蓄えられている。
これも260mほどという超巨大な船体あってこその収容力である。
「少なくとも、既存の砲弾ではまず連射は不可能だ。ボルトアクションライフルみたいに1発1発を大切に撃つつもりじゃないと、とても弾が持たない」
「もし現代の技術で似たようなものを作るとしたら?」
「そうだな……いっそのこと、対歩兵用と割り切ってM2ブローニングを装備して、背中にバックパックみたいなものを背負わせて給弾ベルトで連射できるようにするべきじゃないかな? 40mm機関砲弾と比べれば明らかに弾数は増やせるだろうし」
「じゃあ、近接戦闘用の武装はどうする? 装甲車くらいならともかく、戦車みたいなのとゲリラ戦で戦おうと思ったとき、桐生博士じゃないけど高周波ブレードみたいなものがないと……」
「あるいは複合装甲もぶった切れるくらいに鍛えてもらう、かな?」
「斬○剣じゃあるまいし……」
呆れ交じりに呟くが、実際に今の日本では高周波ブレードも作れそうにない。いや、正確には『高周波ブレードの能力を発揮させるためのエネルギーと、それを発揮できるだけの小型化されたエネルギーパックがない』というのが問題なのである。
物体を振動させること自体はそれほど難しくはないが、それを高周波が発生するほどまで振動させるとなると、膨大な電力を必要とする。
そんな膨大な電力を発生させる機関とモーターなど、小型化するのにはかなりの技術を要するだろう。
「パワードスーツという意味じゃ……特撮で昔あったけど、ボディーアーマーみたいなタイプで人間が装着して未知の存在と戦う、っていうのがあったな。武器はハンドガン並みの自動小銃とグレネードランチャー、それに十数年後に客演した際になるまで当たることのなかった高周波ブレードに電磁警棒、改修された後はミニガンみたいなバルカン砲と展開式の電磁コンバットナイフまで装備していたな」
「あぁ~、それって平成シリーズの中でも最高視聴率を誇る、『うどん県』の観光大使がメインの1人で出演してたやつですよね? 俺リアル世代じゃないですけど、従兄弟の兄貴がブルーレイ持ってたんで見せてもらったことがありました」
「すごかっただろう?」
「そうっすね。当時の撮影技術というか、『こんなすごいものを撮影していたんだな』っていうのがひしひしと伝わってきました」
パワードスーツ関連から、特撮の方へと話が弾む職員たち。実際、特撮作品には装着型やベルトからの展開型など、多くのパワードスーツが登場するので、参考にしようと思うと面白い話になる。
「でも、やっぱり問題なのは『そのパワーを維持するだけの出力をどこから確保するか』ってとこなんだよな」
「そうですよね。小型のパワーパックで電力が不足すればパワーは発揮できないし、かといってエ○ァン○リオンみたいにケーブルで繋がっていると動きに制限が出ますしね」
ちなみに、電力が絡むという意味で記載すると、エンジンの馬力不足を補おうと第二世界大戦時のドイツで、かの有名なポルシェ博士が採用しようとしたのが『ハイブリッドエンジン』であった(彼が最初、というわけではないが)。
要するに、『エンジンを回転させることでモーターを発電させ、動力の補助とする』という仕組みで、その仕組みで製作されたのが、かの戦車アニメで一躍有名になった『ポルシェティーガー』である。
だが、それはあくまで『内燃式エンジンを主体』に据えて『モーターの発電で補助する』という仕組みである。
このパワードスーツは全く異なる機構でエネルギーを得ているらしく、現代日本のパワーパックではこのパワードスーツレベルの大きさと重さのものは動かせない。
車のエンジン並みの重さと大きさのものを載せれば別かもしれないが、その場合搭載武装が貧弱になってしまう。
