未来を見据える者たち
今月の投稿となります。
対極的な『未来』を見据える者たちの会話という意味でこのタイトルとしましたが、果たしてどうなるのか……
――西暦1750年 10月12日 フィンウェデン海王国 王都バルシンキ シンギュラリティ城
時間は少し遡る。
フィンウェデン海王国の王都バルシンキに存在するシンギュラリティ城では、重臣たちが集まって会議を行なっていた。
議題は日本国についてである。
「やはり戦力を集中させ、王都の守りを固めるべきだ‼ 先の海戦では日本のみならずグランドラゴ王国までもが参戦し、我が国の最新鋭戦艦を撃沈したのだ‼ 今までの王国では精々互角くらいだったと思われた……それなのにだ‼」
「確かに。このままでは帝国まで巻き込んでの世界大戦になりかねない」
「しかし、だからといって帝国の要請が失敗したとなるとそれはそれでまずいことになる」
このような状態で先ほどから紛糾しており、これが既に3日以上続いているのだ。
それもこれも、『日本がイエティスク帝国以上の力を持っているかもしれない』という疑念に加えて、グランドラゴ王国がそれまでにない強化を成し遂げていることが原因である。
それもこれも、『イエティスク帝国が世界一の国であり、その一の子分である自分たちが負けるはずがない』と高を括っていた軍および情報部の怠慢のせいなのだが、国王を始めとして誰もそれを咎めることができていなかった時点でこの国の問題が様々な面で歪に捻じ曲がっていることが窺える。
スロ王も正直『どうすればいい』ばかりで、全く考えがまとまらないのが現状だ。当然ながら、それに従う家臣たちが意見をまとめられないのも無理はない。
イエティスク帝国もまさか配下が負けるなどということを思ってもいなかったらしく、あれ以後完全に沈黙してしまっている。
これで帝国が『相手を探るためにもここは休戦し国交を結ぶべき』と言えるような外交センスのある国であれば状況は改善されていたかもしれないが、如何せん帝国は『世界一』というプライドに凝り固まっていることから外交下手で、当然ながらそれに追随するフィンウェデン海王国も外交が上手とはお世辞にも言えない状態であった。
それがこの混乱を招いているので自業自得と言ってしまえばそこまでである。
「現在海軍では撃沈された戦艦に代わる戦力を捻出するために臨時予算を組んでいるところですが……果たして相手がそこまで待ってくれるかどうか」
「噂によれば日本国は重度の平和主義らしい。自分から攻め込んでくるか?」
「いや、わからんぞ。蟻皇国に対しては自国に被害が出ていないにも拘わらず大戦力を投入したという。我が国にもそれをする気では……」
「やはり帝国に救援を要請した方がいいのではないか?」
「しかし、帝国とてそう易々と動いてくれるとは思えないが……」
「帝国軍は最近の東方征伐に費やした兵力が多大だったことから、すっかり腰が重くなってしまっている。期待はしない方がいいだろう」
一応方向性として『自分たちより強い日本国とは戦いたくない』という感覚はあるのだが、如何せんイエティスク帝国の子分ということもあって帝国の許しなくして勝手に降伏することもできない。
現在首都防空に配備されている戦闘機はBf109(初期型)に酷似した『スナフキン』型戦闘機だが、時速620kmもの速度を出すことができる戦闘機で、航続距離が短いことから首都防衛に配備されている。
現在海王国では航続距離が長く、艦上運用可能な戦闘機と、大型航空母艦について検討しているところだが、元々イエティスク帝国の保護国ということもあって食料を含めて資源にはそれほど困っていないこともあり、対外的な侵略意図の薄い国なので海軍に関する熱はむしろ薄い。
海防向けの船とまでは言わないが、帝国の一の子分として恥ずかしくないレベルの装備を整えていれば十分、といった態である。
陸軍に関しては戦車が最新でⅣ号戦車(F型)に近い性能を持っており、対戦車・歩兵支援の両方に対して高い効果を発揮する。
他にもそれを改良した自走砲(フンメルに酷似)、対空自走砲(ヴィルベルウィントに酷似)も配備されており、海軍よりよほど装備は充実していると言える。
