またも世界を超える英国面(ある意味)
今月1話目となります。
今回はまたも大規模派遣をせざるを得なくなった内閣の悲痛な(あくまで比喩)様子ですね。
――世界暦380年 5月20日 バルバラッサ帝国 首都バルバロニア
日本がオーストラリア大陸と認識しているこの大陸では、2つの国が覇権を争っている。
いや、争っているという言い方は正しくない。
竜人族と蜥蜴人が恐竜を操ることによって『世界』を支配しようという2種族と、種族で助け合い、先史文明人が去った後のように共存共栄で生きていこうという、それ以外の種族との二つの派閥に分かれた。
当然、文明度の低い彼らが話し合いだけで全てを解決できるわけはなかった。
その中で、バルバラッサ帝国を名乗り始めた竜人族と蜥蜴人は恐竜を操り、瞬く間に大陸の各地に支配域を広げていった……もっとも、彼らが認識しきれていないこともあって大陸の北半分くらいしかまだ支配できていないのだが。
しかも、植民もまだである。
蜥蜴人は寿命が短いという特徴からサイクルも短く増えやすいのだが、竜人族はなぜか繁殖力が低く、人口が増えにくいのが原因である。
それ故に、このバルバラッサ帝国は人口比率が8対2で蜥蜴人の方が多い。人口1000万人という、エルメリス王国の倍ほどの多い人口ながら、そのほとんどが膂力は強いものの寿命の短い蜥蜴人なのである。
加えて、切り札である恐竜もそうやたらと増やすわけにはいかない。
重量級の草食恐竜をバカみたいに増やせば餌の確保にとても苦労をし、かと言って肉食恐竜を増やそうものならばその草食恐竜や人間を食べるため、こちらも食料関係は厳しい一面がある。
そのため帝国は、食料増産計画を掲げて平民や奴隷たちに各地の食糧を増産するように通達し、使えそうな土地は全て農業用地か工業用地、それ以外で住宅地に変えるという徹底ぶりであった。
もっとも、それでも求められる食料がかなりのモノになるので肉食恐竜や一部の超・巨大恐竜(日本でいえばブラキオサウルスレベル)は帝国にとっては切り札中の切り札となっていた。
つまりバルバラッサ帝国は、『程々に切り札を維持しつつ現有戦力で他種族に言うことを聞かせなければいけない』という状態であった。
そんな帝国の首都バルバロニア(旧世界で言う所のオーストラリア大陸北部・ダーウィン近辺)では、竜人族の皇帝バルバラッサ21世が玉座に座りながら陸将軍ゲルニアからの報告を受けていた。
「なに? 東部沿岸域に向かわせた偵察部隊が消息を絶っただと?」
「はい。東部方面へ偵察に出た第5騎竜隊が1週間ほど前の報告を最後に、消息を絶っております。もしかしたら、エルメリス王国の襲撃にあったのやもしれません」
「しかし、我が国のホブゴブリン・ドラゴン(デイノニクスのこと)はドラゴン・ライダーと力を合わせれば数人の兵相手でも渡り合えるではないか」
デイノニクスは体長が4m以上になる、馬よりも少し大きいくらいの肉食恐竜である。
有名な某ユニバーサルな恐竜映画でお馴染みの『ラプトル』に近い風貌をしており(と言うかモデルに近いと評されている)、鋭いカギ爪と牙、そして素早い動きで相手を仕留めるハンターであったと推測されている。
ドラゴン・ライダーが別の目標を攻撃している間に、デイノニクスは目の前の敵を喰い殺すこともできるのだ。
ただし、訓練されているからかその場で食べることはせず、戦闘が終了したと感じられることでライダーから許可をもらって食べることができる。
そのため、デイノニクスにとっては戦争が起きればその時だけは腹いっぱい食べられるということもあって高い戦闘力を発揮するモチベーションとなる、敵対する存在にとってこれ以上ないほどに厄介な相手となっているのだ。
また、その上からドラゴン・ライダーが弓を射る、或いは槍やハルバードのようなもので繰り出す攻撃は強力で、デイノニクスと連携することで高い近接戦闘力を発揮するのだ。
