笠を……傘をくれっ‼
今月の投稿となります。
今後どうなっていくのかを決める閣僚を中心とした会議です。
――2032年 2月27日 日本国 東京都 首相官邸
首相官邸ではこの日、昨日ワスパニート王国において発生した第二次フィリップ島沖海戦に関する報告を防衛省から受けていた。
会議には閣僚たちに加えて、各省庁の幹部たちも勢揃いしている。
もはや新世界における軍事情報は、農林水産省や国土交通省のような省庁も無関係とは言えない状態にあるのだ。
ただでさえ足りていない人員に加えて、法整備や兵器の輸出に関する整備も追いついていない状態で、日本全体の景気は良くなっているものの、どこもかしこも余裕がないという状態。
そんな中で戦乱が相次いで発生しているため、気が休まらないのである。
そんな疲れ切った顔をしている省庁の幹部も含めた人々が防衛省幹部の報告を待っていた。
防衛省の幹部が前へ立つと、プロジェクターを操作して画面を表示する。
「昨日午後2時過ぎに、海上自衛隊の偵察機が敵艦隊を捕捉しました。予想通りワスパニート王国のフィリップ島……旧世界で言うところのフィリピンに向かう予定だったようです。敵艦隊の総数は揚陸艦を含めて124隻であったと考えられます」
明治時代末期から大正時代レベルという技術水準から考えると、その艦隊の圧倒的な『数』に思わず『おぉ』という声が漏れる閣僚たちであった。
日露戦争時のバルチック艦隊でさえ、補給艦などを含めても100に満たなかったのだから当然と言えば当然である。
蟻皇国は予想以上に高い兵器生産能力を有しているようである。
文科相などの技術方面にもそれなりに明るい人物は冷や汗を流している。
少なくとも、同じ地球の歴史で近代艦艇による100を超える大艦隊というのはほとんど存在しない。
旧世界の冷戦初期ソ連並の国力を誇ると考えられるイエティスク帝国はこれよりも強いというのだから、敵対することになった場合、苦戦とまでは言わずとも長期戦になる可能性がある。
対艦誘導弾による攻撃でも、対空誘導弾によって多少は防がれる可能性がある、と言えばその能力が知れる。
これだけの能力を有している国が、これまた支配国土の大きい相手の、規模的には一国と言ってもよい領土を狙って行動を起こしたというスケールの大きさに、地球では考えられない話だと改めて認識を改める閣僚たちだった。
そんな閣僚たちの様子を横目に見ながら、防衛省の幹部は続けた。
「海上自衛隊第4護衛隊群所属航空護衛艦『かつらぎ』から発艦しました無人偵察機兼警告機、『RQー3』による警告の際に相手艦隊より対空砲の発砲を確認しましたので、これを以て攻撃の合図としました」
閣僚たちがため息を漏らす。
どうもこの世界の人間は種族によって好戦的かそうでないかというのがかなり極端なようである。
蟻人族と蜂人族も、ハチとアリという親戚に近い種族(どちらも膜翅目という目に属している、『社会生活を営む昆虫』である)から作られている割には、性格が天と地ほどに違い過ぎる。
逆に近いという意味ではフランシェスカ共和国のエルフ族とアヌビシャス神王国のダークエルフ族はどちらも穏やかで平和的な種族なのだが、日本としては穏やかな環境と困難な環境という極端な場所で育ったことが原因ではないかと推測している。
それはさておき、画面が切り替わって『むさし』のスクリーン映像へと変わる。
「同護衛隊群所属砲撃護衛艦『むさし』は、偵察機の情報を入手してから20分後、敵が150kmにまで迫ったところで攻撃を開始しました。なお、この際に使用した砲弾は、以前から試験をしていたレーダー誘導砲弾であります」
画面の端に『レーダー誘導砲弾』の名前とその効果が映し出される。
『RQー3』のレーダー波によって誘導される、強力な兵器だ。
ちなみに今は『やまと』型の46cm砲弾しか製造していないが、これをサイズダウンすることができれば、155mm榴弾砲や127mm砲に応用したいとも考えている防衛省と防衛装備庁であった。
