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科学的に存在しうるモンスター娘の考察

今月2話目となります。

遂に予測とはいえ明かされるアラクネの能力……さて、読者の皆様の中にアタリはあったのか……

お楽しみください。

――2028年 3月3日 日本国 東京都 首相官邸

 世間が雛祭りで賑やかになっている中、グランドラゴ・アヌビシャス連合軍が未開の国・ガネーシェード神国に大敗したという話は、瞬く間に日本中に広まった。

 原始人と同等かそれに毛が生えた程度の文明力しか持っていないというアラクネ族が、身体能力を駆使したとしても明治時代から大正時代前後の能力を持つ国家の軍に対して、多少の損害を与えることはできたとしても普通ならば勝てないというのは政府のみならず一般市民にも広まっていた。

 もっとも、相手側に特殊な能力を持った存在がいることで攻撃が防がれているという話も広まっていたため、『最悪』勝てないのではないかという考えもあった。

 とはいえ、それでも『なにもできずに敗北することはない』、『相応に打撃を与えて帰ってくるだろう』と日本のみならず、今回参戦した両王国の一般市民もそう考えていた。

 蓋を開けてみれば、結果は惨憺たるものだった。

 相手に与えた損害は戦車3輌の自爆による10名弱のみ。

 こちらも相手から撃ち込まれた弓矢と投石によって十数名が死傷、さらに数名の兵士がさらわれたという被害が報告されていた。

 圧倒的な文明力の差があるにもかかわらず、上陸したその日に敵わないと判断して撤退している。これは、仕掛けた側からすれば完全な敗北であった。

 この日、首相官邸には派遣されていた陸海空各自衛隊の観戦武官と、科学者数名が極秘で招致されていた。

 彼らは1か月近くをかけてシンドヴァン共同体まで戻ってから空路で成田へと向かったのである。

「今回の両王国軍の攻撃に際して、我々が見ていた限り、聞いていた限りの戦闘報告です」

 学者の桐生が差し出した報告書に目を通した官僚たちは、いずれも表情を曇らせる。

「……本当に、全くと言ってよいほどに攻撃が通用していなかったのか……」

「銃弾や迫撃砲はもちろん、我が国からすれば骨董品とも言うべき旧式とはいえ57mmの戦車砲も通じないとは……」

「与えた損害は戦車を自爆させた時の爆発だけ……どうなっているんだ?」

 官僚たちがざわつく中、桐生が様々な資料を差し出した。その中には、『現地における磁場活性化について』という報告書も存在した。

「桐生君、これは何かね?」

「これに関してもお話を進めたら説明いたしますので、少々お待ちください。それでは、説明会及び『敵の能力に関する科学的に説明しうる考察の発表』を始めさせていただきます」

 官僚たちも固唾を飲んで桐生の報告を待った。

「まず、大陸暦……各国住人からからすれば『西暦』と言うべき元号ですので、今後は西暦と呼称しますが、西暦1743年1月28日、グランドラゴ・アヌビシャス連合軍はガネーシェード神国の、我々が認識している場所としてはガンジス川の近く、カルカタックへと上陸しました」

 今度は隣に立つ陸上自衛隊の若手幹部、万丈3等陸尉が前へ出る。

「各国兵士たちによると、橋頭保を確保した後に一部部隊が前進し、アラクネ族を発見、森の中に追い込みました。森の中で奇襲を受ける可能性を考慮した現場指揮官の判断によって、まずは戦車砲を10発撃ち込みました。しかし……」

