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訪日使節団、横須賀へ

令和初めての投稿となります。

作中年号も一応『令和』となっております。

もしかしたら、どこかで出てくるかもしれません。


――西暦1738年 2月24日 グランドラゴ王国 港湾都市エルカラ

 グランドラゴ王国が日本国に対して使節団を派遣することを決定してから約1週間が経過していた。

 この港湾都市エルカラには使節団として日本国に派遣されることになった者たちが集まっている。

 まずは外交官であり日本の使節と直接対話をしたファルコ。

 次に竜騎士団で日本の施設及び艦船に接触した竜騎士キトゥン。

 そして総合技術開発部(艦船から自動車まで王国の技術発展に繋がる全ての技術を研究している部署)からドワーフ族の女性ホグノ。

 更に海軍からカルサイト型防護巡洋艦『ガレナ』艦長の竜人族ダイルス。

 以下12名が各部署から派遣されることになった。

 派遣が決定してからというものの、ファルコやキトゥンなど、日本と接触したことのある者たち以外は不平不満ばかりであった。

 何故ならば、世界の西の果て(グランドラゴ王国基準)の蛮地に対して使節団として派遣されるということが、世界第2位の列強国であるグランドラゴ王国の誇りある民として納得いかない部分があるらしい。

 だが、ファルコやキトゥンが根強く説得したことでこの面々はとりあえず日本を必要以上に見下してはいけない国であるという認識は持ったのであった。

 出発するこの日、ファルコ達は港で日本側の迎えを待っていた。ファルコはてっきり使節団を上陸させた小型艇を使うのだろうと思っていたのだが、その予想は裏切られることになった。

 ――バタバタバタバタバタバタバタ‼

 空気を叩くような音と共に、巡視船『しきしま』に搭載されているヘリコプター『スーパーピューマ332号 うみたか1号』が桟橋に着陸する。

 回転翼機というものが存在すると聞いていたファルコと、総合技術開発部のホグノはこの物体を見て顔を真っ青にした。

 ホグノが思わず呟く。

「これは、ただの警備船なのでしょう? それが……こんな風に自在に空を舞うことができる物体を搭載しているなんて……信じられないわ」

「えぇ。日本には空の戦闘を制するための『戦闘機』という飛行物体もあるそうですが……速さは音の速さを超えると言います。これはどちらかと言えば輸送を目的としたようですし……運用思想が違うのでしょうね。我々12人を、一斉に運ぶために用意したのでしょう」

 これには外交官の園村が本国に問い合わせ、『まずは我が国がこのような物を所有していることを見せつけることで相手の出鼻を挫きたい』という連絡を受けていたために『しきしま』船長の島津に依頼して稼働してもらったのだ。

 扉が開いて中から人が降り立つ。ドワーフ族に比べると細身で背が高く、しかし竜人族よりは小柄な男がビッ、と音を立てるような動きで敬礼する。

「お待たせいたしました。巡視船『しきしま』搭載機『うみたか1号』パイロットの寺内と申します。皆様、出発のご準備はよろしいですか?」

 その言葉に全員が頷いた。

「では、お乗りください」

 促されて乗り込むと、座席のフカフカ具合や思ったよりも広い機内に全員が唖然とする。

 今度は竜騎士として空を舞うことの多いキトゥンが呟いた。

「ワイバーンではこれほどの大人数を運ぶことは不可能だ。しかもこれは……機内がとても広い。つまり、重い物を多数運ぶことを最初から想定して開発されたということだろうな」

 キトゥンの発言を受けてファルコが頷く。

「少し前に日本の外交官から聞いた話によると、日本の本土は島国らしく、山や谷、川など険しい地形が多いと言います。こういった物体があれば、そんな険しい場所で活動する際にも汎用性が高いのでしょう」

「ぜひ輸入できるならば、我が国でも導入したいですね」

 ファルコの後輩である若手のドワーフ外交官が興奮しながら中を見回す。

 ドワーフ族は元々手先が器用で技術に優れた種族である。今から1千年以上前に新たな思想の閃きに定評のある竜人族と共に国を興したことで、彼らの技術は日々進歩し続けていた。

 だが、そんな彼らを以てしてもこの物体は考えもしなかった物であった。

「もしも、だが。爆弾などをこれに載せて要塞の上から落とせば、かなり攪乱はできそうだな」

「いや、それよりも特殊な精鋭部隊を乗せることで、敵陣への強襲などに使えるのでは? 恐らく鉄でできたこれならば、原始的な銃火器程度は受け付けないだろうし、歩兵銃を持たせた者を使えば、上空から軍勢の真っ只中に銃弾の雨を降らせることもできるぞ」

