アテニア湾攻撃の顛末
毎度おなじみ笠三でございます。
今月1話目の投稿ですが、今月も3話投稿させていただきます。
新型コロナウイルスによる自粛ムードが続く中で、少しでもお楽しみいただけるネタになれば、と……
――海戦から2時間後 ニュートリーヌ皇国 港湾都市アテニア
海上自衛隊第1護衛隊群は、無防備になった港湾都市アテニア沖合7kmに接近していた。台場の砲台からは完全に射程圏外となっている。
彼らの最後の役目は、港湾都市沿岸部に存在する軍事施設と、同じく工業施設を叩き潰すことにある。
軍事施設に対しては護衛艦の艦砲射撃を行う予定である。
これらの施設配置については既に観測衛星と防衛省の入念な研究のお陰で明らかとなっている。
護衛艦『いずも』から、弾着観測のために対潜哨戒ヘリコプター『SH―60K』が飛び立ち、港湾部の上空へと到達する。
港湾部に集結している兵士の中には小銃を発砲してくる者がいるが、ヘリコプターには到底当たらない。
『こちら〈SH―60K〉〈いずも〉機より護衛艦隊へ。所定の位置に付いた。攻撃を開始されたし』
『こちら〈いずも〉、了解。各艦に通達。攻撃を開始せよ』
護衛艦は『いずも』と『あかぎ』を除いて主砲を港湾部に向ける。
「主砲、撃ちぃ方始めぇ!」
「撃ちぃ方始めぇ!」
護衛隊群の76mm砲と、127mm砲が連続して発射される。
――ダンッ! ダンッ! ダンッ!
――ダンッダンッダンッダンッダンッ‼
着弾した場所はすさまじい爆炎に包まれていく。桟橋は焼け落ち、工場を含めた建造物は砲弾であっという間に崩れ落ちていく。
今回はGPS誘導砲弾がまだ試験段階からそれほど進捗していないこともあって、使用されていない。
だが、それでもニュートリーヌ皇国の常識からすると有り得ないほどの連射力と命中率を叩きだす能力を持つ。そんな護衛艦から次々と放たれる砲弾は、瞬く間に港湾部を火の海へと変える。
加えて30km以上の内陸に存在する要攻撃施設には、護衛艦及び『あかぎ』から飛び立った『SH―60K』がスタブウイングに対潜爆弾と、対艦ミサイル『ヘルファイア』を搭載して攻撃することになっている。
本当は陸上自衛隊の攻撃ヘリコプターを使用したかったのだが、残念なことに多くのヘリコプターはこの後の対地戦闘に必要であったことと、『F―3B』を載せたことで護衛艦『いずも』にそれを輸送する余裕がなかったこともあって、致し方なく対潜哨戒ヘリコプターによる対地攻撃を行うことになったのだ。
それでも、元々動き回る潜水艦や艦艇を攻撃することを想定している彼らからすれば、動かない建造物など、ただの的である。
更にダメ押しと言わんばかりに『いずも』からは『F―3B』が発艦し、少し内陸部にある陸軍港湾部防衛司令部に『JDAM』を次々と投下した。
彼らの上空では『F―3C』戦闘機が、更に500km西の空域では『E―767早期警戒管制機』が飛び回っており、上空の監視を怠らない。
上空への攻撃手段と言えば銃(明治時代レベルの銃器)を上空に向けて撃つことしかできない皇国軍では、はっきり言って手も足も出なかった。
「そんな……そんな……」
救助されたニュートリーヌ皇国海軍海防艦隊旗艦『プリメラ』の艦長だったコリュドスは、『いずも』の艦内で港湾都市アテニア攻撃の報告を受けて、膝から崩れ落ちていた。
「アテニアが……私の故郷が……」
傍らでは女性の海上自衛官が立っている。彼女は険しい表情で一言告げた。
「私たちの仲間も、同じように無念のまま亡くなりました。分かりますか?」
コリュドスの胸にその言葉はさらに深く突き刺さった。
「うぅ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん……」
女性自衛官は何も言わず、厳しい表情を崩さない。だが、その目尻をよく見れば、涙が浮かんでいることに気付く。
たとえ敵であろうとも、日本人を殺した仇であろうとも、報復されれば流れる涙は同じなのだ。そう思えば、日本人として自然と涙は流れるのである。
悪夢のような猛攻は続く。
港湾都市アテニアの防衛司令官であったシルーロスはなんとか爆撃から逃れていたが、そのあまりにも一方的な攻撃に、何もできない自分を悔しく思っていた。