エンジンということで考えれば、スムーズに人間並みの動きをさせようと思うと、最低でも400馬力~500馬力以上は必要になると考えられる(あくまで重量からの推測)。
「いっそのこと、変態的ではあるが装甲戦闘車のような装輪式の車体に、パワードスーツの上半身を載せるべきかもな」
「……どこの機動戦士ですか……いや、機動戦士でもそんなのいるかどうか……」
まさにアニメにでも出てきそうないでたちとなりそうだ。
「でも、『大出力を引き出せるエンジン』と、『可動範囲の広い人間の上半身』を取り入れて実用化する、っていう意味じゃ、無駄とは言い切れないと思うぞ。やっぱ、人間が手に武器を持って振り回せるっていうのは大きなアドバンテージだしな。災害派遣という意味でも、色々な道具を高出力で使えるのは大きい」
「それは……確かにそうだと思いますが。じゃあ、先輩ならどんな設計にします?」
「そうだな……俺ならこうするね」
○車体は戦闘タイプに16式機動戦闘車のものを流用する。
○主砲はボフォース社製40mm機関砲を右腕に装着し、装甲化されたベルトを腕に巻き付け、それを車体に接続することによるベルト給弾方式で砲弾を放てるようにする。
○エンジンは現在研究が進んでいる最新鋭水素ディーゼルエンジン(装輪車向けの新型軽量700馬力エンジン)と新型大出力発電可能モーターによるハイブリッドエンジン
○また、災害派遣タイプとして『10式戦車』の車体を流用した下半身のタイプも検討。この場合は右腕の装備を削岩用のパイルバンカー、左腕に細かい作業が可能なロボットアームに変更した非戦闘タイプとすることで差をつけること。
○戦闘タイプにおける上半身部分の装甲には、10式戦車の複合装甲に近いものを用いることで、十分な強度を確保すること
○FCSの調整により、対空目標(この場合は戦闘ヘリコプター)に対しても攻撃可能なように設計すること
「……とまぁ、こんな感じかな? 流石に最後のFCSはちょっと難しいような気もするけど、まぁ、やろうと思えば30t~40t前後で納められると思うぞ」
「……普通に回転砲塔タイプの装輪戦闘車作った方が安上がりな気がしてきました……」
「そうだな。だが、技術が発展すればこのパワードスーツに近いものも作れるようになるだろうから、研究だな」
「うぅ……大変そうですね」
「ま、物体の小型化と高出力化は我が国のお家芸みたいなものだからな。なんとかしてみせようじゃないか」
要するに、日本面と言われる一部、『軽くする病』である。
これは昔から、特に陸軍方面ではかなり顕著であり、『九七式中戦車』や『九五式軽戦車』などを見ればその辺りはよくうかがえるだろう。
海軍でさえ、平賀譲氏の『夕張型軽巡洋艦』を試験型とはいえ建造しているあたり『諦めていない』ことがよくわかる。
成功してしまったもの、という意味ではやはり『特型駆逐艦』と『大和型戦艦』であろう。
『吹雪』を筆頭とする特型駆逐艦は『駆逐艦のドレッドノート』と言われるほどに革新的な存在だったと言われている。
なにせ、駆逐艦の小さな船体に、当時の軽巡洋艦並みの重武装を詰め込んだことで各国から驚愕の視線を浴びたと言えばわかるだろう。
これも元々はワシントン条約によって大型艦艇に関する制限を受けたことから生まれた存在である。
逸話だが、当時のアメリカが『我が国の駆逐艦300隻と貴国の特型駆逐艦50隻を交換してほしい』と言ったらしいが、米海軍は第一次世界大戦時に作りすぎた旧態然の駆逐艦が有り余っていたからそんなことを言ったという話もある。
もっとも、あまりに革新的過ぎて次のロンドン軍縮条約の際に速攻で制限枠に入った、という笑えない話もある。
ちなみにこれと同じコンセプトで作られたのが『重巡洋艦』という艦種なわけだが、日本という国はどうしても、制限を受けると『んじゃその制限の中でできることするべ』とやけくそになったと言わんばかりにど根性を発揮して、その結果各国から『はぁ!?』と思われるようなぶっ飛んだ発想のものを作ってしまうのだが。
