決着に向けての準備
今月2話目となります。
最近随分と東京におけるコロナ感染者が増えたもので……ま、まぁ、友達もいなければ飲み会にもいかない自分には関係ないですけどねっ……寂しい。
――西暦1744年 8月15日 ガネーシェード神国 カルカタック 日本陸上自衛隊基地空港
1か月半以上をかけて、日本はガネーシェード神国の南端、カルカタックの土地に空港を兼ねた基地を『かなりの突貫』で建設していた。
もっとも、そのために途中のシンドヴァン共同体まではできる限り資材や燃料を空輸してそこから船で運ぶという方法を取らざるを得ないほど厳しい状況ではあったが。
それでも、政府がガネーシェード神国の危険性を承知したことからこの戦いで資材が大量に必要になるであろうことを見越していたため、1年以上前からコツコツと様々な準備を進めさせておいたのだ……逆に言えば、それだけ入念な準備を進めなければ効率よく基地を建設できなかったというのも間違いないのだが。
具体的には、シンドヴァン東部の開発を今後優先的に行う代わりに、自衛隊の基地建設の資材と燃料保管のために土地を間借りして資材を間近まで運んでおいたのだ。
実際、21人のギルドマスターの1人を殺されていたこともあって、シンドヴァン共同体は快く土地を提供してくれた。
それどころか、『無期限で好きに使ってくれて構わない』とまで許可していた。
政府の地道な外交努力と現場の『モーレツ』な労働もあり、資材の運搬もそれなりに順調に進んだ。
カルカタックに防御陣地を構築した自衛隊は、次に港湾施設として『とりあえず大型船が停泊できる』くらいの能力を持つ港の開発を進めた。
半月ほどで自衛隊の輸送艦のみならず民間のタンカーや貨物船のような大型船舶が停泊可能となったことにより、さらに資材の運搬はスムーズとなった。
この頃にはガントリークレーンも建設されて資材の運搬で大いに役立っている。
そして大手ゼネコンも国費で加わって作業を進めたことで、ひとまず空港も稼働可能なレベルにまで整備することができた。
超大型のジャンボジェット機のような巨大な航空機は不可能だが、『C―2』レベルの輸送機であれば問題ない程度には。
陸上自衛隊第1空挺団団長の土師は、あれよあれよという間に完成した空港を見て高笑いしていた。
「はっはっは。こいつぁすげぇ! 今時ってのはこんなことができちまうんだなぁ!」
豪快な笑いを見せる団長に、副隊長の沢城はジト目で見ながらツッコミを入れる。
「団長、笑いごとじゃないですよ。このために政府がどれだけ苦労したと思ってるんですか」
この1か月以上、第1空挺団はこのカルカタック周辺で猛烈な訓練を行なっていた。
現地の環境に慣れること、空挺降下の具合を確かめること、現地で食糧調達ができるかどうかを確認すること、空海自衛隊との連携確認をすることなど、やることは山積みであった。
このガネーシェード神国は旧世界でいう所のインドであるためか、インドライオンやインド象などの巨大生物も存在する。
実際、一度インドライオンが群れで陣地に近付いてきたことがあったため、火を焚く、煙を吹き付けて燻すなどしてなんとか追い払ったのだった。
他にも、象の子供が迷い込んできたり、海辺で首長竜に出くわしたりするなど、空海両自衛隊と連携していなければ犠牲者が出ていてもおかしくないような事案が日々様々な形で発生していた。
それらの危険な存在が陣地に近付かないように警戒するのも第1空挺団で、彼らは訓練と称して、時には討伐も行なっていた。
それを見ていた他の隊員たちは『なんであそこまでできるんだよ……』と逆に呆れていた。
まさか、第1空挺団がナイフと竹槍だけで首長竜を倒すとは思っていなかったので、『何あの蛮族……』と空海自衛隊の面々に言われることになる。
今回は敵の首都がヘリコプターの航続距離以上に離れているため、事前に神都カンジャイの近くにヘリコプター『CH―47』を車両で輸送して待機させてから『C―2』輸送機で殴り込みをかける手筈となっている。
とはいえ、敵の国家元首殺害や捕縛ではなく、敵に『我々と交渉しろ』という要求を突きつけて交渉のテーブルにつかせることが目的である。
要求を突き付けるために、敵宗教勢力首長を捕縛する必要がある。
その後は敵を倒しつつ撤退し、隠してあるヘリに乗り込んで、輸送用の車両を置いておく合流地点へ向かうという、なんともともリスクの高い綱渡りのような作戦である。
だが、どの隊員も不安そうな顔や不満げな顔はしていなかった。
