決裂に向けて
今月の投稿となります。
いよいよ動き始める国際情勢ですが、日本、グランドラゴ王国などがどのように動くのか……
――2032年 9月25日 日本国 東京都 首相官邸
この日の議題は、『巡視船に対して組織的・軍事的な攻撃を仕掛けてきたフィンウェデン海王国への対応をどうするか』であった。
なお、フィンウェデン海王国に派遣されていた外交官の野原と川口の両名はフランシェスカ共和国の空港から飛行機に乗って帰国しており、上層部に正確な報告書を提出していた。
そのため、彼らの生命が保証されていた、保証するという概念があったということに関しては誰もがホッとしていた。
だが、閣僚たちの悩みはそこではない。
「野党はどうだ?」
首相の放ったこの一言。間違いではない。
国会で野党にピーキャーと騒がれるとロクな対策や法案ができないのは日本の戦後歴史が証明している。
「野党はこの世界に来てからの一部国家の下劣な対応を目の当たりにして、すっかり黙り込んでしまいました。まぁ、これほどまでに先制攻撃ということで好き勝手されてはさすがの野党も黙らざるを得ないようで」
総務大臣の言葉に総理大臣も『まぁ、そうなるな』と溜息を吐いた。
スペルニーノ・イタリシアの蛮行に始まり、ニュートリーヌ皇国での不法拿捕と船員殺害、ガネーシェード神国の外務副大臣殺害など、挙げればキリがない。
野党も勢力を大幅に縮小していた上に、これほど問題が山積みということになってしまったせいか、国民から全くと言っていいほどに支持を受けなくなってしまっていたのだ。
今や残存野党は『共産』の名前が付く党が一定の議席を獲得しているくらいで、あとは片手の指で数えるくらいしか残っていない。
なので、与党も旧世界に比べてかなり物事を進めやすくなっていた。
「で、損傷したという巡視船『はしだて』の被害は?」
「人的被害は機関部損傷の際に負傷者が3名出ただけですので、それほど問題はありません。船体の損傷についても、破孔を修復したのち排水して機関を取り換えればすぐに復帰できるでしょう。時間もそれほどかからないものと思われます」
国交大臣の言葉にホッとした顔をする閣僚たちだったが、落ち着いてばかりもいられない。
「確か、今はグランドラゴ王国の造船所で修理中だったな?」
「はい。王国の造船技術も随分と高くなってきましたし、巡視船の船体に必要な応急修理というだけならば十分に行えます。主機関に関しては日本で行うべきですね。『はしだて』に搭載されているのは最新鋭の低燃費高出力型のディーゼルエンジンだったので、我が国でないと換装できません」
『はしだて』は色々な意味で最新鋭の技術を盛り込んだ巡視船だったこともあり、船の心臓とも言える主機関である最新鋭ディーゼルエンジンの交換については日本本土でなければ不可能であった。
いくらグランドラゴ王国の技術が進んできたとはいっても、その能力は1970年代前後のものが多く、航空機に関してはようやく戦後第一世代レベルのターボジェット航空機が飛行し始める有様である。
それを考慮すれば、機関の換装は日本でなければ不可能だろう。
「いっそ脱炭素を推し進める意味でも試験運用を始めた水素系のエンジンに換装してみるか……おっと、現場からの報告は?」
「はい。どうも海王国側もイエティスク帝国から要請されたから『渋々』拿捕せざるを得なかったという形だったようで、外務省から派遣された野原外交官の下に秘密裏に使者まで送られてきていました。つまり、日本と本格的・全面的な戦争状態になることまでは望んでいない模様です」
「ふむ。使者まで送ってきた、というところを見るとそのようだな」
「ですが、このままというわけにもいきません。諸外国に対する体面もあります」
「確かに、なんらかの策を講じる必要はあるでしょうな」
この世界にはそもそも国家が少ないこともあって、一国辺りが地域に及ぼす影響力というものがかなり強い。
領土の少ないスペルニーノ・イタリシアの両国でさえ、連合という形をとることで列強国にも対応できるほどの力を持っていた、と言えばその影響力を窺い知ることができる。
「防衛大臣、どうすればいいと思うかね?」
話を振られた防衛大臣は『そうですなぁ』と前置きした上で話し始めた。
「なんと申しましても、公的にはまだ国交がない国、ということでもありますので、一応法律・憲法的には『武装勢力に対して』という対応でも無理を通すことは可能です。ですが、それをすれば間違いなくイエティスク帝国との間で紛争に発展するでしょう。ここは、国交を持つグランドラゴ王国やフランシェスカ共和国を仲介に話し合いで解決できないかどうかを試みてはいかがでしょうか?」