そんなフィンウェデン海王国だが、実際のところ国家としてのプライドはないに等しいこともあって、万が一の時には速攻で日本に降伏することも決められる。
だが、日本とイエティスクとどちらが強いのかという想像が全くつかないこともあって、彼らの判断を鈍らせているのだ。
日本とグランドラゴに負けた日から、スロ王は深い後悔の念に苛まれながら日々を過ごしてきていた。
帝国と日本。どちらも間違いなく強い。
どちらの方が強く、勝てるのかという点についてはまるで想像がつかない。
だが、このままむざむざ時間が過ぎるのを待つことしかできないのか、なにか自分にできることはないのか。
そしてなんといっても、なんとか国民に犠牲を出さずに収拾をつける方法がないものかと。
「どうすればよいのだ……ご先祖様、どうか我らを見守ってくだされ……」
会議は今もなお空転する。
――同日 グランドラゴ王国 首都ビグドン 国会議事堂
この日、グランドラゴ王国においても対フィンウェデンに関する会議が行なわれていた。
その会議室の上座にはドラゴニュート19世が鎮座している。
各大臣たちの後方には、技官や職員など専門家たちが控えて助言を加えている。
日本の海防艦(正確には海上保安庁は海の警察機構だが、各国からすれば沿岸警備隊ということもあって海防艦扱いとなっている)を軍艦及び艦載機で攻撃したということもあって介入したが、このままではイエティスク帝国とも戦端を開くことになりかねないという一面があるため、フィンウェデンとは異なり様々な意見が出ていた。
「陛下、日本国は今回の件について『我が国に任せる』と言ってきました。陛下としてはどう思われますか?」
ドラゴニュート19世は、日本人から見れば欧米人特有の彫りの深い顔立ちを歪ませながら考えている。
席でその姿を見ている臣下たちも、それを承知しつつ聞いているのだ。
そうすることで王の決意を固めたいという考えである。
「宰相、我が国とフィンウェデンがぶつかれば、どれほどの犠牲が出そうだ?」
「はっ。海軍からの分析報告書によれば、海戦に関してはほぼ犠牲なく進めるとのことです。敵の最新鋭戦艦は長砲身かつ40km近い超長射程とはいえ28cm砲です。しかも、レーダーによる照準射撃の機能はないというのが日本国の分析です。その点我が国の『ダイヤモンド』は日本から導入したレーダー照準射撃によって、20km圏内という距離に限定されますが、45口径41cmという大口径砲においても、かなり高い命中率を叩き出すことが可能となっております」
日本から導入したレーダーと、それを利用した射撃照準システムは日本からすれば既に骨董品となったものである。だが、太平洋戦争時に米軍が使用していたレーダーですら、一定の距離内であれば初弾から命中弾を出すこともできた(実際、太平洋戦争後半に発生した海戦ではそれらしい記録が多数みられる。ただしそれなりに至近距離とも)ことを考えれば、中・近距離における命中率は確保されたも同然だろう。
ついでに言うと、砲身が長いということは初速が増して『最大射程が延びる』、『近距離の命中率が上がる』などの利点もあるが、同時に『砲身への負担が大きく、砲身命数が短くなる(日本の長十糎砲こと65口径10.5cm連装高角砲がいい例)』、『遠距離においては散布界が荒くなる(ヴィットリオ・ヴェネト級戦艦の50口径38.1cm三連装砲はまさにこれに類する)』という欠点もある。
ドイツのビスマルク級戦艦などは標準的な45口径より長い47口径砲身の38.1cm連装砲を保有していたが、優れた光学照準機器の影響もあって、中距離と言える距離から巡洋戦艦フッドに命中弾を出し、これを沈めたのは有名である。
それを思うと、艦隊決戦を望んでいた日本とアメリカの太平洋戦争では戦艦同士の打ち合いで撃沈する勝敗はほとんどなく(霧島とサウスダコタは『撃沈』ではなく、サウスダコタが三式弾によって炎上したために戦闘不能で離脱したのでノーカン、レイテ沖海戦の山城に関しては数の暴力によって魚雷と主砲とを大量にぶち込まれた結果なので、この例に挙がるかどうかは筆者としては微妙)、艦隊決戦を望んでいなかったドイツのビスマルクがイギリスのマイティ・フッドと国民から愛されていた戦艦を1発の主砲弾で沈めてしまったというのは、なにか皮肉めいたものを感じるのは筆者だけだろうか。
