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北方領土救出作戦

今月3話目です。

予告通り北方領土編となります。


――2019年1月15日 日本国 北海道 小樽 海上保安庁第一管区

 北東にある北方領土付近を警備する海上保安庁第一管区では、今日も北方領土から接触がないかと監視していた。

 海上保安庁のみではない。北海道に拠点を置く陸海空各自衛隊も、ロシアからなんらかのアクションがあるのではないかと、各種警戒網を最大限に発揮して早期警戒に努めていた。

 しかし、既に転移から2週間以上が経過しているが、なぜか北方領土に住むロシア人からなんの連絡もないのだ。

「どうなっているんだろうな?」

「余裕がないなら、すぐにでも彼らは接触してくると思ったんだけどな……。」

 このところ、毎日のように第一管区で交わされている会話である。10日を過ぎた辺りから、みんな何かおかしいと思うようになっていたのだ。

 そして遂に、転移から2週間が経過したこの日、政府から通達があった。

「政府はなんと?」

 小樽海上保安部長の坂口は、政府からの要請を各員に通達した。

「政府からの通達を読み上げる」



○元日の転移から既に2週間以上が経過しているというのに、彼らの方からアクションがないのはあまりにもおかしい。

○防衛省や外務省と協議を行なった結果、北方領土のロシア人たちはなんらかの理由でこちらに連絡を取る事ができない、移動すらままならない状態に陥っているのではないかと推測する。

○今までは彼らに配慮して接触を待つ方向でいたが、これ以上待ちの姿勢を続けてなんらかの緊急事態に気付けなかった場合、人道的な観点から大変な問題になる。

○よって、ロシア大使館に許可を取ったので海上自衛隊及び海上保安庁は北方領土に赴き、極東ロシア海軍及びロシア連邦保安庁に接触を図ってほしい。



 とのことであった。

 通達を受けた第一管区は直ちに巡視船『えさん』、『しれとこ』、『ほろべつ』、そして函館から小樽へ応援に来た『つがる』の計4隻を出航させることにした。

 また、海上自衛隊からも大湊に居を構える護衛艦『はまぎり』、『おおよど』、『ちくま』の3隻及び掃海艇の『すがしま』、『のとじま』の2隻という計5隻が参加することになった。

 また、様子を見るためには航空機が必要になるだろうということで、八戸航空基地から『P―3C』も2機、出動することになった。



――4時間後 日本国 北海道 択捉島沖合10km

 八戸航空基地所属『P―3C』の機長である榛原は、緊張感があふれる中で部下に問いかける。

「今回政府があえてこちらから北方領土に接触するということだが、どう思う?」

 それに、話を振られた部下が応じる。

「少なくとも、現在に至るまで北方領土付近で漁をしていてもロシア艦艇を見ていないという漁民たちの言葉も考えると、ロシア側に船を動かせない事情などがあるのではないでしょうか?」

「連絡をしてこないということについても?」

「はい。なんらかの理由があって、今まで保有していた通信手段や移動手段がすべて使えなくなってしまった……飛躍しているかもしれませんが、ロシア人ほどの戦略性と先見性に富んだ民族が、母国となんの連絡も取れないまま、補給などもままならない状態で2週間も無為に過ごすとは考えにくいのです」

 部下の言葉に、榛原も頷いた。

「そうだな。もし移動手段や連絡手段が何も使えないということであれば、我々が接近してもなんのアクションもないかもしれない。いずれにせよ、十分に警戒する必要はあるだろうが、それだけに向こうからコンタクトがあれば逆にホッとできる。無事だったわけだからな」

「了解。」

 まずは先遣隊として、『P―3C』が北方領土最南端の国後島へと向かっていた。

 他の艦艇は先に択捉島まで到着しているが、先遣として向かう『P―3C』の報告を待っている状態である。

 また、それとは別で給油したヘリコプターも飛行して対潜哨戒を行なっているが、まるで反応がない。

 離陸からわずか1時間強ほどで、『P―3C』は北方領土の最南端に定義される国後島を目視範囲内に収めていた。

「見えてきました」

「どうだ?」

 ところが、国後島の様子は想像以上の惨状であった。

「な、なんだあれは!?」

 榛原が驚いたのも無理はなかった。海軍の基地らしき場所はボロボロに崩れており、艦艇も多くが陸に乗り上げている。その中には、ロシアの所有している物の中でも最高機密の1つと言っても過言ではない潜水艦の姿もあった。

