真綿で首を締めるような調整
今月の投稿となります。
遂に決定した蟻皇国首都南京への攻撃……これがどのような結果を生むかは、なんとも言えないでしょう。
――2032年 6月18日 日本国 東京都 防衛省 統合幕僚監部
防衛省では現在、蟻皇国南部に存在する首都南京への上陸作戦を考えていた。
統合幕僚監部の幹部が、最近S○NYによって開発された空中投影型プロジェクターを用いて、閣僚たちに説明を行なっているところだ。
「現在蟻皇国軍はその数を大幅に減じておりまして、ワスパニート王国への侵攻へ用いることができる兵力はないに等しい状態であります」
蟻皇国は元々覇権国家ではあるのだが、ワスパニート王国を除けば周辺国家が世界最強のイエティスク帝国と、アンタッチャブルと言われていたガネーシェード神国だったため、その兵力の大半を首都である南京周辺の防衛に充てていた。
当然ながら、海軍に関しても首都防衛隊として30隻を超える艦艇がまだ残っており、その中にはなんと4隻もの弩級戦艦が存在した。
「今回敵首都へ乗り込み講和を申し出るに至るまで、陸海空統合首都防衛部隊を相手取る必要があるのですが、まず首都における陸軍だけの残存動員可能数は、『陸軍だけ』でも20万となります」
「に、20万!?」
「まだそんなに動員できるのか……」
「と言うか、報告書を見る限り、よくもまあこんな極端な兵力配置で覇権国家を名乗ってたな……大半が防衛用兵力じゃないか」
これに関しては、それだけの意欲があるということを示していないとイエティスク帝国に攻めかかられる恐れがあったからである。
蟻皇国の総合兵力数は200万人だが、陸軍が100万人、海軍が45万人、空軍が35万人、そして首都防衛を正規軍と共に担う警邏軍と呼ばれるイタリアの警察軍のような存在が20万人である。
イエティスク帝国との国境には40万もの兵力に加えて、古代に築かれたという万里の長城のような建造物が存在しており、それを巨大化・要塞化してイエティスク帝国に備えている状態であった。
「もっとも、海軍に関しては主力部隊100隻以上を我が国との戦いで失っておりまして、15万人以上の損失ですね。陸軍はワスパニート王国に侵攻しようとした10万を殲滅していますので、数の上でならばまだ余裕があるとさえ言えます。空軍については一番損害が少なく、まだ殆ど倒していない状態ですね。もっとも、これらの総数は後方支援のための輜重兵などを含めた総数で、輜重兵だけでも統合して30万人を超えます」
圧倒的過ぎる物量と、国内に関してならば補給も簡単には途絶えないであろう状態である。
閣僚たちはあまりの物量にげんなりした顔をしていた。
「それ、どうにかする方法はあるんだよな?」
「はい。蟻皇国は地下に都市を築く方針をしているようで、農地を除けば大半は地下都市となっているそうです。逆に言えば、国土の大半を農地にすることで120%を超える食料自給率を叩きだしているわけですが」
蟻皇国の人口は2億人を超える。そんな国の食料自給率が120%を超えているなど、悪夢以外の何物でもない。
実際、その食糧の一部はイエティスク帝国に輸出しているらしい。
「そんな場所ですので、まずは敵の首都に攻撃を叩きこむ方法にひと工夫必要です。少なくとも、既存の空爆やクラスター爆弾では表面の穀倉地帯は焼けたとしても、根本的な経戦能力を奪うことには繋がりません」
「ではどうするのだ?」
「非常に問題の多い手段ですが、『Fー6』マルチロール戦闘機に搭載可能な地中貫通爆弾『黄泉平坂』を使用します。これでそもそもの地盤を崩して地下都市を露出させ、衛星でポイントを確認します。それと同時に首都沿岸部を攻撃するために『Pー1』哨戒機20機と『むさし』を出撃させ、『Pー1』で艦艇を撃滅し、さらに沿岸部の砲台を対地誘導弾及び我が国が初めて開発した『Fー15』から発射することが可能な巡航ミサイル『武御雷』で無力化します」
