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魔装備戦闘機とヤバい武器、現る

今月1話目となります。

日本が本腰を入れて支援しているワスパニート王国……その支援の結果が少し見られます。

――西暦1750年 4月5日 ワスパニート王国 国境都市ハノカイ

 旧世界の地球におけるラオスと中国の国境付近に存在する、ワスパニート王国の国境都市ハノカイ。

 ここは常に蟻皇国と睨み合う日々が続いており、互いの基地に配属される兵士たちも練度の高い精鋭ばかりであった。

 そんなこの場所では、重要な街道沿いに王国の許可を得た陸上自衛隊の施設科部隊による工事が始まっていた。

 地勢的に、この基地を攻略しなければ、王国への侵入は難しいだろう、と言えるくらいの場所である。

 オーストラリア大陸に駐屯していた部隊及びガネーシェード神国に駐屯していた部隊も集結し、1万5千人を超える態勢で防空陣地と陸上部隊が駐屯可能な基地の建設に当たっている。

 なお、この基地は後にワスパニート王国に引き渡して使用されることを想定しており、使用する機器は現在の誘導弾を運用することを想定した最新鋭のものから、グレードダウン型のレーダーや誘導弾、アヌビシャス神王国で作られた88mm高射砲に素早く換装ができるように簡易設置状態となっている。

 電子機器類のシステムの交換も簡単なように設計されており、日本の苦心がうかがえる。

 また、対地攻撃にも用いることができるように対地レーダーとも連動させなければならない。

 おまけに、グレードダウンとはいえ基地に設置するタイプなのであまりバカみたいにグレードダウンさせることもできない。

 そんなこともあって、細かい微調整に苦労する日本側であった。

 いずれはアヌビシャス神王国が日本から輸入した砲身を用いて製作した12.7cm高射砲や神王国独自の88mm高射砲などに交換するのだ。

 そんな基地を守るのは、陸上自衛隊が用意した様々な種類の対空誘導弾と、基地内に設置された対空誘導弾垂直発射装置……の、設置途中の姿である。

 強力な03式中距離地対空誘導弾から、至近距離に対応するための11式短距離地対空誘導弾、基地周辺は93式近距離地対空誘導弾など、ミサイルでガチガチに固められている。

 残念なことに垂直発射装置は未設置なので、車載型の対空誘導弾頼りになってしまうが、数千機がサバクトビバッタの群れの如く一気に押し寄せてこない限りは現状でも防ぐことは可能である。

 さらにレーダーだけではなく目視による監視も怠っておらず、『OHー1』と『やんま型対戦車ヘリコプター』や、『ムシヒキアブ型攻撃ヘリコプター』も空を飛び、警戒を続けていた。

 また、原始的な方法ではあるが敵がアリのような特徴を持つ亜人種ということもあって、地中から侵入してくる可能性を考慮した自衛隊は、基地周辺に多数の地震計を埋めるという徹底ぶりであった。

 相手が穴を掘って侵入してこようものならば、当然のことながら地震計が平素とは違う波形パターンを示すからである。

 基地の外縁部には、蟻皇国軍が大軍で押し寄せてきたときに備えて、対地攻撃ができる、『M26ロケット弾』と同じ能力を持つクラスターロケット弾を発射できる大型ランチャーや、大軍を面制圧できる『ピストリークス』の主砲を転用・設置した『52口径155mm三連装砲』も多数が設置されているのだ。

 これらの対地攻撃兵器は基地外縁部の対地レーダーと連動しており、より敵の多い方へ攻撃を指向することが可能となっている。

 52口径155mm三連装砲については、対空レーダーとも連動しており近接信管搭載型の砲弾を発射することで対空戦闘にも用いることができるようになっている。

 どれもこれまでの日本からすると考えられなかった兵器ばかりだ。

 さらに、対空砲として近接信管を搭載したエリコン社製35mm連装機関砲多数や、ボフォース40mm機関砲多数が装備されている。

 これは、相手が『フェアリー ソードフィッシュ』レベルの複葉機を用いているために、ミサイル以外でも確実に敵を倒すための手段であった。

 なにせ、フェアリー ソードフィッシュと言えば、『速度が遅すぎて敵戦闘機が速度を合わせられずに失速してしまった』とか、『対空砲を撃ち込んでも遅すぎて時限信管が先に作動してしまう』などの伝説があるため、それに合わせられるように近接信管搭載型の対空機関砲が必要なのである。

