前へ次へ
76/134

いつだって予算からは逃げられないけど、それを『どうにか』するのがプロというもの

今月2話目となります。

遂に『はぐろ』が就役しました。これにより、我が国のイージス艦は8隻態勢となるわけです。

ぜひ日本の防衛のため、頑張ってほしいものです。

――2028年 2月20日 日本国 東京都 首相官邸

 東京の首相官邸では神国に対する戦後処理について、閣僚たちの会議が進められていた。

 世界会議を開きたくとも、まずは国内で神国の戦後処理を行わないことにはどうしようもないのが現実である。

 日本としてはこの年が終わるまでにはなんとか神国に関する議題をまとめ上げ、来年の春までには世界会議を開きたいと考えていたため、閣僚たちも必死である。

 なにより、これが終われば久しぶりのお休みで家族と正月を過ごせるかもしれないという状況である。

 必死になるのも無理はない状態であった。

「それで、今後の神国についてはどのような措置を取るつもりですか?」

 総務相の質問に外務相が立ち上がり、タブレット端末を操作する。

「幸い、神国内部に関してはヘンブさんの影響力が絶大であることもあって既に沈静化しつつあります。反乱と言えるようなものもなく、その多くが『今後人を襲わない』ことをあっさりと誓ったそうです」

 さすがにDNAレベルで首長への服従を誓わされているだけのことはあり、皆素直に従ってくれたらしい。

 一応論理的な説明(日本に実力で負けたからということと、宗教的な教えに誤りがあったという『設定』を付け加えさせることで各国との交流を推し進め、結婚率を上昇、そして平和的な家庭を持つ農業国家へと変貌させようという狙いがある)によってのことなので問題ないとヘンブは言っていたらしいが、民主主義国家である日本からするとちょっと恐ろしい。

 とはいえ、もしこれで神国が平和になってくれるのであれば日本の交易相手がさらに増えることになる。

「宗教的権威とDNA刻印の力、恐るべしだな。それで、我が国及び諸国の賠償要求は?」

「はい。諸国は『日本が押収した物を加工して分けてくれればいい』とのことです。どの国も神国に貨幣がないこと、それに自分たちが何かを押収しても日本の加工品に比べれば劣るということを自覚しているからか、『だったら日本に多めに押収してもらってその加工品によってできたものを自分たちが分けてもらえればいい』という考えに至ったらしいです」

 というか、グランドラゴ王国が言い出して各国(フランシェスカ共和国、アヌビシャス神王国、スペルニーノ・イタリシア連合王国、そしてシンドヴァン共同体)の間で共有されているらしく、既に外務省経由でそう伝えられていた。

「ちゃっかりしているというか、なんというか……そこを我が国任せにされても困るんだがな……ちなみにこれ、ニュートリーヌ皇国も入ってるよな?」

 外務大臣が提示した資料の中にはさらっと『ニュートリーヌ皇国』の名前も入っている。

「はい。幸いなことに皇国とは講和を『正式に調印し終えた後』の襲撃でしたので、皇国も賠償の権利を主張することができます。というか、そうしないと兵器の供与ができません」

 皇国は未だに経済的に厳しい状況にあり、日本の支援がなければ食料以外は到底やっていけない状態にある。

 なにせ、スペルニーノ・イタリシア連合よりも多く10万人以上の働き手が亡くなってしまったものだから、労働力不足も甚だしい。

 現在は各国から復興のために労働者が派遣されてきており、都市の復興などに力を注いでいる。

 みんな、日本の建築業者で研修と指導を受けた人たちばかりだ。

 巨大な重機を難なく乗りこなし、掘削機や測量道具なども教育通りに使いこなしている。

そして同時に、皇国は兵器も不足していた。

 特に、工場を軒並み破壊されてしまったので車両関連はかなり厳しい。そこで、日本は旧式の高機動車と軽装甲機動車、さらに73式トラックなどを供与、海軍には『ピストリークス』型巡洋艦を、空軍には『ヒルンドー』型戦闘機と『AT―9』軽攻撃機を供与することを決定していた。