その極みといえる大和型戦艦も、『デカい、デカすぎて隣の戦艦が重巡洋艦に間違われるほど』と言えばそのデカさが分かると思うが、実はこれでもあれこれコンパクトな船体に45口径46cm三連装砲という超が付くほどの重武装を、それもうまく同軸線上に配置しているという奇跡のような戦艦なのだ。
ただし、副砲は『最上型軽巡洋艦』の60口径15.5cm三連装砲を流用していたため、上部構造物でもその部分は防御が薄かったといわれているが。
それはさておき、大和と『コンパクトさ』で比較するいい例はアメリカ最後の戦艦である『アイオワ級戦艦』だが、あれは大和の263mよりも長い270.6mという船体であるにもかかわらず、主砲は50口径40.6cm三連装砲、しかも副砲の12.7cm連装両用砲は同軸線上ではなく船体の横部分に配置されるというものだった。
大和の副砲は同軸線上に2基とも配置されているため、そのフォルムは超巨大戦艦とは思えないほどに優美でスマートである(船幅がアイオワ級よりも5m強広いため『スマート』という表現が正しいかどうかは筆者も悩ましいのだが……)。
もっとも、こんな大和型戦艦ですら防御の関係から『必要以上に』大きくなったものらしい。
閑話休題。
「いずれにせよ、これから先がかなり忙しくなりそうだ」
「そうですね。日本がどんな方向に発展していくのか、楽しみで仕方ないですよ」
「ま、リバースエンジニアリングも大事だが、そこから独自発展させることが一番重要だからな。デッドコピーばっかりになっちゃ、召喚小説の自称最強の国を笑えなくなっちまう」
「そ、それだけは勘弁ですね……」
職員たちはベストセラーとなった召喚小説に登場した『レシプロ機より鈍足でテーパー翼を採用している変態戦闘機』や『双胴船体構造の中央にアイランド構造物を置いて、20.3cm連装砲と10.5cm連装砲で重武装した、航空戦艦化した変態空母』のイラストを思い出す。
「……あぁはならない、ですよね?」
「さぁな」
職員たちの悩みは続く。
――同日 首相官邸
「……で、現状は?」
首相の険しい顔に、文科相と防衛相が冷や汗をだらだらと流している。
まるでマンガのような光景だが、現実である。
「か、回収した諸々に関しては現時点で解析を開始していますが……何分、マンガやアニメを参考にしてもどちらかというと『外見的な設計思想』はわかるのですが、内部構造がかなり精密かつ複雑怪奇なものとなってまして……」
「つまり?」
機嫌の悪そうな首相の声に冷や汗を追加しながら文科相が答える。
「は、はっきり言いましてそもそも我が国の技術がもっと発展しないとわからないことだらけ、と申しますか……」
「……解析すら難しいか。流石に、簡単に宇宙へ出ていくという選択ができるだけはあるな。時間はかかってもいい。とにかく正確な解析を頼むぞ」
「はい。現在国内の様々な専門家のみならず、漫画家や小説家、さらにオタクなどの幅広い層から人員を募集して解析を行わせています」
「言ってはなんだが、金に糸目を付けぬつもりで色々やってみてくれ。防衛装備庁では、パワードスーツの解析をしているそうだな?」
「解析しているのはいいんですが、とにかくこちらも構造がかなり複雑で……武装、駆動系統、動力、なにもかもが意味不明な物ばかりですよ」
先ほども防衛装備庁で職員が話していたが、技術差がありすぎてわからないことだらけなのだ。
「他にも壊れたレーザーガンらしきものも出力の出し方と安定したレーザーの収束方法が、タブレットは空中へ映像を投影しつつそれをタップして映像を変更できるか、という点が悩ましいところで……」
「空中映像投射は実現しそうなんだろう?」