 ファルコの言葉にキトゥンが意見を返す。

 特にキトゥンのそれは、現代で言う所のヘリボーン運用思想に近かった。

 と、寺内が再び乗り込んで機内に声をかける。

「これより離陸します。シートベルトの着用をお願いいたします」

 同乗員からシートベルトの使い方を教わった使節団の面々はしっかりとベルトを締め、顔を引き締めた。

 その直後、不思議な浮遊感と共に期待がフワリ、と浮き上がった。

「わわっ、浮いた!!」

「ほ、ホントに飛ぶのか……!!」

 キトゥンや外務局の若手が叫ぶが、あまりにもうるさい機内では余程大声を出さないと聞こえそうにない。

 飛行してから10分後、沖合20kmに停泊していた巡視船『しきしま』のヘリコプター甲板で、誘導員が着陸位置を誘導する。

 その船の形状を見て、防護巡洋艦の艦長を務めているダイルスは目を剥いた。

「(これが……こんな大きく、先進的な形状をして、砲らしき物を搭載した船が、非軍用船だというのか!? だとすれば……軍用船の実力はこんなものの比ではない。もしかしたら……世界第2位の実力を誇る我が国の海軍が、手も足も出ずに負ける……かもしれない)」

 列強国海軍の軍人として、自国の技術より優れた物があるという事実を認めたくはなかったが、目の前に突き付けられてはそれを認めざるを得ない。

 着艦したヘリコプターは次第にエンジンの音を弱めていく。

 横の扉が開くと、パイロットの寺内が『もう降りていただいて大丈夫です』と声をかけてきたので、使節団の面々はゆっくりと船の上に降りた。

 目の前には園村と国元の2名が待機しており、一同を船内へ案内した。

 船の内部は非常に暖かく、優秀な暖房装置を使っていることが窺えた。それだけではない。揺れが王国の船と比べてとても少ないのだ。

「(やはり、この国の技術は我が国とは隔絶した物がありそうですね……こんな技術を持つ国のもとに派遣されるとは、私はなんと運がいいのでしょう)」

 総合技術開発部のホグノは平静を装っていたが、背中にはずっと冷や汗をかきっぱなしであった。

 船内で割り当てられた部屋へ入ると、ホグノとキトゥンは思わず座り込んでしまった。

「キトゥン殿。竜騎士という戦士の観点から見て、この船をどう思われますか?」

「そうですね……『とてつもない』と評することしかできません。航行速力は我が国の主力艦よりも速いですし、非軍用船でありながら鋼鉄製で、しかも機械動力船です。つまり、それだけ技術が成熟していると私ですら思いました。ホグノさんはどう思われたのですか?」

 ホグノもまた、嘆息しながら答えた。

「そうね。はっきり言って我が国は日本の足元にも及ばない技術程度しか持っていないのかもしれない。日本は恐らく、これほど高度な技術を有しているだけに、分析能力にも優れているはず。だとすれば、我が国と自国との技術差から、脅威になるかそうでないかを判断して、もっと高圧的に出ることもできたはず。それをしないということは、恐らく日本国は平和主義であると考えられるわね。それも、かなり謙虚で控えめな国民性なのだと思う」

 ホグノの分析はほぼ的中していた。この時点で彼女は、日本人の国民性の一部までも見抜いていたのである。

「それだけに、その最初の接触国が我が国であるというのは途方もない幸運だと私は思っているわ。上手くいけば、我が国の大きな発展に繋がると思う。日本と付き合いが続けば、いずれはイエティスク帝国を超える技術を手に入れることも不可能ではないと思うわ」

 『でも』と彼女は続ける。

「これほど高度な技術を有し、かつ運用しているというのなら、恐らくだけど情報の機密性、重要性というものも理解しているはず。つまり、軍事技術や中核的な技術は輸出してくれない可能性が高いわね」

 列強国の技術開発に携わる存在としての予想だったが、一部当たっていた。彼女は知る由もないが、日本国は国家へ接触する前に『新世界技術制限法』という法律を制定していた。

 新世界において日本の技術が他国と隔絶した発展度であることが窺えたため、日本の領地として組み込んだアメリカ大陸の者たち以外には日本の中核的技術を一切公表しないというもの。

