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神の試練

Previously on YazinTensei(前回までの野人転生は)


5級からが本物の冒険者といわれ、地位、名誉、金が手に入る。

今のゴンズを心の中で、劇場版ゴンズと呼ぶことにしよう。

「うおおりぃぃぃやぁああああ」

購入した黒鋼のナイフは、俺が持つことになった。

 装備も整い、ターゲットの情報もある程度集まった。


 情報といっても、挑んで返り討ちにあった人間は誰も生きていない。討伐に成功した人間はロック・クリフを出ていく。


 集めた情報の多くは又聞きなので、情報の精度は下がる。


 それでも、複数の情報を集めることで精度を上げた。後は現地で対象のモンスターを観察して、イメージを固めるだけだ。


 ターゲットのモンスターは岩蜥蜴(ロック・リザード)というモンスターで、ロック・クリフという名前の由来になったモンスターだそうだ。


 岩蜥蜴(ロック・リザード)は体長5メートルほどの巨大な蜥蜴で、体表は岩に(よろ)われれている。


 ロック・クリフの城壁は、岩蜥蜴(ロック・リザード)の岩を、負荷のかかる要所に使用して強度を高めている。


 町ではなく、前線基地として誕生したロック・クリフ。岩蜥蜴ロック・リザードの岩は、その名前の由来となっている。


 なぜ、岩蜥蜴(ロック・リザード)をターゲットに選んだのかというと、周辺の他の格4モンスターより動きが鈍いためだ。


 硬い岩に覆われているため討伐が困難で、ほかの格4モンスターに比べ金にならない。特別な依頼がない限り、討伐されないモンスターだ。


 俺たちはレベルの壁を越えることが目的なので、換金性は気にしないことにした。ゴンズの圧倒的な攻撃力なら岩蜥蜴(ロック・リザード)にも通用するとアルは予測していた。


 それなら、確実に攻撃を当てられる動きの遅いモンスターがいい。ということで、岩蜥蜴(ロック・リザード)がターゲットに決まったのだ。


 動きが鈍いとはいっても、他の格4モンスターに比べて鈍いというだけで十分に速い。5メートルの岩を(まと)った蜥蜴が、結構な速度で襲ってくるのだ。想像しただけでも恐ろしい。


 岩蜥蜴(ロック・リザード)が生息している岩場は町から離れているため、野営の必要がある。


 生息地からある程度はなれた場所でキャンプをして、生態を観察しながら機会を窺うことになった。


 数日分の食料などを準備し、目的地へ向かう。良さそうな場所を見つけたらキャンプを張り、体臭を消した後、岩蜥蜴(ロック・リザード)の観察へと向かった。


 気配隠蔽を発動。気配察知を薄く広く張り巡らせ、岩蜥蜴(ロック・リザード)を探す。


 1時間ほどで岩蜥蜴(ロック・リザード)を発見した。岩蜥蜴(ロック・リザード)は縄張りが広く、個体数も少ない。


 戦っている最中に、他のモンスターに襲撃される可能性が低いのも選ばれた理由だった。


 遠くから岩蜥蜴(ロック・リザード)を観察する。汗が止まらない。ゴブリンの集落で森狼(フォレストウルフ)のリーダーを見たときと同じだ。


 文字どおり、生物としての格が違う。本能が危険だと警鐘を鳴らす。あの化け物に挑むのか……。俺は恐怖に飲まれないよう、心を強く持つ。


 恐怖のフィルターを掛けてはいけない。冷静に相手を観察しなければ。なるべく主観が入らないように獲物を観察し続けた。


 察知能力は低いらしい。これならゴンズたちが同行しても大丈夫だろう。それから数日、俺たちは岩蜥蜴(ロック・リザード)を観察し続けた。




 岩蜥蜴(ロック・リザード)の生態をある程度研究し、作戦を考えた。明日はいよいよ岩蜥蜴(ロック・リザード)と戦う。


 俺は夜の番をしながら、焚き火の炎を眺めていた。正直、不安だらけだ。もしかしたら命を落とすかもしれない。


 作戦など有って無いようなものだ。あれを作戦と呼べるのだろうか。


 しかし、この世界の常識だと言われれば何も言えない。明日、戦いだというのに不安が頭をめぐる。俺は炎を眺めながらアルの話を思い出していた。




 この世界は宗教の影響が強い。地球でも中世あたりでは、強い権力を持ちやりたい放題していた記憶がある。


 この世界でも宗教は強いのだが、地球と決定的に違う部分がある。


 魔法、スキル、ステータス。どう考えても神の存在なくしては語れない、不思議な現象や力が存在するのだ。


 実際の存在が確認できない、地球ですらあれだけ熱心な信者がいたのだ。実際に神の存在を証明しているとしか思えない現象があればどうだろうか?


