前へ次へ  更新
58/132

突撃

お久しぶりです。今月2話目となります。

家にいることが多くなったからか、筆が進みますねぇ……ただし、この作品は現在90話くらいで若干続きに悩んでいる状態ですが。

エタらないように余裕をもって投稿はしているので、もう少しすれば何かインスピレーションが湧くかもしれません。

西暦1742年 5月27日 ニュートリーヌ皇国 首都ルマエスト

 自衛隊による首都包囲から1週間が経過した。

 空は真っ青な快晴であるにもかかわらず、人々の顔は暗い。

 首都防衛を担っていた兵士たちは、不規則に、しかも昼夜問わずに流される、恐怖を掻き立てる様々な『音』の前に、すっかり士気が下がっていた。



――ドドォォォォォォン!



 しかも、時折空き地や基地跡に実弾での砲撃を落としてくる。このために『99式自走155mm榴弾砲』が呼ばれていたのだ。

 航空自衛隊もまるで練習のように人のいない建造物に爆撃を行い、その恐怖をさらに掻き立てる。

 ちなみに、爆撃を行なっているのはメーロの情報から明らかになっている元老院議員及び高級軍人の家ばかりであった。

「日本め……いつまでこのようなことを続けるつもりなのか……」

 元老院議長のオケイオンも、すっかり寝不足で目の下にクマができている。

 一度はなんと、元老院議会のすぐ傍に砲弾が着弾、見張りをしていた兵士5名が肉片と化したこともあった。

「奴らはいつでも我らを滅ぼせるはず……何故滅ぼさない?」

 オケイオンも他の議員たち20名も、この1週間家に戻っていない。いや、戻れていないのだ。

 初日の音響攻撃が始まってそれほど経たないうちに、いきなり議長であるオケイオンの家が吹き飛ばされたのだ。

 オケイオンはこれに関して、空爆ではないかと考えていた。

 実際、焼け跡を兵士に調べさせたところ、大きなものが爆発した痕跡があった。

「えぇい、忌々しい。今日も飛行機械が空を飛んでおる」

 空の上を見れば、深緑色の、回転する羽を上部に取り付けた飛行機械が飛び回りながら音を流している。

「あぁ……今夜も眠れなさそうだ」

 オケイオンは物憂げに空を見上げるのだった。



――同時刻 首都ルマエスト西部 15km地点

 ここでは自衛隊の指揮所が置かれており、各包囲網の情報が全て集約されていた。

『こちら北部3班、またも脱走しようとした住人あり。確認すると孤児であった模様。10歳から14歳の男女5名』

「こちら本部了解。保護したのち『定期便』で駐屯基地へ」

『了解した』

 報告を受けていた若本陸将補は、思ったよりも脱走者が少ないことに驚いていた。

「まだたったの20名か……思ったよりも少ないな」

 若本の呟くような声に、部下の千葉1佐と中井2佐も頷いていた。

「それだけ愛国心が強いのでしょう。自分の祖国を信じているんです」

「もしくは、逃げられない状況だと理解している者も多いのかもしれませんね」

 逃げてきた人物の多くが後ろ盾のない孤児か、浮浪者に近い生活をしている者ばかりだったのだ。

「いずれにせよ、これでほぼ準備は整ったな」

「では」

「あぁ、特班に連絡してくれ」

 特班とは、以前にも記述した各都道府県警から選抜された特殊部隊ではないが、技能に優れた警察官の、今回の呼び名である。

 人格的には若干問題はあるものの、仕事に対する熱意は高く、それが行き過ぎて上司からお小言をもらうという、刑事ドラマのような人物が各都道府県警を探せば少なからずいるのだ。

 総勢50人。今回確保しなければならない元老院議員が50名なので、確保できると判断されていた。

 もちろん、自衛隊によるド派手な陽動も付けてと、敵勢力確保のために総動員体制である。

「では、直ちに会議に移りましょう」

「おし」

 

 