「日本国……これほどの実力差があったというのかっ‼」
彼は今、小さなボートの上にわずかな部下とともにいる。
「司令官、どうされるのですか?」
「……このままでは私も、君たちもタダでは済まないだろう。あの沖合に見える大型軍艦、あれに向けて航行する。武器の類は誰も持っていないな? 持っているなら今のうちに捨てておけ」
「ま、まさか!」
「そうだ。生き残った君たちの命を、私は救う責任がある。私の首を差し出すことで、敵艦に降伏する」
部下たちは一瞬思い留まらせようとした。『誇りある皇国兵として戦うべきでは』と。しかし、軍部では常にこう言われている。
『何があっても無駄死にだけはするな。何があっても生き延び、生きて雪辱を晴らすことこそが大事である』
『死ぬは容易い。しかし、恥も外聞も捨てて生き延びることは殊の外難しい。困難であればこそ、それに向かって突き進め。さすれば未来に道は開かれる』
ニュートリーヌ皇国では自殺が最も重い『罪』であると軍に入隊した直後に教えられている。
彼らは元々イエティスク帝国の迫害から逃れてきた民族であるが故、『簡単な死』をとても嫌悪している。
故に、皇国は恥を忍んでも、捕虜となってでも生き延びて時期を窺うという感覚が根付いていた。
「司令官……」
「このシルーロス、皇国の大事な『財産』を守るためならば、命もいらぬ! 諸君らをなんとしてでも守ってみせる!」
港湾防衛司令部の一同は、涙を流しながらも自分たちのために命をかけようとしてくれている司令官に敬礼するのだった。
一方、イージス艦『こんごう』の監視員もその小舟を捉えていた。
「艦長、これをどう思われますか?」
艦長の遠山は報告を受けて考える。これがイージス艦の天敵である小型船による自爆特攻などであったら、甚大な被害を受けることは間違いない。
「皇国の船舶の速度を考えればそれ程速度が出るわけではないだろうから、もっと接近してからでも問題はないと思うが……戦場に絶対はない。ブローニングを用意させろ‼」
護衛艦を始めとする現代の軍艦には、レーダーに映らないような小型の不審船が自爆特攻をかけようとしてくる場合に備えて『M2ブローニング』12.7mm重機関銃が備わっている。
監視員にして重機関銃射撃手の毛利は、照星を覗き込んで接近してくる小舟を見つめていた。
「まだ射程には入っていない。向こうは大分鈍足なようだな」
傍らに立って双眼鏡で監視を続ける吉川も頷く。
「何がしたいんでしょうね? まさか、降伏する気でしょうか?」
「随分と攻撃的な連中だっていうし……そんなことするかぁ?」
だが、船はそのまま近づいてくる。見れば、銃はおろか剣すら持っている様子はない。
すると、CICから指示が追加される。
『監視員へ、敵は降伏旗を掲げているだろうか? 繰り返す、降伏旗を掲げているだろうか?』
ハッとした吉川が船をよく見てみると、そこには真っ青な旗が掲げられていた。
「こちら監視員吉川よりCIC。小舟は『青い旗』を掲げている! 繰り返す、小舟は『青い旗』を掲げている!」
艦長の遠山は、外務省から事前に通達されていたことを思い出した。
『グランドラゴ王国やフランシェスカ共和国もそうですが、この世界の国の共通項に、〈降伏する際は青い旗を掲げる〉という習慣があるようです。なんでも、〈青き海に誓う〉という意味があるのだとか』
「攻撃するな! 彼らは降伏しに来たのだ‼」
指示が通達され、監視は怠らないものの全員が警戒の度合いを一段階下げる。
徐々に船は近づくが、その速度は現代の船舶を見慣れている者たちからすると遅々として進まないでいるように見える。
「イライラするな……」
「仕方ないだろう」
そして、20分以上してようやく500mを切るまでに接近していた。
向こうは何かを叫んでいるようだが、あいにくこちらも艦砲射撃の轟音が響きっぱなしなので全然聞こえない。
そして、100mを切ったところで、相手船の乗組員が更に青い旗をブンブンと降り始めた。
「旗を振っています! やはり戦意はない模様!」
艦橋はもちろん、他の艦内にも少しほっと溜息が広がる。
「よし、警備隊を含めて一部乗員は彼らと接触してくれ」
「了解」
