各国の課題、時々グルメ
どうも皆さん。今月3話目の投稿となりました。
まずお詫び申し上げます。
前回『来年に』と言いましたね……あれは嘘になりました。
来年に投稿しようと思った分を推敲していたら、『あれ?これだとこの1話投稿した方がキリがいいかも』という展開だったので、これは投稿しようと思いいたりました。
ファンの皆様に置きましては、混乱した方もいらっしゃると思いますので、ここに謝罪します。
しかし、反省はしません。今後もこういうことはままあると思いますので……
――西暦1739年 7月15日 グランドラゴ王国 港湾都市エルカラ
この日、グランドラゴ王国の港には新鋭艦が到着することになっていた。
『それ』は日本国が戦艦の建造技術を取り戻すために建造し、王国に輸出してくれた物であった。
日本に接触するまでは防護巡洋艦の艦長にすぎなかったダイルスは、日本で教育を受けたため、今回配備される新鋭艦の艦長に就任することが決定していた。
「なんとも壮観な眺めだな」
ダイルスは副艦長に就任することが決まったドワーフの男、パイソンに語り掛ける。
「本当ですね。この船ならば、イエティスク帝国の主力艦隊とも渡り合えますよ」
「日本から諸技術を輸出してもらったおかげで、対空迎撃能力も以前とは雲泥の差だからな」
「名前は我々の方で付けていいと言われていましたよね」
グランドラゴ王国では、船の名前は宝石や鉱石の名前からとっている。
そんな彼らは知っていた。日本国の出現によって、いずれ戦艦による砲撃戦の時代は終わる。
いや、情報によれば軍事力を年々高めているイエティスク帝国は『航空母艦』と呼ばれる艦船を建造しているため、航空機を洋上で運用し、戦艦ですら大打撃を与えることができる装備を整えているに違いない。
すなわち、この船……日本国の呼び方曰く『超弩級戦艦』は、最後の戦艦となるであろうことを。
故に、こう名付けられた。
「『ダイヤモンド級戦艦』。その一番艦である、『ダイヤモンド』。我が国最後にして最強の戦艦、遂に始動だな」
「はい」
ダイヤモンド級戦艦『ダイヤモンド』
全長263m
全幅39m
吃水10.6m
基準排水量69000t
主機 三井16V42M―Aディーゼルエンジン(13000馬力) 6基(巡航用・『とわだ』型補給艦や『おおすみ』型輸送艦と同じ機関)
IHI LM 2500ガスタービンエンジン(25000馬力・『あたご』と同じ機関) 4基
合計約178000馬力
最大速力30ノット(公式発表)
武装
主砲 45口径41cm三連装砲 9門3基
副砲 52口径155mm三連装砲 6門2基
対空砲 20mm多銃身機関砲(JM61 Mk.2) 16門
日本が『やまと』型護衛艦を建造する前に超弩級戦艦の建造技術を復習するべく建造し、グランドラゴ王国へと輸出した。
日本の戦艦『大和』に酷似した外見をしているが、大和型と異なり41cm砲を搭載している。大きな違いは各所に装備された20mm多銃身機関砲(海上保安庁で採用されている自動型)で、これで対空戦闘を行う。
日本の基準からすると大幅に時代遅れな対水上・対空レーダーと射撃管制システム(具体的には、水上戦闘システムは日本で既に退役した『たちかぜ型護衛艦』と同等レベル)を搭載しているが、砲弾の命中率はこの世界の基準からすると異常なまでに高い。
対空目標への対処能力も高く、海上保安庁で採用されている20mm多銃身機関砲を自衛隊の射撃管制システムと連動させることによって、同時に10の目標に向かって機関砲による射撃を行うことができる。
ただし、誘導弾は搭載されていない。
この船はブラックボックス化することで現代艦と同じ主機関を装備していることから、速力も30ノットまで出すことが可能である。
また、重武装・装甲化されていることで重量によって速度に問題があると当初は考えられていたが、艦上構造物の簡素化や複合装甲を応用して軽量化を図っている。