 万丈が顔を曇らせながら続ける。

「『バラバラの弾痕』が見つかったのみで、敵兵の死体やその一部らしきもの、及び血痕などは一切確認されませんでした」

 『そして』と言いながらパソコンを操作し、音声を再生する。



『うわ、なんだ!? ギャッ!』

『どうした‼』

『や、奴ら、木の上だけじゃなく草むらから……あぁっ‼』



「この報告だけでは詳細は不明ですが、各国将兵によると、恐らく身ぐるみ剥がれて連れ去られたのだろう、ということです」

 それに疑問を持ったのか、法務相が手を挙げた。

「なぜ、彼女らは兵士を殺さずに連れ去ったと言えるのかね?」

「アヌビシャス神王国曰く、アラクネ族は我が国でも確認されているスキュラ族、そしてシンドヴァン共同体を支配しているラミア族同様に女性しか誕生しない種族らしく、繁殖には他人種との性行為が必要になるとのことです。しかし、他の種族と決定的に異なる点は、『男性を誘拐して強引にモノにする』という点です」

 いわゆる略奪婚の男女が逆転したようなものらしい。

「アラクネたちは写真を見ると中々の美女揃いのようだが……拒む男がいるのかね? 少なくとも我が国のオタクたちにはウケそうだが……クモの下半身を生理的嫌悪で受け付けない、とか?」

「それはないようです。実際、この世界にはラミア族やスキュラ族、さらにはヒト型に近いとは言ってもゴブリン族やオーク族、インセクター族のようにアラクネ以外にも特異な形態を持つ亜人種が多数存在しますから、『違いこそがアイデンティティ』とも言えるので問題はありません」

 古くから多種多様な種族が存在していたこの世界では、『自国の外に出れば違う種族がいる』ことが当たり前であったので、違う人種であろうと人類であれば交配可能というのは昔から当たり前のことであった。

「問題は……連れ去られた男性は、不能になるまでアラクネたちに搾り尽くされ、生殖能力がなくなったとなるや否や、肉をはぎ取られて捕食され、骨は宗教的催事の触媒として使用されてしまうのです」

 その場にいた者たちは戦慄した。搾れるだけ搾られたらはいそれまで、と言わんばかりに喰われてしまうのでは、確かに誰も寄り付きたくはないだろう。

 アラクネはクモの怪物だが、やっていることはまるでカマキリの交尾である。

 カマキリは交尾を終えると、メスがオスの頭を食べてしまうのだ。

 一説によれば交尾した後の産卵の際に必要になるであろう多大な栄養を補給するために手近にある存在を喰らう、ということらしいが、どの世界でも『男はつらいよ』ということらしい。

「実際、そんな危ない存在を放置しておくわけにはいかないからと東の果て、旧世界で言う所の中国・モンゴル付近を支配している蟻皇国が我が国でいうところの幕末レベルの文明を持っていた時代に攻撃を仕掛けたことがあるそうですが、やはり敗れています」

 これは、シンドヴァン共同体からの情報であった。

「その時の情報は詳細には入っていません。ですが今回、第一次世界大戦レベルの軍事力を持つ両国が戦いを挑んでも全く歯が立たなかったということは、敵に『それだけの兵器・兵力を敵に回しても問題ない』ほどの能力があるということです」

「説明はいい。実際、アラクネたちはどうやって砲弾や銃弾を弾いているのだ? まさかライトノベルのように、魔法や超能力を使っているため、我々には説明がつかない原理だとでもいうのかね?」

 経産相の言葉に、桐生はプロジェクターを操作する。

 そこには、両軍の戦闘の際に発生したオーロラの写真が表示されていた。

 いきなり表示された場違いな写真に、官僚たちは頭に疑問符を浮かべる。

「これは……オーロラか?」

「はい。あの戦場で発生したものです」

 当然、官僚たちはざわついた。

 旧世界でいえば北極や南極、あるいはそれに近い環境を持つ一部の国以外でオーロラを観測するなど、自然現象としてあり得ないからである。

 そう、『自然現象ならば』……

「このオーロラは、我々が沖合へ逃げた数分後に消滅しました。それがどういう意味か、お分かりいただけるかと思います」

 首相がガタリ、と音を立てながら立ち上がった。

「まさか……まさか、あのアラクネたちが、オーロラを発生させる……つまり、それほどの『磁場』を生み出しているということなのか!?」

 磁場の乱れ。それこそがオーロラが発生する最大の要因である。そして、オーロラが発生し、激しくきらめくほどに強大な磁力を発生させているのだとすれば、様々なことに説明がつく。

