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海中の悪魔

今度は海からの攻撃です。

以前からご指摘のあったネタを一部とはいえ出してみましたが……果たして受け入れてもらえるかどうか。

あと、元々しばらく前に書いてそのままなので、確認はしましたが相変わらず修正箇所は多いと思いますので悪しからず(^-^;


――西暦1751年 12月22日 イエティスク帝国 元ラーヴル基地

 日本及び連合軍によって占領されたラーヴル基地では、日本による復旧作業が手早く進められていた。

 機械化による速度の向上と、人海戦術による数の力もあって、占領から1週間足らずで簡易的ながらハンガーまで備えるという状態であった。

 陸上自衛隊及び航空自衛隊の施設科、さらにその教えを受けて機材を導入したアヌビシャス神王国陸軍工兵部隊の建設能力は、この世界を基準にしても機械化がかなり進んでいるイエティスク帝国のそれより数段上であり、あと必要なのは各種航空機用の燃料タンクくらいという状態であった。

 施設科を率いる槇原一佐は、ほとんど工事の終わった基地を眺めながら嘆息していた。

「やっとここまでこぎつけたか……昔に比べれば機材の能力も上がったから少し早くなったとはいえ、もうちょっとなんとかならなかったもんかね」

 当然この数日間もイエティスク帝国が基地設営を妨害するべく空軍及び陸軍が奇襲をかけて基地設営を邪魔しようとしていたが、防衛に回った自衛隊は攻める時の何倍も力を発揮するため、想定以上に呆気なく蹴散らせてしまった。

 空軍の場合は爆撃機らしい第一世代レベルのジェット機(回収された残骸を見た航空機マニアの隊員が、Ar234 ブリッツに酷似していると発言)を使用しており、それ以上に発展はしていないようだった。

 戦闘機も含めて調査した結果、誘導弾に対抗するための措置……チャフやフレアは備わっていないらしく、帝国が誘導弾に対してまだ無力に近いというと自衛隊は判断していた。

 陸軍は奇襲ということを想定したからか、最大でも迫撃砲しか持ち込んでいなかったため、サーモグラフィ画像で捉えられた挙句滅多『撃ち』にされて全滅してしまった。

 陸軍に関してはわずかな人数が近くまで車両で接近して、そこから攻撃するつもりだったらしい。

 車両に関しても奇襲を退けた後に回収しておいたが、これはアメリカの『M3スカウトカー』に見た目が酷似しており、調べたところかなり生産性に配慮された車両であることが分かった。

