抜錨!『やまと』発進!
今月1話目となります。
遂に、『やまと』が出撃します。
――2029年 4月1日 日本国 広島県 呉市
ガネーシェード神国とグランドラゴの衝突から1年が経過した。
日本は神国への交渉に備えて、彼女らを破るだけの能力を有しているということを示さなければならないと判断し、『戦争』の準備を進めていた。
事はこの日の1週間前。ネットニュースに『護衛艦〈やまと〉が任務のため4月1日に出航する』という記事が出回った。
どうせエイプリルフールのウソだろうと高をくくっていた者も多かったが、一部のマニアの中で情報を精査してそれが本当であると分かった者だけが、呉の港に集まっていた。
港には既に多くの軍事マニアやアニメファンが押し寄せていた。
ある者は旭日旗や日章旗を振り、ある者はパシャパシャとカメラのシャッターを切り続け、またある者は『宇宙戦艦ヤ○ト』の乗組員のコスプレと敬礼のポーズで佇んでいた。
港に停泊している『やまと』の姿は非常に洗練されている。現代駆逐艦と戦艦はかなり設計に異なる面が存在したが、かつての設計図や写真、様々な資料を参考に『やまと』らしさを出しつつも現代的な姿になっていた。
そして、出港20分前になった時、『やまと』の艦長に任命された菅生1等海佐と、『和製プレスリー』と呼ばれた『あのお方』が壇上に上がった。
会場は途端に静まり返る。
『ア~、ア~、ア~……』
女性の旋律が響くと同時に、港にいた人々は全員が胸に拳を当てるそのポーズに変わった。
女性の旋律が終わった直後、勇ましいメロディーが流れだす。
16万8千光年の彼方、大マゼラン銀河へと旅立った偉大なる船を送り出す、『あの歌』が、『あのお方』の生の声で流れだした。
会場に集まっていた日本人は皆、未だに衰えぬその精気溢れる歌声に涙を流しながら聞き惚れた。
歌が終わった直後、『やまと』が大きく汽笛を鳴らした。それに合わせて、乗組員が素早く配置に就く。
――ボォ――――――――ッ‼
そして、タグボートに誘導されながらゆっくりと岸壁を離れていく。3連装の46cm主砲や対空用の76mm砲以外はほとんど外見上で現代の護衛艦とそん色ないほどに洗練されている船が、雄々しくも美しく動き始めた。
すると、人々は一斉に歓声を上げた。
「行ってらっしゃーい!」
「どうか、無事に戻ってきてくださーい!」
「『やまと』よ、日本は君の帰りを待っているッ‼」
その後も市街地全体に響き渡るほどの歓声は、『やまと』が見えなくなるまで続いたのだった……。
その後、横須賀沖で『やまと』は第1護衛隊群及び航空護衛艦『あかぎ』、そして『あづち』型強襲揚陸艦2隻や補給艦数隻と合流して一路、ガネーシェード神国カルカタック沖へと向かうのだった。
ちなみに、この時の光景は日本と交流のある諸国でも報道され、そのあまりの盛り上がりっぷりに、各国の人がドン引きしたり逆に憧れたりしたのは別の話。
ニュートリーヌ皇国やグランドラゴ王国などは『こんな一体感のある見送り、見たことないぞ……』と、日本人のいざという時の団結力に驚愕したという。
閑話休題。
――西暦1744年 5月23日 ガネーシェード神国 カルカタック沖20kmポイント
『やまと』及び第1護衛隊群はこの海域で作戦を確認していた。
「陸上自衛隊の施設科と普通科を上陸させて敵をおびき出した後、『やまと』の艦砲射撃で、まずは港湾部の戦力を無力化します、その後は施設科により橋頭保及び防衛陣地、そしてこの少し奥にある地点に補給基地を兼ねた空港を構築します。なお、この土地の地盤の強度問題は既に潜入していた特殊作戦群によって明らかになっているため、問題ありません。空港を建設した後、『C―2』輸送機を用いて、竹の武装に身を包んだ第1空挺団を首都に送り込みます」
第1空挺団。
言わずと知れた、陸上自衛隊が誇るコマンド部隊である。
知識ある人物からは『第1狂ってる団』などとも揶揄されるほどの練度と戦闘能力を誇っており、普通の部隊からも『あんなのねーよ』とか『人外の巣窟』などと散々な言われた方をされている。
しかし、その能力は折り紙付き。
ちょっとやそっとのケガどころか、骨折しようと任務を遂行しようとする者もいるというのだからその恐ろしさが窺える。
