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変貌する王国(本当はこれが本日の話)

まず一言。


す・み・ま・せ・ん・でしたーっ‼


投稿する話を1話次のモノにしてしまっていましたーーっ‼

お詫びに本日本来投稿するはずだった話をただいま投稿しまーす!

本当にすみませんッ‼

――西暦1750年 8月28日 グランドラゴ王国 港湾都市エルカラ

 野原と川口の両名は、日本と国交を結ぶ前とはすっかり様変わりしたグランドラゴ王国に上陸していた。

 ここで船は食料及び消耗品各種の補給を受けて、野原たちの休養も兼ねて2日後に出発の予定だ。

「いやぁすごいですねぇ、先輩」

「あぁ。グランドラゴ王国と国交を結んだばかりの頃は、明治時代後期の日本くらいの雰囲気だったんだが……今やすっかり昭和半ばだな」

「それだけじゃないですよ。日本から大気浄化フィルターや浄水所の技術を導入したから、空も海もすっかりキレイになってますよ」

「王国も環境汚染にはかなり頭を悩ませていたみたいだからな。これでよかったんじゃないかと思うよ」

 その通りであった。

 日本と交流するまで、産業革命による技術開発が加速するグランドラゴ王国を始めとする多くの国はひどい大気汚染と海洋汚染に苦しんでいた。

 その原因が産業廃棄物によるものだということは理解していたものの、発展を知ってしまった人類は今更止まることもできなかった。

 そんな時に、王国と国交を結ぼうとする日本が現れた。

 日本の最新技術により、かつてスモッグだらけだった空も、ヘ○ラでも現れそうなほどにヘドロまみれの海も、段々とキレイになってきた。

 特に、海に関しては日本の某テレビ局が保管していた『海岸を整備して干潟を取り戻そう』という企画を参考に、グランドラゴ王国でも日本の機器や道具を取り入れての浜辺再生が行われるようになったのだ。

 その際に指導をした功績から、その番組で企画を担当した人物と出演者が国から表彰されたほど、と言えば国民の喜び方もうかがえる。

 また、テレビと言えば日本から許諾を得てグランドラゴ王国の役者を中心に出演させて物語を作った特撮番組も流行しており(戦闘シーンは日本の流用がほとんどだが)、ライダーも戦隊もメタルなヒーローも皆大人気であった。

 今やグランドラゴ王国は、もっとも日本に近く、もっとも日本の影響を受けた国になりつつあるのである(官民問わず)。

 もちろんアニメや漫画、ライトノベルも大人気で、日本人特有の感性で描かれた繊細な物語は方々で大人気であった。

 意外にも、日本ではそれほど受けなかったラノベが王国では大ヒットする、という現象も発生しており、ここはやはり国による国民の感性の違いなのではないかと専門家は分析していた。

 それはさておき。

「せっかくの休みだ。家族になんか土産でも買っていきたいな」

「あ、それいいっすね。僕も彼女になにか……」

 土産物店を物色し始める2人だが、その頃巡視船『はしだて』内部では艦橋要員が会議をしていた。

 船長の城島茂樹、業務監理官の山口達弘、航海長の長瀬智徳、レーダー監視員の国分太郎、火器管制員の松岡昌弥を筆頭に艦橋要員が今向かっているフィンウェデン海王国の情報を整理しているところであった。

「で、兵器については?」

「はい。海の兵器としてドイッチュラント級装甲艦に酷似した船、『モルトケ級巡洋戦艦』に酷似した船、『龍驤型航空母艦』に酷似した空母に、艦載機として『Juー87』に酷似した飛行機、『ヴィースバーデン級小型巡洋艦』に似た船、『ケルン級小型巡洋艦』に似た船、そして『1924型水雷艇』に酷似したフリゲートが確認できます。なお、巡洋艦及び水雷艇に魚雷発射管があるかどうかは不明とのことですが、この世界に基本的に魚雷が存在しなかったことから、存在していないのではないか、という想定をしております」

