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ラーヴル基地攻防戦・1

今月の投稿となります。

いよいよ2つ目の基地攻略ですが……私の描写で満足していただけるかどうかが不安です。

それに、相変わらず正しく書けているかも自分では判断できません。

でも、自分がこんなこと書きたいと思って書いたネタです。

――西暦1751年12月14日 イエティスク帝国 ラーヴル陸空軍基地

 ここは首都スターリンに最も近く、最も大きな軍の基地である。

この基地はキンターヴル基地と同等の空軍戦力と、キンターヴル基地を上回る陸軍戦力を保有している。

 主力である戦車隊『ベンガルズ』の練度も高く、世界最高峰とさえ言われている。

 試作戦車の実験場も兼ねていることから、戦車も多数のチーグルⅠに加えて100mm砲装備の『メーチチーグル』の試験車両が様々なテストも行っていた。

 首都防衛のために大きな戦力を集結させている場所でもあり、高射砲や高射機関砲も基地のレーダー室との通信により、高い精度の対空能力を誇る。

 そんな基地の人々が、つい昨日までとは異なり慌ただしく動き回っていた。

 基地司令官で陸軍大将ウコール・アントーノフは、キンターヴル基地からの連絡が途絶したことを受けて、法令に基づき敵の迎撃準備を進めていた。

 上空では『カチューシャ』戦闘機が警戒のために5機飛び回っており、対空電探も最大出力で稼働している。

 電探を分析した結果によれば、既にキンターヴル基地周辺には大型航空機が何機も出入りしているらしいという報告も入っている。

 恐らく、キンターヴル基地は陥落したのだろう。

「後方基地に連絡する暇もなく壊滅……そんなことが可能なのだろうか」

 不安から思わずボソリと呟いた言葉に反応したのは、空軍のベテランパイロット、リヴィア・リャブコフが呟いた。

「最前線という最も戦場に近い基地が油断していたとも思えません。なんらかの手段で通信を妨害されている間に通信手段や電探などを優先的に破壊され、混乱しているところに追撃を受けた、ということではないかと思われます」

 リヴィアはイエティスク帝国では珍しくない女性の戦闘機パイロットだが、その鋭い判断力と高い操縦技術もあって、最新鋭機のテストパイロットも任せられるほどに軍からの信頼が厚い人物である。

 そんな彼女が冷静に、今入っている情報で分析した結果なので、その信憑性は高いだろうとウコールは考えていた。

「この基地の規模はキンターヴル基地とそれほど変わらん。だが、戦闘能力という点では大きな差がある。もしキンターヴル基地が航空機を飛ばす前に敗れていたとすれば大損害も分かるが……この基地は既に直掩機が飛行している。どのような力を敵が持っていたとしても、そう簡単には倒されまい」

 部下たちの手前、不安そうな顔を見せることはできない。だが実際には、ウコールの内心は不安だらけであった。

 日本国から宣戦布告と取れる書状を受け取り、これまで他国には無敵と思われていた自分たちの軍事力が通用しない相手がいるかもしれないということから、今回の音信不通はとても不安になっていたのだ。

「なにごともなければいいのだが……」

 


