Secret Hole
Previously on YazinTensei(前回までの野人転生は)
久しぶりにランニングをやる事にした。
「完全に電池切れでござる」
なんだよ野人流小刀格闘術(笑)って。
俺は体育座りをすると、羞恥に震えていた。
あまりの恥ずかしさにへこんでいたが、いつまでも落ち込んではいられない。俺は膝から顔を上げる。
太陽はすっかり昇っており、木々の隙間から木漏れ日がさしていた。
結構な時間、へこんでいたようだ。今日中にグラバースに着きたい。俺は荷物を担ぎ、街道へと移動した。
あれから時間が経ち、俺は今、森の中で焚火の炎を眺めている。パチパチと枯れ木が燃え、はじける音。風に揺らめく炎に照らされ、どこか
空を見上げれば、木々のわずかな隙間から満天の星が
だから、今日も野営になったが全然大丈夫だ。むしろ良かった。鈍った感覚が一日で戻るとは思えない。
移動時間の計算を間違えて、門が閉まる時間に間に合わなかったけど、むしろ良かったんだ。空の星々のきらめきを眺めていると涙が零れた。
やはり
馬車で3~4日と聞いていたので、距離を計算したのだが、馬車の移動速度が俺の計算より速く、想定より、町まで距離があった。
舗装された立派な街道があるもんな、そりゃ馬車の移動速度も速くなるよ。
旅にトラブルは付き物だ、今は大自然を満喫するとしよう。
森で一夜を明かした俺は、夜明け前に森を移動し、開門前にグラバースの町へたどり着いた。
でかい町は入り口で渋滞が起きるので、早めに並ぶつもりだったのだが、考えることはみな同じらしく、すでに多くの人が並んでいた。
グラバースの町は、城壁こそ、ロック・クリフほど立派ではなかったが、町の広さはロック・クリフ以上であり、開門を待つ、人々の数の多さからも町に活気があることが
時間が経ち、門が開かれた。少しずつ列が進み、俺の番が近付いてくる。盗賊宿屋と鍛冶屋から頂いた金目の物はすべて現金化し、その金で宝石を買った。
宝石はうまく隠してある。後は多少の現金と装備と旅の必需品しかない。割高な入市税と多少の賄賂は要求されるだろうが、何とかなるだろう。
さすがに装備まで取り上げられそうになったら、町に入ることを諦めるしかないが。しかし、待ち時間が長い、こんなペースで行列をさばけるのだろうか?
特殊な場所に宝石を隠したので早くしてほしい、異物感が半端ない。少しずつ列が進むのを待っていると、門番の姿が見えてきた。
うへぇ、露骨に賄賂を要求しているし、女性へのセクハラも半端ない。地球なら大問題になるところだ。
最悪、衛兵を殴って、森に逃げ込むことになるかもしれない。何を言われてもキレない様に、心構えをしよう。
「次!」
列が進み俺の番が来た。やべぇドキドキする。
「貴様は金貨1枚だ」
門番は俺の顔を見るなり、とんでもない額を吹っ掛けてくる。身元の確認すらする気がないようだ。浮雲亭なら6日は泊まれるし、つつましく暮らすなら3カ月は生活できる。
町に入るだけで要求して良い金額ではない。もともと、賄賂込みでそのぐらいの金額を払おうと思っていた。だがあっさり払うともっと持っているのではないか? そう思われてしまう。
演技力に自信はないが、なんとか演技をして、全財産に近い金額だと思わせなければいけない。
「門番様、それはあんまりでさぁ」
「うるさい! 払えないのならあっちに行け!」
「もう少し、負けてくだせぇ、そんな額はらったら町で生活できねぇだ」
俺がそう言うと、門番の表情がピクリと動いた。払えないではなく、払ったら生活できないである。金貨は持っているが出せる限界を超えている、そう思わせればそれ以上要求されないかもしれない。
「おい」
門番が仲間の門番に目配せをする。仲間の門番ふたりが俺の両サイドに回り、腕を掴む。最悪、振り解けるように、こっそり掴ませる場所を誘導する。
仲間に俺の動きを止めさせた後、門番は俺の懐から、金の入った袋を取り出す。