蟻皇国が大戦間期レベルの能力を持っているのであれば、沿岸砲台、要塞砲という存在がまだ残っているのである。
実際、衛星でも旧式化した戦艦の40口径30.5cm連装砲や、大型の32cm単装砲などが確認できていた。
「『Pー1』は8発の対地・対艦誘導弾が搭載可能ですので、対艦攻撃用に5機、沿岸部重要施設攻撃用に15機を用います。なお、この時敵の航空戦力が出てくることと想定されますので、『あまぎ』に加えて『あかぎ』、さらに『かつらぎ』と『いずも』を繰り出して敵航空戦力を完全に撃滅、制空権を確保します」
もはや『鬼か』とツッコみたくなるほどの陣容である。
しかも、これで終わりではない。
本来ならば対地攻撃・近接航空支援ということで、頑強な『Aー1』飛竜を用いたかったのだが、空中給油を用いたとしても圧倒的な航続距離不足で没となった。
「その代わり、航続距離の長い『ACー3』を用いてさらに首都の『地面』に攻撃を加えさせます。残念ですが、蟻皇国をなるべく損耗少なく攻略しようと考えますと、この時の崩落及び攻撃の余波で発生する皇国民の犠牲にはある程度目を瞑るしかありません」
「致し方ないか……」
「本当にどうにもならないのか?」
防衛相や総務相は納得しているが、法務相や外務相としては民間人の犠牲は少ない、できればないに越したことはないので、本当に方法がないのかと問いかけていた。
防衛省の幹部もそれは理解しているので、首を横に振りながら説明する。
「残念ながら、我が国と蟻皇国には80年を超える技術格差がありますが、それを加味しても圧倒的過ぎる物量は脅威です。『むさし』を対艦攻撃に回すことも考えましたが……その場合、対地攻撃に回せる弾薬量が減ってしまいます。今回の敵首都攻撃は、地下都市攻撃という日本でも前例のない都市への攻撃になります。そんな地下都市に存在する工業地帯を攻撃しようと思うと、敵国に侵入してテロ行為を行うか、地盤を崩して圧倒的な破壊力で面制圧するしかないのです。まさか制空権が確保できるからと言って地下都市の上空――いつ地盤が崩落するか分からないところ――に戦闘機を長時間送り込むわけにもいきません。優先するべきは『自国民及び友好国の国民の命』であって、『敵国民』についてはできる範囲で留意するべきでしょうが、ないものねだりをしても仕方ありません」
崩落しそうな地盤の中にある都市、と言えば某宇宙戦艦アニメの初代シリーズで登場した地下都市、或いはガミ○ス星の都市、と言えばわかりやすいだろう。
そう、いかに技術格差があるといっても旧世界では考えられなかった大規模な地下都市という存在は、防衛省及び統合幕僚部においても、いかに相手国の犠牲を少なくしてどのように攻略するか、という意味では悩みの種であった。
それを言われてしまうと他の閣僚たちも納得せざるを得なくなる。
国民の説得は難しいかもしれないが、それをするのが政治家だ。
「あとは……各国への根回しが必要だな。外務大臣、すまないが各国の駐在大使に通達して、各国首脳にこの作戦を伝えて欲しい」
「いいのですか? 特にシンドヴァン辺りから漏れる可能性が高いですが……」
「漏れたところで圧倒的な技術差があるからな。万が一高性能な兵器が登場することを考慮してほぼ確実に制空権を取れる『Fー3C』と『Fー3B』を搭載した空母と軽空母の4隻を送り込むんだ。ただし、地上戦になるとこちらが圧倒的に不利になるから、そうなる前に相手が降伏するように仕向けるには、今回の46cm砲による艦砲射撃は有効かもしれない。とにかく、常に二手三手先を読むようにしながら動いてほしい」
首相の締める言葉に、閣僚及び統合幕僚監部の幹部たちも頷くのだった。