 その頃、キンターヴル基地の滑走路から多数の飛行機が飛び立とうとしていた。

 まず先頭に立つのは電子戦機である『FGー6』6機である。

 その『FGー6』の内の1機、パイロットの篠原はボヤいていた。

「やれやれ。また危ない先陣切らされるんすね」

『現在、通信管制中です』

「分かってますよ、ナビ子ちゃん」

『そのコマンドは入力されておりません』

「お堅いよなぁ~。もっと可愛いAI作ってほしいぜ」

 前回のキンターヴル基地攻略の際に素早く設備を破壊できた時とは異なり、敵に通信を傍受される恐れがあるため、今回は通信管制を敷いている。

 そのため、通信機器を使おうとしてもAIが拒否するのだ。

 だが、パイロットの中にはこうやってナビの反応を楽しむという高度なプレイを楽しむ輩もいるのだ。

 変な奴はさておき。

 電波妨害によって敵の目を潰したところで『Fー5』戦闘機が対空誘導弾を発射することで上空を飛び回る敵機を潰す。

 その後、接近したところでレーダーをミサイルで潰してもらい、『Fー6』を始めとする攻撃部隊によって地上を『耕す』ために奮闘してもらう。

 頑丈であろうブンカーも確認されているため、地中貫通爆弾『黄泉平坂』が再び『Fー6』に搭載されている。

 これがあれば、コンクリート製のブンカーと言えどもひとたまりもない。

 さらに高射砲や機関砲を射程圏外からできる限り潰したところで『Aー1』と『ACー3』が地上に存在するモノを可能な限り破壊しつくす。

 作戦の内容だけを見れば、キンターヴル基地の攻略と同じだろう。

 だが、今回はすでに敵が準備に入っているため、かなりの抵抗が予測されていた。

 特に、『Migー17』モドキが5機、警戒のために上空を飛行しているため、まずはこれを撃墜しなければならない。

 だが、敵もアホではないはず。こちらがレーダー妨害を行えば、その時点で敵が異常事態を察してさらなる航空機を飛ばしてくるだろう。

 幸いなのはキンターヴル基地とラーヴル基地との間にはそれなりに大きな山があり、山を大きく超えなければレーダーに捉えられるリスクは少し軽減されるという点である。

 旧世界でもレーダーによる探知網を潜り抜けるために山肌スレスレなどの超低空を飛行して作戦に臨んだ話もある。

 敵の緊急発進(スクランブル)速度を空自のそれと同じか、それより早いと仮定して対処しようと考えたため、敵機撃墜のための『Fー5』戦闘機も15機が使用されている。

 『Fー5』は中距離・短距離合わせて6発の対空誘導弾を装備している(ビーストモードになればさらに多くできるが、早期に見つかるリスクを考慮して6発となった)ため、敵の射程圏外から攻撃することができる。

 敵にも誘導弾があるという分析がされているので、対策であるチャフやフレアを受けることも考慮しての15機である。

 もしも敵飛行場を早期に無力化することが出来れば、あとは対地攻撃機の仕事である(場合によっては残った対空誘導弾を燃料タンクや駐機した戦闘機に打ち込むことくらいはするかもしれないが)。

 圧倒的な火力で高射砲と高射機関砲を潰した後、戦車を始めとする戦闘車両を撃滅して、地上部隊の占領をやりやすくするのだ。

 また、今回はキンターヴル基地の攻略では使用されなかった『やんま』型対戦車ヘリコプターを始めとするヘリコプター部隊も投入される。

 既に『例の音源』の準備もできている。

 そこ、『なにか違う』とか言ってはいけません。

 『FGー6』のパイロットたちは、既定の距離に入ったことでECMを開始する。

「ECM、起動!」

 


 その頃、ラーヴル基地所属『カチューシャ』戦闘機パイロットの1人であるジーナ・ゴルバチョフは、対空捜索電探の画面を見ながら哨戒飛行していた。

 本当であれば電探に反応があった時に緊急発進するのが普段の出撃なのだが、南方のキンターヴル基地から連絡が途絶して既に3日以上が経過していることから『敵の攻撃を受けて連絡が取れなくなっている』、或いは『既に陥落している』と上層部が判断したことにより、動ける機体は交代で哨戒飛行を実施しているのだった。

