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潰された眼

今月の投稿になります。

すみません、先月何日に投稿するって書き忘れました(^-^;


電子戦の結果が、今回の戦いです。

 港湾部が機雷で封鎖され混乱に陥っている頃、電探が使えなくなった影響を受けて、『カチューシャ』戦闘機5機が上空で警戒監視任務に就いていた。

『おいユーラ』



――ガガガッ、ガガガガー……――



『そっちの電探の具合はどうだ?』



――ザザザピー……――



『通信もてんでダメだ。ったく、どうなってやがる』

 彼らは港湾部防衛隊司令部より『各種電探が使用不能となっている。戦闘機隊・哨戒機隊は上空へ上がり、警戒監視を実行せよ』との命令が下ったのだ。

 しかし、少し前までは通じていた無線通信すら通じなくなっており、現場ではかなり混乱している状態である。

 そして、そんな状況ではついつい独り言も多くなってしまう。

『まさか……敵対したっていう日本国の仕業なのか?』

 末端の戦闘員である彼ら(と言っても、パイロットは貴重なエリートの士官以上で構成されているため、末端とは言い難いのだが……)には敵がどんな兵器を使っているかという情報はほとんど入ってこない。

 いや、そもそもイエティスク帝国の情報収集能力が低いこともあり、日本のハッキリした能力については未だに不明な部分が多いままなのだ。

『ったく、上の連中も変な仕事増やしてくれやがって……日本って国がどんだけ強いのかは知らないけど、前線に出て苦労するのは俺たちだってのに』

 思わず独り言が口を突いて出ているようだ。複座式の航空機のパイロットはパートナーとのお喋りが多いため多弁になるという話があるそうだが、この場合はどちらかと言うと不安を紛らわす意味が強い。

 そしてこのことから伺えるように、帝国の上層部は世界制覇に強い意欲を掲げているのだが、実は下の兵士たちになるとそれほど意欲的でないという一面がある。

 彼らからすれば、『自分たちの居場所が守れればそれでいい』、『慣れないところに行って苦労するのは面倒くさい』という思いがあるのだ。

 いつの時代でも、戦争によって一番割を食うのは民衆の次というならば間違いなく最下層の兵士たちだろう。

 なにせ、最前線で真っ先に犠牲になる可能性を背負っているのだから当然と言えば当然だ。

 それは精鋭と言われるパイロットも例外ではない。

 パイロットは育成が困難であり多額の資金を必要とするが、その割に数を揃えることができず、しかも他の兵科に比べて訓練における受傷事故も多い。

 大日本帝国では太平洋戦争の時にパイロットの速成に失敗し、エースを最前線にばかり送り込んでいたことが災いしてミッドウェー海戦やその後のガダルカナル攻防戦を始めとする諸々の戦いにおいて多数の熟練パイロットを失ってからは瞬く間にと言っていいほどに凋落した。

 末期には菅野、雁渕などの名を馳せたパイロットも生まれてきたが、それでもかなり厳しい戦いを強いられたという。

 え、赤松の兄貴?あれはちょっと他者と比較していいのかどうか……凄腕だったのは間違いないのだろうが。

 ドイツも日本と同じ精鋭最前線主義であり、エーリッヒ・ハルトマンやゲルハルト・バルクホルン、ヴァルター・クルピンスキーなどのエースパイロットが続々出てきているが、ハルトマンやバルクホルンなどの一部は戦後まで生き延び、結婚までしているあたり死亡者の多い日本とはだいぶ違うだろう。

 人口も国土も資源も豊富なアメリカはどうしたのかと言えば、なんと驚くべきことに領土内にある五大湖で運行されていた外輪船の客船を改装した『ウルヴァリン』、『セーブル』という離発着の練習用に使う航空母艦を使っていたという。

 湖となれば当然潜水艦の危険性はなく、五大湖そのものもアメリカの領土奥深くに存在し、その面積は湖というには尋常ではない広さを持つ。

 ついたあだ名が『内陸の海』、『アメリカの北海岸』、『北米の地中海』と言うほど、と言えばその広さが窺えるだろう。

 そんな安全なところで入念な訓練ができて、しかも実戦用の航空母艦を圧迫しないとなれば戦力が広がることは間違いない。

 大戦時の日本もせめて、琵琶湖か、それが無理だったならば秘匿しやすい内湾あたりに飛行甲板を模した設備でも設けて赤トンボでいいから離発着の訓練ができなかったのかと思う作者である(無茶言うな、というのはなしで。あくまで願望なので)。