「それが、まだまだ難しい部分が多いんですよ。特に、『普段は機械の中にデータを収納していた、必要に応じて即座に引き出せる』という部分が難しくて……」
「うぅむ……本当に細かく、部品の1つ1つに至るまで徹底した解析が必要だな」
首相の言葉に他の大臣たちも頷いていた。将来的に自分たちか、その子孫たちが使うと思えば、気合も入るというものである。
すると、法務相がスマートフォンを操作しながら発言する。
「巷では、『古を模倣帝国不可避か』とも言われているようですね。例の召喚小説の『自称最強の帝国』の二の舞になることを恐れる声が、多数上がっているようです」
首相たちも第5巻に掲載されていた『あの空母』と『あの戦闘機』のイラストを思い出してげんなりする。
いや、形状はむしろロマンに溢れているのだが、物理法則を無視したぶっ飛んだ部分が多々存在するためになんとも言えないのである。
「そうだな……まぁ、なんとかしないとな」
「善処します」
「同じく」
大臣たちもそれぞれ『仕事が増えそうだ』と気を揉むのだった。
「そういえば、この世界に存在する亜人種たちのもとになったのであろうデータが見つかりました」
「なんだと! それはすごい!……で?」
「はい。研究所らしき遺跡には大量の防護服があったのですが、データと照合すると、最終的に本来の人類と呼ぶべき先史人類は地球の現環境に適応できなくなっていたようなのです」
「つまり、我々とは体質が変化している、ということか?」
「はい。その点に関して気になるゲームソフトがありましたので、そのゲームを制作した会社と、その当時の制作陣にも協力を要請して議論しました」
ゲームと言われて一瞬『え?』と思った閣僚たちだったが、この世界へ転移してからは今更のことなので誰も口には出さない。
「そのゲームの世界では人類は一度滅亡したような状態となっていました。原因は、『免疫力の低下による、環境への不適合』です。それらを解消するべく、人類は古代の遺跡から掘り起こされた『氷に閉じ込められた仮面をつけた男』を解析することで、『新しい環境に適合する方法』を模索したのです」
「ふむふむ」
「その過程で、獣のような耳や尻尾を持つ亜人類と呼ぶべき存在を次々と創造しました。ですが、それはあくまで彼らにとっては『実験体』でしかなかったわけです」
「そりゃそうだな。平和でのほほんとしている現代なら『人権侵害』とか言って怒られそうな気もするが」
「ですが、それも叫ばれないほどにのっぴきならない状態だった、という設定だったようです。後のことはゲームの本編にもかかわるのであえて省略しますが、要するに、この世界の亜人類や生物たちは『先史人類が再び地球で覇権を取り戻す実証実験のために作られた存在』に過ぎなかったということです」
首相を始め、閣僚たちは苦い顔をしている。追い詰められた人間がすることはいつの時代でもロクでもないのだと、突き付けられたようなものなのだから。
「じゃあ、ガネーシェード神国のヘンブ女史が言っていたような『性のはけ口』的な部分はむしろ特殊な事例だったのかもしれないな?」
「はい。俗語ですが、ケモナーと呼ばれるような趣味の者がいれば『そういった』行為もあったのかもしれません。ですが、残されていた記録のほとんどがそういったものとは無縁でしたね。先史人類の生殖方法も、ほとんどが試験管ベイビーだったらしいですし」
閣僚たちの顔が苦いものからさらにしかめっ面になる。だが、無理もあるまい。
「そうはならないように、我が国も十分注意せんとな」
「これからは常に数百年先のことを見据えて動けるようにならなければ、ということですかね?」
「さすがにそこまで極端にしろとは言えないよ。選んだ選択肢で行く先が変わるのは、ゲームによくある話だろう?人生だってそうだ」
首相は別にギャルゲーをやったことがあるわけではないが、そういう存在は知っている。
