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ポール襲来

Previously on YazinTensei(前回までの野人転生は)


6級のタグが渡された。

薄暗く足場の悪い場所で追跡者を待ち受ける。

「俺に何か用か? ポール」

狂気を孕んだ表情を浮かべていた。

「久しぶりだなチビ」


 ポールはそう言うと、ニチャっとした笑みを浮かべる。以前の自信満々な表情ではなく、どこか壊れているような印象を受けた。


「人のことは名前で呼べよ、ポルポル君」

「てめぇ、状況が分かってねぇのか」


 ポールがそう言うと、周りの冒険者たちもニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべる。


「雑魚引き連れて偉そうにしてるが、そいつらが俺をどうこうできると思ってるのか?」


 俺が挑発すると、周りの冒険者たちが怒りの表情を浮かべる。小国家群の冒険者は単純で良いね、怒りで視野が狭くなってくれると色々楽になる。


「強がるなよチビ。4人相手じゃ勝てねぇだろ、たっぷりいたぶってやるぜ」

「ギルドの掟とやらはどうしたんだ? ボスの側近が掟破りなんて不味いんじゃないのか?」

「こんな森の中で誰が見てるってんだよ、それにお前は告げ口できなくなるんだから大丈夫だろ?」


 死人に口なしってことか。おそらくゲイリーも噛んでいるな。ゲイリーの目を()(くぐ)ってこいつらが独自に動いたとは思えない。


「おい、ポール。コイツをぶっ殺す前にアレを聞き出さねぇと」

「おっと、そうだったな。おめぇ、最近羽振りがいいそうじゃねぇか。俺たちにもその秘訣を教えてくれよ。お前がまともな手段で剣鹿(ソード・ディアー)を倒せるわけがねぇ。何か簡単な方法があるんだろ? 素直に吐けば楽に殺してやるよ」


 何言ってんだコイツ? 秘訣なんてねぇよ。あれか、見下してるチビの蛮族が俺たちが倒せない剣鹿(ソード・ディアー)を倒せるわけがない、何か簡単な方法があるに違いない。そんな風に思い込んでいるのかもしれない。