 更に15分後、自衛隊と警察が同じ机を囲んで会議をしていた。

 2名の小隊長がおり、鷹下と大山という。

 90年代のトレンディドラマにでも出ていそうな雰囲気を漂わせている男たちが、特殊部隊の装備に身を包んでいる姿は中々シュールである。

「改めまして、今回の逮捕を担当する、横浜港警察署の鷹下祐樹です」

「同じく、小隊長を務めます横浜港警察署の大山敏治です」

 その敬礼は他の警察官と比べても一際輝いているようにすら見えた。間違いなく、自分の仕事に誇りを持っている人物でなければこれほど美しい動作にはならないと思われる。

 警察官と自衛官はあまり仲が良くないと言われることも多いが、少なくとも、この場に居合わせた自衛官の多くがまっすぐな2名に惹かれていた。

「それでは、明日の昼にヘリ部隊を総動員して首都上空を飛び回らせます。もちろん、大音量の音楽と実弾も添えて」

 まるでサラダかなにかのようだが、自衛隊側は真剣である。聞き入る警察官側も十分真剣だが。

「そして、元老院議会の近くでヘリから懸垂下降で降りて突入してもらいます」

「了解。敵兵はどうします?」

「事前に自衛官に周囲の掃討をしてもらうので、それほど問題はないかと考えられますが、万が一の際は応戦をお願い致します」

 すると、鷹下がニヤリと笑った。

「大丈夫です。俺たちはあの金精会とやりあったことだってありますから。年代を考えれば、下手な小国の一部隊くらいは滅ぼせますよ」

 金精会とは、横浜を中心に首都の裏ネットワークを牛耳っていた暴力団の1つである。転移後、撲滅されたとは自衛隊側も聞いていた。

 それが彼らを中心にしていたかと思えば、確かに心強い。

 そしてそれが意味することは、発砲、銃殺の経験がある実戦経験者ということでもある。

 実際、金精会の鎮圧では警察官も多くの殉職者を出したと聞いた。

 その、ちょっとした紛争のような戦いを生き延びているとあれば、下手な自衛官よりも肝が据わっているのも納得である。

「どうか、ご無事で」

「えぇ。お任せを」

 鷹下のニヒルな笑いに、思わず同じように笑う自衛官たちであった。



 翌日、自衛官と特班は準備を終えてヘリコプターに搭乗していた。既に音響設備からは大音量の音楽が流れ始めていた。

 今度は気合が入っているのか、怪獣王のテーマ、更には16万8千光年の彼方へ旅をする宇宙戦艦の戦闘シーンの曲が流される予定である。

「今日はまたいつになく気合の入った曲リストだな」

「向こうさんに何かやらかすってバレませんかね?」

 杉田と阪口が不安を口にするが、小野が2人を安心させようと努めて明るく言った。

「大丈夫ですよ。怪獣王の雄たけびや、すっかりお馴染みになった魔王の呼び声も、ヘリからの攻撃と一緒に流されるそうですから」

「安心できる要素がこれっぽっちもねぇ!?」

 町から逃げ出してきた人から第六天魔王の声が最も恐ろしかったと聞いていた自衛隊はすっかり、『魔王の呼び声』と呼んでいた。

 余談だが、その逃げ出してきた者たちは元ネタとなった声優の出演作品を見て、恐怖も抱きつつ、特にVの字とメロンを愛するキャラクターを『面白い』、『なんだか可愛い』と思うようになったとか……