「確かに、それができれば言うことはありませんな」
なにかあったから『よし戦争だ』などと言っていたら、なにもかもが滅茶苦茶になってしまう。
だが、外務大臣としてはそれが難しいということをよく理解していた。
もちろん、防衛大臣もそれを理解していないわけではない。
「問題は、戦争、対話のどちらを取ったとしても、或いは第三の選択肢があったとしても……必ず宗主国であるイエティスク帝国がなんらかの形で出てくるだろう、ということです」
閣僚たちの懸念はそこであった。
イエティスク帝国は航空戦力については冷戦初期並み、陸上・海上における正面戦力は第二次世界大戦時のイギリスやアメリカ……つまりは連合国軍並みに充実していると考えられており、その設計思想はなぜかナチス・ドイツの戦車や軍艦に酷似しているという状態だ。
もし仮に日本と戦争状態になった場合、日本が領有している領土としては手薄なアラスカ方面を攻められでもしたらひとたまりもない。
アラスカ方面には北海道の第7師団級の機甲部隊(ただし旧式の90式戦車が中心)と、水際で上陸を防ぐための地対艦ミサイル(こちらも旧式の88式地対艦誘導弾)連隊など、冷戦初期レベルの相手であれば十分無双できるのだが、如何せん兵力が約1万人、戦車200輌、対地支援のための『A―1』飛龍など、能力は優れているものは多いが総合的な数が少ないため、圧倒的な物量で攻められたら支援を送らなければ陥落しかねない。
だが、防衛省ではアラスカ方面が攻められる可能性は薄いと踏んでいた。
なぜならば、そもそも北極海に面するポイントで常時港として運用できそうな場所は少ないからである。
旧世界でロシアが不凍港を求めて南の地を欲しがっているように、イエティスク帝国も白海を含めた一部しか港として使えていないため、『数』はそれほど揃っていないというのが実情であった。
しかも、旧世界と同じらしくもし太平洋側まで船で来ようと言うのであれば、かなり時間がかかる上に日本列島に向かうルートから正面戦力とガチンコでぶつからなければならなくなる。
だが、そんなイエティスク帝国軍にはビスマルク級戦艦のような船や、イギリスの『イーグル級艦隊型空母(Ⅱ)』に酷似した空母も存在する。
空母に関しては旧世界のドイツでは『グラーフ・ツェッペリン』が提督諸氏の間では有名だろうが、未成空母ということもあってあまり参考にはならない。
日本が確認した限りでは、この世界の兵器の構造はドイツ・イギリス系の形状に酷似していることが多かったため、それを参考に類似艦船を探した結果である。
閑話休題。
そんなあれこれを議論しているところに、会議室の扉をノックするとともに駆け込んできた男がいた。
男は外務大臣に耳打ちすると、紙を数枚手渡して立ち去った。
「外務大臣、どうしたんだ?」
「はっ。今回の件で我が国が被った損害に加えて、救難信号を受けて参戦したということからグランドラゴ王国がフィンウェデンにあたってみたい、との書面が届きまして」
「なに、グランドラゴ王国から?」
「はい。今回の件で王国も機動部隊を出して巡視船を救出したということと、日グ安全保障条約及び日グ相互防衛条約(いわゆる集団的自衛権)に伴って、『フィンウェデン海王国に対話を求めると同時に、イエティスク帝国に接触できないかを試みる』とのことです」
伊達に日本との付き合いが長いわけではない(と言っても、この世界の時間軸でだが)のか、こういったことを即断できる辺りは日本とは比較にならないほど早い。
「実際、我が国はフィンウェデン海王国から密書まで受け取っているからな。表向きはともかく、あまり積極的な介入は避けたいところだ」
「では、グランドラゴ王国に一任する、ということで?」
「そうだな。ただでさえ自衛隊は出ずっぱりで過労状態だ。ほんの少しでも本土でゆっくりさせなければならないだろう。フィンウェデンについては王国に任せる。そのうえで我が国に謝罪してくるようなら、それでいいんじゃないか?」
首相の言うとおり、ただでさえ自衛隊は出ずっぱりの動きっぱなしで、拡大に拡大を重ねていることもあってヒマもヘチマもない。
もしグランドラゴ王国が条約を盾にフィンウェデンへの交渉を引き受けてくれるのであれば、それはありがたい限りだ。
覇権国家でない限りは……いや、覇権国家であろうとも、自国の戦力は基本的に出したくないのである。