 ドイツは戦車・装甲車問わずかなり凝った設計をするのが好きなお国柄なのだが、そんな戦車を保有している割に装甲車は生産性重視のようである。

「一目じゃ計れない人間性……こういうのがあるから、人間の開発する技術というのは面白いんですよねぇ」

 とは、この車両を見た時の学者の言葉だった。

 その後、首都スターリンを包囲するための作戦を練りに練った結果、戦車を先頭に部隊は出撃するのだった。



――3日後 イエティスク帝国 首都スターリン南部郊外20km

 旧世界におけるロシアとは異なり、近郊にいくつか小高い山がある首都スターリンの南部に位置するポイント。

 山とは言うが枯れ木がまばらに生えているだけで、人が隠れるような場所はほぼないに等しいため、首都への進入路が制限されることを除けばそれほど問題ではなかった。

 ここに自衛隊及びアヌビシャス神王国軍が布陣しており、榴弾砲は既に街まで射程に入れている。

 もっとも、今回は防衛に出撃してくるであろう敵を掃討するための榴弾砲なので、街中には絶対に砲撃しないと決められているのだが。

 事前に衛星偵察を行った結果、依然多数の敵航空機が残存していることを確認した。

 そのため、連合軍が接近すると制空権確保のために航空機が多数出撃し、攻撃を仕掛けてこようとした。

 だが、上空を警戒していた航空自衛隊の『Fー5』及び『Fー6』の対空誘導弾によって全て撃墜されてしまっている。

 よしんば空自の防空網を突破できたとしても、陸自にも多数の地対空誘導弾が装備されているため、攻撃できる距離まで接近できる可能性はほぼないに等しいのだが。

 このため、連合軍は接近しているだけで敵の航空戦力がどんどん減っていくという、奇妙な感覚に包まれることになったのだった。




――同日 イエティスク帝国 首都スターリン 帝国議会

「……これより、最高御前会議を開始する」

 議題は言うまでもない。首都にまで迫ってきた異界の国、日本国とその傘下に加わる連合軍のことであった。

 まず手を挙げたのは、防衛大臣の下で首都防衛を司る首都防衛隊司令官のアキーモア・カーチナだった。

「そ、それでは現状の軍備についてお知らせいたします。まず、陸軍は無事です。というのも、敵が首都近郊まで押し寄せてからこちらの攻撃圏内に入っていないのでまだ戦闘になっていないためでして……」

 だが、次の言葉はかなり言い辛そうだった。

「そ、そして、航空部隊についてですが……首都防衛航空隊は全滅。稼働可能な機体は新型機も旧式機も全て上げて敵の要撃に向かわせましたが……1機たりとも帰ってきませんでした」

 会場では幹部たちが配られた資料こそ見ていたが、現場のトップから改めて聞かされることによって重い空気が漂う。

 皇帝アレクサンドルは会議が始まる前に一通り説明は受けていたが、やはり改めて聞かされることで大きな不安を覚えている。

 それが顔に『不満』のような表情で出ているらしく、周囲の者たちを怯えさせるには十分すぎた。

 外務大臣のアキムスは、まさかこれほど追いつめられるとは思っていなかったこともあり、アキーモアに『なんとかならないのか!?』と問い詰めていた。

 アキムスの詰問するような口調に、アキーモアも苦い顔をしつつ真面目に答える。

「既に南に存在する2つの陸軍基地は陥落しているようです。南側はニュートリーヌ皇国の存在があったため、防備も十分に固めている……はずでした。ラーヴル基地が陥落する直前には首都防衛航空隊の一部も送り込みました」

 そこまで言い終えたところで、アキーモアはさらに苦い顔を見せる。

「その後の報告、連絡がなかったので恐らく、としか言いようがありませんが……派遣した首都防衛航空隊は全滅した模様です。敵がラーヴル基地を確保し、そこを拠点として攻め込んできているのがなによりの証拠ではないかと」

 会議室はざわつき始めた。

 だが無理もない。これまで最強と考えられていた自国の戦力が、敵にほとんど損害を与えることができずにボロボロになるまで叩きのめされているのだから。

 すると、会議室の扉が開いて将校が飛び込んできた……制服から、海軍の将校であった。

「何事だ‼」

「ほ、報告いたしますっ‼出航準備中の『バルチック艦隊』、ぜ、全滅です‼」

「なっ、なんだとおぉぉぉぉっ!?」

 またも湧き出した大きな問題に、会議場は大荒れとなるのだった。



 時刻は数時間以上前に戻る。

 イエティスク帝国北部に存在する、旧世界で言うところのアルハンゲリスク付近に、イエティスク帝国の軍港が存在していた。

 そこには多数の軍艦及び特務艦(日本を基準にすれば大戦期レベルの駆潜艇や哨戒艇と思しき小型艇)が停泊しており、正しくこの世界最強の国家の港であると思わされる。

 中でも一際目立つのが、巨大な飛行甲板を持つ航空母艦であった。

 ミリタリーオタクが見れば、『フォレスタル級航空母艦』に似ていると見るであろう航空母艦は、甲板に『Aー1』スカイレイダーに酷似した雰囲気の機体と『デ・ハビランド シーヴェノム』に酷似した機体を搭載している。

 日本も首を傾げているのだが、イエティスク帝国が旧時代の遺跡を発掘・リバースエンジニアリングした結果建造されたのが、なぜかイギリスのような機体になっているのだ。

 戦車はドイツ・ソビエト寄りになっているのだが。

 遺跡に残されているものの中で高度なもの、合理的なものを解析して作り出したと言ってしまえばそこまでなのだが、日本は戦後に調査することも踏まえて既に遺跡があると思しき場所も衛星偵察で目星をつけているのだった。