「やめてくだせぇ、門番様、何をするだ」
「うるせぇ、黙ってろ!」
門番が拳を振るう。避けようと思えば避けられたが、我慢して殴られる。こういうタイプは避けると逆上して余計激しく殴ってくるタイプだ。
殴られる方向に首をひねって衝撃を殺す方法もあるが、手ごたえが軽いと不審がられるかもしれない。ゴッという鈍い音が響き、痛みがやってくる。
袋から金貨一枚とわずかばかりの銅貨を抜き出すと、空になった袋を俺に投げ付け、偉そうに言った。
「通ってよし!」
俺は絶望の表情を作り、目に涙を浮かべながらトボトボと町へと入っていく。そして、しばらく歩いた後、路地裏に入り、ニヤリと嫌らしい笑顔を浮かべた。
頑張れば意外と演技ができるものだな。あっさり騙されやがった。しかし、門番の野郎、えげつなさすぎるだろ。
金貨どころかわずかな銅貨まで根こそぎ懐に入れやがった。それに、かなり強く殴りやがった。レベルの低い一般人なら即死してもおかしくはない。
俺は適当な井戸を見つけると水を汲み、綺麗な布を濡らし、殴られた場所に当てる。
ひんやりとして気持ち良い。殴られた場所は熱を持っている。これは腫れるな、冷やした後は傷薬も塗っておかないと。
門番の野郎、ツラ覚えたからな。俺がこの町を去る時にたっぷりお礼してやる、覚えてやがれ。
俺は頭の中で下っ端のチンピラのような台詞を並べ、腹の底にたまる、グツグツとした、どす黒い何かを押し込めた。
傷の処置を終えると、公衆トイレに入る。この世界では衛生観念があり、ちゃんと公衆トイレが設置されている。
衛生環境が悪いと、疫病が発生すると知っているのだ。疫病への対処も早く、疫病が村やスラムで発生すると貴族の魔法部隊が派遣され、汚物は消毒だと魔法で焼き尽くすらしい。
貴族は平民など、路傍の石ぐらいにしか思っていない。平然と焼き払うだろう。なので、この世界でペスト的な病気が猛威を振るっているといったことはない。町は綺麗だし、疫病も蔓延していない。
公衆トイレに入った、俺はケツに布を巻き、踏ん張る。待ち時間長すぎるせいで、奥へと入り込んでしまった。
ふぬぬぬぬ、踏ん張り過ぎて別の物が出ないか怯えながら、踏ん張る。悪臭漂うトイレでしばらく格闘していると、スルリと収納物が出てきた。
宝石と金貨3枚だ。麻薬の密輸業者などがよくやる、尻穴に隠すという方法で俺は門番から貴重品を隠した。最悪の気分だが背に腹は代えられない。
まったく、この世界に来て、童貞より先に処女を失うことになるとは。生きるというのは大変なことだとつくづく思う。
宝石を買う前から考えていた手段だったのだが、想定外だったのが、盗賊宿屋から手に入れた品物が思った以上に高値で売れたことで、良いお値段の宝石が買え、サイズが大きくなってしまったことだ。
汚い話だが、太いクソが出るくせに、こっちから入れようとすると、少しのサイズでも痛い。宝石のサイズが予想より大きかったことで苦戦した。
ローション的な物が欲しかったが、森で
天然成分なので直腸吸収されても、体に害はないだろう。おかげで切れ痔になることもなく、秘密の収納場所に宝石を隠せた。
いつ、この宝石を現金化するか分からないが、どこぞの貴族や金持ちが俺の尻穴に入っていた宝石に大金をだして身に着けている様を想像すると、ざまぁという気持ちが湧き上がってくる。
いかん! この世界はハードだし、文明度も低いが、俺が品性下劣になる必要はない。『粗にして野だが卑にあらず』この言葉を胸に刻んで生きていくとしよう。
世界がどれだけ汚くても、俺自身、糞に塗れようとも、俺なりに信念をもって、誇り高く生きよう。そう、決意を新たにした。
しかし、悪臭漂う公衆トイレで考えることじゃねぇな。俺は冷静になり、トイレから出ると、金貨と宝石を綺麗に洗う。
とりあえず、冒険者タグの更新をして、おすすめの宿を聞くとするか。目指すは冒険者ギルド。今回も絡まれるのだろうか。
想像すると少しテンションが下がるが仕方ない。うまく切り抜けるとしよう。