「とにかく今は隊員たちの休養と弾薬の備蓄、さらに有事の際の輸送路の確立を急ぐんだ。万が一イエティスク帝国が出てくるようなことになったら、アラスカ辺りはかなり危険だぞ」
「そうですね。ただ、衛星を見る限りではこの世界は温暖化を経験したのかどうかが判別できないくらいに北極海が氷に覆われていますので、その点を考慮すると東から仕掛けてくるのではないかと思いますが」
「と、なると……最前線は同盟国である王国になりそうだな」
「もしかして、彼らは帝国に攻められることも想定して今回の件を言い出したのでしょうか……?」
つまり、いざという時にはやはり日本の戦力を当てにして、ということではないかと考えたわけである。
「それは少し考えすぎじゃないか? だが、確かにそうならイエティスク帝国と接触する大義名分にはなりそうだな……いずれにせよ、大量の資材を確保しておかないことには、いきなり戦争ということになって足りなくなるのが怖い」
「わかりました、全力で備蓄に当たらせましょう」
こうして、人々はまた動き出す。
日本のBLACKな労働は、まだまだ終わらない。
――西暦1750年 9月29日 グランドラゴ王国 港湾都市エルカラ
日本の巡視船『はしだて』を応急修理することになったグランドラゴ王国の港湾都市エルカラでは、業者が日夜動き回って破損した船体の修復を行なっていた。
幸いなことに破孔はそれなりに大きかったものの、喫水線下までの破壊箇所は少なく、排水する量も少なく済んだ。
そして、そんな修理をしている人々の中に、なぜか『はしだて』のブリッジ要員である城島たちが混じっていた。
「ちゃうちゃう! ここは主機関を設置するところやからもっと気ぃ付けて溶接せんとアカンのよ‼ ホンマに頼むで‼」
「あ~そっちの高張力鋼板は加工終わってますかぁ? 終わってるならこの破孔部分の溶接お願いします‼」
「船長、兵器を含めたシステム系統は全て異常なしです‼ 部品を少し交換するだけで十分にイケます‼」
「それもいいけどさぁ、この引っぺがした部分どうする? あ、まな板にしようぜ! これかなりまな板だよ‼」
「いや鉄板じゃまな板はマズいって(笑)」
実は城島、山口、国分、松岡、長瀬の5名は元々昔からの古い付き合いだったのだが、海上保安官になる前に溶接技術の免許を取っていたり、潜水士やクレーンの操縦免許を持っていたりするという変わった経歴の持ち主だった。
苗字がちょうど某アイドルと同じ苗字なこともあって、よく同僚たちの間でもネタにされているほどである。
城島は溶接の免許と調理師免許を持っておりフグも捌くことが可能で、山口はクレーンや船の操縦の資格や、意外な一面として陶芸を得意としている。
松岡は料理が得意で、使えそうなものを見つけると『まな板』と連呼したがるのだが、これは某アイドルの影響でやっているうちに染みついてしまったものだ。
国分は穏やかだが機械に強く、溶接技術に加えて鍛造技術についても理解があるという変わった面を持つ。
長瀬は料理が好きだが、同じくらい音楽も好きで自分で作詞・作曲した歌をよく皆の前で披露して好評である。
そんな男たち5人があれこれと指示を飛ばしているのだが、本職の技術者たちも顔負けの腕前と指導力なのだ。
グランドラゴ王国の職人たちはその能力の高さに舌を巻いていた。
「日本人ってのは皆あんな器用な連中なのか?」
「そういや、俺が前に会ったことのある重工業の営業マンも無線技士の資格を持っているとか言ってたな?」
「あっ、自分の友達の日本人も精密機械の業者なのに園芸が好きとか言ってましたね。多芸というか多趣味というか……」
それはあくまで一部の日本人がそうなのであって、それが日本人のスタンダードではないのだが、そんなことは露ほども知らないグランドラゴ人たちは『は~』と感心したように見るだけであった。
『はしだて』の修理は順調に進む。
同時刻 グランドラゴ王国 首都ビグドン 国政会議堂会議室
ここはグランドラゴ王国の政務を執り行う場所であり、国王であるドラゴニュート19世以下、多数の大臣とその部下たちが集まる場所だ。
会議室の最奥には国王であるドラゴニュート19世が座するための装飾が施された椅子がデンと置かれており、威圧感を放っている。
そこに座っているのが平均的な日本人よりもはるかにガタイのいい竜人族ともなれば、その威圧感はマシマシと言えるだろう。
そんなドラゴニュート19世に、宰相が報告書を手渡していた。
「陛下、日本の沿岸警備隊……海上保安庁の巡視船・『はしだて』の応急修理は間もなく終わるそうでございます。予定では、数日後には修復が終わり日本へ向けて海上自衛隊の護衛を伴って帰国するとのことです」