以前実験された127mm砲用の誘導砲弾はロケット砲弾であるため、ラムジェットエンジン搭載型のこの砲弾とは方式が一部異なるので一つ。
これらに応用がきけば、地上攻撃のみならず、弱い能力を持つ艦艇を攻撃する時にも大きく役に立つだろうと考えたためである。
文科相が『確か……』と言いながら手を挙げた。
「戦艦大和のような超弩級戦艦や、それより大きな『ニミッツ級』のような10万t級の航空母艦を狙う想定で作られた砲弾だとのことですが……ちゃんと機能しましたか?」
「はい。まず狙ったのは艦隊の後方に位置していた空母8隻です。まずこちらには一撃で全弾命中・撃沈いたしました」
これに関しては、相手の空母がダメージコントロールの概念も薄い頃のもので、艦載機及び爆弾などが未使用の状態で残っていて、船の燃料以外はほぼ満載状態であったことも大きい。
命中した砲弾の爆発に、燃料を含めて勢いよく誘爆して大爆発を起こしたのだ。
まさしく『轟沈』という言葉が似合うほどの早さだったという。
「なお、この海戦が終了するまで敵空母の艦載機がわずかに残っておりましたが、燃料不足を起こしたらしく全機不時着水しております。なお、艦載機のパイロットは全員無事でしたので救助しております」
「まぁ、仕方あるまい。第二次世界大戦時の……フェアリーソードフィッシュに近いなら、下手なことをするよりはその方が生存しやすいだろうしな。で、肝心の戦艦への攻撃はどうだった?」
「はい。次の弩級戦艦8隻ですが、こちらも艦の中心部に命中し、一撃で撃沈しております。直後の衛星写真から、機関部が大爆発を起こして真っ二つになって轟沈する様子が見えました」
仮にも『戦艦』と名が付く兵器を一撃で沈めた、という辺りに、かつて世界最強の戦艦を生んだ国の子孫たる閣僚たちはなんとも言えぬロマンを覚えていた。
やはり、戦艦は良くも悪くも『男のロマン』なのだろう。
「弩級戦艦8隻、そして前弩級戦艦……第二次大戦基準で言えば重巡と言うべきなのでしょうが、これを12隻撃沈、その後装甲巡洋艦、軽巡洋艦を全て撃沈しました。なお、この際に劉氏という戦艦の艦長という人物を救助し、蟻皇国の情報を得ようと現在尋問中です」
少しでも生存者がいるというのは日本人にとってはなんとなくホッとする話であった。
「しかしその中で、こちらがなにもしていないにもかかわらず敵がレーダー上からロストする事態が起きました」
なにかレーダーの不都合でも発生したのかと身構える閣僚たちだが、その懸念は次の防衛省幹部の言葉で吹き消された。
「直前の衛星写真が届いております。ご覧ください」
衛星写真が切り替わると、拡大された写真には装甲巡洋艦に激突されて真っ二つになった駆逐艦の写真があった。
「これは……」
「真上から見ているモノなのでわかりにくいと思いますが、恐らく装甲巡洋艦に衝突された駆逐艦が衝角によって寸断されて沈没したものと考えられます。なお、この後こういった事例が数件ほど確認されました」
「どういうことだ?」
「恐らくですが、音速を超えていたので『その時』には聞こえなかったとは思いますが、『次々と』砲弾が落ちてくる『音』は聞こえていたものと考えられます。そんな状況で、『どこから攻撃されるかわからないまま上空を見続けて操舵していた』のではないかと。それによって僚艦との距離感を見誤って衝突した、ということではないかと推測しております」
船は急に曲がれないので、『気づいた時には手遅れだった』という奴である。
「ちょっとお粗末すぎやしないか?」
「射程150km以上の攻撃なんて、明治末期から大正時代くらいの水準の彼らの概念からすれば存在しないだろうからな。超高空からの攻撃とでも勘違いしたのかもしれんな」
首相が半ば当てずっぽうで言ったこの推測は、実は大当たりである。
