情報収集はいつの時代でも大事……大事ったら大事!
今月の投稿となります。
いよいよ北の方へ向けて日本が探りを入れ始めます。
――2032年 8月18日 日本国 九段下 グランドラゴ王国大使館
この日、日本国外務省の新人外交官である羽黒摩耶は九段下と半蔵門の間に存在するグランドラゴ王国の大使館を訪れていた。
英国調の上品な応接室には、とても美しい家具が並んでいる。
華美さは全くないが、『異世界とはいえ、流石は英国』と思わせるだけの品の良さが感じられる部屋であった。
羽黒がそんな応接室で落ち着かないようにソワソワしながら待っていると、大使館職員で、グランドラゴ王国でもトップの日本ツウであるファルコ・ガラティーンが姿を見せた。
「お待たせしました、羽黒さん」
「いえ、本日は会談の席を設けていただいてありがとうございます」
まずは挨拶から入る。今回の会談は、羽黒にとっての新人研修の一環のようなものであった。
当然のことながら、いくら羽黒が新人外交官でも他国の大使館職員と話をしたことがないわけではない。
とはいえ、今日は国家運営に必要な情報を得るための会談だ。彼女の肩にも気合が入る。
「さて、ご質問のあった『フィンウェデン海王国はどのような国か』ということですが……」
羽黒はどんなファンタジーな答えが返ってきてもいいようにと覚悟を決める。
その顔は本人からすれば引き締めているのだが、元々が童顔で可愛らしい顔立ちであることも相まってまるで威圧感はない。
むしろ、小動物がライオンを精一杯威嚇しているかのようであるせいか、見る人によっては微笑ましく映る。
それでも彼女は自分にできる精一杯をやろうとしていた。
「単純に言えば、『イエティスク帝国の腰巾着』ですね」
「……え?」
もっとおどろおどろしいなにかがあるのではないかと思っていただけに、『それだけ?』と拍子抜けしてしまう羽黒であった。
「これは以前他の方にお話ししたこともありますが、彼の国は人口4000万人、基本的な種族はオーク族とゴブリン族及びファット・ホブゴブリン族がメインですね」
「ファット・ホブゴブリン……確か、日本人並みの身長と、力士と見紛うばかりの肥満体型を持つゴブリン族の進化種族、でしたよね?」
「えぇ。ゴブリン族そのものは基本的に温度が変わりにくい洞穴を住処にしていましたが、その大半がファット・ホブゴブリンに進化したことによって寒冷地に強くなったのです」
生物は大型化・肥満化することによって寒冷地に適応する。
アザラシやホッキョクグマ、コウテイペンギンを思い浮かべれば、なんとなくだがわかる人もいるだろう。
「あと、彼の国の特徴として面積と可住地域の狭さの割に人口が多い、というところがあります。これは、厳しい環境を生き抜くためにファット・ホブゴブリンとオーク族がより多くの子供を残せるように進化した、と考えられているのです」
「国交のある国は?」
「基本的に西側諸国のほとんどと交流がありましたね。もっとも、それは基本的にイエティスク帝国から仕入れた先進機器類を高値で売りさばくためでしたけど……」
「じゃあ、最近は?」
ファルコは『ハハハ……』と苦笑いしながら頬を掻いた。
「実を言うと、日本との交流が始まってから彼の国の製品はまるで売れなくなっておりまして。以前耳にした話からすると……はっきり言って、日本を目の敵にしているところがありますね」
「うわぁ……」
だが、日本にはなんの責任もない。単に日本の製品の方がよかったから売れているだけなのだ。
それが資本主義社会という奴である。
「では、そんな相手にこちらから接触するのは危険でしょうか?」
「そうですね……『自分たちは最強の帝国の一の子分』という感覚があるせいか、確かに態度がいいとは言えませんね」
「や、やっぱりそうですよね……」
それまで圧倒的優位だった経済がぽっと出の国家のせいでガクンと落ち込んだのだ。そりゃ怒るだろう。
「ただ、向こうも日本という国のことは知らない上に、イエティスク帝国に対して少しでもいい顔をしたいと考えているでしょうから、なにかしらの接触をすることで多くの情報を集めることは可能だと思います。あ、それともう1つ、現国王はそんな王国内部では割と穏健派ですよ」