 つまり、それには大量の資材が必要となるため、それを欲しい、ということらしい。

「なるほどな。だとすれば、復興の意味も込めて皇国に一部優先的に回してやらないとな。自衛隊が駐留するばかりでは限界がある」

 それに頷いたのは防衛相である。何せ、今の時点で現場はかなりの過労状態が1年近く継続しているため、一部の隊員は精神的に参ってしまっている。

 なんとかしてやりたいところなのだが、精神疾患などで対処を誤れば自殺者の続出という事態になりかねない。

「自衛隊のケアについてはもう少しどうにかならないのか?」

「なにせ、現地にはほとんど娯楽がないモノでして……現在ニュートリーヌでは娼館などはむしろ強く誘いをかけてきているのですが、隊員には絶対に行かないようにと厳命しています」

「そういう点もあるか……隊員の欲求処理も大きな問題だな」

「在日米軍のように、故郷へ帰れないイライラから暴行に走る者が現れたらえらいことですよ」

「それだけではない。場合によっては強姦などが発生する可能性もあるだろう。むしろそっちのほうが心配だ。そんなことになれば、慰安婦問題の二の舞……いや、もっとひどい話になる」

 米軍などはベトナム戦争の折には現地女性を娼婦として雇い、兵士たちの欲求不満をそらしていたというが、そんなことをしようものならばたちまち人権団体や野党に総スカンを食らうであろう。

「ちなみに、これは男性隊員のみならず、増えているWAC……女性隊員からもかなり上がっているらしく……元々女性はため込みやすいと言われているだけあって、陸上自衛隊内でちょっとしたセクハラ問題から喧嘩した男性隊員を錯乱したかのようにズタボロにしてしまったという事例がありました」

「……ちょっと待て。両者の特徴は?」

「男性隊員は『87式偵察警戒車』の砲手で格闘徽章の持ち主でした。女性隊員は『16式機動戦闘車』の砲手でこちらも格闘徽章持ちです」

 どうやら、女性としてはかなり珍しい戦車(に近い戦闘車両だが)乗りだったらしい。

「一応聞くだけなら互角に感じるが……」

 だが、防衛相は首を横に振った。

「男性隊員は自衛隊入隊の後に鍛え始め、まだ実戦を経験したことがありませんでしたが、女性は子供の頃から格闘技を習っていたうえに、日仏・須伊大戦の終盤において町中で蜥蜴人と格闘するという実戦経験がありました」

「……完全に経験の差か」

 実戦経験済みとそうでない者とでは大きな差があるのだろう。

「女性のほうは前線に出るタイプにしては小柄でなおかつ美人だということで評判だったらしく、同じ階級の男性隊員にからかわれたことでキレてしまい、叩きのめしてしまったのだそうです」

「……ツッコみどころは多々あるが、どちらも精神的に未熟だと言わざるを得ないな」

「隊員の精神修養も大事かと思いますが、それと同時に心にゆとりを持てるようにガス抜きできるように計らうべきかと思います」

「うぅむ……確かにな」

「それに関する議論はまた別にするとして……神国からの賠償はどのようにしましょうか?」

 法務相の質問に外務相がタブレットを操作しながら答える。

「神国から得られるような賠償と言いますと、はっきり申し上げて鉱物資源だけですね」

「そ、それだけですか!?」

「強いて言うならば森林の木材などもその対象に入れることはできると言えばできますが……なにせ、著名な産業はない、貨幣もなければ金も使わない国なので、賠償と言って取れる物がないに等しいんですよ」