当然、建造当初は大和の蒸気タービンエンジンを再現しようかという話になった(もっとも割と最近まで日本は『しらね』型護衛艦で蒸気タービンエンジンの運用は覚えていた)のだが、『さすがにそこまで時代遅れな物は作っても仕方ない』という意見が多く出た(航空機のレシプロエンジンは温故知新、航空機技術復活の意味合いもあって民間に許可されていたが)こともあって、十分なパワーを有しているディーゼルエンジンとガスタービンエンジンの複合を用いることになった。
加速性能と航続距離こそ現代護衛艦には劣るが、最高速度まで加速できれば、その機動力は戦艦とは思えないほどの物と日本は想定している。
主砲の日本製鋼所製41cm三連装砲は日本の現代技術で完全自動装填が実現している。このため、かつての大和型に比べるとはるかに人員の省力化にもつながっているのであった。
ダイルス以下、王国海軍で選抜された者たちはこの船をスムーズに動かして、相手を撃破できることを見せなければならない。
彼らは王国の未来を創るため、これまでよりも高度な『力』を使いこなせなければならないのだ。
ちなみに今後は日本から建造技術(ブロック工法と複合素材)と設備(主砲の製造法及び電子技術)がもたらされるので2番艦までが建造される予定となっている。
命名法則的にはダイヤモンド以上が現実の鉱物では存在しないため、姉妹艦の名前をどうしようという話になるのだった。
それより上位と言われるヒヒイロカネやミスリルといった架空鉱物の名前は、いずれ建造することになるであろう航空母艦のために取っておくつもりであった。
「これから我が海軍は更に強くなる。いずれはイエティスク帝国をも追い越し、日本に並ぶほどの存在になるために」
グランドラゴ王国は日本国からジェット戦闘機の存在や各種誘導弾、そして航空母艦の存在を聞いており、将来的にはこれらを自国で開発できるだけの能力を有するために、国交締結直後から研究を開始していた。
特に空母に関しては、この『ダイヤモンド』級戦艦の船体を改良して製造するつもりである。
そこ、何その『信濃』モドキとか言わない。『赤城』も『加賀』も、元は戦艦だったんですよ。
とはいえ、そのためにまずは日本の電子部品を研究する必要があったため、秋葉原に多くのグランドラゴ人が訪れたのは別の話。
「はい。この『ダイヤモンド』はその第一歩です。砲撃戦の『終わり』を告げて、新時代の『始まり』を告げる船と思うと、物寂しい気もしますが」
パイソンは言葉通り、少し寂しそうであった。
やはり、今まで自分たちが築き上げてきた物がいきなり現れた存在にあっさり意味のない物として扱われてしまったことは、彼のみならず王国海軍の中でも静かな不満となっていた。
いや、不満とは言えない。それが正しい道だと皆理解はしている。ただ、本当に『寂しい』のだ。
「我々ももっと先へ進まないといけませんね」
「そうだ。遠い未来……我らは日本と並び立つのだ」
ダイルスもパイソンも目に強い光を宿しながら、遠い王国の新たな未来を夢想するのだった。
――西暦1739年7月16日 グランドラゴ王国 首都ビグドン 陸軍飛行実験場
ここはグランドラゴ王国が日本と国交を結んでから初めて設置した、飛行機械専用の飛行場であった。
日本の技術で非常に強固な作りとなっているこの飛行場は、いずれ大型の航空機(この場合は輸送機など)も離発着できるよう設計されている。
そして、これまでグランドラゴ王国で航空戦力であったワイバーンを駆る竜騎士団に所属していた者たちは、この1年ほどの間に日本へ留学、基本的な航空機の操縦方法などを『T―5』初等練習機で勉強していた。
そしてこの日、ついに日本から輸出された戦闘用の飛行機械がお披露目を迎えたのだ。
飛行場に立っている竜騎士長のグリンが声を上げる。
「よし、布を取り払え」
合図を受けた隊員がかけられていた布を取り払った。
「お、おぉ!」
「これが、我が国の新たな翼、か」
そこには、頑丈そうな低翼の単葉機が鎮座していた。
グランドラゴ王国と国交を結んだ日本は当初、技術支援を行うことで王国の航空機開発を支援しようとした。
