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爆散!原野に散った両王国軍

お待たせいたしました。今月1話めの投稿です。

私事ですが本日、朝から父に連れられて松輪に行って食事しましたら、お化けみたいなアジフライが出てきました……未だにお腹が少し苦しいですね……

でも、美味しかったのでそれが一番です(笑)

西暦1738年 7月24日 早朝 フランシェスカ共和国 城塞都市ジラード南西部約5km

 ここでは、城塞都市ジラードを陥落させるべくスペルニーノ・イタリシア連合軍歩兵約6万が陣を張っていた。

 陸軍を率いる蜥蜴人のグーショは想像以上に堅固な守りを見せるフランシェスカ軍に手を焼いていた。

「むむぅ……まさか耳長と犬ころ共にこれほど苦戦するとはな。本日も攻撃を仕掛けるが……このままではいたずらに損害を出すばかりだ」

 彼の傍らには有翼人の将、シグエーニャが座っている。

「はい、将軍。我が有翼戦士団も既に2割以上が死傷しています。はっきり申しまして、フランシェスカ軍はこれまでとは段違いの能力を有しています」

 これまでの彼らの基準ではありえないほど遠くまで飛翔し、そして正確に射抜いてくる弓矢。

 曲射された弓矢程度なら弾き返してしまう蜥蜴人の鱗すらあっさり切り裂いてしまう、どこか美しさすら感じさせる波紋を持つ曲刀や規格外なまでに長い槍。

 それらが身体能力の高いエルフや狼人族と組み合わさり、防衛戦で発揮される戦闘能力は、連合軍にとって脅威の一言に尽きた。

「エルフ共は目が良いうえに弓矢に関しては速射が可能です。あんなものに狙われたら命がいくつあっても足りませんよ。ちょっとしたマスケット銃なんかよりはるかに脅威です」