それはさておき。
「問題は航空戦力です。敵空母の艦載機は、我が国の練習機兼攻撃機とも言える『ヒルンドー』よりも弱いようですが……敵の本土にはもっと強力な機体があるかもしれません。万が一フィンウェデンの本土に攻め込むのでしたら、これをどうにかしないといけないでしょう」
「誘導弾はどうだ? 誘導弾ならば叩き落とせると聞いているが?」
それには軍の技術開発部員が答える。
「確かにヒルンドーに搭載されている誘導弾でも、レシプロ戦闘機程度であれば十分に相手になるでしょう。ただ、問題は数です。万が一敵の本土に我々の知らない攻撃機が存在して、上にばかり気を取られている隙に接近されたら、と思うと……」
「やはり、艦隊の防空能力も重視せねばならぬな。近接信管のテストはどうだ?」
「はっ。既に『チャルコピライト級軽巡洋艦(見た目はクリーブランド級軽巡に酷似、主砲は新開発した60口径15.5cm連装砲)』及び『ガレナ級防空駆逐艦(見た目は秋月型駆逐艦に酷似)』の主砲弾に搭載した『アルマンダイン対空砲弾』でテストをした結果、レシプロ機程度であれば高い防空能力を発揮することが判明しました。また、マグネシウムと可燃性のゴムを搭載したことによる対地効果も高く、戦艦などの砲弾として用いれば、飛行場などの非装甲物を攻撃する際にはかなり役立つと思われます。なお、日本ではこの砲弾を『三式弾』と呼んでいたそうです。もっとも、日本の作った三式弾には時限信管が搭載されていたらしく、近接信管を搭載したのは我々が初めてのようですが」
三式弾。旧日本軍が開発した対空主砲弾だが、その効力からヘンダーソン飛行場に対して戦艦『金剛』、『榛名』、さらに『霧島』が当時のアメリカが保有していた新鋭戦艦サウスダコタに対して使用したことでも有名だ。
特に霧島とサウスダコタの戦いでは、本来対艦用の砲弾ではないにもかかわらず使用され、三式弾の焼夷弾子によってサウスダコタが大炎上し、戦闘不能になるまでボコボコにしたという話もある……どうやらその前にサウスダコタは駆逐艦『綾波』との戦いで射撃管制に関する機構が破壊されていたから十全に戦えなかったという話もあるが、それはそれとして、自身より装甲も厚く主砲も強力な格上の戦艦を戦闘不能にまで追い込んだという話は、今なお艦隊育成プラウザゲーム提督諸氏の間で語られている。
ついでに言うと、大和型戦艦の46cm主砲用の三式弾も用意されていたことから、ヘンダーソン飛行場は大和型か、或いは砲門数の多い扶桑型で行うべきだったのではないかという意見もあるが、これはあくまで後世の人がそう考えているだけで、当時の人には当時の人なりの理由があったものと考えるべきだろう(速力とか)。
閑話休題。
「主砲による対空砲弾を投入すれば、艦対空戦闘の撃墜率はこれまでとは比較にならないほどに上昇するでしょう。もっとも、やはり誘導弾の方がコストは高いとはいえ効率的だという意見もありまして、現在は日本の技術教導を受けながら艦対空誘導弾を製作しているところです。一応試作品のテストはしているのですが、強力なレーダー管制能力がなければ難しいと思われます」
「そうか。フィンウェデンと戦う場合、投入はできそうか?」
技術官たちは顔を見合わせるが、ドラゴニュート19世の方へ向き直ると再び口を開く。
「はい。相手がフィンウェデン水準……日本から言わせると、『第二次世界大戦開戦時』水準の相手であれば、投入した場合には大戦果となるとの試算が出ております」
「ふむ……せめて日本国への謝罪を引き出さないことには日本国も引っ込みがつくまい。これまで日本にはとても世話になったこともあるから、なんとか我が国単独で片づけたいが……陸軍はどうだ?」
