岩蜥蜴
Previously on YazinTensei(前回までの野人転生は)
ターゲットのモンスターは
なるべく主観が入らないように獲物を観察し続けた。
神の試練に対する信仰心の
明日、俺たちはレベルの壁を越える。
レベルの壁を越えるのに、卑怯な方法は許されない。だが、知恵を使うことはできる。これは支配者層が、パワーレベリングを行うための方便だ。
罠や毒だって知恵じゃないか。俺はそう思うが、教会がダメだと言っているのでダメなのだろう。それなら、知恵を使うというのはどこまでなら許されるのか。
この世界の文明に触れて間もない俺には、判断がつかない。だから、アルが立てた作戦は現地の人間にしかわからない微妙な感覚が加味されたものなのだろう。
アルの考えた作戦はシンプルだった。制限が多いため、シンプルにせざるを得ないのだろう。
ゴンズが大きな岩の後ろで、匂いを消して待機する。俺はゴンズの隠れている岩まで、
その後、
ただ狩りをするだけなら、大人数で囲んで逃げられないようにすればいい。しかし、今回はレベルの壁を越えるためなので、4人で戦うしかない。
中途半端にダメージを与えると逃げられてしまうのだ。
今までの敵なら、ゴンズは一撃で仕留められた。だが、今回は格上のモンスターだ。ゴンズといえど、一撃で仕留めるのは困難だ。
そこで、ゴンズの存在を認識させず、隙をついて一撃で仕留めるというプランになったらしい。
足止めだけとはいえ、ゴンズ抜きで格上のモンスターと戦うのだ。かなりのリスクがある。
それでも、他の冒険者よりはマシな作戦だ。
他の冒険者は、攻撃力はあるけど装甲が薄い狼形のモンスターを相手に、いちかばちかで戦う。自殺行為のような作戦だ。
こそこそと隠れてるなんてゴメンだ! 戦いに向け気が逸るゴンズに、アルが言った。
「合図があるまで絶対に動くな。たとえ誰かがくたばったとしてもだ」
ゴンズに対して、いつも優しい言葉を話していたアルが、ゴンズに厳しい言葉を放つ。その真剣な表情を見て、ゴンズは何かを決意しながらうなずいた。
岩場で匂いの強い草がなかったため、
普段なら嫌がったり文句を言いそうなものだが、今回は無言で受け入れていた。
ゴンズの準備が整った。後は
細かい作戦などはない。格上のモンスターの強さなど、実際に戦わないとわからないのだ。
キッチリ細かな動きを決めても、破綻するに決まっている。高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対応ってやつだ。
「こおぉぉぉぉ」
目をつぶり、ゆっくりと目を開ける。高鳴っていた心拍数は落ち着き、瞳に映る世界は等身大に戻る。いつもどおりだ、何も問題はない。
俺を敵と認定した
俺は必死で逃げながら、ゴンズの隠れている岩まで
俺は岩の前で急に横に動き、激突させようとしたが、さすがにそこまで馬鹿ではないらしく、岩の前で動きを止めた。
誘導には成功した。後は岩の前で動きを止めるだけ。もちろん、それが一番難しいのだが。
硬い岩に覆われているとはいえ、関節は岩が薄く攻撃が通りやすい。なんとか関節部分を攻撃して、ゴンズが攻撃を加える隙を作らなければ。
俺は腰から黒鋼のナイフを抜くと、
あえて匂いを消していないアルとキモンが、ゴンズと同じ場所から飛び出すことで、もう岩の陰には誰もいないと思わせるためだ。
狩りを観察したが、引っ掻くような攻撃は使っていなかった。
俺は正面に立ち、近距離で噛み付きをかわしながら囮になる。その隙にアルとキモンが後ろ足の関節に剣を突き刺す。
深く刺す必要はない。浅くでも、関節に噛ませる感じでぶっ刺して動きを阻害できれば良い。
俺は攻撃をかわし続ければいい。岩に覆われていて関節が動かしにくいのか、噛み付き攻撃は直線的な動きしかしない。
噛み付きを、どでかいパンチだと思って必死にかわす。格4モンスターの中では動きが遅いといっても、そこらへんの冒険者より速い。
必死で回避していると、尻尾攻撃をかい潜ったキモンが、関節にナイフを突き立てる。
明らかに動きが鈍った。俺の回避にも余裕が出てきた。ためしにナイフで反撃をしてみる。ガキンと硬い物が、刃物にぶつかる音がした。
黒鋼とはいえ、ナイフ程度じゃこの岩に刃が通らないか。
目を狙うほどの余裕はないが、余裕が出た分、他にも色々試していると、また
アルの剣も関節に刺さったらしい。思ったよりも簡単だったな、そんな風に思ったときだった。
普段は体内に仕舞われているが、動かし難い関節周りでトラブルがあったときに、外に出て柔軟な動きをできるようになっていたのだろう。
完全に虚をつかれたアルとキモンは、反応が遅れてしまう。
アルとキモンが、声を上げながら吹き飛ばされる。気配察知で、ゴンズが今にも飛び出しそうになっているのがわかる。
それでもゴンズは拳を握り締め、なんとか我慢していた。
鈍重そうな外見とは裏腹に、恐ろしい動きをする。
まさか、首も伸びるのか! 俺はとっさに後ろに跳びながらガードを固める。
体を振った勢いと首のしなりが加わり、
ガードした腕がきしむのを感じながら、俺は吹き飛ばされた。後ろの岩に激突し、肺から空気が搾り出される。
あまりの衝撃に意識を飛ばし掛けるが、何とか立て直す。自分から後ろに跳んでいなければ、今の一撃で死んでいた。
俺は慌てて
逸る気持ちを抑えて、呼吸を整える。
そうしている間に、アルが盾ごと吹き飛ばされる。倒れたアルに追撃しようと
クソ! まにあわねぇ!! 俺は右手をバックスイングしながら手首を曲げて袖に仕込んである棒手裏剣を掴む。
そのまま、左足を一歩踏み込みながら棒手裏剣を半回転させ、とがった部分を上向きにして親指と人差し指の腹で挟み込む。
野球のピッチャーのようなフォームで自分の耳の後ろあたりに手を振り上げる。狙うのは目、命中する確率は限りなくゼロに近い。
極限の集中。世界がスローになるこの感覚は……。俺は二つの感覚を感じていた。集中の極致、
まるで投げる場所の弾道予測がゲームのように表れる。このラインが棒手裏剣の弾道を表しているようだ。これはスキルか。
俺は投げる作業をスキルにゆだね、
倒れているアルに