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うねる水面下の動き

今月の投稿になります。

1年以上前に書いたネタなので果たしてちゃんとあっているかどうか……一応投稿する前に見直しはしているつもりですが、皆様からご指摘いただく度に顔から火が出んばかりに恥ずかしい思いをするばかりです。

――2033年 4月2日 日本国 国会議事堂

「総理!我が国に属する貨物船が、イエティスク帝国の軍艦から臨検を受けた挙句に自沈せざるを得なかったとのことですが、どういった経緯で、なぜそのようなことになったのか、詳細にお答えいただきたい!」

 この日、国会は久しぶりに大荒れとなっていた。

 というのも、天照神国の沖合(旧世界で言う日本海)において日本船籍の貨物船『極東丸』が、『ワレイエティスク帝国ノ臨検ヲ受ケテイル。機密保持ノタメコレヨリキングストン弁ヲ開イテ自沈スル』という連絡を残した後に、完全に消息を絶ってしまったのだ。

 具体的に言うと、極東丸が自沈した翌日には海上保安庁の巡視船と曳航のための曳船が到着したのだが、その時既に極東丸の影も形もなく、乗組員たちはウラジミールへと連れていかれた後であった。

 そのため詳細な情報がなにもわからず、現場からも断片的な情報しか上がっていないことが人々の不安を掻き立てる結果となってしまっていた。

 だが、それでも首相官邸を始めとする一部には情報が入っており、それを精査してから国民に発表するはずだったのだが、その前にどこから漏れたのかマスコミに嗅ぎ付けられ、朝の一面ですっぱ抜かれたというわけである。

 現場から上がっている情報としては『機関の故障によって漂流している』、『潮の流れに乗って、日本海方面へと漂流している』、『三連装砲塔を備えた軍艦が接近している』というものであった。

 実際には軍艦の種別や能力の想定もできていないうえ、それが新鋭艦なのか旧式艦なのかも判断が付かず、帝国が極東方面に配備している戦力が読めていないことから慎重な対応をするつもりだったのだ。

 しかも、『極東丸』が自沈した後のことは全く判明していないため、与党側もただ『現在調査中で……』と繰り返すことしかできなくなっていた。

 近年その勢力を大幅に減じていた野党はここぞとばかりに嚙みついて現政権の足元を払おうとしているが、ネット上では冷ややかな声ばかりであった。



○野党の対応が安定で草

○ネットあれこれ調べたけど、政府発表以上の情報は全くと言っていいほどないな

○大型軍艦だって三連装砲だって情報は出ているけど、どんなタイプの軍艦かは分からないからな。流石に哨戒任務に戦艦が出てくるとも思えないし

○いや、分からないぞ。ドイッチュラント級みたいな程々の砲力に程々の速力を持ったポケット戦艦みたいな船なら可能性も……

○旧世界でもスウェーデンやフィンランド、タイは『海防戦艦』という艦種を保有していたからな。前弩級戦艦並みの火力と速力でも、海防任務には十分すぎたし。

○日本も日露戦争時代の旧式戦艦や装甲巡洋艦を海防艦として多数配備していた時代があったしな。

○ちなみに豆知識だが、タイの海防戦艦『トンブリ』はタイが日本に発注して建造してもらった海防戦艦だったりする。

○これ、『海防戦艦』とは言うけど、2千tほどの船体に無理やり20cm砲を積んだ船だからな……重巡並みの主砲を装備した駆逐艦?

