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騎兵隊参上!

今月の投稿となります。

いよいよ近代兵器での初実戦となるグランドラゴ王国航空隊です。

戦闘場面に納得のいかない部分もあるかもしれませんが……まずは読んでみてください。

 グランドラゴ王国海軍第一艦隊所属の航空母艦『ピンクダイヤ』所属航空隊『ハヤブサ隊』の1番機に乗るパンサーは、初の実戦に胸を躍らせていた。

 しかも、相手はかつての自国と同等か、それ以上の力を持つと言われるフィンウェデン海王国海軍の最新鋭戦艦である。

 この世界での一般常識では、最新鋭の戦艦を航空戦力で叩いたとしても上部構造物を破壊することによって経戦能力を削ぐことは可能とされているが、撃沈するに至ることはほとんどない。

 万が一轟沈させることが可能だとすれば、運もあるが甲板を貫いて弾薬庫誘爆を引き起こすことくらいだろう。

 だが、今グランドラゴ王国に配備されている航空機であればそれも可能になっていた。

 日本との交流で新型兵器・戦術が多数手に入ったことにより、王国軍は大きく変わった。

 250mを超える巨大戦艦や巨大空母、艦載機として配備された『ファルコン』――日本ではこの戦闘機を『シデン』というらしいが――を使いこなしたならば、よほどの強敵でない限りは引けを取らないとも座学で教わっていた。

 今日はそんなファルコンを駆り、初めて本物の敵に向かう。

「今までは日本に助けられてばかりだったが……今回は我々が日本を助ける番だっ‼」

 一見すると『信濃型航空母艦』に酷似した形状をしている『ピンクダイヤ』には翼を後方に折り畳める『ファルコン』が20機、複葉機の『ヒルンドー』が25機搭載されている。

 また、グランドラゴ王国が新たに開発した新型航空母艦『ヒヒイロカネ級航空母艦』は、現行のレシプロ・ターボプロップ戦闘機であれば70機以上を搭載できる怪物である。

 その見た目は、アメリカが建造した『ミッドウェイ級戦闘空母』の初期型に酷似している。

 ジェット機よりはるかに小さくできる『ファルコン』と、複葉機なので元々翼面積が狭い『ヒルンドー』であれば、初期型の水準でも70機は搭載可能だ。

 太平洋戦争時のアメリカよろしく甲板に航空機を並べておけば100機近い搭載量も夢ではないのだが、如何せんこの世界でも北海は荒れやすいため、そんな海域での活動を想定するとどうしても甲板上に飛行機を出すわけにはいかなくなってしまう。

 ちなみにこの方式は旧日本軍も同様で、荒れる日本近海で空母を運用することを想定した場合にどうしても密閉式構造と格納庫収容方式を取らざるを得なかったのだ。

 色々な意味で旧軍は泣いていい。

 それはさておき。

「見えてきた……」――『こちら小隊長パンサーよりダイヤモンドへ。日本の巡視船を攻撃しているフィンウェデンの戦艦を確認した。これより戦闘空中哨戒に入る』

 すると、装備している機上レーダーに味方以外の光点が多数出現した。

 どうやら、撤退中だった敵空母から艦載機が発艦したらしい。

「フフフ……労せず確保もいいが……やはり戦士たる以上戦わなければな」

 パンサーはニヤリと笑うと、小隊の僚機に無線を繋いだ。

『我々はこれより戦場の制空権確保に移る。敵戦闘機が空母より発艦、此方に接近中のため、これを排除せよ。これは新生グランドラゴ海軍航空隊の初陣である! 各員一層奮励せよ‼』

『了解‼』

 日本からの事前情報によれば、フィンウェデン海王国の空母艦載機の最高速度は時速400kmに満たない、固定脚の攻撃機だ(シュトゥーカC型は雷撃も可能なように改装されていたため、爆撃機でも雷撃機でもなく攻撃機と称している)。

 だが、遅い速度……それも時速100km以上の差がある場合の話だが、あまりの遅さにうまく後ろにつけずに失速してしまうこともある。

 なので、なんとかして一撃離脱を成功させなければならない。

「幸いなのはこちらには日本から提供された機上レーダーがあることと、母艦からも随時敵の詳細な位置が報告されているから相手の位置を見誤ることはないと思うが……」

 パンサーとしても初めての実戦なので色々と緊張している。

「訓練ではこんな気持ちを味わうことはなかったが……これが戦場か」

『敵編隊との距離、まもなく50kmを切る』

 既に高度は7千mを超えており、相手のシュトゥーカモドキよりもかなり高度を取ることができた。

 どうやら相手のシュトゥーカモドキは日本から聞いていたスペックよりも高く飛ぶのが苦手のようだ。

「幸先がいいな……あとは油断さえしなければ大丈夫なはずだ」

 やがて、相手編隊の後ろを取った。

『各機、俺に続け‼攻撃開始‼』



――ヴヴヴヴウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ‼

 