そして、歴史を見つめてきたからこそ、『歴史にIFはない』と言いつつ『もしあの場面であの人があのような行動をしていたら』などを、現代人の視点で考えることができるのだ。
それを、少しばかり未来志向にすると思えばいい。
「それはそうとして、ガネーシェード神国のアラクネたちのように遺伝子レベルで従えられているのだとすれば、他の国の遺跡はどうなのだろうな? そもそも存在するのかどうかというところだが」
「ヘンブ女史曰く、『あとは蟻皇国とイエティスク帝国に遺跡があるはず』ですからねぇ……よりによって覇権国家と思しき2国にあるとなると、面倒ですな」
「もしかしたら、両国の発展速度が他の国より早いのも、バルバラッサ帝国同様に遺跡を解析しているからなのかもしれないな。それも、遺跡の解析度合いはバルバラッサより高いのは一目瞭然だ。両国について情報はあるか?」
「それなのですが、蟻皇国の港湾部を映した衛星写真をご覧ください」
映された写真には、すらりとした船体の軍艦が映っていた。
「これは……弩級戦艦か?」
防衛相は『イギリスのセント・ヴィンセント級戦艦及びイーグル(Ⅰ)級空母に酷似』というテロップと共に映し出された写真を解説する。
「はい。それと空母と複葉機の艦載機らしきものが見受けられます。どうやら、スペルニーノ・イタリシア連合と戦争をしたころよりもさらに発展したようですね」
「この艦載機……どんなものと推測できる?」
「それなのですが、シンドヴァンに入ってきた情報によると『時速190km~220kmほどで飛行する、木製帆布張り』の戦闘機らしいので、性能的に近いのは『フェアリー ソードフィッシュ』ではないかと推測されます」
一瞬で閣僚たちは『成功してしまった英国面』という言葉を頭に思い浮かべた。
「最新鋭の船舶と航空機はイギリス風なんだな……なんだかよくわからん」
「はい。もしかしたら、遺跡に存在しているデータの中で、『実現できそうなもの』を片っ端から実現しているのかもしれませんね。それだからなのか、戦車も新型を確認しました。これです」
映し出されたのは、チェコスロバキア製の『38(t)』に酷似した車両と、『Ⅱ号戦車』に酷似した車両だった。
「これは……第二次世界大戦に片足を突っ込んでいるじゃないか! 早すぎるぞ! 艦船の設計思想から考えると、車両関連は20年以上進んでいる! 蟻皇国は少し前まで『A7V』に酷似した車両を使っていたそうじゃないか‼」
38(t)はその優れた設計から、チェコスロバキアを併合し、工場なども含めて接収したドイツ軍で重宝された名戦車である。ソ連との戦いで『Tー34ショック』が起こるまではドイツの電撃戦を支えたといわれる車両の1つであった。
「推測にすぎませんが、車両を進化させやすい遺跡が存在したのかもしれません。あるいは、イエティスク帝国からのリバースエンジニアリングとか……」
「旧世界の中国とロシアのような関係ということか? どうかな? 早とちりだと後で戦略を見誤るぞ」
首相としては早期に確定的な判断を下すことは避けたかった。
だが、これで少しわかったことがある。
「……もしかすると、先史人類の残した設計は、ドイツ・イギリス寄りの物が多いのかな?」
「かもしれませんね。今後も分析を続けていきますが、イエティスク帝国もさらに発展する可能性が捨てきれません。十分注意しないと」
「うん、そうだな。イエティスク帝国も遺跡の解読次第でだが、もっと発展する可能性がある。我々も負けないようにしないとな」
と、いうわけで解析回です。
誰だって好き好んで『あんなの』作りたいとは思わないでしょうが、歴史は試行錯誤の中で生まれていくものですから、いずれ日本もなにかやらかすかもしれませんね。
次回は12月の11日か12日に投稿しようと思います。