 更に、陸地に存在する建造物も多くが崩れている。その様子はまるで……

「まるで……3.11直後の東北地方太平洋沿岸部だ」

 地震で崩れ、津波によって多く人命と建造物が飲み込まれたあの惨劇の大地震……そう表現するしかないほど、国後島は荒れ果てていたのだ。

「こんな……こんな状態で2週間もずっと過ごしていたのか……」

「しかも、こんな真冬の寒い時期に……」

 榛原以下、パイロットやクルーたちは真っ青になった。文字通り、あの3.11の地獄を思い出したかのような気分になってしまったのだ。

 榛原が自身を鼓舞するかのように目元を引き締めて指示を出す。

「生存者がいるかどうか、確認する必要がある。同時に、ここまで来てロシア側から接触がないということは、やはり彼らからは何もできない状況に陥っているとみるべきだろう。沖合で待機する護衛隊や巡視船に連絡するんだ」

「了解」

「もしかしたら、この惨状は国後島だけではないかもしれない。我々はこのまま他の列島の様子も見に行くと伝えてくれ」

「了解」

 報告を受けた護衛艦隊及び巡視船団は各部署の基地及び防衛省や国土交通省などの本部に連絡をさせ、日本政府に緊急の救助案件になるかもしれないと伝えさせたのだった。

 政府はその報告を受けた直後、呉に籍を置く輸送隊の『しもきた』を出航させ、現地住民の救助に当たることを決定した。

 また、舞鶴に籍を置くヘリコプター搭載護衛艦『ひゅうが』を旗艦として横須賀に籍を置く『いずも』が、輸送ヘリ『CH―47JAチヌーク』や『UH―60JAブラックホーク』を搭載して出航することになった。

 輸送艦やヘリコプター搭載護衛艦には救援物資や施設科の車両などを搭載してあった。3.11の時のように、生存者がいればできる限り救助しなければならないからである。



――2019年 1月16日 北海道沖 約5km地点 護衛艦『ひゅうが』

 『ひゅうが』の艦長を務める海野は、『P―3C』からの報告を反芻しながら部下に問いかけていた。

「国後島以北の北方領土が壊滅状態だったという報告……君はどう思う?」

「そうですね……心当たりというならば、我々が転移した直後と思われる元旦の0時00分に、震度5弱の地震が全国で感知されましたよね?」

「あぁ。富士山の奥底や阿蘇山の奥底とか、小笠原諸島の海底火山を含めて、日本各地の火山帯が震源だったらしいが、幸いなことに火山活動も認められず、更に津波も起こらなかったということで皆ホッと一息ついた瞬間だったからな。よく覚えているよ」

「あの地震なんですけど……あれ、北方領土の方だとどうなんでしょうね?」

「え?」

「北方領土の方に火山があるかどうかは知りませんけど……もし、海底火山のようなものがあって、その火山を震源とする地震と、その影響で大津波が起きていたとしたら、3.11のような壊滅状態にも納得がいくんです」

 実際に、3.11の時に最も被害が多かったのは地震によるものではなく、その後の津波による諸被害であった。

 『P―3C』からの報告によれば、軍艦などの船が何隻も内陸部に乗り上げていたそうなので、その可能性は大いに高いと海野も思った。

「だが、それにしては小笠原や他の場所の被害が少なすぎやしないか?」

「そうなんですよ。まるで……北方領土だけを狙ったかのような被害なんです」

 実際転移直後の地震によって、古い家屋が一部崩れるなどの被害が多発していたらしいが、そんなことは地震大国の日本にとっては今更なことである。

「まぁ、今周囲を対潜ヘリや『P―3C』が追加で哨戒しているところですから、何かあれば分かるかもしれませんね」

「だといいがな」

 それから約30分後、『いずも』を旗艦とする救援艦隊が国後島の目前約1kmにまで近づいた。

 目視できる範囲の陸地は、いずれも酷い有様であった。

「なんて惨いんだ……」

「生存者、いるといいんですけどね……」

 艦隊司令の大蔵は思わずこみあげてくる胃の中の酸っぱい感覚を押し殺すように命令を下した。

「全機直ちに発艦し、国後島で安全に着陸できる場所を探せ。今この海域を飛行している哨戒ヘリ部隊はそろそろ補給が必要なはずだ。『いずも』と『ひゅうが』で受け入れる用意をしろ。『P―3C』も交代が来るはずだ。それに合わせて八戸に一度戻るように通達」