「数はともかく……質は中々充実しているな。特に空母があるのは驚きやで」

「艦載機は残念なことにシュトゥーカですけどね。あれじゃゼロ戦の初期型が相手でもロクに制空権取れませんよ」

「いや、蟻皇国のソードフィッシュが相手なら……あぁ、無理か。遅すぎて逆に墜ちるな。しかも複葉機だから急旋回とかで避けられる可能性もある」

 ソードフィッシュと言えば遅すぎて戦闘機が失速し(以下略)。

「また、陸軍の正面装備には最新鋭としてⅢ号戦車に酷似したもの、Ⅲ突に酷似したものがわずかに、大半はⅠ号、Ⅱ号戦車に似た雰囲気の車両がメインのようですね」

 大戦開始時のドイツ並みかそれより少し弱い、と言ったところであろうか。

「戦艦が弩級戦艦止まりなのはいいことかもしれないが、あくまで俺たちは海上保安庁だからな……結構厄介だな」

「ドイッチュラント級は最高速力だけならばこの船を超えます。先ほどは魚雷発射管がないかもしれないと言いましたが、もしかしたらあるかもしれません。あらゆる想定をしながら向かわなければならないでしょう」

 その場にいた者たちが『はぁ~』とため息をつく。

 もし向こうから攻撃された場合、間違いなくなにかしら被害や死傷者が出るだろう。

 いや、護衛艦及び護衛隊群を率いていたとしても不意打ちを食らうようなことがあれば被害は受けていただろうから、その可能性ばかりを突き詰めても仕方がないことは皆わかっているのだが。

 その被害の度合いがどれほどひどくなるかと言われれば、護衛隊群だけでは至近距離での戦闘時に与えられる損害が少なくなってしまう。

 どういうことかと言えば、これは『現代軍艦の運用思想』が大きな理由となっている。

 現代軍艦とは航空母艦を除いての話だが、大雑把に言ってしまえば『命中するまでに防御するための船』なのだ。

 フリゲート、駆逐艦、巡洋艦(もっとも、『巡洋艦という名称の船』を運用している国はアメリカとロシアの2か国だけだが)と艦の大きさや排水量、そして武装に差異はあるものの、基本的にその役目は『ミサイルを撃ち落とす』、『誘導魚雷を惑わせる』、『対艦誘導弾で敵をアウトレンジから撃つ』、『潜水艦を捜索する』などである。

 特にイージス艦や『あきづき型護衛艦』のような防空駆逐艦はそれに特化していると言っても過言ではなく、対潜哨戒や対艦戦闘などはどちらかと言えば二の次になる(そもそも創作小説で護衛艦が大砲ぶっ放すのは基本的に木造船なので、大砲の射程・速射性が大きく注目されがちだが)。

 本来は対潜哨戒・対艦戦闘向けの装備を充実させた他の船か、もっぱら航空機の仕事だ。

 そんなアウトレンジで戦うことを想定している現代軍艦の場合、近距離における打撃力と言えば艦首部に備え付けられている主砲(NATO規格採用国では主に127mm砲や76mm砲)か、アスロック、短魚雷あたりであろう。

 CIWSやSea Ramは基本的な用途が対空防御なのでノーカウントだ(もちろん対水上モードもあるにはあるが)。

 だが、そんな装備では非装甲箇所の人員装備にダメージを与えることはできても、機関や主砲などの重要区画に打撃を与えることはできない。

 なにが言いたいかと言えば、巡洋艦をも一撃で大破させられると言われる対艦誘導弾は、日本のモノでも射程が200km近くあるため、数km前後で発射するのは近過ぎて不可能だ。

 逆に言えばその点、対戦車誘導弾を改良した『ASGMー2』や今回の中距離多目的誘導弾などはこういった距離での戦闘には向いた兵器である。

 しかも物によってはHEAT弾頭を搭載しているので、敵の装甲を貫いて機関や艦橋などに大きな打撃を与えることも可能だ。

 主砲は使用不能にするくらいだが、機関部に命中すれば儲けもの、狭い艦橋などに命中すれば大戦果である。

 だが、今回この船に搭載されているのは四連装発射機がたったの2基である。

 予備弾も一応16発は用意されているものの、不安は募る。

「向こうは原始的な射撃をしてくるから、速度さえ出せればほとんど当たらないとは思うのだが……」

「厄介な連中ですね」

 すると、火器管制員の松岡がバン、と膝を叩いた。

「いっそ仕掛けてきたら全速力で逃げて、宣戦布告してもらってから戦艦の艦砲射撃とかで更地にしちまえばいいんですよ、まな板みたいに!まな板にしようぜ‼」

 言っていて段々昂ってきたのか、物騒なことを言い出した。

 元々彼は北海道の漁師の息子なのだが、父が『ロシアの沿岸警備隊にエライ目にあわされた』という経験を味わっていたことから、力を振りかざす存在を快く思っていないという理由がある。