 眼下に敵を確認すると、縦一列で一気に急降下を開始する。

 その速度は650kmを超えており(紫電改二の最高速度は時速640kmほどだが、急降下速度が乗って加速している)、相手の艦載機とは比較にならない速さである。

 一応元の紫電改同様に格闘戦もある程度こなせるとは言われているものの、体格の大きな竜人族にとって急旋回を繰り返す格闘戦は得意分野とは言えない。

 日本人は気質上なのかよくわからないが、太平洋戦争開始から終盤まで大半が零式艦上戦闘機によるドッグファイトを得意としていた(もちろん全てがそうだったというわけではない。岩本徹三氏のように一撃離脱を徹底していた人物もいた)。

 一撃離脱を主戦法として使うようになったのは、一面として本土に飛来するようになったBー29重爆撃機に対して『二式戦闘機 鐘馗』や『二式複座戦闘機 屠龍』などが攻撃を仕掛ける際に格闘戦の意味がなくなったという点がある。

 ただし、あくまで一面。

 お巡りさんが大暴れするご長寿マンガのアニメスペシャルの中にも夜間戦闘機『月光』がちょくちょく登場するが、あれも戦闘機とは言いつつ双発なので運動性よりは一撃離脱の方が得意だったりする。

 強力な武装と相手に悟らせない奇襲攻撃は、味方の被害を減らすうえでも重要なのだ。

 それはさておき。

 急降下するファルコン部隊は瞬く間に敵編隊との距離を詰める。

「地獄へ……堕ちろーッ‼」



――ドドドドドッ‼ ドドドドドッ‼



 引き金を握ると、20mm機関砲弾が連続して発射される。

 堅牢な設計で知られる『Juー87C』に酷似した設計をされている存在ではあるが、破壊力の高い20mm機関砲弾が数発命中しただけで翼はもちろん、胴体であろうとも一部が吹き飛んで機体の制御を失わせてしまう。

