逃走中!
今月の投稿になります。
はてさて……『はしだて』は逃げ切れるのか……
突如大きな振動に見舞われた巡視船『はしだて』のブリッジでは、城島が頭を計器にぶつけて血を流しながらも『被害報告!』と大声を張り上げていた。
さすがは巡視船の船長を務めるだけのことはある。
『左舷後部に被弾! 喫水線より上部! 浸水ありません!』
どうやら一撃で轟沈という最悪の事態は避けられたようだ。
しかし。
『爆発により機関が損傷! ディーゼル2基の内1基が破損の末システムダウンしています! なお、それに伴い出力が半減します!』
「なんやてぇ!? 出力半減したら全力でも15ノットも出せへんぞ‼ 応急処置はできそうか!」
『ダメですッ! 砲弾の爆発でメチャクチャになっています! ドック入りしなければとても修理できないでしょう!』
「えらいこっちゃで……こんなこったら沈まなかったといっても手放しで喜べへんがな……」
「確かに……このままでは追いつかれますね」
不幸中の幸いなのは、引火しにくい構造であるディーゼルエンジンだったこともあっていきなり機関部で大爆発を起こさなかったことであろうか。
ガソリンエンジンやタービンエンジンの場合、燃料に引火して大爆発するということが大戦中を含めてよくあるのだ。
実際、ナチス・ドイツの戦車部隊の多くはガソリンエンジンを搭載していたため、エンジンに被弾した際の炎上率が高かったという話もある。
そんな中、日本では世界でソビエト以外で数少なく戦車用にディーゼルエンジンを採用していた。
もっとも、当時の日本では高品質のガソリンを確保するのは航空機が優先だったため、戦車を含めた車両関係は粗悪な燃料であろうとも動かせるディーゼルエンジンの方がよかったというだけの話だが。
そんな日本人はもちろんのこと、方々から重宝されるディーゼルエンジンだが、それでも出力が大幅にダウンしてしまえば敵の苛烈な攻撃をよけきることが難しくなるだろう。
「しゃぁないな……なんとか回避行動をとりつつ西へ向かえ‼ 一番近いグランドラゴの港を目指すんや! そこで保護してもらうしかあらへん!」
「了解!」
船はゆっくりと進むが、その速度は明らかに先ほどに比べると遅くなっている。
「速力15ノットに低下! 14、13……12ノットまで低下して維持しています! 出力最大!」
「今の出力やとそれが限界か……」
――ヒュルルルルルルイィィィィィィィィィ……ドババァァァンッ‼
猛烈な爆音と共に、着弾点の水が空へと大量に跳ね上げられる。
「それにしても……海防艦隊の前弩級戦艦の主砲の最大射程から考えればギリギリだったはずやろう? 今の損傷からすると、明らかにそれより遠くから、それもかなりの速度で弾が飛んできたように感じたで?」
「確かに、明らかに高威力かつ長射程の砲だったと思われます。私も大砲については詳しくないので正確には申し上げにくいのですが……」
山口は持ってきていた『フィンウェデン海王国兵器集』という防衛省及び統合幕僚監部がまとめた本をめくってどんな船の主砲なら届きそうかを探していた。
その中に、気になる大砲を持つ船の名前を見つけた。
「……ま、まさか!」
「どないした、ぐっさん」
山口が見ていたのは、旧世界ではやはりドイツが第二次世界大戦中に採用していた軍艦だった。
ただし、現在フィンウェデン海王国で主力になっているはずの装甲艦(対外的には重巡洋艦とも言う)『ドイッチュラント級装甲艦』ではない、別の船だった。
「もしかしたら……こいつなんじゃ?」
「日本国の警備船、速力低下!」
「間もなく副砲の射程にも入ります!」
『グングニル級巡洋戦艦』1番艦『グングニル』の艦橋では、男たちがせわしなく動き回って報告を続けている。
「ほぅ。いくら警備船とはいえ我が国より優れた技術を有しているという噂の船……流石に一撃では沈まないか」
「こちらとの距離は15km近く離れていましたからね……命中個所も微妙だったのでしょうか? 警備船とはいえやりますな、ここからどうされます?」
艦橋に佇むファット・ホブゴブリンの艦長、エイノ・ヴィートリ・カタヤイネンは、厳しい目つきで前方を睨んでいた。
「先ほどの一撃は運よく命中しただけだ。もう一撃叩き込み、今度こそ足を止める。最大船速で海防艦隊の前へ出ろ!この長砲身28cm三連装砲の威力、とくと思い知らせてくれるわ!」