ちなみに、その恐ろしさはそれより上位の組織である特殊作戦群にも脈々と受け継がれているとか何とか……
ちなみに、今回の敵に鉄系の防具や武装、さらに電子機器は無意味であることが分かっているため、隊員たちの防具はボディーアーマーと、警察でも使用されている強化プラスチック製の防具に身を包んだものとなっている。
これで曲射されたガネーシェード神国の弓矢は弾き飛ばせる想定であった。
これを見た一部のマスコミが『現代に蘇った甲冑武者』と評した。
武器の竹槍や竹製の矢、さらに竹製のナイフやそれを応用、強化プラスチックの柄と合わせた短槍も、この1年の間にコツコツと用意した物であった。一応、第1空挺団以外が使用してもそれなりに持たせられるようにと補給艦及び輸送艦には相当数が搭載されている……そのせいで今回は車両の類の出番がほとんどないためにそれらのスペースをほとんど補給用の竹製武器と空港建設用の資材が占めるというシュールな光景になっていたが。
現在日本では伐採しまくってかなり減少した竹の育成に林業関係者が力を入れている状態である。
もっとも、竹は根元さえ残っていればまたニョキニョキと伸びてくるうえにその速度は普通の樹木と比較してもかなり早いらしいので意外と再生も早かったと人々が驚いたとか……
とはいえ、これで準備はほぼ完了である。
翌日、まずは相手をおびき出すべく陸上自衛隊の施設科部隊が上陸し、砂浜から2km離れた内陸に陣地を構築し始める。
上空では海上自衛隊の『SH―60』が飛行しており、周囲の状況を確認している。
すると、双眼鏡を覗き込んでいた藤原3等海佐が鋭く声を上げた。
『こちらシーガル1! 陣地予定地より北西10km地点に蠢く多数の人影を確認! 形状から、アラクネ族と判断できる! 既に人数は1千人を超えた!』
報告を受けた菅生の隣に立つ副長の大塚2等海尉が『撃ちますか?』と声をかける。
「いや、待て。恐らくまだまだ集まってくるだろう。奴らが集結し、歩み始める……その瞬間を狙うんだ」
既に政府から『徹底した実力行使を』と許可を受けているため、容赦する必要はない。
「分かりました」
大塚も本気ではない。部下たちが初めての実戦で緊張している手前、副長の自分が部下の意を汲み取って質問したに過ぎない。
「小野砲雷長、敵部隊の動き、観測班からの報告を聞き逃すな」
菅生の重々しい声に若手の小野砲雷長は『了解!』と強い返答で応じた。
「待つのだ。『その時』は必ず訪れる……」
その頃、陸上自衛隊第8師団、第4師団所属の施設科部隊(今回は戦闘部隊が第1空挺団と第1師団の一部だけであり、台風などで施設科としての作業に手慣れている九州の師団2つ分の施設科が呼ばれた)は、護衛の隊員が側でコンパウンドボウを握っている中、懸命に作業を進めていた。
まずはこの地点をわずかな時間で防衛可能陣地として構築し、長期間維持できるようにすること。
それによって安定した行動ができる様になったら、今度は空港及び補給所を建設して飛行機の離着陸が行えるようにすることが最大の目的である。
施設科部隊の指揮を任せられた麦原1等陸佐は、通信機から入り続ける海上自衛隊の無線通信を聞きながら冷や汗が止まらなかった。
何といっても、銃弾も砲弾も通じないような相手が迫ってくるというのだから、自分たちの常識を軽々と打ち崩されているようなものである。
対して、今回自分たちを守ってくれるのはコンパウンドボウから発射される竹製の矢と竹槍、牽制と前進した際の面制圧を考えて持ち込まれた火炎放射器、そして竹の幹の中に大量の珪藻土を詰め込んで発射を待っている『27式迫撃竹槍』と、ロケット花火の如く噴射推進する『27式ロケット竹槍』である。
『27式迫撃竹槍』は射程約50mから150m前後(発射装置は防衛装備庁及び民間業者の研究で無駄に高性能な物が作られた)、『27式ロケット竹槍』は射程300mから500mにも及ぶ。
まさか竹槍を基にしたロケット砲もどきが陸上自衛隊の正式装備になるとはだれも予測しておらず、発表された時にマスコミはもちろん、普段は批判ばかりする野党や反戦系メディアですらあまりに突拍子もない武器であったために批判が飛んでこなかったという始末であった。