 鉱物資源ということで金山があればそういう所から金を掘ることである程度は賄えるかもしれないが、そんな大量の金が出てきたら貨幣価値も変わってしまう。

 そうすれば、経済混乱は当然避けられない。

「なので、鉱山開発によるレアメタルや各種資源の採掘を中心とした賠償だけでよろしいかと。言い方はあれですが、そもそも神国との戦いで損耗したのはグランドラゴ王国の戦車3輌と兵数名ですし、外務副大臣と外交関係者の命が奪われたのは大きかったですが、それも各国既に補填はしていますからね」

「最高指導者であるヘンブ女史の身柄はそのまま不問にするのだな?」

「仕方ありません。彼女を捕えたままにしておく、あるいは命を奪うようなことになれば、ガネーシェード神国は彼女を取り戻すために徹底抗戦を決意し、ヘンブ女史に忠誠を誓っているアラクネ族全てを滅ぼさない限りは戦争終結が見込めなくなってしまいます」

 そんなことは平和主義国家として心情的にも現実の能力的にもできるはずがない。もし現実にそのような民族浄化行為を行おうとするならば、それこそICBMを多数使用しなければ不可能であろう。

「ならばしょうがないな。各国にもそれで納得してもらおう」

 首相の言葉でそれに関しては締めとなった。というか、それ以上ができない。

「それで、先程少し述べた『自衛隊員の精神的ケア』についてなのですが……」

「そこだな。やはり欲求不満と望郷の思いが強いのだろうな」

「それだけではありません。やはり、その……言いにくいのですが、戦闘を経験したことで、人を殺したという罪の意識から逃れようと精神的に異性に溺れたくなる傾向があるようです」

 このような事例は現代兵士のみならず、古い時代の戦争から存在する。

 だが、古い時代では戦争で占領した地域の女性を凌辱し、そのまま殺してしまうなどというのも当たり前に行われていた。

 それから比較してしまえば、政府が軍のために娼婦を用意して不満と欲求を発散させてやる方がまだ健全である。

 先ほども述べた通り、ベトナム戦争ではかのアメリカ軍も現地女性を娼婦として雇って兵たちのケアに充てていた。

「だがはっきり言うぞ。『どうする?』」

 どの閣僚も、それには黙り込まざるを得なかった。これに関してはどの方法でもなにかと強引にならざるを得ないのでなにかしらの反発が必至なのだ。

 その時、防衛相が普段の強気な様子とは打って変わって恐る恐る、という様子で手を挙げていた。

「実は、その……部隊内の各所から上がっている不満を歴史・風俗などの専門家に精査させたものがありまして……」

「なんだ、もう手を打っているんじゃないか。で……どんな意見だ?」

「そ、それが……」

 珍しく歯切れの悪い防衛相に閣僚たちも疑問符を浮かべる。

「どうした?」

「性別の異なる隊員同士で性的行為が好きなようにできる環境を整えるのはどうか、という意見があったのです。それに伴い、女性隊員をもっと採用しろ、とも……」

「隊員同士でセックスできる環境? それはちょっとまずいんじゃないか? 誘うことそのものがセクハラになりかねんぞ」

 要するに、仲間同士で乱痴気騒ぎしろと言っているようなものである。

「それがですね。意外と理に適っているんですよ。隊員同士のコミュニケーションの一環とするのみならず、ストレス発散、さらにそれだけのために娼婦制度を復活させずに済むこと、そしてなにより、男女がお互いを知ることでコミュニケーションとは異なる互いへの『理解』も生まれるというモノです」

「む……確かに、一理あるが」

「それに、性的情動は男性隊員のみならず女性隊員からも結構な数が上がっているんですよ。こっそりアンケートを取ったところ、女性隊員及び幹部、後方勤務の隊員からも『男と(性的に)交流できる環境が欲しい』という要望が結構あったそうで……」

