破滅の目前
もう間もなく陸戦開始です。
――西暦1738年 6月19日 フランシェスカ共和国 首都パリン
農地と森林が大半を占めるフランシェスカ共和国の首都パリンに存在する行政大会議場において、緊急の会議が開かれることになった。
会議の内容はフランシェスカ共和国西部の沖合において、スペルニーノ・イタリシア連合軍と日本国の自衛隊が衝突したということで、海戦を見ていた観戦武官からの報告がされることである。
「これほど緊張する会議は初めてだな……」
「日本の実力、果たしてどれほどのものなのでしょう」
多くの貴族たちが着席し、観戦武官の報告を今か今かと待ち侘びている。
その中央には首相のクリスティアもいる。それだけでもこの会議の重要性が窺えるというものである。
そして、会議場の扉が開き、海上自衛隊の輸送艦『あづち』に搭乗していたエルフのリュシオルが入場してきた。
リュシオルは中央の壇上へ上ると、持ってきた上質な紙の資料を目の前に掲げる。当然だがこの紙も日本から輸入したものである。
「それではこれより、スペルニーノ・イタリシア連合軍機動戦列艦隊と日本国海上自衛隊による『ポワソン沖海戦』に関する報告を始めさせていただきます」
ポワソン沖とは、フランシェスカ共和国から見た西部海域の呼び名である。
この名称は後に日本側にもちゃんと伝えられ、『ポワソン沖海戦』として日本側でも歴史書に掲載されることになる。
「スペルニーノ・イタリシア連合軍は事前情報通り戦列艦・揚陸艦・鳥母を合わせて275隻の大艦隊を用いてきました。それに対し、日本国側は海上自衛隊の護衛艦隊11隻が激突しました」
スペルニーノ・イタリシア連合軍に比べてしまうと数の上では圧倒的に不利なように感じる話だが、幹部たちは視線で続きを促す。
「海戦の結果、日本側の被弾・負傷者はゼロです。艦隊は砲の射程に入る前に全滅し、肉薄してきた有翼戦士団約6千人も船から放たれた光の暴風と、私の乗っていた『あづち』という船に乗っていた陸軍の兵士500名で討ち取ってしまいました」
その場にいた全員が呆気にとられた。
通常有翼戦士団を追い払おうというならば、竜人族やドワーフ族並みの頑丈さが必要になる。船の能力はグランドラゴ王国に匹敵すると言える蟻皇国でさえ、連合王国に戦を仕掛けた際は航空支援がなく、艦内に敵兵が乗り込んできたために敗北したことがあるほどなのだ。
だが、日本人は肉体的にそれほど強そうには見えない種族であった。
それが、どのようにして追い払ったのか、まるで理解ができないのだ。
また、日本がグランドラゴ王国同様に大砲を搭載した船を運用していることは議会出席者の多くが知っていた。しかし、その砲のわずかな数や口径の小ささから考えると、あまりにも圧倒的な戦果に唖然とするほかない。
「ほ、本当に? 装備人員全てにおいて、日本側は何も損害が出ていないというのか?」
「はい。私の搭乗していた『あづち』という輸送艦の甲板が有翼戦士団の血脂と死体でかなり汚れましたが、それ以外は全く損耗がありません。しかも、隣に立っていたグランドラゴ王国の観戦武官……防護巡洋艦の艦長とのことですが、彼もまた驚いた顔をしていたことから、恐らくグランドラゴ王国にも不可能なことなのだろうと判断しました」
グランドラゴ王国は、有力な航空戦力を有していることもあってこの世界では2番目に位置する列強国である。その列強国の軍艦を指揮する艦長ほどの存在が驚いていたということを踏まえると、日本がいかに圧倒的な力を持っていたかが窺える。
ちなみに余談だが、読者の皆様は『なぜ有翼人が偵察を行なっていないのか』という点に疑問があると思うが、それは偏に某日本転移小説のような『携帯できる』通信手段を有していないことが原因である。
実際のところ、もしも巨鳥で偵察を行おうとしても持ち運んで運用可能な通信手段が存在しないため、『敵を発見してから発艦する』という方法を取らざるを得ないのだ。
そして今回は日本側も『相手が航空戦力を出すまでは攻撃しない』という点を重んじていたためにあのような白兵戦となっていた。
もしもそれがなければ、艦対艦誘導弾で多くの船舶を減らすことができたと考えられる。
すると、陸軍で幹部を務める狼人族が手を挙げた。
「そういえば、日本側は『戦闘機』という航空戦力を持ってきていなかったそうだが、どうやって巨鳥を倒したんだ? 有翼戦士団は先程輸送艦に乗っていた陸軍の兵士が倒したと聞いたからある程度は分かるが……巨鳥はどうやって倒した?」
