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脳筋的思考

Previously on YazinTensei(前回までの野人転生は)


村人に対する、ほの暗い怒りを腹の中に抱えたまま眠りについた。

ビックボーイどころかリトルキッドだよ、ぐすん。

「えいしゃおらー」

干し肉やドライフルーツを消費しながら無理せず傷を癒そう。

 拠点に戻ってから一週間が経った。肩の傷は完全に塞がり、骨折した部分は多少痛むが、普通に動けるレベルにまで回復した。


 レベルアップの恩恵なのだろうか? 野人生活で生命力が上がったのだろうか? どちらにせよ、驚異的な回復速度だ。


 怪我が治ったのはいいが、体のなまりが気になる。干し肉の在庫も乏しくなってきた。狩りに出かけることにしよう。





 狩りに出かけ、炭を作り、干し肉を作る。なまった体の様子を見ながら、色々作業をしていると、さらに一週間経った。


 怪我をしてから二週間、怪我は完治していた。ホブゴブを倒してレベルが上がったおかげか前よりも体が軽い。食料の備蓄も増え、心にゆとりができてきた。


 そうなると、村での出来事を思い出す。得体の知れない人間を殺して持ち物を奪う。モンスターの蔓延る田舎の村で、そういう選択をすることも仕方ないと思う。


 しかし、命を狙われた身としては、そうもいっていられない。


 あなたたちも生活が大変でしょう、許します。とはいかない。俺の心はペットボトルのキャップより小さいのだ。


 怪我が治り、生活も安定してきた。暇な時間ができてくる。そうすると、村での出来事が頭を過ぎることが多くなってきた。


 怪我を治療してもらった恩はある。


 しかし、命がけで倒したホブゴブの素材、武器防具などを奪われ、理不尽に殺されかけた。そのことがどうしても許せないのだ。


 村娘のことも考える。この世界で初めて会話をした相手だ。まともな会話もしていないような、一瞬の出会いだった。


 それでも俺の孤独で壊れかけた心を救ってくれた人だ。勝手な依存、一方的に俺が感謝しているだけ、それでも感謝している。


 怪我の治療も村娘がしてくれたのだと思う。村長が殺そうとしている人間を治療するはずがない。


 あの子は大丈夫だろうか? 俺を治療したことや逃がしたことで村人からひどい扱いを受けていないだろうか……。


 よそ者にだけ厳しい排他的な村。それならいいのだが、人を殺して持ち物を奪う。そんな選択する人間の心根が良いわけがない。


 普通に考えれば関らない方が良い。村娘はホブゴブから助けたことで貸し借りなしと判断して、村から街道伝いに歩いて町にでも行けば良い。


 村人は俺からホブゴブリンの素材を奪うため、俺を殺害しようとしていた。ということは、モンスターの素材が金になるということだ。


 モンスターの素材が金になるなら、モンスターを倒すことを生業にしている人や組織があるはず。ラノベの定番、冒険者ギルド的な組織があるはずだ。


 ファンタジー世界に転生した身として、冒険者への憧れもある。それに身寄りも無く、この世界の常識も知らない俺はまともな職になど就けないだろう。


 生活するには冒険者になることがベストだと思う。村娘のことなど忘れて町に行けば良い。


 なのになぜだろう、心の奥がもやもやする。他人を心配している余裕など無いというのに、俺ってやつは……。


 村に行き、村娘が不当な扱いを受けてないか調べる。大丈夫そうなら立ち去れば良い。そう思っていても、俺は村に行くことを恐れている。


 外見でレベルの判断がつかない。モンスターに囲まれた村で長年暮らしているのだ。俺が手も足もでない猛者がいる可能性もある。


 それ以上に恐ろしいのは、俺が人を殺す覚悟ができていないということだ。ゴブリンで人型の生き物を殺すことには慣れた。


 しかし、ゴブリンは言葉による意思の疎通ができない。言葉の通じる人間を殺すことができるだろうか? 殺せても、罪悪感で潰れないだろうか……。


 悲鳴を上げ、命乞いをし、呪ってやると呪詛(じゅそ)を吐いて死んでいく人間を見て、俺は平気でいられるだろうか……。


 戦いの最中、一瞬でもためらえば、容易(たやす)く死が俺の命を刈り取るだろう。俺は平和な日本という国に生まれ、幼少期から道徳教育を受けて育った。


 種の保存という観点から、同種族への殺害を禁忌と捉える、本能とも言うべき拒絶感もある。


 うだうだと悩み拠点でごろごろしながら悶えていると、俺の性格的特性とも言える脳筋思考が顔を出してきた。


 気になるなら村娘の様子を見に行けば良い。殺人の覚悟ができてない? モンスターといえ、どれだけの命を奪った。


 村長とその取り巻きはお前を殺そうとしたんだぞ、ラノベとかで極端に殺人を避けている主人公をお前は馬鹿にしていただろう。


 良い人ぶるのはよせ、俺の脳みそじゃ悩むだけ時間の無駄だ。野崎家の家訓を思い出せ。


 俺の中の脳筋がそうささやくのが聞こえた。そうだな、悩むなんて時間の無駄だった。いつも当たって砕けろの精神でやってきたじゃないか。


 そう考えると胸のもやもやが晴れた。そして自分に言い聞かせるように、野崎家の家訓を声にだした。


「野崎家、家訓。恩は倍返し、恨みは十倍返し」


 簡単なことだった。村娘に恩を返して、村長に恨みを返せばいいだけなのだ。


 殺人を犯すことの恐怖? 一人やっちまえばもう気にならない。相手は強盗殺人を平気でやるような豚どもだ。


 悩むことなんて最初から無かった。なんてすがすがしい気分なんだろう。待っていろ村娘、待っていろ村長。


 にやりと邪悪な笑みを浮かべ、俺は村へ行く準備を整えた。

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