 だからこそ、そんな風に暴走しがちな松岡を城島が制する。

「素人は黙っとれ、松岡」

「けど船長……!」

「お前は軍事も政治もわからんやろうが。黙っとれ」

 城島のなんとも言えない凄みのある視線を受けた松岡は『すみません……』と黙ることしかできなかった。

 『しかし』と業務監理官の山口が続く。

「護衛艦であろうと巡視船であろうと、攻撃を受ければ大きな損害を受けるでしょう。我々は慎重に対応しないといけません」

「そらそうや。そのためにワシらが来たんやからな。皆、気ぃ引き締めなあかんで? こっからは命懸けた船旅や」

 ふてぶてしい表情を見せながらも、不敵に笑うことは忘れない城島であった。

 そんな船長を見ると、どこか安心する一同であった。



――西暦1750年 9月2日 フィンウェデン海王国 西部港湾都市ベルメン

 フィンウェデン海王国は旧世界で言うところのフィンランド、スウェーデン、ノルウェーで構成されている国家である。

 いわゆるバルト海を内側に抱え、グランドラゴ王国との間には北海を抱えている特性から、昔から造船業と漁業が盛んな国であった。

 ある時を境に東に陸続きのイエティスク帝国の属国となって以来、帝国の手先兼窓口として様々なことをしてきた。

 帝国で開発された商品を、本来の相場よりはるかに高く売りつける、不平等条約をかけようとするなど、その暴挙を挙げると枚挙に暇がない。

 そんなことをしながら戦争を仕掛けられなかったのは、周辺国家(この場合はフランシェスカ共和国とグランドラゴ王国、ニュートリーヌ皇国はそもそもシンドヴァン共同体以外と交流がほとんどない)がフィンウェデン海王国に及ばないレベルの強さだったことが挙げられる。

 だが、転移してきた日本と国交を樹立した国は、その高い品質と安い値段から次々と横暴なフィンウェデン海王国と断交した。

 王国側はなんのかんのと言って関係を戻すことを迫ってきたが、日本から優秀な兵器を購入し、戦術も成熟してきた各国にとってフィンウェデンはもはやそれほど恐ろしい存在ではなくなっていたのだ。

 もちろん各国は日本の技術水準や軍事力については日本から言われていることもあって緘口令を敷いていた。

 それもあって、未だにフィンウェデン海王国は日本という国の実態をつかみ切れていない。

 そんな海王国の東側に、突如真っ白な船が出現した。

 船体になぜかグランドラゴ文字を書いた船で、沿岸警備隊が対応したところ、『日本国の使節が乗っている』と言われた。

 海防艦隊司令のエクステルは、海防艦隊旗艦『オスカー』(見た目はドイツの前弩級戦艦であるブラウンシュヴァイク級戦艦に酷似している)の艦橋で悩んでいた。

「なんだあの船は……まさか噂通り、日本がイエティスク帝国並みの技術を持っているとでもいうのか……?」

「なに言ってるんですか、艦長? 確かに大型ですが、貧相な速射砲2門に機関砲2門程度の軽武装船ですよ? やろうと思えばこの海防戦艦だって一撃で撃沈することができると思いますよ」

 注・明治時代後期では、前弩級戦艦に40mm前後の単装砲が『速射砲』として取り付けられていた事例があるため、おかしな話ではない。

 そんな能天気な『オスカー』艦長のオルテレンの言葉に、エクステルはため息をつきながらそのアホ面を見る。

「お前はどこを見ているのだ」

「え……?」

 自分が怒られるとは思っていなかったオルテレンはポカンとしたアホの上塗りとでも言うべき表情をさらす。

「あの船は……確かに細いせいで見た目は頼りなく見えるが、我が国よりはもちろん、一部は帝国より進んでいると思われる技術の塊だぞ?」

「そ、そんなにすごいんですか?」

「あぁ。例えばあの船体だけでもそうだと言えるぞ」

「えぇっ!?」

 まさか船体の構造そのものが優れているとは思っていなかったために驚愕するオルテレンに、エクステルは追い打ちのように続けた。

「あの船体、非常に細いだろう。帝国の軽巡洋艦並みの長さだが、より細身だ」

「そ、そうですね」

「あれほどの細さで、この北の荒海に出てこようという時点で、船体の強度と航行能力に自信がなければ難しい。我が国が帝国から1万t超えの戦艦を建造することを許されてから、だいぶん安定した航行ができるようになったが……あの船はそれに近い航行ができていたように思う」

