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P―1哨戒機、見参!

今月1発目の投稿となります。

この話に登場する兵器の運用方法は、私が今まで個人的に集めた資料とデータを基に推測したものです。

間違っていたら申し訳ありません。

また、自衛官の年齢と階級、職種についても『特例』という部分が転移後発生したとお考え下さい。


――2021年5月5日 北米大陸旧世界アラスカ西端付近

 海上自衛隊所属の『C―130R輸送機』6機と、航空自衛隊所属の『C―130H輸送機』16機の計22機の『ハーキュリーズ』と呼ばれる輸送機が、ある場所を目指して時速550kmで飛行していた。



『C―130R輸送機』及び『C―130H輸送機』

最大重量 約70t

全幅40.41m

全長20.79m

全高11.66m

時速約620km

実用上昇限度 12800m

最大航続距離 4000km

 備考・この輸送機はアメリカのロッキード社で1950年代に設計されたもので、旧式ながらも不整地、未整地においても離着陸が可能なこと、物資の空中投下が可能なランプ付き貨物ドアの装備や貨物室が低床式で積み込みが楽な面など、今でも評価の高い戦術輸送機と言われている。

 日本では3.11以後配備されており、場所を選ばない離着陸性能が重宝されている。



 急遽不整地に海上自衛隊と航空自衛隊統合の航空基地を建設することが決定したため、この2種類の同型機と言える航空機は物資を満載して向かっていた。

 ちなみに、この機体の航続距離で言うと往復ができないこともあり、大陸中央部に作った中継基地で燃料補給をしてからこちらに向かってきている。

 害獣が現れる期間まで、概算で2ヵ月ほどしかないと言われている。

 それに間に合わせるべく、陸上自衛隊の施設科部隊や関連企業を総動員するために、大陸各所における他の仕事を後回しにさせての仕事となる。

 施設科の内山2等陸佐は、建設計画書を見て呟いた。

「稼働開始まで約1か月半か……これだけの部隊を動員しているんだ。もう少し短くできないか?」

「そうですね……国内からもボランティアや志願者が多く集まっていますので、彼らの協力と力次第になりますが……頑張れば10日程度は短縮できるかもしれません」

 日本ではキュリア族のことが広まるや否や、『希少なスキュラを保護するべきだ』という声が与野党を問わずに広まり、更にモン娘萌えのオタクたちが『恐ろしいまでの』漲りようを見せ、『彼らを救うためならば命もいらぬ』と言わんばかりの迫力でこの基地建設に力を貸し始めたのだ。

 具体的には建設会社への入社員が増大し、更にあちこちから義援金ということで寄付金が集まっているのだ。

 余談だが、それを基に義援金詐欺を行おうとしたグループがいたのだが、そのグループは警察よりも早くオタクたちのネットワークによって炙り出され、見るも無残な姿で警察署に突き出されたという。

 日本ではこの事件以後、『詐欺を行なう者には鉄槌を』と言わんばかりの風潮が定着し、詐欺による被害が激減することになる。

 閑話休題。

「既にキュリア族を保護するべく、彼らを移民としてすぐに受け入れる用意もできているそうです。ただ、害獣を倒さないことには何も解決しないので、全ては害獣駆除が終わってからということになりますが。」

「全く……今回は随分と用意がいいな」

「日本のオタクたちはもはや、国政に関わるレベルの勢力を誇っているというわけですね」

 そういう自衛官たちの間にも、オタクは少なくない。この施設科の部隊にも、多くの元引きこもりやニートのオタクたちが所属し、建設作業に当たっているのだ。

 自衛官と様々な企業の人員は、各々の長所を生かしながら基地建設を進めていく。全ては、理不尽な暴虐に歯向かう人類の意思を見せつけるためであった。

「見ていろよ、化け物……破壊を振りまく怪獣王や自然災害にすら屈さない日本人の、不屈の魂って奴を見せてやる」

 若いオタク自衛官の1人が、熱い闘志を胸に秘めながら作業を続ける。



 同じ頃、陸海空の自衛官及び生物学者らが集落の人から事情聴取し、相手の正体を知ろうとしていた。

 有力な証言となったのは、竜神と戦って数少なく生き延びた獣人の男であった。

「では、あごが異様に巨大だったと?」

「あぁ。小さな船なんかあっさり噛み潰されちまって……水に落ちた奴は皆、食いちぎられるかその長い尻尾で吹っ飛ばされちまった」

 絵心のある者が証言を基にしながらイラストを描き、集落の人に見せる。

「こんな風でしょうか?」

 そこに描かれていたのは、大きなワニのような生き物であった。

「そう、こいつだ! こんな感じだった!!」

 大きさなども精査すると、20m以上はある超巨大ワニであることが判明した。

「シロナガスクジラやブラキオサウルスよりは小さいとはいえ……肉食動物としては規格外と言ってもいい大きさですね」

 自衛官の言葉を受けた古生物学者が、自身の推測を話す。

「恐らくだが、恐竜時代に生息していた超巨大ワニの一種ではないかと思われる。彼らが姿をほとんど見ていないのは、捕食の瞬間しか体を晒さないからだ。普段はほとんど海に潜っているとみて間違いないだろう」