 公的機関から民間にまでその影響力は広く及んでおり、新世界における日本の優位を保つためにと非常に細かく設定された。

 まだ穴の多い法律ではあるが、それもこれから国家と接触していくうえでその穴を埋めていく予定である。

 だが、ある部分に関してはあえて緩和される部分もある。それは後述するので、今は置いておこう。

「だからこそ、我が国はなんとか日本国の友好国となる必要があるわね。この結論に至っている者が他にいるかは分からないけど、使節団全員、そしていずれは王国民全てを親日家にするくらいのつもりでいけば、いずれは日本も規制を緩和してくれるはず。まぁ、それを想定したところで、反対意見は出るでしょうから、この目で日本を見て、撮影して、そして評してから全ては始まるわね」

 その後『しきしま』は、巡航速度を維持しながら日本国は横須賀市へと向かうのだった。



 ――2024年 2月27日 巡視船『しきしま』

 朝食をとってからからしばらくキトゥンはボーっと海を眺めていたのだが、やがて水平線の彼方に、緑に覆われた山が見えることに気付いた。

「あれが……日本国。」

 遠くから見た限りは、緑に覆われた山の多い土地しか見えない。

 だが、近付くにつれて彼女はその表情を険しくする。街はそれほど活気があるようには見えなかったが、港の規模を見て驚かされた。

「な、なんだとっ!?」

 声を上げたのはキトゥンではない。海軍防護巡洋艦『ガレナ』の艦長であるダイルスであった。

「あの軍艦……沖から見えるほど大きいぞっ! しかし、なんなんだあの形状は!? なんであんなに平たい甲板をしているんだっ!?」

 港に近付くにつれて、その大きさに驚かされた。目測だが300mは超えているように思える。

 他の軍艦らしき灰色の船も、150mを超えている。恐らくだが、最新鋭艦の『クォーツ』よりも大きいと思われた。

 だが、砲らしき物が1つしか搭載されていない。しかも、恐らくは130mmほどの小口径砲であった。

 少なくとも、この『しきしま』に搭載されている砲よりは口径が大きいようだが、それでもはっきり言って自国の戦艦の主砲に比べれば打撃力不足に見えてしまう。

「何故だ……なぜあんな小口径砲しか搭載されていないんだ……? ん? なんだ、あの艦橋の装備は? よく分からない箇所が多くみられるな……」

 キトゥンはポカンとしながらダイルスの呟きを聞いていた。

 すると、港の奥から灰色の船が1隻近付いてきた。船長の島津が船長室から出てきてダイルスに話しかける。

「我々のお迎えですよ。あれは我が国の主力艦の1つで『むらさめ』と言います」

 『むらさめ』と紹介された船は他の船同様にスマートで先進的な形状をしているが、やはり艦首部分に単装砲が1門装備されているだけで、あまり強そうには見えない。

 だが、ダイルスはその船から眼を離せなくなっていた。

「あの船……一見貧弱そうに思えるが、艦橋が露天になっていない。あれならば天候が悪くても相応の指揮が執れるはずだ。それに、恐らくだがあの単装砲は無人砲塔だ。もしかしたら……考えたくはないし、信じられないが、あの船の砲塔は人の手以外で動いて、砲弾を発射できるようになっているんじゃないだろうか……いったいどのようにしてあのような船が作られていて、どのように運用するのか……できることならば是非そこも聞きたい」

 それは総合技術開発部のホグノも同様だった。

「あの船、我が国の主力艦と違って、濃い黒い煙を吐き出していない……この『しきしま』という船もそうだけど、日本の船はどのような動力機関を使用しているのかしら……いえ、機関の構造だけじゃない。燃料だって、我が国の直立型往復動蒸気機関で用いる円形石炭専燃缶とは全く違うように見える……凄い、凄いわ!! あの船、きっと私の想像を遥かに超えるほどの超技術の塊よ!! 日本の外交官が我が国の主力艦を自国の基準で130年ほど前と評したらしいけど、それ以上かかっても作れるかどうか……いいえ、明確に『こうすればいい』という思想が誕生すれば、それに向けて努力すればいい。つまり、もっと短くできる可能性もゼロではない?」

 呟き続けるホグノを見てキトゥンは若干引いていた。どうやらホグノは技術的考察にふけると独り言を呟く癖があるらしい。

 『しきしま』は『むらさめ』の案内を受けて横須賀港へと着岸する。使節団を降ろすと、『しきしま』は再び海へと乗り出していった。

 ファルコはそれを見て驚き、国元に問いかけた。

「すみません、『しきしま』はどこへ行くんですか?」

「『しきしま』は、今は鹿児島県……日本の南の方にある土地を母港にしているんです。今回使節団を日本に送る役目を果たしたため、母港へ戻って検査や整備を行なうんです」

「……とても船を大事にしているんですね。」

「えぇ。我が国は元々島国ですので、船舶の重要性は理解しているつもりです。帰りの心配はしなくても大丈夫ですよ。港湾都市である横浜に停泊している同じ大きさの巡視船『あきつしま』でお送りしますので」