特にデイノニクスは体格の割に脳のサイズが大きく、ドラゴン・ライダーの言うことをスムーズに理解できるという点が大きい。
「そのはずなのですが……1週間以上連絡がないというのはおかしいです。もしかしたら、エルメリス王国がなにか新兵器を投入したのかもしれません。そうでなければ、中型で1体しかいなかったとはいえ強力なオーガ・ドラゴンまでもが行方不明という状況には説明がつかないのです」
「彼奴らの領内にも、先史人類の遺跡は残っているからな。それを参考に新しい兵器を開発していてもおかしくはないが……そんな開発のヒマをあまり与えぬようにと我々が小競り合いを多数仕掛けて消耗戦に持ち込んでいるというのに、そんな余裕があるか?」
ドラゴン・ライダーと恐竜の連携攻撃は非常に手強く、これまでのエルメリス王国の基準では対処も難しいはずだった。
「正直に申しまして、今回の行方不明は分からないことが多いです。飛竜隊を偵察に出しますか?」
飛竜隊とは、グランドラゴ王国にも生息しているワイバーンを運用する部隊のことである。
このオーストラリア大陸では先史文明の遺産であるワイバーンも飼い馴らされて飛竜隊として空軍で運用されていたが、竜人族しか受け入れないのでわずか150騎しか存在しないというバルバラッサ帝国の決戦兵器である。
しかし、この飛竜隊が出撃する時は、必ず帝国軍に圧倒的な勝利をもたらすといわれるほどに信頼されているのだ。
ちなみに、この大陸のワイバーンは長い年月が経過する中で『敵がいない』ことによって最高速度という点では若干退化しており、グランドラゴ王国が保有しているワイバーンより若干性能が低い。
時速は最高で230kmまでしか出すことができないが、その分余裕と言うべきかスタミナがあり、巡航速度の190kmで4時間以上飛び続けていられるという、生物としては驚異のスタミナを誇る(そもそも生物が150km以上の速度で飛べるという時点で、旧世界にそんな生物は一部を除いてほとんど存在しない)。
「そうだな……飛竜隊ならば撃墜されることはあるまい。よし、国境から王都付近を偵察させろ。ただし、こちらから攻撃はするな。飛竜隊に損害が出れば、いらぬ不安を煽ることになる」
そもそも、本来ならば決戦兵器の飛竜隊を偵察に使用するという時点で帝国からすれば異様な話である。
もっとも、彼らは大陸の各地に残る先史文明の遺跡を発掘している中で『航空戦力は偵察に使用すると有用』という知識は持っていたのだが、制空権を握った時のワイバーンの能力があまりにもすさまじかったために、『どちらかと言うと』決戦兵器的な位置づけをされていたのだが。
「心得ました。直ちに飛竜隊を出撃させましょう」
「できる限り内密にな。当面は陸軍も海軍も訓練に勤しませよ。万が一敵が我々の想定する以上の力を手に入れる……具体的には、恐竜と渡り合えるほどの力が存在する場合、かなり厄介なことになる。綿密に計画していた王国への本格侵攻計画も延期しなければなるまいな」
「ははっ」
陸将軍ゲルニアは空将軍アブドラ及び海将軍バルドスと連携を取るべく会議に向かう。
ちなみに陸将軍と空将軍は竜人族だが、海将軍は蜥蜴人である。なぜなら、海辺での活動は蜥蜴人の方が強いという一面のため、蜥蜴人が海軍軍人を務めた方が、色々と都合がいいという理由があるためである。
「ふむぅ……とりあえず、2ヶ月か3ヶ月は様子見といくか? いや、もっと長い方が良いかもしれないな。古代技術発掘部にはもっと予算を付けてやらんと」
バルバラッサ21世は非常に慎重な性格だったこともあり、石橋を叩いて渡るつもりでいた。
日本の陸上自衛隊による偵察隊の殲滅は、意外な形でエルメリス王国の延命措置となっていたのだった。
結局、ここから約半年近く帝国は様子見を決め込むのだった。
――2029年 5月27日 日本国 東京都 首相官邸