 いわゆるバルト海は内海なのでそれほど波は厳しくないものの、外の北海は荒海として知られる厳しい海域である。

 大型の戦艦ほどの排水量を誇る船ならばともかく、1万t前後の船舶でそこを渡ってきた、というだけでもエクステルはすごいと思っていた。

「そ、そんな……」

 オルテレンの狼狽に『コイツが艦長で大丈夫か?』と思いつつエクステルは続ける。

「そして、マストの近くについていたアンテナだが……」

「あぁ、通信用のヤツですよね?」

「バカモーン!」

 どこぞの雷親父の如くエクステルが大声を上げて怒鳴った。

「え、え?」

「あれはどう見ても電探だ‼ 対空であろうとも対水上であろうとも、捜索能力を『沿岸警備隊風情が』持っているということだ‼ それがどれほど重要なことかわからんのかっ‼」

「ま、まさか……軍用船の搭載している電子機器類やそれと連動する兵器類はもっと発達している?」

「当たり前だこの未熟者!」

 ファット・ホブゴブリンとしては珍しく筋肉質で引き締まった体形のエクステルなため、怒鳴るとオーガ族やミノタウロス族並みの迫力がある。

 フィンウェデン海王国ではその厳しさが疎まれて海防艦隊の司令官などという閑職をやっている

 だが逆に言えばその謹厳実直な仕事ぶりはイエティスク帝国からも認められているほどで、近々帝国から海軍の関係者として引き抜きがあるのではないかと言われるほどであった。

 その片鱗は、この分析能力だけでも窺える。

「そして、搭載されている電子機器類が『帝国以上に』発達しているのであれば、その電探とあの機関砲を連動させた正確な射撃が可能なのかもしれない。イエティスク帝国ですら、砲を安定させて相手の動きや気象、風の速さなどを計算に入れて未来位置に砲撃するという技術は持ち合わせていないのだ‼ あの沿岸警備隊の船がもし、それができるのなら……軍隊はそれを遥かに凌ぐ力を有しているに違いない」

 『つまりだ』と彼は続けた。

「このところ我が国の商品が売れなくなっているのも、日本が帝国より優れた、それでいて安価な商品を大量に供給できるだけの生産規模を誇っているということだ。尚且つ日本国からすれば『売っても構わない』くらいの技術で、世界最強のはずの帝国が負けているということなのだっ‼」

 帝国の属国でしかないフィンウェデン海王国の実力では、日本と全面戦争になった場合勝ち目がないであろうということにこの時点で気付けているエクステルだが、あくまでその地位は海防艦隊の司令官である。

 今から司令部にそのことを伝えても一蹴されるだけだろう。

「で、本土からの回答は?」

「『現在非常呼集の上検討中』だそうだ……全く、軍部もそうだが、外交部の連中も蜂の巣をつついたような騒ぎだろうな」

 こんなことなら、日頃からもっと外交を重視しろよと文句も言いたくなるエクステルであった。

「も、もし受け付けずに戦闘となったら、我々が真っ先に戦うわけですが……どうなるでしょうか?」

「『あの船となら』、損害は出るだろうがこちらが勝つだろう。しかし……それで日本が激怒し、もしも国が壊滅するようなことにでもなれば……責任は全て海防艦隊に押し付けられるだろうな」

「考えすぎじゃないですか? いくら強いって言っても手も足も出ないほど敗北するとは思えませんが……」

「ついこの間、技術的には我が国より少し劣るとはいえ、国力だけなら圧倒的に上だった蟻皇国が手痛い打撃を食らって降伏しているのだぞ‼ 舐めていたら痛い目を見るのは間違いなくこっちだ‼」

 エクステルの言葉にオルテレンは逆に『そうですかね……?』と疑問を抱いてしまう。

 『この世界にイエティスク帝国より強い国はない』という感覚から生まれる、ある意味根拠のない自信なのだが、それが根強く染みついているほどに帝国の威光はすさまじかった。