「そうでしたか。教えていただき、ありがとうございます」

 上陸した直後、ダイルスが国元に問いかけた。

「国元殿。あの広い甲板の船はなんなのだ? あれも軍艦だというのか?」

 それは、確かに軍艦であった。だが、日本の船ではない。

「あれは、『航空母艦』、通称『空母』という船です。あの船は広い大海原の上で飛行機を運用するために作られた物なのです。皆様の基準で言えば、ワイバーンを陸地から遠く離れた場所で運用するための物体ですよ」

「ほぅ、イタリシア王国の巨鳥母艦を巨大にしたような物だな」

 聞きなれない言葉があったが、とりあえず説明することにした。

「あの船は、我が国が転移する前に同盟を結んでいた国が、我が国の足りない防衛力を補填するために派遣していた艦の1隻なのです。名前を、『ロナルド・レーガン』と言います」

 ロナルド・レーガン。アメリカ海軍原子力空母『ニミッツ級』の9番艦であり、2015年に原子炉のウラン燃料を交換するために日本を離れた『ジョージ・ワシントン』の代わりに配備された、全長332.9m、全幅76.83mを誇る旧世界でも最大級の戦闘艦艇であった。

 東日本大震災の際には、物資を積んで『トモダチ作戦』を実行した艦としても有名である。

 転移の際に在日米軍も道連れになっていたのだが、当然『ロナルド・レーガン』もそこにあった。

 それから約6年、最低限の練度維持をするための訓練以外ではほとんど出港することも無くなり、乗組員の多くは現在日本で開発中の航空護衛艦及びその艦載機の運用方法について指導している。

 上陸した一同は園村と国元の案内を受けて歩き出す。

「これからどこへ向かうのですか?」

「我が国に残る、唯一の『戦艦』と呼ばれる船を、是非皆さんにお見せしたいと思いまして、その船が展示されている場所へ向かいます。ご安心下さい。10分ほど歩けば到着しますので」

 日本派遣使節団は歩きながら街の様子を窺うが、彼らの想像していた港湾都市とはかなり違っていた。

「もっと賑やかな場所だと思っていたのですが……これほど活気がないとは思いませんでした」

「そうでもないんですよ。転移するまでは護衛艦や米軍の空母を見に来る観光客も多かったんですよ。でも、今は常に準有事体制ですので、観光客を歓迎する方に手が回らなくなり、あまり来なくなってしまいました」

 それを聞いたファルコは驚く。平和そうな日本が、どこかと争う可能性があるのだろうか、と。

「……本当はお話しするべきことではないのですが、皆さんを信用します。我が国の防衛力は、正直足りているとは言い難い状況なのです」

「どういう意味ですか?」

 軍人であるダイルスが尋ねる。数は少なそうだが、とても強力な装備を持っているであろう船を保有しているようなので、とても守りが足りていないとは思えなかったのだ。

「以前お話しした通り、我が国は転移した直後に西にある大陸を手に入れました。ですが、その大陸全土を防衛するためには、まだまだ戦力が足りないのです」

 外交官のファルコは以前、日本が作成した世界地図(人工衛星とかいう物体を使って宇宙から撮影したという話を聞き、その場で気を失いかけたのは誰にも言えない秘密だ)を見せてもらった時に、日本という国は元々、たった4つほどの大きな島からなる島国であったことを聞かされていた。

 そこに考えが至った瞬間、ファルコは答えを導き出していた。

「つまり、これまで島国を守る程度で十分だった戦力が、これまでと比較にならないほどに拡充しないと足りなくなってしまったということですね?」

「はい。現在我が国は機能を集約、ある程度省いた護衛艦を建造することで数をとにかく揃えようとしています。機能を限定的にしたことでそれほど期間を掛けずに1隻を建造できるのが不幸中の幸いですが……それでも、大陸の東側に多く配備するばかりで、まだ西側はほとんど手つかずという状態です」