この日はオーストラリア大陸に派遣した部隊の報告を受ける首相の姿があった。
「……で、派遣部隊から要請は?」
「できることなら空母を1隻と護衛艦1,2隻でいいから送ってほしいとのことです。とにもかくにも、『R―2』バルチャーという長距離を偵察できる機体が欲しいとのことで」
防衛相の報告を聞きながら、首相は段々とジト目になっていく。
「じゃあこの輸送艦及び補給艦を『できる限り派遣してほしい』と陸上自衛隊員及び施設科部隊を『できる限り派遣してほしい』はどういうことだ?」
「先史文明を研究する上で良好な関係を築けそうな国、エルメリス王国を保護するべく、後に彼らが使用することを考えて、一時的にでいいので基地を兼ねる城郭を建設したいからだと……」
「……」
首相の目がさらに細くなっていくが、防衛相は冷や汗を流しつつ報告を続けることしかできない。
実際、先史文明の遺産があるというのならば長期にわたって調査する必要はあるため、調査拠点を調えること自体は問題ではない。
ガネーシェード神国の1件がひとまず落ち着いたこともあって、対外的な活動は先史文明の調査に重点的に掛かることにしていた。
だが、遺跡を保有している中で文明を持つ蟻皇国とイエティスク帝国は未だに接触できていない……というより、両国ともなまじそれなりの文明を持つ上にどちらも覇権主義ということがシンドヴァン共同体を通じて情報が入っていたため、日本は接触するべきか否かを測りかねていた。
そこで、外交はしばらく当面の国交の有る国に限定し、国内の再安定化のために多くの力を注いでいた。
かと言って自衛隊を訓練だけで遊ばせておくわけにもいかないので、『それならば』と今回の調査任務に『それなりの(あくまで日本政府の基準)』人員を割いたのである。
だが、ここにきてその人員をさらに追加してほしいという要請が来た。
国民の多くが自衛隊の海外派遣に寛容になりつつあるが、それでも問題なのは『なにはなくとも金がかかる』ということなのだ。
「まぁ、恐竜を敵が大量に使役していて、情報では航空戦力としてワイバーンもあるという……そんな相手に、城も築けないような国力では太刀打ちできないだろうな」
「は、はい。もしもバルバラッサ帝国がオーストラリア大陸を完全に制圧した場合、我が国が関与・介入できる余地が大幅に狭まる……いいえ、無くなってしまうといっても過言ではありません」
「確かに。竜人族と蜥蜴人の2種族だけが恐竜とワイバーンを使役できるからと他種族を見下すようではな……」
首相の言葉に他の大臣も苦笑いしながら頷いている。
苦笑いのまま、文科相が『まぁまぁ』と切り出した。
「まぁ、我が国からすると1千年以上前……年代的には鎌倉時代より前程度の文明しか持っていないようですし、『自分たちの方が優勢である』という認識を持っていれば、そのような考えに至ってもおかしくはないかと……」
文科相は職業柄歴史にまつわる文明力や技術力を分析するため、それなりの知識がある。
今回報告があった両国の様々な文物及び建築物などの写真を資料として送られてきたため、それを文科省及び防衛省で研究した結果、『地球で言えばまだ高層城郭が作られていないレベルの文明』と判断していた。
「最大規模の建造物が大きな領主館のような物という時点で戦国時代のような城郭建築技術すらないということですしね。民族の思考力という点も考慮すると、『お察しください』というやつですよ」
文部相の言葉に他の大臣たちも『そうだ、そうだ』と言わんばかりに同調して頷いた。
「で、どうされます?」
「……財務相、言いたいことはあるかな?」
要するに、最大の壁は財務省が臨時予算を組んでくれるかどうか、ということである。
「そうですね……『先史文明の調査』は国交拡大よりも重要と言うべき課題ですからね……国内問題以外ではできる限りそちらに予算を割くべきでしょうから、派遣に必要な分であればなんとかやりくりしましょう。また国内向け国債が増えそうですが……」