 それはさておき。

 港湾部の航空基地で対空電探の画面を見ていた監視員のヤルズは、突如電探の画面に未確認機が『一瞬』だけ映ったことに気が付いた。

「識別信号が違う……味方機じゃない‼」――『緊急!緊急!港湾部沖合200kmの空域に未確認機が侵入した‼要撃機は直ちに離陸せよ‼敵襲来の可能性がある‼港湾部防衛艦隊も出撃せよ‼』

 だが、声を出し始めた一瞬で反応は消えてしまった。

 その直後、電探の画面が荒れ、なにも見えなくなってしまう。

「なんだ……電探の故障なのか?くそっ、直らないぞっ‼」

 出力を調整してみるが、一向に良くなる気配がない。

 すると、沖合500kmに展開している哨戒艇からも中継ポイントを通じて連絡が入る。

『こちら哨戒艇11号。先程から水上・対空電探が使用不能になっている。現在緊急点検をしているため、敵の襲来に注意してほしい……ん、なんだあれ?あれは……艦隊⁉』

「どうした、哨戒艇11号?」

『あれは……な、なんだあの艦隊は!我が国の艦隊ではないぞっ‼敵の可能性が高い‼内訳は……うわぁっ‼』



――ガガーッ‼……



「おい、どうした‼報告しろ‼11号、なにがあった!?」

 その直後、哨戒艇11号からの連絡は途絶えた。非常連絡のための別波長無線がうまく機能してくれたのは幸いだったが、依然電探に反応はない。

「い、一体なにが……哨戒艇の電探も通じなくなっていたようだし……連絡も途絶した……」

 恐らく、敵の攻撃を受けて通信が取れなくなったのだろう。最悪、撃沈されたのかもしれない。

 内訳を聞けなかったのは痛い。敵の規模、艦隊構成が判明すれば、それに対応する作戦を立てられるのだが、そうは問屋が卸さなかったようだ。

 すると、港湾部防衛隊司令官が飛び込んできた。

「未確認機に未確認の艦隊だと!?」

「未確認機は一瞬のことだったので明言できませんが、哨戒艇が確認したという艦隊は間違いありません。哨戒艇11号が報告途中で連絡途絶。恐らくですが、敵の攻撃を受けて撃沈されたものと思われます」

 哨戒艇は基本的に近海で運用することを想定していると同時に荒れる北の海での運用を想定していることもあって、タンブルホームを備えた耐寒・対氷性の高い、頑丈な船体を用いている。

 想定だが、イエティスク帝国の配備している駆逐艦の主砲である13cm砲であれば、5発どころか10発くらいは十分に耐えられるほどの船体強度だ。

 それでいて電気溶接と最新鋭の個割建造方式(地球基準で言うところのブロック建造方式)を取っているため、タンブルホームなどの工作に若干の手間はかかるものの生産速度はそれなりに早く、そしてその分安く済む。

 見た目で言えば、日本の択捉型海防艦に近い構造をしており、強度の高いタンブルホームはむしろ占守型海防艦のそれに近いレベルを持つ。

 主砲は高角・水平の両用砲として開発された76mm砲、さらに40mm連装機関砲と25mm機関砲を連装・単装合わせていくつか装備しているのが主だが、主砲は敢えて大口径にしないことで取り回しの良さと携行弾数を増やすことに成功している。

 速力も高出力ディーゼルエンジン(イエティスク帝国では普通に爆燃式内燃機関と呼称)のお陰で24ノットを出すことができるという、この水準の船としてはかなり高い能力を持つ。

 そして、最大の特徴は対潜兵装であった。

 後部には日本の『K砲』こと三式爆雷投射機に酷似した『ルカー爆雷投射機』に、爆弾のような涙滴状の爆雷を備え、前部には近年開発に成功した24発の爆雷を前方に向けて投射できるヘッジホッグに酷似した兵器『ヨーシ』を搭載していた。

