海王国の誤算
今月の投稿となります。
ちょっと意外に思う話の流れかもしれません。
野原と川口が案内役に付いていきながら城内へ入ると、思った以上に寒さは薄れた。
「見てください先輩、壁に木材が張り付けてあります」
「断熱効果があるからだろうな。熱を内側に閉じ込めると同時に、外の寒さが入りにくくなる。こういうところはちゃんと考えているようだが……これじゃあ外で警備している兵士たちは地獄だろうな」
「確かに、いくら中が暖かくても外は寒いですよね……」
「弾薬なんかが凍り付いたりしないのかな? 凍ったらえらいことだぞ」
流石に弾薬の『内部』まで凍り付くことはそれほどないことと、実は厳しい寒さ故に兵員が1時間で交代する際に交換するという策を取っている。
要するに、人も物資もこまめに暖かい部屋の中に入れることで負担を少なくしているのだ。
シンギュラリティ城の内装は意外と地味で、多少絵画や宝飾品らしいものが飾ってはあるものの、それ以外は殺風景とすら言える。
「どういうことなんでしょうかね? 普通王城ともなればもっと色々飾り立てると思うんですけど」
「うぅん……これは俺の仮説なんだが……」
野原は以前防衛省と文部科学省が共同で研究した『この星の歴史』に関する記述を思い出していた。
「今ある文明っていうのは、先史文明……俺たちからすると未来人と言えるくらいの技術を持つ人々が将来戻ってくるつもりで宇宙へ出たことで、実験体だった亜人たちが地上へ出て来たことによって形成されたって話は覚えているよな?」
「はい。蟻皇国とイエティスク帝国はそんな先史文明の遺跡を解析することで大国として発展してきたんですよね?フィンウェデンはそのおこぼれをもらいながら……って、もしかして?」
「あぁ。この世界でも独自に発展してきたグランドラゴ王国やアヌビシャス神王国なんかは独自の芸術品も発達しているが、『先史文明の遺跡を解読して発展した連中』は技術ばかりを発展させることに目がいっていて、芸術や美術を発展させるだけの余裕を持っていないんじゃないか、ってな」
野原の指摘は正しかった。
蟻皇国、イエティスク帝国、そして帝国の属国であるフィンウェデン海王国は、その技術や設計思想のほとんどを先史文明の遺跡から発掘したものに依存している。
そして、彼らはただただ『技術を発展させ、先史人類に追いつくこと』を第一の目標としているため、芸術や美術などの『心のゆとり』に関わるような話は二の次を通り越して全くと言っていいほど考えていない。
実を言えば、この城にわずかに存在する美術品も、フランシェスカ共和国やグランドラゴ王国から購入したものであった。
「そうか……軍事を中心とした技術発展ばかりを考えているせいで、人としてなければならない『心のゆとりが少ない』ってことなんですね」
「まぁ……あくまで俺の推測だが、な。流石に軍隊のための軍楽くらいは発達していてもおかしくないと思うんだが……それすらも怪しいかもな」
奥へ進み、木製だが飾り気のない武骨な扉の前に立つ。
案内してくれたゴブリン族の男性がドアノッカーを使ってノックする。
「日本国の使者殿をお連れしました」
中から『入室せよ』という声が響いたため、案内役の男性がゆっくりと扉を開ける。
中へ入ると、流石に王の間と言うべき場所なだけのことはあり、他の部屋より装飾はしっかりしているように見える。
だが、よく見ればその様式はフランシェスカ風であったりアヌビシャス風であったりとまちまちであった。
「(こりゃ本当に芸術方面は発達してないんだな)」
野原は腹の内で苦笑しつつ、顔面はキリッと引き締めていた。
正面には、オーク族にしては筋肉質で引き締まった中年の男が玉座に座っていた。
「我がフィンウェデン海王国国王、スロ・イルマリ・カタヤイネンである」
「「(なんか色々混じってないか!?)」」
スロとは『伝説』としてシモ・ヘイヘに並んで『フィンランドの死神』と恐れられたスロ・コロッカのこと。
イルマリとは、フィンランド空軍の『無傷の撃墜王』ことエイノ・イルマリ・ユーティライネンのこと。