軍事予算が増えるに連れて、当然のことながら国内向け国債を増やす必要に迫られるものの、転移によって海外保有国債が消滅していたこともあって再び国債を発行するようになっていた。
幸いなことに前世界とは異なり予算には多少余裕が……でる度に新しい補正予算を組まされるので財務省はその度に悲鳴を上げているのだが、それでもこれまでなんとかやってきたのだ。
今回も、そういうことになるのだろうと財務相も薄々気づいていた。
「ま、『なんとかする』のが私の仕事ですからね。なんとかしますよ」
なので、もはや官僚たちのみならず、一般人の間でも『新世界ノリ』とでも言うべきノリ具合になっている。いわゆるランナーズハイに近いような状態で日々を送っているのだが、まぁ……もうそんなことは『当たり前』になっている。
「残念ながら『とりあえず』という形で派遣されると思いますので、いきなり大規模な部隊を派遣することはできないと思いますが……基地建設とその護衛に必要な部隊を増援として派遣しましょう」
部隊に関してはここ1,2年でかなり拡充されつつあり、とりあえず国内を防衛する分には新入隊員だけでもある程度はなんとかなる状態になっている。
空挺団にも大陸系日本人が入隊し、毎日シゴキを受けているのだが、元々平均的な日本人よりも体力に長けた者が多いためか元々の日本人以上にその辺りは強い。
また、それに伴い空挺団も増設し、亜人を中心とした第2空挺団、さらに水棲亜人を中心とした第2水陸機動団も設立していた。
その結果、島嶼防衛及び極地防衛のためにと訓練を繰り返す日々となっている。
「敢えて、ですが……新入隊員を中心とした部隊を編成しようかと思います」
「新入隊員を? 大丈夫なのか?」
「えぇ。この機会に実戦の現場を肌で感じるのも良いかと思いまして」
「「「(実戦の場で実戦訓練をさせようって言うのか……)」」」
首相を含む他の閣僚たちは『オイオイ』と冷や汗を流す。
「まぁ、安全のためにも必要な装備の準備はしっかりとさせますし、退役寸前のベテランに『みっちり』と監督させますので」
「「「(コイツ……鬼か)」」」
容赦のない防衛相の『計画』に、さらに多くの冷や汗を流す閣僚たちだった。だが、確かにその方が安心ではあるので首相を始めとして他の面々も少し納得するのだった。
あくまで少し、だが。
「よし、そういうことならまた忙しくなって制服組には厳しい思いをさせるが……なんとか部隊を編成してくれ」
「実は、今回の報告をする前に既に概案はまとめてありまして……」
「おぉ、早いな」
「今回は陸自を中心とした派遣になりますので、『用意周到・動脈硬化』の要領でいこうとあらかじめ考えさせておいたのです。既に輸送艦『あづち』と『えど』に一度戻ってくるように伝えておきました」
「なに?それじゃ『F―3B』はどうなる?」
「それなのですが、エルメリス王国から南にわずか10kmの地点に少し掃除するだけで空港として使えそうな場所がありました。恐らくですが、先史文明の遺産でしょう。現在施設科が簡易空港として使えるように整備中です。で、簡易ハンガーを設置することで50機は駐機できるようにします」
「確か、強襲揚陸艦の『おだわら』ももう就役していたな……それじゃ退役寸前の『おおすみ』型輸送艦3隻も使えば、それなりの量を一気に輸送できるか。じゃあ、派遣の内訳を聞かせてもらおうか?」
「はい」
○16式機動戦闘車 18輌
○87式偵察警戒車 4輌
○99式自走155mm榴弾砲 15輌
○軽装甲機動車 15輌
○96式装輪装甲車 15両
○多連装ロケットシステム(MLRS) 10輌
○中距離多目的誘導弾システム 5輌
○82式指揮通信車 2輌
○93式近距離地対空誘導弾 5輌
○『やんま』型対戦車ヘリコプター 12機
○OH―1 4機