 この前方投射型爆雷は特殊な着発信管を装備しており、敵潜水艦に命中しなければ信管が作動せず、そのまま海の底に沈むようになっている。

 逆に1発でも命中すれば、それに連鎖して他の爆雷が爆発するようになっているため、爆発音があればそれが命中の証となる。

 既存の爆雷投射機ではどうやっても後方の側面にしか投下できなかったが、これにより前方に向かって追いかける敵を攻撃することが可能になった。

 聴音機及び探信儀も極めて性能がよく、太平洋戦争時の日本海軍のそれよりは高い能力を有している。

 哨戒が主任務であるため、最新鋭の対空・対水上電探を装備しており、その探知能力もこの世界を基準にすると非常に高い能力である。

 そんな船が連絡を送っている間に沈められた……ヤルズは嫌な予感がした。

「司令、港湾防衛艦隊は……」

「それだけではない。既に主力艦隊も出港に向けて準備している」

「流石は司令。手が早いですね」

「当たり前だ。敵が迫っているというのに、やられるのを座して見ているわけには……」

 直後、港湾の少し沖合で大爆発が起きた。

「な、なんだ!?」

 窓の外を見れば、出航しようとした巡洋艦がゆっくりと傾き始めていた。

「て、敵の攻撃か!?」

「いいえ!電探には全く反応がありません‼また、港湾内の潜水艦用聴音機も反応なし‼つまり、潜水艦でもありませんっ‼」

「バカな……ではどこから、どうやって攻撃しているというのだぁぁっ‼」

 司令官の叫びに誰も答えることができず、無情にも時間が過ぎるばかりであった。

 


 その頃、ブンカーに隠されていた潜水艦隊も出向しようとしていた。

 潜水艦『Uー15』の艦長は、緊急出港要請に冷や汗を流しつつも艦橋に立ち、準備を進めさせていた。

 隣では副長が矢継ぎ早に指示を飛ばしている。

 機関室では内燃機関に加えて取り扱いの難しい新型噴流機関(ヴァルター・タービンのこと)を始動するべく、機関員が悪戦苦闘していた。

 この機関は過酸化水素を用いているタービンエンジンであるため、取り扱いが非常に難しい。その代わりに水中で20ノットを超える高速を発揮させることが可能ということは、危険性を超えるほどに大きな意味を持つのだが、搭載量が異様に少なく、緊急時にしか使えないのが難点だ。

「副長、哨戒艇が攻撃を受けたとのことだが……どう考える?」

 この一言には『敵がどのような規模なのか』、『敵の能力は』といった事柄の全てが含まれている。

 そして、それが分からない副長ではない。

「そうですね……気になるのは、視界に入るまで哨戒艇が気付かなかったということです。本来哨戒艇には真っ先に敵を見つけてもらうという役目の都合上、最新鋭の電探を搭載しています」

「そうだな」

「しかし、その電探による探索をしている最中に電探が使えなくなった……いったいどういうことでしょう?」

 副長の問いに艦長も答えることができず、ただ『うぅむ』と唸ることしかできなかった。

 すると、機関室から『出港用意良し!』との報告が入る。機関が始動し、船体にわずかな振動が伝わってくる。

「艦長、いつでも出港できます」

「よし、現時刻をもって第2潜水艦隊は出港し、敵の捜索に当たる‼味方でないものを発見し次第、攻撃を開始する‼」

「了解‼出港ヨーイ!」

「半潜行用意‼艦橋を水面に出して航行せよ‼」

「了解‼水槽調整!半潜行航行‼」

 『Uー15』はゆっくりとブンカーを出港し、ベントタンクに水を入れて深度を調整し、半潜行状態に移る。潜ってもシュノーケルさえ出しておけば空気の入れ替えはできるのだが、まず港湾内における水深ではこれくらいでいい。