今回の日本は、転移後はもちろんのことだが、戦後初となる『民間人の犠牲をやむなしとする』作戦を立案せざるを得ない状況に追い込まれたのだった。
――2日後 防衛相 統合幕僚監部
こちらでは、派遣する航空機の調整に追われている幹部たちの姿があった。
「全く……遂に『Fー15』が出動すると思ったら対空戦闘じゃなくて対地誘導弾の発射母機だって言うんだからなぁ……」
「ボヤくなよ。そもそも、『Fー15』は転移後のパーツ調達に手間取って稼働率がガクリと落ちていたじゃないか」
日本の主力戦闘機であった『Fー15』は、元々米国のマグドネル・ダグラス(現ボーイング)が生産していた機体だが、日本ではそれをライセンス生産していた。
旧世界ではほぼ唯一、『Fー15を自国内で製造した国』という評判は伊達ではなく、電子機器類やその後の国産対空誘導弾搭載のための改修など、様々な改良を施してきた。
転移後は旧世界での計画通りに巡航ミサイルを搭載できるように改良を進める……予定だったのだが、ここで思わぬアクシデントが生じた。
それは、元々ロシアや中国に対するスクランブルで(西や三沢、百里の方では『Fー2』も出ているが)稼働率の高い『Fー15』のパーツを今後調達する方法、であった。
全てをただコピーすればいい、と言うわけではなく、そこに日本独自の改良を盛り込む必要があった。
特に問題だったのはなんと言ってもエンジンである。
エンジンもちゃんとライセンス生産はしていたが、何せ元々は1981年に導入され、ライセンス生産に関してはその後の話とはいえ、40年以上前の戦闘機であった。
そのエンジンのパーツを再生産する方法は、当然ながらロストテクノロジーに近いものとなっていた。
改めて再生産しようと思うとどえらいお金が飛び出していくことにはなるが、背に腹は代えられないと政府は高額予算を抽出して『Fー15』の各パーツを再生産することを決定した。
また、アメリカから導入していた部品などについても独自改良が施されたうえで再生産されることが決定したため、その値段は初期の購入時よりも高額となったとさえ言われている。
それでも必要とされたのは、高い制空戦闘能力に加えて、増槽を用いることによる長距離飛行が可能であること、そしてなにより、改修次第で巡航ミサイル発射母機に改良できることであった。
ゼロから巡航ミサイルを作り、その運用ノウハウも確立しないといけなかった日本からすれば、発射母機となる航空機の存在はとても大きかったのである。
そのため、無理矢理予算を捻出して(転移直後は緊急事態で軍事に対して大量に予算を回すことができたから、という一面もあるのだが……)なんとか死に物狂いで研究予算を工面したのだった。
その結果、『Fー15』のパーツは全て国産化できるようになったため、改造も思うが儘である。
現在は巡航ミサイルの発射母機としてのみならず、ミサイリアー構想の研究も進めており、中距離空対空誘導弾8発、短距離空対空誘導弾8発、そして最後は機関砲による格闘戦の三段構えをより重厚にしていこうというものである。
旧式化する予定の未改修機体は練習機にもできないので、今のところは日本各地の航空博物館で保存する予定である。
また、一部はアメリカ大陸へ運ぶことで不活性化し、旧世界のアメリカ同様に大きな軍事博物館でも作ろうかという動きになりつつある。
それはさておき、『Fー15』の設計及び能力におけるコンセプトは、ステルス性能を除けば数十年が経過しても通じるレベルのものであると、関係各方面に認めさせたようなものであった。
というか、そもそもかつての日本の防衛において、『Fー15』という戦闘機がいかにピッタリだったか、ということでもあるのだが。
そんなこんなを繰り返しつつ、日本はさらに前へと進んでいく。
――西暦1750年 7月1日 グランドラゴ王国 王都ビグドン ドラグメイル城
ここはグランドラゴ王国。