リュシオルも、信じられないながらも自分の感じたこと、そして日本から教えられる限り教えてもらったことを総合して話す。
「なんでも、離れていた時には船から発射する『対空誘導弾』と呼ばれる火を噴いて飛行する物体を使ったとのことです。『誘導弾』とは、狙った目標に飛んでいき、目標に命中、或いは至近距離に近づくと中に仕込んである爆弾が爆発するというものだとのことです」
そんな高性能な兵器は聞いたことがない。そんな物が存在しては、戦術や兵器の運用思想がガラッと変わってしまう。
彼らが今まで集めていた情報が確かならば、世界最強と言われているイエティスク帝国ですら持っていない『かもしれない』技術を、日本は有していることになる。
「また、攻撃しようと近づいてきた巨鳥の一部は船の大砲を使って撃ち落としたという報告がありました」
「は!? 大砲で空を飛ぶものを撃ち落とすだと!? そんなことは不可能だ!!」
グランドラゴ王国やほぼ同等の技術を持つ蟻皇国はもちろん、世界最強のイエティスク帝国でさえもそんな技術は持っていないはずであった。
「そうだそうだ! 何をどうやったらそんな真似ができると言うんだ!?」
日本の技術が高いということは皆が感じていたが、その根本が全く理解できていないこともあって、フランシェスカ共和国の面々は狐につままれたような気分になってしまう。
「それが……これも海上自衛隊の方から聞いた話なのですが、どうも日本の船には洋上でも大砲の砲身を安定させる技術と、相手の未来位置を予測、計算して砲身を向ける技術があるらしく、それを用いて空を飛ぶ兵器を撃墜できるようになっているとのことです。と、申しますか、日本の大砲はそもそも対空目標を撃墜できるようにという理由で作られているとのことです」
誘導弾のことも理解できないが、大砲の能力や機能もまるで理解できない。そんな隔絶した兵器が存在しては、自分たちの常識は一切通用しなくなってしまうと誰もが考えた。
呆然とする出席者を尻目に、首相であるクリスティアが会議を再開する。
「いずれにせよ、海からの侵攻は防げました。たったの11隻にここまで手痛くやられたということが伝われば、少なくとも海からの攻撃はしばらくないと見ていいのでしょう」
クリスティアの手には日本からの要請書が握られている。
「日本国は我が国南西部に存在するビジュ平野に基地を作ると通達してきました。会議出席者たちには既に通達している通り、日本はここに陸軍と空軍の基地を作って城塞都市ジラードを守護する我が国の兵たちの救援に向かってくれるということです」
地図が広げられ、フランシェスカ共和国の中央部より南西に下がった地域が指される。
「日本曰く、共和国内の敵を掃討した後に敵本国にも攻撃を加えるためとのことです。これによりスペルニーノ王国及びイタリシア王国の両国を軍事的に沈黙させた後に講和するとのことです」
武官のエルフが手を挙げる。
「敵を完全に降伏させ、占領するのではないのですか?」
それについては日本の法律や憲法を学んだ首相が答えた。
「なんでも、日本の憲法では侵略行為は違反に当たるためできないとのことです。日本自身が80年以上前に起こった大戦争の際にあちこちを侵略した際に大失敗しその後敗戦、植民地化しかけたために、そういった行ないは厳禁となったらしいと聞いております。また、日本のかつていた世界では植民地支配による搾取というものは効率が良くない、未来性がないということが証明されたらしく、彼らの世界では一部の国を除いて表立ってやる者はいなかったそうですよ」
首相の説明に日本や旧世界の多くの国々の在り方を『そういうものなのか』と納得した会議の出席者たちは、今後日本がどのような戦いを見せてくれるのだろうかと不謹慎ながらワクワクするものが多かったという。
会議は夜遅くまで続き、今後も日本に全面的に協力していくことが再決議された。
――西暦1738年 6月22日 スペルニーノ王国 首都マドロセオ 王城バルムンク
国王である蜥蜴人のスペルニーノ6世は、軍部から受けた報告を耳にして青白い顔を真っ赤にして激怒していた。
「馬鹿な! 我が精鋭の機動戦列艦隊とイタリシア王国の有翼戦士団が、たった11隻の船に為す術なく敗れただと!?」
軍部の将校は王の怒りを恐れつつも全てを報告する。