「なるほど……ありがとうございます」
「いえ、少しでもお役に立てたのならこちらも嬉しいです」
「そ、そんなっ、こちらも色々無理ばかりを言っている立場ですのでっ……」
ファルコのエルフ族特有の爽やかな笑顔に、思わずドキリとしてしまう羽黒であった。
なにせ彼女はまだ外交官としては若手の23歳。爽やかなイケメン相手にはときめいても仕方のない年齢である(オイ)。
だが、自分にできる限り顔を引き締め、なんとか最後まで職務を遂行するのだった。
「そ、それでは、本日はこれで失礼いたします」
「えぇ。ありがとございました」
羽黒が退室した後、ファルコはなにを思ったのか、本国への電話(日本製の最新型プッシュホン)をかけ始めた。
「私です。はい。日本がフィンウェデンに接触する可能性が。はい。はい。え? それはちょうどいいですね。ぜひ彼らにも頑張ってもらいましょう」
受話器を置くと、ファルコはまた爽やかな笑顔をしていた。
「日本の人たちが傷ついたら、我が国にも打撃が大きいですからね。我が国にできることはやっておかなければ……」
さて、彼が考えていること、そしてうまく合致したこととは……
その夜、外務省では緊急幹部会議が開かれていた。
「で、羽黒君からの報告によると、『扱い辛そうな国家』という点では防衛省の分析とも一致しているわけか」
「はい。決して侮ってはいけない存在かと思われます」
「だが、護衛艦で外交使節を派遣するというのも相手を刺激しそうで怖いな。相手の水準は蟻皇国と同等か、多少上回るくらいなんだろう?」
「はい。はっきり申し上げて、技術は蟻皇国よりわずかに上、物量、国力という点では皇国の半分にも及びませんね」
「脅威と言えるのかそうでないのかわからない国だな……はぁ、飛行機でひとっ飛びできれば楽なんだが」
外務相を始めとするそうそうたる顔ぶれだが、大正時代レベルの国家相手にもこれほど慎重に慎重を期す辺りが流石日本である。
「そうですね。旧世界で同じような状況に出くわしたならば……いえ、旧世界はそもそも空路が充実していたので船で外交交渉に行くという前提自体が成立しないんですよね」
「確かに、それは言えているな」
ファンタジー世界へ日本が飛ばされる小説などで『なぜ空路を使わないのか』と言えば、『日本のジャンボジェット機が離発着できるレベルの国がない』ことと、『そもそも国交のない国にいきなり乗り付けるわけにはいかない』という点が大きい。
その点、海であれば領海侵犯にはなるものの、沿岸警備隊から接触を図り外交部署へ連絡してもらうことも十分可能である。
実際、召喚小説では様々な形で護衛艦や巡視船が接触を図っているのだ。
もっとも、相手国が木造のガレー船を主体とした中世ヨーロッパ水準の国だったためにその『大きさ』と『鉄でできている』ということでそもそも驚かれているのだが。
「では、どうしましょうか?」
「やはり、海上保安庁に依頼して大型の巡視船を派遣してもらうのがベストなのかな?」
「ですが、万が一相手側から攻撃を受けて死傷者が出ようものなら『なぜそんなことも予測できなかった』とマスコミと野党に叩かれるのは目に見えています」
今でこそ野党の勢力はだいぶん少なくなって議席も大幅に減っている(ついでにそれによって必要経費が結構減ったため、与党もあえて議員数を少し削減し予算削減を図っているという面白い事態になっている)ため、影響力はもはやないに等しい状態である。
もっとも、一応建前上は民主主義国家であるという体裁を残すために弱小であろうとも野党には少しばかり残ってもらっているのだ。
どれも議席1とか2とかわずかしかもっていないため、本当に雀の涙ほどの影響力もないのだが。
それも与党が調べ上げて、後ろ暗い繋がりがないような野党ばかりである。
え、与党? そもそもズブズブですがなにか?(どうせ切っても切れないんだし、と諦めている国民も多い)。
「しかし、護衛艦、或いは1隻で不安だからと艦隊を派遣したらしたで『砲艦外交をやらかした』と叩かれるぞ?」
「それはそうですが……やはり総合的なリスクを考慮すると、死傷者を出すことの方が問題のように思えます」
「ではどうするのだ」