○なにそのヤバい船。『戦艦』と名乗るのもおこがましいんじゃ……

○武装を見ても普通に富士とか敷島売ればよかったんじゃ……能力的には主砲や副砲をちょっと改装すれば十分だろ。

○余談はさておき、実際には余程の鈍足艦でなければ、大型タンカーの速度で逃げ切ることは不可能。まして機関が故障していたということだし

○それな。海保も曳船連れて急行したらしいけど、間に合わなかったらしいから。

○いずれにせよ、まだ勢力圏の及ばない海での出来事を詳細に話せ、だなんて野党も無茶言いやがって

○衛星の画像だって万能じゃないってのに。

○仕方ないよ。それが彼らの『仕事』だから

○大分勢力衰えたと思ったけど、まだあんなこと言える力あったのか

○いや、この後の対応次第では野党消滅もあり得るな

○そもそも日本ってアメリカ的な『民主主義』は合わないところあるし

○それな

○確かにwww

○ガチンガチンに洗脳された一部の世代より、若い世代の方が情報集めて知っているという情けなさwww

○いい加減足引っ張るのやめてほしいわー



 と、こんな感じで野党に対する批判の方が明らかに多かった。

 だが、それでも野党は自分たちのスタンスを変えることができない。例え、それが自分たちの破滅に繋がっているのだとしても、である。

 一度『こうだ』と決めたらその方向に一直線で、しかも悪いと分かっても修正できないままに突き進むという、良くも悪くも日本人の悪い癖である。

 与党としても、大きな力を失いつつあるとは言っても野党の存在を無視するわけにもいかず、苦渋の表情を見せている。

 こんな存在を残しておかなければならないというのも、民主主義国家(を一応掲げている国)の辛い所である。

「いかがですか!?そもそも戦争状態が終わったとはいえ、国交を樹立して間もない国に容易く船や人を派遣するという現状がいかがなものかと……」

 国交樹立間もない国に船舶や人員を派遣するのは今までもやっていたことだが、なにか問題が起きればその揚げ足を取ってギャーギャーと喚き散らしているため、ハッキリ言ってしまうと見苦しいことこの上ない。

 このような形で、野党による揚げ足取りはその日の国会中継中ずっと続いたのだが、自信満々の姿を見せた野党議員が、後にインターネットで自分たちが酷評されているのを見て愕然となったのは別の話。

 国民もすっかり野党に対して白い目を向けるようになっており、転移前と比べるとその活動はもはや圧倒的に縮小せざるを得ない状態に陥っていた。

 一部の弱小野党に至っては、与党への吸収を打診して受け入れられるもの、受け入れられなかったものなど、様々な末路を辿っている。

 生き延びている一部大型勢力も、その議席数は既に半数どころか5分の1ほどにまで減らしており、与党側が『いっそこれに伴って与党側の議席数、政治家の人数を減らすことで少しでも予算削減に繋げるか』と大規模な政治家リストラを始めたほどであった。

 そして与党側が少なくなれば、なし崩し的に野党側もある程度少なくならざるを得ない……という循環が発生し、結局与党の圧倒的な優勢は覆らないままであった。

 そして政治家に対して使われる国家予算が少しとはいえ減ったことにより、わずかではあるがそういった予算の一部を防衛費や諸経費に回すことができるようになったのは皮肉と言えば皮肉である。

 国会中継が終わってから1時間後、首相官邸に置いて閣僚たちは頭を抱えていた。

 首相が苦々しげに口を開く。

「で、帝国や海王国からなにか接触はあったのか?」

「少なくとも、グランドラゴ王国に対してフィンウェデン海王国からの接触はなく、帝国も未だに沈黙を保ったままだそうです」

「厄介だな……こうも音沙汰がないとなると、船員たちの安否確認もできない」

「こういう事態になった場合、国交がない国であろうとも、或いは国交が断絶した国であろうともある程度のやり取りを中立国やその国の友好国を介してするはずなのですが……やはり異世界ということなのでしょうか、こちらの常識通りにはいかないですね」

「いずれにせよ、帝国との交渉機会はなんとしてでも持たなければならない。皆、各方面に働きかけることになるが、よろしく頼むぞ」

「はい」

 政府は様々な動きを見せるが、相手が世界最大の……しかも違う種族が支配する国ということもあって、全くと言っていいほど成果を得られないのであった。

 このことから、日本は宣戦布告による攻撃も考慮に入れて作戦を練り始めることになる。



――同日 ニュートリーヌ皇国 首都ルマエスト

 日本からの様々な支援によって大きく復興を遂げ、周辺国との交流も多くなり技術・文化を含めて様々な進歩を遂げつつあるニュートリーヌ皇国だが、その首都であるルマエストに新たに作られた皇帝レーヴェの居城、カルミア城では、レーヴェが執事のメーロから報告を受けていた。