「全くもう……これでただの機器の故障だったらタダじゃおかないんだから」

 この時ジーナは知らなかったことだが、丁度現在、基地を確認に行かせた兵が着の身着のまま逃走してきたキンターヴル基地の兵士と出くわし、事情を聴いている最中であった。

 そのため、前線の兵士たちにまでキンターヴル基地の詳細な状況が分かるのはもう少し後になる……はずだった。

「ん……?なに、故障?」

 急に電探画面が真っ白になってしまったため、仕方なくジーナは機器を軽く『コンコン』と叩いた後、僚機に連絡した。

「こちらソーカル3よりソーカル1へ。電探が故障した模様。我、これより着陸して点検を行う」

 だが、通信機からも『ザザー、ザ、ザザザザ……』というノイズが走るばかりで、誰の声も聞こえない。

「ソーカル1、応答されたし。ちょっとアリーナ、聞いてるのかしら?」

 隊長の女性パイロット、アリーナはとてもしっかりした女性である。そんな彼女が通信に応えないというのは、本来であれば考えられないことだった

「なによ……通信機まで故障したの?これじゃ……」

 その直後、彼女は機体後方に強烈な衝撃を感じた。

「!?……な、なにっ!?」

 機体が制御できない。後ろを振り返ってみると、後方部分が完全に破壊されていた。

「いっ、いつの間にっ!?」

 機体は錐揉みしながら墜落しつつあり、このままでは自分が死んでしまう。

 素早く落下傘を背負い、脱出用のボタンを押して風防を吹き飛ばし、座席が射出された。

 その後、空中でちゃんと落下傘が開いてくれたため、思わずホッとするジーナだったが、周囲を見てギョッとする。

 自分以外の『カチューシャ』も、全てが火を噴きながら落下しているのだ。自分の近くを飛んでいたはずのアリーナの機体も、である。

「ア、アリーナは?」

 落下する中でよく見ると、パイロットゆえの視力の良さで見えてしまった。操縦席のある辺りが完全にボロボロになっており、風防も割れている。

「ア、アリーナ……そんな……」

 アリーナの姿は確認できなかったが、あれほどボロボロになって、脱出が確認できないということは……ジーナはそう考え、涙を流しながら墜ちていく僚機を眺めることしかできなかった。

 よく見れば、他の3機も火を噴きながら堕ちているが。脱出したのはジーナだけのようだった。

「ぜ、全滅……?そんな!帝国が世界に誇る最強の戦闘機が……全滅したっていうの!?相手は……なんなのよぉッ‼」

 悔し気なジーナの叫びが虚空に響き渡るが、彼女の疑問と無念に答えられる者は、誰もいないのだった……。



「ターゲット、オールクリア」

 制空戦闘の結果、敵はチャフやフレアを発することなく全滅した。どうやら、敵にはレーダー警戒装置のような道具はなかったらしい。

 あるいは、警戒装置が働かなくなるほど、電子妨害がそれだけ聞いていたということだろうか。

 あとは『FGー6』が敵のレーダーをミサイルで完全に破壊し、『Fー5』が残った対空誘導弾で発進しようとする敵機を撃滅することで滑走路を塞ぎ、その間に対地攻撃機に後を引き継ぐことになる。

 敵基地上空に侵入すると、レーダー波を発しているアンテナを発見する。

「FOX1!」

 放たれたミサイルは猛烈な速度で一気にレーダーに接近し、着弾と同時に大きな爆発を起こしてレーダーをスクラップに変えてしまう。

 また、敵高射砲や機関砲も多数が発射されているようだが、こちらに当たる気配はまるでない。というのも、敵機を撃滅した後は敵が狙いにくい超低空を飛行しているからであった。