しかし、国交を結んだ全ての国から名前を聞き、存在が窺い知れる最強の国『イエティスク帝国』の話を聞いた日本国は、第二次世界大戦レベルと冷戦の間レベルの能力を持つと推察されているその国に対して、グランドラゴ王国を防衛のための防波堤とすることを決定していた。
そのため、国内で製造されているターボプロップエンジン系練習機のライセンス生産を許可すると同時に、民間でショーのために競うように製造されていた第二次世界大戦レベルの航空機の量産、輸出を決定したのだ。
民間の再現によって完成したのは、『紫電改』の派生型、『試製紫電改二』であった。
これを選んだ理由としては、零式艦上戦闘機などの著名な艦上戦闘機以上に第二次世界大戦レベル~初期のジェット戦闘機相手ならば十分優勢が取れそうであること、日本に敵対したとしてもそれほど問題ないことはもちろんだが、一部は艦上機運用を想定して着艦フックなどが搭載されていたケースも存在したため、王国が空母を配備することを検討する場合にも対応できるからという意味合いが強い。
搭載する主兵装は日本と共同した王国側で研究が進められ、強力だが安定した20mm機関銃を搭載する予定となっている。
また、技術流出を懸念する面からの声もあり、スーパーチャージャーの搭載は認められたものの、それだけは日本で製造されることになるのだった。
誘導弾こそ搭載されないものの、魚雷や爆弾なども搭載可能となっている。
何より日本の改良によって、セスナレベルではあるが簡易的な航空機用レーダーも使われている。
王国ではこれを『ファルコン型戦闘機』として運用する予定である。
「ちなみに、日本にはこれとは違う形状で『ファルコン』の名を持つ戦闘機が存在したらしいですよ」
眺めていた竜騎士の言葉に、隊長が日本の本をめくる。
「えぇと……あぁ、これだな。一式戦闘機『隼』。日本で隼というのは我が国のファルコンと同じ意味らしいからな。なるほど、確かに名前は同じだ」
一式戦闘機『隼』。大日本帝国陸軍で運用されていた地上配備型の戦闘機であり、開戦から終戦まで運用され続けた、優秀な(評価は人によって『かなり』分かれるらしいが)戦闘機であった。
「これが我が国の新たな歴史を刻む存在となる。皆、1日も早くこの機体を己の手足の如く動かせるように修練するのだぞ」
「「ははっ!」」
……大変余談だが、グランドラゴ王国で竜騎士になる竜人族は平均的な日本人よりも背が高くて足が長かったこともあり、導入当初はそのコクピットの思わぬ狭さに四苦八苦したという。
――西暦2025年6月25日 日本国 陸上自衛隊某駐屯地
「……そうか。やはり辞めるのか」
机に座る男は重々しく頷いた。
「はい。やっぱり……付いていけなくて」
「いや、仕方ないさ。お前はまだ若い。まだまだ就職先はあるだろう。もしもやり直したくなったらまた来い。どうせあと数十年……いや、自衛隊はいつまでも人数不足だ。制限年齢までは歓迎するぞ」
駐屯地司令官の、気持ちを和らげようという言葉にも、目の前に立つ若い男は応じられなかった。
「……お世話になりました」
出ていった若い隊員は、ポワソン沖海戦において『あづち』を守るために戦った陸上自衛隊の隊員の1人であった。
だが、『あづち』の艦上で戦った300人ほどの内、20人近くがもう辞職願を出していた。
やはり、実戦を経験してしまったことが重く心にのしかかったのであろう。
「……この辺りはどうしようもないのだろうが、なんとかケアをしてやれなかったのかと思ってしまうな」
駐屯地司令は傍らに立つ幹部に目をやった。
「そうですね。やはり覚悟を決めたつもりになっていても、人命を自分が奪ったという重みに耐えられない者がいるのは想定していました」
これについては分かれる部分があったようで、あの戦闘を経験した者の中には『これが、何かを守るために戦うということなのだと初めて実感した』と決意を新たにする者もいた。
そういった者たちはこれまで以上に訓練や勉強に身を入れているらしく、将来がかなり有望になりそうだと言われている。