自分たちが転移後初めて、大きな活動ができるということもあって皆士気旺盛なのだ。
何せ、スペルニーノ・イタリシア連合と戦った際は『それほどの相手ではない』と政府に出し惜しまれ、ニュートリーヌ皇国との戦いでは皇国がヘロヘロになるまで弱らせた挙句警察官である鷹下と大山を中心とした逮捕部隊が出張ったため、空挺団の出番はお預けだったのだ。
当然国民にも第1空挺団が出撃することは事前に報道されていたため、『遂に第1狂ってる団が……』だの、『アラクネオワタ』だの『ヤベーイ!』だのと、好き放題に言われていた。
転移してから既に10年、国民の多くも軍事に関する勉強が当たり前になりつつあった。
特に、自衛隊にはまる女性が増えたことから『ミリ女』から派生して『陸女』、『海女』、『空女』と分けられた自衛隊オタクが現れた、と言えばそのブームっぷりも窺える。
『陸女』は水陸両用機動団や第1空挺団、そして芸術的と言われている砲撃を見せる特科大隊、『海女』はイージス艦乗りや『P―1』哨戒機乗り、そして艦載機パイロットに、『空女』はブルーインパルスやアグレッサー部隊など、それぞれの『推し』がかなり細分化されているほどであった。
閑話休題。
日本の自衛隊に関する訓練や演習などを見てきた各国関係者も、第1空挺団のことを勉強していた人物などは『こりゃエライことになるぞ……』と肝を冷やしたという。
「んで、敵さんの動きは?」
「はい。アラクネたちには通信手段も存在しないようでして、全滅させてからは動きと言える動きはありません」
日本は完成した空港から偵察機を用いて敵の首都カンジャイを探っていた。
ちなみに、日本はグローバルホークに近い能力を持つ偵察機『RQ―1』を独自開発して運用を始めていたが、敵に見つかった場合の速度と、艦上運用しやすい音速越えの有人機を作ってほしいという海上自衛隊の要求を受け入れて、なんと『RF―4E』ファントムを解析してモデルとし、『RQ―2』バルチャーという航空機を急ピッチで開発していた。
この航空機には後部座席に当たる部分にAIロボットを搭載するため、無人機とある程度同じ能力を有することから『Q』の文字を冠することになった。
ついでに言うと、電波や無線操作で操縦する無人機では万が一アラクネたちの磁場に引っかかった場合操縦不能になって墜落する恐れがあるのも難点だったので、有人機が必要になったという理由もある。
使用機器もなるべく対磁力コーティングを施せるかと防衛装備庁で研究しなければならなかった。
そんな『RQ―2』バルチャーの特徴は以下の通りになる。
○『F―4』ファントムと同レベルのマッハ2.2まで速度を出せること。
○研究中の巨鳥から採取した器官を元にした『反重力発生装置』を搭載し、離陸滑走距離の短縮や航続距離の延伸、及び加速性能に効果があるかという実験機も兼ねていること。
○後部座席にはAI搭載記録マシンを乗せ、パイロットの操作一つで写真と映像を撮影することができること。
○自衛用ウェポンとして『AAM―5』を装備したままでの超音速飛行ができること。
○アフターバーナーを使わないで音速を超える、超音速巡行が可能なこと
とまぁ、要求をした防衛装備庁をして贅沢と言うか、盛り沢山にも程がある、と言わざるを得ないほどの要求ぶりであった。
さすがに超音速巡行は『F―4』や『RF―4E』を参考にしているためかなり困難であったが、IHIが開発していた国産ターボファンエンジンに少し改良を加えるだけでファントムのエンジン以上の推力ながら低燃費のエンジンを作ることに成功したため、あれこれと改造を施す羽目にはなったものの、面白い機体として艦上偵察機のみならず、航空自衛隊でも正式採用された。
特に高評価だったのが傑作機の『F―4』を参考・モデルにしていたため、量産の費用が1機たったの40億円で済んでしまった。
『F―4』が32億円前後だったと言われているため、5億円以上値上がりはしたものの、他の最新鋭戦闘機やステルス系の高価な装備に比べればはるかに安価ということもあって、偵察隊で重宝されることになる。
しかも、試験的に搭載された『反重力発生装置』のお陰で、飛行している時のエンジンへの負担が大幅に減少したことにより、航続距離の延伸とアフターバーナー使用時の加速度の上昇は防衛装備庁の予想以上となっていた。
今後は次期戦闘機である『F―5』の量産型や、『F―6』にも搭載することになる。