 閑話休題。

 しかし、実弾による攻撃もされるというのであれば大分違うだろうと思う。

「いずれにせよ、向こうも死に物狂いの抵抗をしてくるかもしれませんからね。ヘリさんたちには頑張ってもらわないと」

「ま、こっちは基本的に音響設備の警備だけどなぁ」

 杉田の嘆息に小野も苦笑いするしかない。

「安全な場所にいられると思えばいいじゃないですか。ヘリさんたちは銃弾が飛んでくるであろう場所に行くんですし」

「そりゃあな」

 杉田はヘリコプターが飛び去っていった空を見る。

「……頑張ってくださいな、ってか」



 そして、特班を乗せたヘリ部隊は町の中へと侵入した。

 大音量の音楽が町中に響き渡るが、町からは銃弾が飛んでこない。

 それを見た若本は笑った。

「よし、やはり1週間もの精神攻撃は士気を最低まで下げたようだな」

「まさか銃弾の1発も飛んでこないとは思いませんでしたが……」

 千葉の発言に若本は続ける。

「よし、このまま元老院議会へ向かうぞ。他のヘリは派手に威嚇してくれ」

「了解」

 『UH―2』は元老院議会へまっすぐに飛んでいく。一部の兵はヘリを見上げるが、まるで抵抗する様子がない。

 そして、20分足らずで議会の上に到着すると、2機の『UH―2』がドアガンを掃射、兵を一掃する。

 想像以上に抵抗がなかったため、懸垂下降から予定を変更してヘリ自体を着陸させて特班を降ろした。当然、その間も上空で警戒は続く。

「敵兵らしき姿、見えません‼」

「油断するな! 一気に突っ込むぞ‼」

 鷹下の指示を受け、特班が一気に内部へ突入する。



 一方、元老院議会はこの日もぐったりとした様子で全員が机に突っ伏していた。

「くそっ、いつまでこの状況が続くのだ……」

「もう1週間になるというのに……」

「おのれ日本国め……」

 議員たちもすっかり意気消沈してしまい、ただ日本に毒を吐くことしかできていない。

 オケイオンも、先ほど眺めていた窓の外に視線を向けるほどの気力も残っていないほどくたびれていた。

「はぁ、なんでもいい。早くこの状況を終わらせてはくれないだろうか……」



――パンッ、パンッ‼



「あぁ、今日も銃声が響く……」



――ドガンッ‼



 扉をけ破る音とともに、奇妙な服に身を包んだ者たちが議会に突入してきた。

「な、何ごとだっ‼」

 兵の1人が銃を向けようとするが、大山は跳躍してハイキックをかまし、倒れたところで素早く頭部を撃ち抜く。

 議員たちは突入してきた男たちによって、素早く銃を突きつけられて動きを封じられる。

 そして、威嚇もかねて入り口に陣取った鷹下が手に持った制圧用のM870ショットガンを発砲した。

「静かにするんだベイビー」

 中で警備をしていた兵の1人が、遅まきながら銃を向けて発砲しようとするが、大山が素早くサブマシンガンを抜いて兵を射殺した。

「制圧はセクシーに決めないと!」

 大山は会議の時とは異なり、ニヤリと笑いながら銃を構えている。その異様な姿に、議員たちも震え上がるしかない。

「我々は日本の警察だ」

「大人しく付いてきてもらわないと……命の保証はできないぜ」

「だ、誰が貴様らの言うことに従うと……」

 その時、大山が銃を議員の1人に突き付けながら鋭く吐き捨てた。

「関係ないね」

 2人の醸し出す独特の威圧感に負けた議員たちは真っ青になりながら頷くことしかできなかった。

「総員確保完了‼」

「よし、撤退だ‼」

 1人ずつ議員たちを引っ張ると、表へと連れだしていく。

 表には既に派遣されてきた輸送ヘリコプターの『CH―47JA』チヌークが待機しており、周囲では自衛隊員が警戒をしている。そんな中で特班は手際よく議員たちを乗せていった。



 その頃、隠れて生き延びていた兵士が打電室に入って、地下に隠れているであろう兵の生き残りの所に通信を送った。

 ルマエスト中央部地下にある臨時詰め所でもその通信を受け取っていた。

「元老院議会より打電! 『議会が日本軍らしき者たちの襲撃を受けた。なお、50名ほどの部隊であり、隊長らしき2名が存在。1人は踊るように机を飛び越え、もう1人は……』」