「落ち着け、過熱した思考は変な方向へ突き進むぞ。旧軍がそれで痛い目を見たことは忘れるな」
「じゃあどうするというのだ。このままではなにも結論が出ないままだぞ」
「それは困るが……ヒートアップしすぎるのがよくないのも事実だ」
このような状態で、2時間ほど会議が続いているにもかかわらずまるで進展がない。
ある意味日本人らしい優柔不断さは、転移から12年が経過した今でも残っているのだった。
もちろん変わろうとしている人間も多数いるが、ちょっとやそっとで人間が長いこと形成してきた『感覚』は変えられないものである。
すると、そんな堂々巡りの状況を変えようと思ったのか、締めるように外務相が声を上げた。
「ならば、専門家に相談した方がいいだろう。『餅は餅屋』だ。防衛相の見解を聞こうじゃないか」
「それは……そうですね」
「このまま我々が議論していることよりははるかに有意義でしょう」
外務相は『時間が惜しい』ということで、電話で防衛相に相談をした。
防衛相も気にしていたのか、『1時間待ってくれ』と言って緊急幹部会議を開催し、相談をする。
そして1時間後……再びテレビ電話の画面が点灯した。
『お待たせしてすみません』
「いえ、こちらこそ無理を言って申し訳ない」
『単刀直入に言いますと、護衛艦は〈逆に危険〉です』
「逆に? 威圧感とかそういった意味ではなく?」
画面の向こうの防衛相は真剣な表情で頷いていた。
『はい。もしなんらかの理由で攻撃を受けた場合、搭載されているレーダーを含めた繊細な電子機器の多い護衛艦は機能を大きく損なう可能性がありますし、なによりただの頑丈性というだけで言えば、海上保安庁のヘリコプター搭載型巡視船の方が上ですから』
なにせ、某国(ここではあえて諸事情から某国と)の工作船はロケット砲を発射してくることもあるのだ。その一撃だけで行動に支障が出るようなヤワな作りでは困るだろう。
「しかし、召喚小説ではそれで『機関砲しか装備していない豆鉄砲の重巡』と侮られています。その後も長らく誤解は解けていませんが……」
『そうなのです。だから本来は〈乗員の安全〉という意味でも〈やまと型〉を派遣できれば一番なのですが……それでは完全な砲艦外交になってしまいます』
「えぇ、そうでしょうね」
『ですが、安全も捨てておけません。そこで、現在改良している〈いつくしま〉の2番船〈はしだて〉はどうでしょうか?』
「『はしだて』ですか?」
『いつくしま』型ヘリコプター搭載型巡視船は同型船2隻の建造が決定されていたが、スペルニーノ・イタリシア連合王国の残党と戦った際にこのような意見が船長の斯波竜興から出た。
『今回は相手の砲弾が2kmしか飛翔しないこともあって機関砲でもアウトレンジで対応できたが、近代水準ならばロケット砲などを保有していてもおかしくはない。大型の巡視船はある程度攻撃を受けることを想定して、重要区画だけであろうともある程度の攻撃に耐えられるように装甲化するべきであります』
というもので、『いつくしま』を含めて改修されていたのだ。
幸い機関は元々炎上しにくいディーゼルエンジンを使用しているため、これに関しての変更はなかったのだが、様々な部分の改修・改造をする羽目になったため、造船の現場からは恨み節であったという。
『えぇ。先ほど国交相にも聞きましたが、〈はしだて〉は砲弾を発射してくる海賊との戦いも想定して、〈やまと型〉の建造経験から艦橋部分と機関部分に強固な複合装甲を施してあります。まぁ、そのせいで重量が増して満載排水量が1万3千tを超えるという昔の重巡洋艦並みにまで膨れ上がってしまいましたが、機関も新型のディーゼルエンジンを用いているため、巡視船としては基準水準の25~27ノットを発揮することができるそうです』
「なるほど……重要区画で乗員を守ることができれば、多少の攻撃程度は問題がない……」
『と言っても、今施してある装甲が〈耐えられる〉の想定は精々護衛艦の5インチ単装砲ならばともかく、現代の榴弾砲で用いられる15cm水準の砲弾なら十数発前後……20cm砲であれば数発……それ以上は考えたくもありませんがね』
現代の船は砲弾など届かないアウトレンジで戦うことを想定しているうえ、飛んでくる攻撃が放物線を描く砲弾ではなくエンジンで軌道を調整しているミサイルである。
