光り輝く宝石
Previously on YazinTensei(前回までの野人転生は)
生き残ったこと、それ自体が奇跡だった。
そう、尻穴に……。
「やったぞ! レベルの壁を越えたぞ!!」
俺の
なぞの粘液でネッチョリしたナイフにテンションが急下降したが、解体作業に向けて冷静になれたので良しとしよう。
一番金になる素材は岩なのだが、さすがに重すぎて全部は運べない。
岩はいくつかの塊に分かれているので、岩に合わせて裏からナイフを入れれば、簡単に分離できた。
肉は美味らしいが、足が早いらしく、倒した冒険者の口にしか入らないそうだ。いろんな部位を切り分けておく。ご飯が楽しみだ。
内臓系も足が早いため、錬金素材などにできない。
現地に加工技術のある人間が同行すれば別らしいが、そんなに手間をかけなくても、代用素材がいくらでも手に入るので普通は行わない。
解体を済ませ、肉と岩をみんなで運ぶ。岩を担いだとき、違いに気付いた。レベルの壁を越えるとこんなに違うのか。
重いことは重いのだが、想像より余裕がある。おそらくレベル1しか上がってないはずなのだが、壁を越えるとこんなにも違いがあるのか。
今日の野営地である、川の近くへとたどり着いた。
川にキャンプを張ると、鉄砲水などが来て危険な場合もある。この場所は地形的に大丈夫そうだし、地面にも鉄砲水が起きた形跡はない。
俺たちは素材と自分たちの体を川で綺麗に洗い、改めて傷薬を塗りこむ。
大喜びで肩抱いたりしたけど、怪我した状態で糞まみれの奴に触れるとか衛生的にやば過ぎる。異世界の傷薬がなかったら危険な行為だった。
そんな反省をしながら、飯の準備をする。
火に掛けられた石板が、いい感じに熱せられている。俺は
ジューという肉の焼ける音と、暴力的な匂いがあたりを包む。他のモンスターを引き寄せる、とかは考えない。
すでに強いモンスターの出現する地域から離れ、かなり町寄りの位置にいる。モンスターが寄ってきても十分対処はできる。
せっかくのいいお肉なのだから、一番うまい食べ方をしたい。
家畜と違い、野生動物の肉は非常に固い。猪の肉なんかは熟成させないと固く、煮込み料理以外で食えた物じゃない。
日本と違い冷蔵技術が未発達なので、この世界の熟成は腐りかけと同じだ。腐りかけの肉がうまいという話は有名だが、いささかリスキー過ぎる。
だが、
固い岩に守られていることで、筋肉を硬質化させる必要が無く、しなやかな筋肉を有している。
腐りやすいという性質は、鯖のように体内に消化酵素を持ち、その酵素にたんぱく質が分解され、どんどん肉が柔らかくなっていくのだろう。
きめ細かく、しなやかな筋肉が分解され、うま味に変換されながら、肉をより柔らかくしている。日本の高級肉とは違う、異世界ならではの極上の肉だった。
大きい石版で各部位を一気に焼いた。木の皿に全員分取り分けると、みな我先にと肉にかぶりついた。
歯が肉に当たると一瞬の抵抗を感じる。ブツンと噛み切ると、強く結びついていた筋繊維が一気に解け、柔らかな歯ごたえに変わる。
噛み砕いた肉から、うま味があふれ出てくる。うまい、うますぎる。日本で食べた高級和牛に匹敵するうまさだった。
この世界のモンスターは、格が上がるほど肉がうまくなると言われている。教会は試練を乗り越えた褒美と、いつものように定義付けしていたが、おそらく
なぜ
カロリーが多い物をおいしく感じるのは、今よりカロリー摂取が大変だった時代のなごりだ。
生きていくために必要な物を摂取すると、おいしく感じるように人間の体はできている。
酸味、辛味、甘味、苦味、うま味に続く第6の味覚、
そんなことを考えながら、極上の肉をおいしく頂いた。格4のモンスターはしばらくこりごりだと思っていたのに、肉のためにもう一度戦いたくなった。
日本でおいしい物を色々食べていた俺と違い、ゴンズたちは初めて食べる極上の肉に、完全にやられていた。
俺の塩と胡椒を勝手に使い、追加の肉をガンガン食べていた。
「ゴンズの兄貴、その肉やけてねぇですぜ。落ち着いてくだせぇ」
うまい肉を前に、完全にバーサク状態になったゴンズたち。貴重な胡椒を使い切られてしまったが、しかたがない。
欠食児童のようなゴンズたちを見ながら、仲間たちと馬鹿をやる楽しさを噛み締めていた。
ロック・クリフの町に戻ると、入り口は大騒ぎになった。
俺たちは誇らしげに、自らの戦利品を掲げ冒険者ギルドへと向かう。その後を野次馬がゾロゾロと付いていき、まるで凱旋パレードのようだった。
冒険者ギルドに、格4モンスターの素材を持った俺たちパーティーが入る。
ざわめくギルド酒場。換金所に素材を渡し、その場にいる冒険者と野次馬にゴンズが言った。
「俺様たちはレベルの壁を越えた! 今日は祝いだ! 好きなだけ食って、ぶっ倒れるまで飲め! 俺様のおごりだ!!」
わぁと歓声が辺りに響き渡る。
ゴンズが、酒屋でタルごと酒を買ってきやがれと、金貨をそこらへんにいた冒険者に投げ渡す。
ますます大きくなる歓声。次々に祝福の声が掛けられる。俺たちはエールの入った、木のジョッキを打ち合わせ掲げた。
飛び散った金色の液体が、太陽の光を浴びてキラキラと輝く。俺たちは輝いている。希望に満ち溢れ、途切れたはずの、夢の続きを見ることができる。
俺たちは浮かれていた。そして油断していたんだ。だから忘れていた。ロック・クリフはその輝きを許さない。
光り輝く宝石は、強欲な者を引き付ける。