 通信員が言い淀んだので、上官は『どうした?続けよ』と促す。

「『静かにするんだベイビー』……だそうです」

「……ベイビーってなんだ?」

「さぁ……ただ、かなりの早さで元老院を制圧、議員たちは連れていかれてしまったようですね」

「なんという早さだ……本当ならば議員の方々を取り戻したい。だが……」

「はい。続きに『既に日本の垂直離着陸可能な飛行機械によって議員たちは連れていかれた』ともあります」

 この言葉に上官も顔を歪ませる。

「このところ上空を飛び回っていた、あの大きな奴か……帝国のモノとはずいぶん様式が異なるようだな」

 いずれにせよ、皇国の権力を一手に握っていた元老院が滅んでしまったのであれば、彼らにもできることはない。

「いずれにせよ、ここまでだな……日本国、とんでもない相手に我が国は喧嘩を売っていたらしい」

 陸軍の間では、海軍が何もできずにズタボロに負け、更に侵攻軍も惨敗を喫したことで既に日本に勝てると考える者はほとんどいなくなっていた。

「この国は……どうなってしまうのだろうか」

 残っていた者たちは、自分たちの祖国がなくなるかもしれないという現状に、思わず涙を流すのだった。



 一方、連行された議員たちは初めて乗るヘリコプターにギョッとしていた。

「な、なんという大きさだ……」

「帝国の戦闘用爆撃機ほどではないが……それでも十分大きい!」

 議員たちは初めて間近で見る日本の飛行機械に愕然としていた。

「垂直離着陸ができて、しかもこれ程の複雑な機構を備えている……非常に高い技術があるようだな」

 オケイオンが苦々しげな顔で呟く。

 議員たちは手錠をかけられたまま座らされると、落ち着かないように周囲を見渡す。

「出発します」

 ヘリコプターのローターが回転を始め、やがて高音に達すると機体がゆっくりと浮かび上がる。

「と、飛んだ!」

「本当に飛ぶのか……」

 議員たちは口々に驚きの言葉を放つ。いや、そうしなければ精神的に持たないのであろう。

 これから自分たちがどうなってしまうのか、考えるだけでも恐ろしい結末が待っているのだろうということは間違いないのだから……

 『CH―47JA』はそのまま、西部の簡易基地へと向かう。



――2027年 5月28日 日本国 東京都 首相官邸

 首相官邸では昨日、ニュートリーヌ皇国首都ルマエストにおいて開戦の原因となった軍を指揮する元老院議員を確保したことが明らかになり、緊急閣僚会議が開かれることになった。

 総理大臣が資料を見ながら国土交通大臣、防衛大臣の顔を見て発言する。

「それで、元老院議員と呼ばれる存在は無事確保できたのだね?」

「はい。特班が『議員は』1名も欠けること無く確保できたとのことです」

 つまり、その周囲にいた兵士はその限りではなかったということであろう。

「写真を確認できたのか?」

「はい。撮影した写真をカメリアさんやメーロ氏に確認してもらいました。いずれも本人に間違いないとのことです」

 続いて防衛大臣が立ち上がる。

「今後進攻した自衛隊の一部を皇国首都に配置し、派遣される警察官とともに治安維持にあたります。情勢がある程度鎮静化し次第、レーヴェ陛下に戻っていただくことにいたしましょう」

「外務省もそれで問題ありません」

 外務省からも人員を派遣し、レーヴェ及び周囲の人物を補佐する態勢を既に整えている。

 本来ならば戦後間もない地域に派遣することはあり得ないのだが、皇国が混乱していると、北方のイエティスク帝国が待ってましたとばかりに魔の手を伸ばしてくるに違いないとレーヴェ及びカメリアらから懇願されたのだ。

「なんにせよ、あまり余裕がないのも事実です。既に戦争状態にあったことで国民の不安意識はかなり高くなっております。やはり、軍事能力というものについてこれまで教育を怠ってきたことも一因にあるかと」

 日本は敗戦後『戦争に関わる存在は全て悪である』と言わんばかりの徹底した非軍事教養社会であった。

 自衛隊関係者や趣味でそういったことを研究している者はともかく、一般人に言わせれば『護衛艦? 戦艦と違うの?』であったり、『戦闘機? ゼロ戦のこと?』であったりするなど、未だに認識が低い部分がある。

 それもあって、今回戦争状態になったニュートリーヌ皇国が日本より遥かに弱小な存在であるにもかかわらず、一部の国民がパニックとヒステリーを起こしたという問題があったのだ。

 もっとも、政府が慌てて防衛省に相手国の能力と日本との差について説明をさせたことによってすぐに鎮静化したが。

 公安の調査の結果、一部の過激派が起こしたテロのような事案であったことがのちに明らかになった。

「国内の不安を早期に取り除くために、皇国との戦争が終結したことを報道しなければならない」

「幸い、レーヴェ陛下が若年ながら謙虚で知的な人物であることが国民に周知されたお陰で、陛下が平和主義の名のもとに国を立て直すことには国民も概ね賛成してくれましたからね」