 自分たちよりも高高度からの攻撃を受けるとは想定していなかったらしく、敵編隊はあっという間に乱れていく。

 そうこうしているうちに15機はいた敵機が、もう半分以下にまで減っていた。

「よし……」――『各員、ここからは追い込み漁の開始だ。トビウオどもを徹底的に仕留めるぞ‼』

『了解‼』

 そこからは2機で組んで相手を追い回し、目の前に来たところで機関砲を撃ち込むという戦法を取り、残った7機も次々と撃ち落としていく。



 艦載戦闘機『コルッカ』のパイロットの1人であるハルトは、ガタガタと震えながら母艦へと避難していた。

「ちくしょう‼ あんな高性能戦闘機を持っている国があるなんてっ‼」

 引き込み脚を持った、運動性能にも加速性能にも優れた全金属製の戦闘機はようやく首都防衛隊にのみ配備されている。

 ちなみにその戦闘機は、ミリタリーオタクが見ればメッサーシュミット『Bf109』に酷似しているように見える。

 ただし、塗装は雪景色に紛れるためなのか真っ白だが。

「司令部! 司令部‼……クソっ、やっぱりダメかっ‼」

 敵に高性能戦闘機があることを報告しようとしたのだが、先ほど大口径の機関砲弾が胴体をかすめた時に故障してしまったらしい。

 敵の国籍マークを確認したところ、巨大な龍とつるはしの紋章から、グランドラゴ王国のモノだと判明した。

 グランドラゴ王国があれほど強力な航空戦力を実用化していたというのも驚きだが、いくら強力で高速な戦闘機でも本土から飛んでくることは不可能だろう。

 恐らくだが、近くに自分たち同様、空母がいたに違いない。

「司令部!……ダメか?……がぁっ!?」

 強烈な衝撃を感じ、後方を見ると、尾翼部分が完全に吹き飛んでいた。

「つ、強すぎるっ‼」

 なんとかキャノピーを開いてパラシュートで飛び出したが、無事着水するまでは生きた心地がしなかった。

 見れば、他の機体も全て撃墜されている。

 しかも、コクピットを撃ち抜かれた機体もあったらしく空中分解同然にバラバラになってしまったものもある。

「ぜ……全滅!? イエティスク帝国以外に……この我々が全滅するなんて!」

 わずか12機だったとはいえ、まさか全滅するとは……しかも相手に一矢報いることもできずに全滅してしまうとは思わなかった。

 グランドラゴ王国は10年ほど前までワイバーンしか所有していなかった。

 それが世界の……いや、日本と付き合いのない国の常識だった。

 しかし、王国は瞬く間に技術を取り入れて発展しており、今やノックダウン生産どころかライセンス生産で紫電改二レベルの飛行機を生産できるようになっていた。

 今は日本からの教導を受けてジェット機も研究中だが、流石に時間がかかっている。

 それでも既に『グロスター ミーティア』……ではなく『デ・ハビランド ヴァンパイア』とほぼ同じ構造の機体と、同じ能力を持つエンジンの開発に成功していた。

 なぜミーティアではなくてヴァンパイアかと言えば、ヴァンパイアは木製飛行機の製作を得意としていたデ・ハビランド社の製作した飛行機ということもあって、コクピット付近に木製合板が使用されていたためだ。

 金属でジェット機のコクピットを作ると色々難しい部分もあるが、加工さえうまくいけば木製の方が細かい調整が効くので亜音速機水準の航空機であれば木製合板でも十分なのだ。

 だが、そんな情報を日本と交流のない国が知るはずもなかった。

「あっ……敵機が『グングニル』の方へ‼」

 見れば、複葉機だが自分たちの乗っていた『コルッカ』よりも速い速度で飛んでいく飛行機が見えた。

 あんな奇妙な飛行機は持っていないはずなので、間違いなく敵機だろう。

「グングニルは無事だろうか……」

 戦艦は航空機の攻撃では基本的に沈められない。

 しかし、自分たちの乗っていた『コルッカ』は現在イエティスク帝国から技術供与を受けて開発している1t爆弾を搭載することができれば、場所によっては弾薬庫や機関への誘爆で轟沈させることも可能と聞いている。

 そうであれば、敵がそれを『できない』と考えるのは視野が狭いと笑われてしまうだろう。

「どうか……どうか無事で……」

 ハルトはただ味方の無事を祈ることしかできなった。



 当然、そんな敵機の接近は『グングニル』側の対空電波探信儀でも感知していた。

「敵機接近! 機数22……いえ、さらに後方から向かってくる機体を確認! 総勢50を超えます‼」

「50機以上を1隻で相手しなければならないのか……対空戦闘用意‼」

 最初から主砲は当てにしていない。

 フィンウェデン海王国には近接信管を搭載した砲弾が存在しないのはもちろんだが、対空用のモノと言えば、時限信管を搭載した高角砲、機関砲が多少存在するだけである。

 そして、この『グングニル』には旧日本海軍の軍艦のような高角砲は搭載されておらず、37mm連装機関砲が8基と20mm連装機関砲が5基搭載されているのが最大の防空火器であった。

 はっきり言って、かなりの手数不足である。

「まぁ、沈まないならば帰投してから対策を考え直すしかないな」

 エイノは艦長として、仕事が終わった後は報告書を上に提出して対策を練ってもらうことしかできはしないと割り切っている。

 自分たちがイエティスク帝国の属国で、兄であるスロ王もそれで苦労していることを知っているからこそ、するべき仕事をこなして自分たちが楽しく、楽に生きていけるようにすること。

 それが重要だと考えていた。

 そんなことを考えている間にも、ゴマ粒のようだった敵機が次々と迫ってくる。

「……あれほどの性能を持つ艦載機が出てきたのだから同レベルかそれに匹敵するような高性能機が出てくるかと思っていたのだが……まさか時代遅れの複葉機が出てくるとはな」