 どうやら、『溜まって』いるのは男性だけではないらしい。

「だとすると、駐屯地や基地の内部に『そのための』設備を整え、避妊具なども充実させる必要があるな」

 その言葉を聞いてげんなりしたのは財務省である。ただでさえ防衛予算は膨れ上がるばかりで今や天井知らずとなっている。

 このうえ設備や道具の充実などということをやっていたらいくら予算があっても足りやしない。

 いや、元々そういうモノなのだが。

「財務相。申し訳ないが、隊員のケアも大事なことだ。いくら金があったところで、国がなくなってはどうしようもないだろう?」

「それは……そうですが……」

 すると、法務相と農水省が手を挙げた。

「こちらも忙しいことは忙しいですが、新法案の構成のための人員はそれなりに確保できてきましたので、多少であれば予算を回せますよ」

「こちらも大陸での食料供給が安定してきましたので、今までのようなガムシャラな開拓は必要なくなってきました。こちらも少しであれば回せますよ」

「お2人とも……」

 防衛相が感激したように2人の顔を見ると、2人ともニヤリと笑ってみせた。

「なぁに。私どもは新法案の制定と法律の穴を調べるのが仕事ですからね。国を守れなければ法律も意味をなくします」

「こちらとて、国がなくなれば食料を作る意味もなくなりますから。なにより、開拓の初めごろには自衛隊に随分とお世話になったと職員たちがよく言ってましたからね。自衛隊には頑張ってもらわないと」

 特に農水省としては開拓の際に恐竜や猛獣から自衛隊員が体を張って職員を守ってくれたことが強く印象に残っているらしく、そのことを恩に感じていたのだ。

「ありがとうございます。いずれ余裕ができた際には、こちらの予算をそちらに少しでも回させてください」

「えぇ。その時をお待ちしてます」

「だから、頑張ってくださいね」

 3人ががっちりと手を握り合う様子を見て、財務相は『仕方ないですねぇ……』と言いながら予算配分の変更を始めるのだった。

 もっとも、来年度予算には間に合わないので再来年から、或いは緊急補正予算ということになるが、それでもありがたい話である。

 首相が思わず『情けは人の為ならず、か』と呟くと、文部相や厚労相も破顔するのだった。

 どうやら、日本人の『情け』と『武士道』は意外な所で生きていたようである。

 この1年後、自衛隊法が改正され、『隊内における異性隊員同士の性的交流の許可』と、『女性隊員の採用を大幅拡大』を掲げた。

最初及び一般人からこそ批判が多かったものの、女性側からも受け入れる主張が多かったことから、意外なことにこれが後に一般企業などにも取り入れられ、人々の精神安定化につながったのであった。

 世の中とは、何が起こるかわからないものである。



――西暦1745年 3月2日 グランドラゴ王国 王都ビグドン 技術共同研究所

 ここは、グランドラゴ王国が保有していた先進技術研究所の新たな姿である。

 ここでは日夜、新しい技術はできないものかと研究者たちが努力を重ねていたのだ。

 ちなみに、現在『共同』となっているのは、日本の技術者たちが多数勤務するようになったからであった。

 日本の技術者は王国に類似している英国の兵器や作ったもの(ただし、第二次世界大戦頃まで)を見せると、ドワーフ族たちは瞬く間にそれを理解、吸収する。

 戦車もそれによって『八九式中戦車』モドキが完成したのだが、既に新しい戦車を設計しているところである。

 だが、それに最近変化が生じ始めていた。

「航空機と船舶はさておき、戦車は早急に進化させる必要がある」

 室長のウータンの放った言葉に、職員も日本人の研究者も頷いていた。

 日本の衛星による調査で判明したイエティスク帝国の戦車の中に、かの有名なⅣ号やティーガー、そしてヤークトティーガーに酷似した車両も見受けられたということで、王国の戦車を急速に発展させる必要が出てきた。