 彼もすっかり成長し、立派な青年といった雰囲気を醸し出している。

 なおレーヴェの隣では、幼い子供を抱く皇妃カメリアの姿もあった。

「では、やはり帝国に捕らえられた日本人は全てが収容所に送られたのか」

「はい。少なくとも、日本が望んでいるような『人道的』な扱いとは程遠い状態のようでございます」

 ニュートリーヌ皇国の猫耳族はかつてイエティスク帝国の奴隷だった歴史を持っており、独立してニュートリーヌ皇国を立ち上げた後も一定数の猫耳族が帝国に残っているのだが、その一部は敢えて残っている諜報部員(ほぼ全てが女性)で、帝国に新しい動きがあった場合にはすぐにそれを皇国の諜報部に伝えるようになっているのだ。

「現在帝国政府は日本への対応で揉めているようでして、軍部でも陸軍は『決戦して征服あるのみ』とのことですが、海軍及び空軍、さらに海兵隊が『日本という国について情報収集してからでも遅くはない』という状態だとのことです」

 海軍では日本が数万t越えの貨物船を保有していることから、造船技術は高いものがあるということでその能力を警戒されており、空軍は『日本が噴進機構航空機(要するにジェット機)を保有している可能性がある』という点から慎重論を、海兵隊も『海軍が警戒している以上、相応の能力があると見るべきである』と判断していた。

「やはり陸軍は自国が無敵であるとの考えから根性論が強いのか……かつての我が国も似たようなところがあったな」

「はい。ですが実際のところ、重要なのはいかに量と質を両立させるか、であります。しかもそこに、兵員の練度の高さもかかわってまいりますので」

 地球を基準にすると、基本的に陸軍という組織は頑迷という印象が強い。

 現代でこそある程度改善されつつある(もちろん、そうではない軍隊の方が多いのだろうが……)兵器の質はともかく、兵員1人1人の精神主義的なところが強い一面があるため、『数と根性で押し切ればどうにかなる』と思っている部分がある。

 一例だが、イギリスは第一次世界大戦の際に戦車の使用を陸軍が拒否したために『海軍が』戦車を使用して戦果を挙げた、という話はもちろんだが、日中戦争から太平洋戦争に至るまでの我が日本陸軍もその例に漏れず頑迷で、精神主義的かつ一部の工兵隊や機甲部隊を除いて機械化の進んでいない、大変前時代的かつ遅れた軍隊であった。

 太平洋戦争時にアメリカの飛行場建設・維持部隊は多くの土木機械(ブルドーザーやスクレーパーのみならず、パワーショベルなど)現代も使用されているものを採用している。

 そんなアメリカに対して、当時の旧日本軍はスコップ、鶴嘴、モッコと言った人力に頼っており、機械力と言うと小型エンジンで動くローラーが精々だったという。

 そんなことはない、という方もいらっしゃるかもしれない。

 だが実際問題として、旧軍の機械化が遅れていた分かりやすいエピソードがある。

 それは、とある日本軍基地において、飛行機の滑走路整備のために連合軍の捕虜300名に労役を命じた時のことであった。

 日本軍側は『300名の人員がやれば一週間で終わるだろう』と考えていたと言われている。だが一方の捕虜たちは、飛行場の隅に『放置』されていたアメリカ製のブルドーザーを修理して、3名がたった3日働いただけで作業を終えてしまったというのだ。

 つまり、運転に習熟した人物の動かすブルドーザー1台は、1千名の労働者よりも高い力を発揮する、という話である。

 日本軍はそんなちょっと頭を捻ればわかりそうなことにすら思い至らず、『貧乏だから』、『歩兵の白兵突撃を育てるのが一番安価で楽で我が国に合っている』と考えていた節がある。