日本人からすればイギリス(グレートブリテン島)とアイルランドなどを領有する国であり、現在では日本に最も近い実力を持つ国でもある。
そんな王国の王城、ドラグメイル城では国の幹部が勢揃いして最高権力者・ドラゴニュート19世こと、ミーティア・ファルボルン・ヘンノ・クロム・ドラゴニュートの前で報告を行なっていた。
報告内容は、現在王国が請け負っている日本からの受注であった。
王前に立って報告をしているのは、土建卿……日本で言うところの国土交通大臣を務めるヘンリー・オルトロスである。
「……現在我が国が日本の代理として請け負っておりますワスパニート王国の港湾開発及び都市開発の規模拡大により土木業者が大変潤っており、日本からの技術供与もあって大幅に技術力を伸ばしております」
「ふぅむ。やはりと言うべきだろうか、日本の技術力はすさまじいな。で、我が国はどれほどで追いつけそうか?」
「……恐れながら、まだ日本との間にはよくて50年、悪ければ60年近い技術格差があります」
日本からの技術供与により、グランドラゴ王国の技術力は建築方面に限定すれば1960年代に近い能力を発揮していた。
しかし……
「長くても60年か。『とにかく頑張れ』などという根性論を振りかざすつもりはない……だが、追いつけそうな気がしないでもないが、無理なのか?」
「残念ですが、軍事技術同様に、民生技術はもちろんのこと、特に電子技術が一朝一夕で埋まるものではないと私は考えております」
たった60年ほどの差だが、それがどれほどすごいのかは土建卿自らが日本の歴史を調べて知っていた。
「日本国は転移前、世界大戦を経験して国土のほとんどを焼き尽くされておりました。広島・長崎という都市に至っては、前世界最強の国であったというアメリカ合衆国の実験半分に落とされたという『核爆弾』なる兵器のせいで都市が1発の爆弾で粉微塵に吹き飛んだそうであります」
それを聞いた家臣たちは震えあがる。
現在グランドラゴ王国が日本の古本屋で手に入れた書籍を参考に生産している爆撃機は、『アブロ ランカスター』に酷似したものとなっているが、大きく異なるのはそのエンジンである。
エンジンには当時使用されていたであろうレシプロエンジンではなく、『Pー3C』に近い水準(ただし、近いと言っても『低い方』ではなく、『高い方』である)の能力を発揮するターボプロップエンジンを採用しようとしており、『Cー3』のターボプロップエンジンのライセンス生産を日本に許可を得て始めていた。
また、独自の改良として対空機関砲や高射砲の砲弾に近接信管が備わっていたとしても、その破裂に耐えられるように各所に装甲を施すという念の入れようである。
それはともかく。
「日本はそんな形で国土のほとんどを焼き尽くされたにもかかわらず、戦後にはその勝者であったアメリカの支援があったとはいえ、わずか70年強で190ヵ国以上はあったという世界で10の指に入る軍事力……これが海軍力に限定すると世界2位とも言われる実力と、それを支える工業力と国力を得るまでに至っております」
「なんと……」
「恐ろしいものだな」
ドラゴニュート19世は再び手を上げて家臣たちを鎮めると、あらためて問う。
「では、お主はその原動力をなんと見る?」
「一言で申し上げるのは難しいと思いますが、国民性という意味で申し上げるならば『真面目さ』ではないかと」
「ほぅ。真面目さか」
「はい。日本人は基本的に、愚直なまでに約束を守り、それを重んじます。これは日本人の心にある『武士道』を始めとする様々な教えが影響しているとみて間違いないでしょう」
ヘンリー土建卿は日本のことを研究する上で、日本人の独特の感性・心の在り方がその根底にあるのではないかとアタリをつけていた。
彼はさらに続ける。