「はっ。敵は白地に丸の旗を掲げた国の軍艦とのことで、恐らく日本国の海軍と察せられます」
軍部の情報部に所属するこの将校は日本使節団が最初にスペルニーノ王国を訪れた時に日本側が見せていた国旗と旭日旗を見ていたため、聞いていた特徴を精査して今回迎え撃ってきた艦隊を日本の物と判断したのだ。
「なぜ負けた? たかが11隻ならば、グランドラゴ王国相手でも肉薄して攻撃が届くという想定ではないか。どうなっている?」
「海戦で生き残り、小型のボートに乗って帰還した一部の軍人によると、日本の軍艦は、それはそれは大きく、まるで城かと思うほどとのことでした」
「それで?」
それだけならばたいしたことはない。北東のイエティスク帝国に至っては200m近い船を保有しているというのだから。
「目測ですが、大砲を搭載した船は150m前後あり、グランドラゴ王国の主力軍艦よりも大きいです。ただ、船の幅は王国の物に比べると細く、よりスマートになっているらしいです。そして艦首部分には大砲らしき物が搭載されていたとのことです」
国王はまた驚いた。たった1門の大砲しか搭載していないのに、どうしてそんな圧倒的な戦果を出せるのか理解できなかったからである。
「生き残った者の報告によりますと、日本の軍艦の放つ砲は、グランドラゴ王国の主力軍艦のそれに比べると口径が小さいとのことです。しかし、その連射力、命中率は王国側とは比べ物にならないほど早く、そして正確だったとのことです。具体的には、20km近く離れていたにもかかわらず砲弾がたったの1発で命中したと……そして、砲弾は1発で我が国の戦列艦を轟沈させるほどの威力があるとのことです」
先程までの顔から一転、スペルニーノ6世は再び真っ青な顔になる。
「ばばば馬鹿な! 20km近くの射程など、イエティスク帝国が保有していると言われる『戦艦』しかないはずだ! グランドラゴ王国の主力軍艦ですら、主砲の最大射程は8kmほどと言われている! 欺瞞情報ということでもう少し加味したとしても精々10km前後だろう!! それなのに……しかも1発で命中させ、一撃で戦列艦を沈めるほどの威力とは、何がいったいどうなっているんだ!?」
国王は半ば錯乱したように将校を問い詰めた。
「……はっきり申しまして全く分かりません。どのような技術を使っているのか、大砲以外にもどのような兵器を用いているのか、日本国は未知数です。そして、空対艦戦闘も悲惨に終わっています」
「そ、そうだ。イタリシア王国の巨鳥部隊と有翼戦士団がいたはずだ。彼らは何もできなかったのか!?」
将校は言い辛そうに口を開いた。
「巨鳥は制空型も輸送型もまとめて出撃しましたが、日本の船から撃ちあがった火を噴く光の矢で次々と撃墜され、有翼戦士団も船から吹き荒れる光の筋のような物に幾分かが削られました。その後のことは分かりませんが……その後に日本の艦隊が問題なく攻撃を行なっていたところを見ると、相手の指揮系統を削ぐことはできなかったと考えられます」
国王スペルニーノ6世は判然としない報告に疑問符を浮かべる。
「光の矢? どういうことだ?」
「はい。生残者の報告によると、火を噴く光の矢のような物が船から炎を噴いて飛行していき、巨鳥を次々と撃墜したとのことです」
そんな高性能な兵器は聞いたことがない。そんな物が存在するならば、何故今まで覇権を掲げずに黙っていたのだろうかとさえ思ってしまう。
「なんだそれは? いったいどういう兵器なのか全くわからんじゃないか」
「申し訳ありません。それ以上のことは何も……」
情報が判然としないのでは報告も尻すぼみにならざるを得ない。そう理解した国王はそれ以上将校を責めなかった。
「そうか……いずれにせよ、敗北は事実だ。このようなことが二度とあってはならんぞ」
将校はそれまでとはまるで違う、イキイキとした表情で自信を見せた。
「御心配には及びません。現在陸軍は数を減らしたとはいえ、6万の大軍で城塞都市ジラードを攻撃中とのことです。苦戦しているようではありますが、2か月もあれば陥落は可能だろうという報告を受けております」
城塞都市ジラードはだだっ広い平野に囲まれているのみならず、都市内部に都市の人間全員を賄えるだけの穀倉地帯と大きな泉が存在するため、包囲しての兵糧攻めができないのだ。そのため、どうしても陥落させようと思うと正面攻撃しかないと将校は考えていた。