「そうです。いくつか不明だった点も、これで説明が付きます。その1、『何故砲弾や銃弾が弾かれるのか』。これは、弾に含まれる磁力に反応する金属が、彼女らの能力で反発するからでしょう。その2、『なぜ通信機器に異常が出たのか』……これは、磁場の乱れで電波通信が乱れたからです」

 時代は進歩しても、電波通信を用いている限り、磁場の乱れによる通信障害は避けられない。

 対磁力コーティングはできるが、それにも限界はある。

「その2、『巨大な体躯をどうやって維持しているのか』です」

 アラクネは横幅だけでも2m以上あり、体高も2.5mほどあるかなり大きな存在である。

 それでいて、下半身のクモの部分は明らかに節足類と同じ構造のようだ。とある科学で亜人を説明する漫画のように、内骨格で説明のつく形状ではなかった。

 それを、外骨格の節足類のような足で支えていることがそもそもおかしいのだ。

「彼女らは地球の磁場に対して反発するような磁力を常に放つことで、その巨大な体躯にかかる負担を減じているものと考えられます」

 筋肉がなければつければいいじゃない、というのは内骨格持ちの生物の話である。虫やエビ、カニなどの外骨格生物は体を大きくしたくても『殻の中にしか』筋肉を付けられない。だからと言って殻を大きくすれば重量が増すのでそれに耐えうるように殻を厚く、重くしなければならないのだ。

 これが、節足動物や昆虫が地上で大型化できない理由である。

 逆に、水中では重さの制限は浮力によってあってないようなものになるため、クジラやダイオウイカのような巨大生物でも生息できるのだ。

 怪獣王(ゴ○ラ)など、50mを超える巨大生物が海から出れば自重で即死ぬとさえ言われていると言えば浮力の重要性が窺えるであろう。

 閑話休題。

「では、彼女らが鉄器を用いていないというのも……」

「そうです、その3『なぜ鉄器を用いていないのか』……恐らく、彼女らが発する磁力は『この星の、北半球が放つ磁力』に反発するものです。それも、北半球であることを考えればそれと同じ磁力を放っていると考えられます」

 磁力はN極とS極が存在する。同じ極同士は反発する。つまり、北半球と同じ磁力を放って反発しているのだとすれば、同じように『北半球の地磁気を帯びた鉄器』は使えないことになる。

「そうか……だから彼女らは全ての道具が石器と木器なのか……」

「彼女らからすれば、『そこに炎があれば十分』だったのでしょう。そして、もしこれが事実だとすれば、世界最強とまで言われているイエティスク帝国が戦いを挑みたがらない理由も分かります」

「第二次世界大戦から冷戦前後の能力を持っているとはいえ、用いる道具は鉄器であり、使う兵器も当然北半球の地磁気を帯びている砲弾・爆弾だから反発する、ということか」

「はい。たとえ戦車砲だろうが、それこそ誘導弾や空爆であろうが、彼女らの前では意味を成しません。火炎放射器ならば有効でしょうが、射程が短すぎますし」

 すると、法務相が『だが』と返した。

「言ってはなんだが、人間より少し大きい程度のアラクネたちが、集まったからと言って砲弾を弾けるものなのかね?」

「それに関しても予測しておりまして、彼女らが体内に保有しているであろう、仮名ですが『磁力放出器官』は、仲間たちが近くにいることで段々と増幅されるのではないかと考えてります」