 歩兵支援用のアヒ○さんチームでは、西○流には勝てないのだ。

 そこで、グランドラゴ王国には最低限で戦後第1世代MBT並みのモノを開発してもらわなければならなくなっていた。

 もちろん、航空優勢を確保できればシュトゥーカ大佐殿の如く航空機で撃破するというのも1つだが、あれは特別だ。常人と一緒にしてはならない。

 色々と基礎的な理論を教えたうえで彼らの提案と設計を聞いていた日本の技術者は、頭を抱えていた。

「……どうしてこうなった?」

「なんて言うか……『お約束』?」

 ドワーフと竜人族の提案してくる車両は、『チャーチルの車体にパンターのような砲塔をのっけた物』であったり、『それなりに早く動ける戦車の後ろに固定式長砲身の105mm戦車砲を取り付けた自走砲』であったりと、旧世界で言う『紅茶とマーマイト』的な発想が満載だったのだ。

 ちなみに最優先が戦車であるというだけで他にも色々な提案があった。

 あくまで一例だが……



○氷山から削り出した空母

○多砲塔戦車

○矢鱈と全長の長い戦車

○ジャンプする戦車(そうすりゃ被弾しにくいと思ったらしい)

○後部機銃のみの単発戦闘機

○18インチ砲搭載型軽巡洋艦

○5t/10t爆弾

○自走車輪爆弾

○木製飛行機

 


等々、日本人でもこういうモノが好きな諸氏ならば見たことがあるであろうという紳士の主張がこれでもかと盛り込まれる有様であった。

 もっとも、中にはバカにできない物もある。

 例えば、日本で保存されていた『M4シャーマン』を見て、『我が国が最近開発に成功した対戦車砲である76.2mm砲を搭載したい』という、『シャーマン・ファイアフライ』改造のような『それなりに』まともな案もあった。

 また、30.5cm砲1門を搭載した潜水艦という物も作っていたが、日本の技術者が王国及び周辺国に『魚雷の概念がない』と聞いたことで納得した。

 どういうことかといえば……

「魚雷がないのであれば、攻撃直前までは水中に潜っていて、後ろからの不意打ちなどで攻撃するために大砲、それも大口径砲を装備しておくのだとすれば正しいとは言えないが納得はできる」

 とのことであった。

 正しいとは言わない。断じて。

 だが、戦車に関しては戦後第1世代MBTというレベルには及ばず、中々満足のいくモノとは言えない。

 日本側としてはせめて『センチュリオン』くらいのネタを出してほしいため、敢えてセンチュリオンなど戦後第1世代MBTのことは話していないのだが、やはり難しいようだ。

 それなりにまともなものといえば、『チャーチル歩兵戦車』に似た戦車が出てきたくらいである。

 それ以外は奇抜すぎたり実現不可能であったりと無茶が過ぎるので、なんとかまともな案が出てくれないかとみんな待っている状態なのである。

 チャーチルも装甲の厚みはかなりのモノで帝国戦車でも真正面から撃破するのは難しいと考えられているが、如何せん遅い。

 何せ、重装甲及び大口径砲を装備し、重量もチャーチルよりはるかに重いティーガーⅠの方が10km以上も速度が出ると言えばその遅さが窺える。

 というか、それより重量の増したティーガーⅡやヤークトティーガーですら一応カタログ上は時速30km以上で走れたと言われる。

 それを考慮すると、チャーチルレベルでは第二次世界大戦レベルかその直後くらいの戦闘様式には到底ついていけないのである。

 かといって速度を追求しようとすると、これまた『クルセイダー』や『クロムウェル』に近い英国面的な巡航戦車シリーズになってしまった。

しかも想定として榴弾が撃てない、壊れやすいなどといった欠点まで一緒ということで日本人技術者たちの頭を悩ませた。

「なんでMBTの発想が出てこないんだろうなぁ」

「日本だって割と両極端な発想が多いから、人のことは言えないさ」

 強いてまだいい所があるとすれば、日本の技術を取り入れているからか信頼できる技術を基幹にしているところであろうか。

 もっともこの国、料理はまともなようで、ウナギを卵でとじて塩コショウしてみたりだとか、フィッシュアンドチップスの『油』を少なくしていたりなど、普通に食えるものである。

