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完璧な世界

Previously on YazinTensei(前回までの野人転生は)


この野蛮な世界では戦闘能力が何よりも大事だ。

武術、格闘術の中にナイフの扱いを落としこむ。

あくまでもベースは素手の武術。

『野人流小刀格闘術』爆誕だ! キリッ。

 ラノベの主人公ぽいチートを持っているのに、自分は全然主人公っぽくないなぁ。そんな風に黄昏(たそがれ)ていると夕方になっていた。


 深く考えるのは止めよう。精神衛生上良くない。


 本当は丸一日ぐらい時間を掛けるべきなんだけど、質のいい炭を作りたいわけでもない。そろそろいいかな。


 適当な木の棒で土のドームをザクザクと削り、四角い取り出し口を作る。ドームの温度に気を付けながら、切り取った土を引っこ抜いた。


 土ドーム内はまだ熱が残っており、素手で炭を取り出すのは熱そうだったので、適当に木と紐を組み合わせてT字型の棒を作る。


 その棒を中に突っ込んで手前に引っ張るように炭をかき出す。ザラザラと音を立てながら炭が出てきた。


 出てきた炭をつかんでパキッと割ってみる。もろくて色も悪いが確かに炭になっている。穴から中を覗く。


 密閉が甘かったのか、時間が早かったのか。多くが、中途半端に燃えた木になっていた。棒を使い、中身を掻き出す。

 

 全体の4割ぐらいは炭になっていた。製法が雑だから、2割ぐらいできればラッキーぐらいに思っていた。ついている。


 適当に拾った木材が、炭作りに向いていたのかもしれない。


 量にもよるが、本格的な炭作りなら、煙が消えるまで2~3日は火にかける。冷ます工程にも一日は掛ける。


 今回は火にかける時間も冷却時間も短かったが、量が少なかった。そのおかげで、うまく炭になってくれた。


 別に高品質の炭を作りたいわけではなく、煙の出にくい燃料が欲しかった。それだけなので質の悪い炭で問題はない。


 高品質の炭に比べて炭素の含有量が低いため、高温になりにくかったり燃焼時間が短いというデメリットはある。


 しかし、高品質の炭は火が点きにくい。キャンプなんかでも、結構な時間バーナーで炙ったりする。だが品質の悪い炭は火が点けやすい。


 もっとも、炭の質が悪すぎると煙が多くでる。炭素の含有量が低すぎるからだ。燃やしてみないとわからないが、俺の求める品質に近い気がする。


 この低品質の炭は、俺が一番欲しい燃料の条件を満たしている。火が点きやすく煙が少ない。なのでこの炭がベストだ。


 それに、低品質でも炭は炭。ぐへへへ、炭火焼肉じゃ! 焼肉祭りじゃあああああ。


 荒熱が取れた炭を籠に詰め込む。うまく炭にならなかった木材も、次回の炭焼きの材料になるが放置した。


 必要な分はそろった、これで火を通した物が食べられる。焼いたり煮たり、夢がひろがりんぐ!


 痕跡を追跡されないように、大回りで拠点へ帰ろう。ふはははは、込みあがる気持ちが抑えられねぇぜ!