「電池の直列接続みたいなものか……?」

「少々異なるとは思いますが、概ねそれに近い現象ではないかと」

 そこで環境相が手を挙げる。

「だとすると、我が国も勝ち目はないんじゃないのか? 鉛弾も通らない、砲弾もミサイルもダメと言うのならどうしようもないじゃないか」

 すると、桐生はあっけからんと言い放った。

「いえ、そうと分かってしまえば対処方法はいくらでもあります」

「あるのか」

 会議に先立って説明を受けていた防衛相以外の全員があんぐりと口を開ける。

「まずその1。核兵器を使用することですね。我が国は以前から、北朝鮮が核兵器を用いた場合に起こる不具合の1つとして、核反応による電子妨害の危険性を挙げていたことがありました。同じように、彼女らの頭上で核兵器を用いればその被ばくだけでも倒すことは可能です。ついでに、磁場を乱れさせることで攻撃も可能になるはずです」

「そんなことできるわけないだろうが!」

 法務相の叫びももっともであった。核を忌み嫌い、核兵器廃絶を訴える日本がそのような真似をしては、なんのための今までの主張だったのかと問われることになる。

「もちろん、これはあくまで手段の1つです。もう1つは、先程申し上げたように炎の類を用いることです。いくら磁力が強くても炎を避けることはできませんから」

「まぁ、そうだな。だが、さっきの言葉が確かならば、火炎放射器では射程が短すぎる。ナパーム弾や燃料気化爆弾でも使うのか?」

「それに関しては後程……他には、まだ実験段階の兵器ですが超電磁砲……そして、もう1つは『磁力に影響されない素材で武器を作る』ことです」

 これにはほとんどの官僚が顔を見合わせた。だが、国交相は何かピンときたようで閃いた顔をした。

「そうか、岩塩弾だな!」

 岩塩弾とは、警察などで暴徒鎮圧のために使用される、文字通り岩塩を使用した弾丸である。

 国土交通省は海上保安庁などの警察組織も一部で管轄下にあるため、真っ先にピンと来たようだ。

「だが、岩塩弾は元々殺傷を目的とした存在ではないので、最終的な制圧力という意味での殺傷力には欠ける。そこはどうするんだ?」

 すると、今度は科学にも詳しい農水相が声を上げた。

「なるほど、弾丸に使用するのは人工鉱物か?」

「残念ながらそうはいきません。鉱物の多くは、そもそも『瞬間的にかかる衝撃』に対して弱いです。なので、発射した瞬間にその衝撃だけでも砕けてしまう可能性が高いのです」

 鉱物の硬さを図るモース硬度は、『鉱物を鉱物で引っ掻いた時に傷がつくかどうか』という判断の硬さである。

 なので、世界で最も堅いと言われているダイヤモンドもハンマーで叩けば簡単に割れてしまう。

「じゃあどうするんだ?」

「もしも、弾丸を用いて戦いたいならば、人工的に生成できるものであり、弾丸向けの比重の重い物質を使わなければいけません」

「何がある?」

「残念なことに、現代兵器に鉛や鉄以外で適用できるものと言えば、装弾筒付翼安定徹甲弾にも使用されているタングステンなど、かなり限られます。しかし、そんな物を弾丸としていきなり多数作るなど、政治家の皆さんから言わせれば費用対効果が悪すぎるという奴です」

 米軍ならば劣化ウラン弾を用いることもあっただろうが、これまた核に対してはアレルギーを持つ日本では使い辛い。何より、加工の経験がないので用意に時間がかかってしまう。

 そして、これが意味することとしては、銃火器類は全くと言っていいほどに使用できないということであった。

「しかし、幸いなことも分かりました。彼女らの防御を見ていた王国軍兵士曰く、『砲弾は彼女らから25mほど手前で弾き飛ばされていた』とのことです」

「25m前後……特科大隊の砲撃に時限信管での調整を加えて目前で爆発させても、衝撃と爆炎はともかく、殲滅するには足りないような気がするが。それにその場合、爆発の際の衝撃波でも殺傷できるかどうか分からないな」