『F―5』は既に試験機も飛行試験を繰り返していたので後付けという形になるが、元がそれほど大きな装置ではない(大きいとはいえ鳥の体内に納まっていた器官を研究し、機器に接続できるように改良した)ため、なんとかスペースを確保することに成功していた。
このことを教訓に、マルチロール戦闘機としてデビューすることになる『F―6』は現在設計の段階からあれこれと変更が加えられている。
この反重力装置が搭載できれば、1つのパイロンに2発の対艦ミサイルや超大型爆弾などを搭載しても離陸できるようになる計算なので、装備庁や技術者たちも必死になって研究しているのだ。
一番の課題は戦闘機のボディに収めるための小型化であり、器官を機器に収めながら問題ない程度の大きさに収める必要があった。
これに関しては、電子機器の小型化や軽量化を得意とする日本のお家芸とも言える。
この『RQ―2』は5年以上後に、近代化が進んだグランドラゴ王国にも輸出され、『戦闘可能な偵察機』として同国の歴史書に残る存在となったのだが、それは別の話。
再び閑話休題。
だが、そんな最新鋭機を用いて偵察しても、敵に全く動きが見られなかったのだ。
これは首都のみならず、他の村落(日本からするとどの場所も『街』と言えるような規模の作りではなかった)にも全く動きがなかったのだ。
「まぁ、自分たちが電子機器をいかれさせちまうんじゃ、それに類する通信手段を持とうとは思えないよな」
「モールス信号くらいなら大丈夫なんじゃないですかね?」
「俺もそんなオンボロのことはよくわからん。だが、明治時代初期ぐらいに使われていた電線式のものならともかく、やはり電波を飛ばすとなると磁力の影響をもろに受けるだろうからなぁ。自分たちがいかれさせちまうような技術や物体を、信用できると思うかぁ?」
「そうですよね」
土師は『まぁいい』と言いながら隊員たちを見回した。
「俺たちは、俺たちにできる全力を尽くす。お前ら、もうしばらくしたら出撃だ。気ぃ抜くなよ?」
「「「ハイッ‼」」」
今日も、第1空挺団の訓練は続く。
――2028年 8月20日 日本国 東京都 首相官邸
この日、首相官邸では海上自衛隊から上がった報告を政府が受け取っていた。砲撃による殲滅の後でほんのわずかではあるが生存していたアラクネ10名前後を捕虜として捕まえたため、治療もかねて日本本土へと送ったということに対する協議である。
挙げられた報告書を、官房長官が読み上げる。
「ですが、アラクネたちの多くは聴取を行うには難しい健康状態です。まぁ、戦艦の砲撃を間近で喰らったのですから、生きているだけでも御の字かもしれませんがね」
官房長官の言う通り、生存していたアラクネたちのほとんどは砲撃のショックで廃人状態に近いものとなっているか、聴覚器官が完全にいかれてしまって聴取を行おうにもかなり時間がかかるという難点があったのだ。
また、遺体も現地で埋葬する中で通常人類や亜人類の多くには見られない器官……恐らくは磁場発生器官が発見されたため、その器官だけを失敬してあとはきちんと埋葬してあげたが。
現在発見された器官に関しては新世界研究所で調査中とのことだが、既に磁力を出すと仮定して調査している。そのためか、能力そのものはすぐに解明できそうであった。
そんな中で、首相が会議の口火を切る。
「さて。とりあえず戦艦の時限信管を用いた艦砲射撃が十分に有効であることは明らかになった。既に予定地への航空基地も建設が完了し、稼働が始まっている。もしこのままうまくいけば、早期に敵の本拠地に攻め込み、こちらの実力と要望を伝えて会議に臨むことも十分に可能だろうと思う。外務大臣、フランシェスカ共和国からの報告は?」
外務相が現地外交官からの報告書を読み上げる。
「はい。現在フランシェスカ共和国では我が国が供与した竹の矢による訓練を行なっています。いざという時は自衛隊に随伴してもらう準備は着々と進んでいると言っていいでしょう」
フランシェスカ共和国はこの世界でも数少なく近接武器による白兵戦を行うことを想定した軍隊を持っているため、今回の第1空挺団の派遣の後に基地の防衛に加わってもらおうと騎士団の派遣を要請していたのだ。
元々同国にはコンパウンドボウを輸出していたので、今回新たに竹の矢と、プラスチックの柄に削った竹の刃を装着した『竹槍』、そして『27式ロケット竹槍』や『27式迫撃竹槍』を一部供与して戦力を増強してもらうことにした。
意外にも着弾するまでは火薬などの燃える臭いがしないこの2種類の爆発武器は共和国にもガスマスク無しで使いやすいらしく、結構評判が良かった。