「だとすると、やはり航空機による捜索が必要ですね」

「海自に手配させます」

 こうして、彼らは害獣に立ち向かうための兵器を精査した。



――2021年 6月15日 キュリア族の集落から北へ約10km地点

 約1ヶ月と10日という突貫工事で、ひとまず基地の全機能が使用可能な状態にまでこぎつけた。この日は集落の長であるメルと、生贄になる予定のサリアの2人を招き、今回の害獣に立ち向かう者たちを迎える予定であった。

「ほ、本当に竜神様に勝てるのですか?」

 面々はやはり不安を隠せないようである。彼女たちはこの1か月ほどで日本の技術や能力をある程度把握していたが、それでも海の覇者に勝てるかどうか判断ができなかったのだ。

「えぇ。我々の計算が正しければ、これから来る兵器があれば、確実に勝てます」

 沢渡は自信に満ちた表情で言う。すると、何か奇妙な音が聞こえてきた。

「な、何……?」

 キーンという甲高い音と共に、高空を何かが通過した。それは、大きな翼を広げた鳥のように見えた。

 建設現場を見ていなかったメルたちにとっては、初めて目にする物であった。

「きょ、巨大な鳥!?」

 巨大な鳥らしき物体は上空でゆっくりと旋回すると、彼女たちが知る何よりも速く灰色の道(滑走路と言ったか)に降りてきた。

 呆然とする女性2人から少し離れた所で停止した物を見て、更に唖然とする。その大きさは、男たちが見たという竜神様よりも大きかったのだ。

 そして、胴体脇の扉が開くとそこから人が降りてきた。これで彼らは判断した。これもまた、日本人が操る乗り物なのだと。

 降りてきた男たちの内、先頭に立った20代後半に見える男が沢渡に敬礼する。

「今回害獣駆除を要請された『P―1哨戒機』機長の内邑夏樹といいます。よろしくお願いいたします」

「ずいぶんお若いですね。お幾つですか?」

「恐れ入ります。29歳です。支えてくださった皆様のお陰で、若輩ながら機長を拝命しました」



『P―1哨戒機』

 最大重量80t

全幅35.4m

 全長38m

全高12.1m

速力450ノット

航続距離4320海里

 武装 91式空対艦誘導弾

    12式短魚雷

    対潜爆弾など9t以上

備考・老朽化の進む『P―3C』哨戒機の後継として川崎重工業で完全国産機として開発された機体。開発費圧縮のために航空自衛隊の『C―2』輸送機と同時開発とする事でパーツの一部を共有し、開発費を削減する工夫をしている。

 外翼部には6発の空対艦誘導弾を装備可能としており、更にアクティブ・フェイズド・アレイ・レーダーを装備することで対水上、対空捜索も可能としている。

 各種センサーやデータリンクから得たデータを処理するために人工知能を搭載したことで判断時間の短縮と乗員の負担削減を実現している。

 『P―3C』哨戒機に比べて巡航速度と上昇限度は約1.3倍、航続距離は1.2倍に延長されている。



 防衛省から派遣された作戦担当官が、彼らを連れて基地の内部に入る。

「お座りください」

 内邑機長以下11名と、外交官である沢渡、そして事前に基地へ入っていた『SH―60K』のパイロットが、作戦担当官の指示を受けて席に着く。

「これより、害獣駆除の作戦についてお話しいたします」

 作戦担当官がプロジェクターにこの集落付近の海岸を映し出す。そこには、『P―1哨戒機』のアイコンや巨大ワニのアイコンなどが映し出されている。

「まずはこうです。『P―1哨戒機』でこの集落を中心に半径20km圏内を捜索します。相手が非金属存在……生物であるということを考慮して、探信音付きソノブイを用いて対象生物を判断します」

