こっちのテンプレはいらねぇよ
Previously on YazinTensei(前回までの野人転生は)
グラバースの町へたどり着いた。
広さはロック・クリフ以上で町に活気がある。
「貴様は金貨1枚だ」
尻穴に隠すと言う方法。
屋台で肉の串焼きを買い、冒険者ギルドの場所を尋ねる。冒険者ギルドの性質上、門の近くにある場合が多い。
さすがに、門の目の前というわけにもいかないので、あくまで近いだけ。ガラの悪い冒険者を隔離する目的や、解体場の匂いの問題などがあるため、表通りから離れた場所にあることが多い。
初めて来た町の裏道を、時間を掛けて探索する気もなかった俺は、手っ取り早く屋台の親父に場所を聞いた。
しばらく歩くと冒険者ギルドの特徴的な看板が見えてきた。外観はロック・クリフの冒険者ギルドより綺麗だな。
ラノベ名物、美人受付嬢はいますかね。俺は全く期待せず、冒険者ギルドへと入った。
グラバースの冒険者ギルドは、清潔で食事スペースと受付などの業務を行う場所がしっかり区別されていた。ロック・クリフのように酒場のおまけにギルドがあるといった感じではない。
そして、受付に美人の女性がいる。
おおう、テンプレ来た! これは良いテンプレだ。サラサラの金髪に、ぱっちり二重の青色の瞳。くっきりした目鼻立ちの美人さんだった。
『可愛い』ではなく『美しい』と感じる、凛とした雰囲気の女性だ。
美人の受付嬢の前に冒険者の列ができており、隣でおっさんの受付が暇そうにしている。
ラノベのテンプレだとおっさんの方に並ぶのだが、目の保養は大事だ。俺も、美人受付嬢の列に並ぶ。
列が進み、俺の順番が回ってきた。美人受付嬢さんに話しかけようとしたら、急に横から別の冒険者が割り込んできた。
「エルマちゃん、この依頼お願い」
そして、何事も無かったかのように依頼票を渡そうとしている。こっちのテンプレはいらねぇよ。
これ、アレだろ。刑務所物の海外ドラマとかである、電話の順番割り込んだやつ注意しなかったせいで、あいつはちょっと脅すだけでなんでも言うことを聞く奴。
みたいな噂が流れて、徹底的に搾取されるようになるやつだろ。
「おい、割り込むな」
割り込んだ冒険者はチラリと俺を見た後、無視して受付嬢に話しかけ続ける。俺は無言で相手の膝を後ろから踏みつけ、無理やり片膝をつかせる。
すると頭の位置が下がるので、首に腕を回し、がっちり裸絞を決める。頸動脈を絞めながら、気配察知で周囲を探り、周りの冒険者が襲ってこないか警戒する。
8.9.10。10秒か。俺は意識を失った冒険者を適当に放り投げると、受付嬢に話しかけた。
「他所の町から来ました、手続きをお願いします」
気絶させた冒険者をきっちり始末したいところだが、さすがに初めて来た町の初めて入る冒険者ギルドで、10分も経たずに人を殺すのはまずい。
美人受付嬢は笑顔で俺の冒険者タグを受け取り、7の数字の焼き印を見て、スッと笑顔を消す。そしてゴミでも見るかのような冷たい目で俺を見た。
一部の人にはご褒美かもしれないが、心に刺さる。これは早急に5級に、せめて6級に昇級しないと、まともな冒険者扱いされない。
ギルドタグを回収した受付嬢は、この町のタグと交換してくれた。もちろん視線は冷たいままだ。その後、買取所の場所を尋ね向かう。
買取カウンターのおっちゃんにゴブリンの耳と剥いだ
「なぁ、にいちゃん。アンタ解体スキル持ちか?」
毛皮を受け取った買取所のおっちゃんがいきなり聞いてきた。冒険者のスキル構成は基本秘密だが、解体は戦闘に関係ないスキルだから別にいいか。
「ええ、持ってますよ」
「うちの解体所で働かねぇか? 最近一人辞めちまってよ。この毛皮も丁寧に処理されてるし、にいちゃんならすぐに正式採用されるぜ」
「お誘いは嬉しいのですが、冒険者をまだ続けたいので。解体が大変なら依頼を出していただければ受けますよ」
「本当か? 助かるぜ。最近の若ぇやつらは解体がめんどくさいってんで、荷車で丸ごと運ぶ奴が多いんだ。うちは解体料で儲かるからいいっちゃいいんだけどよ、こう忙しくちゃ」