「……やっぱり事前情報通りか。レーダーも戦闘機も、前の基地とさほど変わらないな」

 パイロットは事前資料として見た情報が正しかったことに安堵する。

 さらに確認を続けていると、やはりと言うべきか山を利用したシェルターが見つかったため、残った誘導弾を少しそこに撃ち込んでおいた。

 すると、誘導弾のモノだけではない強烈な爆炎が外まで噴き出してきたことで、やはり敵戦闘機が収容されていたらしいとアタリを付けた。

「俺たちはここまでか。長居は無用だな」

 『Fー5』、『FGー6』という、この世界にあらざる能力を保有している2種類の飛行機は取り敢えず損害を出すことなく飛び去った。



 一方、地上は既に大混乱であった。

「なんだよっ‼電探監視員はなにをしてやがってんだっ‼」

「つべこべ言わずに消火活動と救護活動急げ‼」

 あっという間の出来事に基地の人員がほとんど対処できないまま、電探と航空機のほぼ全てが破壊されてしまった。

 山肌の壕に隠しておいたはずの機体すら見つかって攻撃を受けているため、使える航空機はもはや一機もない。

 あったとしても、滑走路上で炎上している航空機を消火してどかさなければどうしようもないのだが、それもままならない状態だ。

「ん?今度はなんだ?」

 またも音が聞こえてきたため上を見てみると、先ほどの鋭い形状の機体によく似た機体が多数、編隊で侵入してきた。

「また来たぞっ‼対空戦闘ぉーッ‼」

 消火活動にあたろうとしていた兵たちがそれらをそっちのけで対空砲にかじりつこうとする……が、相手は想像以上に高い所にいるようだった。

 今見つけられたのも、監視員の目がよかったからにすぎない。

「くっ、これじゃ狙いが……なにか方法はないのかよぉ‼」

「無理だ‼こっちだって見つけたので精一杯なんだっ‼」

 高射砲で狙いを定めようとした時、またも陣地で連続した爆発が起きる。

「クソっ‼今度は爆弾だっ‼」

「爆弾が降ってきたぞッ‼」

 爆弾は集中配備されている大口径、中口径高射砲に次々と命中して爆発していく。爆発に巻き込まれた高射砲の近くでは弾薬が誘爆し、さらなる爆発へと変化していく。

「なんで高射砲にばっかり当たるんだよっ‼爆弾じゃなくて誘導弾なのか!?」

「敵の経済力はバケモノか!?」

 誘導弾は誘導のための精密機器などを含めているため、同じ重量の弾頭を持つ大砲の砲弾よりもかなりお高い値段となる。

 それを1回の戦いに浴びせるほど投入することができる国家というのは、それだけの国力、経済力を有しているということになる。

 だが、彼らは知らなかった。通常の爆弾に少し手を加えるだけで、GPSによる座標誘導でかなり精度の高い爆撃を可能とする『JDAM』や、レーザー誘導でより正確な攻撃ができる『LJDAM』と呼ばれる兵器が存在していることを。

 だが、そんなものに襲われる敵からすれば、たまったものではない。

 落とされる爆弾は、数こそ多くないもののその精度の高さ故に敵に与える心理的な恐怖も尋常ではないものとなる。

 そもそもイエティスク帝国の常識で爆弾を落とすというのは急降下爆撃か水平爆撃、或いは有線による誘導爆弾(フリッツXに近いもの)くらいである。

 どれも目視できる範囲から投下されるものばかり(フリッツXに関しては射程距離16kmほどになるためギリギリではあるが、見えないというわけではない)ということもあり、ギリギリ見えるかどうかというほどの高高度から爆弾を投下して高い命中率を叩き出すというのは文字通りの人間業ではない所業なのだ。

 高射砲が粗方沈黙させられたと思ったら、同じように集中配備されている40mmから25mmほどの機関砲にも次々と爆発が起こり始めた。

 こうなっては重厚に守られているはずの対空陣地が、なんの役にも立たないのではないのかという思いが兵士たちの間に、恐怖となって伝播していく。

 それでもとできることをしようと駆けずり回っていた兵士たちに、さらなる恐怖が襲い掛かる。

「おっ、おい!あれを見ろ!」

 それは、巨大な4発機を先頭に突っ込んでくる航空機の大編隊だった。

 後方には、機体上部で羽を回している回転翼機も見られる。

「まっ、まさか……あれも攻撃してくるのかよぉっ!?」

「狼狽えるな‼我々はまだ戦える‼最後の瞬間まで諦めるな‼」

 指揮官の言葉は勇壮だが、絶望を無理やり振り払おうとして発した言葉にしか聞こえない兵士たちだった。

「来るなら来い……例え1機であろうとも、道連れにしてくれるッ‼」

 勝手に指揮官の道連れにされる側である兵士たちは『そんなのやだよぉ』と思いつつ機関砲の配置につく。

 すると、なにかが聞こえてきた。

「ん?なんだ……?」



――デデデーン!デーンデーンデンデーン!



