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蠢く野望、わずかな光明

今月の投稿となります。

先月は誤爆をしてしまい本当に恥ずかしい思いをしましたが、今月は大丈夫です。ちゃんと確認して投稿します。

――西暦1750年 9月25日 フィンウェデン海王国 王都バルシンキ とあるホテル

 日本の外交使節である野原と川口は、フィンウェデン政府がイエティスク帝国に問い合わせると言っていた回答を待っていた。

「先輩、どうなると思いますか?」

「そうだな……イエティスク帝国がどう出てくるかがまるで読めないが、一番危険なのは帝国が『その船のことを知るために拿捕せよ』って言ってきた場合だな」

「日本の技術流出ということで、大きな問題になりますよね。巡視船じゃいくら時代遅れとはいっても軍艦には勝てませんし」

 野原は『当然だ』と続ける。

「『はしだて』は日本では最新鋭の巡視船だ。レーダーも現代からすれば型落ちに近いものとはいえ、冷戦期の国家よりは進んでいるからな。そんなものが解析されて戦力に加えられたら、面倒なことこの上ないってわけだ」

「じゃあ今すぐに連絡して、巡視船を避難させた方がいい、ってことですか?」

 だが、野原は『そうは言わない』と言って首を横に振った。

「そんなことをすれば、我々が王国を信用していないということになって国交樹立の可能性の芽を摘むことになってしまう。そうなれば、イエティスク帝国との交流ももはや不可能に近いだろう」

 元々フィンウェデン海王国がイエティスク帝国に対する扉のような存在であることから、この国と交流を持てなければどうしようもない。

「それはなんとしても回避したいですね。向こうが冷静な判断をしてくれるとありがたいのですが……大丈夫でしょうか?」

「……」

 イエティスク帝国は覇権主義国家のクセに(だからこそ、と言うべきかもしれないが)閉鎖主義で、自国の情報をできる限り他国へ流さないようにと交流の範囲を制限し、フィンウェデン海王国を通じてのみの通商を行なっていた。

 日本国は例外というか、チートとも言える人工衛星による偵察のおかげで多くの情報を得られているわけだが、それでもまだ欲しい情報は山のようにある。

 そして、そういった情報の多くが相手国と国交を結び、現地に人員を派遣して確かめなければわからないことばかりである。

 歩兵の携行兵器、軍の運用思想(ただし正面戦力を見るだけでもある程度は測ることは可能)、芸術や美術などの文化面の発達など、日本が求める情報は多角的かつ様々な分野にわたる。

 もっとも、自分がちゃんと帰れるかどうかを心配している川口と違って、野原はもう1つ懸念していることがあった。

 それは、先日のスロ王との会談の際の言葉であった。

『我が国がイエティスク帝国の属国であることは知っていると思うが……そのために、帝国にお伺いを立てなければならない』

「(つまり、イエティスク帝国の回答次第では、俺たち2人はもちろんだが、巡視船も無事に帰れるかどうかすらもわからない、ということだもんなぁ……今のうちにフランシェスカの通信基地か衛星電話を通じて『王国が帝国の言いなりになるしかない国家である』ことを伝えておかないとな……俺たちに配慮してくれたスロ王にも申し訳が立たん)」

 敵になるかもしれない存在にも配慮を欠かさないという辺りは、流石は日本の外交官と言うところであろうか。

 野原は衛星電話を起動させ、スロ王の配慮に関して外務省本部に伝えることにした。

「こちら野原です。現在フィンウェデン海王国首都バルシンキのホテルに滞在中です。はい。はい。国王陛下との会談は成功。ただし、国王陛下曰く、『自国がイエティスク帝国の属国故に、返答は帝国の意思を待たなければならない』とのことです。はい。場合によっては、巡視船を先に避難させることも想定しておかなければならないかと思います。はっ。了解しました」

 その他幾つかの確認事項を確かめると、野原は電話を切った。

 これで少なくとも、スロ王が万が一巡視船に攻撃を仕掛ける、或いは拿捕させるという手段を取らざるを得ないような状態になったとしても、記録さえ残っていれば後々に外務省で外交的配慮をすることも十分に可能になる。