幹部自衛官へ進む者も少なくないだろうというのが上層部の見立てだ。
だが、だからこそ去る者を止められなかったという部分は厳しく上に立つ者たちの肩にのしかかるのだった。
「それで、市ヶ谷(防衛省)はなんと?」
「はい。『去る者は追わず来る者は拒まず』。これは今まで通り変えないそうです」
「……他には?」
「隊員たちの精神教育を更に進めるべきだという案は上がっています」
自衛隊の在り方そのものを変える必要はないが、日本人という民族の精神をもっと強固なものにする必要がある。
それが防衛省の判断であった。
これに関しては国民全体の教育レベルを見直すべきという声も上がっている。
戦後80年ほどが経過する中で、やはり日本人はあまりにぬるま湯につかりすぎていた。
意外にも中高年より、20代から30代の若者のほうが日本の危機を感じていた(主に漫画やアニメで軍事・国際情勢を知ったオタクだが)。
そんな今ならば戦後に米国に押し付けられた少々歪な教育を変えることができるのかもしれないという空気が漂っていたのだ。
日本は現在、アメリカ大陸に居住していた原住民たちも含めて積極的な人口増加政策によってどんどん人口が増えつつある。
そんな日本人が増えるばかりで人的な質が悪くなるようでは、旧世界の某国とそれほど変わらなくなってしまう。
その国の名誉のためにどこの国、とは言わないが。
「政府としてはこれを機会にきちんと愛国心及び国防の心を持つ国民を育成したいという思いがあるようですね」
「ま、そうでなければこちらも教育が難しいからな。行き場がないからと言って食い詰め者ばかりが入っても仕方ない」
「乞食の軍隊なんてカッコつかないですからね」
三国志演義では、主人公の1人である劉備玄徳が『黄巾党の乱』を見かねて義勇軍を興した際に近隣の農民たちを率いて共に戦ったというが、その様子は一部の漫画などでは『まるで乞食の軍隊』と評されているのだ。
流石に現代の自衛隊がそれほど惨めな組織ではないと思いたい。そう願う2人だった。
「教育改革はもちろんだが、具体的にはどうするつもりだ?」
「そうですね……米国の影響力が『ほぼ』なくなったこともあるので、まずは第二次世界大戦の詳細な授業や、太平洋戦争の『真実』について語る必要があると私は愚考しますね」
戦争とは常に敗者が悪なる存在とされる『勝てば官軍負ければ賊軍』と言われるものである。
日本は確かにハワイの真珠湾を攻撃し、東南アジアに出兵、当時西欧列強の支配下にあった多くの場所を占領した。
多くの人命も奪っただろう。
だが、その中には間違いなくアメリカによって挑発された、日本独自の考えも念頭にあったという意見もあるのだ。
一部では元アメリカ海兵隊員が記した本などで第二次世界大戦の真実が語られている。
戦後、日本がどれほど牙を抜かれたのかも。
「日本は変わらなければならない。このままでは、守るべきものが守れなくなってしまう」
「それを我々は身をもって知ったわけですね」
また、教育面という意味では語学でも問題が多発していた。
日本はこの数年程、英語に加えて伸び率の高く、更に観光客の多い中国語を習得しやすくするように仕向けていたのだが、転移して明らかになったのは『文字は違うが、言葉は通じる』という点であった。
これにより、話す意味での言語学は絶望的な状態に陥っている。
ただし、日本に巻き込まれた形で同時に転移した外国人もいるため、それらの人々と話す際にはある程度必要となる。
そういう点もあって、旧大使館の職員などを中心に『祖国の文化保全のため、言語を残したい』という活動をしている者がいるのだ(主に中国やアメリカ)。
ついでに、『祖国の文化保全』と言い張ってフィッシュアンドチップスやウナギゼリー、マーマイトなどを大々的に売り出す英国面(紳士の主張)だったり、ハンバーガーの大食い大会やステーキの早食い大会を旧大使館人員による主催で開く米国面(米帝様)だったり、『同志と共に歌いましょう!』などと言って日本人では珍しく赤く染まっていらっしゃる『とある声優さん』と一緒にアニメ・戦車ファンを取り込もうと民謡の『カチューシャ』を熱唱する同好会を旧大使館の人々と一緒に開いた露国面(同志諸君)、パスタ品評会を開いた伊国面(イタ飯屋)など、なんだかんだで国内は賑やかなのだった。