「「「え?」」」

 兵士たちが首を傾げると、どこか古臭い、しかし勇壮な音楽が空から聞こえて来る。

「な。なんだ?」



「攻撃開始!攻撃開始‼」

 隊長機である『EPー1』からの指令と共に、各航空機が攻撃を開始する。



 兵士たちが唖然としながら上空を見ていると、先頭を行く回転翼機からなにかが発射された。

 その『なにか』は、空中で向きを変えながら、素早く対空戦車(ヴィルベルヴィントに酷似)に突っ込んでいった。

「まさか!誘導弾!?」

 対空戦車は急いで20mm四連装機関砲を発射するが、まるで当たる気配がない。

 そして装甲が薄いとはいえ、戦車の車体を使用している車両が、その誘導弾の一撃だけで勢いよく吹き飛ばされてしまった。

 弾薬に誘爆したのだろう、上部構造物はまるで軽い物質のように『ポーン』という擬音がしそうな勢いで空へ跳ね上げられた、

「ひいぃぃぃぃっ!」

「な、なんて威力だっ‼」

「一体なにと戦う想定で作られたんだぁっ!?」

 なにと、と言われれば、間違いなく戦車である。

 『ASGMー1』の仮想敵であるのは、第三世代以降のMBTなのだ。

 その鋼鉄の獣の正面には強固な複合装甲が施されており、機動力も基本的には高い(え、チャレンジャー2?あれはイギリス伝統の重戦車なので……)ため、対処が難しい。

 そんな怪物を一撃で仕留めることを想定されているため、第二次大戦時の戦車や車両であればオーバーキルもいいところであった。

 機関砲の届かない遠距離から次々と誘導弾が叩きこまれ、数少なく残っていた対空戦車や装甲車のほとんどが沈黙させられてしまった。

 新兵の中には、あまりの圧倒的な兵器性能差に泣き出しそうな顔の者もいる。というか、オーガ族はゴツイ顔立ちなので泣きそうになると『ある意味』恐ろしい顔になるのだが、それは余談である。

 さらに回転翼機より高い上空を舞う四発機が、左側面についた大砲と機関砲を次々と発射してきた。



――ドンッ‼ドンッ‼

――ブオオォォォォォォッ‼ブオオォォォォォォォッ‼



 105mmライフル砲による榴弾と、40mm機関砲、さらに20mm多銃身機関砲という大火力は、中型とはいえ輸送機でなければできない芸当である。

 誰が呼んだか『ガンシップ』。正しくこの機体のためにあるような言葉であろう。

 榴弾の炸裂で陣地の一角が吹き飛ぶと、そこに立っていた兵の多くが五体不満足と言える状態になっている。

「な、なんて威力だ‼しかも爆弾じゃなくて砲撃だぞ‼どうなってやがる‼」

 さらに低空を飛行する機体は増設された短い(スタブウイング)から噴進弾(ハイドラロケット)を発射し、装備された側面機銃(7.62mmドアガン)で次々と兵士を撃ち抜いていく。