 レーヴェが眉目秀麗な美男子であることも相まって、今や反柔感情は高けれども、レーヴェ陛下は愛すべし、というような風潮が国民の間に広まりつつある。

 しかも、彼を献身的に支えるカメリアのことも大きく取り上げられていた。大流行した某フレンズを大人びさせたような容姿という愛らしさでありながなら、言うべきことはハッキリ言い、レーヴェ及び祖国のためにと奮闘している姿が、日本国民に眩しく映ったのである。

 ちなみに、一部の好事家の間ではレーヴェとカメリアがデキているのではないかと勘繰る者もいる。

 実際、メーロは優秀なカメリアをレーヴェの伴侶とすることで彼を支える柱石になってほしいと考えていた。

 カメリアも最初は『陛下のお相手が私のような嫁き遅れでは……』と固辞していたが、メーロ及び一部の側近から『将来の皇国のためになる』とも言われ、レーヴェと身を固める決心をした。

 レーヴェもまた、年上で気の強く、しかし頭の良いカメリアのことを本国にいたころからメーロに聞かされていたらしく、彼なりに思う所はあったらしい。

 それもあって、ちょっとした『お姉ちゃんと弟』みたいなカップルとして有名になりつつあった。

「皇国そのものはこれでなんとかなるでしょう。あとは……戦後処理に関してだな。幸い陛下やメーロ氏との交渉はほとんどまとまっているから各国との打ち合わせも含めて、ですね」

 経産相の言う通り、ニュートリーヌ皇国がフランシェスカ共和国にも攻撃を仕掛けていたことも含めて様々な処理が必要になる。

 それを考えて、日本にいる間に既に彼らにできる交渉は行なっていたのだ。

 とはいえ、それでも終戦してから細かい打ち合わせも必要なので、レーヴェたちが帰国した後に改めて使節団も含めて派遣することが必要になる。

「ちなみにですが、皇国に自衛隊を駐留させるのはやはり必要ですか?」

 文科相の一言に、防衛相が頷く。

「そうですね。イエティスク帝国という覇権主義の国家が攻めてくる可能性を考慮すると、やはりまとまった部隊を派遣するべきかと思います」

 だが、実際のところ自衛隊が規模を拡大しつつあるとは言っても一朝一夕に、それも大幅に増えるわけでもない。

 そんな中で第二次世界大戦かその直後程度の能力を持っていると考えられる国家が介入してきた場合、国土防衛のための戦力まで投入しなければならなくなってしまう。

 それは日本としても望むところではないが、イエティスク帝国はどこの国とも正式な国交を持ち合わせていない、というか国交を持つという概念すら存在しないようで、多くの者たちが『謎に満ちている』と述べるほどである。

 ただし、シンドヴァン共同体による一部の情報によれば東の方、旧世界でいう所のウラジオストックあたりを制圧したばかりでもあるらしく、今はあまり身動きが取れないとも言われている。

 だが、油断して皇国が攻め取られるようなことにでもなれば、続くフランシェスカ共和国やスペルニーノ・イタリシア連合も危うい。

 いや、その勢いに乗じてグランドラゴ王国にまで手を伸ばしてくるかもしれないとさえ考えられる。

 どうやらロシアという国は新世界になってもロシアであるようだ。

 防衛相は頭を抱えながらも絞り出すように言った。

「……なんとか、部隊を捻出しましょう。ただ、ある程度は皇国自体にも自己防衛能力を持っていただかないといけません。そのための教導は必要ですね」

「とはいえ、あまりにも力を持たせると危険なのでは?」

「いや、彼らはそもそもイエティスク帝国の迫害にあって攻撃的になったという。こちらがきちんと教導し、戦い方も含めて教えてやればまともになると信じたい」

 総理大臣の言葉に、他の閣僚たちも頷いた。

 こうして、ニュートリーヌ皇国の『最期』が決定したのだった。


今回はとある刑事ドラマのネタをモリモリに盛り込んでいます。

実はタイトルもそれを意識していたり……これ、同年代で分かる人いるかな?

次回は7月上旬に投稿する予定です。

前へ次へ目次  更新