「我が国でもまだ一部で運用しているとはいえ、爆弾も小型のものを2発搭載しているだけのようですし……変ですね」

 正直言って違和感は拭えないが、自分たちにできることをやるしかない。

「確かにこの船の対空兵器は少ない。それでも、各自ができることをやるだけだ。全機叩き落とすくらいのつもりで迎撃せよ‼」

「了解‼ 全艦に通達せよ‼」

 艦内にブザーが鳴り響き、兵員たちが高射機関砲へ配置される。

 やがて、敵機が機関砲の射程に入った。

「撃てーッ‼」



――ドンドンドンッ‼ ドンドンドンッ‼

――ドドドドドッ‼ ドドドドドッ‼



 だが、ほぼ目視照準で発射される機関砲弾はほとんど当たる気配がない。

 というか、もはやまぐれ当たりを期待して撃つしかない、というのが対空用の誘導弾が開発され、その精度が上がるまでの対空戦闘というものだったのだ。

 当然、そんな弾幕を恐れることもなく敵は突っ込んでくる。

 もっとも、実際に突っ込まれる方からすれば『クソ度胸』と言いたくなるくらいに肝が据わっているように感じられるのだが。

「敵機直上‼」



――ダダダダダダッ‼ ダダダダダダッ‼



「敵機発砲‼」

 敵航空機から放たれた機関銃弾により、高射機関砲の兵員や非装甲箇所が次々と破壊されていく。

 それでも無事な機関砲は対空射撃を継続していた。

「撃て撃てーッ‼ これ以上近づけるなぁっ‼」

 しかし、そんな彼らの努力を嘲笑うかのように敵機から小型の爆弾が2発、投下される。



――ヒュウウウウウウウゥゥゥゥゥゥッ‼



「総員退避ー‼ 退避せよー‼」

 高射機関砲の1つから兵員が逃げ出した瞬間、『ヒルンドー』の翼下に抱えられていた60kg爆弾2発が炸裂し、見事に機関砲を砲座と兵員ごと粉々に吹き飛ばしてしまった。

「ちくしょう‼ やられたっ‼」

「無駄口叩くなっ‼ できることでなんとか迎撃だっ‼」



 艦橋には芳しくない報告が次々と飛び込んでくる。

「第1高射機関砲全損‼使用不能!」

「第3、第5、第7も使用不能です‼右舷の高射機関砲はほぼ壊滅状態‼」

 さらに鈍い爆発音が響いた。

「だ、第一主砲、敵爆弾の貫通により使用不能‼」

「なにぃ!?」

「主砲塔まであんな小型爆弾に貫通されたというのかっ!?」

 敵の爆弾は小型だが、それなりに威力があるらしい。

 エイノは敵戦力の評価をさらに引き上げる必要があると感じていた。

 実は、『ヒルンドー』に搭載されている爆弾は装甲箇所を攻撃することも想定して、成形炸薬弾頭を使用している。

 そのため、戦艦の主砲塔のような装甲の分厚い場所を攻撃しても、それなりに効果があるのだ。

「そうか……敵の狙いは戦闘能力を完全に削ぎ、追撃を不可能にすることだったのか……それほどの兵器を搭載しているのなら、納得だ」

「艦長」

「狼狽えるな。少なくとも沈めることはできない……ならば、撤退するほかあるまい」

「敵前逃亡で罰せられますよ」

「貴君らの命を1人でも多く連れ帰れるのならば安いものだ」

 艦橋がざわつく。

 だが、実際に情報を生きて持ち帰らなければ、軍本部も今後の対策も立てようがないだろう。

 それを考えれば、幹部クラスが罰を受けることで情報を持ち帰り今後に活かすというのは大事なことのように思われる。

「……わかりました。それでは直ちに……」

『報告‼』

 つんざくような大声と共に、伝声管から声が響いた。

『右舷超低空より航空機10機以上接近中‼ 敵は……先ほどの複葉機‼ 距離既に3kmを切っている‼』

「なに!?」

 急いで右舷の超低空に目を凝らしてみると、確かに機影が確認できた。

「まさか……超低空からの水平爆撃か!?」

「これを狙っていたというのかっ‼ 右舷対空兵器はどうした!?」

『右舷対空兵器全滅‼ 高射機関砲は全て破壊されています‼』

 つまり、現在右舷はいい的になってしまっているということである。

「反転180度‼左舷の対空兵器で迎え撃て‼」

「了解‼ おもーかーじ‼」

 舵輪が急速回転し、大きな船体をゆっくりと旋回させる。

 しかし、その速度はあまりにも遅々としており、乗員たちからすればもどかしいほどであった。

 そして方向転換が終了し、各対空兵器が照準を合わせ始めた頃には既に距離が5kmを切っていた。

「対空兵器、全門斉射ーッ‼」

「撃てぇーっ‼」



――ドンドンドンッ‼ ドンドンドンッ‼

――ドドドドドッ‼ ドドドドドッ‼