 回転翼機からはずっと勇ましい音楽が流れ続けているが、イエティスク帝国の兵士たちにとっては、この音楽が自分たちを地獄へ送る葬送曲のようにしか聞こえなかった。

 やらぬよりはマシと小銃や単発式のロケット砲を兵士たちは発射するが、そのほとんどは当たらない。

 当たったとしても小銃弾では戦闘用ヘリコプターには傷程度しかつかない。

 次第に苛烈さを増す航空攻撃に、遂に誰かが叫んだ。

「もうダメだぁぁぁっ!逃げろおぉぉッ……‼」

 最後まで言えなかったのは、言葉を発した兵士が立ち上がった直後に機銃弾に頭を貫かれたからである。

 だが、その一瞬の光景は、他の兵士たちを恐慌状態に陥らせるには十分すぎた。

 逆に恐怖から目鱈矢鱈に発砲する者もいるが、その多くは虚しく空を切る。そして、攻撃される個所が減るにつれて他の区域を攻撃していた機体も攻撃に加わり、正しく地獄の如き様相であった。

「嫌だ……嫌だああぁぁぁぁぁっ‼死にたくないいぃぃぃぃぃっ‼」

「おっ、おい!逃げるな‼戦え‼」

 指揮官が慌てて叫ぶが、一度雪崩を打って逃げだした兵士たちは止まらない。

 誰もが我先にと武器を放り出して逃げ出す。だが、日本側は『基地の外に出るまでは徹底的に攻撃する』と決められているため、基地の中にいる間はたとえ逃げていても攻撃されるのだ。

 その代わり、抵抗している陣地に比べて優先度は下がるのだが、元々多数のヘリコプターとガンシップによる攻撃範囲が広いので、それほど気休めにもならない。



『敵部隊、逃走を始めています』

『我々の任務は〈基地内の敵を掃討すること〉だ。基地内にいる間は攻撃を徹底せよ』

『了解』

 敵を掃討するため、航空部隊はさらなる追撃を加えていく。走り回っている車だろうが、駐機されたまま放り出された飛行機だろうが、全てを破壊していくのだ。



 もっとも、滑走路に関してはまたこの後に使用する予定のため、ちゃんと『修理しやすく』壊しておく必要があるのだが。

 そんな中、攻撃を行っていた『Aー1』の1機が、山肌に穴を見つけた。

『こちらドラゴン1。山肌に大きな穴を発見。おそらく敵のシェルターと思われる』

『レーダーに反応はあるか?』

 パイロットは穴を正面に見ながら飛んでレーダー画面を確認するが、人間大のモノ以外で動くものは映っていない。

『大がかりな兵器はない模様。なお、敵兵力と思しき人影が奥の方へと進んでいる。避難していると考えられる』

『了解。弾薬と燃料の残量もある。まずは見える者を徹底的に攻撃しろ。しかし、あまり無理をするな』

『了解』

 『Aー1』は上空で『ふわり』と旋回すると、再び超低空飛行に移って地上の攻撃を再開する。

 もはや有効的な兵器と呼べるものはほとんど残っていないようで、散発的に小銃や、移動式の機関銃が火を噴いているくらいであった。

「……想像以上に敵の抵抗が弱い気がするな。いくらなんでも弱すぎないか?」

 実際のところ、レーダーが妨害によって使用不能になり、レーダーと高高度まで届く高射砲が破壊されたことで、効果的な攻撃が全くできなくなったというのが大きい。

 その後も射程の長い中型高射砲を優先的に沈黙させ、その後機関砲を攻撃する、という徹底した優先順位が決められていたこともまた、敵に有効な反撃をさせなかった理由であった。

「前の基地もそうだったが、やはりレーダーに頼っている軍隊はレーダーを失うと一気に弱体化するな。我が国も十分に気を付けるべきだろうな……おぉっ、車両発見!攻撃じゃゴラァ‼」