「では、本日はどうする?」

 シグエーニャは顎に手を当てるような仕草で考え込む。考えごとがそれほど得意ではない有翼人では普通はあり得ない。

「遠回しな戦法にはなりますが、陽動部隊に敵の主力を引き付けてもらっている間に地下から潜入するというのはどうでしょうか?」

 有翼人は空を舞うことが種族的な本能であるため、このような提案をしてくること自体が珍しい。だが、この城塞攻めはそれだけ正攻法では落ちないと踏んだのであろう。

「確かに。これからは搦め手を含めて攻略法を考えるべきだな。兵の様子は?」

「はい。今は一部の見張りを除いてほとんど寝ついております。そろそろ起床の鐘を鳴らそうかと思いますが」

「そうだな。輜重兵にも調理を始めさせろ」

「はい」

 すぐに起床の鐘が打ち鳴らされ、兵がぞろぞろと起き始める。

 余談だが、蜥蜴人も有翼人も共に雑食であり、『どちらかと言えば肉を好む』傾向があるらしく、実は畜産業が両国共に盛んだったりする。

 閑話休題。

 兵士のある者は輜重兵が調理した肉と野菜がゴロゴロ入ったシチューのような物をがっついて食べている。

 またある者は焼いて香ばしい香りを放つパンにかぶりついている。

「うむ。まだまだ我が軍の士気は衰えていないな」

「はい。これならばまだ、負け戦ではありませんね」

 グーショたちは兵士たちの気合が十分そうな様子を見て笑みを浮かべる。

 だが、そんな彼らの様子を、2km離れた風下の岩陰から見ていた者がいた。

 陸上自衛隊の偵察部隊である。

 彼らは双眼鏡で敵の様子を窺っていた。

「あの様子ならあと2時間前後あれば再出撃しそうですね」

「食事、後片付け、手洗い、装備点検、整列などを含めると……そうだな。それくらいあれば整いそうだな」

「すぐに報告しましょう」

「よし」

 彼らはすぐにその場を離れて通信機を使用、連絡を取った後に敵軍から見て完全な死角に停車させていたオートバイに乗ってその場を離脱する。

 離れた場所なうえ、強い風の風下だったこともあってそのエンジン音は全く敵には聞こえていなかった。

 それから2時間と30分が経過し、連合軍はほぼ態勢を整え終わっていた。兵士は整然と並び立ち、その列に乱れは見えない。

 部隊の中心部では有翼戦士団が戦いの始まりを今か今かと待ち侘びている。

 自分たちが有利な状況とは言い難いにもかかわらず、その表情は暗くない。彼らは技術などで劣るエルフや狼人族に犠牲は出しても負けはしないだろうという自信があるのだ。

 故に彼らに『恐れ』はない。絶対に最後は自分たちが勝利するのだと信じているからである。

 部隊の総司令官を預かるグーショも、まだ犠牲は出るだろうが最終的には勝てるだろうと考えていた。

 もう間もなく出発であり、一部の部隊による掘削作戦も始める。これならば、確実にあの城塞都市を落とせるに違いない。彼らはそう考えていた。



 その頃、彼らの上空に到達しようとしている青い影があった。だが、彼らはそれに気づかない。

『クリア―ド・フォー。アタック。レディー・ナウ』

 青い影は下には聞こえない何かを呟いた。



「将軍、全部隊の準備が整いました」

「よし、出発だ」

 彼が兵に命じて出発の笛を吹かせようとした、その時だった。

――ヒュウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……

 自分たちの使う笛とは違う、どこか不気味さを感じさせる音が戦場に響き渡った。

 なんの音かをグーショが兵に命じて確認させようかと考えた瞬間、6万はいる兵たちの中心部、有翼戦士団の立っている場所でいきなり大爆発が発生した。

――ドガアァァァンッ‼

「な、なんだっ!?」

 爆発は連続して発生し、次々と中心部の兵を粉々に打ち砕いていく。呆然としている間にも100人以上が吹き飛ばされてしまった。

「ば、馬鹿な! なんだこの爆発は!? 火山でも噴火したのか!?」

 グーショやシグエーニャは目の前で発生している現象をまるで理解できていなかった。だが間違いなく、自分たちの兵だけが吹き飛んでいることから、これが敵の攻撃だと判断した。

 今の攻撃で、有翼戦士団の多くが吹き飛ばされた。五体満足な者はそれほど多くない。

 だが、残酷な現実は彼らに考える暇すらも与えてくれなかった。



――ヒュルルルルルルルルルルルルルルル……

『6,5,4,3,弾着、今!』



――ズドオォォォンッ‼

 今度は部隊の外縁部で連続した爆発が発生したのだ。それも、先程の爆発よりも少し威力が高いように見える。

「こ、こんな連続で、こんなに凄まじい爆発力だと!?」

「有り得ない! 我々の輸送型巨鳥による航空爆撃でもこの様な威力は不可能だ‼ これほどの爆発力……さぞや高威力の攻撃に違いない‼ しかも、どこからも見えない攻撃だと!?」