 キュウリとて、サラダに使用することがほとんどである。

 だが、やはり技術的発想は『堕ちて』いたらしい。

 一応日本の兵器比較の本は見ているらしいのでそれを参考に考えようとしているようだが、重量を軽くしようとして紙装甲の大口径砲戦車になっては、それは一部の第二世代MBTである。

 西ドイツのレオパルト1やフランスのAMX―30などの戦後第二世代MBTは、対戦車ミサイルをかわすために紙装甲の高機動力が求められたため、そのような設計思想になっている。

 しかし、現状の王国の作るエンジンの馬力と信頼精度では、鈍足でも装甲の硬い歩兵戦車モドキを作る方が理に適っているとはいえる。

 日本側も、いっそエンジンは日本から輸出してやろうかとさえ思っていた。

 すると、ウータンが机をバン!と叩いた。

「もう面倒だ! こうなったらいっそ、エンジンは日本から輸出してもらって、有り合わせのあれこれを継ぎ接ぎしてみるぞっ!」

 当然周囲はざわつき始める。そんなことでうまくいくとは思えなかったからだ。

「そ、そんなことできますかね……?」

「それに、やはり革新的な技術のほうがカッコいいのでは……?」

 だが、ウータンはビシッと指を突きつける。

「そんなことばっかり言ってるからいつまでもまとまらんじゃないかっ‼ だったら、今使える技術を寄せ集めてでも作ったほうが完成度は高いわっ‼」

 日本側は突然発せられたすごい剣幕に思わずびっくりしていたが、ウータンの言うことにも一理あると考えていた。

「少なくとも、俺たちの今の技術水準じゃ日本の『74式戦車』程度だって作れねぇ!……そうだな、ターレットリングを大きめにとって、砲塔を大きめに、避弾経始も考えた形で……大口径砲を……」

 ウータンがぶつぶつと言いながら設計図に書き始めてから『ああでもない、こうでもない』と言いながら1時間以上が経過した。

 そして、やっと顔を上げた時には、汗だくになっていた。

「どうだ、これならできそうだろ」

 その場にいた全員が簡単な設計図を覗き込むと、皆が『おぉっ』という反応を見せた。

「な、なんだこりゃぁっ!?」

「確かに、容量はある割に軽いからエンジンの馬力次第で十分速度は出るし、日本製鋼所製の105mmライフル砲で強力な砲撃も見舞える……」

「これ、すげぇなっ‼」

「日本の技術支援さえあれば、十分作れるんじゃねぇか!?」

 だが、日本側は凄いなどという言葉は出なかった。それは、確かにセンチュリオンを基にした戦車だった。

「お……オリファントだ……」

「あぁ、この設計は、オリファントそっくりだ」

 オリファント。『現代の』南アフリカで使用されている、第二世代MBT相当の能力を持つ戦車なのだが、その実態は英国のセンチュリオンを独自に魔改造し、もはや別物といえるものにまで進化させた戦車であった。

 さすがに射撃管制装置などは搭載することを想定していないようだが、それでもこの世界の戦車基準では十分強い。

 イエティスク帝国のティーガーⅠモドキでも十分撃破できるだろう。

「……いや、すごいと言えばすごいんだけど、発想はぶっとびだよな」

「やっぱ、世界は違っても英国だわ、この国……」

 こうして、日本が全面的に技術支援するという条件で『オリファント』もどきこと、『クロマイト』型戦車の開発が進められることになったのだった。

 ……英国面は、世界を超える。

作中で述べた『隊員たちの交流方法』については、色々と考えたうえでのものです。

批判も問題も多いでしょうが、やはり子孫を残す行為であるということから目を背けてはいけないのではないかと私なりに思った故でした。

なので、ご了承ください。


後半についてですが……どのような世界であろうとも、英国面は存在する。

私はそのように考えております。

次回は3月10日前後に投稿しようと思っております。

前へ次へ目次