 強いて言えば、日本では実戦に投入できない状態となっていた航空母艦『鳳翔』などがあったことである程度訓練はできていたこと、それ以前に末期には燃料が不足気味となり大型艦艇は動かすこともままならなくなっていたことを考えれば、仕方のない話かもしれないが。

 とまぁ、そんな事情もあってイエティスク帝国でパイロットというのは最前線に赴かせる存在としては大変に貴重な存在として扱われていた。

『どうなってやがる……このままじゃ……ん?』

 真っ青な空に濁点のようななにかが見えた。それだけで彼は異様な危機感を覚えた。

『ヤバイっ‼』

 彼はスロットルを上げて急速に上昇し、回避行動を取った。

『ふぅ、これでなんとか……』

 直後、『ガガガッ‼』と猛烈な衝撃が機体を襲った。

『な、なんだ!?』

 後方を振り返ってみれば、エンジンのあった場所から猛烈な火を噴きだしていた。

『そ、そんな‼動力がやられたっ!?回避したはずなのにっ‼』

 急いで機構を作動させ、座席を射出することに成功した。

 上空で落下傘が開いた直後、燃料や弾薬に引火したのか、機体が大爆発を起こした。幸い多少破片が飛んでくる程度で済んだが、彼の驚きは終わらなかった。

「ぜ、全滅……?全滅しているっ‼」

 周囲を飛んでいたはずの僚機が全て撃ち落とされていた。どのような方法を使ったのかは分からないが、敵の攻撃能力は想像以上に高いようだ。

「マズい……このままでは、基地を守るのは高射砲と機関砲、それにわずかな地対空誘導弾だけとなってしまうっ‼」

 彼の危惧は、当たることになってしまう。



『ターゲットキル。続いて地上目標への攻撃を開始する』

『了解。十分注意されたし』

 上空では航空母艦……失礼、航空護衛艦『あかぎ』から発艦した『Fー3C』攻撃隊が既に敵艦隊を過ぎ、敵港湾部上空へ到達しようとしていた。

 これまでの戦闘で警戒に当たっていた敵機を全て撃ち落とし、さらに電波妨害も行っている。この後爆撃を行い、基地機能を完全にマヒさせるつもりだ。

 上空を飛行している電子戦機も活躍しているようだ。

 もっとも、最近敵機を撃墜していた空自が見ていたレーダーの報告によると、敵機の速度はだんだんと遅くなっていたということらしく、首都防衛隊はほぼ壊滅状態らしい。

 中には、時速600kmほどの機体まで上がってきたということを考えると、旧式なレシプロ機までも防空戦に駆り出そうとしたのかもしれないと統合幕僚監部では判断していた。