「全く……頼むから冷静な判断をしてくれよ……」

 エクステルは胃が痛くて仕方がない。

 もし激突してあの船を撃沈するようなことになれば、間違いなくその報復として自分たち海防艦隊は日本によって壊滅させられるだろう。

 そうなれば、どれだけの死者が出るかわかったものではない。

 すると、通信士が『司令! 本部より通信です‼』と大声を上げた。

「読め‼」

「はっ。『日本国の使節は内海を通じて上陸させ、王都バルシンキへ向かわせよ』とのことです! 本艦は道案内を務めるようにと‼」

「そうか……外交部も意外と冷静なようだな」

 いきなり戦闘ということにならなかったため、思わずホッとするエクステルだった。

「よし、日本の使節にこのことを伝えろ」

「はっ」

 かくして、日本の巡視船『はしだて』は内海へ向かうことになった。



 数時間後、『はしだて』と海防戦艦『オスカー』は王都バルシンキの港に到着していた。

 船から降りた野原はキョロキョロと辺りを見渡す。

「やっぱり雰囲気的には1900年くらいの欧州って感じだなぁ……コンクリート造りの建物も結構多いぞ」

「写真を見てもそんな感じですね。でも、さっきの海防戦艦には旧軍の22号電探みたいなものがついてましたよ?」

「だから、帝国から技術提供されている影響で少し技術が進んでいるんだろうよ。侮っちゃいけない国だな」

「そうですね」

「ほんじゃ、行ってみますかね、と」

 鬼が出るか蛇が出るかと言わんばかりの心境だが、その顔は勇壮な面持ちであったと海上保安庁の面々は後に語ったという。

 舞台は変わって、王都バルシンキ中心部、シンギュラリティ城へ。

 基本的にファット・ホブゴブリンとオーク族が街中を歩いているため、普通の人間種である野原と川口は大変目立つ。

「めっちゃ見られてるんですけど……」

「仕方ないさ。本来この世界じゃ、俺たちの方が『異物』なんだからな。それを忘れたらいけない」

 野原の堂々とした態度に川口は『先輩、カッコイイです……』と言おうとした……のだが、その時の野原の横顔を見ると、冷や汗をだらだらとかきまくっているという、セリフと表情が一致しない状態であった。

「ちょ、先輩! 顔大丈夫ですかぁ!?」

「川口。男にはな、恐ろしいとわかっていても行かなくちゃいけない時があるんだよ‼」

「その顔で言っても説得力ないですよぉ‼」

 まるでコントのようなやり取りを繰り返しつつ、王城へと進むのだった。

 え、車?『いきなり来られても極寒で動かないので悪いけど自分の足で来て』と言われました。



 そして30分ほどでシンギュラリティ城の城門に到達した。

「おぉ、さすがに立派だな」

「写真で見たことのあるマジノ線の一部みたいな雰囲気ですね」

「え、そんな感じなのか?」

 川口は某戦車アニメのファンだったが、そこから派生して第一次・第二次大戦時の欧州史を調べるようになって詳しくなったという一面がある。

「えぇ。武骨でなんとも堅固そうな……これをグランドラゴ王国が墜とそうと思ったらかなり苦労したでしょうね。ほら、対空用の機関砲や高射砲らしきものも見えますよ」

「意外と侮れないな……」

 日本の航空戦力であれば誘導爆弾や対地誘導弾などで安全に叩けるだろうが、近い技術水準の仮想敵国を相手取ることを考えれば、これはかなり苦戦しそうである。

「っていうか、要塞を王城にっていいのかそれ……」

「逆ですよ。それだけ安全性を重視している、ってことじゃないですか?」

「あぁそっか。そう考えればむしろ自然か……でも、イエティスク帝国っていう世界最大の国の一の子分なんだろう?もっと絢爛豪華な城を想像していたんだが?」

「やっぱり北国なんで人を含めた資源が厳しいんじゃないですかね?」

「一理あるな……」

 そう言いつつ、2人は門番に声をかけて中に入れてもらうことになった。


……前書きがほぼ、気づいた瞬間の心中でした。

大変お恥ずかしい限りです。


書き溜めている作品ならではのこと、かもしれませんね……(そんなわけないか)


本当に申し訳ありませんでした!

なので、今月は変則的に2話となります。

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