「(できることはした……あとはスロ王の出方を見るしかないな)」

 野原はスロ王が穏やかな判断をしてくれることを祈りながら、川口の淹れてくれたお茶を飲むのだった。



 その頃、シンギュラリティ城の会議の間では、帝国に派遣していた外交官からの返答を聞いていた。

 通信では『無礼』扱いされることもあるため、直接人を送り込む必要があるという前時代的な部分もある。

「よくぞ戻った、アクモス」

「はっ。帝国よりの返答をお伝えいたします」

「で、帝国はなんと……」

 アクモスと呼ばれた男は冷や汗を流しながら答えた。

「『対象国家日本国の船はなんとしても拿捕せよ。なお、外交官については生命にかかわる手出しをした場合の国際的信頼を失墜することを懸念して、全てが終了した後にフランシェスカ共和国の北方港湾都市グダントへ送り届けるように』とのことです。なお、国交の締結については……日本という国の総合力が判明していないため、許可できない、とも……」

 つまり、帝国も『日本のことを侮っているわけではない』ということのようだ。

もっとも、だからこそ日本の技術力を知るために船を拿捕しろ、と言ってきたのだろうが。

一応『外交官の生命は保障しろ』と言ってくる辺り、日本を本気で怒らせた場合にどうなるか想像がつかないのだろうとスロ王はふんでいた。

「……はぁ。そんなに気になるなら帝国自らが接触すればいいと思うのだがな……まぁ、それを言っても詮無いことか」

「陛下、どうされますか?」

 スロ王は難しい表情を見せながら『やむを得ん』と言い放った。

「軍務大臣、日本の船は拿捕するように『努力』しよう。ただし、我が国にも客に対する『配慮』があることを見せなければならぬ。海軍に対し、『日本の船を拿捕せよ。ただし、日本の船に国外退去を命じ、我が国の領海を出た場所で停船させ、拿捕するように』と伝えるのだ」

「は、ははっ。かしこまりました」

 大臣たちが退室すると、スロ王は窓際に歩み寄り、『はぁ』と深いため息をついた。

「なんということだ……帝国は日本を侮ってはいないようだが、理解しきれているとは思えぬ。だが、それも無理はないのか……帝国よりも強い存在など、先史人類以外には存在しなかった……そんな驕りが、帝国の視野を狭めているのだろうな……だが、このままではいかんな」

 スロ王はなにかを決めた表情を見せると、急いで自分の執務机に向かって一筆したためた。そして外務局の外交官を呼び出し、野原たちが宿泊しているホテルへ持っていくようにと命じたのである。

「我が国ができること……それは、帝国の言いなりになることだ。だが……敵わぬとわかっている相手に自ら敵対を述べられるほど、無知野蛮なつもりもない」

 これでいいのか、いや良くないのかと悩みもするが、既に賽は投げられてしまった。

 あとは、自分にできることをするしかないと腹を括る。

 胃がキリキリと痛むが、それも我慢しなければならない。

 それが統治者という役職にある人間の責務だ。



 そして、スロ王の命を受けた外交官のホブゴブリン族の女性であるエイラは、日本の大使が宿泊するホテルへ向かった。

 ホテルの受付に外務局の職員で、日本の外交官に会いたいと伝えると、すぐに部屋へ通してもらった。

 部屋へ入ると、日本人2人が顔を引き締めて待っていた。

 どうやら、自分が来た理由が穏当なものではないということが薄々感じられたらしい。

「突然の訪問をお許しください。私はスロ陛下の命を受けて参りました、外交官のエイラと申します」

「日本国外務省の野原と川口です。なにかありましたか?」

 エイラは胸元(中々豊かな)から手紙を取り出すと、それを見せた。

 なお、この書状はフィンウェデンの公用文字である帝国語(つまりロシア語)で書かれており、大学時代にロシア学を専攻していた野原は読めるが、川口は日本語以外では英語を少し読めるくらいである。

 元々は国内勤務の職員だったので仕方がないのだが。

「こちらをご覧ください。先ほど帝国からの返答があったため、その結果を受けての陛下のご決断でございます。お読みください」

 野原は急いで手紙を開くと、そこには帝国によって王国が日本の巡視船を拿捕するように命じられたこと、そして外交官2名はフランシェスカ共和国の北方港湾都市グダントへ安全に送り届けるようにと書かれていたことが記されていた。

 さらに、巡視船は『自国の領海外』で拿捕するように、ということもちゃんと書かれていた。

「……帝国も日本のことは知りたいが、直接ぶつかってくる度胸はなかった、ってことか。これを、陛下が?」

「はい。陛下は日本と本格的に敵対することを望んでおりませんでした。なので、日本の船には国外退去を命じるようにすると同時に、お見送りのために私が派遣された次第です」