 ファルコは冷や汗を流した。これは本来、国家機密級の情報と言っても過言ではない。それを自分たちに話したことの意味、それは即ち……

「(我々の技術力、軍事規模程度ならば、現状でも防げるということなのだろうな……悔しいが、日本から見た我が国はその程度ということなのだろう)」

 だが裏を返せば、それを理解させることで日本への侵略行為を諦めさせることもできる。それに気づかないファルコではなかった。

「っと、到着しました。これが我が国に唯一残された大日本帝国時代の戦艦、『記念艦三笠』です!」

 国元が高らかに叫ぶと、目の前に鎮座している『それ』に全員が釘付けになった。

「こ……これは!!」

「に、似ている! 確かに似ているぞ!!」

 自分たちの軍艦によく似た造りを見たファルコとダイルスは目を剥いた。

 だが、海軍関係者であるダイルスには細部に違いが見られるように感じた。

「よく見ればあちこちに違いが見られるな……わずかだが、こちらの方が強そうに見える気がする」

 ダイルスの言う通りであった。『富士』も『三笠』も主砲の口径及び数は同じだが、15cm単装砲の数が『富士』は10基10門だが、『三笠』は14基14門となっている点、『三笠』に搭載されている40口径単装砲が、『富士』には存在しない、機関出力が『富士』が1万3500馬力なのに対し、『三笠』は1万5千馬力という差がある。

 ただし『三笠』の方が、3000t近くも排水量が増していることからなのか、速力は僅かに0.25ノット『富士』の方が速い。

「凄いな……こんな優れた構造の船ですら、日本では旧式なのだな」

「だが、何故これを見せてくれたのですか?」

 国元はにこやかな表情を崩さない。

「我が国で転移後に制定された『新世界技術流出制限法』では、到達基準に達していると思判断できる技術に関してはある程度公開することが認められています。この船は、我が国の基準で130年前の船です。模倣されたとしても我が国の防衛基準に影響がないと判断できたため、今回皆さんに公開することを決定しました」

 ちなみに、本来ならば『未成熟な文明で兵器に関する知識をもたらした場合、紛争などの原因になりかねない』という考え方もあったこの法案だが、『信用できる友好国となりえそうで、尚且つ旧世界の観念で『非人道的』と判断されなかった『歩兵が扱うレベルの兵器』に関する輸出を認めて外貨を稼ぐべきだ』という意見が与党内の一部で出た。

 この背景には日本の文明レベルがこの世界の基準からすると隔絶した発展度であることから、いずれは日本がこの世界のアメリカのような『世界の警察』としての立場になる必要性が出てくるであろうという意見が与党のみならず野党、及び防衛や軍事方面に知識のある国民からも出ていた。

 そのため、『信頼できると判断された』友好国には日本とある程度同じ装備を使ってもらうことで、装備の均一化による弾薬の融通などができるようになれば非常に便利になるという理由を付けることで、これまでの兵器輸出禁止原則の一部緩和を求める声が上がったことも大きい。

 こうすることで生産される兵器の単価を更に下げることができることに加えて、同じ兵器を使用すれば弱点を知っていることも含めてそれ程日本の防衛に影響は出ないであろうという想定が出たこともあり、日本では現在『輸出して軍事使用されても問題なさそうな物』の目録を制定中である。

 日本はこの6年ほどでこれまでの地球における常識が通用しなくなるであろうことを様々な角度から分析して検証していたこともあり、武器輸出や技術の流出については多角的に検討されるようになっていた。

「そういう事情がございますので、ひとまずはこの『三笠』をじっくりと御覧になってください」

 使節団の面々は『三笠』の中へ入り、軍事関係に詳しい国元の解説を受けながらこの船がどのような経緯をたどって日本へ来て、そして大激戦を繰り広げたかに聞き入った。

 日本海海戦での激戦から世界中の海軍軍人に愛され、戦後は荒廃していたところをアメリカ海軍の軍人、ニミッツ海将が憂いたことで修復され、今は博物館を兼ねた記念艦として人々を楽しませているこの船だが、所々に往時を偲ばせる雰囲気が漂っている。

 雄大な主砲、各所に搭載されている副砲、そして指揮所の上から眺める横須賀の海。どれもが美しかった。

 1時間半ほどで『三笠』を見学し終わった後は、横須賀の名物の1つである『軍港巡り』で日米両国の戦闘艦艇を見てもらう。

 先程遠めに見えていた『ロナルド・レーガン』や日本の様々な護衛艦、そして掃海艇などの縁の下の力持ちと言える装備まで、余す所なく見せたのであった。

 軍港巡りが終わった頃には昼過ぎになっていたため、ここから東京へ出発することになった。

今回は私も年に何回か赴く横須賀が舞台になりました。

もっとも、軍港めぐりや記念艦三笠くらいしか紹介できませんでしたが……

次回は東京へ出発です。

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