 敵を見つけた途端に過激になるあたり、スイッチの切り替えがかなり激しいらしい。

 これに関しては『Aー1』のパイロット育成の際にアメリカ人から教導を受けたことが原因なのだが……まぁ、これは仕方がない。

 その後も激しい攻撃がラーヴル基地を襲う。

 『Fー6』や『Aー1』が燃料・弾薬切れで撤退した後も、『UHー2』及び『ACー3』は攻撃を続けていた。

 数時間をかけた戦いにより、敵の組織的な抵抗と呼べるものはほとんど排除したと考えられたため、空自及び陸自ヘリ部隊から陸上部隊へと連絡がいき、基地制圧のために戦車、戦闘車を先陣としてこちらへ進んでくる。

 なお、キンターヴル基地の防衛は新生ニュートリーヌ皇国軍とフランシェスカ共和国軍が行う。

 日本に随伴しているのは、アヌビシャス神王国の機甲部隊である。

 グランドラゴ王国の部隊は海軍を中心としており、海上自衛隊と行動を共にしているため、こちらには連絡将校と護衛のための一個大隊がいるのみである。

 このラーヴル基地を制圧した後は海上自衛隊と合同で敵の首都であるスターリンの攻略作戦を行うことになっている。

 具体的な方策は既に決まっており、イエティスク帝国を完全に屈服させるための大規模なものになると聞いている。

 敵にはかなり強力な潜水艦も存在するとのことだが、海上自衛隊は既に対策を取っているらしく、『基本的には問題ない』と言われているとのこと。

 水上艦艇も無傷で効率よく叩く方法があるとのことで、恐らく既に行動を開始しているのだろう。

「ヒャッハー!どいつもこいつもまとめて地獄送りだぜぇっ‼……ん?あぁ、そろそろ時間だったか」

 一瞬で冷静になったかと思えば、『ピーピー』という警報音を鳴らす計器を見て燃料と残弾が少なくなっていることを把握していたのだ。

 見れば、他の『Aー1』も帰投し始めている。

 帰投する彼らは、途中の地上を疾走する車両部隊を眼下に眺めつつキンターヴル基地へと戻るのだった。



 陸上自衛隊イエティスク派遣部隊は、航空攻撃で相当な被害を出したであろうラーヴル基地を完全に制圧するべく、戦車を先頭に侵攻していた。

 今回の派遣部隊もかなりの数が集められており、10式戦車に至っては30輌という大規模稼働である。

 航空攻撃でほとんどの戦力を失った基地であれば、それほどの被害を出さずに占領できる……とは思っているのだが、隊員たちはキンターヴル基地制圧の時よりも緊張した面持ちである。

 また、彼らの制圧開始に伴ってヘリボーン作戦も開始され、『UHー2』から降りてきた陸上自衛隊員と共同で作戦にあたる。

 今回の基地は試験場もあるためかなり広く、完全に制圧するには地上部隊とヘリボーン部隊の連携が不可欠となっている。

 当然のことながら、同じ武器を使用するアヌビシャス神王国陸軍も迫撃砲や無反動砲、パンツァーファウストなどの対戦車装備や、軽SAMなどの対空装備を有して今回の戦いに臨んでいる。

 その人数は、輸送などの後方部隊を含めて10万人を超えているのだが、全員飛行機か車で移動しているため、その速度はこの世界の常識からするとかなり速い。

 イエティスク帝国が『国内に関して』は幹線道路の整備をしっかりしていたこともあって、戦闘後であっても簡単な補修を済ませればすぐに車両部隊が列をなして通過できる状態である。

 逆に言えば、それ以外にはほとんど関心がなかったようで、いずれニュートリーヌ皇国に侵攻するためなのであろうと考えられた国境近くの道路と、延伸のための資材以外は確認できていなかった。

 今回自衛隊がニュートリーヌ皇国から侵攻することを決めたのも、ニュートリーヌ皇国近辺の道路状況がイエティスク帝国の国境近くでは最も整っていると考えられたためである。

 今度は彼らによる、基地の完全制圧であった。

……はい、今回も少しばかりネタを仕込んでおきました。


分かるかなー……分かってくれると嬉しいなー(笑)


次回は8月の3日に投稿しようと思います。

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