上空から落ちてくる超高速の砲弾を超空からの大重量爆弾による爆撃と勘違いした結果、対空警戒ばかりで僚艦との距離を測ることすら疎かにさせてしまっていたのだ。
航空雷撃による効果が確認されるまでは、『戦艦は航空機では沈まない』という考え方が広まっていたという話もある。
航空機が発達し始めた頃にアメリカで戦艦を爆撃で沈めたという実験があったが、『相手が標的艦だった』、『なんの抵抗もないわけではないから、やはり沈めるのは難しい』と考えられていたという。
それを大きく覆したのがイギリスによるタラント港空襲と、日本の機動部隊による真珠湾攻撃、より正確を期すならば日本軍の陸攻部隊によるマレー沖海戦における巡洋戦艦レパルスとプリンス・オブ・ウェールズの撃沈だったわけだが。
また、弩級戦艦レベルであれば、独ソ戦においてかのドイツの戦車殺しことハンス・ウルリッヒ・ルーデルが、ソ連の弩級戦艦であるガングート級戦艦『マラート』に1t爆弾の急降下爆撃を見舞って大破着底させている話もある(ただし、その後マラートは浮揚・修理されて自走海上砲台となり、戦後1956年まで練習艦として使用されたという強運の持ち主でもあった)。
「そして巡洋艦を全艦撃沈したところで、距離が50kmを切りましたので、誘導砲弾は使用不可能になりました。その後、敵との距離が20kmを切ったところで通常弾による砲撃を開始し、駆逐艦、そして残っていた揚陸艦を全艦撃沈しました」
あっさり言っているように聞こえるが、残存艦だけでも50隻近くの艦隊、しかも増速して20ノット以上の速度で『むさし』に向かっていた、細長く小型の駆逐艦と揚陸艦を、全て撃沈したというのだ。
閣僚たちは改めてその事実がいかに凄まじい戦果であるかを再認識すると、『うぅむ』と唸るのだった。
「なお、『むさし』は現在ワスパニート王国の首都メコミンにある港湾部に第4護衛隊群と共に戻り、簡単な整備と点検を行なっております。統幕では艦隊を全滅させたところで動きを見る、という方針でしたので、現在は統幕の指示待ちとなります」
「ご苦労だった。今後のことは外交にも関わるため、我々でもしっかり議論することにしよう」
「はっ。では私はこれで失礼いたします」
防衛省の幹部が出ていくと、閣僚たちは顔を突き合わせて話し始める。
「さて、ひとまず敵が保有している艦隊の7割近くを打ち倒すことができた。これで海上戦力による侵攻はほぼないだろうと考えられるが……敵は今後どのような戦い方をしてくると思う?」
これには専門家である防衛相が答える。
「恐らく、陸上戦力と航空戦力を併せてなにかしらの軍事行動を見せるでしょう。正確には、『そうするだけの力がある』と示そうとするのではないかと」
要するに、完全に侵攻することはできなくとも『弱い』と思われないように虚勢を張るのではないか、ということだ。
少なくとも、イエティスク帝国という覇権国家が背後に控えているのであれば、彼の国の侵略を許さないためにもそのくらいのことはやりそうである。
「その可能性は十分にあるな……だとすると、こちらもやはり陸自を派遣して防衛できるという姿勢を見せなければならなくなるが……王国に戦車を輸出しているアヌビシャス神王国の動きは?」
「はい。現在新たな『デセルタ』と『コルリス』を輸送しているようですので、もう2週間もすれば到着するのではないかと。また、歩兵支援に使えないかと大口径の榴弾砲を搭載した支援車両も作ろうという動きがありますね」
アヌビシャス神王国が製造しているのは『Ⅲ号戦車』モドキと『Ⅲ号突撃砲』モドキなので、それらの車体を参考にした車両になるかもしれない。
具体的には、『slG33B突撃歩兵砲』という兵器が存在する。
元々はスターリングラード戦への投入を前提に開発されたもので、Ⅲ号突撃砲E型の車台に15cm重歩兵砲『slG33』を装備した密閉式戦闘室の自走砲である。
今の彼らの能力で作ろうと考えて、現在の生産ラインを転用できるという意味で効率がいいのはこれではないかと考えられる。