 そしてそれ程かからずに港湾の外へ出る。

 第一次・二次大戦時の潜水艦は識別信号などで判断するわけではなく、相手の姿を見て、国旗を確認するなどの原始的な方法で確認せざるを得なかった。

 このため、第一次・第二次大戦時は捕虜を乗せた船や非軍事用の船までもが潜水艦の雷撃で撃沈されたことがある。

 それを防ぐ方法と言えば、中立国などは船体の横腹に自国の国旗を大きく描くことくらいであったという。

 それも、無制限潜水艦作戦が発動されると無意味と化し、中立国の船舶も多数が沈められることになったのである。

 もっとも、それ故に両大戦で世界最大の生産力を誇ったアメリカが参戦するというとんでもない事態を招いたわけだが。

 ちなみに余談だが、日本もアメリカも第二次大戦『開戦時』は一応中立の立場だったため、航行する船舶には大きな日の丸や星条旗が描かれていたという。

 もっとも、1941年12月に日本が真珠湾攻撃によって枢軸国側として参戦したために瞬く間に意味をなくしたとも言えるが。

「しかし電探が通じなくなる……まさかとは思うが、敵には電波妨害の概念があるということか?」

「確かに、『電波を発する』ことを知らなければ、『電波を妨害する』という発想は思いつきそうにないですね。それを考えると、仮に襲来している艦隊が噂の日本国のモノであった場合、日本には高い電波管制能力があると判断するべきでしょう」

 艦長は電探の厄介さをよく知っていた。

 味方の対潜哨戒訓練の際、それまで目視でなければ発見できなかった潜水艦の艦橋はもちろんのこと、潜望鏡すら捉えられるようになってしまったのだ。

 もし仮に電探を持つような敵と相対するようなことになった場合、電探、聴音機及び探信儀など、様々な危機による探知を警戒しなければならない。

 本来であれば夜の闇の中であれば潜水艦はその見つけ辛さもあって高い戦闘力を誇るが、探信儀の登場によって水中での、電探の登場によって水上での活動に大きな制限がかかる可能性があると考えられていた。

 現在軍では電波吸収塗料や電探の電波を探知して警報を鳴らす逆探知装置など、様々な対処法を開発しているが、どれも有効的かつ能動的とは言い難く開発者たちも悩んでいると聞く。

 主機関及び主兵器たる魚型水雷兵器に関しては今のところ満足と言ってよい結果だと研究者たちは述べているが、電波兵器やそれらを欺瞞する措置に関してはまだまだ改良の余地があると考えているらしい。

「日本国か……高度な電波管制技術を持つということは……水中移動物体を観測する能力もあると見るべきか?」

「かの国に潜水艦があるかどうかが不明ですからね」

 情報部がこれまでに集めた情報だけでは、日本国がどういった装備を持っているのか判然としなかったのだ。

 ただ、これまでの各国との戦闘から、『巨大戦艦保有の可能性あり』、『誘導弾を保有しているらしい』、『非常に先進的な形状の戦闘機・空母艦載機を保有しているらしい』ということは明らかになっている。

 もし仮に潜水艦も自分たちに匹敵するモノを持っていた場合、その探知のし辛さはかなりのものとなる。

 実際、電探はともかく聴音機や探信儀に引っかかりにくいこの潜水艦は乗組員たちからもかなり好評で、国内では音響誘導魚雷という新兵器も相まって、『絶対無敵の黒狼』などと言われているほどであった。