日本側も『まさか竹の武器が国外でウケるとは……』と呆れていたが。
このことが国内に報道されるや否や、ネット民やオタクたちが大爆笑したのは言うまでもない。
「では、もうしばらくすれば共和国からも人員が派遣されるな」
「はい。共和国もまず2千人を派遣してくれるとのことですので、即応体制という意味では十分でしょう。最初は防衛のための人員があまりに不足しているという認識でしたが、共和国が派遣してくれると聞いた時には正直『助かった』と言わざるを得ないくらいでした」
防衛相も手を挙げる。
「敵の本拠地に強襲をかけ首長を攫った後、海上自衛隊は補給部隊を残して撤退させます……正直な話、戦艦は稼働させておくとコストがかなりかかりますので……早めに呉に戻して、一般人へ公開展示して少しでもそのコストを回収したいのです。陸上自衛隊もフランシェスカ共和国の騎士団と合流するため、第1師団の半数を一度撤退させます。そしてさらに、使節団も次の便で交代させます。よろしいですね、総理?」
「うむ。ただでさえ防衛出動だけでも過労状態だからな。できる限り交代で休息は取らせる必要がある」
さらに法務相が手を挙げる。
「国外はともかく、国内からは『危険思想と宗教に染まった民族とどのような交渉をするのか』と気にしている声がだいぶ上がっています。こちらに関しても早めに報道で開示するべきでしょうね」
「そうだな。最低でもこちらが要求することは呑ませる意思があるということは伝えなければな」
旧世界であれば弱腰な外交をしていても『核も持ってなければ戦力も最低限だったし、そもそもこちらは敗戦国だったからそんな虫のいい要求はできない』と諦めることもできたが、この世界では日本が率先して国際的な秩序構成に努めなければならない。
少なくとも、日本がこの星を調査した限りでは、の話ではあるが……日本が一番発展している。
軍事、政治は間違いなく日本がこの世界ではトップレベルであろう。
民族性という点ではフランシェスカ共和国やアヌビシャス神王国、シンドヴァン共同体など、政治・技術体系と比較すれば成熟していると言える国家も存在するが。
「できる限り速度を重視してほしいが、かといって手を抜いたり、事故が起きたりしても困る。現場の声も聴きつつ、作業を進めさせてほしい」
「慌てず急いで正確に、ですね」
首相としては、国際的なかかわりを持ち始めた途端に戦争に巻き込まれてばかりで、『戦時体制解除をしたと思ったらまた争い』、ということが現在の基本なので、企業や生産体制にも大きく支障が出ている。
なんとかして戦争ばかりの今の状況を断ち切って、平和に向けた生産・研究開発を中心とした世界にしたいと願っているが、世界はそれを許してくれないらしい。
「争いの火種が向こうから吹っ掛けられるわけだから、こちらとしてもその賠償であったり責任を取らせたりという観点から相手をねじ伏せるしかないんだよなぁ……本当、誰かなんとかしてほしい」
実際、平和に接触できる国とそうでない国との差があり過ぎるのだ。これは仕方ない。
日本もまた、全てを終わらせるために動き続ける。
――2028年 9月28日 日本国 広島県呉市 海上自衛隊呉基地
この日、ガネーシェード神国での任務を終えた護衛艦『やまと』が、呉の港へと戻ってきていた。岸壁に立っている人々は、初めての任務から無事に戻ってきたことを喜んでいた。
しかし、1千人以上の人々が集まっているにも拘らず、その中から声はほとんど上がらない。
『やまと』が岸壁に着岸すると、艦長以下の乗組員全員が甲板などに整列する。
すると、『ポーン』という音と共に放送が流れる。
『黙祷』
放送の直後、『やまと』の乗組員だけでなく、その場に居合わせた人々全員が、黙祷を捧げた。
それは、『やまと』の砲撃によって命を落としたガネーシェード神国のアラクネたちへの追悼であった。
政府は国民に対して、『相手が仕掛けてきたこととはいえ、戦闘の結果1万人規模の死者を出してしまった。紛争中の相手で、国民皆兵に近い存在とはいえ、彼女たちの冥福を祈って黙祷を捧げたい』とのべた。
政府の意見に、多くの人が賛成したのだ。
その結果、呉市には5千人を超える人が集まり、この様子を配信している多くの都市でも人々が集まって黙祷を捧げることになっていた。
黙祷はきっかり1分続けられた。
黙祷を終えた『やまと』艦長の菅生は設置されたタラップを降りると、その場に集まった人々とマスコミに対してマイクで声を掛けた。