 炭焼きハイになった俺は、なぞの奇声を上げながら山を爆走した。奇声につられ近寄ってきたモンスターを振り切り、拠点へと向かう。


 拠点に着くと、早速キッチンに向かった。


 キッチンといっても、石組みの粗末なカマドと、煙突っぽい形にした屋根ヤシにフィルターもどきを設置しただけの粗末な空間だ。


 フィルターといっても、葉っぱと木の枝を組み合わせたものを重ねて置いているだけなのだが、意外と煙を散らす効果がある。


 昔、サバイバル技術を紹介している本で作り方を学んだ。追跡者を前提としている技術をなぜ紹介していたのだろうか。


 著者が軍寄りの人間で、サバイバル技術のジャンルがそっち系に寄っていたのかもしれない。昔の本はめちゃくちゃカオスだったからなぁ。


 そんなのどこで使うんだよ。そう思いながらなんとなく習得した技術が役に立っている。人生何があるかわからないものだ。


 そんなことを考えながら、棒をコスコスして火種を作る。いつもの手順で火を熾したら、炭に火を付ける。


 煙の量はちゃんと少なくなっているだろうか? ドキドキしながらフーと息を吹き込み酸素を送る。


 すると炭に火が付き、火口のための油分の多い木などが燃え尽きた後は、ほんの少しの煙しか上がらなかった。


 成功だ! よっしゃあ! 拳をボディアッパーのように突き上げ、ガッツポーズを取る。


「これで炭火焼肉食い放題じゃあぁ!」


 ルンルン気分で肉へと向かう。ヤシの葉に包んであった肉を取り出そうと、ヤシの葉を取ると……。


「うっ! ちょっとやばくなってる……」


 かすかに緑色に変色した肉がそこにはあった。


「うーん、生だと無理だけど焼いたら行ける! これは腐ってるんじゃない、超熟成肉だ!」


 表面をトリミングして、食べやすいサイズにカット。いざ焼肉と勇んで炭火へ向かって気付いた。


「やべぇ、網がねぇ。やっちまった、どうしよう」


 テンションがあがり過ぎて、調理器具がそろっていないことをすっかり忘れていた。仕方ないので木をナイフで削って串を作り、肉を刺した。


 焼肉用に薄くスライスしているので違和感が半端ない。串焼き用にカットしていれば別だったのだが……。


 石を敷いて石版焼きにすることも考えたが、炭の効果が薄くなる。なので仕方なく串焼きにした。


 そこらへんの木や枝で串焼きにすると、木の成分が肉にしみて、人体に有害な物質を肉と共に摂取する可能性がある。


 キャンプでそこらへんの木を串に使い、体調を崩すというニュースを毎年のように見る。よい子はまねしちゃいけない行為だ。


「だが、俺の炭火焼肉への情熱は毒ごときじゃとまらねぇぜ。キリッ」


 頭の悪い独り言をつぶやくと、串を火に近づける。最悪の事態になっても、毒耐性があるので大丈夫だろう。


 この『大丈夫だろう』はサバイバルで一番やっちゃいけない行動だが、生肉を食い続けてきた俺には炭火焼肉の誘惑に抗う力がねぇ。


 カマドに枝を横に置いて下から肉を炙ると、油が炭に落ちてジュージューと音を立てる。広がる、脂の甘い香りと炭の香ばしい匂い。


「うはぁー、辛抱たまらん!」


 半腐り……じゃない。超熟成肉だったので、しっかりと火を通す必要がある。遠火でじっくり、中まで火を通す。


 良い感じに火が通った肉を、串ごと食べそうな勢いで(かぶ)り付く。噛んだ瞬間、ジュワリと溢れる甘い肉汁。


 極限まで熟成させた肉は非常に柔らかい。猪、豚系のプリっとした弾力を残しつつ、歯を入れると簡単に繊維がほぐれていく。


 じっくりと炭火で焼いたことで、しっかり火を通しつつも、肉が固くなることはない。


 油の煙でスモークされた肉は、多い脂のくどさを炭の香ばしい匂いで爽やかに変えてくれる。


 肉の甘みと弾力を残しつつも柔らかい肉の食感。香ばしく爽やかな炭の香り。そして熟成されることで増したアミノ酸の旨みと、第六の旨みの刺客、魔素味(マナミ)


 味付けはシンプルな塩のみだというのに、この美味さは何だ! 美味い、美味すぎる。脳が脳内麻薬をジャブジャブと分泌し、陶酔感に包まれる。


「完璧な味と香りの調和、暴力的なほどの旨みの洪水。退屈なだけの調和した世界でもなく、暴力だけの残酷な世界でもない。異なる二つが完璧なバランスで交じり合った世界。まさに味の完璧な世界(パーフェクトワールド)やぁ!」


 気が付くと俺は、ストックしてあった肉をすべて食べつくしていた。塩もかなり消費してしまった。だが後悔はしていない。キリッ。


 テンションが上がって、訳の分からない妄言を吐いていた気がする。冷静になると恥ずかしいが、今の俺はハッピーなので気にしない。


 お腹いっぱい肉を食べたら眠くなってきた。日も沈んだことだし寝るとするか。


 肉を食べつくしてしまった。明日から肉の補充をがんばろう。今日は良い一日だった。炭があるだけで、火が使えるだけで色々できる。


 夢がひろがりんぐ! 明日も良い日になるといいなぁ。そんなことを考えながら、満腹の腹をさすり眠りについた。




 翌日、少し冷静になった俺は炭焼きの痕跡を消したほうがいいのではないかと思い、処理に向かった。


 炭を作るということは、しばらくこの山に滞在するつもりなのだとバレてしまう。


 炭火焼肉という単語にラリって、不用意な行動を連発してしまった。やはり精神の安定というのは何よりも大事だと気付いた。


 気を付けようとしても、メンタルがおかしいと不用意な行動を取ってしまう。身を隠すことは大事だが、それに執着しすぎるのは良くない。


 抑圧によるストレスで精神がやられてしまうと、うかつな行動を取って自らを危機に晒す。


 精神が壊れない程度に生活のクオリティをあげつつ、目立たないようにする。何事もバランスが大事だと気付かされた。


 また逃亡生活をするなんて真っ平ごめんだ。良い教訓になった。あれ? なんか変なフラグたったか?


 頭に浮かんだ不吉な未来を振り払うように、首をブンブンと左右に振る。


 この行動漫画っぽいな。そんなアホな事を思っていると、気配察知に人型の生物を感知した。


 炭焼きをした場所に人型の生物が4体。慎重に距離を詰める。気配察知の精度があがり、武装した人間だとわかった。


 早速調査に人が来たらしい。


 そりゃそうだよな、何時間も煙が上がっていれば調べにくるっての。自分の迂闊さを悔やみつつ、気配隠蔽を使い慎重に目視できる距離まで近付いた。


 軍人ではなく、冒険者風の4人組だった。情報を持ちかえられるとまずい。俺はその場を離れ、冒険者たちを殺すプランを練り始めた。

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