こうして、シルーロス以下7名のニュートリーヌ皇国軍人は日本国海上自衛隊に降伏した。
この日、ニュートリーヌ皇国南部に存在する港湾都市アテニアの軍事及び工業関連施設は、日本国海上自衛隊第1護衛隊群の攻撃を受けて、壊滅の憂き目を見ることになるのだった。
その夜、ニュートリーヌ皇国の首都ルマエストにおける元老院議会において、今回の攻撃についての会議が行われていた。
「いったいどうなっている! 何故帝国の属国如きの攻撃で港湾設備が壊滅にまで追い込まれているのだ‼」
「そうだそうだ! 空と海からあれほどの攻撃を投射できる存在など、今まで聞いたこともない!」
「軍部は何をしている! 情報はないのか!」
当然のことながら議会は紛糾しており、議長のオケイオンもいつになく緊張した面持ちであった。
「少なくとも、日本国には我が国に打撃を与えられるだけの、相応の軍事力があるようだな……まさか、フィンウェデン海王国よりも高い能力を有しているのか? くそっ、こんなことならばもっと詳しく調べさせるべきだった」
議員たちは不安に駆られてさらに想像を膨らませる。
「このままでは、日本国はこのルマエストへ攻め込んでくるのでは?」
「フランシェスカ共和国を攻略させるための陸軍も危ういかもしれない」
「いや、日本は大陸を掌握しようとしている最中だという。ならばそれほど軍備は割けないのではないのか? 今回の被害も、奇襲攻撃が最大の要因だというぞ」
「いや、そう思って油断した結果が……」
とにかくこの状態から抜け出せていないのだ。オケイオンもどうしたらいいのかまるで対策が思いつかない。
何せ、南部主力艦隊はほとんど報告を上げる暇もなく全滅し、海軍本部は敵艦隊の艦砲射撃で滅ぼされ、陸軍港湾防衛部隊の基地は機体の上部に回転する羽のついた飛行機械の攻撃と、この世のモノとは思えない轟音を上げながら飛翔する漆黒の鳥のような機械の攻撃で灰燼に帰したという。
だが、今回の港湾攻撃が皇国におけるこれまでの価値観からすると、あまりに迅速な攻撃だったこともあって目撃情報などが少なく、どのような攻撃がなされたのかよくわからないのである。
その中で、オケイオンは1つ懸念があった。
「もしも、今回使用されたような圧倒的な力で日本国がこの首都まで攻めてくるようなことになった場合、陛下はどうなる?」
「ムムム……実務上はいなくてもそれほど問題はないが……仮に陛下に何かがあった場合、国民の批判にさらされる」
元老院はレーヴェ・ニュートリーヌの威を借りることでこれまで好き放題をしてきたわけだが、その力の象徴である皇帝に何かあった場合、国民の攻撃意志が自分たちに向かう可能性があった。
すると、議事堂の隅に座っていた若手議員のカメリアがここぞとばかりに手を挙げる。
「幸いなことに、間もなく陛下の外遊が予定として組まれています。危機を逃れるという意味でも、シンドヴァン共同体で皇帝一家が所有している別荘に避難されてはいかがでしょうか? 国民にも『万が一を考えて』と言えばある程度説明はつくはずです」
カメリアはこの元老院の面々の中では若手であることもあって普段はそれほど発言をするタイプではない。だが、彼女の発言は危機に陥って頭の回転がおぼつかなくなっていた議員たちにとっては天の助けにも思えた。
「そうか……シンドヴァン共同体ならば『あの国』を除けば軍隊も手を出すことはできない‼」
「陛下が安全圏に移ったと国民に説明することで、国民の戦争への意欲も高められるな。いいかもしれない」
オケイオンも『一理ある』と脳裏に図を描いていた。
「しかし、だとすると陛下を『護衛』する役目が必要だ。誰が行く?」
実質上は不穏な動きをしないかという監視である。
そこでカメリアが再び声を上げた。
「言いだしっぺですので、私が行こうかと思います。幸い私の領地はそれほど大きくありませんし代官がしっかりまとめてくれています。私がしばらく離れたところで問題はないでしょう」
カメリアは先述の通りまだ若手ということもあって、元老院内部での発言力も高くはない。彼女が自らルマエストを離れてくれるというのであれば、一石二鳥とも言える。
「では……陛下護衛の任、やってくれるか?」
「はい。お任せください」