 どれも設置にかかる労力は半端ではなく、現場の隊員たちは常にヒーヒー言っていた。

 中には、大陸から接収した亜人種の隊員もいて、人間種の隊員よりも素早く動き回っている。

 月月火水木金金と言われた旧海軍時代よりも、ある意味厳しい日程を組まされている自衛隊であった。

 ついでに言うと、現地の将兵や労働者たちも後に運用を覚えてもらうために設置やシステムの起動などを一緒にやってもらっている。

 教えながら設置する苦労は並大抵ではないが、後に使う存在のことまで考えたうえでのものばかりなので、誰も文句は言わない。

 だが、えてしてトラブルというものは起こるものである。

 真っ先に設置した対空レーダーに、多数の反応が映る。

「これは……敵機か‼」

 表示は『アンノウン』となっているため、敵味方識別装置を搭載していないことが分かる。

 日本が輸出した兵器は、歩兵が携行する兵器以外……つまり、『ヒルンドー型戦闘機』や『ピストリークス級巡洋艦』などの識別装置を必要とする兵器には全て搭載してあるため、これに反応がないということは敵である証拠だった。

「レーダーに感あり。北東より航空機の編隊接近中。現在基地より北東250kmのポイントを飛行中。総数30機。各自、ネットワーク徹底による目標の撃破をお願いします」

 その通信を受けて、高射特科部隊が次々と動き出す。

 基地の外を警備している近SAM部隊などは報告のあった方角へミサイルの発射筒を向け、敵の襲来に備えている。

 ちなみに、03式中距離地対空誘導弾は50km以上の射程を誇ると言われており、その誘導性能は、射程以外はあのパトリオットミサイル以上とも言われる傑作ミサイルなのだが、それだけに値段がかなり高い。

 なので、できれば虎の子として使わずにとっておきたいというのが派遣部隊司令部の考えであった。

 今回近づいてくる編隊について、隊員たちは考えをまとめる。

「30機か……威力偵察かな?」

「上層部は『できる限り中SAMは使うな』って言ってましたけど、どうなんですかね?」

 レーダーを監視しているシカの耳を持つ男性、鹿野芳樹2等空曹は先輩の明村幸二1等空曹に尋ねる。

「さぁな。まぁ、上としてはできる限り安い近SAMや短SAMで片づけてほしいんだろうな。戦後蟻皇国に要求するお金も少ない方がいいって考えているみたいだしな」

「戦後賠償金は面倒ですからね……」

 第一次世界大戦時にドイツが莫大な賠償金を取られたせいでハイパーインフレが起こり、世界恐慌の引き金(あくまで一因)になったことは、後の第二次世界大戦で日本が無条件降伏した際に賠償艦(特型駆逐艦『響』や陽炎型駆逐艦『雪風』など)は取られたにもかかわらず、ハイパーインフレを引き起こすほどの賠償金を取られていないということで連合軍側も懲りたのだということがうかがえる。

 地球史においては日本が転移するまで大々的な全面戦争が起こらなかったこともあり、この辺りがどうなるのかは不明瞭な部分もあるが、そもそも国連が組織としてきちんと動いていれば地域紛争の辺りで止められる可能性もある(実際には中露とそれ以外とで意見がかなり分かれるのでグダグダの有耶無耶になる可能性の方が高いが)。

「各ヘリ部隊は離陸し、基地上空を警戒せよ。繰り返す、各ヘリ部隊は離陸し、基地上空を警戒せよ」

 見れば、ハンガーの中から多数のヘリコプターが引っ張り出されてエンジン始動を始める。

 すると、中SAM2両が火を噴き始めた。

「始まりましたね」

『誘導弾、全弾目標に向けて飛翔中。着弾まで8、7、6、5、4、3、マーク、インターセプト!』

 直後、12の光点がレーダー上から消滅した。

「残数18機」

 すると、今度は基地外縁部の155mm三連装砲が敵の方向を向き、2基で一斉射撃を行なった。

「迎撃砲発射。着弾まで6、5、4、3、着弾、今‼」

 本来の155mm砲の着弾確認であれば『弾着、今』なのだが、今回は対空目標が相手なので区別する言い回しを新たに考案して用いている。

 そして、レーダー上の光点は味方のヘリ以外には全て消えた。

「アンノウン消滅。敵機ロスト。状況終了」

 滑走路を見れば、離陸していたヘリが何機かいたようで、素早く戻ってくる。

 ここは熱帯に近い環境のため、当然のことながら湿度がかなり高い。そのため、精密機器の多いヘリコプターは常に整備が欠かせないのだ。

 一度空へ飛び立とうものならば、数時間以上の整備を徹底的に行うのである。

「チクショー……滑走路はできてるっていうのに肝心の固定翼機がないなんてなぁ……」

「無理言うな。内陸までは現状の自衛隊機じゃロクに飛んでこれないって。『F―15』が増槽をフル装備してガネーシェード神国の基地から飛び立てば……ギリギリ行けるかもしれないけどさ、『Fー15』じゃ巡航ミサイル以外に今のところ対地攻撃能力もないから難しいよ」