カタヤイネンとは、同じくフィンランドで『ツイていないカタヤイネン』と言われた不遇の男(しかし大戦を生き延びたため、ツイているカタヤイネンとも)、ニルス・エドヴァルド・カタヤイネンのことである。
なお、このうち2名は『パンツじゃないから恥ずかしくないもん!』な萌えミリアニメに登場したキャラクターのモデルである。
しかも、そのうち『無傷の撃墜王』の方はなんと旧世界のフィンランド政府公認キャラだ。
もう一度言う、政府公認キャラだ。
そこ、『公式が(役所が)病気(笑)』とか言わない。
それはさておき。
「「(運がいいのか悪いのか悩ましい名前だよなぁ……)」」
アニメもよく見る2人からすると、冷や汗しかないネーミングであった。
もっとも、そんな内心はおくびにも出さずに、日本人らしく斜め45度の礼をする。
「お初にお目にかかります。日本国外務省の外交官で、野原弘と申します。こちらは私の補佐をする……」
「川口悟と申します」
2人の挨拶にフィンウェデン基準で不手際はなかったらしく、スロ王は満足そうに頷いていた。
「日本国の使者よ、遠路遥々よく来たものだ。貴殿らはこの数年ほど、随分と諸国で噂になっているが、こちらは貴殿らをよく知らなかったのでな、待ち侘びていた、というのが正しいか。さて……本日はいったいどのような用件かな?」
スロ王の言葉が意外にも温和な雰囲気なので、少し表情を緩めた野原が続ける。
「はい。貴国は世界最強と名高いイエティスク帝国と国交がある唯一と言っていい国です。貴国と国交を締結することで『帝国に対して紹介をしてもらえれば』と思い、『帝国の扉』とも言うべき貴国との国交締結を致したく派遣されてきた次第でございます」
「ほほぅ。帝国と国交をな。随分と高望みをしているようだが……その資格があると?」
日本国外務省としてもそう言われるであろうということは予測していたため、野原は川口の持っていたスーツケースを目の前に置いた。
「この中に入っている品物は、陛下への献上品でございます。御改め下さい」
スーツケースを開くと、明らかにスロ王の目の色が変わった。
中に入っていたのは、日本の雪道でも使える運動靴や、防寒性の高そうな上着など、機能的でありながらデザイン的にも優れているものばかりであった。
「こ、これは……」
スロ王のみならず、周囲の側近たちも驚愕のあまり目を剥いている。
「(……防寒具はもちろんだが、これほど機能的で履きやすい靴は、我が国はもちろんだが帝国にもないはず……確かにすさまじい技術だな)」
さらに中を見ると、日本の工芸品として持ち込まれた漆器や焼き物、他にも日本画なども持ち込まれていた。
「ほほぅ……貴国は芸術にも優れているようだ。我が国はどうしても武張っているものでこういう芸術とは縁が薄い……」
スロ王が手に取ったのは、美しい輝きを放つ漆器の盃であった。
「(触り心地、そしてこの滑らかさ。どれをとっても優れている。技術だけではなく、文化も成熟しているということの表れか……)」
スロ王はイエティスク帝国や蟻皇国が先史文明の遺跡を解析してのし上がってきた国家であることは知っている。
当然ながら、技術解析に重きを置いているのはフィンウェデン海王国もまた同じであった。
だが、それだけに今目の前にある品々が自国の技術を超えているということが容易に想像できてしまったのだ。
すると、もう1つ目に入ったものがあった。
「これは……撮影機か?」
スロ王が手に取ったのは、日本のソニコーが作り出した、超薄型デジタルカメラだった。
だが、フィルムを入れるための場所が見当たらない。というか、カメラと言うには薄すぎる上に軽すぎる。
「(なんだこの撮影機は!?)」
それもそのはずだった。
フィンウェデン海王国はもちろんだが、イエティスク帝国からしてもインスタントカメラよりさらに小型で持ち運びのしやすいカメラは、遥かに先の技術で(VHSもまだ、テレビはブラウン管のダイヤル式選局盤と言えばわかるだろうか)あり、どれもこれもまだ『分厚い』、『大きい』ものばかりだ。
まさか、こんな薄いカメラがあるとは予想外だった。
「す、すまない使者殿。この撮影機らしきものはどうやって使うのだ?レンズらしきものが見当たらないのだが……」