カメリアは頭を下げながら内心『ニヤリ』と笑っていた。彼女の思う通りに、事が動き始めたからである。
――西暦1741年 3月12日 ニュートリーヌ皇国 首都ルマエスト 大聖堂
大聖堂の奥の部屋に座っている皇帝レーヴェ・ニュートリーヌは、執事のメーロからある本を渡されていた。
「爺よ、この本は?」
「ははっ。シンドヴァン共同体から行商に来た商人が持っておりました、日本国の兵器比較の雑誌だとのことです。シンドヴァンの言語で書かれております故、陛下ならば読めるかと思い持ってまいりました」
レーヴェは、『雑誌』という庶民向けの書籍にしてはあまりに洗練された誌面と、色付きの紙、そして何よりも膨大な情報量に目を白黒させた。
雑誌には『別冊宝諸島 日本国と明らかになっている新世界軍事情報 比較するとこうなる!』というタイトルがデカデカと書かれていた。
「どれどれ……」
まず出てきたのは、日本国とこの世界の軍隊との間には大きな差があるという条文から始まっていた。
その中で、グランドラゴ王国の『戦艦』やスペルニーノ・イタリシア連合王国の『鳥母』のこと、更にアヌビシャス神王国や自分たちニュートリーヌ皇国のこともはっきりと出ていた。
「我が国と日本国の装備を比較すると……何!?」
まずは今回、真っ先に衝突した海軍の装備についてであった。
日本国の『配備中』の兵器の枠に書いてある兵器を見てレーヴェは戦慄する。
「『ASM―1C』……『空対艦誘導弾』だと?」
「はっ。なんでも、150kmという長射程を誇り、我が国の軍艦はもちろんのこと、グランドラゴ王国の戦艦でも一撃で大破、当たり所によっては撃沈できるという代物です」
「150km……そんな距離では目視できないではないか。どうやって狙いを定めるのだ?」
「以前拿捕した船舶にも搭載されていた電探……日本国では『レーダー』というそうですが、それを用いて電子的な手段で狙いを定めるのだと推測できます。恐らく、日本はかなり高度な電子技術を持っているのでしょう」
メーロの推測は概ね正しかった。現代の誘導弾はレーダーによって捕捉した目標に対して発射することが主である。
だが、対艦誘導弾は終末誘導にチャフやフレアに対抗するために赤外線画像誘導方式を取っている。
「このような兵器を食らっては、我が国の軍艦など雑魚同然ではないか」
「はい。ただ、それ故に高価なのでしょう。日本国は鋼鉄軍艦『のみ』を狙い撃ち、残りの機甲戦列艦と港湾設備は艦砲射撃で滅ぼしています」
当然のことながら誘導弾と比較してしまえば砲弾のほうがはるかに安価である。敵に空母打撃群のような存在がいたならば、それに対して優先的に使用していた可能性はあっただろう。
だが、今回日本は衛星による調査、研究によって空母打撃群及び航空戦力が存在しないことが明らかになっていたため、一応護衛のための『あかぎ』型航空護衛艦は派遣していたが、戦闘機の半分以上の装備は爆装であった。
もちろん上空では『E―767早期警戒管制機』も飛行して逐一監視をしていたので、戦略上でも問題はなかった。
そんな相手事情も考慮して、日本は海岸付近まで近づいて艦砲射撃を行い、ヘリコプターまで用いて港湾設備を叩いたのである。
実際、皇国が採用している沿岸砲台の射程や威力、軍艦の航行能力や装甲の厚みまでもがよく描かれており、詳細な数値は違えどもほとんど正しい。はっきり言って誤差の範疇で済ませられる。
さらに、レーヴェを驚かせる項目があった。
「!……爺、こ、これは!」
「はい。どう見ても『戦車』でしょう」
陸上兵器の項目を見たレーヴェの目に飛び込んできたのは『10式戦車』という、重厚そうな見た目の装甲車両だった。
だが……
「重量40t……イエティスク帝国の戦車に比べると軽いな?」
メーロは首を横に振る。
「いえ、驚くべきはそこではありません。問題は主砲の口径です」
「……120mm砲!? 日本の戦車砲は120mmもあるというのか!?」
皇国で採用されている戦車の主砲が57mmであることを考えると、10式戦車の主砲の口径は2倍以上である。以前メーロが潜り込ませていた諜報員も『日本が100mm以上の大口径戦車砲を実用化している』という情報を持ち帰っていたのだが、その当時は情報の確実性が薄かったのでレーヴェに報告していなかったのだ。