あるいは、発展性が高いという意味でⅣ号戦車に近いモノでも作られるかもしれないと閣僚たちはロマンに思いを馳せる。
そんな彼らの思考をぶった切るように、防衛省の幹部が続けた。
「ただ、新兵の訓練などもあるそうですので、制式配備とするには……」
「まだ時間がかかる、か」
日本としては外交官を送り込むことでなんとか時間稼ぎをしたかったのだが、その間もなく蟻皇国が船を動かそうと艦を南方の香港に集結させつつあるのを知ったため、戦時状態の国に外交官を送り込むというわけにもいかず、今回の護衛隊群の派遣となった。
これまでの日本であれば野党及び左翼系列からの非難轟々は避けられなかっただろうが、だいぶん右傾化してきた今の日本では文句を言う者は少ない。
なので、この判断も即決で下すことができた。
「こちらは『数』が少ないからできればグランドラゴ王国やアヌビシャス神王国の支援も欲しいが……やむを得ないな。やはり陸上自衛隊を派遣しよう。ワスパニート王国の空港は?」
「まだ滑走路ができたばかりで、とてもジェット機の離発着は不可能です。本格的に空港として使えるようになるまで、あと3週間はかかります。なにより、首都メコミンの空港からでは対潜哨戒機や輸送機ならともかく、戦闘機の航続距離が圧倒的に足りませんよ」
「C-2やC-3はどうだ? あれには不整地離着陸能力があっただろう? あれで必要な物資を一気に輸送すれば……」
「それも無理です。エルメリス王国の時には旧時代の遺産を活用できたのでかなり早く済みましたが……ハッキリ言って付近の森林などの開発を考えると、もうしばらくは……」
「難しいか」
「申し訳ありません。オスプレイやヘリコプターでは航続距離も足りませんし……一番確実なのは船舶による輸送ですね」
『Cー2』などの大型輸送機も使えないため、現状における輸送は全て海路となるのは仕方がない。
まだまだ自衛隊の輸送能力不足は解消できないようだ。
「そうか。それがあったな」
国交相の言葉に苦い顔をする首相だが、こうなると陸上自衛隊に配備している様々な対空誘導弾を用いるしかない。
「陸自に派遣用意の通達を。今回は不整地が多いから機甲戦力は『10式戦車』を中心にするようにともな」
「はっ。国交相、すみませんが現地の地勢データを……」
「はい。少し待っててくださいな」
閣僚たちもそれぞれにできることで平和のために協力し合うのだった。
――2032年 2月28日 日本国 防衛省 統合幕僚部
こちらでは防衛省の幹部たちが派遣するべき車両、航空機に関する会議を行なっていた。
「では、今回は上空支援に空自が来ないと?」
「正確には『来られない』ですね。ワスパニート王国の空港設備がまだ完成していないので、航空戦力を持ってくることができないんですよ」
「空中給油機はどうだ?」
「そもそも一番近いガネーシェード神国の空港からもそれなりの距離がありますから、フェリー飛行を行なったとしてももう一度しなければならないし、それだけの編隊で長時間の飛行をするのはパイロットにとってもよくない」
「海自の空母はどうだ?」
「敵がミャンマーなどの北方部から侵入してくる場合、沿岸部に沿って侵攻してくるならともかく、内陸部から来られた場合はこちらも航続距離が足りません。護衛艦のミサイルも全く届きません。そのため、今回は陸自の保有する対空誘導弾が防空の要となります」
予想外の事態に、幹部たちは頭を抱えた。
「なんてこった。まさかここにきて空自の支援が受けられない状態に陥るとはな……」
「仕方ないですよ。ワスパニート王国と国交を結んでからまだそれほど時間が経っていませんし」
正直言って、技術格差があるとは言っても、戦闘機によるエアカバーがないのはかなり厳しい。
たとえ原始的な複葉機から落とされる小さな爆弾であろうとも、自走砲や装甲車はもちろんだが、当たり所が悪ければ現代戦車であろうとも行動不能にさせられるからだ。