「また、日本の復興を手助けしたものの1つに『造船業』と、それにまつわる『艤装技術の高さ』があると思われます。日本は旧世界で最強の砲力を持つ船、『大和型戦艦』を考案し、2隻を実用化していました。その主砲の口径はなんと驚くべきことに46cmはあったそうです」
「よ、46cm!?」
「我が国の『ダイヤモンド級』より5cmも大きいのか……」
砲撃の威力は口径の三乗に比例すると言われている。
もしただの数字に表すならば、
○41×41×41=68921
○46×46×46=97336
となる。
単純な数字上の上だけでも、3万近くという差がある。
しかも、これはあくまで数字を三乗しただけのものなので、そこに様々な要素が加われば、差はさらに開くであろう。
例えば、砲身長や炸薬量、砲弾そのものの重量など。
実際、アメリカの『アイオワ級戦艦』は50口径16インチ砲を主砲としていたが、重量級徹甲弾(SHS)を使用することによってその威力は大和型の砲弾に匹敵するモノがあったと言われている。
そんな脅威を数字として表示され、青ざめるグランドラゴ王国の幹部たち。
「そんな主砲と、その主砲に耐えうるであろう船体を作り出した結果、主砲塔1基だけで2千tを超える重さ……我が国で言うならば、現在配備が進んでいる『駆逐艦』よりも重いものを船体に搭載し、しかも自由自在に動かせる技術を手に入れていたのです」
すると、自然卿が声を上げた。彼は日本で言うところの環境大臣である。日本と交流を持ってから創設された『自然省』の大臣で、環境保護と生物の生態系がもたらす恩恵についての研究が主な仕事である。
「し、しかし、頑丈かつ巨大な船体を作る技術はともかく……重い主砲を搭載して回す技術がなにかの役に立ったのですか……?」
すると、土建卿は『待ってました』とばかりにニヤリと笑った。
「それがあるのですよ。日本の四谷にある『とあるホテル』には、回転する展望レストランがあるのですが……閣僚方の中には日本に旅行された際に利用されたことのある方もいらっしゃるでしょう」
すると、少なくない数の閣僚が『そういえば』と言わんばかりに頷いた。
「あの展望レストラン、大和型戦艦の砲塔の技術を応用したそうです」
「「「「「……は?」」」」」
閣僚たちはもちろん、ドラゴニュート19世の目までもが点になり、呆然としているのがよくわかる。
そうなることは予測できていた土建卿は、さらに続けた。
「あくまで噂ですが……展望回転レストランを作る際に、その技師がこう言ったそうです。『大和型の主砲より軽いんだろう? 余裕余裕』と」
「な、なんじゃそりゃ……」
閣僚たちの多くは、開いた口が塞がらないと言わんばかりに唖然としていた。
「ですが、その技術で作られた展望レストランは未だに……50年以上経った今でも回り続けています。日本には、それだけの積み重ねてきた技術と、実現できる国民性があるのです」
この報告に、ゴクリと生唾を呑む閣僚たち。
「また、日本の技術力と真面目さを物語る上で、鉄道技術は外せません。日本の鉄道は何時何分に到着するという推定を綿密に計算したうえで立てていますので、事故や事件が起こらない限りは基本的にその時間通りか、ほんの少し早く到着します」
グランドラゴ王国で使用されている蒸気機関車は綿密な加減速が難しく、どうしても予定された時間通りと言うわけにはいかない部分が多い。
それを日本は綿密に計算をすることで補っているのだ。
「特に日本の高速鉄道……日本では『新幹線』と呼ばれる存在は驚異です。運航開始から既に60年以上が経過しているにもかかわらず、未だに事故が原因での乗客の死者が出ておらず、事故や天候の悪化が起こらなければ遅れることもほぼありません。このノウハウはぜひ我が国にもほしいところです」
「我が国もいずれは電気で動く車両を開発せねばなるまいな。そのためにはもっと電化製品を広める必要があるわけだが」