「了解」

 まずは、『ひゅうが』に搭載されている対潜哨戒ヘリコプター『SH―60K』が飛び立ち、安全に着陸できる場所を探すのだった。



――20分後 北方領土救援艦隊『ひゅうが』甲板

 『SH―60K』に乗るパイロットの葉上は、彼方に広がる惨状に心を痛めつつも己の職務を遂行する。

「なんて光景だ……こんな光景が、3.11の時も広がっていたんだよな」

 彼の呟きは、誰に聞こえるでもなくヘリコプターのローターが放つ甲高い音によってかき消されていた。

 発艦から10分ほどで、国後島の上空わずか50mへ到達する。

「間近で見ると尚のこと酷いな……山の上の建造物も結構崩れている……? そうか。ロシアの建築技術じゃ、耐震構造があまり整っていなかったんだな。全く、北方領土はただでさえ火山帯の上で地震の多い場所なんだから、きちんと耐震建築にしておけばいいのに」

 近づくと、津波が届いた場所は完全に粉々の滅茶苦茶になった状態で、津波が届かなかった高台は全て、建物が崩れ落ちているという有様であった。

「お、あそこは開けているし、ヘリも何機も着陸できそうだ」

 見つけた場所をすぐに、今回の救援艦隊旗艦である『ひゅうが』に報告する。

 しばらくすると、陸上自衛隊の輸送ヘリコプター、『CH―47JAチヌーク』や『UH―60JAブラックホーク』が次々と飛んできた。

 それらの輸送ヘリは次々と高台の開けた場所に着陸していく。

 一方海岸部分では、ヘリや海上保安庁の小型艇、更に潜水士による入念な偵察の結果、海岸線付近に生存者及びロシア人の遺体が発見できなかった。

「これは……3.11の時よりもよほど被害が甚大かもしれないな」

「確かに。狭い島に対して一気に横殴りの津波が押し寄せたような状態になっていますからね」

 犠牲者の多くは、津波に飲まれて海底に引きずり込まれたのであろうと自衛官たちは推測した。実際、未だに3.11の犠牲者の多くは海の底に眠っているものと考えられているのだ。

なんとか海岸線で露出している部分を発見すると、周囲に蓄積していた多種多様な物体をできる限り排除し、『しもきた』に搭載されていたLCACの揚陸を援護した。

 LCACは何度も往復して搭載していた施設科の車両を降ろしていく。

 簡易作業で取り除けなかった障害物を取り除くため、『さっぽろ雪まつり』でも使用されている施設科の運搬用トラック及び『掩体掘削機』が揚陸する。

 掩体掘削機はショベルアームで障害物を取り除き、トラックに載せて作業の邪魔にならない場所に積み上げていく。

 それを繰り返して、島の中への道筋を作り上げていくが、何せその中には大きな漁船や、潜水艦まで存在する。

 漁船くらいならば『坑道掘削装置』のドリルで粉砕してしまえるが、巨大かつ頑丈な潜水艦はそうもいかない。

「おいおい……これ、原潜じゃないよなぁ……?」

 そう、もしも原子力潜水艦だった場合、下手に手を出した時の放射能漏れが恐ろしいのである。それは自衛隊員ならば、3.11の時の福島第一原発で皆嫌というほど知っていた。