「こんなことが後どんだけ続くんですかねぇ……」

「さぁな。少なくとも、敵が南下しようと考えるだけの戦力を削るまでだろうな」

 だが、明村は今口にしたことをふと思い出す。

「増槽フル装備か……待てよ、あれなら……一応具申してみるか」

 明村は想定される距離と必要になる戦闘機、そして兵装についてをレポートにまとめ始めた。



――2032年 4月7日 日本国 東京都 防衛省

 防衛大臣は、現地の隊員から上がってきた『戦闘機運用の可能性』の報告書を受け取って考えていた。

「これは……ちょうどいいかもしれないな」

「もしこれが正しければ、いい実戦経験になりますし、熱帯という電子機器類が苦手とする環境でどれほどの能力を発揮できるかも検証できるでしょう。かつて米軍も、ベトナム戦争において『Aー6』イントルーダーがレーダー機器の故障に悩まされたと言いますし」

「そうだな。よし、直ちに派遣できる戦力を捻出してくれ。途中までは各国ごとの基地を経由させろ」

「はっ。直ちに」

 防衛省は現地隊員の助言を受け入れ、必要な戦闘機の派遣と、必要な兵装の輸送経路を確認することにした。

 


――西暦1750年 5月25日 ワスパニート王国  国境都市ハノカイ

 陸上自衛隊の下に、航空自衛隊のパイロットと戦闘機、そして戦闘機に必要な兵装が次々と運び込まれている。

 それは対空誘導弾、対地誘導弾、さらに誘導爆弾に日本が新開発したクラスター爆弾・『霰空』も加わっている。

 この世界にはクラスター爆弾禁止条約がないことと、『まだ』それを提唱する段階ではないこともあって、日本はクラスター爆弾の製造を行なっていた。

 そして、ハンガーの中には大きな戦闘機が駐機されていた。

 その機体……『Fー6』は、これまでの日本戦闘機が装備していなかったカナード翼が装備されていることが大きな特徴である。

 元々『Fー3』がステルス戦闘機であり、旧世界のアメリカ同様に3タイプを作っても値段が高騰したことを受けて、本土防衛のために製造することが決定したマルチロール戦闘機であった。

 いわゆる『Fー2』戦闘機の真の意味での後継機である。

 形状的モデルは『Fー4EJ改』とユーロファイター・タイフーンを足して2で割ったようなデザインとなっており、ユーロファイター同様に対空・対艦・対地攻撃の全てをこなせるようにと考えられている。

 開発資金・製造資金を抑えるためにステルス性能はハナから度外視して作られているので、ボディも頑丈性と長寿命を意識した素材となっている。

 とはいえ、そこは日本らしく複合素材も随所に盛り込むことで、本家ユーロファイターと比較すると5%ほどの軽量化に成功している。

 そしてカナード翼に加えて推力変更ノズルを装備していることで、本家ユーロファイター以上の非常に高い運動性能を誇る。

 なにより注目すべきは、巨鳥及びワイバーンの体内に存在する『反重力器官』と呼ばれる生体器官に機器を接続・生体と同じ電気信号を流すことによって反重力波を発生させる『反重力装置』の本格搭載である。

 これを用いて兵器を運用することを想定しているため、装備するパイロンはかなり変態的な形状となっている。

 レーダーも国産の最新鋭AESAレーダーを搭載することによって、対空目標であれば一度に16の目標へ、対艦目標であれば『ASMー2』の場合一度に8発、『ASMー3』でもパイロンを変更することで4発は同時に運用可能となっている。

 対地目標でも既存の誘導弾及び爆弾やクラスター爆弾に加えて、重要施設攻撃のために開発された誘導可能な地中貫通爆弾『黄泉平坂』を最大4発搭載可能としている。

 この反重力装置が搭載できたことにより、1つのパイロンに2発の対艦ミサイルや超大型爆弾などを搭載しても離陸できるようになるため、『Fー2』とは比較にならない搭載量と航続距離となっている。