 しかし、先ほどと比較してかなりの低空で侵入してくる敵機に対して、機関砲弾が当たる様子は全くない。

 そして、距離1kmを切ったところで、敵機は胴体下に抱えていた爆弾らしきものを投棄すると、そのまま飛び去っていってしまった。

「……え?」

「あいつら……なにがしたかったんだ……?」

 艦橋の面々もポカンとした表情を隠せない。

 だが、その直後に見張り員から絶叫が響いた。

『敵機爆弾投下地点より航跡確認‼ 爆弾が水中を走っているものと考えられる‼』

「ば、爆弾が水中を走るだとぉ!?」

「回避行動‼ なんとか避けろっ‼」

 船が急激に旋回を始めるが、移動速度の速い水中爆弾らしきものの何発かは当たりそうに見えた。

「ダメだ……避けきれないっ‼」

 直後、船体に7か所の水柱がド派手に上がった。

『左舷7か所に被弾‼ 第23区画浸水多量‼ ダメです‼ 左舷側隔壁が多数破壊されましたぁっ‼』

「ば、バカな……そんなバカなことがっ‼」

 エイノは自分たちの知識になかった兵器……短魚雷の攻撃に呆然としていた。



 空母を飛び立った『ヒルンドー』攻撃隊18機は、敵戦艦の横腹を狙って胴体下に懸架していた短魚雷を投下した。

 18本中7本しか命中しなかったものの、元々水上・喫水線下における防御力の低い『シャルンホルスト級』に酷似している『グングニル』では、元が対潜水艦用の短魚雷であろうとも、7本命中するだけで大打撃であった。



「左舷よりの浸水止まらず‼ 右舷注水装置は既に作動していますが、それほど時間をかけることなく注水限界を迎えます‼」

「そんな……そんなことがっ……」

 エイノは傾いていく艦橋の中で打ちひしがれていた。

 油断はしていないつもりだった。

 しかし、心のどこかに『驕り』があった。

 『損傷はしても死にはしないだろう』、『攻撃を食らっても撃沈するようなことはあるまい』と……。

 だが、戦場においてそんな甘い想定は呆気なく覆る。

 そして、エイノはそれに即応できないほど無能ではなかった。

「……総員退艦」

「なっ……」

「しかし艦長‼ まだ……」

「このままでは本艦は沈む‼ そうなればどれだけの命が犠牲になると思っているのだっ‼ 直ちに発令せよ‼ 総員退艦‼」

「そ、総員退艦‼ 総員退艦‼」

 不幸中の幸いと言うべきか、威力がそれほど高くない短魚雷の直撃だったこともあって、『撃沈は確実』な状況ではあったが、『撃沈まで時間はある』という状態でもあった。

 なので、まだ脱出するまで少し時間が残されていたのである。

 総員退艦の命令を受けた兵たちは直ちに救命艇を降ろし、我先にと海へ飛び込んでいく。

 艦内の奥……機関室や弾薬庫からも多くの兵が飛び出してくる。

 狭い艦内は走りにくく、おまけに人でひしめき合うものだからなおのこと脱出が遅れる。

 それでも十数分ほどで生存者のほぼ全員が脱出したことが確認された。

「艦長、残るは我々艦橋要員だけです。急いで脱出を」

「うむ。皆の者、急げ‼」

 エイノたちが脱出した30分後、さらに傾いた艦内で弾薬が多数転がった衝撃により激発し、大爆発と共に艦は真っ二つとなって沈んでいった。



 一方、逃げ続けていた巡視船『はしだて』はなんとか低速とはいえ進み続けていた。

「敵の攻撃がほとんど来なくなったな」

「どうやら、グランドラゴ王国の航空攻撃が始まったみたいやな」

「これでなんとかなればいいんですが……」

 問題は、今後の対処をどうするかというところである。

 日本の巡視船が攻撃を受けたとはいえ、安易に『正当防衛だ』といって自衛隊を動かすわけにはいかない。

 ただでさえ拡大に次ぐ拡大と、戦乱に次ぐ戦乱で自衛隊はかなり疲弊している。

 少なくとも、直ちに開戦とはならないはずだった。

 また、支援を求めた都合上グランドラゴ王国とも協議をする必要があるはずなので、その点も非常に難しい。

「ま、ここからはお偉いさん方の判断に任せるほかあらへん。俺らは言われたことをきちんとこなすことやな」

 その後巡視船『はしだて』は到着したグランドラゴ王国の機動部隊によって保護され、王国の港まで曳航されていった。

 そこで簡易的な修理を施され、それから日本へ帰還したのだった。


いよいよきな臭くなってきた北の方角……今後がどうなるか、とくとご覧あれ。


次回は8月の5日に投稿しようと思います。

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