『あと少し……あと少し……』

 敵首都上空に達する頃には通信管制を敷いており、誰の声も聞こえない。

 なので、呟いているのは自分の心を落ち着かせるためである。

 そして、ブザーが鳴る。投下ポイント……敵航空基地及び対空レーダー管制塔、そして大型の対空砲を発見したのだ。

『クリアードフォー。アタック……レディー、ナウ』

 直後、爆弾が『Fー3』のウェポンベイからいくつか落ちていく。

『ボムズ・アウェイ。レーザーフォー。レイジング』

 それぞれレーザー誘導で投下される『LJDAM』。これにより、上空から照射されているレーザーポイントに向かって爆弾が落ちていく。

 わずかな時間を経て、地上で猛烈な爆発が発生する。

『目標破壊完了。これより撤収する』

 先ほども言った通り通信管制中なので誰に聞こえるというわけでもないのだが、自然と呟いてしまっている。

 見れば、既に多数の爆発痕が滑走路を始めとした各所に見受けられる。

 後は制圧したラーヴル基地から飛び立ったであろう空自の『Fー6』及び『ACー3』による、首都・港湾部に対する地上部隊の攻撃である。

 これが最後の、そして最大の決戦となることは皆が分かっていた。

『頼んだぞ、皆』

 誰に聞こえるでもなかったが、そう呟いて『Fー3』は飛び去って行った。



 一方、首都に並ぶ航空基地を叩かれて呆気なく制空権を失った帝国軍は大わらわの状態であった。

「おい、そっちの高射砲はどうした‼」

「ダメだ!さっきの爆撃で一気に使い物にならなくなった‼電探塔もやられたっていうけど本当か!?」

「それどころじゃない!先ほどの攻撃で司令部まで吹っ飛ばされた‼指示が全然飛んでこない‼」

 現場は完全に大混乱である。的確な指示を飛ばしてくれる司令塔……人体に例えれば脳味噌が不意打ちを喰らって機能停止してしまったようなものである。

「こんな状況でさらに急襲されたら……」



――パラパラパラパラ……――



「ん?雨か?」

「バカ言うな。カンカン照りだぞ?」



――ドパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパッ‼――



『Fー6』戦闘機が投下した爆弾の中にはLJDAMのみならず、弱装甲目標を撃破することが可能なクラスター爆弾『霰空』もあった。

 このため、基地機能を少しでも復旧しようと外へ出ていた兵士たちの多くはその爆発に巻き込まれて死亡するのだった。

 しかも滑走路でも大量に爆発したものだから、先ほどのピンポイント爆撃に加えての猛攻で滑走路のほぼ全てのコンクリートが引き剥がされ、不整地運用能力のある航空機であろうとも離着陸できないと考えられるほどに破壊されてしまった。

 滑走路付近の構造物(この場合は高射砲は機関砲などを含める)はほとんど破壊しつくされたため、イエティスク帝国軍・港湾部防衛隊はその戦闘能力をほぼ喪失したと言ってもいい状態であった。

 


 余談だが、今回の及び前回2回の基地攻撃の教訓から、『前線に出て戦闘をする場合、まずは電子妨害をすることが前提になるので、少なくとも海外へ派遣する機体に関してはステルス機を使う意味がないのではないか?』という疑問が提示されることになる。

 ステルス機は本土防衛のためにのみ使用すればいいのではないか、ということだ。

 ステルス機は推力変更ノズルの効果で相応の運動性能を獲得していているが、実際には『Fー15』など、制空戦闘に特化した戦闘機に比べるとその戦闘力は落ちるという説もある(あくまで一説)。

 そのため、電子戦による妨害がうまくいくのであれば、なにも高価で技術的に機密が多すぎるステルス戦闘機を使う理由はなくなるのではないか、ということであった。

 実際、コソボ紛争において米軍の『Fー117』ナイトホークが携帯型地対空誘導弾によって撃墜されたことによりセルビアから中国へ提供されたナイトホークの部品によって中国のステルス機開発能力は一気に進歩したという噂もある。