「はい。最新鋭の『クロマイト型戦車』は非常に高い性能を発揮しております。日本から輸入した高性能なディーゼルエンジンのお陰で機動性も燃費も良好です。主砲の105mmライフル砲についても、日本からライセンス生産権を得たことで我が国の工場で製作できるようになりました」
以前の戦車開発の際にも記述したと思うが、これは『16式機動戦闘車』に搭載されている主砲である。
かつて旧世界で英国の『L7 105mmライフル砲』をライセンス生産していた日本が、別世界の英国に対して同口径の戦車砲のライセンス生産を許可する日が来るとは、誰が予測できただろうか。
もちろん王国ではこれ以外にも、様々な兵器のライセンス生産によって諸々の技術を向上させている。
「また、日本と国交を有してから陸軍は日本式の訓練を受けて近代戦闘……我々からすれば未来の戦闘技術を叩きこまれております。特に対戦車戦闘に関しては日本がノモンハン事件と太平洋戦争中にソビエトという国から受けたショックがあまりに大きかったらしく、かなり教練内容が充実していました」
「ふむ……歩兵支援の航空機についてはどうだ?」
「はい。日本が旧世界で採用し、現在は引退した『AH―1S』コブラと呼ばれる機体を解析する許可が得られましたが、日本曰く、『戦闘ヘリ自体は強力だが汎用ヘリの改造でも使用に耐える部分は多くある』という意見もあるため、戦闘・兵員輸送・偵察の全てに使える汎用ヘリコプターの開発を行なっております。もしフィンウェデンとの戦いに地上支援の航空機を投入しようと思った場合は間に合いませんので、『ヒルンドー』にロケット弾ポッドを搭載することで対処するしかないと思われます」
「では最後に、ジェット戦闘機についてはどうだ?」
今度は空軍の技官が答える。余談だが、この場には各方面の専門家たちが集まっているため、かなり手狭になっている。
「現在開発に成功した『エルバイト軸流ターボジェットエンジン』搭載機の量産が順調です。幸いなことに日本の兵器カタログの中に我々でも作れそうなジェット機の設計図がありましたので、それを参考にしております。旧世界では『ヴァンパイア』と呼ばれ、改造されたものが艦上戦闘機としても使用されたそうです」
『デ・ハビランド ヴァンパイア』は、イギリスが初のジェット戦闘機『グロスター ミーティア』を飛行させてから半年後に飛行させた機体で、『デ・ハビランド』特有の木金混合の機体という特徴を持つ。
特異な形状ではあったものの構造が単純かつ安価なこともあって、国外のライセンス生産を含めて4000機以上が生産されたという、黎明期ジェット戦闘機としてはヒット作というべき存在でもあった。
武装に20mm機関砲4門、76mmロケット弾8発、或いは225kg爆弾2発を搭載できる機体で、ミーティアに最高速度でこそ劣ったものの、その後の汎用性で大きく進歩した機体でもある。
既に各種技術が冷戦期に入りつつあるグランドラゴ王国にとっては本来遅すぎると言ってもいいくらいだが、これまで紫電改二こと『ファルコン』型戦闘機の生産などで忙しかったこともあり、ようやく最近になってテスト機が飛行するという有様である。
もっとも、ちゃんと開発をしているだけ立派というべきなのかもしれないが。
「また、この機体……『グラファイト』は今後の発展を考慮しまして、エンジン出力を大幅に向上したものに対応できるよう後退翼への換装も視野に入れております。とはいえ機体の強度の都合上、音速を超えることはできません。ですが、しばらく一線で使用した後に練習機とすれば高等練習機としても使えるでしょう」
既に一線級でなくなった後の、かなり先の未来のことを考えており、この点は日本よりはるかに先進的というべきかもしれない。
「また、ロケット弾を搭載できるハードポイントを、対空・対地誘導弾を搭載できるように改良すれば、かなり高い戦闘能力を得ることができます。日本ではそういった機体を多用途戦闘機と呼ぶようです」
「ふむ……それほど誘導弾が強ければ、もはや戦闘機は不要になるのかもしれんな」
だが、ドラゴニュート19世の言葉には技官たちは真っ向から反論した。