正直、めんどくさいが、ギルドへのアピールになるし、解体スキルのレベルも上がるかもしれない。地道に仕事をこなして信用を手に入れないと。
査定が終わり、金を受け取る。ついでに、買取所のおっちゃんにおすすめの宿を聞く。そして、明日解体所を手伝う約束をして別れた。
ギルドから出ようと移動していると、さっき絞め落とした冒険者がずるずると引きずられていた。邪魔なので移動させられたのだろう。
扱いが雑だな。建物は綺麗でも、中身はやっぱり小国家群だ。あまりにも雑な対応に軽く引く。
しかし、犯罪者崩れが多い冒険者の扱いなど、ひどくて当然なのかもしれない。
俺は、買取所のおっちゃんに聞いた宿を目指して歩く。条件は個室で清潔で飯がうまいところだ。
しばらく歩くと、おっちゃんに紹介された宿、まんぷく亭に着いた。名前からして飯がうまそうだ。というか完全に飯屋の名前だよな。
「いらっしゃい、今日はラービのシチューがおすすめだよ!」
恰幅の良い女将が元気な声で話しかけてきた。ラービのシチューか、異世界だとテンプレっぽいよね。ちなみにラービとは兎のモンスターだ。
「一泊、おいくらですか?」
「夕食、朝食付きで銅貨30枚。飯を豪華にしたら銅貨40枚だよ」
せっかくだからうまい物を食いたい。
「飯を豪華にして、5泊お願いします」
俺はそう言って銀貨を二枚渡す。女将は受け取った金を確認した後、部屋番号を俺に伝えた。俺は部屋へと向かう。
部屋はベッドと小さなクローゼットのみで狭かったが、清潔だった。眠るだけならこれで上等だ。これで飯がうまかったら完璧だな。
俺は革鎧を外し、クローゼットにしまうと、ベッドに腰かけ、リラックスしながら頭を働かせる。
この世界のレベル上昇による身体能力の強化はすごい。今ならオリンピックのほとんどの種目でぶっちぎりで金メダルが取れるだろう。
だが、攻撃力の伸びに対して、防御力の伸びが低い気がする。それは防具などでカバーできるのだが、スタミナや肺活量などの伸びも低い気がする。
筋力は数倍になっているのに、息は長く止めていられない。以前の1.5倍といったところか。十分すごいのだが上昇幅が歪だ。生体反応からも逃れられない。
頸動脈を絞めると気絶するのは、脳への血液供給が遮断されるから。というのはよく知られている。
しかし、そのメカニズムが複雑なことは意外と知られていない。
脳に血液を送っている動脈は二つあり、頸動脈の血流を遮断しても、椎骨動脈から脳に血液が流れる。頸動脈の血流を遮断しても、即座に失神とはならないのだ。
では、なぜ失神するのかと言うと、
俺は、医者でもないし細かいことを記憶するのが苦手だから、雑になんとなくでしか覚えていないが、のどの左右にある、
そこを刺激すると、体が圧力が高いと勘違いしてしまう。その信号が神経を伝わり、心臓に圧力が高いから心拍数を押さえろと指令が行く。
実際には圧力は上がっていないので、圧力を下げると脳まで血液が届かなくなる。そういう回りくどく、複雑なメカニズムで失神している。
レベルが上がり、フィジカルが強化されても、その反射からは逃れられない。肉体は強化されているのに弱点はそのままにされているのだ。
神がわざと弱点を残しているように感じる。相手が格上でも、急所を攻撃すれば倒せるように、息を止めて窒息させられるように。
だが、上昇幅は低くても、能力が上昇するのは確かだ。がっちり裸絞を決めて、頸動脈を絞めると、大体4~7秒ぐらいで失神すると言われている。
もちろん個人差はある。だけど、俺の体感でもそのぐらいに感じる。
正確なデータを取るには、1000人は検証しないといけない。そうどこかで見た記憶があるのだが、実際に1000人も絞め落として検証するわけにもいかない。
話はそれてしまったが、頸動脈を締めると大体7秒以内に失神する。一般的にはそう考えればよい。
だが、今日絞め落とした冒険者は10秒もった。個人差もあるだろうが、こういう部分もレベルで強化されているのではないだろうか?
