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迫る者達

つい昨日、ハリウッド版ゴジラ最新作を見に行きまして、それが非常に面白かった事で気分がいいのと、勝手な話ですが別で投稿していた当物語の概要を削除したという事をお知らせ、お詫びするために今月は3話投稿いたします。

また、それに伴って以前概要に投稿していた航空母艦の名称を一部変更する事を決定しました。

詳細は後の投稿をお待ちください。

――西暦1738年 6月3日 フランシェスカ共和国 首都パリン

 日本と国交を結んでから既に3か月が経過していたが、フランシェスカ共和国は目覚ましい発展を遂げていた。

 日本から輸出された物は文字通り多岐にわたる。

これまでの彼らの基準からすると頑丈でありながら多機能な能力に優れた住宅や、グランドラゴ王国に輸出した物と同様の自然エネルギーを使用する発電方法、火を使わずに加熱できるIHシステム、高度な技術で加工された上質な紙、そしてそれに記入する筆記具など、これまでのフランシェスカ共和国の『当たり前』を悉く覆してくれるモノばかりがもたらされていた。

経済算出担当官は日本からの技術支援を受けてから毎日興奮しっ放しである。

 そして宰相であるエルフ族のクリスティアは日々部下から挙げられてくる報告にもはや驚くこともすっかり忘れ、どこか疲れすら感じていたのだった。

 彼は補佐官に苦笑交じりに話しかける。

「日本のお陰で我が国は大きく変わりそうだ。私としては特に、この『スーツ』という服は素晴らしいと思う。体のラインが大きく出るのが少々恥ずかしいと言えば恥ずかしいが、通気性はいいしなんというか……とても身が引き締まる」

 彼女はエルフ族としては若齢の38歳ながら宰相の座にあり、グランドラゴ王国との友好及び、南西のスペルニーノ王国やイタリシア王国との折衝に力を注いできた。

 そんな彼女をして、日本とは全世界を敵に回したとしても敵対したくないと思わせるだけの超技術を持っている国であると認識していた。

 日本は現在映像技術なども輸出するべく準備を進めている。もう数年もすれば、グランドラゴ王国とフランシェスカ共和国ではテレビが放映されるようになり、人々の生活が更に変わるだろうと予想されている。

「そうですね宰相。それに、日本から導入した新兵器を現在南の城塞都市ジラードで試験配備していますが、これまでの装備とは比べ物にならない能力を発揮するということで前線の兵士達からも好評です。これならば、我が国を囲むスペルニーノ王国やイタリシア王国に同時に攻められたとしても簡単に陥とされはしないでしょう」

 クリスティアは窓の外から建設ラッシュが続く首都を眺める。

「それでも、可能ならばスペルニーノ王国やイタリシア王国との争いは避けたいものだな」

「情報部によれば、スペルニーノ王国は船大工を総動員して多くの船を作っているそうですし、イタリシア王国も有翼戦士団の増員を行なっているそうです。これらを外交的に使用するのか、それとも侵略に用いるのかは不明ですが……もし今攻められたら、ある程度は損害を出して防ぐことができるでしょうが、それでも最終的には潰されてしまうでしょう」

 南西にあるスペルニーノ王国は1.5kmほど飛翔する砲弾を放つ大砲を所有し、それを主兵装とする戦列艦を中心とした『無敵艦隊』という大層な名前の船団を用いているという情報は入手している。

 対するフランシェスカ共和国の船は大型弩弓が最大の武器であり、後は接舷して斬り込むくらいしかない。だが、今の時点ではその前にやられてしまうだろうと考えられている。

 暗くなってきた空気を変えようと、補佐官がクリスティアに声をかける。

「そういえば、今我が国南部のミシェラ村に我が国との友好を伝えたいと日本から若者を中心とした音楽団や雑技団が来ているらしいですね」

「あぁ。最初首都で見せられた時は私も驚いたが、とても愉快かつ壮大だった。ミシェラ村が確か最後だったと思うが……村人たちも喜んでくれるだろうか」

「喜ぶと思いますよ。あんな凄い芸は我が国のこれまででは考えられませんでしたからね。日本から料理や芸についての本も販売されるようになるはずですし、我が国も負けずに文化を発展させていかないと」