しかもこれ、太平洋戦争終戦間際に割と真剣に研究されていたネタでもある。
なお、インターネット上に存在する『日本面』を紹介する記事に、早速この『27式迫撃竹槍』と『27式ロケット竹槍』のことが書き加えられ、一部の軍事マニアから大爆笑を得たのは言うまでもない。
具体的には
○『日本面キターーーーーー‼』
○『これぞ島国根性……』
○『マジwww』
○『大東亜戦争でガチ配備された竹槍、まさかの復活www』
○『これむしろ本土決戦用なんじゃ?』
などであった。
もっとも、相手の能力に関する推測が報道されるようになると『相手が限定されるとはいえ合理的』という意見もこれまた軍事マニアの間からは出てくるようにはなっていた。
まさか日本人も、磁力を用いて銃弾や艦砲を無力化するというのは想定外だったらしく、驚愕のコメントがインターネットに多数寄せられていた。
大変余談だが、日本が統治しているアメリカ大陸にはアラクネ族が存在していなかった。
それもあって、今回ガネーシェード神国と接触するまではなんの事前情報も存在しなかったのである。
それもあって、国民の間にガネーシェード神国がどういった体制を取っているのか、国民性はどうなのかということが発表されるや、その残忍と言ってよい性分に多くの人々が恐怖した。
特に、男性からすればハーレム状態は羨ましい部分もあるが、不能になったら肉を削がれて喰われるのみならず、骨まで弔われることなく使い尽くされるというのは『恐ろしい』の一言に尽きる。
当然、最前線にいる隊員たちもそれは変わらない。
磁力を用いているとは言っても、それは推測にすぎない。確かにオーロラが発生していたのは事実で、通信機にも障害が発生していた。
だが、麦原からすればこの世の全てが科学で説明できるというのは、まだ人類の驕りなのではないのだろうかという感覚もあったのだ。
「1佐、とりあえず馬防柵の準備は整いつつあります」
部下の藪1等陸尉が駆け寄ってきた。元々陸上自衛隊でも衛星画像を中心にこの1年間、ずっとデモンストレーションを行なってきた。
『訓練通りやればいい』とは自衛隊の決まり文句なのかもしれないが、人間が習慣づけたことをこなそうとすれば、身に沁みついたその動きは間違いなく有効である。
「よし、決して油断するなよ、藪」
「はい!」
陸自側も準備を着々と進めるのだった。
さらに30分以上が経過した時、『SH―60』から鋭い無線の声が響いた。
『こちらシーガル1! 敵歩兵部隊が進軍を始めた! 少なく見積もっても1万人!』
「こちら『やまと』了解。敵が指定座標に移動したら再度通信を送られたし」
『了解!』
藤原は通信を切ると、わらわらと蠢きだしたアラクネの一団を見てゴクリと唾を呑む。
「ったく……あの美女軍団、もっとお淑やかなら大歓迎なんだけどなァ……」
ボヤキながらもアラクネの一団が進む様子から目を離さず、しっかり確認しているのはさすがと言うべきであろう。
アラクネたちは隊列もへったくれもなくとにかく歩いているだけ、という風に見えるが、絶対に一定以上の距離を取ろうとしていない。
「なるほどな。自分たちの能力が密集してこそ力を発揮するっていうことを十分理解しているわけか……」
藤原は、いよいよ桐生の立てた仮説が正しかったのではないかと思うようになっていた。
そして、アラクネたちの動きは想像以上に遅い。
「両王国軍からの報告通りだな……もはや牛歩っつぅか蜘蛛歩? メッチャ遅いな……」
逆に言えば、能力を使用することを想定するとどうしても密集隊形になり、それが原因で早く動く習慣がないのかもしれないと藤原は考えた。
そして更に30分以上が経過し、遂に運命の報告を藤原は通達した。
『こちらシーガル1! 〈蜘蛛は集いて積乱雲となる〉! 繰り返す、〈蜘蛛は集いて積乱雲となる〉‼』
これは雲と蜘蛛をかけた言葉遊びのような文言だが、いわゆる暗号符牒である。相手に電子装備の類がないのは分かっているので別にこんなことをする必要はないのだが、まぁそこはノリと勢いという奴である。
その報告を受けた菅生は目を見開き、砲雷長に指令を下す。
「砲雷長、砲弾へ指定座標入力せよ。全砲門開け‼」
陸地に対して真横を向いている『やまと』の46cm三連装砲が重厚な音を立てて回転する。