「まぁいい。敵がこちらに攻め込んでくるというのなら、攻撃態勢を整えている間にこちらが攻撃を……」



――ズズンッ‼



 突如、下から突き上げられるような衝撃を受けた。乗組員の中には一瞬宙に浮き、頭を壁などにぶつけた者までいる。

「!?じょ、状況報告‼」

『こちら機関科‼船体下部損傷‼浸水していますっ‼』

「な、なにぃ!?」

 機関科の乗組員たちは大急ぎで穴を塞ぐ用の角材を持ってきているが、明らかにそんなレベルではない破孔なのである。

 よく見れば、周囲には吹き飛ばされたらしい乗組員の死体が転がっている。

「クソっ‼なんだよこの損傷は‼これじゃどうにもならないぞっ‼艦橋に報告‼」

 報告を受けた艦長は、唖然とするほかなかった。

 まさか、自分たちのホームである港の中で船が損傷し、沈没しそうになるとはだれが思うだろうか。

「艦長‼報告によると破孔は明らかに爆発によってできたものとのこと‼」

「バカな!港に爆弾でも仕掛けてあったというのかっ!?」

「浸水多量……ダメですっ‼長くは持ちませんっ‼」

「そ、そんなっ……総員退艦!総員退艦‼」

 艦長の指示を受けて少しでも浸水を遅らせようとする機関科の乗組員以外が急いで外へ出ようとする。

 幸いハッチのある艦橋は水の上に露出していたため、そこから何人もの兵士が飛び出すことができた。

 だが、それでも狭い潜水艦の艦内である。

 狭いハッチに押し合いへし合いの状態では、抜け出せる人数にも限りがあった。

「おっ、おい!押すな‼俺が先だっ‼」

「バカ言うな‼上官を差し置いて脱出するのかっ‼」

「こんな時に上官もクソもあるかっ‼」

 艦内はギャーギャー騒ぐ乗組員たちで溢れかえり、脱出もままならない状態になってしまった。

 そして、そんな中でも浸水は続く。

「くそっ、もう……持たないっ‼」

 艦橋では艦長が立ちながら総員退艦完了の報告を待っていた。

 だが、想像以上に時間がかかっている。

 自分たちがやられることを想定していなかったわけではないが、それでも思った通りの手順を踏めていないように思えた。

「……訓練は積んでいたつもりだが、やはり訓練と実戦は違うのだな」

「艦長、早く逃げてください。後のことは私が引き継ぎますから‼」

 副長は艦長を逃がそうとするが、艦長はオーガ族特有の強面を歪めながら首を横に振った。

「私には……全てを見届ける義務がある。部下たちを差し置いて脱出することは……できない‼」

「しっ、しかし!」

「副長、君こそ早く退避したまえ。そして脱出した者たちをまとめるのだ。まとめる者がいなければ彼らは真に烏合の衆と化してしまう」

 艦長の言葉に副長は一瞬下を向いたが、やがて顔を上げる。

「……分かりました。失礼、致しますっ‼」

 副長が艦橋からハッチへ向かった直後、まだ生きていた通信機から声が上がる。

『ダメですっ‼浸水多量‼もう長くは持ちませんっ‼』

「……これまでかっ」

 その直後、機関室に大量の海水が侵入してきた。

 ヴァルター・タービンの動力はなんと過酸化水素を用いた化学反応によって発生する水蒸気及び酸素である。それが急激に海水で冷やされたボイラーが破裂して、さらに爆発しようものならば……その末路は言うまでもない。

 『Uー15』は猛烈な水しぶきを上げたと思った直後、真っ二つになって水の底へ沈んでいった。この爆発によって、艦長を始めとして20人以上が犠牲になった……穴が空いてから機関室が爆発するまでに10分以上あったために半分以上の人間が脱出できたのが不幸中の幸いだったかもしれないが。