それをコースに沿って迎撃するのが現代護衛艦のコンセプトなので、装甲と言えば機関銃の弾丸や、至近距離でミサイルが爆発した際の破片と爆風に耐える程度である。
それでいて、砲撃とは口径の三乗に比例するとも言われているため、下手を言えば小口径だろうが『装甲貫徹力を想定している砲』や、『急降下爆撃で叩きつけられる軽量の爆弾』だけでも護衛艦には脅威なのだ。
それを考えれば、実弾を浴びる機会の多い巡視船が装甲化するというのは本来おかしなことではないのだ。
実弾の発砲経験のある九州南西沖工作船事件でも、巡視船が多数の銃弾を浴びてボロボロになったのは記憶に新しい人も多いはずだ。
『ですが、はっきり申し上げて既存の護衛艦やヘリコプター搭載型巡視船を派遣することに比べれば、遥かに安全性は高いでしょう。それに、武装も一部変更されてアウトレンジから相手に確実に打撃を与える兵装を搭載していますしね』
「陸上自衛隊の中距離多目的誘導弾を巡視船向けの艦載型に変更した新型多目的誘導弾ですね」
召喚小説で『三笠』レベルの戦艦にロケットブースターを付けることで射程距離を延長させられたものが登場しているが、それに近い性能を発揮する『ASGM―1』にロケットブースターによる延伸能力をつけて今回巡視船に装備したのだ。
ちなみに、発射方式は対艦誘導弾と異なり、ランチャーを相手に向けると同時に艦橋のレーダーと連動させて発射・命中させる方式であった。
自衛隊が制式採用している装備を海上保安庁の装備として採用するのは初めてのことだったため、防衛省と国土交通省も色々と骨を折った。
だが、省庁同士の横の繋がりを得ることと、乗員の安全性を確保するために、ということで両者の意見が一致し、今回の装備に至ったのである。
『元は警戒警備が中心の巡視船には10km弱の射程でもオーバーキルです。それでも相手に反撃することを考えたうえで、もし相手から攻撃を受けたとしても、それで反撃できれば攻撃の手は弱まるはずですから、それで〈妥協〉するしかないのではないかと』
「妥協、ですか……確かに落としどころとしては最適なのかもしれませんね。ありがとうございました。相談してよかったです」
「いえいえ、今後も何かあればよろしくお願いいたします」
こうして、外務省の依頼で海上保安庁の巡視船『はしだて』が、グランドラゴ王国を経由してフィンウェデン海王国へ派遣されることになった。
翌日、インターネットの掲示板はフィンウェデン海王国への巡視船派遣のことでもちきりとなっていた。
相手が世界最強の国と直接の交流を持っている数少ない国だということもあって、ネット民のみならず多くの日本人が情報を収集していた。
今やこういった軍事色の強い話題は国民の間でも強い関心を持っており、ネットにおける軍事的なネタの応酬も比較にならないほど増えている。
○今回の外交使節派遣、どう思う???
○はっきり言って無謀だな。相手が覇権主義の帝国に尻尾を振っている腰巾着国家なら、帝国への手土産ということで『面白そうなもの』を見逃すとは思えない。
○確かに、今の国家だけでもうまくやってるんだからこれ以上手を広げようとしなくてもいんじゃないか?
○それに、巡視船が拿捕されるだけならともかく、乗員や外交官が人質にでもされたら大ごとだぞ。
○いや、巡視船が拿捕されるのだって大ごとだよ。護衛艦ほどではないと言っても、レーダーとか電子機器を解析されたらどーすんの。親分のロシアモドキに集積回路開発されちゃうよ?
○そんな卑怯な‼
○いや、技術開発と戦争にヒキョウもラッキョウもないから。
○むしろ旧世界なら、ヒキョウもラッキョウも大好物、って国多いよね。主にロシアとか中国とか。
○ロシアってちゃんと国産技術持ってなかったっけ?
○今となっては笑い話だが俺は知っている。イギリスのジェットエンジンの工場を視察したソ連人が、タービンブレードの素材の『削りくず』を靴にくっつけて持ち帰り分析をした、と。
○なんじゃとてー!?
○英国面……
○そもそも重要なら視察させるなや。
○草生えたwww
○でも、情報に通じていれば自国より相手の方が進んでいるっていう分析ができれば手は出さないんじゃないのけ?