閑話休題。
ちなみに日本にとって幸いなのは、今のところ接触したどの国でも旧世界の土地と同じ言語を使用している点であったが。
お陰でグランドラゴ王国は英語、フランシェスカ共和国はフランス語、アヌビシャス神王国は古代エジプト語となっている。
流石に古代エジプト語は一般に広まっていなかったために専門の言語学者に頼んで翻訳してもらったが。
「そういえば、教育と言っていたが宗教関連はどうなっているんだ?」
「はい。聞いた話によれば政府はあまり乗り気ではないですね。何せ連立与党が宗教関連を母体としていますからね」
実際転移から与党は連立政権として衆参両院で過半数を維持している。
それだけに連立している政党に配慮した政策をとらざるを得ないのだ。
とはいえ、野党の中には政策及び主張を転換し与党寄りになってきている党もいる。
それらの中には宗教勢力に対して規制を強化するべきという声もなくはない。
実際に旧世界からそのまま転移してきた在日外国人及び宗教法人の中には宗教を理由に過激な行いに手を染める者もそれなりに存在する。
それも今後の日本を考えると放置しておける問題ではない。特に、そういった宗教集団が海外に出て危険行為に手を染めないとも限らない。いや、それどころではない。それで一国を動かすようなことになっては国1つが敵に回る可能性もあるのだ。
とはいえ、友好国には宗教に寛容なアヌビシャス神王国がいるからか、アヌビシャス神王国と交流のある西側諸国(日本が今国交を結んでいる国々を便宜上そう呼んでいる)は日本政府の想定以上に宗教というものに関して客観的なものの見方ができるようである。だが、それに胡坐をかくわけにはいかない。
今の日本は収集した情報を総合すれば、この惑星で『文明レベルは』一番進んでいると考えられているのだ。
それが旧世界のある国のように『民族レベル』は酷いなどと言われるようではあまりに情けない。
「この辺も含めて、国民の意識改革って奴がとても大事なんだろうな」
「そうですね。ちなみに司令はどの宗派ですか?」
「俺か? 俺は実家が神社だったから普通に神道だな。ちなみに、俺の妻は元・巫女だぞ」
「へぇ、巫女属性ですか」
「そういう言い方するな!家でバイトしていた姿にグッと来たんだ!綺麗なお姉さんだと思ったんだ!実際清楚で可憐なんだぞ!ウチの嫁さん!」
「あ、しかも姉さん女房でしたか」
「ツッコむ所そこかっ!?」
……個人の趣味は尊重されるべきであろう(笑)。
――2025年 8月14日 日本国 東京都 とある料理店
この日、この店は政府主導で新規開店として宣伝されていた。
「さぁさぁ皆さん寄ってください食べてください! 本日は遂に、遂にあの『食材』を食べることが許された日です! そこ行くお兄さんもお姉さんもお嬢ちゃんもお爺ちゃんも! みんなで是非食べていってください!」
店の前に立つ若い男性がとてもテンション高い様子で人を呼び込んでいる。
そして道行く人も『おぉ』とか『マジか‼』と呟き、ある者は興味に駆られて入っていく。
そして、猫の耳を持った女性店員が注文された料理を前に出した。
「お待たせしました。『トリケラトプスの1ポンドステーキ』になります」
「おぉ!これが!」
そう、日本が解禁したのは『恐竜及び大陸に生息する知的生物以外の固有生物の食糧目的の畜産化』であった。
大陸を傘下に収めてから日本は原生生物である恐竜などの研究を進めてきた。その中で、やはり日本の食糧難を解決する方法として挙げられたのが、以前にも紹介した恐竜家畜化計画であった。
研究の結果、日本でも食されている家畜同様にある程度の若い生物は食肉化が可能だったことが判明したのだ。
これまでは自衛隊や官公庁の職員など、試験的に食べるばかりであったが、この日、遂に一般に解禁されたのだ。