機銃掃射も面倒である。
歩兵という存在は現代でこそ携帯型の地対空誘導弾が発達したこともあって昔ほどではないものの、やはり航空戦力には弱い。
「なので、今回は現地の重要な街道を押さえて防空しながら長期間張り付ける、なおかつ少数兵力でも運用可能な防衛用の駐屯地を建設し、それを以て敵航空部隊に当たるべきかと」
参考にしているのは、某門が開いて異世界へ自衛隊が派遣されるラノベに登場する、五稜郭のような駐屯地だ。
「なるほど……これならかなり守りやすいですね」
「では、この部分はこうして……」
こうして、派遣されることが決定した兵器は以下となる。
○10式戦車 20両
○16式機動戦闘車 30両
○中距離多目的誘導弾 20両
○軽装甲機動車 20両
○30式装輪装甲車(96式の後継。16式の車体を流用し、40mm機関砲を搭載。偵察車を兼ねる) 30両
○高機動車 15両
○偵察用オートバイ 15台
○19式155mm装輪榴弾砲 20両
○多連装ロケットシステム(MLRS) 15両
○93式近距離地対空誘導弾 30両
○11式短距離地対空誘導弾 20両
○87式自走高射機関砲 10両
○『やんま』型対戦車ヘリコプター 20機
○『ムシヒキアブ』型戦闘ヘリコプター 30機
これは、ニュートリーヌ皇国へ対する派遣よりもかなり多い。
普通科の携行する兵器にも『91式携帯地対空誘導弾』や『84mm無反動砲』、さらに『01式軽対戦車誘導弾』に120mm、81mmの迫撃砲など、『人間が操る車両や航空機』に対処しやすい兵器が大量に盛り込まれている。
ちなみに、ここに登場している『ムシヒキアブ』型戦闘ヘリコプターは、米軍の『AHー1Z』ヴァイパーを参考に自衛隊の運用に見合うヘリとして改設計し製造し始めたものである。
なぜこんなものが登場したか。
それは、『やんま』の値段がアパッチ同様にやはり高かったことと、『重力操作器官を搭載した強力な戦闘ヘリが欲しい』という陸自及び水陸機動団の『おねだり』があったからである。
見た目だけがヴァイパーに似ているだけで、ほぼ別物と言ってもいい『ムシヒキアブ』だが、エンジンは日本製の強力な2000馬力タービンエンジンで、日本らしく『燃費の向上』と『軽量かつ頑丈な機体』を目標に作られている。
また、先述の通り『重力操作器官』を搭載しているため、速度と航続距離、燃費が向上している。
最大速度も360km、航続距離も800kmと、ヴァイパーより大幅に延びているのだ。
主砲は『AHー1S』時代と同じ20mm機関砲だが、弾丸の方にあれこれと手を加えてあるため、それほど問題はない。
さらにスタブウイングにはアパッチ同様に8発の撃ちっ放し対戦車誘導弾とロケット弾ポッドを2つ、さらに2発入り空対空誘導弾ポッド(23式軽SAM改良型)を両翼端に装備できるという、本家のヴァイパーにほぼ近い戦闘能力を発揮できる。
そしてなによりも大事なこととして、強力な防錆加工が施されていることがある。
これは元のヴァイパーも海兵隊の上空支援として運用されているから当然と言えば当然なのだが、日本でも島嶼防衛の観点からするとヴァイパーのような防錆加工は当然……むしろ必然と言える。
運動性能にもかなり手が加えられており、川崎重工業製の『OHー1』レベルの運動性能と、最新鋭の電子機器類を搭載することによる対地・対水上・対空における捜索能力を持つヘリコプターとなることも求められた結果、日本が得意としている『全部乗せ』と相成ったわけだ。
ちなみにこのネーミング、日本人の感覚からすれば、『空から忍び寄って頑丈な敵(なにせこのムシヒキアブという虫、『あの』スズメバチを仕留めることができる生物でもあるのだ)でも一撃で仕留める』という能力を持つムシヒキアブをイメージした結果こうなった。
一部の昆虫マニアがそういった熱い言葉と共に応募してきたのが防衛省及び防衛装備庁の目に留まったのである。