 そのため、ステルス機は使わないに越したことはない(もっとも、それを言ってしまったらどんな兵器であろうとも使わないに越したことはないのだが)という話になるのだ。

 仮に本土であれば、領土内に墜落することで回収できる確率はグンと上がることに加えて、回収までの時間も大幅に短くなるだろう。

 そのため、本土防衛に関してはステルス機も重要な存在となる。

 だが、果たして海外に派遣される部隊にまで必要となるのかどうか。

 おまけにこれに関しても、果たして電波妨害が通じるかどうかが焦点となる。

 現代国家を相手にする場合、電子戦を行うのは『当たり前』になっているため、それを考慮するとステルス機とどちらがコスト・機密保持の場合有利かという話である。

 それに対する答えは、それからしばらくの間議論されても出ることは無かった。



「……お、終わったのか?」

 防空壕から出てきたのは、港湾部防衛隊第一高射砲部隊所属の新人二等兵だった。

 彼は敵の圧倒的な能力を目の当たりにして、思わず本能的に対戦車壕に飛び込んで隠れてしまったのだ。

 敵の攻撃は『苛烈』、『猛烈』、『強烈』の言葉が足りなく感じられるほどに凄まじい威力と連続性だった。

 砲弾では不可能な連発力で、いったいどんな爆弾を使えばあんな爆竹の巨大版のような連続爆発を引き起こせるのか、全く想像もつかない。

 オーガ族という2m近い巨体をブルブルと震わせて隠れる姿は、中々にシュールである。

 そんな攻撃に怯え続けて何分経ったか、何時間経ったのか、ふと気づけば音がやんでいたため、恐る恐る顔を出してみた。

「なっ……!?」

 彼の目の前に広がっていたのは、運用されていたはずであった多数の兵器の残骸と、それをはるかに上回る数の屍だった。

「いったい……なにがどうしてこうなった……?」

 彼はやっとのことで対戦車壕から出てきたが、その有様は正に地獄か、言い伝えにある『地獄の黙示録』とでも言うべき状態だった。

「世界最強を誇るはずの我が国が……こんなに呆気なく……?」

 上を見れば、多数の回転翼機が乱舞している。どうやら固定翼機だけではなく、あの回転翼機も攻撃に加わっていたらしい。

 いったいどれほどの数の航空機を投入すれば、このようなことになるのだろうか。彼には全く想像がつかなかった。

 見れば、そのうちの1機がこちらを見つけたようで近づいてきた。

 既に地上からの抵抗はないと考えられたらしく、敵の機体が降りてきた。

 恐らく、防衛隊が本来守らなければいけないはずの海軍基地にも向かっているに違いない。

「イエティスク帝国軍の兵士ですね」

「あ、あぁ……」

「抵抗はやめて下さい。さもなければ命の保証はできません」

 敵兵の手には、自分たちの持っているものよりも洗練された形状の銃が握られている。恐らく、発展した自動小銃だろう。

 二等兵は、そのまま武器を放り出すことしかできなかった。

 こうして、港湾部防衛隊の陸軍基地は制圧されてしまったのだった。

 だが、港湾部防衛隊及び海軍そのものはまだ動いており、完全制圧まではもう少し時間がかかる想定である。



 一方、沖合では1隻の戦艦を中心とする10隻の艦隊が航行していた。

 それはイエティスク帝国本国第一艦隊という最大級の精鋭たちが率いる艦隊であり、旗艦となっている戦艦は、イエティスク帝国最大・最強の戦艦として国民にも広く知られている『ボロジノ級戦艦』だった。

 と言っても、旧世界における前弩級戦艦の『ボロジノ級』ではない。

 船体の雰囲気はドイツの『ビスマルク級戦艦』に酷似しているが、大きさと上部構造物、特に砲塔の構造が大きく異なっていた。

 ビスマルク級戦艦は38cm連装砲4基8門という、イギリスを基本とする欧州の標準的な戦艦の武装だったが、この『ボロジノ級戦艦』は、50口径40.5cm三連装砲3基9門となっていること、副砲兼高角砲として55口径10.5cm高角砲を採用していることがある。

 この高角砲は陸軍の高射砲と全く同じ構造となっており、弾薬も当然共通化されている。

 10年前に陸軍と海軍が会議を行った時、空軍の将校が『海軍と陸軍で同じ口径でも構造の違う対空砲とか、無駄じゃないか?』と言ったことから構造及び弾薬の統一化が推し進められることになった。

 なお、会議当時の空軍は陸軍の高射砲を用いていたのだが、首都防衛隊の海軍陸戦部隊と訓練することも多かったために、海軍の高角砲を陸上化して使用していたことから砲の構造の統一化・弾薬の共通化ができれば様々な費用も安く済むだろうと合理的に考えてのことだったらしい。

 このことを発端に、イエティスク帝国では対空砲はもちろんのこと、機関砲やレーダーの部品などに関する規格統一も進められていた。

 それまでは合理的なかつ論理的な考え方をする海軍と精神論が強めだった陸軍はあまり仲が良くなかったのだが、このことをきっかけに軍の指揮、および情報を統括して管理することが決定されている。

