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カトーリ村04

Previously on YazinTensei(前回までの野人転生は)


「君は女の子か」

「君の名前はパピーだ、これからよろしくな」

魂魄こんぱく契約?

「わふわふ」

 歩幅が小さいため、ちょこちょこと歩くパピーを見て癒されながら、村へ移動する。村が近付いてくると、パピーをフードの中に入れて隠した。


 カトーリ村の周囲は逆茂木が設置してあり、モンスターの侵入に備えていた。逆茂木は潮風にやられ、ボロボロでところどころ破損していた。


 ずいぶん長い間、修繕していないようだ。モンスターや盗賊の襲撃などのない、平和な村なのだろう。


 むしろ平和なときだからこそ、しっかり備える必要があると思うが、俺はうまい魚が食えればそれでいい。有事の備えを軽く見て、この村が崩壊したとしても知ったこっちゃない。


 ただ、村で揉めたときのために、逃走経路のチェックと、風化が進んで脆くなっていそうな場所を、記憶の隅に留めておく。


 村によって入村税を取ったり取らなかったりするが、カトーリ村はしっかりと徴収するようだ。領主への税になるのか、村長のポケットに入るのか、どちらにせよ少額なので大人しく支払った。


 門番に少額の金を支払い、うまい飯屋の情報を聞く。賄賂兼情報料だ。門番は、渡された額を見てしけてやがんなと、顔を歪ませた後、おすすめの飯屋を教えてくれた。


 小国家群の基準で考えると、大都市であるグラバースの衛兵などと違い、カトーリ村の門番はそこまで高圧的ではなかった。


 嫌なら入るなという強気な態度は、グラバースレベルの大都市以外では不可能だ。人が来なくなり一気に寂れてしまうからだ。


 それと、今の俺の恰好が如何いかにも貧乏冒険者といった風情なので、金を持っていないと判断されたと思われる。


 ゲイリーに革鎧をバッサリ斬られたのだが、新しい革鎧を買う暇がなかったので、革紐で無理やり縫い付けてある。


 革鎧にしてある、擬装用の汚し加工も手伝って、新しい鎧すら買えない貧乏冒険者に見える。貧乏人からはたいした金も取れないので、時間の無駄だと判断したのかもしれない。


 門番によると、この村には飯屋が二件あり、魚を仕入れに来た商人向けに、魚料理をメインに据えている店と、独身の村人向けに料理を作っている酒場兼食堂の二つがあるそうだ。


 俺の目当ては魚なので、門番に聞いた飯屋ヤコポという名の店に向かった。昼食にしてはまだ早い時間だったのか店に客は少なかった。


「いらっしゃいませ」

「らっしゃい!」


 給仕をしている中年の、おば、おねぇさんと厨房にいる男が呼び掛けてくる。


「おすすめの魚料理をお願いします。それと、動物を入店させることは出来ますか?」

「動物ですか?」

「ええ、狼の子供に懐かれたんです。しっかりと躾はしてあるので店を汚したりはしません。その子にも、ご飯を食べさせてあげたいと思いまして」

「あの……。姿が見えないんですけど」

「フードに入っています。パピーご挨拶なさい」


 俺がそう言うと、パピーは俺の肩に前足を乗せて、ぴょこんと顔をだした。


「わん!」

「まぁ、かわいい」


 パピーのかわいさにすっかりやられた給仕のおねぇさんの許可をもらい、パピーを膝の上に乗せる。厨房から漂って来るいい匂いにパピーもご機嫌なのか、尻尾がブンブン振られている。