「了解! 射角調整、第一砲塔1番下げ1度、2番上げ1度、3番そのまま……」
「現在次弾装填中! 装填完了まで約20秒!」
『グングニル級巡洋戦艦』をミリタリーマニアが見れば、ナチス・ドイツの建造した通商破壊向けの巡洋戦艦、『シャルンホルスト級巡洋戦艦』に似ていると感じるであろう。
大きな特徴と言えば、なんと言っても54.5口径という長砲身の28cm三連装砲である。
『シャルンホルスト級巡洋戦艦』の主砲はその長砲身故に砲弾の初速が高射砲並みに速いため、最大射程も40km近くになるというドイツ海軍の傑作砲の1つである。
元々ドイツは海軍としては新興国家であったものの、大砲に関してはとても優れている国家である。
海軍ではないが、某戦車道アニメの映画でも登場した600mm砲を装備した『カール自走臼砲』や、某『パンツじゃないから恥ずかしくないもん!』なアニメのスピンオフアニメにも登場した『列車砲ドーラ』はミリタリーマニアからすれば知らない者はいないほどのネタだ。
高射砲でも88mm砲こと『アハトアハト』が対戦車戦闘に用いられ、さらに戦車に搭載された結果がティーガー戦車及びヤークトパンターの主砲である。
そんなドイツと同じ設計思想と技術を持つフィンウェデン海王国の『グングニル』から放たれた砲弾は、今回は最大射程の三分の一ほどの距離で発射したこともあって、6門連続斉射の結果、5発目の砲弾が命中した。
むしろ初弾命中を出しただけ奇跡と言える。
本来ならば遠弾、至近弾の調整を観測機や測距儀からの報告で調整し、狭叉することでようやく命中率を上げられるというものなのだ。
仮に狭叉したとしてもそこからまた命中させるまでにはかなり時間がかかるとも言われる。
それが第二次世界大戦中までの電子機器を用いない、人力及び光学照準での砲撃戦なのだ。
第二次大戦中には各国にレーダーが普及して(日本は最後の最後まで研究が遅れていたとも言われているが)いたこともあって、レーダーと連動させた射撃もあったようだが、どれも現代の精度から比べると赤子と大人を超える水準の格差があるものだ。
そんなことは露知らないエイノは、相手をどのように追い詰めるかと思案する。
「まぁいい。あとはできる限り至近弾で相手の動きを止めることにしよう」
「砲弾は調整が難しいです。沈めてしまうかもしれませんよ?」
至近弾の危険度は大きく、水中での爆圧が逃げにくいこともあって着弾地点付近の船体に大きな損傷を与えるのだ。
実際、大戦時の船籍の軍民を問わず、砲弾や爆弾の至近弾で船底に穴が開いたところで速力が低下して直撃を受けただとか、浸水が止まらずに沈没してしまったなどという話は枚挙に暇がないレベルの話である。
なお、そんな水中効果を利用して砲弾を魚雷のようにしてしまおうとどこかの東の果ての島国が頭を捻って考え出したのが、徹甲弾に水中推進効果を与えた『水中弾』である。
もうちょっと捻るべきところがあるだろうとか言っちゃいけません。
閑話休題。
「……そうだな。沈めてしまったら、その時はその時だ。安心しろ、始末書は私が書くさ」
部下に仕事を任せて責任は最高責任者の自分がとる。
それがエイノの主義だった。
「艦長、目標の動き、さらに鈍化しつつあります。先ほどの一撃が効いている模様です」
「恐らく機関部を損傷したのであろう。爆煙を上げていないところを見ると、重油専燃系の機関なのかもしれないな。まぁいい、このまま……」
「敵船発砲!」
急な叫びに目を見張ると、光る『なにか』が向かってくるのが見えた。
「なんだ?砲弾にしては遅すぎるが……面舵一杯!」
「面舵一杯!」
操舵員が素早く舵輪を回すと、『グングニル』の細長い船体がゆっくりと旋回し始める。
「機関を損傷してもなお発砲するとは見事な敢闘精神だ。だが、あのような低速では当たるものも当たらない……」
すると、日本船から放たれた『なにか』を見ていた監視員が叫んだ。
「飛行物体……こちらへ向かってきます!」
「なっ、なにぃっ!?」
それまで動揺する姿を見せていなかったエイノが、ここにきて動揺した表情を見せた。
「どうなっている! 回避行動は間に合うはずだ‼」
「光る『なにか』が付いてきています! まるで、意思を持っているかのようにこの船を追いかけてきているのです!」