 探信音とはソナーとも呼ばれる装置で、音の反響を利用して相手の大きさや位置を知る技術である。日本の護衛艦でも標準装備している船が多く、対潜哨戒機や哨戒ヘリコプターを含めて、日本が潜水艦を探し出すことにいかに心血を注いでいるかが窺える装備の1つである。

「対象生物を発見後、まずは接近して12式短魚雷で攻撃します。計算上では1発で倒せると判断していますが、もし死ななかった場合、手負いの害獣が水上に出てきて暴れだす可能性があります。そこで、その時のために91式空対艦誘導弾(ASM―1―C)を用意します」

 『P―1哨戒機』は外翼部に合計6発の対艦誘導弾を装備することが可能なので、このくらいは問題ない。

「相手の大きさが20m前後という情報を得ていますので、恐らくこれで確実に倒せるでしょう」

 現代の対艦誘導弾の威力は、巡洋艦と呼ばれる艦種の船舶を1発で大破に追い込むことができるほどの威力がある。

 さすがに『大和型』のような超重装甲戦艦に対しては現代の対艦誘導弾による飽和攻撃でも上部構造物をスクラップにできるかどうか怪しいという意見が主流だが、巡洋艦以下ならば十分効果がある。

ましてや、今回の相手は非装甲存在……生物である。

「仮に『P―1哨戒機』の誘導弾が全て外れた時のことを考慮して、対潜哨戒ヘリコプターである『SH―60K』も同海域で飛行し、探索に当たります。万が一『P―1哨戒機』が撃ち漏らした場合は、同機の対艦誘導弾で仕留める方針です」

 『SH―60K』には対戦車ミサイルのヘルファイアを対艦用に改造したものが配備されている。『P―1哨戒機』の攻撃で倒しきれなかった場合、トドメとしてそれを使おうということである。

 座っていた自衛官達が頷いた。

「作戦決行は、明日の朝06:00とします。これまでの話を聞くからに夜行性である害獣が眠ろうと動きが鈍くなる時を狙って捜索、攻撃しますので、よろしくお願いいたします」