発表された当初こそ『ムシヒキアブってナニソレ?』という声も上がったが、その能力の高さ(特にスズメバチを仕留められるほどの実力)が知られると共に、その名前を提案したマニアにも称賛の声が上がったのだった。
また、『やんま』型対戦車ヘリコプターがスズメバチを空戦で下すほどの『オニヤンマ』から取られているのに対して、こちらの方が『廉価版』や『格下』のイメージを持たせたかった防衛省の思惑にも合致したと言える。
実際には、量産効果があるとはいえお値段が大幅に安くなるということはなかったのだが、それも仕方ないことだろう。
そして、今更ながら『虫の名前でいいのだろうか』と言い出す輩もいたが、『まぁ、いいんじゃないの』という状態で、多くの国民が受け入れつつある。
国によってだが、兵器に生物の名前を付けることなど珍しくもない。
ドイツのアニマルシリーズ然り、スウェーデンのグリペン(グリフォン)然りと、世界を見渡せば色々あるのだ。
そんな部隊を派遣することになった陸上自衛隊だが、実はここ最近、ようやく隊員に余裕ができている。
いや、この言い方は正確ではない。
どういうことかというと、ヨーロッパ方面と北アフリカはそのほとんどが日本の友好国となったため、戦力を駐留させておく必要がなくなったためであった。
今やヨーロッパで残っているのは、北のイエティスク帝国からの侵略を想定しているニュートリーヌ皇国駐屯地のみである。
かの国はいつイエティスク帝国に攻められるかわからない状態が続いていることもあり、防衛戦力の常駐を依頼してきたのだ。
その結果、日本の航空自衛隊から『Fー15J改』と、『Fー6』が3個飛行隊、『Aー1』飛竜による近接航空支援隊が1個飛行隊、さらに基地防空部隊が配備されている。
また、相手の基地を攻撃する能力を付与した『Fー15J改・EX』も配備されており、既存の対空誘導弾のみならず、日本が作り出した巡航ミサイル、『AGMー1』・天羽々斬こと『28式空対地巡航誘導弾』を2発装備できる改修を終えている。
簡単に言えば旧世界の米軍が配備していた『AGMー129』に酷似しており、全長6.35m、直径64cm、重量1250kg、射程3000kmという長大な射程を持つ巡航ミサイルだ。
既に日本は潜水艦・水上艦発射タイプも開発しており、そちらは『RGMー2』・武御雷こと『29式艦対地巡航誘導弾』と呼ばれている。
これに加えて、現在日本では超音速タイプや対艦攻撃可能なタイプなどを並行して開発中であり、技術者たちは寝る間も惜しんで勤しんでいる。
陸上自衛隊からも、敵の戦車の中には120mm砲と現代戦車に匹敵する口径の砲を持つ戦車がいるということから、旧式化しつつある(とはいえこの世界では一線級の能力を持つが)『90式戦車』の全てや、機動力と打撃力に長けた『16式機動戦闘車』を多数こちらに配備した。
他にも『87式偵察警戒車』や『89式装甲戦闘車』、『96式多目的誘導弾』などの、登場から30年以上経過した、しかし冷戦下で使用することを想定された兵器はかなりこちらに回されている。
これにより、フランシェスカ共和国やアヌビシャス神王国に駐屯していた部隊が次々と引き揚げてきたため、国内兵力には若干の余裕が出たのだ……あくまでこれまでの連戦続きの状態を除けば、の話であり、本音を言えば、本土防衛用の兵力は全くと言っていいほど足りないのだ。
それでも、いずれ戦争は終わらせることができると信じて自衛隊も日本政府も動いているのである。
……いかがだったでしょうか。
少ないか、多いかは判断次第……でも、相手がそれだけの水準を持った存在だというのは理解していただきたいですね。
pixivでの投稿も少しずつ広まっているみたいで嬉しいです。息抜きのつもりではありますが、手を抜いているつもりはないので。
次回は6月の11日か12日に投稿しようと思います。