「そうか。で、フィンウェデンからの回答は?」
「今のところ『イエティスクに命じられたこと故』とのみ……」
グランドラゴ王国はフランシェスカ共和国やニュートリーヌ皇国ほどではないものの、フィンウェデン海王国に対して海を挟んだ隣国であることからイエティスク帝国の技術を推し量るべく国交を結んでいる。
「だとすれば、やはり日本が出る前に我々が出ざるを得ないだろうな」
「普通に日本に丸投げした方がいいのでは?」
総務官の言葉にドラゴニュート19世は『確かにそういう一面もある』と肯定した。
「しかし、大事なのは『どれだけリスクを減らせるか』だ。日本と一緒になるだろうとはいえ、フィンウェデンとイエティスクの両国を同時に相手取るようなことは避けたい」
「確かに、それを考慮すると我が国だけでフィンウェデンに単独で当たる方がいいように思えますが……結局帝国が出てくるのでは?」
要するに、戦力の逐次投入になりかねないうえに、そんな状態で最強の敵が襲ってくるということである。
「そうかもしれんな。だが、帝国は滅多なことでは動けないと思う」
ドラゴニュート19世の断言とまでは言わないものの、自信ありげな言葉に家臣たちはざわめいた。
「そもそも帝国の海上戦力は一騎当千と名高いが、その数は100隻にも満たないという。そのうち戦艦と空母がどれだけ存在するのかは不明だが……日本が予測している諸元を参考にすれば、1隻当たりの戦闘能力は現在の我が国の艦隊戦力でも十分太刀打ちできるだろう」
実際、グランドラゴ王国の主力戦艦である『ダイヤモンド級戦艦』が45口径41cm三連装砲3基という長門型戦艦並みの火力と30ノットという金剛型戦艦やビスマルク級戦艦並みの機動力を有していることを考えれば、日本の旧世界における戦艦としても十分強力である。
艦載機に関しては情報が少ないが、仮にもしレシプロ機が主流なのであれば高度なレシプロ機である『紫電改二』に酷似している『ファルコン型戦闘機』とほぼ互角の可能性が高い。
強いて言えば、攻撃機であるヒルンドーが時速500kmを超える速度とはいえ複葉機ゆえの問題も多いというのが難点だが、それを実感している王国では現在新たな航空機の開発に成功し、量産を始めている。
その名は『ペリカヌス艦上攻撃機』といい、最大速度こそ600km足らずと平凡といってもいい能力しか持ち合わせていないが、その最大搭載量は3.6tという単葉レシプロ機としては怪物級の存在だ。
第二次大戦時の基準で言えば、元々陸上から敵艦を攻撃することを想定していたために双発機でありながら魚雷1本、爆弾1t程度しか積めなかった日本の陸攻はもちろんのこと、同じく1t前後しか搭載できなかった大型爆撃機と言われた九七式重爆撃機や一〇〇式重爆撃機・呑龍よりもはるかに上である。
日本が末期に作り出した一八試陸上攻撃機・連山は4発機でありながら4トンまでしか搭載できなかったことを考えると、アメリカとの工業技術の差があまりにひどくて泣けてくるレベルである。
日本にそもそも戦略爆撃機という存在を作り出すだけの国力・技術力(この場合は機体や大きさというよりは、エレクトロニクスや過給タービンなど、諸々の技術的問題)がなかったことがそもそもの原因なのだが、
アメリカを基準にしても、かの欧州戦線で戦い抜いたB―17が4発機で8t、悪名高いB―29が最大9t(これですら大戦時にはとてつもない化け物扱いされていた)が最大搭載量なので、双発機どころか単葉機で3.6tというのはもはやモンスターマシンと言わざるを得ないであろう。
機体には13か所のハードポイントが存在し、通常爆弾やナパーム弾に加えて、800kgの航空魚雷も搭載できるという代物である。
エンジンは水メタノール噴射によって3千馬力という高出力を発揮しており、日本から導入した技術も惜しげもなく使用しているため、故障もかなり少ない。
ただ問題もないわけではなく、油漏れしやすいせいでエンジンを始動すると機体が汚れるという難点がある。
それでもヒルンドーに比べて高高度性能もよく、それでいて紫電改二並みの運動性能と、本職並みの急降下性能を持っているため、文字通り『なんにでも使えるマルチロール機』となっている。
さて、ここまで書いてなんとなくモデルがなんなのか分かった人もいるだろう。
この『ペリカヌス艦上攻撃機』のモデルになったのは、米国面を代表するレシプロ機・『A―1』スカイレイダーである。