 それを聞いた野原は、『失礼します』と言って短波無線を起動した。

 チャンネルは、巡視船『はしだて』のものである。

「城島船長、王国の我が国に対する対応が決定しました」

『状況はどんなもんですか?』

「はっきり申し上げて、かなりマズい状況です。イエティスク帝国はフィンウェデン海王国に対して『はしだて』を拿捕するようにと言ってきたそうです。間違いなく軍が動きます」

『……可能性の1つとして予想はしていたが、いざ本当になったと思うとえらいこっちゃな』

「はい。なお、日本船舶である『はしだて』にはまず国外退去を命じ、領海の外へ出たところで拿捕する、とのことです」

 城島は無線機で報告を聞きながら疑問符を浮かべる。

『なんや……えらい回りくどいことするなぁ。普通に港で停泊している間に拿捕すればええんちゃうか?』

「どうやら王国側が日本に対して配慮している、という姿勢を見せたいらしく、『いきなりなんの前触れもなく拿捕する』というようなことはしたくなかったようです」

 それを聞いた城島は『むぅ』と唸り声を上げた。

『王国側としても、苦心した末のこと、だったんやろうな。外交官のお2人はどないなるん?』

「我々は王国側が用意した船舶でフランシェスカ共和国の北部港湾へ向かうことになりました。少なくとも、外交官に手を出すようなことはしないようです。一応、という言葉はつきますが」

『それが不幸中の幸い、ですか。わかりました。こっちはこっちでなんとかしましょ』

 城島としては心中不安しかないものの、それでもできることをやる、というほかない。

「本当に申し訳ありません。なんとか逃げ延びてください」

『ま、領海を出たあたり言うたらかなりグランドラゴ王国にも近くなるさかい。場合によってはグランドラゴに応援を要請しましょうか』

 グランドラゴ王国とフィンウェデン海王国の西部は領海を挟んで非常に近い位置にある。救援を要請すれば、逃げている間に航空機くらいは送ってもらえるかもしれないと城島は踏んでいた。

 グランドラゴ王国には現在、空母の艦載機として『紫電改二』に酷似した戦闘機と、爆撃・雷撃の両方を可能にする戦闘機として旧日本軍の『流星』に酷似したレシプロ機が配備されている。

 速度は500km強と現代の戦闘機に比べてしまえば虫と鷹のような差があるが、それでも逃げ続けられるかは五分五分だろう。

 巡視船の兵器でドイッチュラント級などの大戦間期レベルの軍艦に勝つことは、まず不可能だ。

 ミサイルや機関砲である程度人員及び装備にダメージを与えることは可能だろう。だが、装甲の厚さやダメージコントロール能力などもあって、撃沈することは不可能と言わざるを得ない。

 敵わないとわかっていても、やらなければならないこと、やらなければならない時がある。

 城島は心中でそう思っていた。

「よし、俺らはとにかく逃げる。できることと言えばそれだけや。敵が撃ってきたらこちらも反撃する。それでえぇやろ」

 城島の言葉に山口と国分は頷いたが、血気盛んな松岡は不服そうだ。

「松岡、不服か?」

「……ちょっとばかり」

 そこで見栄を張らないところが松岡のいいところなのだと城島は理解しているので、弟に言い聞かせるように優しく肩を叩いた。

「えぇか、松岡。俺らは自衛隊やない。海上保安庁や。あくまで海の上で発生した犯罪行為に対処するための組織であり、戦うことが主業務やない。相手から撃たれた時だけ反撃していいっていうのは自衛隊と同じやけど……そもそも根本が違うんや。な?」

 松岡も頭では理解している。

 それでも犯罪に立ち向かえるようにと海上保安庁に入庁した身であるため、自分だけでは感情の整理がつかない部分があったのだ。

 城島の言葉は、そんな松岡の心をゆっくりと解きほぐしてくれたのだった。

「……すみません船長。ありがとうございます」

「えぇって。さ、恐らく王国側から国外退去の通知と領海際までついてくるっちゅう旨を伝えに誰か来るはずや。外務省のお偉いさんのことは……癪やけど向こうに任せよか。外交官通じてこんなこと言ってくるっちゅうなら、いくらなんでも外交官に手を出すっちゅうことはしないようやし」