○UH―60JA 5機
○UH―2 14機
○CH―47JA 5機
○他施設科車両多数
さらに主な携行兵器は以下のようになる。
○110mm個人携帯対戦車弾
○84mm無反動砲
○01式軽対戦車誘導弾
○120mm迫撃砲 RT
○81mm迫撃砲 L16
○87式対戦車誘導弾
87式対戦車誘導弾は、いわゆる廃棄処分の品である。
これが日本のやり方だ。
ついでに、艦船もこんな感じだ。
○『あづち』型強襲揚陸艦 『おだわら』
○『おおすみ』型輸送艦 全3隻
○『たざわ』型補給艦 『くっしゃろ』
○『あかぎ』型航空護衛艦 『あまぎ』
○『たかなみ』型護衛艦 『たかなみ』、『まきなみ』
○『あきづき』型護衛艦 『てるづき』、『ふゆづき』
○『あさひ』型護衛艦 『ねのひ』、『ゆうひ』
○『たかお』型スサノオ艦 『たかお』
ここに、上空支援ということで『AC―3』彗星が2機加わる。これを見た首相は数分ほど黙っていた。人員だけでも1万人以上が派遣されることになっている。
つまり、人員は極力大型フェリーなどの徴用船で運ぶしかない。なにせオーストラリア大陸までは現在の日本から1万km以上あるので、しっかりと整備された空港がないことを考えると海路が有利なのである。
「……派遣する数がやたらと多いな?」
「なにせ、軍だけでも10万人近く、さらに200頭以上の恐竜部隊と、ワイバーンが150騎いると言いますから……前時代的とはいえ、油断はできません」
実際、現場からの報告ではアロサウルスレベルを『16式機動戦闘車』の52口径105mmライフル砲の一撃で倒せたというが、草食恐竜と肉食恐竜を組み合わせた攻竜戦術は重兵器でなければ厄介なのは間違いない。
「現場からの報告とエルメリス王国の情報によりますと、重量級の草食恐竜は背中を弓矢で射られることを警戒してなのか、矢避けの薄い鉄板を張り付けているようです。帝国の基本戦法はその草食恐竜……我が国でいうところの『トリケラトプス』と『アンキロサウルス』を先頭に押し進め、防御施設を破壊します」
光景を想像しただけで閣僚たちは『うわぁ……』とドン引きする。アンキロサウルスが尻尾の骨でできたハンマーを叩きつけ、そこにトリケラトプスが吶喊するという戦法であった。だが、文明レベルを考えればかなりの脅威だ。
「そしてあらかた蹂躙して敵が弱ったところに、『デイノニクス』……現地では『ホブゴブリン・ドラゴン』と呼ばれる馬より少し大きな肉食恐竜に乗った兵隊と大中の肉食恐竜が突っ込んで蹴散らすという戦法が基本らしいので、巨大生物を相手にすることを想定しているために対戦車兵器が多いのです」
「……確かに、歩兵の携行兵器も対戦車兵器が目白押しだな」
この重武装ぶりには閣僚たちも『相手はフランシェスカ共和国よりも原始的な国家相手なのに、使用した費用はどう回収するんだろう……』と心配になっていたが、元々円滑に先史文明の遺産を調査するためにエルメリス王国との交流は必要なことと判断されているので、とりあえず予算を通すことにした。
「しかし、こうなってくるとやはり航空機を使える場所があるかどうかというのは改めて重要だな……」
「はい。残念なことに大陸に滑走路『らしきもの』はありますが、今整備しているものを使えるようにしても、滑走路の距離的に恐らく着陸できるのは『C―130』及び我が国で魔改造生産……もとい、コピー生産した『C―3』か、ギリギリ『C―2改』くらいですが……航続距離が絶望的に足りません」
『C―2改』はそれまで足りてなかった(それでも既存の自衛隊輸送機から比較するとはるかに長大なのだが……)航続距離を延伸するべく、エンジンのバイパス比の高効率化とペイロードを『わずかに』増加させることを『目論んで』防衛装備庁で研究され、『反重力装置』を多数搭載するなどの改造を施された。