 脱出した副長は水の上に浮かび上がって泳ぎ始めた。すると、近くで他にも何発もの爆発音が聞こえてくる。

 その音は全て『水中から』聞こえてきた。

 その事実に気付いた時、副長は恐ろしい推測を思いついてしまった。

「まさか……機雷!?対潜水艦用の機雷を、港湾の入り口に敷設したというのかっ!?」

 日本は事前に『潜水艦は大いなる脅威』と認識していたこともあり、潜水艦を用いてこの港湾入り口にこっそりと機雷を敷設しておいたのだ。

 元々自衛隊が運用している機雷は対水上艦艇用だが、今回イエティスク帝国と戦うにあたり、潜水艦に対しても使用できるよう設置深度を調整したのである。

 幸いなことに帝国が設置してある聴音機の能力が防衛省の想定に比べてそれほど高くなかったこともあって、なんの問題もなく敷設ができたのだった。

 しかも、潜水艦用のみならず水上艦用の機雷まで敷設されている。

「なんということだ……日本の能力は、我々の想像をはるかに凌駕しているのかもしれないっ‼」

 すると、『副長!ご無事でしたかーッ‼』という声と共に小さな短艇が近づいてきた。

 どうやら、出航した潜水艦多数が急に爆発したのを見た港湾の職員たちがボートを出してくれたらしい。

 副長を始めとして、100人以上が多数のボートに救助されるのだった。

 これによって、イエティスク帝国の主要たる港湾は完全に封鎖されたと言っても過言ではなかった。

 その後、機雷を掃海するべく出撃した多数の掃海艇も触雷し、3隻が大破、2隻が撃沈するという体たらくを晒すことになるのである。

 そして当然のことながら、その間は主力となる『バルチック艦隊』は出撃することができずにただいたずらに港で惰眠をむさぼることしかできないのだった。

 さらに小型の駆逐艦も掃海具を装備して掃海を始めたが、想像以上の数が仕掛けられているようで、いたずらに犠牲を増やすのみであった。

 特に航空母艦が出撃できないため、港湾部の制空権は現在飛行中の海軍港湾部防衛隊の飛行隊が飛ばしている『カチューシャ』戦闘機のみである。

 港湾部防衛隊司令官はただ歯ぎしりすることしかできなかった。

「どうにか……どうにかならないのかっ!?」

「無理です!機雷を全て除去したと確認できるまでは、駆逐艦でもあの通り撃沈されてしまいます‼」

 実際日本が太平洋戦争時にアメリカの『Bー29』及び潜水艦によって敷設された大量の機雷により、日本の港湾、海は完全に封鎖されたと言っても過言ではなかった。

 米軍は海峡や外海に近い場所のみならず、比較的安全と考えられていた瀬戸内海や、海峡を越えなければならない日本海にまで侵入していたという。

 その結果、数百tという小型船舶ですら身動きがままならなくなり、日本の海上交通路は完全に干上がったのである。

 よく『ミッドウェー海戦及びガダルカナル島の撤退が太平洋戦争の大きな敗因だ』と言われるが、ただの『戦い』というのであれば間違いなくそれが原因だろう。

 だが、その後制空権を奪われた挙句米軍の潜水艦の跳梁を許し、駆逐艦や輸送船はおろか戦艦や重巡、航空母艦までもが潜水艦の餌食になったことを考えれば、日本の敗因は間違いなく航空機の能力向上不足と対潜掃討技術の不足だっただろう。

 海防艦の建造についても泥縄的で場当たり的な計画が多く、米英のような有効的な前方投射爆雷兵装の開発も、優秀な聴音機・探信儀・レーダーの開発にも大変な時間をかけるなど、失敗している。

 そんなトラウマを植え付けられた戦後日本にとって、潜水艦を封じ込めることと防空能力を高めることというのは命題のような感覚があったようだ。

 アメリカから伝授された対潜哨戒技術や『Pー3C』の大量運用と言った行動がそれを如実に示しているともいえる……もっとも、『Pー3C』及び後継機の『Pー1』哨戒機に関しては、対艦誘導弾を搭載できる対艦攻撃機という一面もあるので抑止力としてはさらに大きな意味を持つ。

 それはさておき、『バルチック艦隊』は未だに港を出ることもままならず、機関だけは始動しているものの、錨すら上げられていなかった。

 しかも、基地も船も未だに電探が使えない。

 出力を調整してみても全く変化がないため、工員が急いで点検を始めるが、どこも壊れているところはないのだ。

「司令、やはりこれは敵の妨害によるものと考えるべきです」

「しかし、基地、艦船、そして航空機と、全ての電波の周波数は違うのだぞ?それを全て特定して妨害しているとしたら……敵の解析能力は非常に高いことになる」

「既に港湾内部にまで侵入された上に機雷まで大量に敷設されているのです。もしや……既に敵は、我が軍の戦力を的確に把握し、さらなる攻撃を仕掛けてくるのかも……」

「な、なんだとぉっ!?」

 その時、その言葉を肯定するかのように上空から爆発音が響いてきた。

 2人が窓の外を覗いてみると、先ほどまで上空を飛んでいた『カチューシャ』戦闘機が爆発四散している姿が見えた。

「こ……これはっ……上げられる機は全て上げろっ‼敵が来るぞっ‼旧式機も爆撃機も関係ない‼とにかく上げられる機体は全て上げて、少しでも敵を防ぐのだっ‼」

 港湾司令部の混乱は続く。

いよいよ本格的な首都攻撃に向けて動き始めました。

来年にはこの物語も終わりますが……その終わり方も受け入れてもらえるかどうか……まぁ、元々書きたいことを好きに書いて投稿しているだけなので今更感はあるのですが。


一方、今月の12日から14日まで呉において艦これのリアイベが開催されます‼

私、今回参加するべく広島へ向かいます‼

ただし、初日からだとお金が大変なことになりそうなので2日目からですが(^-^;

3日目のカレーフェスタも含めて楽しみたいです‼

提督の皆様、もし会えたらぜひ艦これと艦娘について語り合いたいものです!

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