朝鮮戦争ではダムを破壊するために魚雷を積んでダムを攻撃し、シンクを積んで出撃、ベトナム戦争では便器を積んで出撃した(ダムバスター以外は全部アメリカ兵士の悪ノリが原因なのだが……)という伝説の残る存在であり、未だにアメリカ軍で現役を続けている『A―10』サンダーボルトの前身とも言える地上攻撃向けの機体である。
王国では元のスカイレイダーの伝説から『最後のレシプロ機』になるだろうと言われており、科学者と技術陣が気合を入れて製作しているのだ。
もっとも、それに伴って既存のカタパルトなしの空母では運用が難しいことから、日本から導入した油圧制御技術を参考に油圧式カタパルトを製作し、現在『ピンクダイヤ』を改装して試験的に導入・試験している状態だ。
幸いにしてファルコン型戦闘機での試験結果は上々で、高い整備技術もあって故障が少ないことから、現場は大喜びであった。
それこそがフィンウェデンのシャルンホルスト級モドキと戦った際に駆け付けたファルコン隊の迅速な出撃を可能としたものであった。
「それにまもなく厳寒期が訪れるため、帝国の周辺は氷に包まれて海軍の身動きがとりにくくなる。これは内海に港湾設備を持つフィンウェデンも例外ではない。まずは外交面からの交渉を続け、それで解決するようであればその解決を以て日本と王国を改めて仲介したいと思う」
「交渉が決裂した場合はいかがされますか?」
「幸い外海の方は氷の影響も少ない。動かせる戦力という意味では間違いなくこちらが有利なのだ。だとすれば、その優位を見せつけつつ交渉をするのが妥当であろうと余は思うのだ」
「なるほど。下手にこちらから仕掛けるよりも利がありますな」
現在グランドラゴ王国では最大射程50kmの大型対艦誘導弾を試作しており、日本からは『ハープーンの初期型に近い能力』と評されている。
駆逐艦では搭載する余裕がなかったために軽巡レベルの船体に新たな電子機器と共に搭載されることになった。
対空誘導弾についてはサイドワインダー(初期型)のような赤外線誘導能力を持つものがすでに開発されているが、如何せん電子機器類トレーダーによる誘導能力が発達していないものだから、アクティブ・ホーミングはもちろんのことだが、セミアクティブ・ホーミングすらもまだ実用化できていない現状だ。
そのあたりは日本からの教導を受けて目下開発中だが、ひとまず能力『だけ』であればイエティスク帝国に限りなく近くなっていた。
問題は、旧世界の大英帝国と異なり外の世界に植民地をほとんど持っていなかったことから、やはりと言うべきか資源のほとんどを海外からの輸入に依存しているという点である。
今は日本との『共同開発』という形でシンドヴァン共同体に出向している企業に出資しており、そこから石油資源を、フランシェスカ共和国からは食料を得ることができるようになっているため、旧世界での第二次世界大戦時のように無制限潜水艦作戦でもされない限りは比較的ストレスに強い流通構造となっている。
「いずれにせよ。このまま座して見ていては我が国の国際的地位にもかかわる。『我々が日本の問題に介入し、手助けすることができた』という事実が重要なのだ。軍部には負担をかけることになるが、色々と頼むぞ」
「ハハッ、お任せくださいませ」
家臣たちが動き出し、部屋の中にはドラゴニュート19世と侍従長の年配女性だけが残っていた。
「……これでよかったのだろうか。我が国の民を、不幸に巻き込みはしないだろうか……それだけが心配で仕方がない」
「陛下。イエティスク帝国が世界の制覇を目論んでいる以上、かの帝国とは遅かれ早かれ衝突する運命でした。今回のフィンウェデンの件を契機とするのであれば、決心するよいきっかけだったのではないかと愚考します」
「……そう、だな。気にしていても始まらない。余は……余にできることを以て民と世界のために邁進しよう」
彼の手に握られている写真には、日本で配備されている超大型航空護衛艦・『あまぎ』と砲撃護衛艦『やまと』が写されている。
「いずれは日本と共に、並び立って戦えるくらいの力を持たねばならぬ。追いつき、追い越される。そのような緊張感こそが競争を生み、様々な新技術を生み出していく糧になるのだからな……」
ドラゴニュート19世は、世界の運命を憂いながら自室へと戻るのだった。
……中盤の『はしだて』メンバーのあれは完全に悪ノリの域です。笑ってください。
冗談はさておき、それぞれが本格的に動き始めることになります。そして、この物語もいよいよ終盤に近付いてきた感があります。
次回は9月の2日に投稿しようと思います。