 実際にはアメリカと違って『燃料を自国で産出しない』、『資源に乏しい』、『輸送が大変な島国だった』ことなどを踏まえると、全てを批判することができないのも悲しい話である。

 もっとも、大戦時の軍隊で土木作業における機械化の重要性をしっかりと認識していたのはアメリカ以外ではソビエトだけだったとも言われており、各国それぞれに旧態然としたところ、頑迷で保守的なところはかなり多かったようである。

 日本より機械化、自動化や効率化が大幅に進んでいたドイツでさえ、アメリカの合理性と比較してしまうと前時代的なところは多かったと言われている。

 それはさておき。

 イエティスク帝国も実際戦車などの戦闘車両(ただし戦車のみ)の数は1万を超えていることもあってこの世界基準でも最高クラスの能力なのは疑いようがない。

 だが、それも技術が70年以上離れた日本相手では及ばないだろう。

 しかも、旧ソ連と異なり戦闘車両、特に戦車の統一化には失敗していると言わざるを得ない。旧ソ連は第二次世界大戦中にT-34をベースにした車両以外の種類はかなり少ないため、大量生産という点ではドイツやイギリスよりはるかに有利だったと言える。

 単純な戦車戦ももちろんだが、陸上部隊を支援するための航空機による制空能力が桁違いである。

 イエティスク帝国がようやく『Migー17』に近い航空機を配備しているのに対して、日本では既に『Fー5』、『Fー6』といった第5、第6世代機の量産が進んでおり、誘導弾、爆弾、さらには一撃離脱による戦闘機同士の空中戦においても余念がない。

 これにより確保された制空権下において、攻撃ヘリコプターや『Aー1』飛竜、さらに『ACー3』彗星などが猛烈な砲火を地上に対して見舞うため、日本の閣僚たちが想像している以上の被害を出すことができるだろう。

 もちろん、正面戦闘限定で、という話ではあるが。

 ベトナム戦争のように地形や森林を利用されたゲリラ戦ともなれば、多数の犠牲者を出すことに繋がるのは間違いない。

 そんなこともあってか、執事のメーロとしては不安なことが1つあった。

「日本には優れた兵器が多数ございますが……問題は『基本的に守ることを重視している』という点でございます」

「それがダメなのか?」

「『国土防衛』に関してはそれでよろしいでしょう。しかし、『相手国の重要施設に打撃を与えて、相手を降伏させる』には、相手の国土を攻撃できるだけの航続距離や重武装の兵器が必要になります。日本で現在そのような能力を持ち合わせているのは、10万t近い巨大航空母艦くらいでしょう」

 正確には有効射程3千km近い巡航ミサイルや、沿岸部近辺という限定は付くが200kmの射程を持つ『46cm三連装滑腔砲』を装備した『やまと』型護衛艦などはそれなりの攻撃力と射程を有するが、やはり相手の国土に侵攻して相手国の元首に降伏を決断させるような力が必要である。

 実際、第二次大戦においてドイツは多数の『Vー1』、『Vー2』というロケット兵器(特にVー2は現代基準でも超音速短距離弾道ミサイルと言える)を投射したが、『Vー1』は半数以上が撃墜され、『Vー2』も命中精度の悪さから致命的な打撃を与えるには至らなかった。