「いや。以前情報を見たが、原潜ならもっと大きいはずだ。これは多分、通常動力の攻撃型潜水艦だな」

「それならいいんですけどね……」

 恐る恐る隊員が近づくが、やはり人の気配はない。後で調べてみる必要があるだろうが、恐らく津波で打ち上げられた衝撃で乗員は皆死んでしまったのだろうと推測した。

 潜水艦に関しては後で港を整備してから揚陸する巨大クレーンでどうにかするしかないため、車両にロープを括り付けて何台もの重機で引きずり、当面の道を確保した。

 街中を進む隊員は、生存者がいないかどうかを探す。だが、小さい町の中のほとんどが津波を被ったようで、生存者がまるで見当たらないのである。

「なんとか……少しでも生きている人がいればいいんですけどね……」

「そうだな。とにかく探そう」

 隊員たちはあちこちに残る建造物の残骸などにも入ってみるが、まるで人の気配がない。

 だが、街の中心部まで到着した時だった。

「ん?……おい、あれ……」

「え?」

 そこは、日本で言うところの公民館のような施設らしく、津波は被ったようだが2階、3階は無事だった。その建物の上の方で、動く影が見えたのだ。

「行くぞ!!」

「はい!」

 駆け出した隊員2名はその公民館らしき施設に到着すると、ボロボロになった階段を駆け上がって2階の扉を叩いた。

「誰かいますか!? 居たら開けてください!」

 すると中から扉が開き、若いロシア人らしき女性が顔を出した。

「アノ、ニホンノ、ジエイタイ、デスカ?」

 片言ながら日本語が話せるようで、こちらに意思疎通を図ってきた。

「ワタシ、ナーシャ、トイイマス。タスケニ、キテクレタンデスカ?」

「そうですよ。皆さんを救助に……助けに参りました」

 それを聞いた女性は、感極まったのか泣き出してしまった。

 その公民館の中には、わずか30名ばかりが生き残っていた。しかも、ほとんどが子供や女性ばかりであった。

「よくこれだけ女性や子供が無事だったな……」

 すると、扉を開けた女性が隊員の袖を引いた。

「ジシン、オキタ。ワタシタチ、ヤマ、ノボッテタ」

 どうやら、地震が起きた時は山の上にいた一団だったらしい。地震と津波が収まったので、とりあえず建物の中に避難しようと思ったらしい。

「ワタシタチ、ゴハン、ココニアッタ。タベタ。ナントカ、ブジダッタ。ゴハン、アト、スコシダッタ」

 聞けば、このロシア人女性は日本の大学に留学していた大学生で、年明けということで家族のいる国後島に戻っていたらしい。

 そんな時に地震と津波に遭遇してしまい、たまたまその場にいたわずかな人を連れてこの建物に避難したというのだ。電気や水道などは全滅していたが、幸いなことに食料と水の備蓄がわずかにあったため、本国か日本の自衛隊が助けに来てくれることを信じて待っていたのだという。

 ちなみにこの女性は日本語を聞いて理解することはできるが、話す方はまだ片言だとのことであった。だが、簡単でも意思疎通ができることはありがたい。

「皆さんをすぐに北海道へ移送いたします。私たちに付いてきてください」

 すると、通訳に回ってくれていた女性が隊員に問いかけた。

「ホンゴク、ナニモ、レンラク、ナカッタ。ナンデ?」

 そう言われて、自衛隊員もなんと答えてあげればいいのかと思ったが、正直に伝えるしかなかった。

「我々は、今までいた場所、時代とは異なる地球へ転移……飛ばされてしまったようなのです。皆さんは、それに巻き込まれたのです。だから、ロシア本国と連絡がつかなかったのですよ」

「テンイ……?」

 若い女性は首を傾げたが、それ以上はなんとも説明のしようがないこともあり、隊員は会釈して一度離れるしかできなかった。

 年長の隊員が人々をまとめている間に、若い隊員が救援艦隊に連絡を取った。

『こちら国後島捜索隊。生存者32名を発見。これより海岸へ誘導する。LCACの用意を頼む』

『こちら『しもきた』、了解。直ちにトラックを送る』

 しばらくして、海岸の方から走ってきたトラックに人々を乗せていった。この建物にいたのは32名だったので、2台のトラックでなんとか収容できた。

『『しもきた』へ、生存者の受け入れ準備を頼む』

『こちら『しもきた』、了解した。怪我人などはいるか?』

『こちらで怪我人は確認できないが、一部衰弱している人がいる。点滴など、各種治療の用意を求める』

『了解。』

 連絡を受けた『しもきた』では、広い船内の中にある医務室を全て使用できるようにし、応急処置を済ませたらすぐに北海道に送れるようにという手配を進めていた。

 その後更に択捉島など、他の島でもそれぞれわずかながら生存者が見つかったという報告を受け、『しもきた』では直ちに受け入れの準備を進めることにした。

 数時間以上の捜索の結果、その1回で北方領土全島における生存者は、たったの150名であった。

「数千人以上の命が、一瞬にして奪われてしまったんですね……」

「狭い島だったからな。大きな津波を食らったら、逃げ場もなかっただろう。」

 人々が恐怖や無念のうちに死んでいったことを思い、自衛隊員たちはせめて安らかに眠ってほしいという思いを込めて祈りを捧げた。

 貴重な150人の生存者を収容した『しもきた』は、ひとまず北海道の函館基地へと向かうことになった。そこから車両を使って、函館にある病院に送り届けることにしたのである。