 笑顔を取り戻した2人は、今後の日本との付き合い方を改めて話し合う。



――西暦1738年 6月1日 スペルニーノ王国 王都マドロセオ

 時間は2日前に遡る。

 スペルニーノ王国はフランシェスカ共和国の南西に位置する国で、旧世界で言う所のスペインとポルトガルを領有している国である。

 フランシェスカ共和国を挟んで東の半島国家イタリシア王国と連合を組んでいる、この世界でも珍しい連合国家である。

 スペルニーノ王国は造船技術に優れており蜥蜴のような見た目の蜥蜴人が、イタリシア王国は小柄で空を舞うことを得意とする有翼人が支配する国家である。

 彼らは自分たちの特徴をうまく噛み合わせており、軍事力はこの世界でも中くらいに位置する。

 そんな連合の片割れであるスペルニーノ王国の王都マドロセオに存在する王城バルムンクでは、王前会議が開かれていた。

 王前会議には国王スペルニーノ6世を始め


○軍務大臣 ピトン

○海軍将 トルトゥーガ

○陸軍将 コンチャ

○財務大臣 レナクワッホ

○総務大臣 マンドラ


 など、国の重臣たちが勢揃いしていた。また、この会議室には彼らのみならず同盟国であるイタリシア王国からも


○有翼戦士団副将軍 クエルボ

○軍師 パーボ


 以下15名がイタリシア代表として着席している。

 連合、同盟という形を取っているが、実質的な能力はスペルニーノ王国の方が上に位置するため、スペルニーノ王国側が会議の主導権を握っている。

「待たせたな諸君。そしてイタリシアの方々よ。会議を始める」

 国王スペルニーノ6世の言葉に、その場の空気が厳かなものへと変化した。

「財務大臣及び軍務大臣より、攻略用に両国合わせて戦列艦300隻、揚陸艦20隻の準備が整ったという。そして鳥母も80隻を配備することに成功した。これにより、フランシェスカ共和国へ侵攻する力は整った」

 鳥母とは巨大な鳥及び有翼戦士団を収容するための船であり、『巨鳥母艦』が正式名称である。現代の感覚で言えば空母に近い、全長80m近い木造船である。

 王の言葉を受け、軍務大臣のピトンが立ち上がる。

「国王陛下が仰られた通り、我が国の持つ造船技術の粋を結集し、これまでの我が国の規模からは考えられないほどの戦列艦と、イタリシア王国のための鳥母も用意した。揚陸艦を20隻に抑えたのは、海路に加えて陸路からも十数万人の侵攻軍を出すためである。コンチャ将軍、フランシェスカ共和国と戦って勝つ自信はあるかね?」

 問われた青い肌の蜥蜴人が立ち上がる。

「相手は貧弱な弓矢しか持たぬ耳長と、薄刃の片刃剣を扱うすばしっこいばかりの犬ころです。我ら蜥蜴人の頑強な肉体と、イタリシア王国の勇猛なる有翼戦士団が一斉に襲い掛かれば為す術なく全滅させられるでしょう」

 蜥蜴人は分厚い筋肉と鱗の頑強さだけならば竜人族を凌ぎ、曲射された弓矢程度ならば鎧なしであっさりと防いでしまう。

 有翼人は体の耐久力と地上での持久力こそエルフにも劣るが、空からの攻撃とその凶暴性、そして飛行している間の持久力はこの世界でも随一と言われており、体のサイズは日本人を基準にすれば子供のような物であるが、凶暴さと空からの攻撃という対応のし辛さもあって2人もいればエルフを1名討ち取ることもできる。

 コンチャ将軍の言葉を受け、今度は海軍のトルトゥーガ将軍が立ち上がった。

「今回イタリシア王国からは3万人もの有翼戦士団に加えて、制空型及び輸送型併せて150もの巨鳥部隊を用いることが決定した。フランシェスカ共和国には我々のように空を飛ぶ存在はない。よって、制空権は簡単に手に入るだろう」