○そうとも限らない。進んでいるからこそその技術を取り入れて進歩する、或いは親分にいい顔ができるという一歩飛んだ考え方になる可能性もある。面倒なことにね。
○だからこそ政府も今回は装甲付き、ミサイル搭載の巡視船にするって言っているんだろうな。武装もこれまでの巡視船とはけた違いに強いから、生存性も既存の護衛艦よりあるってことで派遣されんだぞ。
○なんだか段々とロシアの沿岸警備隊……ロシア連邦保安庁みたくなってきたな。
○安全性高いからってやまと出すわけにはいかないしなぁ……。
○おいやめろばかwww
○首都に艦砲射撃でもぶち込む気かよ……もうやったか。
○実際攻撃される可能性を想定しているのならば、重要区画のみとはいえ装甲を施した船を派遣するのはアリ。召喚小説でも『対空能力は高いが、豆鉄砲の重巡』ってことで舐められてるからね
○別の海域じゃ『白い悪魔』なんて言われてたけどwww
○そーいや、『しきしま』もそろそろ引退か?
○いや、寿命延長改修と近代化改修を施してまだ使うってよ。貴重なんだろうね、大型の巡視船って。
○あー、武装も含めるととても対空に強いし、不審な航空戦力があるかもしれない世界であると考えると重宝するよなー……。
こんな感じで、召喚小説にも言及されながら色々な人が議論を交わしているのだった。
――2032年 8月25日 日本国 横浜 海上保安庁第3管区
第八管区に所属するヘリコプター搭載型巡視船『はしだて』は、外交官2名を乗せるべく横浜の第3管区に停泊していた。
外交官の野原弘と川口悟は、これから自分たちが海外へ向かうのだという事実に息を呑んでいた。
「川口、緊張しているか?」
「は、はい。先輩は?」
「俺だってガチガチさ。でもな、川口。男には……やるべきって時が人生のどこかで来る。それが今だったって話さ」
「おぉ~、流石2人の子持ちにしてローン25年は違いますね……」
「それを言うんじゃね~‼」
そう、この野原弘。『埼玉カスカベは、野原一家の長にして、双○商事営業二課係長! ローン32年、35歳』なあの日本を代表する『足クサとーちゃん』と全く同じ読み方の名前なのだ。
別に親も意識してつけたわけではないのだろうが、職場でのあだ名は完全に『とーちゃん』である。
実際に4歳の男の子と生まれたばかりの女の子もいるので、本当にそっくりなのだ。
「そ、それはそうと……なんだか結構重武装ですね、今回乗る船って。本当に軍艦じゃないんですか?」
「まぁ、昔は古くなった軍艦を海防艦にしていた時代もあるからなぁ。あながち間違いじゃないんだろうが……日本じゃ少なくとも自衛隊は防衛省、海上保安庁は国交省って住み分けられている。まぁ、有事の際には防衛省の指揮下に入るらしいが……軍艦というにはちょっとなぁ」
「へぇ~……でも、ミサイルもついているのを見ると本当にカッコイイです」
目の前に停泊している『はしだて』の威容は、外交官たちを圧倒するには十分すぎた。
「政府としても俺たちの安全と相手国への配慮を最大限に考えた結果、らしい。この船は海上保安庁の船としてどころか、戦後の日本艦艇としては珍しく強固な複合装甲が施されているらしいからな」
「装甲、ですか。どれくらいの攻撃に耐えられるんですかね……」
「さぁな。流石に46cm砲なんて喰らったら一撃で木端微塵とまではいかなくとも真っ二つにはなるだろうが……15cmから20cm前後の巡洋艦の主砲にはある程度耐えられるんじゃないか?」
渋い顔をしつつも、仕事はしなければならないと割り切る2人である。
「まぁ、俺たちは言われたことを全力でこなす……それが社会の歯車の定めって奴さ」
「もしかして先輩、遺書でも書いてきました?」
「一応な」
そんな面白使節2人を乗せた船は2日後に出港し、一路フィンウェデン海王国へと向かうのだった。
ネット掲示板の盛り上がりについては私が『なんとなくこうなるだろう』と考えたものです。
合ってるかどうかはわからないですね(笑)。
次回は3月の4日に投稿しようと思います。