「あぁ、これは、このボタンを押すことで起動します」
「き、起動?」
まるで電子機器のような言い回しに困惑するスロ王だったが、野原がボタンを押すと、真っ黒だった画面に王城の床が映し出された。
「!?」
驚くべきは、あまりにも小さな画面に対してその美しさである。
「(バカな‼こんなに美しい映像を、こんなに小さな画面に映し出すだとぉ!?)」
呆然とするスロ王を尻目に、野原は解説する。
「これは我が国で作られたデジタルカメラという撮影機でして、わずかな時間ではございますが、静止画のみならず映像を映すことも可能でございます」
「フィルムが……焼き付けるモノはどこに?」
「フィルムはありません。これに記録していますよ」
野原が電源を消したデジタルカメラから取り出して見せたのは、まるで小さな虫かと見紛うばかりの、生まれたばかりの赤ん坊の手にすら収まってしまいそうなほどに小さな黒い板状の物体だった。
「な、なにぃ……‼?」
なんらかの規格に基づいて非常に正確にカットされたのであろう『それ』は、明らかに同一規格で生産された工業製品なのだということがうかがえる。
この時点でスロ王はブワッ、と背中に冷や汗が流れ始めていた。
「(バカな……これほど技術が優れている国が、なぜ急に現れた……?これは間違いなく……我が国はもちろんだが、帝国より発展している‼)」
「陛下、記念に1枚撮影いたしましょう」
「む……できるのか?」
「はい。では撮りますよ……あ、よろしければ側近の皆様もどうぞ」
「皆の者、日本の使節殿のご厚意だ。受けろ受けろ」
スロ王は日本の能力を測るいい機会だと思い、道具を使用するところを見たいと思ったのだ。
スロ王の言葉を受けた側近たちは王の後ろへと集まる。
「では皆さん、撮りますよ……はい」
はい、チーズなどと言っても通じないだろうと思ったので、『はい』だけを合図にしたのだ。
静かな電子音が響くと、あっさりと撮影が終わってしまった。
この世界で日本が来るまでに一般的に広まっていた撮影機と呼ばれる道具は、シャッターを切った瞬間にストロボの激しい閃光があった。
だが、このデジタルカメラはそんな様子を微塵も見せない。
「陛下、ご覧ください」
スロ王と側近たちがデジタルカメラの画面を覗きこむと、小さい画面にとても美しい画像が映し出されていた。
「「「「お……おおおぉぉぉぉぉぉぉぉ‼」」」」
スロ王も側近たちも、その明瞭かつシミ1つない画像に目を白黒させていた。
「まさか……これほどとは……」
これでは帝国の商品が売れなくなるのも当然である。
そもそも前提条件として『勝負にならない』と言う事だ。
「……なるほど、よくわかった。だが、貴国との国交締結に関しては、しばらく待ってもらいたい。我が国がイエティスク帝国の属国であることは知っていると思うが……そのために、帝国にお伺いを立てなければならない」
「はい。それは覚悟の上で来ております」
「うむ。滞在中の宿はこちらが責任をもって用意しよう」
日本国とフィンウェデン海王国の第一次外交交渉は、諸国が思っているよりもスムーズに終了した。
会談後、日本の使者たちが王城を出たのを確認したフィンウェデン海王国の首脳部は、緊急会議を開催していた。
「皆の者、どう思う?」
「どうもこうもありません。技術が我々より進みすぎていて、まるで理解できません。なにをどうやったら、あんな薄く軽量で、しかも頑丈な躯体かつ明瞭な写真を撮影できる撮影機を作ることができるのか……まるで見当がつきません」
帝国と最も深いつながりがあると言っても過言ではない技術開発大臣の真っ青な顔が、事態はより深刻なのだと閣僚たちに刻み込んでいる。
どの閣僚も冷や汗で顔が濡れている。
「で、あれば……この通りのことを帝国に伝えるしかないな」
「はい。もっとも、帝国がこれを欺瞞情報と誤解しないかどうかが心配の種ですが……」
外務大臣の言葉にスロ王は苦虫を噛み潰したような顔で唸り声を上げる。
「我々は今まで随分と好き勝手をやってきたからな。ここらが頃合いだろう。諸国との関係改善も考えなければならないかもしれないな……帝国がそれを認めれば、だが」