 イタリシア王国に住む有翼人や蜥蜴人は寿命こそ30年ほどと日本人から比べると半分以下の短命種だが、その代わり繁殖力に優れているため人口は多い。それに比例して兵力も数は多いのである。

 すると、イタリシア王国側の有翼戦士団副将軍クエルボが手を挙げる。

「軍務大臣、フランシェスカ共和国に攻撃するということは、友好国であるグランドラゴ王国が参戦してくる可能性があります。かの国の戦艦やワイバーン竜騎士団は脅威ですが、大丈夫でしょうか?」

「はい。それも含めて戦列艦200隻と揚陸艦15隻、そして鳥母60隻をフランシェスカ共和国の港町シャローネへと送り込み、そこからも軍勢を送り込んで3方向からフランシェスカ共和国全土を掌握する方向で行きたいと思います。フランシェスカ共和国は投入できる兵力も多くて5万ほど……戦慣れしていないこともあり、我が国とイタリシア王国が多方向から攻めれば対応に窮することとなります。王国に手を出させないためにも、なるべく電撃的に動くべきと愚考し、このような作戦を立案いたしました」

 将軍2名は地図上に駒を置き、それを動かしながら説明を続ける。

 すると、イタリシア王国側の軍師パーボが手を挙げた。

「総務大臣殿、1か月ほど前に接触してきた日本という国の情報はありますか?」

「あぁ。フランシェスカ共和国から小舟で来ていた新興国家ですな。問題はないと思われます。奴らはエルフ族に似て貧相な体つきと、巨鳥を『すごい生き物だ』と言って驚いていました。巨鳥やワイバーンなどの航空戦力の存在しない蛮族の国でしょう」

 日本側はあまりに珍しい、地球基準では存在しなかった生物だったから感嘆したのだが、彼らにはそれが恐れているように見えたらしい。

「加えて、日本はフランシェスカ共和国と友好を結びました。であれば敵性勢力となりますので、門前払いしております。また、フランシェスカ共和国に潜り込ませている情報部の者によると、日本国は我が国が領有しようとした西の大陸を領有しているとのことです」

 それを聞いてスペルニーノ6世は激怒した。

「なんだと!? あの暴れ竜がいた大陸を!? あそこは共和国を併呑して更に軍事力を高めた後に我が国が領有しようと思っていた場所だというのに……日本か、新興国家の蛮族の分際で許せん国だな」

「陛下、いかがでしょうか。フランシェスカ共和国を併呑すると同時に日本にも攻撃を仕掛けては?」

「我が国から日本までの距離はどの程度となる?」

「日本の外交官の話が確かならば……近い所でも1千kmほどとなるはずです」

「それなりに距離はあるが……行けない場所ではないな」

 すると、情報大臣が手を挙げた。

「そういえば、今フランシェスカ共和国南部のミシェラ村に日本が友好を結んだ記念にと人々を派遣しているとのことです。奴らも血祭りにあげ、日本に恐怖を突きつけてやってはいかがでしょうか?」

 スペルニーノ6世は『それはいい』と喜んだ。

「よし、まずはフランシェスカ共和国南のミシェラ村への攻撃を開始せよ。それが完了し次第、無敵艦隊も北上して港町シャローネへ乗り込むのだ」

 国王の言葉を受け、人々が立ち上がる。

「では、スペルニーノ6世の名のもとに、フランシェスカ共和国及び日本との戦いを許可する! 者ども、戦支度だ! イタリシア王国側にも打電せよ!」

 両国は技術発展のためにとグランドラゴ王国からモールス信号による通信技術を導入していた。そのため、旧世界の同年代の国に比べると高い通信能力を持っている。

「「「ははぁっ!!」」」

 王前会議は終了した。



――5日後 6月6日 フランシェスカ共和国 ミシェラ村

 ここはフランシェスカ共和国の最南端に位置する漁村で、魚介類が豊富に採れることを除けばこれといった特徴もない、平和な村であった。

 ここには今、日本から日仏友好を記念した雑技団や音楽団が訪れている。

 これまでの人々の価値観からかけ離れた美しい音楽や、アクロバティックな技の数々は人々をすっかり魅了していた。

 だが、そんな平和な時間も長くは続かなかった。

 この日の早朝、突然沖に凄まじい数の艦隊が見えたのだ。

 その旗を見た村人は大慌てする。

「あれは……スペルニーノ王国とイタリシア王国だっ! 鐘を鳴らせ! 村中に通達しろっ! 急げ!!」

 直後、村に緊急事態を知らせる鐘の音が鳴り響いた。

――カンカンカンカンッ!!