「陛下、恐れながら申し上げます。日本のいた旧世界でもかつて『戦闘機不要論』・『ミサイル万能論』という論が勃発したことがありましたが、誘導弾及び弾道弾だけでは通常の戦いを乗り切ることは不可能です。実際に日本のいた旧世界でも我が国と同じ位置にある島国……イギリスがそれに胡坐をかいた結果、以後における単独での戦闘機開発能力を失ったという大失態がございます」
「そういえば、以前にもミサイルは万能ではない、と言われていたな。すっかり失念していた。すまない」
イギリスは『イングリッシュ・エレクトリック・ライトニング』という、初めてにして最後の超音速戦闘機を作った後にミサイル万能論に酔ってしまい、カナダなどの一部の国も共に航空産業を改変してしまった。
その結果、単一国家独力でのジェット戦闘機開発能力を失ってしまったのだから、なんとも皮肉な話である。
もっとも、現実においてアメリカのライセンス生産を中心に技術を細々と繋いでいる我が国が言えた義理ではないかもしれないのだが、この世界に来て独自に航空機開発を次々と立ち上げているため、問題ないと言えば問題ない(それでいいのか)。
「うむ。では今後も航空機開発に就いては日本、そして諸国とともに研究を進めていくとしよう。だが……予算は大丈夫か?」
その瞬間、全員の顔が凍り付いたように固まった。
財務大臣は『はぁ……』とため息をついており、ドラゴニュート19世は『藪蛇だったか』と後悔したものの、口にしてしまった言葉を撤回することもできないので敢えて続けた。
「どうなのだ? ハッキリ言ってくれ」
「……正直に申し上げますと、軍事予算・技術開発予算が大きく財政を圧迫しております……今のところ国民の生活に影響が出るほどではないのですが……このまま軍事力拡大を進めると国庫への負担が著しく……」
いつの時代も、どこの国でも、『真の敵』とは敵対国家より国内の財政状況である。
我が国は言うに及ばず、イギリスもアメリカも、そして冷戦が終了した後の欧州各国もそれによって軍事力を著しく損なった。
逆に中国やロシアなど、それ以後に発展してきた国家の一部はその独裁体制を利用して多大な軍事費をかけて強大な軍隊を形成し、技術開発を行なっているのだが、これは独裁者たちの権力が非常に強く、財貨の集中投下が可能であるからこそできる芸当である。
民主主義国家は国民に配慮する都合上、そうもいかないのだ。
もっとも、進歩した技術のお陰で国民の暮らしも段々と豊かになってきてはいるのだが、民政への転用が追い付いていないのが現状だ。
「やはり財政は大きな問題か……日本はどうやって増大する軍事費を賄っているのだ?」
「それなのですが……日本はそもそも大陸の開発で大きな利権を得ておりまして、農作物の栽培、畜産、鉱山開発など、日本がアメリカ大陸と呼んでいる広大な土地の利権はほぼ独り占めしています。それらを国外に輸出することで大きな利益を上げている模様です。もっとも、民間人に対する税金を引き下げ、巨大企業に対する税金を『わずかに』増やしているそうですが、それでも苦しいらしいです」
「日本ほどの国でもか……」
というか、日本は大陸を制するために国家の規模が年々増大していることもあって、対応が全く追い付いていないのが実情である。
財政についても年々支出・歳入共に膨れ上がってはいるが、やはりどう足掻いても支出の方が増えてしまっている。
当然国内における国債も未だに発行されているという時点で厳しいのは間違いない。
これでも転移時に海外向け国債が消滅したため少しは楽になったと思われたのだが、元々国内向け国債の額が半端ではなかったこともあって、最近ようやく減少に転じたくらい、と言えばその支出額が知れる。
自衛隊を始めとする各組織に関しても、膨れ上がる人員を確保するべく『産めよ増やせよ』と言わんばかりにまだまだ人口を増やし続けている。
もう間もなく人口が2億を突破するだろうと言われているが、南北全てのアメリカ大陸を制しようと思うのであればまだまだ足りない……というか、以前も述べたように人口が10億人を超えてもまだまだ足りない。
日本としても『あまり増えすぎてもな……』とは思いつつ足りない人口をなんとか補わなければならないと考えているため、省力化・自動化についても旧世界以上に力を入れて研究を進めているが、まるで追い付いていない。