「数においても質においても我が国はフランシェスカ共和国の兵たちを上回っております。ましてや陸戦は数が物を言います。日本が早期に陸軍の援軍を派遣する前にジラードを陥落させ、そこから一気に首都へ乗り込みます。また、日本は島国とのことですので、陸軍を導入しているかが不明ですが、狭い島で運用するならばそれほど強いとは考えられません。陸で日本が手を出してくる前に全てを終わらせます」
この将校は、部下から受けていた日本人の肉体的特徴からそれほど強そうでないと判断していた。既に陸上自衛隊が有翼戦士団と戦闘を行ない勝利しているのだが、そんなことを彼らは知る由もない。
「そうか。ならば前線に攻略を急がせるのだ。必要とあればもう少し兵器や援軍を送ることもできよう。要請あればすぐに派遣すると伝えよ。それと、絶対に気を抜くなとな」
「ははっ」
こうして、スペルニーノ・イタリシア連合軍による城塞都市ジラードの攻略は続くことが決定した。
だが、彼らに対する破滅の足音は着実に近づいている。
――西暦1738年 7月20日 フランシェスカ共和国 ビジュ平野
フランシェスカ共和国の地理上、旧世界でいう所のフランスの中央部より100km南にビジュ平野という場所がある。原っぱの平野ばかりで半径15km以内には農地も森林も一切ないため、共和国側も特に利用価値のない土地として放置していた。
ここでは日本が1か月と少し前、『ポワソン沖海戦』の少し前から自衛隊による突貫工事が行われていたが、ようやく航空基地を含めてひとまず全機能が使用可能なレベルまでこぎつけていた。
ここにはフランシェスカ共和国の南西部に存在する城塞都市ジラードを救援し、その後スペルニーノ王国を攻撃するための部隊が派遣されている。
作戦司令部の中で、陸空各自衛隊の幹部が会議していた。
「では、現在に至るまでスペルニーノ・イタリシアの連合軍は城塞都市ジラードを陥落させていないんだな」
「はい。現在敵はジラード南西約5kmの地点に陣を張っています。なんでもイタリシア王国の有翼人が、あまり夜目が利かないとのことで夜戦は控えるようにしているとのことで、それも戦況が膠着している原因の1つと考えられます」
幹部の1人で陸将の隣に立つ沢渡一等陸佐が、事前に航空自衛隊が撮影してきた敵の陣系図写真を指す。
「この地図を見ると、有翼人を守るように円形の陣を組んでいるようだな」
「はい。有翼戦士団で要塞内部を混乱させることが重要な戦略のようなので、彼らを守ることはスペルニーノ軍にとっても重要なのでしょう」
だがそれだけに、そこに付け入るスキがあると沢渡は考えていた。
「攻められると非力な存在を守るために、どうしても密集隊形を取っている。そこが弱点だな」
どうやら沢渡や陸自の幹部たちはどういう作戦を取るべきか、思いついたらしい。
「よし、各員に通達するぞ。作戦の開始だ」
「はっ!」
各々のトップから指示を受け、陸空の各部隊が動き始める。
――3日後 城塞都市ジラード
ここではエルフ族と狼人族の部隊が籠城戦を行なっており、未だに多くの兵を残しながら持ちこたえている。
だが、さすがに長期間の戦闘が続いたせいか、兵士たちにも疲れの色が見えていた。
エルフの女将軍シーニュは、自身も傷つきながら部下たちを労う。
「朝になればまた敵が押し寄せてくるでしょう。それまでできる限り休みなさい」
よく見れば彼女の腕からは血が流れている。昼間の戦闘で有翼人にナイフで斬られたのだ。
「将軍、手当てを」
座っている彼女に近づいてきたエルフの女性武官が素早く消毒薬を塗った。これも日本から輸入した消毒薬である。
日本の消毒薬や包帯は傷の治りが早くなると兵士たちからとても評判が良かったため、共和国のみならずグランドラゴ王国でも大量に輸入が始まっている。
もちろんそれだけでは意味がないため、看護師の資格を持つ者が研修を行なっており、扱う者たちは皆それなりにできるようになっている。
「やはり浸みるモノですね」
「仕方ありません。古来『良薬は口に苦し』と言います。皮膚に塗るものでも同じなのでしょう」
女性武官は消毒を終えると素早く残りの手当てを終える。これも日本から教わった技術である。
「そういえば、先程司令本部より入電がありました」
フランシェスカ共和国は火薬の類は使えないが電気は使えるため、他国同様に通信手段としてモールス信号を導入していた。