フィンウェデン海王国としても無駄な争いをして自国の国力を消耗するようなことはしたくない。
しかし、もしも帝国から『攻撃せよ』と言われれば、彼らは絶対に逆らえない立場にある。
「……なんとかなればよいのだが……」
スロ王は自国の行く末を案じるのだった。
――西暦1750年 9月22日 グランドラゴ王国 クーフーリン島
ここは、グランドラゴ王国の領土の一部であるクーフーリン島。
わかる人にわかるように言えば、旧世界のアイルランド島である。
この島はグランドラゴ王国本土に近い大きさを持っているため、三軍の演習地として使われていた。
今も、日本の技術を導入して作られた最新鋭の戦車が地を駆けていた。
『タンクゴー!』
『日本人みたいにパンツァーフォーじゃなくていいんですか?』
『いいんだよ‼我が国の言葉の方が!』
――ブウウウウゥゥゥゥゥォォォォォオオオオオオオオッ‼
ターボチャージャー付の水冷4サイクルV型8気筒1000馬力ディーゼルエンジンが唸りを上げ、丸い鋳造砲塔に増加装甲を装備した戦車が力強く走る。
これこそ、グランドラゴ王国が日本から導入した車両技術や輸入したパーツを使って作り上げた新世代MBT、『クロマイト型戦車』であった。
この戦車を説明するならば、『見た目は南アフリカのオリファント。速度性能は最高時速60km、重量は51t、サスペンションは日本製油気圧サスペンションを装備し、主砲は日本製鋼所の制作した52口径105mmライフル砲をライセンス生産したもの』である。
しかも、砲弾避けに増加装甲も装着できるようになっているため、その防御力は地球基準の第二世代型MBTよりも高めである。
しかも、油気圧サスペンションを装備したことによって稜線射撃も思いのままとなっていることから、防衛能力に関しては現代戦車が相手でも遜色ない能力を誇る。
射撃統制装置としてレーザー測遠器とアナログ式弾道計算コンピューターを搭載しており、機器類という点では日本の『74式戦車』並みの射撃制度を誇る。
砲弾は74式戦車及び16式機動戦闘車が使用している砲弾と同じものを供与しており、多目的対戦車榴弾(HEAT―MP)とAPDS(装弾筒付徹甲弾)の2種類である。
APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)に関しては輸出が見送られたものの、性能的にはイエティスク帝国のティーガーモドキとも十分に渡り合えるだけの能力を持つ戦車だ。
日本から弾薬を含めて輸入したものが多いとはいえ、パーツや主砲のライセンス生産などで徐々に技術を高めているグランドラゴ王国の、その結晶と言っても過言ではない。
そんな戦車は4両で一小隊を編成し、4個小隊と中隊本部の2両を合わせた18両、さらに運用のためのトラック及びトレーラー多数によって戦車中隊を構成するという、自衛隊と同じ体制を取っている。
また、戦車の横では106mmの無反動砲を装備した装輪車両(車体の見た目は日本の16式機動戦闘車の車体を改良したもの)が停車しており、迷彩色に加えて草や木々を模したカムフラージュを施している。
日本の『60式自走106mm無反動砲』をモデルにした車両……『ヘマタイト型自走無反動砲』もまた、敵に不意打ちで攻撃を加えるための戦車補助車両で、王国が独自に開発した106mm無反動砲を2門装備している。
『6門を装備しよう』という常識外れを考えたドアホもいたが、日本の資料に『M50オントス』というキチガイ染みたものを見てやめた。
6発全てを撃ち尽くした『後』の装填に手間がかかりすぎるという難点に気づいたからである。
だが、『待ち伏せ兵器ならば撃ち尽くした後で逃げるのだから、それほど問題はないのでは?』という声も上がった。
しかし同時に、『撃っている間に反撃を受ける可能性が高いので、2発を素早く撃って逃げる方がコンセプトとしてはまとまっている』と考えられたため、結局2発を装備するにとどまった。
車体そのものは日本から輸入したが、無反動砲とそれを収める砲架はグランドラゴ王国製である。