 彼らの基準からすれば、今までに存在した全ての攻撃は『見える位置から』行われるものであった。

 戦列艦の大砲による攻撃も、巨鳥による爆撃も、蟻皇国の戦艦による攻撃ですらそうだった。

 だが、この攻撃はどこからどのようにして行われているのか皆目見当がつかない。

 そのため、ここからどのような指示を出したらよいのかもまるで思いつかない状況であった。

「将軍! どうします!?」

 シグエーニャの呼びかける声にもグーショは唖然とすることしかできない。

 精強なはずの自分たちが、まるで雑魚のように呆気なく蹴散らされていくという姿が信じられなかったのだ。

 先程まで負けはしないだろうという自信が、音を立てて崩れ去っていく。

 これは何かの罰……そう、神から与えられた鉄槌なのだろうかとさえ思ってしまった。

 そんな風に思考が麻痺していた彼の意識は、ドンッとぶつかった感触で再び動き出した。

「な、なんだ!?」

 周囲を見ると、いつの間にか兵たちが押し合うようにして密集していた。皆、外縁部で発生する爆発から逃れようとしているようだ。

 そのせいで、あちこちで兵がひしめき合っている。足の踏み場もないとは正にこのことであろう。

 だがそれを見た時、グーショは敵の狙いにようやく気が付いた。

「し、しまった! 兵が密集しすぎている!散開しろ! 散開して全滅だけは避けるんだっ‼」

 だが、混乱状態のうえにとてつもない爆発音が響き続けているため、まるで指示が行き渡らない。

「だ、ダメか……有翼戦士団は!? 無事な者だけでも飛べないか!? 本国へ報告をさせろ‼」

「無理です! この爆発のせいで周囲の気流が安定していません‼ それに、兵たちが密集しすぎていて羽ばたく場所が確保できていない‼」

 それを聞いた時、グーショは己が完全に敵の思惑通りに誘い込まれ、詰んだことを思い知った。

 そして同時に理解する。自分たちは、全く未知の戦術と相対しているのだと。

 相手が誰かもわからず、何をされているかも理解できない。そんな戦術を使うような存在を、彼はこの世界で知らなかった。

 そして、そんな怒りを乗せて大きく叫ぶ。

「こんなもの……理不尽すぎる……何もできぬではないかあああああああああああああああああっ‼」

――シュルルルルルルルルルルルルッ‼ パラパラパラパラッ‼ ババァンッ‼

直後、彼は自分の体が粉々に砕け散る姿を見て、そして永遠に意識を失った。

航空自衛隊の支援戦闘機『F―2』が投下したJDAMはほとんど誤差なく有翼戦士団を爆破し、連合軍を混乱に陥れた。

そして、世界でも特に精密な砲撃をするとされている陸上自衛隊の特科連隊の99式155mm自走榴弾砲、203mm自走榴弾砲と155mm榴弾砲 FH70 30門の放った砲撃で密集状態に追い込み、最終的にはMLRSの一斉面制圧爆撃によって、6万ほど存在したスペルニーノ・イタリシア連合軍は壊滅した。



 10分ほど続いた猛烈な爆発が収まった後、陸上自衛隊の観測ヘリコプター『OH―1』が『AH―1S』コブラ3機と『AH―64D』アパッチ・ロングボウ2機を引き連れて現場を確認していた。

 彼らは万が一敵の兵が相応に残っていた場合の第二次攻撃を命じられた部隊である。

 もしこれでも殲滅できないほどに敵が残っている場合は、攻撃後に後退して再度榴弾砲による攻撃を行う予定である。

 陸上自衛隊の特科連隊による砲撃は、富士総合火力演習において異なる種類の榴弾砲を用いながら上空に煙で美しい富士山を描き出すほどの精密さを持ち、旧世界ではアメリカで演習を行なった際にそのあまりの精度の高さにアメリカ軍とドイツ軍を驚かせたという話が残っているほどである。

 その精密な砲撃ならば、残っている兵士を吹き飛ばすこともそれほど難しくはないだろうと判断されたのだ。

 だが、眼下で動く者は確認されず、残っているのは猛烈な爆発によって掘り返され血で汚れたた地面と、多数の肉片のみであった。

 『OH―1』を操るパイロットの渡辺は本部及び指揮車両に伝達した。

『こちらオーガより本部及び指揮車両。敵兵力の殲滅を確認した。第二次攻撃の必要なしと判断する。これより帰投する』

 『OH―1』を中心としたヘリ編隊は機首を翻し、戻るべき場所へと戻っていった。

この短時間かつ一方的に決着がついた戦いは、後にフランシェスカ共和国及びスペルニーノ・イタリシア連合軍側で『城塞都市ジラードにおける大殲滅』と呼ばれて恐れられることになる。



 一方の城塞都市ジラードからも攻撃の様子は見えていた。

 城塞都市を束ねるエルフの将軍シーニュは目の前で起こった事の半分も理解できていなかった。

 日本から輸入した高性能の双眼鏡で、敵兵が動き始めたところまでは見ていた。これから攻撃を仕掛けてくるのだろうと判断し、各部隊に配置を命じようとしたその時、敵兵力の中心部……そう、有翼戦士団の付近で猛烈な爆発がした。