 流石に日本の統合幕僚部ほどではないが、それでも文明水準や組織の所属に伴う人々の考え方を考えれば、十分先進的であった。

 それはさておき。

 駆逐艦や軽巡洋艦に護衛されて進む『ボロジノ』は、港湾内部で発生していた『爆発』から逃れることに成功した数少ない艦隊であった。

 艦長のスルタン・イラリオノフは冷や汗を流しながら航行を続けさせている。

 この艦隊には残念なことに航空母艦がなかった。

 航空母艦は出港しようと港を航行している際に爆発に巻き込まれ、その能力を完全に喪失してしまった。

 そのため、今は形式的に搭載していた戦艦や巡洋艦の艦載機である水上機(Ar 196に酷似)を各方面に飛ばして情報を集めさせているところである。

「……どうだ。まだ電探は回復しないのか?」

「はっ。先程から色々試してはいるのですが……一向に復旧しません」

「ぬぅ……これでは敵機がどこから来たのかすらわからないではないか」

 敵の航空機が飛んできた方角に偵察機を飛ばして敵艦隊の情報を得る。

 完全に後手に回ってしまった感はあるが、だからと言ってできることをやらなければただの無能である。

「司令、艦隊はこのまま第一種戦闘配置のまま警戒航行としつつ、敵艦隊を発見し次第全力で攻撃を加える……それでよろしいですね?」

 問われたのは、この艦隊を指揮する女性艦隊司令、リュドミラ・アンドロポフであった。

 ミノタウロス族らしく背が高く、ボン・キュッ・ボンの反則的なスタイルを分厚い海軍の軍服(しかも冬季仕様)に抑え込んでいるが、帝国人特有のグラマラスなムチムチボディである。

 彼女は冷や汗を流しつつも冷静を装って答えた。

「そうね。それ以外に方法がない、というのが正しい所なのでしょうけど。他に何か情報は入っているかしら?」

「それが、港湾部の水中爆弾のほとんどは潜水艦を対象にしているものだということが判明しまして、水上艦艇にはそれほど影響がないということのようです。まもなく港湾部に常駐している第二、第三艦隊も出港します」

「できれば敵の出方を見たいところだけど……まだ反応が一切ないのよね」

「はい。水中探信儀及び聴音機も全力で稼働させておりますが、潜水艦に関しては影も形もありません」

 すると、リュドミラが顎に手を当てて一瞬考える仕草を見せた。

「数か月前に一瞬異常な音紋を港湾内で検知したことがあるというけど、あの音紋は?」

「いいえ。全く捉えられていません」

 その音紋とは海上自衛隊の潜水艦が機雷を敷設する際に出してしまった僅かな音だったのだが、イエティスク帝国の設置型聴音機の性能が低かったこともあって一瞬のみの検知となり、『機器の異常だろう』とその場では済まされたものだったが、あとで上司に報告した際に『敵の潜水艦の可能性があったというのに報告を怠るとは何事か‼』とこっぴどく雷を落とされたという話があった。

 上司は上層部から『日本国は高度な潜水艦を保有している可能性がある』と聞かされていたために強く警戒していたのだが、残念なことに末端の部下までは伝わっていなかったのだ。

 元々帝国の港湾部の多くの箇所が、有事の際に潜水艦が海底まで沈降して攻撃から退避できるように100m以上まで掘り下げられているために、潜水艦も潜って港に入ることが可能になっている。

 だが言い換えれば、敵の潜水艦を探知できなければ簡単に侵入を許してしまうということでもあった。

 そんな敵の侵入を防ぐために防潜網や聴音機を多数配置していたはず……だった。

「反応はない……では、少なくともこの近辺に潜水艦はいないということのようね」

「司令官はやはり、例の音紋が日本国の潜水艦であるとお考えですか?」

 リュドミラは沈痛な表情で頷いた。

 自国の探知能力が、まだまだ発展途上であるということを思い知らされたからこその悔しそうな表情である。

「とにかく、駆逐艦と軽巡洋艦には徹底した対潜警戒を、他の船はできる限りの対空警戒に努めなさい。異常が発見でき次第、どのような小さなことでも報告すること」

「はっ!」

 だが、既に港湾部の制空権が奪われていることを考えると、敵には航空母艦と強力な艦載機が存在するらしい。

 下手に偵察機(この場合の偵察機は水上機)を飛ばそうものならば、すぐに撃墜されてしまうかもしれない。

「(せめて空母の噴式偵察機が使えれば……いえ、言っても仕方のないことね)」

 イエティスク帝国の保有する航空母艦には、遠心式ターボジェットエンジンで飛行する偵察機があるのだが、これが驚くべきことに、最新鋭の『カチューシャ』戦闘機を無理やり艦載機仕様に改造したものなのだ。