「はい。わかりました」

 城島が目配せすると、山口が機関室に機関始動用意の連絡を入れ、さらに手の空いている者たちに甲板からの見張りを命じた。

「えぇか。向こうさんが出てけ言うてきたらテンプレ通りに『外交官はどうなる』くらいは聞き返さなあかんで。恐らく『国の意思』が一つやない。変なことになったら、この国にも大きな混乱が起きて、近隣のフランシェスカ共和国とニュートリーヌ皇国に大きな迷惑をかけることになるで。皆、細心の注意を払って行動するんや!」

 ベテランたる城島の言葉に乗員たちはキビキビと動き始める。

 15分後、甲板に出た森本航海士が港の方を見ると、こちらに向かってくる一団が見えた。

「ありゃ。船長の言うとおりだ。早速お出ましだよ」

 森本の隣に立つ草間も、双眼鏡で車を確認した。

「船長に報告だ」

 2人は急いでブリッジへ向かうと、城島が瞑目しながら椅子に座っていた。

「船長、車が近づいてきます。恐らく王国の使者ではないかと」

 城島はゆっくりと目を開き、『よっしょいこ』と言いながら立ち上がると『そうか』と短く言った。 

 森本と草間が外へ出ると、ファット・ホブゴブリンの男性が2名桟橋に近づいていた。

「日本国の方ですな?」

「はい。なんの御用でしょうか」

「外交部の者ですが、艦長さんにお話がありまして」

「少々お待ちください」

 草間が船内に走っていき、城島に『通しますか?』と伺いを立てる。

「あぁ。通して構わん」

 森本と草間に案内されたファット・ホブゴブリンの男性2人は、ブリッジに入ると物珍しそうに少し見渡した後でお辞儀した。

「フィンウェデン海王国外交部の外交官で、カルドスと申します」

「同じく、メルヒムです」

「これはご丁寧に。日本国海上保安庁所属巡視船……あぁ、沿岸警備隊の警備船と言った方が分かりやすいでしょうね。私は業務監理官の山口と申します。こちらの方はこの『はしだて』の船長を務めている城島という者です」

「城島です。少し独特な喋り方しますが、どうかお気になさらんといて下さい」

 2人は国分の挨拶に『沿岸警備隊!?』と驚いていた。

 王国基準で150mもの船と言えば、装甲巡洋艦や戦艦クラスの『花形』をも超える超大型船である。

 これを上回る船など、イエティスク帝国から供与された戦艦(に見える重巡洋艦)である『スヴァリエ(シュバリエ)級巡洋戦艦』しか存在しない……と言われている。

 しかし、船体の大きさの割には速射砲が2門と機関砲が2問、それにロケット弾の発射機らしい装備が少しあるだけというその歪さに疑問を抱いていた。

 だが、沿岸警備隊の所属だというのならやたらと目立つ船体の白い塗装や、貧弱な武装も納得がいく。

「(しかし、沿岸警備隊でこれほどの装備を整えているのだとすると……軍隊はどれほどの能力を有しているんだか想像がつかないな……)」

 国王から命じられた思わぬ重い任務に冷や汗を流すカルドスだが、そんなことはおくびにも出さずに話し始める。

「実は、政府がイエティスク帝国に貴国との国交締結について打診したところ、『不明な部分が多々あるため、ひとまず保留せよ』との言葉をいただきました。ついては、この船……えぇと、巡視船でしたか。この船にも国外退去していただきます」