――ウゥゥゥゥン……ガキャン
「座標入力、良し。全砲門、3式榴弾装填‼」
時限信管を装備し、アラクネたちの手前50m前後で破裂するように仕掛けた新砲弾『3式榴弾』が砲身に装填される。
この名前も大戦時の『大和』とアニメの『ヤマト』に倣ったものである。いわゆる『こだわり』だ。
「撃ち方、始めぇっ‼」
「てぇ―――っ‼」
――ズバァァァンッ‼
艦内にいてもその衝撃の凄まじさが窺える一撃が、アラクネたちに向かって放たれた。
「……地獄の釜に火を放ったのは、あなた方だ。故に我々は容赦しない。だがせめて、あなた方が安らかに逝かんことを祈る……」
見えぬところにいて、これから地獄の業火に焼かれることになるであろうアラクネたちのために、一同は祈りを捧げた。
一方、アラクネたちは新しい男たちが現れたと聞いて舌なめずりしながら歩いていた。
海辺の村の1つを治める村長のデューンもその1人だった。
既に31歳というこの世界の基本的人類からすればそれなりの年齢(早いものは15歳前後で結婚して子供がいるので、場合によっては孫がいておかしくない年齢)だが、未だに男に飢えていた。
特にここ数十年ほどは神国が他国との関わり合いを避けていたこともあって、たまにふらりと現れる旅人の有翼人や、蟻皇国の村人くらいしかおらず、総合的に男不足であった。
そんな中、たまたま西の国境近くで捕まえたシンドヴァン人から、日本とシンドヴァン共同体が友好を結んでいることを聞いた。
神国神官一同が激怒したのは、日本国が『信教の自由』を掲げていると同時に、『万物全てに神は宿っている』という考え方をしていることであった。
彼女らにとっての神とはガネーシェード神ただ一柱のみである。
ガネーシェード神は古代、彼女らに鉄の武器を弾く『力』を授けた。それによって彼女らは蜘蛛の如き肉体と能力、そして『鉄弾き』の力は、これまで敵対した全ての軍隊の武器を受け付けなかった。
世界最強と名高いイエティスク帝国でさえ、鋼鉄の巨象や鋼鉄の天馬の攻撃を用いても全く傷をつけることができなかったと言えば、この世界の人間は大概恐れ、関わり合いになろうとしない。
肉体的に優れていると言われる狼人族や竜人族、蜥蜴人ですら彼女たちの前では敵ではない。
1年ほど前には竜人族とドワーフ族、そしてダークエルフ族の軍隊が攻めてきたが、やはり使用する武器は自分たちの能力の前に通用しなかった。
ただ、去り際に鉄の巨象を覗き込んだ同胞が巨象の自爆に巻き込まれて10名ほど神の御許へ召されたのは想定外だった。
炎と爆発の衝撃には神の加護も効果がなかったらしい。
とはいえ、敵もあのような身命を賭した戦法を何度も使用することはできないだろうとアラクネたちは踏んでいたため、今回は多数の男を確保できるだろうと考えていた。
デューンは今回の男たちをどのように嬲ってやろうか、しゃぶり尽くしてやろうかと考えながら歩いていた。
その時だった。
――ズバァァァンッ‼
海の方から雷が落ちたかのような音が聞こえた瞬間、デューンは思わず叫んでいた。
「敵が大筒を使ったぞ‼ 神の御加護を展開せよ‼」
彼女の叫びに応じるかのように、瞬く間にアラクネたちが目には見えない神の加護を展開する。
「ふん。何度やっても無駄さ。私たちの前では……」
その時、彼女の眼には9つの点が落ちてくるような光景が映った。
その点が光を放ったと思った瞬間、彼女とその周囲の数百人以上が意識を手放したのだった。
護衛艦『やまと』からわずかな時間差で発射された9発の46cm時限信管装備三式榴弾は、爆発すれば数百m以内に砲弾の破片と衝撃波をもたらすと言われるその威力を、アラクネたちからわずか50mの座標で開放し、一気に密集していた一千人以上を行動不能、或いは死亡させた。
「目標に初弾命中! 効果あり!」
加えて、上空を飛ぶ『SH―60』からも報告が飛ぶ。
『こちらシーガル1! 敵前方の1割近くが火達磨か消し炭だ‼ さらにその後方でも倒れている連中が苦痛かなにかかわからないが悶えている!』
報告を受けて、艦橋の面々から『おぉ』と言うどよめきが漏れる。
「艦長、どうやら桐生博士の推測は正しかったようですね」
「うむ。砲雷長、次弾装填を急がせろ、相手に反撃や逃亡のスキを与えるな」