「内容は?」
女性武官は取り出した紙片を読み上げた。
「はい。『明日未明に日本国の自衛隊が到着する。彼らが接触してくるまでは要塞から出てはならない』とのことです。なんでも連合軍が攻撃を開始する前に敵を殲滅すると連絡がありました」
彼女は耳を疑った。日本は2か国が連合した6万もの大軍を『殲滅する』と言ったのだ。
「殲滅? まだ敵は6万ほどの大軍だが……そんな短時間で可能なことなのか?」
「私にはなんとも……ただ、日本の高い技術力を考えれば、何か方法があるものと考えられます」
この女性武官は日本人と直接触れ合ったこともあるため、何か確信があるらしい。そして、これまでにも日本の諸技術に触れてその高さを思い知っているシーニュも同意見だった。
「そうね。日本が来なければ、どの道こちらはジリ貧で追いつめられるだけ。日本を待ちましょう」
エルフと狼人族の混成部隊は、明日行われるであろうと考えられている決戦に向けて英気を養う。
彼らは日本が来るまでは諦めないことを改めて決意する。
――西暦1738年 7月23日深夜 城塞都市ジラード 北西25km
ここでは日本国陸上自衛隊の普通科・機甲科・特科の混成部隊が集結していた。
彼らの任務は、約25km南に展開しているスペルニーノ・イタリシア連合軍を殲滅し、城塞都市ジラードを救出、その後補給した後にスペルニーノ王国の本土に打撃を与えることである。
そのために集められた兵器もかなりの数と種類になっている。輸送艦3隻と強襲揚陸艦1隻だけでは一度に運びきれなかったため、民間船も大量に徴用しての大規模輸送となった。
危ういことを言うならば、現在国内の陸上防衛は特科関係がそれなりに手薄になっているほど、と言えばわかるであろう。
兵装の内訳をみると、
○99式自走155mm榴弾砲 15輌
○多連装式ロケット斉射システム(MLRS) 20輌
○203mm自走榴弾砲 10輌
○155mm榴弾砲 FH70 30門
この辺りまでが今回の攻撃で主に使用する兵器である。
更に……
○89式装甲戦闘車 10輌
○10式戦車 5輌
○90式戦車 15輌
○96式装輪装甲車 5輌
○87式偵察警戒車 5輌
○中距離多目的誘導弾システム 5輌
○82式指揮通信車 3輌
○AH―64D アパッチ・ロングボウ 5機
○AH―1S コブラ 15機
○UH―60JA ブラックホーク 5機
○UH―1J 20機
○CH―47JA チヌーク 5機
○OH―1 2機
○99式弾薬給弾車 5輌
○87式砲側弾薬車 5輌
○その他輸送トラックや偵察用オートバイ等
ちなみに、退役した兵器や退役間近の兵器が使用されているのは『在庫処分』の意味合いもある。
これらは後に特科連隊を含めてスペルニーノ王国本土までも叩くための追加兵力である。
更に航空自衛隊からも航空支援として『F―2』戦闘機が20機参加している。この『F―2』は現在ビジュ平野の基地で爆装して待機中である。
相手の航空戦力が『F―2』の飛行高度までは飛んでこられないということがわかっているため、『F―15J改』の姿はない。
今回は相手に反撃の隙を与えずに爆撃と砲撃で殲滅しようという作戦であるため、いかに迅速に各部隊が攻撃を行なうかが重要となっている。
作戦はこうだ。
まずはGPS衛星からの情報を基に『F―2』戦闘機の精密誘導爆弾(JDAM)で敵航空陣地を攻撃、敵航空戦力を沈黙させ、敵が混乱しているところを特科連隊で攻撃するというものであった。
自走榴弾砲で敵陣の外周部分を砲撃、敵の数を削ぐと共にこれによって敵を更に密集させてからMLRSで一気に殲滅する作戦である。
また、今回派遣部隊に加わっているMLRSでは廃棄予定として倉庫に眠っていた『M26ロケット弾』が使用される事になっている。
これは現在使用されている『M31ロケット弾』とは異なり、12発のロケットで7728個の子弾をばらまく面制圧用のクラスター弾である。
フランシェスカ共和国救援派遣部隊の総司令官を拝命した楠譲治陸将は古武士のようと言われる風貌を更に引き締めている。
「我々が失敗すれば、同盟国のみならず我が国にも大きな被害が出る。そのようなことだけは、決してあってはならないな」
既に部下たちは作戦を通達されて最後の休憩を取っている。
これで夜が明ける頃に攻撃を開始するのだ。
今月はここまでとなります。
来月を楽しみにしていて下さい。