それはまるで、イエティスク帝国の保有する超兵器・『誘導弾』のようである。
そんな兵器を、しかも対艦用に使えるほどの威力がある兵器を保有しているという話は事前情報にはなかった。
しかも、相手は警備船だと言っていた。警備船といえば、フィンウェデン海王国基準でも沿岸警備隊として小口径の砲か機関砲、速射砲を搭載した旧式船と決まっていた。
沿岸警備隊『ごとき』がそんな超兵器を搭載しているのだとすれば、軍隊の技術水準がどれほど進んでいるのかまるで想像がつかない。
そんなことを一瞬で考えつつ、エイノは自分にできることをしようとした。
「かわせないならば……迎撃するしかない! 対空砲、高射機関砲、各自射程に入り次第射撃を……」
「ダメです! 既に距離5kmを切りました! まもなく命中します!」
「は、早すぎ……」
エイノの言葉は最後まで続かなかった。
巡視船『はしだて』から放たれた改良型対艦誘導弾が艦橋下部に命中し、内部にメタルジェットによる破孔を生じさせたからである。
「敵巡洋戦艦に命中弾確認! 艦橋に命中した模様!」
観測員の報告に思わず城島はホッと息を吐いていた。
「これで少しは攻撃も弱まるやろう。いやぁ、ようやったわぁ」
「誘導弾の性能は見事ですね。いくら巡洋戦艦とはいえ、二次大戦水準の軍艦の重要区画装甲を貫くとは」
「それがノイマン効果……HEAT弾なんやろうな」
実際には一般的に装甲が薄いと言われている巡洋戦艦といえども艦橋などの重要区画はそれなりの装甲に覆われているのだが、現代の対戦車誘導弾のタンデム弾頭はそんな装甲をものともせずにぶち抜いてしまう。
「問題は……あの船の艦橋の広さで、どれほど打撃を与えられるかですね」
「HEAT弾は広い空間があるとメタルジェットが思うように威力を発揮せぇへんからな」
実際、某日本が異世界に召喚される小説において友好国に供与された多目的誘導弾の改良型の中にもHEAT弾が存在したが、艦橋の装甲を貫いたにもかかわらず命中した先が広い空間だったために戦闘続行には支障がなかったという場面があった。
すると、後方の敵戦艦から再び煙が上がった。
「敵艦発砲!」
「面舵一杯! 回避や!」
「面舵いっぱーい‼」
先ほどまでの全力航行と比べてしまうと明らかに遅いが、それでも『はしだて』は、ゆっくりと旋回して敵の砲弾を回避する。
周囲には大量の水柱が上がっており、甲板で敵を監視している監視員たちはもうずぶ濡れである。
しかし、自分たちの生命がかかった状況のため、だれもが冷や汗と海水に塗れながらも自分の任務を全うしていた。
「船長! 敵シャルンホルスト級モドキとの距離、まもなく10kmを切ります! 海防艦隊も増速! 速力18ノット!」
「アカンなぁ……ミサイルの残弾はあまりあらへんで……」
「いっそ全部撃ち尽くして身軽になって逃げますか?」
「威嚇射撃もほとんど効果がなさそうやしなぁ……機関部を狙うことってできそうか?」
火器管制員としてミサイルの照準も担当している松岡が首を横に振った。
「相手に命中させるっていうことなら確実にできますけど、相手船舶の、それも独立した動きを見せない一部分にだけ命中させるというのは……」
「無理か、まぁそれならしゃぁないな」
だが、このままではジリ貧である。城島としてもなんとかしたいと考えていたのだが、誘爆を防ぐという意味でも残弾がゼロになるまで撃ち尽くすしかないのではないかとさえ考えていた。
「こうなったら……松岡、口径の大きな戦艦を優先して狙えるか? 予備弾も含めて全部撃ち尽くすんや。少しでも敵の行動力を削がなアカン」
「それくらいならなんとか……敵の主砲に命中させられれば、主砲を使用不能にできますからね」
実際、軍艦の砲塔は意外と繊細な機構の下に成り立っており、砲塔の一部に穴が開くだけでも使用不能状態に陥る。
つまり、無理に撃沈を狙わずとも上部構造物にダメージを与えることで相手の戦闘能力を削ぐことは十分に可能なのである。
「よし……やったれ、松岡ァ‼」
「了解! 対艦誘導弾、目標振り分け開始! 目標、シャルンホルスト級モドキ1隻に2発、前弩級戦艦2隻に1発ずつ、装甲巡洋艦3隻に1発ずつ!」
「予備弾の充填用意も忘れるなやぁ!」
「はい! 補充要員は直ちに予備弾を持って誘導弾発射筒へ向かえ!」
「船長、目標捕捉完了!」
「撃てぇ‼」
――バシュッ! バシュッ!