「はい、ただいま次弾装填中。装填完了まで、後30秒」
初撃が命中し、敵の戦力を削ることに成功したのはよかった。しかし、あまりに文明が離れた相手に対して非人道的ではないかという疑念は、未だに菅生の中に渦巻いていた。
すると、大塚が耳元で囁く。
「艦長、先に手を出してきたのは彼女らです。そして、何より問題なのは、相手がこちらの持つ全ての常識や良識が通用しない存在だということです。そして、相手にも『自分たちのこれまでの常識が通じない』ということを叩きつけて、交渉のテーブルにつかせなければならないのです」
大塚は理論武装し、自分の中にある疑念や憐みの感情を打ち消そうとしてくれている。自分が必要以上に追い詰められないように、考えてくれているのだと思うと、菅生は嬉しかった。
「ありがとう、副長」
振り向いた菅生の顔には、もう迷いはなかった。
「次弾装填完了。敵密集地点補足。座標修正、第一主砲、11時1度、第二主砲そのまま、第三主砲11時2度修正。修正完了」
「第二射、撃てっ‼」
「てぇーーっ‼」
――ズバァァァンッ‼
再びアラクネたちの頭上で砲弾が炸裂し、爆炎と衝撃をまき散らす。アラクネたちは自分たちの能力で防げないその威力に、完全に恐慌状態に陥っていた。
彼女らはこれまでこのような経験をしたことがなかったため、反撃を考えることも、逃げることも考えられなかった。
そんな彼女らの頭上に、再び破滅の炎が降り注いだ。
――バァァァァァァァァンッ‼
呆然としていたあまり、能力を発動し忘れていた者も多く、第1射よりも更に被害は甚大なものとなった。
アラクネたちは第2射を受けても尚、茫然としていた。
神の加護を受けた選ばれた存在である自分たちが、自分たちの神を信じぬ不敬者の攻撃で追いつめられているということに、心が追い付いていないのだ。
あまりの破壊力に、これは夢なのではないかと考えている者もいる。
ある者は同胞、あるいは家族が物言わぬ亡骸となったり、消し炭と化したりしたことで発狂し、悲鳴を上げながらその周囲をのたうち回っている。
またある者は炎こそ食らわなかったものの、強すぎる衝撃波で鼓膜はもちろん、視覚や三半規管の全てが狂わされ、地獄の苦しみに悶えている。
歴史書や物語のような表現方法で言うならば、『死んでいたほうがマシ』と思えるような、生き地獄を味わわされたのだ。
その後も艦砲射撃は続き、全砲門十数発前後を発射することでアラクネのほとんどを削ることに成功した。
さらに敵の拠点を残しておくわけにはいかないが非戦闘員(この場合は赤ん坊や子供)ということで、強化プラスチックの防具に身を包んだ自衛隊員100名前後を送り込んで付近の村から子供を連れだし、その後艦砲射撃で村の全てを破壊し尽くした。
これを繰り返し、港湾部近くに存在した10以上の村は全て、その機能を失うことになったのだった。
そして、『保護』した子供や赤ん坊などは全て『あづち』に載せて日本本土へと送ることが決定していた。
政府に言わせれば、『いくら国民全体が宗教的テロリスト同然とはいえ、まだ思想に染まっていない子供や赤ん坊まで殺すことはない』という意見が多数を占めたのである。
結果、3時間ほどで港湾部周辺20km圏内の村落は全て消滅し、そこにいた子供や、その子供が子守りをしていた赤ん坊300人前後を日本は保護したのだった。
このことをのちに諸国に発表した時に『日本国は将来の火種を自ら抱え込むのか!?』と驚かれたが、『彼女らは過激な宗教に染まっていただけ。穏やかに教育し直せば、真っ当な人生を歩んでくれるでしょう』と『無垢な者に寛容であれ』という精神を見せたために各国は驚きを通り越して呆れたという。
しかし、憎しみは憎しみを呼び、さらなる連鎖を生むという言葉を日本の物語やアニメなどで知った者たちなどはその意見にも賛成するのだった。
その後、日本は神国側がちょっかいを出してこなくなったことで悠々と基地空港建設に励むことができたのだった。
……果たしてこれが正しい選択なのかどうか、それは誰にもわかりません。
ただ言えるのは、それでも『やる時はやる』という断固たる意志を見せることだと思います。
次回は20日前後に投稿しようと思います。