 しかも、『99式自走155mm榴弾砲』を揚陸している間に襲われたらひとたまりもない。

 首相がお手上げだと言わんばかりのポーズを見せると、総務相もそれに追随するように声を上げる。

「銃弾もダメ、砲弾もダメ、信管による爆発もダメ……じゃあどうすればいいんだ?」

 すると、桐生はようやくニヤリと笑いを見せた。

「確かに厄介です。弾丸も砲弾も、砲弾の爆発による炎や衝撃さえ届かないというのであれば、手も足も出ないかのように思われます。しかし、我が国には幸いなことに彼女らに『余裕で』対抗できる武器が存在します」

「銃や砲ではなく?」

「はい」

 再び桐生がプロジェクターを操作すると、そこには日本人からすれば見慣れた物体が映っていた。

「これは……コンパウンドボウか?」

「はい。コンパウンドボウから、『竹製の矢』を発射するという戦法はどうでしょうか?」

 竹は、ガネーシェード神国のアラクネたちも槍として使用しているように武器としての使い道もある。

 室町時代や戦国時代、そして江戸時代にも発生した『農民一揆』では、農民たちの主力武器だったと言ってもいい。

 斜めに切った先端は鋭く尖っており、十分な殺傷能力を持つ。薄く切った断面も鋭く、ナイフ状に加工すれば十分な『刃』となるであろう。

 竹の幹自体は中空で軽い物質だが、削り出して矢に加工してしまえばそれほど問題はない。

 加工にも、それほど高度な技術や時間は必要ないと推測できる。

「なるほど、竹ならば我が国でも相応の量を確保できるな」

「おまけに、成長が早いから工夫次第で長期間の戦線も維持できそうだ」

「加えて、かつては西洋で防衛兵器として使用されていた大型弩弓のように、先端を尖らせて発射すれば部隊の足を止める力にもなるでしょう」

「ただの竹槍では多数を一気に削るのは難しいんじゃないのか?」

「竹の幹は中空ですから、中をくり抜いてダイナマイトなどの爆薬を大量に仕込んで、火をつけてから陣地へ飛ばせば、ちょっとしたロケット砲代わりになります。重さを与えることで、飛ばす際の安定化も見込めます」

 要するに、竹の中に珪藻土を詰め込んでニトログリセリンを浸み込ませて最終的に火をつけて巨大なダイナマイトとして爆発させろ、ということらしい

 桐生は軍事専門の科学者ではないが、物理学ならば大概のことは分かっている。故に、もっと頭を柔らかくして相手に対抗するべきと考えたのだ。

 竹は耐熱性もそれなりにあるため、場合によってはロケット花火みたいなもので噴射させて敵陣にぶち込むという戦法も行ける。

「竹の加工ならば民間業者でも十分か……なるほど、いけるかもしれないな」

 今度は隣に立っていた万丈が前へ出た。

「その上で、まずは相手の戦力そのものを大きく削ぐ必要があります。少なくとも港町にいる1万人以上をどうにかしないことには、いくら竹の成長が早く補給が見込める武装候補であるといっても、相手の首都に迫ることもままなりません」