白い煙を上げながら誘導弾が発射される。
空中で向きを変えた誘導弾は、振り分けられた目標にしっかりと向かっていくのだった。
「敵警備船、先ほどの噴進弾を発射! 本艦に2発が向かってきます‼」
『グングニル』の艦橋は無事だった。
やはりと言うべきか、艦橋は広い空間となっていたためにメタルジェットのダメージがほとんど及ばなかったのだ。
エイノも命中する瞬間に構造物の後ろに身を隠したことにより、奇跡的に無傷であった。
だが、一部の人員はメタルジェットで大怪我を負ったりあの世へと旅立ったりしてしまっている。
油断のならない相手である、ということはもうわかった。
「こちらへ向かってくるぞ! 対空迎撃は!?」
「ダメです‼ 今から旋回すれば、対空火器を展開する前に命中します‼」
「クソっ‼」
毒づくものの、どうしようもない。
両方とも主砲を狙っているように見えた。
「ま、マズい‼ 先ほどの威力から見て、あれは主砲の前面防盾でも撃ち抜かれかねないぞ‼」
「どういった原理かはまるで分かりませんが……」
だが、彼らにはどうすることもできない。
仰角の足りる艦の対空砲・高射機関砲は応戦しているものの、まるで当たる気配がない。
「ダメだ、当たるっ‼」
そして鈍い音と共に命中箇所に対してノイマン効果が炸裂し、その奥に立っていた人員装備に対してメタルジェットが襲い掛かる。
「ぐっ、被害報告っ‼」
「グングニル、第一主砲に破孔発生! 使用不能‼ もう1発は逸れて舷側装甲に命中! 小破‼」
グングニルは小破で済んだ。この分ならば第二主砲と副砲だけとはいえ、まだ攻撃も可能だ。
しかし……
「海防戦艦『オスカー』、前部主砲に破孔発生! 使用不能‼」
「装甲巡洋艦『エーリカ』、『フリード』、共に前部主砲に破孔発生! 使用不能‼」
「くっ、やはりこうなってしまったかっ……‼」
エイノは予想通りの状態に歯噛みする。
これで有効射程にあるのはグングニルの兵器だけとなってしまった。
「艦載機と一緒に畳みかけるか? いや、先ほど報告に合った正確無比な迎撃を考えると、よほどの数で押さなければ被害を与えることは難しそうだが……そうなった場合、損害との費用対効果があまりにあわなすぎる……なにより既に空母の艦載機はほぼないに等しい……」
「艦長、どうされますか?」
エイノがブツブツと呟きながら作戦を考えている中、副長が問いかけてくるがロクに返事もできない。
「こうなれば……海防艦隊を下がらせろ。攻撃手段を残している本艦と違い、彼らではどうすることもできない」
「では……」
「我々だけで追撃する。距離5kmまで迫ったところでジグザグに航行しながら副砲も使って攻撃を続行する」
「ジグザグ航行しながらの射撃ですか……命中率が落ちそうですな」
「『下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる』だ。今の我々に必要なのは重い一撃ではなく、多い手数だ」
「はっ、了解しました!」
グングニルは更に速力を上げ、最高速力に近い30ノットまで上昇させた。
12ノットほどしか出せていない『はしだて』との距離は見る見るうちに詰まっていく。
「第二主砲、装填完了!」
「射撃指揮所の判断で撃たせろ!」
「発射!」
――ドォンッ‼
一方、時間は10分ほど前に戻り『はしだて』の方はというと航行はノロノロで機関も最大出力を出し続けているせいでかなりのオーバーワーク状態となっており、はっきり言ってロクな状態と言えなかった。
しかし、射撃指揮システムは生きていたために誘導弾を全弾命中させることには成功した。
「どや? 敵さんの動きは?」
「前弩級戦艦や空母が離れていきます! 残るはシャルンホルスト級モドキだけです‼ 増速して我が方に向かってきます‼」
「誘導弾がうまく作用したみたいやな……砲塔に照準を合わせることができたのはもっけの幸いやったで。ぐっさん、どう思う?」