「そして、何より重要視するべきは……『イエティスク帝国の戦車より軽量』でありながら、『帝国戦車よりも大口径砲を装備している』という点でしょう」
イエティスク帝国は戦車を重量化、巨大化することによって大口径砲を搭載しているが、日本の戦車は帝国の主力戦車である『チーグルⅠ』重戦車よりも軽量であるにもかかわらず、帝国戦車の主砲である88mm砲よりも1.5倍近い大きさの砲を搭載している。
砲の威力は口径の三乗に比例するため、単純な砲撃の威力という点でも雲泥の差がある。
その差を計算できた瞬間、レーヴェは顔を真っ青にした。
「我が国の戦車は、かなりの遠距離から、為す術なく撃破されるのであろうな」
「はい。日本国の戦車は回転砲塔を採用しているうえに、長砲身です。想定ですが……1km以上先の相手を狙い撃つことも可能なのかもしれません。先程の誘導弾など同様の電子技術を応用すれば、それも不可能ではないと愚考いたします」
先程の誘導弾及び電探に高度な電子技術が使用されていることを考えれば、それを用いた自動照準射撃などもあると考えるべきだとメーロは予測していた。
実際日本を始めとする地球先進諸国ではFCSこと射撃管制装置と砲安定装置によって高度に安定した砲撃を放つことが戦車でも軍艦でも可能になっている。
「また、日本国は航空機に関しても非常に発達しているようです。こちらをご覧ください」
そこには『航空自衛隊装備』を書かれた項目がある。
「『F―2』戦闘機、『F―3』戦闘機? なんだこの形状は! こ、こんな形状で飛ぶというのか?」
航空兵器にも多数の誘導弾の名前が書かれている。日本では誘導弾を用いるアウトレンジ戦法が主体であることは、この雑誌を見れば明白であった。
「対艦誘導弾を4発も搭載しながら800km以上を飛行する……だと?」
「日本国ではイエティスク帝国同様に空気圧縮放射動力機を備えた航空機が一般的なようです。帝国の属国であるフィンウェデン海王国が採用しているようなプロペラを回転させる航空機もあるようですが……それは戦闘用ではないようです」
そこには『E―2D』や『E-767』早期警戒管制機など、空を飛ぶ電探装置ともいうべき航空機が載っていた。
「また、日本は転移前、周囲を海に囲まれた島国であったことから、海軍が運用する哨戒機は不審船への対処能力も求められているようです。その結果、最大8発の対艦誘導弾を搭載することが可能なようです。しかも、大型なので航続距離も長いとのこと。今回の港湾攻撃に使用している可能性があります」
ちなみに、『空気圧縮放射動力機』とは、要するに現代のターボファンエンジンのことである。バイパスを介して圧縮した空気を燃焼するこの機構を、イエティスク帝国ではそう呼んでいる。
そして他国においても、『帝国が実現している超技術の一端』として名前とどういう存在かという点だけは知れ渡っていた。
その他の装備に関しても、皇国や周辺諸国とは隔絶した性能の物ばかりが掲載されている。
「歩兵の装備、運用思想なども非常に成熟しているようです。我が国では、全く相手にならないでしょう」
小銃や手榴弾、更には迫撃砲など、歩兵の装備からしてこの世界の兵器からすると異常な性能を誇る。
その想像を超えるほどの超兵器の数々が本当ならば、確かに皇国では手も足も出ないだろうと考えられる。
「元老院及び軍部では軍の立て直しを図るようですが……日本国は恐らく、我が国の海軍力を全滅させたのちに陸軍戦力も潰すつもりでしょう」
「では……」
「はい。元老院の協力者であるカメリア殿が陛下をシンドヴァンへ避難させるように提言しております。元老院もいきなりこれほどに甚大な被害がもたらされるとは思っていなかったでしょうから、かなり慌てているはずです。そこに付け込もう、ということです」
既にメーロは配下の者に銘じて皇帝の旅行の支度をさせている。
「陛下、もうしばらくの辛抱です。因業なる元老院の魔の手から皇国を取り戻し、新たな御世を迎えられましょう」
メーロの言葉を受け、レーヴェの周囲も慌ただしく動き始める。
遂にレーヴェ皇帝に日本の実力が知れました。
次回は4月12日に投稿しようと考えております。