 自衛官たちは一斉に立ち上がって敬礼する。メルたちはそのあまりに統率の取れた動きに目を白黒させている。

 そしてその夜、害獣が暴れだした時に備えてということで基地に宿泊することになった集落の人たちのために、自衛官たちが料理を作ることになった。

 各人食事をとりながら、集落の人たちと交流している。

 そんな中スキュラの娘サリアは、食堂の隅で唐揚げ定食を食べている内邑を見つけた。

「あ、あの……」

 内邑が『ん?』といった表情でサリアを見る。

「と、隣、よろしいですか?」

「あぁ、構いませんよ」

 サリアは隣に座ると、支給されたフォークで唐揚げを突き刺して口へ運ぶ。

「お、美味しい……」

「そうですか? それは嬉しいですね。たくさんありますから、是非一杯食べてください」

 内邑は笑顔でそう言いながら自分も白飯を頬張る。

 そんな内邑を見たサリアは、ずっと疑問に思っていたことを口にする。

「あ、あの……」

「ん、何か食べられない物でもありましたか?」

「い、いえ……ウチムラ様は、怖くないのですか?」

 突然何を聞くのかと、内邑はキョトンとする。

「……相手は、人の力の及ばぬ巨大な竜です。確かにあの鉄鳥も大きさでは勝っているようですが……立ち向かうのが怖くないのですか?」

 問われた内邑はサリアの目を見る。その瞳には、隠せない恐怖が宿っていた。

「そうですね……確かに、未知のモノに立ち向かうと考えると怖いです。でも、私たちは以前から、海の中に潜むもっと恐ろしい怪物を探す仕事をしていました」

「りゅ、竜神様よりも恐ろしい怪物がこの世に存在するのですか?」

「えぇ。私たちはそれを見つけ、監視し、いざという時には攻撃します。相手はとてつもない力を持っています。でも、立ち向かわなければいけません」

「どうして、ですか?どうしてそこまで……」

 内邑はまっすぐにサリアの瞳を見つめる。サリアはハッとさせられた。その瞳には、彼女がドキリとするほどの強い光が宿っていた。

「私たちは、自衛隊ですから。守るためにだけ、戦うことを許された戦士です。そして、それが私の……いえ、自衛官たちの誇りでもあります」

 内邑の言葉には迷いがない。それを聞いたサリアは、その強い瞳に思わず胸を熱くするのであった。

「……分かりました。どうか、私たちを助けてください」

「えぇ、絶対に守ってみせますよ」



――2021年 6月16日 午前5時50分 自衛隊航空基地

 海空自衛隊基地の滑走路には、万全の整備を終え、武器の安全装置を外した『P―1哨戒機』の姿があった。

 白に近い薄い水色の機体は、上り始めた太陽を浴びてピカピカに輝いている。

『こちら機長の内邑。作戦開始10分前。これより離陸する』

『こちら管制塔、離陸を許可する。ご武運を』

『感謝する』

 短いやり取りを終え、『P―1哨戒機』は4基のターボファンエンジンに点火し、甲高い音を立てながら滑走、離陸していった。

――ギィィィィィィィィィィィ…………

 夜明けの空へと遠ざかる機体を眺めながら、サリアは内邑の無事を祈る。

 離陸から10分後、内邑は腕時計のスイッチを入れた。

『機長の内邑だ。当機はこれより害獣掃討作戦『スサノオ作戦』を開始する。各人、持ち場に付け!』

 内邑の鋭い声が響くと同時に、機内では機材の各所に自衛官たちが付く。

「ソノブイ投下用意!」

「投下準備良し!」

「投下、投下!」

 装置を起動すると、『P―1哨戒機』から次々とソノブイが投下され、海面で広がって音を探知し始める。

『いいか、相手は大型生物だ。それらしい音紋を聞き逃すなよ!』

『了解!』

 投下したソノブイからは、様々な音が聞こえてくるが、ほとんどは水音である。ある程度人工知能が判断してくれるとはいえ、最終的には人が判断し、狙いを定めなければならない。

 数分だろうか、数十分だろうか、1時間以上が経過したように思えた。それほどに隊員たちは集中してデータの収集にあたっていた。

 そして、その時が来た。

――ドクン、ドクン……

「生物と思しき心音をキャッチしました!」

 ソノブイが拾えるほどの大きな心音を放つということは、かなり巨大な生物であると推測される。

また、この音からは超音波の類が聞こえない。つまり、クジラやイルカのような音波発生生物ではないということだ。

 生物は大型であればあるほどエネルギーを消耗するので、基本的にあまり活発に動きたがらない。まして変温動物である爬虫類やそれに近縁の種類ならば尚更である。

 つまり、この音の持ち主が目標であると判断した。また、ソナーから送られてきたデータを集計しても、大きさや形状からそうであると判断できる。

「目標を発見した。音紋登録開始」

「音紋登録開始」

 聞こえてくる心音を登録し、魚雷にリンクさせる。

「登録完了」

「魚雷、発射!」

「発射!」

 海面に近い場所まで降りた『P―1哨戒機』の兵倉庫から、細長い魚雷が投下される。魚雷を投下し終えた航空機は素早く上空へ戻り、誘導を開始する。

「魚雷、目標へ向けて推進! 目標、依然ロックオンしています」

 機内に聞こえる探信音が、隊員たちの緊張を高める。

「着弾まで10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、今!」

 直後、窓から見ても分かるほどの水柱が上がった。魚雷が炸裂したのだ。

『状況報告!』

 内邑の声が響き、隊員達は撃破できたかどうかを確認する。

「少し待ってください。これは……」

 すると、再びソナーに反応があった。

「ッ! 目標健在!! 浮上してきます!!」

「くっ……作戦を第2フェイズへ移行する。ASM―1―C、発射用意!」

 距離を少しとると、海面に浮かび上がる何かの姿が見えた。

「怪獣映画かよ……!」

 まるで水の中から現れた怪獣のような巨大ワニは、飛翔する『P―1哨戒機』の姿を確認すると、忌々しそうに口を開いて威嚇してきた。

 だが、よく見ると水面に赤い物が混じっている。背中から出血していたのだ。

「内邑機長。どうやらあいつ、完全にはかわせなかったようですね」

「現代の魚雷は対空誘導弾の近接信管みたいな能力があるからな。近づいただけでも爆発する。しかも、水中では衝撃が伝わりやすいからこの1発で十分だろうと思っていたんだがな……口元に肉片が見える。もしかしたら、獲物を食べているところでその獲物の方に命中したのかもしれないな」

 どうやら内邑は1発で仕留められなかったことが不満だったらしい。副長の方は苦笑いしながら織斑を見る。

「泣き言言っても仕方ありませんって」

「だな。ASMは?」

「発射準備完了! 既にロックオンしています!」

「潜る前に仕留める。撃て!」

「発射ぁ!」

 直後、翼下から火を噴きながら『ASM―1―C』が飛翔する。

 発射のために距離をとったとはいえ、5kmという至近距離だったこともあってアクティブ・レーダー誘導で目標へマッハ0.9の速度で飛翔していく。

 生物にとってその速度は、正に未知の領域だった。巨大ワニはというと、『何か』が近づいてくるのは分かっていたが、あまりの速さに目が追い付かず、一瞬見逃した。そして直後、自身の頭上に光が走った。