そんな車両が立ち並ぶ訓練場において、陸軍幹部が話をしていた。
「日本の使節がフィンウェデン海王国に?」
「あぁ。王国との国交を結ぶことで、少しでもイエティスク帝国のことを知ろうってことらしい」
だが、熟練の整備科の幹部が反論する。
「待てよ。日本って言やぁ宇宙へ観測機器を打ち上げてたくさんの情報を掴んでいるじゃねぇか?えぇと、なんて言ったか……」
「人工衛星だ」
「そうそう、それそれ。それで全部丸わかりなんじゃねぇの?」
陸軍幹部は『そういうわけでもない』と首を横に振った。
「なるほど、本土に潜入しなくても主力兵器のことが分かるという点はとても優れている。だが、それでもわからないことが多数ある」
「なんだよそりゃ?」
「歩兵の携行兵器、歩兵と機甲部隊のとる連携戦術、さらには空軍との連携や、その外征能力などだ。特に、日本人はオーガ族とミノタウロス族の持つ身体能力を警戒している」
整備科の幹部はよくわからないのか、首を傾げている。
「なんでですか?」
「日本人がいた旧世界っていうのはな、我々ドワーフ族より背が高く、それでいてエルフ族より目の悪い人類が基本だと言ってもよかった。『身体能力に大きな差がある存在』って言うのがいなかったそうだ……稀に例外があったらしいが、それはあくまで例外だ」
ここまで言われれば整備科幹部も理解できた。
「日本国は巨体を誇るオーガ族とミノタウロス族の力が分からないんだ。そいつらがどんな携行兵器を持っていて、どんな戦術を取るのか……主力兵器はむしろ、衛星で映し出せるからある程度の推測ができるだけマシさ。歩兵のことは、きちんと目で確認しないとわからない。だからこそ日本は帝国と交流を結んで、その実力を探りたいんだ。ま、戦争したくないから、というのもあるだろうがね」
この陸軍幹部の推測は概ね正しかった。
日本としては主力兵器同士でぶつかり合った場合に損害は出ないだろうと推測しているのだが、歩兵同士が、それも市街地で衝突した場合の損耗を考えたのだ。
転移後の人口増加から大増員をかけたとはいえ、自衛隊は未だに人員不足でピーピー泣いている(大陸を含めた日本全てがそうとも言えるが)、経済大国とは思えないほどにお寒い組織である。
そんな『今の』日本だからこそ、隊員の安全と生命には大きく気を遣っている……一昔前では考えられないような待遇である。
「そして、人の在り方を見るには人の営みを見るしかない。建物や道路、さらには港湾設備などからある程度想像はつくのかもしれないが……日本はできるだけ確たる情報が欲しいんだろうな」
「なるほど……日本は圧倒的な力を持っているにもかかわらず、とても慎重なことをやるんですね」
「日本の言葉にこんなものがある。『石橋を叩いて渡る』とな。石でできた頑丈な橋を、叩いて渡るくらいの慎重さを持て、ということなのだろうな」
「日本はどんな相手にも慢心をしない、ってことですね」
「そうだろうな」
すると、沿岸部で訓練していた彼らの視線に、航行する軍艦の姿が見えた。
「あれは……『ダイヤモンド級戦艦』?それに、特設航空母艦の『ピンクダイヤ』……ウチの主力艦隊じゃないか‼」
陸軍幹部の言葉に、その場にいた全員が注目する。
「東へ向かっている……本土に行くのか?」
「そんな話は聞いてませんが……」
見れば、他にも『大鳳型航空母艦』に酷似した装甲空母も3隻、『クリーブランド級軽巡洋艦』に酷似した軽巡洋艦が4隻、『秋月型駆逐艦』に酷似した駆逐艦が多数、東へと向かっていくのだった。
まるで、どこかへ決戦に行くかのようである。
「一体なにがおっ始まろうとしてるんだ……?」
陸軍のポカンとした表情を尻目に、艦隊は悠々と波をかき分けて海を進むのだった。
次回は来月の8日には投稿しようと思います。
私事ですが、ブラウザ版艦これで遂に初めて、本格的に期間限定海域に参加することを決定しました。
無料プレイの範疇でプレイするつもりなので母校は100隻のままと大変厳しい事情ですが、既に砕氷船宗谷と潜水母艦大鯨を迎えることができました。
アケ版もそうだけど、大鯨ちゃんかわいいよ、大鯨ちゃん。