 これにより、ユーロファイター以上の搭載量ながら航続距離の延伸及び機動力向上、さらに加速能力上昇に成功した。

 もし装備を付けていない状態ならば超音速巡行も可能となっているが、増槽をフルに4つ装備することで、『反重力器官』の能力も合わせれば6千km以上の巡航が可能となる。

 爆撃能力という点ではJDAMやLJDAMだけではなく、先述の地中貫通爆弾も使用可能となっているため、取れる戦術の幅は大きく向上している。

 ちなみにエンジンは双発で最高速度マッハ2.2を叩き出す。

 また、航空自衛隊に配備されるため、陸上機オンリーとなる。

 非公式のあだ名は『疾風』である。これは、日本が転移してから4種類目の戦闘機開発(FTー4、Fー3、Fー5に続いて)ということなので、大日本帝国時代・四式戦闘機『疾風』にあやかった物である。

 もっとも、『疾風』は制空戦闘機なのに対してこの『Fー6』はマルチロール機であるのだが、ミリオタじゃない日本人は細かいことは気にしていなかった。

 この『Fー6』を、全部で25機配備している。

 また、記載されている地中貫通爆弾の概要は以下となる。



地中貫通爆弾『黄泉平坂よもつひらさか

 旧世界でアメリカが運用していたペイブウェイ誘導爆弾システムを研究して『Fー6』に搭載することが決定した地中貫通爆弾。

 この地中貫通爆弾は、弾体に旧世界でアメリカが203mm砲の砲身を流用して製造したことを受けて、日本が国産155mm砲の砲身を流用して製造した兵器である。

 中には250kgのトリトナールを詰めている。

 オリジナルである『GBUー28/B』に比べると弾体が小さいので威力は少々低いが、その代わり胴体下にしか装備できなかったGBUー28/Bと異なり、翼下パイロンにも装備可能となっている。

 しかも、日本が実験的に反重力装置を研究して応用、『加重力装置』を作ったことにより、落下速度の上昇による貫通能力が2m増加した。

 普通の地面でも30m以上潜り込み、コンクリートであれば厚さ5mから7mを貫通できる。

 潜り込むための時間を確保するため、遅延信管を使用しているが、信管はGBUー28/Bを参考に尾部に搭載している。

 名前の由来は『黄泉の国に通じる道をこじ開ける』ほどの威力という想いを込めてのもので、公募した結果これが採用された。



 日本としても短期決戦を望んでいる(そもそも長期戦になると日本は現代においても輸送能力の都合上、非常に弱い)ため、制空権を確保できるならと派遣されることになった『ACー3』も5機到着している。

 これにより、蟻皇国の南部に存在するワスパニート王国侵攻のための前線基地を完全に更地にするつもりであった。

 日本の容赦のなさを見たワスパニート人は完全にドン引きである。

「これ……全部蟻皇国にぶち込む気かな?」

「でなけりゃこんなとんでもないもの持ち込んだりしないわよねぇ……」

「日本が味方で良かったわ(ガクブル)……」

「今後も日本人には優しくしましょー……」

 男女問わずに体だけでなく羽もブルブルと震わせており、まるで熊を威嚇するシバリングをしているように見える。

 次々と運び込まれる兵器弾薬類は、まだまだ増える。

 日本はこれらを続けて使用することで、立ち直れないほどの打撃を蟻皇国に与えるつもりである。

 日本の準備は進む。



同日  蟻皇国  軍務局

 この日、軍務局では海軍の受けた大損害を補填するべく多くの人員が動き回っていた。

「なに!? 新造戦艦の竣工が遅れてる!? なんとしてでも納期に間に合わせろ! でなければ皇帝陛下の名のもとに粛清だぞ‼」

「新型戦闘機の開発が上手く行かないだと!? いかないじゃなくていかせるんだ‼ このままじゃ制空権がないままだぞ! イエティスク帝国が攻め込んできたらどうする‼」

「当面は北方の飛行隊を南部に配置することでなんとか凌げ‼ なに? 暑さに慣れてないから性能を発揮できない可能性があるだと? 慣れろ‼」

 とまぁ、この通り地獄絵図の如き忙しさであった。

 青年将校の1人、李崑頑は頭を抱えていた。

 彼ら若手の青年将校が中心となって現在の蟻皇国の軍備を握っているのだが、生産体制も大幅に高めているため、武器弾薬は途切れないようになっている。

 少なくとも、これまでのワスパニート王国単体が相手であれば、亜熱帯の気候と地の利を活かされて少なくない損害は出ただろうが、機甲戦力を含めた数の差で押し潰してフィリップ島を占拠することは十分に可能だったはず。

 しかし、日本という国が参戦してきたと聞いてからあっという間に状況が変わってしまった。

 フィリップ島に向かった100隻を超える史上最大の大艦隊……具体的には、北方の守備艦隊を除いた、動員できるほぼ全ての艦を投入したにもかかわらず、敵に損害を与えたという報告もないままに全てが連絡を絶った。