 着艦フックや脚部の強化などはもちろんだが、機首には最新鋭の機上電探を、さらに胴体下部には撮影用のカメラが取り付けられ、極めつけに自衛用として翼下に赤外線誘導空対空誘導弾を2発装備しているのだ。

 このため、かなりの兵装を含めれば結構な重装備である上、最新の機器をこれでもかと盛り込んでいるため、帝国基準でもかなりの運用コストがかかっている。

 だが、帝国としても『できる限り安全に確実な情報を集めたい』、『乗員の安全を保障するのであれば、多少のコスト高はやむを得ない』という考えで作られ、運用されている。

 しかし、そんな高性能偵察機ですら、今の時点では港に釘付けとなっている。

 既に港湾部上空の制空権を奪われたこともあって、無暗に飛ばして撃墜されることを恐れてもいるのだ。

 しかも、通信が途絶えてしまっている(日本の電波妨害によって通信ができない状態から、基地が攻撃されたことで基地との通信が途絶えてしまった)ために、艦隊同士で連絡を取り合おうとしているのだが、そちらもうまくいかない。

「これも敵の妨害だというの……?だとしたら、かなり高度な技術を有していることは間違いないわね」

「悔しいですが、今の我が軍にこれに抗する術はないでしょう」

「電波調整中……ダメですっ!すぐに敵も合わせてきます‼」

「これだけ細かい妨害が可能ということは、かなり細かいレーダー波を使用しているようですな……」

 そう言っている間にも、彼らは既に敵の攻撃範囲内に入ったことに気付かないないままだった。

 


「敵艦隊、既に対艦誘導弾の射程圏内に入っています。いつでも撃てます」

「偵察機より報告。敵艦隊、未だにこちらの位置に気付いていない模様。こちらが制空権を握っているため、撃墜を恐れて偵察機も出していないようです」

 『やまと』型護衛艦の一番艦『やまと』のCICで響いた小野砲術長の声に、艦長の菅生が重々しく頷いていた。

「『武御雷』、発射用意良し!」

「……異界の帝国よ、こちらも容赦はできない。恨むなら恨んでくれて構わん。だが……」

 菅生が目を見開き、大きく叫ぶ。

「それでも日本、ひいては世界の平和のために、今は戦わなければならん‼撃ち方始めぇ‼」

「てーっ‼」

 直後、『やまと』の『後部』に設置された垂直発射装置から、大型の誘導弾が飛び出して飛翔していく。

 『やまと』は大規模な改装を経て、後部主砲を取り外し、垂直発射装置に換装できるようにされていた。

 というのも、『主砲の火力は6門あれば十分』、『というかオーバーキル』という意見が相次ぎ、主砲を1基撤去できるようにターレットリングとその周囲に改造を施し、そこに128セルの垂直発射装置を搭載したのである。

 ここに対空誘導弾に加えてアスロック短魚雷と日本版トマホークである『武御雷』、さらに艦首には新型のアクティブ・パッシブソナーを搭載し、とどめにレーダーを最新鋭の『スサノオシステム』向けの対空・対水上レーダーに換装したことで、それまでの砲撃に特化した船から、対空・対潜・対艦・対地の全てに関する任務をこなせるマルチロール艦へと変化したのだ。

 これにより『やまと』の能力は大幅に向上しており、一部のファンからは『波動砲のない宇宙戦艦』とまで言われるようになっていた。

 流石に『まだ』煙突からミサイルは飛び出してこないが、技術者たちは『いずれ煙突が飾りになる日が来るのならそれもあり』と考えている節がある。

 実際今、上部構造物としての煙突は見直され始めている。

 誘導弾の一部は赤外線で反応する物もあるため、そんな反応を少しでも消そうと思うと、煙突に近い構造物を水の中に引き込むことで排気を熱源として探知できなくする技術が存在する。