その結果、少し胴体を延伸すると同時にペイロードを増量して47tまで搭載できるようにしたことで、『16式機動戦闘車』が1輌とさらに車両を搭載できるようになったのは大きい。
「中継地点でもあれば船より荷物は少ないものの、早く運べますからね……」
「ただ、最大重量を搭載すると航続距離は7000kmまで落ちる(本来の『C―2』は12t搭載で8000km以上航行可能)からな……そうだ、空中給油でどうにかならんか?」
「空中給油ですか……現在我が国では旧世界で導入していた『KC―767』がありますが、なにせ2020年から導入するはずだった『KC―46A』が転移で無しになってしまったので、そちらは現在国内に残っていたボーイングの旅客機を参考に開発した、『CK―1』空中給油機兼輸送機を使用するしか……」
「航続距離はどのくらいだったか?」
「最大で13500kmは飛行できますので、大陸西部(旧世界で言うチリ付近)で『C―2改』共々補給して、さらに6000kmほどの沖合で『C―2改』に補給して大陸へ向かってもらったらどうでしょうか?GPSを使えば帰りもタイミングを合わせて空中給油ができますし……なんとか、ギリギリですが往復できます」
「『C―3』も航続距離は大幅に増大している(エンジンを日本独自に改良したことにより、速度は巡航速度で600km)ので、空中給油機に空中給油をして、その次の空中給油機に給油して、という風にすれば、なんとか!」
これを聞いた閣僚たちは『うぅむ』と唸り声を挙げる。
「やはり、旧世界の『C―5』のようにほぼひとっとびとはいかんか……『C―4』の開発具合はどうだ?」
『C―4』とは、日本が開発中のロシアの超巨大輸送機・アントノフ『An―225』ムリヤをモデルにした超長距離航行可能な超・大規模輸送機である。
「もうちょっとですね。あと少しで試作機が完成します。もっとも、完成しても試作機含めて10機ほどが限界ですが」
「あんなバケモノ、10機もあれば十分だ。なにを運ぶ気だ」
何せ、300tもの輸送が可能な、世界最大にして最大重量を搭載できる航空機をモデルにしたため、日本独自の様々な設計思想を交えつつもそれに遜色のないようにしないといけない。
というか、ムリヤのようなモンスター飛行機を何機も作ろうとしている時点で、今の日本がどれほど無茶をしているか窺えるというものである。
ただ、無駄にならないようにと既にこの技術は川崎重工業によって改良されつつあり、民間向けの超巨大旅客機に改装する計画を出している。
最初こそ川崎の担当者たちは目を丸くしていたが、なにか火が付いたらしく、『やったれヒャッハー!』と言わんばかりに嬉々として改良に励むのだった。
……カワサキか。
「とりあえず今回は基本的に『C―2改』でなんとかするか」
「そうですね。『C―3』では延びたとはいえ航続距離と速度に難がありますし……現在陸自が滑走路の近くで見つけた油田から補給基地及び燃料備蓄タンクなども設置しているようですから、いずれ補給はなんとかなると思います。また、上空支援ということで先程も申し上げましたが、『AC―3』を2機ほど派遣しようかと思います」
「やれやれ……向こうさんの近代化もしなけりゃいけないから、やることは山積みだぞ」
「ま、なんとかしましょう」
そして彼らはこれを実行する段階になってから、『あれ? そういえば〈C―3〉のやり方ってイギリス(大先輩)もフォークランド紛争の際に似たようなことしなかったっけ?』と、どこか本末転倒といえる英国面的な発想に堕ちていたことに気付くのだが、それは別の話。
知らない人、『ブラック・バック作戦』を検索してみてくださいな。
私事ですが、日本国召喚のウィキ感想欄に思ったことを投稿したらプチ炎上しました……放っておいたらいつの間にか相手にされなくなっていたので良かったですが、改めてネット社会の怖さを感じましたね。
次回は26か27日に投稿しようと思います。