というかそもそも、『自動化の研究をするための人員』自体が不足しているという、あまりにも残念な本末転倒振りである。
もっとも、これに関しては日本とかかわりのある各国も努力しているので、もうしばらくすれば世界的に省力化が浸透することになると言われてはいる。
「なるほどな。財務大臣、無理をしろとは言わないが、それでもせめて、イエティスク帝国と日本が接触し、お互いが争わずに済むような世界になってくれるまでは、なんとか頼むぞ?」
本音を言えば宇宙の彼方に消えていった先史人類への対策もあるので、いくらお金があっても困らないのだが、『ひとまずの目標』としてそういわざるを得ないドラゴニュート19世であった。
財務大臣もそれは理解しているからか『善処します』とだけ返す。
その後は増えている人口を維持するための農作物生産量増加に関する話や、日本との交渉の上で、アメリカ大陸に一部の人々を移住させて新しい国土とできないかどうか、という話も進めている。
これは、やはりアメリカ大陸の全てを日本だけで治めるのに限界がある証拠で、北アメリカ……旧世界で言うところのカナダ東部などの付近は敢えてグランドラゴの海外領土としてもいいのでは?という声が国内からも上がっているためだった。
人口増加による労働力の向上は望ましいのだが、住むところがなくては意味がない。
ちなみにこれらの問題はフランシェスカ共和国、アヌビシャス神王国など、日本と交流のある国では、皆悩んでいることである。
もっとも、アヌビシャス神王国などは日本から導入した技術を参考にディーゼルエンジンを搭載したⅢ号戦車モドキとⅢ号突撃砲モドキを制作してフランシェスカに輸出している、グランドラゴもエルメリス王国に野砲や山砲などの武器を輸出しているので多少はマシ、と言える部分はあるのだが、ハッキリ言って莫大な支出の前では焼け石に水である。
日本の設計思想や技術の発展を見て各国なりに工夫はしているものの、やはり進歩しているグランドラゴや、いち早く日本の諸々を取り入れて自分たちにできる形で応用したアヌビシャスには及ばないのだ。
軍艦に関しても現状でグランドラゴ王国以外の国は『ピストリークス』級巡洋艦が最強の船であるため、主砲・誘導弾などを含めても総合的には打撃力が足りていない(元々自国防衛が目的の軍艦なので仕方がないと言えばそれまでなのだが)。
空母機動部隊の編成に加えて、相手の街や工場に打撃を与えうる重爆撃機なども製造できるようにならなければ、敵対国に根本的な打撃を与えることは難しいだろう。
日本から重爆撃機の代わりとして、『Pー3C』を対潜哨戒機と爆撃機として改造・製造する案を提示された時、グランドラゴは真っ先に乗った。
ターボプロップエンジンも日本のものをライセンス生産するため、技術についての問題はない。
一番厄介なのはやはり人手が足りていないという点であり、各国から来た出稼ぎの労働者などにも教導をしているのだが、それでも足りない。
これに関しては各国で当面解決しないだろうと言われており、日本から導入した医療技術によって、出産の成功率を高めること、その後の児童育成に大きく力を入れることが課題となっていた。
日本においても、児童虐待や差別等が中々根絶できずに困っているため、他の国でも言わずもがな、である。
各国の思惑は様々な形で渦巻き、動いていく。
次回は11月4日に投稿しようと思います。
なお活動報告でも書きましたが、筆者のもう1つの連載作品『転生特典に艦隊もらったけど、クセのあるやつばっかり‼』が完結することができたら、どれくらいになるか分かりませんが当面一時創作は書かないつもりです。
pixivの二次創作の方が色々ネタ出しやすいっていうのもあってついついそちらに注力しがちになってしまって……一応転生艦隊もストックはまだ30話以上あるので細々デモ書いていけば十分対応できるとは思いますが、万が一エタったら本当にごめんなさい。
それでもいいよ、という方は今後も拙作をどうかよろしくお願いします。