 日本の兵器らしきものはどこにも見えていないにもかかわらず、猛烈な爆発が連続して発生し、有翼戦士団は出鼻をくじかれた。

 そしてそれからほんのわずかな間にもっと猛烈な、火山の噴火かと思うほどの猛烈な炎が吹きあがった。

 だが、同時に爆発音が聞こえてきたことからこれも日本の行なっている攻撃なのだろうと理解した。

 そしてパラパラと何かが弾けるような音と共に多くの蜥蜴人と有翼人が四散していった姿を目に焼き付けた。

 最後に、鉄の羽虫のような物が飛来して戦場を俯瞰したのち、飛んできた方向へと去っていった。

 もちろん、何が起こったのかという詳細はさっぱり理解できていない。

 だが、少なくともこれだけははっきりと理解した。

「これが日本の攻撃だというのならば、日本に……絶対に逆らってはならない。これは全フランシェスカ人に徹底させなければ」

 それから少し時間が経過した時、今度は猛獣の唸り声のような音が近づいてきた。

 それが鉄の羽虫が飛び去った方角であると気付いていた彼女は再び双眼鏡を覗き込む。

「な、なんだあれは!?」

 鋼鉄の竜のような物が、多数近づいてくる。

 だが、その中に共和国の首都で最近走り始めた『自動車』と同じ車輪を持つものが確認されたことで、あれが日本軍の兵器なのだと理解した。

 明らかに鋼鉄製でできていると思しき角を持った車両はいかにも堅固そうな外見である。

 他にも様々な種類の車両が確認できるが、どのようにして運用するのか、火器に疎いエルフである彼女にとってはまるで見当もつかない。

 そして彼女はすぐに部下に通達し、馬を曳かせて表へと出た。

 自分たちを助けてくれた日本軍の将に対し、礼節を以て応対しなければと考えたのだ。

 シーニュは副官と共に城塞の表へ出る。

 改めて近くで見ると、その雄大さが窺えた。

「なるほど、こんな兵器を多数運用できるのであれば、たとえ相手がイエティスク帝国であろうとも負けはすまい」

 彼女は目の前に鎮座する『90式戦車』を見て感嘆の意を示したのだった。

 シーニュが戦車の間を進むと、奥の車から降りてきた人物を目にした。

 彼女はその人物が指揮官であると判断した。何故ならば、他の兵士らしき人物たちがしっかりと周囲を固めているからである。

 彼女が挨拶しようとした時、向こうから声をかけてきた。

「初めまして。日本国陸上自衛隊陸将、楠譲治と申します」

「フランシェスカ共和国軍所属、城塞都市ジラード防衛将軍のシーニュと申します。この度は日本国の援軍、感謝致します」

 楠は彼女を見て驚いていた。だがそれは無理もない。

 シーニュは、日本に普通に住む人間を基準にするならば20代前半、いやもっと若くすら見えたのだから。

 日本人の基準からすれば精々大学生くらいにしか見えないのだ。それが堅固な城塞都市を守る将軍にまで抜擢されているということが、日本人の感覚からすれば驚きなのである。

 驚いたまま固まっている楠を目に、シーニュが声をかけた。

「楠将軍も皆様も遠路を行軍されてお疲れでしょう。ぜひ我が城塞で一息入れてください」

 実を言えば自衛隊側は朝早く起きはしたものの、別にそれほど重労働をしたわけでもない。

 とはいえ、せっかくの厚意を無駄にするのも気が引けたので、そのままお邪魔させてもらうことにしたのだった。

 城塞都市と言われるだけのことはあり、ジラードは戦車や装甲車の類が入っても全く問題ないほどの広さを有していた。

 自衛隊の幹部達は城塞都市の軍幹部からもてなしを受けることになる。

 余談だが、楠は後にシーニュが30歳を超えていることを聞いて目が飛び出さんばかりに驚くのだが、それは別の話。

 こうして、自衛隊は1人の犠牲も出すことなくスペルニーノ・イタリシア連合軍を壊滅させ、友好国であるフランシェスカ共和国の城塞都市ジラードを救援することに成功したのだった。



 それから数時間後、陸上自衛隊は城塞都市ジラードを後にして自衛隊ビジュ平野駐屯航空基地へと戻っていく。

「陸将、シーニュさんってすごく綺麗な方でしたね」

 傍らの部下、石川が楠に呼び掛けた。

「あ、あぁ……」

 石川はニヤリとしながら更に呼びかける。

「……アタックしてみたらどうですか?」

「は!?」

 それからしばらくした後、再度城塞都市ジラードに赴いた楠がシーニュに花束を渡す場面を見た者がいたとかいないとか……



――西暦1738年 7月26日 スペルニーノ王国 王都マドロセオ バルムンク城

 国王スペルニーノ6世は、援軍の報告を兼ねて先行した有翼人から自身及び同盟国のイタリシア王国の軍勢約6万が報告する間もなく全滅させられたという一報を聞き、激怒する前に唖然としていた。