「はい。相手が1隻だけになれば残りの誘導弾で経戦能力を削ぐことも十分に可能でしょう。現在装填作業中でして、あと15分もあれば全弾装填の上、甲板上から装填要員を退避させることが可能になります」
「あとはあの戦艦に集中砲火すれば、か……ま、それまでにこっちがもう1発食らったらアカンけどな」
「ちょ、ここでそれを言わないでくださいよ‼ 本当に当たったらどうするんですか‼」
「船長、そういうのを『死亡フラグ』っていうんですよ」
「フラグ? 旗がどうしたって言うんや?」
「ほら、映画とかでよく言うじゃないですか。『俺この戦いが終わったら結婚するんだ』とか、『ちょっと忘れ物してきた』とか、『帰ったら娘の誕生日を祝ってやるんだ』とか……」
「あぁ、映画の死に役に多いな……まさか」
「そのまさかですよ。発すると死に至る運命の旗を立てるっていうことで『死亡フラグ』っていうんです……」
城島は目に見えて震え上がった。
「……縁起悪いな……」
「そういうものなんですよ……くれぐれも発言には気を付けてください。乗員の士気にも関わりますので」
「ほな、気をつけんとな。せやけど、今の状況は既に死亡フラグが立ったも同然やで?」
確かに12ノットまで速力が下がり、相手の攻撃を避けるためにジグザグ航行をしているせいで船速は遅く、足を止めているに等しいノロノロ航行だ。
「今1発でも食らったら……アカンのちゃう?」
「だからそういうこと言わないでくださいよぉ……」
「あぁ堪忍堪忍。こういうのがよくないんやな……覚えとこ」
すると、国分が頭を上げた。
「船長、誘導弾の次弾装填が終わりました」
「よしきた。こうなったらこっちも全力で敵さんにぶち込んでできる限り逃げてやろうやないかい」
「それでなんとかなりますかね?」
「とにもかくにもこうなったら下手なことするより逃げる方がええ。とっととどっかの港に逃げ込むんや」
「了解しました。誘導弾、次弾発射準備! 目標、敵戦艦主砲塔及び副砲、さらに艦橋にも撃ち込みますか?」
「そやな。それで指揮系統をめちゃくちゃに破壊するのが一番手っ取り早いやろ」
「了解です」
だがその時、『ズガァァン‼』という衝撃が船体を襲った。
「おわっ!? ひ、被害報告‼」
「左舷後部に至近弾‼ 砲弾爆発の影響で破孔発生‼」
「な、なんやてぇ!? 浸水は……あるやろな」
「はい……浸水多量で、まもなく速力がさらに低下するとみられています……現在非常扉を閉鎖してなんとか最低限に済ませていますが……」
「……反撃は?」
「先ほどの衝撃で、全レーダーシステムと射撃管制システムに異常が発生しました。これでは、誘導弾も主砲も使えません」
つまり、『詰み』であった。
10ノットを下回るような速度では、巡洋戦艦というべきシャルンホルスト級モドキから逃げ切ることはできないだろう。
もはやこれまでである。
「……ここまでか、皆すまん」
城島の懺悔に乗員たちも項垂れる。
「総員退船や。このままでは……」
「船長!」
「なんや、今大事な話を……」
「無線入電です! これは……グランドラゴ軍の回線!」
「なんやて!?」
「『貴船からの救難信号をキャッチした。ただいまそちらにハヤブサ隊が向かっている。貴船に害をなす者たちに対し、同盟国として正当防衛を行う』とのことです!」
集団的自衛権の行使について、つい先だって日本と王国は協定を交わしたばかりであった。それがまさか、これほど早く生きることになるとはだれも想像していなかった。
「そんな近くに空母が……? まるでこうなることを予測していたみたいやけど……助かるかもしれへん!」
『はしだて』の乗組員たちは、思わぬ希望に活力を漲らせるのだった。
……アトランタのホロ、出ましたよ……弟たちに。
小説じゃ、ダメだったのかなぁ……でも、づほの改二実装来たからそれで良しとするかな(ヲイ)。
次回は7月の8日に投稿しようと思います。