 相手国を屈服させるには、どうしても空の支援を受けた陸の力が必要なのである。

 日本が日露戦争を有利な状態で講和に持ち込めたのは、相手のロシアにおいて内情が不安定となっており、革命の機運が高まっていたことも大きい。

 もしあれ以上戦争が長引いていた場合、日本は戦費や資源の枯渇といった問題にさらされ、継戦が不可能になっていたとも言われているのだ。

「自分たちを有利にするための制空権を確保することは容易だが、その後部隊を侵攻させるのは容易ではない、か……」

「少なくとも地の利を活かされた場合、日本の120mm砲を装備した戦車や、105mm砲を装備した機動戦闘車でも苦戦することは間違いないでしょう」

 しかも、イエティスク帝国までの道のりはかつてのロシア同様に泥濘が多い悪路と言えるほどに道路環境がよくない。

 だからこそ帝国は防衛向けの戦車としてティーガーモドキを、外征向けの戦車としてⅣ号モドキとパンターモドキを作ったのだ。

 ドイツが作り出したティーガーなどのアニマルシリーズの難点は、とにかく重く足回りが弱い。

 攻・防は優れているのだが(ただし、ティーガーⅠに関しては被弾経始が考えられていないため、防御力という点ではパンターやティーガーⅡに一歩譲る)、如何せん重すぎるのだ。

 これは、当時のドイツ戦車が防衛に回っていたからこそ戦果を挙げられていたのであって、大戦初期のように機動戦を重視していたらティーガー系列は生まれなかったと筆者は考えている。

 もっとも、ソ連との戦いは避けられなかったと思うのでいずれはそうなる運命だったのかもしれないが。

「敵の車両を破壊するのでしたら航空機の方が都合よく、侵攻していくならば機甲部隊の方がいいでしょうね」

「日本の本によれば……『航空機を砲兵代わりに支援を受け、自分たちより数の多い敵を突破していく』という戦術があったらしいな。『電撃戦』というらしいが」

「実在したかどうかはさておき、それに近い戦闘があったのは間違いないです。そして、現在の日本国の戦闘も機動力を重視しています。しかも、装輪戦闘車でさえある程度の悪路走行能力を持ち合わせているとのことです」

 そもそもは市街地における対テロ戦を想定しての即応力だったのだが、ここにきてその機動力が侵攻作戦にも活かせそうという考えになりつつある。

「もしも日本が帝国に対して侵攻作戦を行うのでしたら、我が国の立地が役に立つはずです。今のうちにグランドラゴ王国と協力して道路整備や空港整備を強化するべきでしょう」

「なるほど、日本が侵攻作戦を発令した時、すぐに対応できれば我が国の株も上がる、か……確かに重要だな。国土交通大臣に命じて、グランドラゴとの連携強化により交通網整備と空港整備を急がせろ」

「はっ。ただちに」

 こうして、ニュートリーヌ皇国でも日本が動くと考えてそれに備えて動き始めるのだった。

 世界は大国同士の激突を予感し、様々な方向へと走っていく。



――同日、グランドラゴ王国 首都ビグドン 諜報部

「どうだ、海王国の外交官や武官からなにか報告はあったか?」

「はい。海王国も日本の船員が捕縛されたというのは驚愕だったらしく、蜂の巣をつついたような騒ぎになっているとのことです」

「まぁ、無理もない。本来であれば自分たちがなにかしらの対応をすることで帝国に対して日本の情報を渡すのが目的だったのだろうが、そう思っていた矢先に帝国の方が日本とのかかわりを持つようなことになったのだからな」

 グランドラゴ王国には、日本国が転移して接触してくるまでは諜報部と呼ばれるものは存在していなかった。

 以前も述べた通り、この世界は様々な種族が存在しているが、その種族間の交流というのは少なく、精々商人としてシンドヴァン共同体があちこちに人々を送り込むことがあったくらいであった。