「ば、馬鹿な……いくらフランシェスカ側に削られていたとはいえ……6万もの大軍が、報告する間もなく全滅しただと?」

 スペルニーノ6世の目の前には、報告するために参上した有翼人の将が立っていた。

 彼は自分の目で見て、肌で感じたことをありのままに報告する。

「はっ。わたくしが数日後に援軍が到着することを報告するべく城塞都市ジラード南方に向かった時……お味方の姿は一兵も見当たりませんでした。不審に思い、地面の色が変わっている場所へ降り立ってみたところ、大量のカラスが死肉を啄んでいる光景を目の当たりに致しました。近くには羽らしきもの、そして鎧を見つけました。皮鎧の紋章は、スペルニーノ王国の物です。そして、動く者が全く見られない状況から察するに、全滅したと考えられました」

 スペルニーノ6世は沸騰しそうになる思考回路をなんとか鎮めようと理性を働かせていたが、ついに頭の中で何かがブチリとキレた。

「何故だっ‼ 何故こうも蛮族相手に連敗するのだっ‼ 今回の戦では、たとえ相手がグランドラゴ王国であったとしても、これほどの大敗にはならん想定ではなかったのかっ!?」

「も、申し訳ございませんっ‼」

 とはいえ、部下を怒鳴ったところでどうしようもない。

「このままでは、我が国が逆に日本に攻められるのではないか? 守りは大丈夫か?」

 すると部下は自信を取り戻したような表情を見せた。

「ご心配には及びません。なるほど、確かに日本という国は6万もの軍勢を短時間で消滅させるとは恐ろしい力を持っているようです。ですが、今回の戦闘では起き抜けの、兵が比較的密集している状態をなんらかの力で察して狙われたものと考えられます。ならばそれに応じた対策を立て、王都に至るまでの砦などで敵の弱点を測り、それで撃退すればよろしゅうございます」

 確かに、敵の情報を何も得ずに戦ったから大敗北を喫したのは間違いない。ならば、王都に至るまでにちゃんと敵戦力の詳細を把握すれば、それで撃退することも不可能ではない。

 そのように王も判断した。

「よし、ではフランシェスカ共和国国境から我が国の王都に至る全ての城塞に伝えよ。日本軍が現れたら無理して戦うことはせず、日本国の戦力・戦法を推し量り、その能力をしっかりと報告するようにと。また、北征部隊へ派遣する予定だった援軍を割り振って各城塞へ送り出せ」

 王の命令を受けた将校達が外へと出ていく。

 誰もいなくなったところで、王は玉座でへなへなと崩れ落ちた。

 部下の手前、情けない姿を見せるわけにはいかなかったので虚勢を張っていたが、それも限界であった。

「なんなのだ……日本とは、いったい何者なのだ……?」

 王は恐ろしくて仕方がなかった。

 スペルニーノ王国の蜥蜴人はただの身体能力という点ならば本領発揮できる環境ではドワーフ族や竜人族、そしてイエティスク帝国のオーガ族及びミノタウロス族に匹敵する。

 イタリシア王国の有翼人は個々の身体能力でこそ種族間では低いほうだが、その勇猛さと数で繰り広げられる空中戦の強さには定評がある。

 そんな2種族が連合を組んで挑んだというのに、6万もの大軍が猛烈な爆発らしき物を受けて殲滅された……日本という国の仕業ならば、どんな恐ろしい兵器を使ったのか、まるで想像がつかない。

 しかしそんな状況で、一応打てる手は打った。

 だが、本当に撃退できるのだろうかと疑心暗鬼になってしまう。どうしても考え事ばかりで頭がモヤモヤしてしまう。

 スペルニーノ6世はベランダへ出て王都マドロセオの風景を眺めた。

 今までは奪い、繁栄する側だった自分たちが、今度は奪われる側へと転落してしまうのかもしれない。

 そんな風に考えると空恐ろしさを覚えるが、逆に考えた。

 自分がしっかりしなければ、誰がこの国を守るのかと。

「そうだ。たとえ相手がイエティスク帝国並みの能力を持っていたとしても、我らは負けるわけにはいかぬのだ」

 彼は決意を新たにし、迫るであろう日本国の軍に備えることにした。


今月は本来に戻って2話投稿といたします。

まだまだいろいろと書き進めておりますので、どうか楽しみに待っていてください。


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