『皆さん、お集まりいただきありがとうございます。聞けば、ガネーシェード神国のアラクネたちは我々とは違う宗教を信仰していると聞きます。しかし、私は自然に帰れば皆同じ天国へ召されると思っています。彼女たちとすれ違い、その命を奪う結果になってしまったことを、私は一生忘れません。なので、皆さんと共にこうして彼女たちの冥福をお祈りさせていただき、ありがとうございました。それでは、失礼いたします』
菅生の挨拶に、多くの人が静かな拍手を送った。
『やまと』はこれから一度整備ドックに入り検査を行い、展示公開することに対して異常・問題がないことが確認されれば再び岸壁に係留され、人々への一般公開が始まる。
ちなみに観覧料は大人1000円、専門・大学生800円、中学・高校生600円、小学生500円、未就学児は無料、65歳以上は700円、75歳以上は500円となっている。
呉はこの『やまと』のお陰で、『大和ミュージアム』を含めて観光客が爆増し、経済の活性化に繋がることになる。
加えて、現在長崎では『やまと』の姉妹艦・『むさし』が建造中となっている。
建造は既に8割方終了している。
主砲は使用した場合の摩耗が激しいことを想定して予備砲身も90本以上が製造されている……それほど使用するかどうかはさておき。
実際、かつての『大和』型の主砲を使用した場合、200発も発射し続ければ砲身が摩耗して狙った場所に砲弾が飛ばなくなる。
それをある程度防ぐと同時に砲身寿命を延ばすために、『やまと』の砲身は最初から滑腔砲で設計されている。
『やまと』の主砲はGPSとレーダーによる照準で誘導され、さらにロケット推進で200kmは飛翔するため、普通の艦砲のようにライフリングが施されていない。
地上目標へ撃ち込む時はGPSで、艦船などの移動目標に撃ち込む時は最新の射撃管制システム・『FCS―4』と連動させたレーダーにより、正確に目標に撃ちこむことができるようになっている。
方向転換は搭載した推力偏向ノズルによって行うという、現代日本のハイテク集大成、とでも言うべき兵器であった。
もっとも、推力偏向ノズルを守るため、撃ち出してエンジンが点火した時に砲弾の尾部が割れるというカラクリ付きハイテク装備満載のせいで砲弾1発のお値段は5000万円以上(それでも安くなった)というとんでもない値段になっている……それでも、ASM―2とほぼ同じレベルの射程と、下手な巡航ミサイルとは比較にならないほどの破壊力を有しているので対地・対艦攻撃という点ではかなり強力なのだが。
しかも、現在では砲弾の改良によって超音速で飛行・着弾できるラムジェットエンジン搭載型の46cm砲弾が研究されている。
ラムジェットエンジンは空気取り入れ口を持ったエンジンを弾丸のように飛ばすことで空気が圧縮され、燃焼ガスの噴射が推進力となるエンジンなので、使い捨てのミサイルのエンジンには都合がいいとされている。
ラムジェットの場合は速度を稼ぐのに特に勢いよく撃ちだしてやらなければならない。ASM―3もラムジェットエンジンを使用しているが、『F―2』戦闘機から発射できることを考慮すれば、音速以上の速さになれば十分点火できる。
そのため、音速以上の速度を45口径46cm砲の爆発力で稼ぐことができるこの方式は、ラムジェットエンジンを用いるにはちょうどいいのである。
そこ、『おいやめろばか』とか言わないでください。日本も必死なんです。
「艦長、お疲れ様でした」
呉の海上自衛隊基地に入った菅生に、副艦長の大塚がコーヒーを差し出した。
「ありがとう、大塚君。君もご苦労だったな」
「いえ、私の苦労など、艦長の心労に比べれば大したことはありません」
あくまで謙虚な姿勢を崩さない大塚に、菅生は苦笑しながら答える。
「実質的に幹部を取りまとめているのは君たち艦内の上級幹部だ。私は作戦通りの指示を君たちに出すことしかできない」
「しかし、艦長はその覚悟をお持ちです」
「そうだな。そうでなければ、なんのために自衛官になったのやら」
菅生はこの後、幹部と共に防衛省へ出頭して統合幕僚部及び官僚たちに今回の作戦の効果についての説明と、今後についての指示を受けることになっている。
アラクネたちへの追悼は、個人的に日本人ならそうするだろうと思ってやらせました。
どうおもわれるかはさておき、それが『日本人の武士道』だと思うのです。
次回は1月10日辺りに投稿しようと思います。