――ドォォォンッ‼

「命中!」

 間違いなく命中はした。だが、これでもしも、もしもだが死んでいなかった場合、更なる追撃を加えなければならない。

 生死を確認するため、『SH―60K』がいまだに煙の立つ現場に近づき、乗員が双眼鏡で確認する。

 煙が晴れた先には、頭がザクロのように潰れたワニの姿があった。

「目標沈黙! 動いていません!」

 直後、『P―1哨戒機』の機内では『おぉぉっ!』という歓声が上がった。

「よし、これより基地へ帰投する」

「了解!」

 内邑がチラリと横を見ると、副長も笑顔であった。

「よかった。」

 戦いはわずかな時間で終結した。

 そして約15分後、『P―1哨戒機』は基地へと帰投していた。待っていた整備班の者たちはもちろんだが、無事に帰ってきた内邑の姿を見て、駆け寄ってきた者がいた。そして、なんと内邑の胴体に抱き着いたのだ。

「うわっ!? サリアさん!?」

「よかった……ウチムラ様が……帰ってきて……」

 それを見た他の乗員や整備員が皆ニヤニヤしている。

「やったじゃないですか機長」

「寂しい独り身ともおさらばかもしれませんね」

「ば、馬鹿っ! 彼女に失礼だろうが……」

「ウチムラ様は、奥様などはおられないのですか?」

 サリアは顔を上げると、キョトンとした様子で問いかけてきた。

「え、や、ま、まぁ……その、縁がなくて、ね」

 すると、なぜかサリアが恥ずかしそうに頬を染めた。

「あ、あの……」

「はい?」

「年下は、お嫌いですか?」

「はいぃ!?」

 後で確認したところ、サリアの年齢は17歳。内邑よりも12歳年下であり、普通ならば犯罪扱いされるレベルの話である。しかし……

「ふむ。サリアはウチムラ殿のことが気に入ったのか?」

「は、はい、おばあ様。私……私を助けてくださったウチムラ様に嫁ぎたく思います!」

「ちょっと待て待て年齢が違いすぎるし彼女は若すぎる!!」

「何を慌てなさる。この集落の中ではむしろサリアは嫁き遅れに近いのですが?」

 そこは現代人と古代人に近い生活をしている者たちの価値基準の差であった。

「あぁ、この子の両親ならば問題ない。この子の両親は幼い頃に亡くなっておってな。祖母であるわしが親代わりに育てておったのじゃ。わしは構わんと思うぞ」

 日本の法律上では、16歳以上の女性は保護者の許可があれば結婚することができる。この場合は族長であり祖母であるメルが保護者ということになるので、彼女の許可が出れば問題ないのだ。

「や、で、でも……」

「機長、いいんじゃないですか?」

 ニヤニヤする部下の言葉にオロオロする内邑は、外務省の沢渡の顔を見た。だが……

「いいんじゃないですかね? 生物学者によると我々と亜人類が交配しても問題ないということが証明されているようですし、保護者の許可があるならばいいと思いますよ。両者交流の懸け橋にもなりますしね。」

 これまで繁忙だったこともあって、人間と亜人類は結ばれる人がいなかったのだ。

「そ、そんな……」

 内邑は改めて胸に飛び込んだ少女を見る。輝く金髪はショートカットに切り揃えられており、とても美しい。顔立ちも整っており、スタイルもいい。

 しかも人に気を使えるタイプらしいので、性格もいい。つまり、非の打ち所がないのだ。

「えぇと……本当にいいの?」

「はい! わたくし、ウチムラ様のお嫁さんになりたいです!」

 その瞳は真剣そのものであり、内邑も思わずたじろぐ。そして、どこか諦めたように、しかし嬉しそうな目でサリアを見つめ返した。

「じゃ、じゃあ……俺と結婚してください」

「はいっ!」

 こうして、内邑夏樹は転移してからの日本人では初めて、亜人類と結婚した人物ということで一躍時の人となるのだった。

 余談だが、彼らは仲睦まじい夫婦として知られることになり、多くの日本人が亜人類と交流する大きなきっかけを作った人物として歴史書に載るのだった。


遂に現地人と日本人の夫婦が誕生しました。

彼女たち亜人類の正体については、最後の方で明かす事になりますので、今は『こういう存在がいる世界』という風に素直に楽しんで頂ければ幸いです。

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