 それがなにを意味するか……つまり、全艦撃沈されたということに他ならない。

 現在の蟻皇国が配備している無線通信の効力はわずか50kmしかなく、海軍は右往左往しながら基地への通信を送ることができていなかったのだ。

 モールス信号通信であればもっと距離は長いのだが、各艦が混乱している間の出来事だったこともあり、誰も正確な情報を司令部に伝えられていなかったのである。

「くぅ……せめてどのようにして全滅したかが分かれば対策の立てようもあるのだが……なにも分からぬとあってはどうしようもないではないか……」

「大校、空軍から操縦者の育成がまだまだ上手く行っていないという報告が上がっています」

「海軍に関しても、5万人を超える死者を出したこともあってすっかり及び腰になっております。」

「陸軍に至っては『地続きじゃなきゃ行かねーぞバーカ!』と言わんばかりの文句ばかりでして……」

「ぐぬぬ……海軍と航空戦力の損耗が激し過ぎる……陸軍も揚陸部隊5千以上が失われている……」

 陸軍の全体(総勢70万人超え)からすれば雀の涙ほどの人数ではあるが、元々仲の良くない陸軍を説得しての派遣部隊だったので、その部隊を失った陸軍はすっかり怒り心頭なのである。

 海軍がなにを言っても『陸軍は海軍の言うことに反対である』と言わんばかりにヘソを曲げてしまっているのだ。

「そういえば、南部前線基地から威力偵察のために出撃した30機の剣魚も行方をくらましたとか……」

 つい先日の中SAMと対空砲弾に撃墜された編隊のことである。

「はい。基地を出発してしばらくは連絡があったそうですが、『正体不明の攻撃を受けている』という連絡を最後に……」

「くそったれぇ‼」

 なにも分からない、では経験則で語ることもできないため、対策もなにも立てられない。

 建設的な意見が出ない会議では、ただただ虚しい時間が過ぎていくだけである。

「失礼します‼」

「どうした?」

 男は、偵察部隊の伝令であった。

「はっ。偵察部隊の報告によりますと、ワスパニート王国国境基地付近に別の基地ができあがっているのを確認したそうです」

「別の基地?」

「その基地なのですが……白地に赤い丸の旗が上がっていました」

「それは……日本国の旗ではないのかッ‼」

 伝令が頷くと、李は『やはりそうかッ‼』と悔しそうに地団太を踏んだ。

「日本国ッ……奴らが出てきてから全てが狂ってしまった……こうなれば……ありったけの剣魚と爆撃機をかき集めて空から日本の基地に猛攻を加えるのだ‼ 陸軍と空軍によって日本を撤退させることができなければ、フィリップ島攻略など夢のまた夢だぞ‼」

「で、では……」

「陸軍にも通達だ。空軍と陸軍を招集し、日本の作り上げた基地へ全力を以て攻め込むのだ」

「陸軍が承知するでしょうか……?」

「うぅむ……それもそうだな」

「まずは陸軍を説得する必要があるな……仕方ない。陛下にお願いして、勅命を出していただくしかないな」

「陛下は最近少々やつれておられますが……まさか、大敗北の報を聞いて心労を患ってらっしゃるのではないだろうな?」

 確かにそうなのだが、元は軍部がクーデターを起こして実権を握ったことをずっと気に病んでいるため、その影響の方が大きい。

 そして、それに気づいていないのが現在の軍部における最大の問題であった。

「なんとか陛下にお願い申し上げるほかあるまい。我々が頭を下げよう」

 もっとも、それで皇帝に対する忠義心は下手な軍人や政治家よりも遥かに高いため、尚のこと質が悪いのだ。

 蟻皇国の不幸な点は、皇帝の気が弱く、彼ら軍部に対して強気に出られないということによって混乱に拍車がかかったままの状態という点であろう。

 日本がそれを知れば、過去の自分たちのことを思い出し、苦い顔をするに違いないだろう。

 衝突は近い。

今月はこのようになりました。

現実はウクライナのことでかなり物騒になっておりますが、どうにか平穏無事に過ごしたいものです。

艦これアーケードは梅雨モードに入り、早速夕立の改二ゲット……と思ったら祥鳳姐さん追加!

手に入れたいですねぇ……。

また、『転生特典に艦隊もらったけど、クセのあるやつばっかり‼』も引き続き連載しておりますので、よろしくお願いいたします。


次回は7月の9日か10日に投稿しようと思います。

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