肉食恐竜はやはりクセや臭いが強かったものの、トリケラトプスやパラサウロロフス、アルゼンチノサウルスなど草食恐竜の研究が進んだことでそれも解決しそうであった。
しかも草食恐竜は前世界と異なり穀物や果実の類も食べられ、しかもある程度までならば寒冷地にも適応できるように進化していたこともあって生存率もそれなりに高い。
「日本はとんでもない宝を手に入れた。大陸がなければ、恐竜を家畜化するなんて考えつきもしなかっただろうなぁ」
今回のプロジェクトを推進してきた政府協力企業の係長であった若本はそう言いながらステーキをカットして口に放り込んだ。ジューシーな肉汁とそのうまみが一気に溢れ出す。
「うぅん、潰れて、流れて、溢れ出て、という感じだぁねぇ~!おぉそうだ。娘さんの誕生日にここ、どうかね?福田君!」
「部長、彼は寒田君ですよぉ~!」
「ブルァッハッハッハッハッハッ!」
ちなみに、小型で人間に近い大きさの肉食恐竜の一部は非常に知能が高く、人間に慣れることが明らかになったため、一部では番犬の代わりになるのではないかと研究が始まっていた。
他にも……
「お待たせ致しました。『アンモナイトのカルパッチョ』になります」
「「おぉ!」」
旧世界でも調査によりアンモナイトやベレムナイトの類がタコやイカの仲間であることが明らかになっていたため、日本はこれらも食べることができないかと研究を進めた。
その結果、ダイオウイカと異なり肉の中にアンモニアなどの成分が含まれておらず、食用転換が十分可能だと判明したこともあって『アンモナイトやベレムナイトの養殖』がスタートしたのだ。
採取した後の殻も粉砕して粉末とすれば使い道は様々にある。
「すごい歯応えだ!だが、噛んでいるとしっかり味が染み出して来るよ!今まで食べていたタコやイカにも全然負けないな!」
ただ、アンモナイトやベレムナイトの中には異常なまでに巨大化する種類もいるので、扱いには十分注意しないといけないのが難点であった。
場合によっては人が引きずり込まれることもあり得るのである。
また、魚類や甲殻類の類も今まで日本に生息していなかったものが多数確認されるようになっており、それらの分析も始められている。
一部では北極海付近に、前世界では絶滅したステラーカイギュウに似た生物が確認できたというので、それらも調査の予定が組まれている。
だが、前世界のモアやドードー鳥のように人の手が加わることで絶滅してしまった生物は多数存在する。
そのため、日本は前世界のオーストラリア並みに生物の持ち込みなどに配慮しなければならないと法案を試行錯誤しているところであった。
とはいえ、日本人が大陸原住民の人たちを受け入れ、海が繋がっているので海洋生物は入り込んで交配が始まっている時点で正しいのかどうかは分からないが。
「『ウミサソリのボイル焼き』、上がりました!」
「こちら『モササウルス出汁のラーメン』です!」
「『ランフォリンクスのレッグチキン』3本、お待たせ致しました!」
これからしばらく、この店は大入り満員状態が続き、一躍話題の場所となるのだった。
政府の食糧回復政策は、多くが成功したと言っても過言ではない。
敢えて言おう。日本人は、食いしん坊である。
今回のラストにはある小ネタがいくつかちりばめられています。もし元ネタに気付いた方はぜひ感想欄に投稿をお願い致します……ツッコみも大歓迎です。
ちなみに私事ですが本日は朝から親に頼まれて築地へ買い物に行っていました。
その様子をミリオタ的に表すならば……
『逃げる奴は観光に来た敵だ‼逃げねぇ奴は買い物に来た敵だ‼全く、年末の築地は地獄だぜ!HAHAHAHAHAHA!』
……みたいな感じでしたね。
いや、別に米国面がどうのというわけではなく、何となくそう思っただけなんですが。
まぁ、築地って年末は本当に戦場のような忙しさですから。外国人や、日本人でさえ初めて来た人なんかは『なんでこんなに人がいるの?』、『なんで進めないの?』みたいな顔をしていましたし……