 これはスウェーデンの『ヴィスビュー級コルベット』のような小型艦を中心に採用しているもので、ステルス性をより高める方向に役立っている。

 だが『やまと』ほどの大型艦になると排気の量もかなり多いため、水中に排気する構造を作るのは結構難しいのである。

 実際、数千t相当の現代駆逐艦・フリゲートなどでこれを採用している船はほぼないに等しい。

 それはさておき。

 対艦攻撃に用いることも可能なようにプログラミングされた『武御雷』は、素早く海面スレスレを飛行する航行に切り替え、敵艦隊へと真っすぐに飛翔していく。



 一方、イエティスク帝国海軍第一艦隊は、未だに港湾部防衛隊及び他の艦隊と通信が取れないことに苛立ちつつも、敵艦隊を見つけるべく航行していた。

「敵艦隊はまだ見つからないのか!特に空母を叩けなければ、今後の被害は甚大なものになるぞ‼」

「艦長、慌ててもどうしようもない。電子機器が頼りにならない以上、使えるのは人の目だけだ」

 リュドミラの冷静な言葉に艦長も『は、ははっ』と慌てて謝罪した。

 だが、リュドミラの内心も狼狽に満ちていた。

「(なぜ攻撃してこない?こちらの電探はとっくに潰されていて、砲撃の命中精度も落ちているはず……普通に水上砲戦を挑んできてもおかしくはない……なにか……なにかがおかしい)」

 その時、見張り員の一人が『接近する飛行物体確認‼艦隊より9時の方向‼』と叫んだことで思考は中断させられた。

 リュドミラを始めとする艦橋要員のほとんどが見張り員の示した方向に視線を向け、双眼鏡で確認した。

「あっ、あれは……まさか、誘導弾!?」

 一瞬。一瞬だったが、それらしい細長い物体が見えた。

 見えた、と思った時にはもう消え去った……そう思った瞬間、艦隊外縁部から強烈な爆発音が響いた。

「駆逐艦『ガブリル』、被弾‼」

 直後、ほぼ同時に多数の爆発音と炎が吹き上がっていた。

 当然、旗艦の『ボロジノ』にも多数の爆発と衝撃が襲い掛かってきた。

「船体各部に被弾‼」

『第一主砲砲身曲損!使用不能‼』

『左舷対空機関砲、全滅‼使用不能‼』

『後部水上機格納庫に命中!現在消火活動中‼』

 どうやら旗艦である『ボロジノ』には多数の誘導弾が命中したらしく、その被害は甚大であった。

 しかも、最大の武器である主砲も1基3門が使用できなくなるという事態である。

「他の艦の被害確認を‼」

 見張り員も先ほどの衝撃で転げてしまった者が多かったが、それでも己の職務を果たすべく再び立ち上がる。

「だ、ダメですっ‼ 駆逐艦は全て沈没‼ 巡洋艦も『ノヴゴロド』を除いて全て沈没していますっ‼」

 日本側は艦に装備されている魚雷発射管に命中させたものが多かったらしく、駆逐艦などは1発で真っ二つになって轟沈していた。

 ノヴゴロドはいわゆる大型軽巡洋艦の1隻だが、水雷員が危険を感じて魚雷を海に投棄したことで誘爆による轟沈は免れていた。

 だが、それでも2発の誘導弾で大破状態となっており、戦闘続行は不可能なのは明らかだ。

「くっ……戦えるのは本艦だけか……」

 しかし、仮に戦えるのが1隻だけだったとしても、首都に最も近い港湾部を守る上で、その1隻が逃げるわけにはいかない。

 彼らはこれから、さらに絶望的な状況を目の当たりにすることになる。

我が国も怠っていないとは思いますが、どうか電子戦で負けないでほしいですね。

さもないと、全てが封じられかねないので。


それはさておき、アーケードでいよいよレイテ沖海戦後編がスタート!

私も休日に抜錨するつもりで、ガンビーもアイオワも絶対手に入れて改装します‼

そして所属部隊入りカード欲しい‼


次回は12月5日に投稿しようと思います。

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