 貧しい漁村という事もあって、この村に戦士と呼べる存在はほとんどいない。だがそれでも、魚を取るためのモリや獣を狩るための弓矢などを持ち出して村人たちは抵抗するつもりであった。

 共和国と両王国との関係はあまり良くなかったこともあって、村にも常々警戒するように通達されていたのである。

 村人の中でも足の速い狼人族の若い男が村を飛び出し、一番近い城塞都市ジラードへと伝令に走った。

 だがその直後、沖の戦列艦から多数の煙が上がり、ものの10秒もしないうちに海岸のあちこちに砲弾が着弾した。

――ドドォン! ドンドンドガァンッ! ドドドドォンッ!!

 海岸に陣取っていた若者たちはあっさりと吹き飛ばされてしまう。

 スペルニーノ王国の戦列艦はこの世界でも有数の大砲搭載量を誇り、主力と言える100門級戦列艦の数はこの艦隊だけでも50を超える。

「うわぁっ!?」

「た、助けてぇッ!!」

 戦列艦100隻の砲撃に加えて、戦列艦隊より更に沖に停泊している鳥母から巨大なアホウドリのような生き物が飛び出した。

 制空型に比べると速度は出ないが、重量ある物もそれなりに運ぶことができるタイプとなっている、輸送型の巨鳥である。

 弓の射程範囲外となる村の上空に到達すると、乗っていた有翼人が巨鳥の胴体下に抱えさせていた箱の縄を切る。

 すると中から陶器でできた壺が次々と村に落ちていく。壺は地面に落ちると爆発を起こした。

「ぎゃはははっ! 逃げろ逃げろ!! 逃げないとバラバラになっちまうぞッ!」

 日本でも戦国時代頃には陶器に火薬を詰めた焙烙(ほうろく、ほうらくと読む場合も)という爆弾に近い兵器が存在したが、それは攻城戦、及び海賊が海戦に使用する場合が多く、スペルニーノ王国の製造技術にイタリシア王国の飛行技術が加わったことで出来上がった、原始的ながら独自の発達を遂げた空爆戦法であった。

 巨鳥10羽は壺を投下し終えると母船に戻り、補給して再び爆撃を行なう。

 1時間ほどもすると海岸で動く者はおらず、村のあちこちからも火の手が上がっていた。

 そこへ揚陸艦から揚陸部隊3000と、鳥母から有翼戦士団2000人が空へ舞い上がり、残っていた人々へと次々に襲い掛かった。

 この日、フランシェスカ共和国の南にあるミシェラ村は陥落した。



――西暦1738年 6月10日 フランシェスカ共和国 首都パリン 日本領事館

 ここでは在仏大使となった日本の外交官、松下が働いていた。

 日々の共和国側との折衝に加えて、連日のように有力者から様々な接待を受けていることもあり、彼はすっかりくたびれていた。

 だが、フランシェスカ共和国は農業国家としても成り立っているため、共和国特有の農産物も多数存在する。それらの輸出手段の確保も大事な仕事だったため、何事も疎かにはできなかった。

 そんな執務室に補佐官が入ってきた。

「大使、お疲れのところ申し訳ありませんが、少々よろしいでしょうか?」

 松下はそばに置いてあった暖かい濡れタオルで顔を拭き、表情を引き締めた。

「どうした?」

「いえ、フランシェスカ共和国の南西にあるスペルニーノ王国、そして同盟国のイタリシア王国の者だと名乗る2名が面会を求めているのです。なんでも、我が国に重大な話があるとか」