 パピーを優しく撫でながら、料理が出来るのを待っていると、給仕のおねぇさんではなく、厨房にいた男が、直接料理を運んできた。


「当店自慢の蒸し魚とスープ、お待ち!」


 でかい魚を丸ごと香草と蒸したと思われる料理と、いい匂いのするスープがテーブルにおかれた。パンは普通の黒パンで美味しそうではなかったが、こんな物だろう。


 衛生概念が発達しているこの世界では、ちゃんとナイフやフォークを使ってご飯を食べる。


 粗野な冒険者などは、骨付き肉なんかを手づかみで食べる事はあるが、基本的には素手では食べない。


 俺は魚の香草蒸しから頂くことにする。まだ湯気が上がっている魚の身をフォークで崩し、ぱくりと食べる。


 口に入れた瞬間、香草の香りがふわりと口から鼻へと抜けていく。香草の香りに好き嫌いはあると思うが、この匂いは悪くない。魚の生臭さを完璧に抑えている。


 蒸された魚は程よく油が落ちていて、ヘルシーでありながら、ふんわりとした身はしっかりと旨味を蓄えている。噛むほど、口の中に旨味が広がり、俺を幸せにする。


 蒸されたことで骨からも旨味成分が抽出されていて、ジューシーな身にしっかりと旨味が広がっている。それに、干物では感じなかった魔素味マナミを感じる。


 香草の強い香りと、それに負けない、優しいながらもしっかりとした身の旨味。ジャンクフードのように脳を刺激する魔素味マナミの刺激。


 あまりの旨さに、味の産業革命や! みたいな台詞を言いそうになったのだが、微かな苦みを感じる。海塩のにがりの除去が不十分なのだろう。


 この苦みさえ無ければ完璧だったのになぁ。それでも充分うまいので俺的には満足だ。塩分の濃い食事を犬に与えると良くないのだが、回路パスを伝って、平気だよとパピーの感情が流れてくる。


 たしかに、この世界のモンスターは汚染された水源でも平気で水を飲んでいた。多少の塩分過多ぐらいなら平気なのかもしれない。


 パピーを信じて、ほぐした蒸し魚をスプーンに乗せ、パピーに食べさせる。お気に召したのか、もっと、もっと頂戴ちょうだいという感情が伝わってくる。


 嬉しそうに食べるパピーを見て目尻を下げていると、料理を持って来た料理人の親父もだらしない顔でパピーを見ていた。


 親父の顔をジーっと見ていると、俺の視線に気付いたのか、コホンと咳払いをして、厨房に戻って行った。


 あの親父もモフモフ好きなのかもしれない。悪い事をしたと思わなくもないが、あんなにじっと見られると食事がしにくい。


 店主夫婦と思われる二人を、さっそく魅了したパピーのかわいさが恐ろしい。そんな事を考えながら、料理に舌鼓を打った。


 スープも魚のアラから出汁を取っているのか、旨味成分たっぷりの美味しいスープだった。硬くてまずい黒パンも、このスープに浸せば美味しく食べられた。


 パピーと二人で食事を楽しみ、チップがわりに、少し多めに料金を払い、給仕のおねぇさんに尋ねた。


「この村で竜魚という魚が取れると聞いたのですが、食べる事はできますか?」

「それは難しいわね。滅多に取れないし、取れても領主様に献上するか、商人がすごい値段で買っていくから」

「漁師に依頼を出したら取ってきてくれるでしょうか?」

「それは無理ね。狙って取れる魚じゃないの。とても危険な魚で、死人がでたりもするし、依頼を受ける人はいないんじゃないかしら?」

「そうですか」


 竜魚の入手は困難らしい。俺がしょんぼりしていると、パピーが肩に前足を乗せて、顔をペロペロ舐めてきた。


 慰めてくれるのか、ありがとう。俺はパピーの頭を撫でると、パピーは嬉しそうに目を細めた。その姿を厨房から親父が羨ましそうに眺めていた。


 怖いよ親父。壁から少しだけ顔をだしてジーっとこっちを見るんじゃねぇ。ホラー映画かよ。


 しかし、竜魚は思った以上にレアだったみたいだ。狙って取れないとなると、どうしようもない。とりあえずこの村で一泊して、魚料理を食べつくしたら次の目的地に向かうか。


 竜魚は残念だが、魚料理はうまかった、パピーも喜んでいる。多少、値段は高かったが許容範囲だ。


 そう思っていると、気配察知に反応があった。3人がこっちに向かって走ってきている。そして、後ろにサイズの小さな反応が1人分。


 おそらく、あのクソガキだろう。せっかく楽しい気分だったのに最悪だぜ。そう思っていると、ツナギのような服を着た、ガラの悪い男3人が俺を囲む。


 そして、ゆっくりとクソガキがこっちに歩いて来た。


「ぼっちゃん、コイツですか?」

「そうだ! こいつがおれをいじめたんだ!」

「おいおい、いじめていたのはお前だろ?」

「うるさい! おれのとうちゃんはえらいんだ! むすこのおれもえらいんだぞ! さからうのか!」


 よく親の顔が見たいって言うけど、ここまで親の権力振りかざされるとなぁ。確かにどんな教育してんだ? と思い、顔が見たくなる。


「ぼっちゃんに逆らうたぁふてぇ野郎だ、たっぷりとお仕置きしてやらねぇとなぁ」

「へっへっへ」


 ガラの悪い男たちが嫌らしい笑みを浮かべながら近付いてくる。


「てめぇらがそんなだからあのクソガキが増長するんだ、ガキが間違った事をしたら叱るのが大人だろうが」


 俺は男たちを睨み殺気を飛ばす。


「っうるせぇ! ぼっちゃんに逆らった事を後悔するんだな」


 そう言うと、男たちが殴りかかってきた。

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