 何か方法があるに違いないと決めつけているから、そんな物はないと言っても信じない。ポールの野郎は俺のことを喜んで痛めつけるだろう。


 秘密などないのに秘密を吐けと、死ぬまで痛めつけられる最悪のパターンじゃねぇか。


「楽に殺すね……お前らが俺を殺す? 笑わせるぜ。俺に何もできずにボコられた雑魚と、雑魚の取り巻きじゃねぇか」

「ぶっ殺す!」


 キレたポールの取り巻きたちが、何の警戒もなくバラバラに襲い掛かってきた。


 俺は森の大木の陰に身を隠す。この場所は、木の根が張り巡らされていて足場が悪い。先頭の冒険者が足元に気を取られた瞬間、木の陰から飛び出し鉄のナイフを投げる。


「うおっ!」


 虚を突かれた冒険者に一気に詰め寄ると、左手の甲で金的をパンと跳ね上げながら右手でナイフを逆手で抜刀。金的を打たれ、動きの止まった冒険者の首筋にナイフを走らせる。


 横から別の冒険者が攻撃を仕掛けようとしているのが気配察知で分かった。動きや重心の位置から攻撃位置を割り出した俺は、木に向かって跳ぶ。


 タンと木を足場に軽く飛び、相手の斬撃をかわしながら空中で回し蹴りを放ち顎を打ち抜く。俺の立体的な動きに驚いていた冒険者は反応が遅れ、蹴りをまともにもらった。


 前のめりに膝から崩れ落ちる冒険者をそのまま置き去りに、着地と同時にポールへと走り出す。


 彼我の距離が近付き、ポールが剣で斬り付けようと構えた瞬間、左手で予備の黒鋼のナイフを抜き、ポールに投げ付ける。


 それと同時に、右手にあるハンティングナイフを逆手のまま、手を下から上に振り投げ付ける。


「なに!」


 武器をすべて投げるとは思っていなかったポールは虚を突かれ、左目を狙ったナイフは回避できたが、右の太腿にハンティングナイフが突き刺さる。


 逆手で重いハンティングナイフを投げると、投擲のスキルがあっても正確な狙いは出来ない。大雑把に太腿を狙ったがうまく刺さってくれた。


「死にやがれぇ」


 ポールはさらに接近する俺に斬撃を放つ。


 しかし、怪我と足場の悪さのせいで攻撃にキレがない。俺は斬撃に向かうようにさらに距離を詰め、ポールの腕を右手で受け流す。


 攻撃を受け流され、体勢を崩したポールのがら空きの脇腹に、肝臓打ち(リバーブロー)を突き刺した。


「ゲハァ」


 バキバキと肋骨が砕ける感触が左拳に伝わってくる。肝臓を打たれ、動きが止まったポールの左目に右手の親指を突き刺し、そのまま頭部を掴むと近くの木に叩きつけた。


 飛び散る血液と脳漿が俺の顔を濡らす。残り一人を見ると完全に怯えており、心が折れかけていた。


 ポールの死体に刺さっていたハンティングナイフを引き抜くと、右手に持ち残りの冒険者へと歩いていく。


「ひぃぃ」


 恐慌状態に(おちい)った冒険者は、やたら滅多に剣を振り回す。スキルの効果で軌道こそ綺麗だが、目線から何処を仕掛けるか丸わかりだった。


 あっさり懐に飛び込むと、踵で膝を打ち抜く。


「うぎゃああああ」


 冒険者の悲鳴が森の中に響いた。俺は間髪容れず武器を掴んでいた右腕を掴むと、捻り上げ肘を殴り破壊した。


「いでえぇえええ」


 のたうち回る冒険者の残りの腕と足を踏み砕く。涙と涎をまき散らしながら悲鳴を上げる冒険者を無視し、周囲を警戒しながら生き残りを確認。


 回し蹴りを当てた冒険者がまだ生きていたので止めを刺し、金目の物と投げたナイフを回収する。


 回収が終わった頃には、のたうち回っていた冒険者も多少落ち着いていた。 


「お前には色々聞きたいことがある。素直に話せば楽に死ねる」


 ナイフを見せつけながらそう言うと、冒険者は泣き叫びながら命乞いを始めた。血の匂いでモンスターが来るかもしれない、手早く済まそう。


 俺は泣き叫ぶ冒険者の小指を切り落とし言った。


「早く俺の質問に答えろ、指は後19本もある。次は潰してから切り落とす」


 そう言うと、冒険者は俺の質問に素直に答えてくれた。


 時間があれば嘘を言っていないか確認するため拷問を続けたのだが、モンスターの生息地域でのんびりと拷問などしていられない。




 冒険者の物資から水と綺麗な布を取り出し顔を洗う。血の匂いをなるべくごまかすため、ハーブを採取し体に擦り付けた。


 冒険者から回収した装備を担ぎ、モンスターを避けながら町へと向かった。帰還の途中、依頼の関係で何か獲物を仕留める必要がある。


 気配察知に反応があった、ラービという兎型のモンスターを一体仕留めた。


 殺した冒険者たちの装備を担いで門を通ると、衛兵が難癖をつけてきた。一番状態の良かった剣を賄賂として渡す。


 イラっと来たが、必要経費だと思い我慢した。


 回収した武器を店で売り、干し肉や固焼きパンなどを購入。買い物を終え、宿に戻った。装備の整備、夕飯、ストレッチ、水浴びといつもの手順をこなしてベッドに入る。


 拷問した冒険者の情報では、黒幕はゲイリー。


 俺が剣鹿(ソード・ディアー)を何体か納品していることを聞きつけ、何か秘密があると思いポールを(けしか)けた。


 秘密が聞き出せなくても俺の金を奪えるし、手下のポールの復讐にもなる。ゲイリーの顔を潰した俺への報復と利益狙いと言ったところか。


 何が冒険者の掟だ。結局、バレないところで殺すんじゃねぇか。腹が立つ、いっそ殺してやろうか? そんな考えが頭をよぎる。


 だめだ、アイツは常に取り巻きに囲まれている。殺してやりたいがリスクが高い。すぐにこの町を出た方が良いかもしれない。


 街道から外れて移動すれば、追跡者などのリスクから身を守れる。森での野営に慣れた俺なら、そうそう追跡者に捕捉されることもないだろう。


 もっとも、追跡者を放つほど何かをしたわけではない。労力に見合わないので、町を出たらそのまま放置されると思う。


 次の目的地は決めている。滞在期間は短かったが、6級冒険者にもなれた。そろそろ頃合いかもしれない。



 次の日、野営装備を購入するため、色々な店を見て回っていた。雨はたまにしか降らないが、防水のために油を染み込ませたテントを購入しようか迷っている。


 値段が高いのもあるが、火矢などを射かけられると大変なことになる。焚火から火の粉が飛んで火事になることもあるという。


 海にいるモンスターの革を使った防水テントは火にも強いが、値段が高すぎて手が出ない。


 いっそ、テントは止めて防水のクロークでも買うか? 色々と悩んでいると、急に衛兵に話しかけられた。


「そこのお前、冒険者のヤジンだな!」

「そうですが、何か御用ですか?」

「貴様には冒険者ポールの殺害容疑が掛かっている! 詰め所まで連行する、大人しく付いてこい!」


 俺にそう言ったのは、俺から金を巻き上げたカッスと呼ばれていた衛兵だった。

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