「ちょい待ち。ワシらはそれで構わへんが、外交官の方々はどうなるん?」

 当然のことながら城島の質問は想定していたのか、カルドスは淀みなくすらすらと答えてみせた。

「はい。外交官の方におかれましては、我が国が責任を持って貴国と国交のあるフランシェスカ共和国へ送り届けることになりました。ご了承ください」

「……外交官の身の安全は保障するんやろうな」

「我が国の誇りにかけましても」

 城島は先ほど聞いていなかったら、自分はもっとごねていただろうな、と頭の冷静な部分で考えた。

 それを念頭に置きつつ、目の前の男たちに返答する。

「……わかりました。本国にはそのように伝えましょ。ただ……」

 城島はこの時、それまでになかった凄みのある表情を見せた。

「もし外交官の方々になにかあったら……ただじゃおかんことになるさかい、十分気ぃ付けてや」

 その表情に圧倒されてしまった外交官2人は『うっ』と言わんばかりにのけ反った。

「そ、それでは……こちらの船に関しましては海軍が領海の外までお見送りしますので……」

「承知しました。くれぐれも上層部の方々によろしゅうお伝えください」

「はっ、はい……」

 外交官2人は城島の発する強烈なオーラに圧倒されたのか、すごすごと退船していった。

「……さぁて。今度はワシらの番やな。山口ぃ‼窯に火ィ入れろ!向こうの海軍が引っ付いてくる前にできる限り引き離すつもりで行くでぇ‼」

「はい‼」

「国分!ぜぇったいに舵から手ぇ離すんやないでぇ‼」

「おぅ‼」

「松岡ァ‼相手が撃ってきたら……構わんから全力でぶっ放せぇ‼どうせお前のことや。鉄砲の引き金に手ぇかけている方が落ち着くんと違うか?」

「はっ、はい‼」

 松岡は城島の言葉に反応しながらその表情を窺う。

 城島はなにかを悟りきったような表情で、瞑目しながらじっと座っているだけであった。

 その姿はなんとも言えない頼もしさを醸し出しており、松岡は気を引き締めながら航海に臨むのだった。

 機関員などを事前に配置していたこともあって、わずか30分後には錨を捲き上げて出港準備を終えていた。

 そんな光景を見ていたフィンウェデン海軍の兵士たちは唖然としていた。

「なっ、なんて早さだ‼」

「我が軍の船より準備を早く終わらせているだとぉっ!?」

 テキパキと出港準備を終えた巡視船『はしだて』は、唸り声のような音を上げながらゆっくりと出港を始めたのだった。

「ま、まさか……日本の警備船は我が軍に拿捕命令が下っていることを知っているのでは!?」

「まさか!このことは陛下を含めた一部の人物だけが知っていたことで、我々もつい先ほど知らされたばかりだというのに!」

 まさか、国王直属の命を受けた人物が彼らに情報を流しているとは露知らぬ軍人たちであった。

 というか、軍人たちがそう思っているだけで閣僚たちも含めてこのことは周知している。

 逆に、軍人に事前に知らせるとロクなことにならないと考えられていたためにこのような扱いになっていた。

 信用されていないわけではないのだが、客に対する配慮の都合上仕方のない話であった。

「あっ、もう10ノット以上の速度を出しつつあります‼ そ、想定以上に加速力があるようです!」

「足の速い防護巡洋艦、軽巡洋艦は急いであの船を追え‼ 絶対に見逃すんじゃないぞ‼」

「りょ、了解‼」

 乗り込む人数が少なく、機関も比較的早く始動できた防護巡洋艦と軽巡洋艦が15分ほど遅れるように出港していくが、他の船はまだまだどったんばったんの大騒ぎである。

「くそっ、日本め! とんでもない性能の船を持っているようだな‼」

「『スヴァリエ』さえ出せればあんな奴らは一捻りだというのにっ‼」

「航空隊に追わせるのはどうだ?」

「航空機の航続距離は短い。だが……双発機ならある程度は!」

「仕方ないな……海軍航空隊に連絡。『ヤクトファルク』を出撃させるように要請するんだ」

「あれならわずかとはいえ爆弾も積めるが……」

「爆弾を載せると一気に航続距離が落ちる。とにかく位置をしっかりと把握させておけ。通信で常に位置を共有するんだ」

「了解しました」

 ヤクトファルクとは、ドイツが1907年にユンカース博士が考案したフライング・ウイングを製作して作った爆撃機『G.38』に酷似した、フィンウェデン海王国海軍航空隊所属偵察機兼爆撃機のことである。

 他の船がゆっくりと離岸していく中、ヤクトファルクだけは航空機特有の高速で青空へと消えていくのだった。

本日4月7日は坊ノ岬沖で我が国最大最強の戦艦『大和』が米軍機動部隊の猛攻によって撃沈された日です。

幼い頃父に『宇宙戦艦ヤマト』の初代アニメ映画のDVDを見せてもらってから、私はヤマトと大和が大好きです。

今でも日本人の心に様々な『大和』が生きていますが、もし叶うことなら、いつか『大和』の名を冠する海上自衛隊の船が本当に現れてくれることを、そしてそれでいて、今度は絶対に沈まないことを、切に祈ります。

この作品の『やまと』も、絶対に沈めたくない思いです。

次回は5月の6日に投稿しようと思います。

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