グランドラゴ王国では調理するのにガスを用いた炎を使っているが、日本は現在、次々とIHを含めて電化加熱器に更新されつつある。
「ですが日本人はそれに満足することなく、電磁力を利用して時速600km以上の速度で走行できる『リニアモーターカー』なるものも製作しています。技術の向上が著しいこともあって、現在でもなお実験が続けられているようですが、その度に新たな発見があるそうです」
ついでに言うと、日本はリニアモーターカーの実験のノウハウから空母の電磁カタパルトを製作することができたのだ。
聞いている閣僚たちは頭が痛くなってきた。
「では、日本はあのだだっ広い西の大陸にそんな鉄道を大量配備する計画でも立てているのか?」
「えぇ。飛行機や船だけでは追いつかない陸路に関しては鉄道も併用することこそが効率が良いようですね……電化することによって車両そのものから有害ガスが発生しにくくなるという利点もありますから、その点も重視しているようです」
以前にも記載したと思うが、アメリカ大陸には恐竜のような大型生物が多数生息しているため、それに配慮した造りにしないといけないのだ。
例えば、恐竜が多数生息しているところでは線路を地下に造るなど。
「また、日本は島国であるが故に化石燃料などの資源に乏しく、常に燃料については悩まされていたそうです。なので、車を作る際にも『低燃費で航続距離の長い車』が重宝されたそうです。しかも、『狭く』『山や谷が多い』島国なので、どうしても大型の車は扱いにくいようですから、民間者から軍用車まで、多くの車が小型化・軽量化を求められています。これは我が国も取り入れるべき話であると愚考しております。なにせ、我が国も島国ですからな」
これも日本の伝統的な考え方で、もはや病気とすら言ってもよい。
『軽くしちゃう病』と言えば、多くの人が『あぁ……』と納得するだろう。
チハたん然り、夕張型軽巡洋艦然り、零式艦上戦闘機然りである。
「元々日本は様々な工芸品・工業製品において職人技を求めるのみならず、それを扱う者たちにも熟練の技を求めるような玄人向けのモノが多かったそうです。そういったことから、自分たちが作る製品のことになるととてもうるさくなるようです」
もっとも、それだけに伝統を大事にするという慣習から伝統を外れるようなことは苦手であったり、突発的な物事に対する柔軟性は薄かったりする一面もある。
あくまで一面だが。
また、それも現在となっては一部で薄れつつあり、それらの品質についても問われることが多くなってきているとは、筆者の思い込みだろうか。
「もっとも、それ故にいざ達人が日本人の造った兵器を扱う場合、とても便利で使い勝手が良かったそうでございます。特に日本の零式艦上戦闘機は、航空機を操る達人が使えばまるでこの世に二つとない聖剣の如き強さを発揮したそうでございます」
ただし、機体の強度が足りない部分があるので最高速での一撃離脱戦法は基本的に使えず、低速・低高度での格闘戦が主体であるところが強みであり反面弱みでもある。
他にも、三八式歩兵銃は故障が少なく戦後も海外の一部で猟銃として使われたという話もあれば、雪風、響といった各国への賠償艦も、性能の高さから砲弾の規格が合わなかったにもかかわらず重宝されたという伝説がある。
「我が国も国民そのものの質を大幅に上げなければ、日本に追いつくことはままなりますまい。なんとしても追いつき、いずれは追い越してみせるという気概を見せつけなければ」
このような会議はグランドラゴ王国のみならず、アヌビシャス神王国やフランシェスカ共和国など、日本の友好国でしょっちゅう開催されているのである。
私事ですが、遂に、遂にブラウザ版で提督デビューを果たしました‼……え、今更だって?
そう言わないで下さい。
始め方がよく分からなかったんです。
次回は11月の5日か6日に投稿しようと思います。