 イタリシア王国にはまだ接触ができていないが、フランシェスカ共和国の南西にあるスペルニーノ王国に接触して門前払いを食らっていたという話を松下も聞いていた。

そのため、その国の関係者がいったいなんの用なのだろうと訝しむ。

「この後の予定はどうなっていたかな?」

「本日は特に予定はありませんので、面会程度ならば余裕はありますが」

「分かった。お会いしよう。応接室にお通ししてくれ」

 松下は接待で少し乱れていた身なりをすぐに整える。3分ほどで整えた松下は応接室に入室した。

 そこには日本にもいる蜥蜴の様な風体の亜人と、鳥の様な羽の生えた、日本人の基準からすると子供と言ってもいい背格好の女性が立っていた。

 ただ、なぜか蜥蜴人の方は大きな袋のような物を持っている。

 アポなしとはいえ、まだまだ未熟な世界にそれを求めるというものは酷である。松下は心から彼らを歓迎していた。

「これはこれは……ようこそおいで下さいました。わざわざそちらの方からお越しいただけるとは、感謝の言葉もありません。それで、本日はどうなされたのですか?」

 すると、蜥蜴人の方が持っていた袋を松下の目の前に置いた。

「我はスペルニーノ王国の陸軍に所属するセルペンテという。なぁに。本日は貴国にとっても重大なことを伝えに来たのだ。大事なことゆえ、きちんと外交筋に伝えるべきだと思ってな」

「ご配慮、ありがたく思います。それで、本題は?」

「それは……こういうことだっ!」

 セルペンテがいきなり袋の中身を応接室の机の上に放り出した。それを見た松下は真っ青になるどころか、腰を抜かして座り込んでしまった。その股間は一瞬にしてびしょ濡れとなっている。

 目の前に転がったのは、まだ新しい多数の生首だったのだ。

 しかも、その顔は松下も見覚えのある者たちばかりであった。

「に、日本人!? 我が国が共和国に訪仏させていた友好団じゃないか‼」

「グァッグァッグァッ……貴様らの本国に伝えろ! 我が国の物とするはずだった大陸を、我が国に断りもなく領有するとは言語道断!! 今すぐ大陸から撤退し、我が国に服従せよ!! さもなくば、この者達と同じ末路を辿るであろう!!」

 そして松下を一瞥すると、小馬鹿にしたように『フン』と嘲った。

「高々生首を見た程度で小便を漏らすとは……弱い。弱すぎる。このような矮小極まりない存在に我が国が先を越されたと思うと、虫唾が走るわ。まぁ、女共はエルフに比べれば肉の豊かなことで中々具合がよかったがなぁ」

 隣に立っていた有翼人の女も『ケケケ』と笑いながら嘲った。

「あんたたちの男は中々色男揃いで楽しめたけどねぇ、どいつもこいつも情けないったらありゃしない。皆逃げ惑うばかりでなんにも抵抗できやしないんだから。ケッケッケ!」

「これは宣告にすぎん。フランシェスカ共和国を併呑した後は、貴様らの本土にも攻撃を加えてやる。滅ぼされる前に、どうするべきかを検討するがよい。降伏はいつでも待っているぞ。グアッハッハッハッハッ!!」

 そう言い捨てると、2人は応接室から悠然と去っていった。

 松下は濡れたズボンもそのままに慌てて立ち上がると、執務室の電話に縋りつき、本土に急いで連絡を取った。


 翌日、同じことが共和国側にも知らされていた。日本の領事館同様に村民の生首を持った使者が宰相の公邸に押しかけて嘲笑をぶつけた挙句降伏と服従を迫ってきたのだ。

 宰相のクリスティアは沈痛な面立ちで会議を進める。

「状況を報告せよ」

 彼女の言葉を受けた補佐官が城塞都市ジラードからの打電を読み上げる。

「はっ。4日前に我が国南部のミシェラ村にスペルニーノ・イタリシア連合軍が攻め入り、村民のほとんどが虐殺されました。生きて解き放たれた者たちによると、暴行、強姦、略奪の全てを尽くした後、恐怖を伝播させるために解き放った50名を除いた数千人を皆殺しにしたとのことです。なお、その50名は現在城塞都市ジラードにて保護しております。ですが、皆伝えることを伝えた後は死人の如き眼で呆然としているのみだとのことです」