 万丈の言葉通り、派遣する自衛隊員1人1人に竹槍や矢を持たせようと思うと、かなり膨大な数が必要になる。

 幸いなことにアメリカ大陸の中でも日本とほぼ同じ環境が確認されている場所には既に竹が植林されており、タケノコの栽培が行われている。

 それでも、もし戦闘に使用するために多数を刈ったら次の生育までは暫く待たなければならない。

「どうすればいい? まさか、弓矢は相手に刺さった矢を抜いて再利用するとでもいうのか?」

 万丈が下がると、今度は海上自衛隊から派遣されていた氷室2等海尉が前へ出た。髭を生やしたダンディな面立ちのため、真剣な表情では中々の凄みを感じる閣僚たちであった。

「そこで、なのですが……海上自衛隊としての要請でして、『やまと』の使用許可をいただけないでしょうか?」

 官僚たちはまたもざわついた。

 護衛艦『やまと』は、就役して間もない戦後日本初の超弩級戦艦である。それが、このような戦いでなんの役に立つというのだろうか、と官僚たちは考えた。

「『やまと』の46cm砲弾に時限信管を仕込み、相手の陣地から30mの座標に到着した瞬間に指向性爆発を起こすようにすればいかがでしょうか?」

 確かに、今回の戦いに参加していた最大の砲撃力を持つ戦艦『クォーツ』の砲弾も時限信管や近接信管の類が仕込まれていたわけではないので、砲弾そのものが直撃しなければ意味はなかった。

 空中で炸裂する時限信管や近接信管、そして遅延信管などが開発されるのは、グランドラゴ王国を基準にするともう少し先の年代の話になる。

 今王国は日本から教導を受けて、砲弾や爆弾に使用できる様々な信管の開発を始めていた。

 最低でも、あと1、2年ほどあれば試作型の時限信管が作れそうとは言われている。

 もっとも、王国の技術者たちは次々ともたらされる高度な技術とその情報にパンク寸前であり、航空機や空母の研究などを含めるとブラックを通り越してダークなまでの状況に陥っている。

 しかし、現代技術で作られた高性能かつ大口径の砲弾の時限信管ならば、爆炎が届くかもしれないというだけではなく、その爆発の衝撃だけでも原始的装備の歩兵には大打撃を与えることが十分可能であると推測される。

 なにせ、超弩級戦艦として初代の大和でさえ500mは遥かに超える有効範囲があったのだ。

「幸いなことに、日柔戦役の際には就役しておりましたから、万が一出撃命令が下ってもいいようにと、1回の戦闘で搭載できる砲弾は撃ち尽くせるくらいの量が既に生産されています。今回限りのことであれば、少々費用は掛かりますがそれでも下手なことをするよりは効果的かと」

「なるほど、要するに超が付くほど大きく、火を噴くクラッカーを打ち鳴らして相手を無力化しようということか?」

「クラッカーはクラッカーでも、炎と衝撃波を飛ばすバケモノクラッカーですがね……」

 少なくともかつての大和型戦艦が砲撃する際には発砲の衝撃で甲板上の乗員が死亡してしまうため、甲板上の乗員は主砲発射の際に艦内へ退避するか、シールドで覆われた連装機銃及び対空砲の中に入っていなければならなかったほどである。

 それが発砲の時点でそれほどの衝撃を発するのだから、砲弾としての威力を開放した時と考えるや、爆炎と衝撃だけでも想像もつかない。

「まぁ詳しくは、隣の解説室で朝まで語りましょうか……」

 氷室のニヤリとした表情に、『こりゃ長くなりそうだ……』と長丁場を覚悟した官僚たちだった。

 とある特撮キャラと風貌が似ているからとこのネタを得意としている氷室のセリフに、防衛相は『また始まったか……』と他の官僚たちとは別の意味で頭を抱えるのだった。

 ちなみに、隣の開設室には詳細な説明が可能な映像データが配備されているのだが、これがないと今回は作戦を説明できないということでこのように述べたようだ。

「よし、皆移動するぞ」

「「「はい」」」

 こうして、半ば冗談だろうと思われた氷室2尉の言葉通り、本当に徹夜に近い時間を掛けて対ガネーシェード戦の概要、そして戦後処理なども含めて会議をすることになり、閣僚たちは翌日の早朝に帰宅した後に死んだように眠ったという。


……最後のはただの悪ノリです。あのネタ結構好きなんですよ。

作中で多数披露された文字Tも含めて……

本当は155mm砲の時限信管を調整すれば十分効果を発揮できるんですが、日本には海上からそれだけの砲弾を投射する能力がありません。

1万人近くを砲撃だけで滅しようと思うと、戦闘不能にすることも含めて大口径砲で圧倒しようという結論に至りました。

次回は12月の12、13までには投稿します。

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