 『しもきた』と、それを護衛する『はまぎり』、『おおよど』、『とね』の3隻は、輸送艦の最大速度である22ノットで、函館基地へと向かうのだった。

「輸送艦の速度が遅いのも難点だな……新型を作る際は、その点も考慮してほしいものだ」

 数時間後には函館基地に到着し、『しもきた』から降り立ったロシアの人々を待っていたのは、政府が用意させたバス会社のバスであった。

 余談だが、転移直後から通勤に使用する以外の交通手段は燃料消費の観点からあまり使用しない方がいいと報道で通達されていたが、政府からの要請で今回は函館に居を構える旅行会社のバスを手配したのだ。

「さぁ皆さん。バスに乗ってください。これから皆さんを病院に連れていきます」

 自衛隊員の誘導に従い、ロシア人たちは次々とバスに乗り込んでいく。輸送艦の艦内よりも暖かく、居心地のいい空間が彼らの緊張を解きほぐしていく。

『暖かい……日本軍が来てくれなかったら、我々は死んでいた』

『いや、彼らはもう日本軍ではない。自衛隊だ。だが、本当に助かった。これで少なくとも、命の保証はされるだろう』

『あぁ。日本は人命に対して敏感な国だ。我々のことも、助けてくれるに違いない』

 人々は自分たちが生き延びたことを喜び、お互い抱き合ったり涙を流したりした。

 しばらく走り続け、函館でも最も大きな病院にロシア人たちは次々と収容されていった。ちなみにこの病院には既にロシア語の堪能な者が到着しており、医師の説明する内容を翻訳してもらうように頼んである。

 こうして、北方領土で生き残った者たち150名は、日本政府の尽力もあって命を救われることとなったのであった。



――2019年 1月18日 日本国 東京都 ロシア大使館

 この日の午前中、ロシア大使館を訪れた外務省の権藤は、駐日ロシア大使との面会を予定していた。

 午前9時に到着した権藤は職員の案内を受けて中に入り、応接室で大使を待つ。

――ガチャッ

 扉が開くと同時に権藤は立ち上がり、一礼してロシア大使を迎え入れる。

「お早うございます、権藤さん」

「お早うございます、大使」

 大使は権藤の座っているソファーの向かいに座る。

「早速ですが権藤さん。『我らが』北方四島の人々を救出してくれたこと、そしてその生活の保護までしてもらったこと、誠に感謝しております」

「いえ。日本は当然のことをしたまでです。相手がどのような立場、人種、国籍であれ、窮地に陥れば助けに行く……それこそが、人間のあるべき姿であると我々日本人は常々思っております」

「そう言って頂けると、こちらも嬉しい限りです」

 だが、そこから大使は少し鋭い眼光を見せた。

「で、北方四島のことですが……」

 権藤はすぐさま、持ってきていたカバンからクリアファイルを取り出し、大使に手渡した。

「日本国政府からの『請願書』です。こちらを読んでいただければ、日本政府の意思を汲んで頂けると思っております。」

 手渡された大使は、ファイルの中に入っていたロシア語の紙を読み始めた。

 曰く、


○北方四島の復興については、ロシア政府と連絡が取れないことを受けて、日本国政府に行わせてほしい。

○またその後の拠点警備として、壊滅してしまった極東ロシア軍及びロシア連邦保安庁に代わり、我が国から海上自衛隊と海上保安庁を配置し、北方四島の資源及び財産の保護をさせてほしい。

○保護したロシア人たちの身命は、日本国政府の責任をもって何があろうとも守ることを約束させてほしい。


 つまり、北方領土を日本の領土として組み込み、自衛隊と海上保安庁によって警備するということであった。

 極東ロシア海軍やロシア連邦保安庁が残っていたならばこの『請願書』を蹴ることもできただろうが、今は非力な民間人が150名残っているだけである。

 実質、北方領土はロシアの手を離れてしまったということを、突き付けられたようなものであった。

「分かりました。日本政府の配慮に、感謝すると伝えてください」

 大使は今自分たちが置かれている状況を理解して、頭を下げざるを得なかった。

 こうして日本は、合法的に北方領土を再領有することに成功したのだった。


ロシアに問題を起こす事無く再領有しようと思うと、こうするしかありませんでした。

他にも日本転移小説を書いている方は敵対させたり味方にしたりと色々な方法がありますが、私はこうするしかないと思いました。

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