 更に読み上げる。

「情報によれば、南部の最重要拠点である城塞都市ジラードに向けて敵の陸戦部隊約8万も出撃し、更に無敵艦隊が北上しようとしているとのことです。恐らくは、港町シャローネに攻撃を仕掛けようとしているのではないかと予測されています。その船の数は200以上、我が国ではとても防ぎきれません」

 会議室は重い空気に包まれた。

 あまりにも突然で、あまりにも電撃的であった。

 まだ日本から導入した様々な武器も試験段階がほとんどで、城塞都市ジラードに優先的に配備されてはいるものの、それだけで守り切れるかと言われればかなり難しい。

 共和国が出せる軍事力は両王国の総兵力に比べると半分にまるで満たない。戦慣れしていないことも考えると、実数以上に不利と言わざるを得ない。

 更に質が物を言う海においても、向こうは強力な大砲を多数搭載した戦列艦による無敵艦隊に加えて、有翼戦士団や巨鳥という航空戦力も有している。

 この世界で2位の列強国であるグランドラゴ王国ですら有翼戦士団には手を焼くと言えばその恐ろしさは知れる。

 対してフランシェスカ共和国は武力という観点ならばこの世界では極めて弱小である。抵抗はするが、それでもどれだけ持ちこたえられるかと言われれば長くは持たないだろうと誰もが理解していた。

 覆しようがないかもしれないという状況に、会議室の空気はこれ以上ないまでに重くなった。

 だが、そこに一筋の風が吹く。

 一同が視線を向けると、空いた扉のそばには外交官のダックスが立っていた。

「どうした?」

「はっ! 本案件に関することで、日本国よりの要請をお伝えに上がりました」

「日本から? 読みなさい」

「はい。『貴国の国民のみならず、我が国の邦人を辱めた挙句虐殺したスペルニーノ王国及びイタリシア王国を、日本国は絶対に許すことはできない。よって、在仏邦人保護及び、在仏邦人殺害容疑者確保のために自衛隊及び警察機構を派遣したい、更に敵勢力攻撃のために貴国に基地を建設する許可が欲しい』とのことです」

 それを聞いた会議室内の面々の顔色が一気に変わった。

「何? 日本が援軍を送ってくれるということなのか?」

「援軍とは一言も書かれてはいませんが、その通りであると考えられます。日本国は憲法で集団的自衛権の行使及び国家間の紛争に武力を用いることを禁止していました。しかし、国家転移が起きた後は積極的に友好国を守る事が国際的な信用に繋がるということで憲法の一文を変更したとのことです。よって、日本国は自衛隊……実質上の軍隊を派遣し、友好国の安全を守ると同時に邦人を殺害し、実質的に宣戦布告したスペルニーノ王国及びイタリシア王国と戦うことを、たった1日で決めたようです」

 その場にいた者たちは一気に状況が変わったことを悟った。自分達だけでは被害を出すことはできるが、彼らを追い払うことはまず不可能である。しかし、日本が援軍に来てくれるということならば心強い。

「わかりました。すぐに日本国に自衛隊派遣の許可と基地建設の許可を与えなさい。基地に関しては無期限で好きに使ってくれとも。外務省は書類の準備を。軍部は樹海騎士団及び海軍に対し、日本国を全面支援するように伝えなさい。必要とあれば、彼らが望む物を全て与えても構いません。スペルニーノ・イタリシア連合軍に蹂躙されることに比べれば、日本の基地建設など安い物です。城塞都市ジラードには全力をもって敵を食い止めるよう伝えなさい。各地からも一部部隊を抽出してなるべく長く、自衛隊が来るまで持ちこたえるよう通達を」

 そうと決まれば話は早かった。

 こうして日本は転移後初であり、戦後初となる本格的な軍事目的の自衛隊の出動を命じることとなった。

 これこそが日本がこの世界に名を轟かせる『大連合戦争』の始まりであった。

遂にフランシェスカ共和国と日本国が宣戦布告を受けました。

日本はどのように戦うのか、フランシェスカ共和国は日本が来るまで持ちこたえられるのか、次回をお待ちください。

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