 そのため、相手国を大雑把に調べる『情報部』というのはあったのだが、大半の情報はシンドヴァン共同体との交渉で手に入れることが多かったのだ。

「とはいえ、外交官や武官から仕入れられる情報には限りがあります。やはり、日本の衛星写真のような高度な技術が欲しい所ですね」

「それがなければ、我々は一生日本のあとを追うことしかできないからな」

 だが、日本との交流が始まってそれも変わった。

 日本は大陸を得たことによる他種族国家であることを活かして、各国に諜報部員を送り込んでいるのだ。

 さらに、日本の諜報部の指導により『なにも種族が違うからと言って占有できないわけではない』ということも教えてもらった。

 それは、『外交官・駐在武官などから集める情報』という点であった。

 この世界では元々イエティスク帝国に駐在する外交官や武官がいなかったとはいえ(基本的に国交はほぼ全てフィンウェデン海王国を通してやっていた)、それ以外の国とは交流を持っていることが多かったのだが、『外交官の仕事はあくまで外交的なもののみ』という考え方が強かったからなのか、外交官や駐在武官が『相手の国情を探る』という考えが薄かったのだ……アヌビシャス神王国やフランシェスカ共和国など、かつては最弱というほかない力しか持ち合わせていなかった国はむしろ情報収集に積極的だったのだが、文明差のこともありうまくいっていなかったという。

 情報を得られても、うまく活用できるかは結局人間次第なのである。

「かつて日本がいた世界における2回目の世界大戦の際に、当時の日本はというと情報は収集しても分析をロクにしなかったというし、日本の友邦だった『枢軸国』の陸軍国に関しては、情報収集は熱心だったがそれを活用するのが下手だったという。それに対して、日本と敵対していた『連合国』側は、日本に関しては陸軍が、友邦に関しては海軍が弱体であったにもかかわらずその調査を怠ることがなく、1枚の写真を数時間かけて徹底的に分析していたらしいからな」

「我々も負けていられませんね」

「あぁ。ところで、海王国の軍には本当に動きはないのだな?」

「はい。元々海王国の軍は外征向けではなく、帝国の属国、玄関口としての意味合いが強いので、どちらかと言うと『守る』ことの方が強いように思えます」

「なるほど……いずれにせよ、日本と帝国の衝突は近いはずだ。情報収集は怠らないように」

「はっ」

 もはや帝国と日本の衝突は『避けられないもの』と考えている国が多いこともあって、各国は水面下で日本との連携を強めていく。



――2033年 5月2日 日本国 横須賀

 この日、日本では新たな護衛艦が就役した。

 それは、『あまぎ』型航空護衛艦をマイナーアップデートさせた、『しょうかく』型航空護衛艦であった。

 もっとも、アップデートの内容は主に『艦載機離発着のシステムのさらなる効率化(人的資源の省力化)』、『防衛火器の増大』、『主機関の水素エンジン換装』がメインであるため、外見的には『あまぎ』型とそれほどの差異はない。

 だが、設置された近距離対空誘導弾の性能は既存のものより向上しており、超音速対艦誘導弾でもイージス艦との連携を込みにすれば対応可能となっている。

 また、近接防御火器(CIWS)についても既存の20mmから脱却し、30mmのものを搭載した。

 これは『Aー1』飛竜に搭載されている六連装機関砲『信長』を艦載使用に改造したもので、発射レートを落とすことなく、強烈な対空射撃をすることが可能になっていた。

 そして極めつけは、艦首と艦橋の後方に備えつけられた、1門ずつの127mm単装速射砲(OTOメララにあらず。日本製鋼所製のオリジナル)である。

 日本の作戦上、空母自体もある程度敵国の沿岸部に接近することが多かったため、護衛艦や『やまと』型と共にある程度の支援砲戦を行うだけの能力が求められたのだ。

 『いいのか?』という声も上がったが、『旧世界でも上陸支援用に大砲を搭載した軽空母があったし気にするな』という声も上がったため、そのまま搭載されることになった。

 結果、『しょうかく』を擬人化したイラストがまたもネットに多数溢れることになったが、もう当たり前になっていたこともあって、誰も文句を言うことはなかったという。

 この『しょうかく』型には常時90機を超える艦載機が載せられるようになっており、姉妹艦として『ずいかく』、『しんかく(真鶴)』、『せんかく(尖鶴)』という3隻がプラスされる予定である。

 また、この護衛艦の就役を機に、『あまぎ』型を始めとする各護衛艦の主機関を水素系機関に換装する工事も始まっていた。

 将来のため、日本はまだまだ動き続ける。

ドンパチまではもう少しお待ちください。

次回は3月2日に投稿しようと思います。

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