おそらく相手はレベル15だった。これがレベル50ぐらいの化け物になれば、数十秒は耐えられるのではないだろうか。
相手も抵抗する。そうなれば実質、絞め落とすのは不可能だ。レベルが上がれば完全無敵とは行かなくても、弱点はかなり薄くなるのかもしれない。
今後余裕があれば、絞め落とすまでの時間をカウントして検証してみよう。どうせ、明日には今日絞め落とされたヤツが復讐に来るのだから。
色々考えていると、頭が疲れてきた。腹減ったな、食事にしよう。串焼きを一本たべたが、昼食には全然足りていない。
夕飯は宿で食べるから、どこか別の店にしよう。そう思ったが、宿の食堂から良い匂いが漂ってくる。口の中に涎が溢れ、たまらない気分になる。
もう我慢できない、ここで食べよう。
食堂に行くと席はほとんど埋まっており、大盛況だった。これは味に期待ができるかもしれない。
空いている席に座り、女将のおすすめを注文して金を渡す。
「まんぷく定食おまち! 兄さん、冒険者だろ? しっかり食べて、モンスターからか弱い私たちを守っておくれよ」
女将はそう言うと、ボリュームたっぷりのパンとシチュー。蒸した野菜とステーキを置いていった。か弱いか、女将のたくましい二の腕を見る限り、ゴブリンぐらいなら素手で殺せそうだがな。
そう思ったが、おとなしく口を噤んでおく。
宿に入った時におすすめだと言っていた、ラービのシチューを見る。ホワイトシチューだ! この世界で初めて見る。
モンスターが徘徊するこの世界では、広い土地を必要とする畜産業が盛んではない。一部貴族向けの食品を作っている場所以外だと、余裕のある人が個人で細々とやっているのが現状だ。
当然、ミルク関係もめったに出回らない。本来なら高級品なのだが、町の定食屋といった感じのこの店で食べられるとは。さっそく、スプーンで一口飲んでみる。
ミルクの癖が全くないのに、旨味だけが舌にしっかり感じらえる。ミルクの味だけでなく、ラービの骨から取った出汁と野菜の旨味がミルクに溶け合い、しっかりと調和している。
骨と野菜の恋愛結婚やぁー、うん微妙だな。今日は調子が悪い。
さすがに浮雲亭レベルとは言わないが、この世界に来て食べた料理の中ではかなり上位にはいるうまさだった。
ボリュームも満点だし、コスパは最高だ。おいしい昼食を食べて満足した俺は、町の役所の図書館へ向かう。
しばらく歩き、図書館に到着。恐ろしく高い保証金(出る時に返してもらえる)と、高い入館料を支払い中へと入った。
この国とこの町の法律、それと冒険者ギルド規約を読むため図書館に来た。
大抵の場合、国と町の法律はほとんど同じだ。冒険者ギルドの規約も、ほとんどの国で共通している。
それでも、一応確認しておく。
アルと話していたとき、ゴンズがすぐに人を殺すのでトラブルが絶えない、法律を知っておけばかなり便利だ。そう言っていたのを思い出したからだ。
当然、権力者の前では簡単に法は捻じ曲げられる。だが、同業者である冒険者や冒険者ギルドの一般職員なんかに、法律は有効だ。
いちゃもんを付けられたら違法だと抗弁できるし、何かの行動を非難されても法は破っていないと反撃できる。
法律を否定するということは、法を制定した王侯貴族の権力を否定するってことですね? そういう脅し文句に使え、意見を通しやすくできる。
まともな教育を受けていない冒険者は、法律のことなどろくにしらない。殺すな、盗むなぐらいしかしらないので、自分の身を守る武器になるそうだ。
もちろん、ある程度暴力に対抗できる実力があって初めて有効になる方法だが。
正直、こういった勉強は苦手だ。
しかし、今日さっそく冒険者ギルドで揉めてしまった。何が役に立つか分からない、頑張って勉強することにしよう。