 冒険者のような、信仰心の薄い人間でも神の、ひいては教会の教えが強く根付いている。そう、まるで呪いのように。


 そもそも、レベルとは何なのか? なぜ神は人間の味方なのにモンスターという存在を作ったのか? 教会はその答えを経典になぞらえながら言った。


 レベルとは神の力の一部であり、レベルが上がることは、神の力を多く授けられたということ。レベルを上げるほど、神の使徒へと近付くのだと。


 モンスターとは試練である。神が与えた試練を乗り越えることで神に認められ、多くの力を授けられる。教会はそう定義した。


 正直、突っ込みどころ満載で矛盾が多くあるのだが、教育を受けていない多くの人々はこれを信じている。


 レベルの高い人間は、神に力を多く授かった人間だと定義されている。だから、高レベルの人間は尊敬(リスペクト)される。


 神の使徒、もしくはその子孫といわれている貴族。ただでさえ尊い存在とされているのに、パワーレべリングで高レベルになっている。


 平民は長年の調教の結果もあり、貴族を畏怖することはあっても逆らおうなどと考えない。荒くれ者が多い冒険者ですら、貴族を殺そうなんて夢にも思わない。


 神の試練をパワーレべリングで突破している時点で、神に対して不敬だと思うのだが……。


 そこらへんを突っ込むと、異端審問官に拷問されてしまう。恐ろしいので、誰も何もいわない。


 貴族だけに認められた特権だ。権力者がよくやる、俺は良いけどお前はダメ! である。


 話がそれたが、神の試練であるレベルの壁を越えるのに、卑怯な振る舞いは許されないという考えがある。


 武力を独占したい教会や貴族が、自分たちの管理しきれていない冒険者や農民が力をつけないように、わざとハードモードにしているだけだと思うが。


 罠や毒などを使ってレベルの壁を越えることは許されないといわれている。


 信仰心が薄い冒険者たちですら、神の試練で卑怯なマネはしたくないという心理が働いている。まるで呪いのようだ。


 卑怯な貴族たちと違って俺たちは実力で壁を越えたんだ! という冒険者としての矜持。神の試練に対する信仰心の(かせ)


 この二つが邪魔をして、楽に格上のモンスターを倒すという行為ができない空気なのだ。


 もともと、物理的に罠に嵌めづらいという理由もある。5メートルの蜥蜴に、どんな罠が通用するというのか?


 落とし穴なんて超巨大になるし、そんな物つくったら痕跡だらけで不自然だ。高所から落とす? どうやって誘導するんだ。


 ただでさえ罠を使って殺すというのは困難な上、さっきもいった心理的な要素もあり、結局正面から戦うという選択肢になる。


 正面から戦うのなら、大人数でごり押ししてしまえばどうだ? そう思ったのだが、レベルの壁を越えるには人数制限がある。


 5人以上いると、レベルの壁を越えられないのだ。


 モンスターを倒したその場に、4人を越える人数がいるとレベルの壁は越えられない。この条件が、教会のいう試練説を後押しする結果になっている。


 昔、帝国でレベルの壁についての説を発表した学者がいた。モンスターが倒された後、体内に蓄積されていた魔素(マナ)が放出される。


 放出された魔素(マナ)は、生物に集まる性質がある。


 レベルの壁を越えるには、高濃度の魔素(マナ)が必要であり、人数が増えると魔素(マナ)が分散され、壁を越えるのに必要な濃度を下回るのではないか? という学説を発表したが、教会に異端認定され、学説は学者ごと闇へと葬りさられた。


 帝国人は合理主義的な部分があり、一部の宗教に熱心ではない人たちの間では、この学説が支持されているらしい。


 どちらの説が正しいのか、俺にはわからない。


 だけど、宗教的な理由で戦いに制限があり、戦術の幅が狭められていることは理解した。


 俺には、世の中の流れやルールに逆らえるほどの知恵や力はない。できることを全力でやるだけだ。 




 岩蜥蜴(ロック・リザード)を観察し、狩りの様子を見ることで大体の攻撃手段などはわかった。明日は、正面からあの化け物と戦うことになる。


 炎を眺めながら浮かんでくる不吉な未来を無視しながら、改めて決意を固める。明日、俺たちはレベルの壁を越える。

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