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それぞれの戦い

Previously on YazinTensei(前回までの野人転生は)


「おらぁ! ゴブリンの分際でなめんじゃねぇ」

そう、復讐者の貌をしていた。

「ホブゴブリンにウォーリアとメイジだと、何だこの集落は」

戦いは最終局面へと向かっていた。

 冒険者とゴブリンウォーリアが、互角の戦いを繰り広げる。


 万全の状態なら冒険者の方が有利だったと思う。しかし、冒険者は疲労が蓄積している。スキルを使った状態でも動きが悪くなっている。


 ゴブリンウォーリアの方は、冒険者のスキルに苦戦していた。スキルもなく、剣術など習ったこともないゴブリンは、力任せに剣を振るっている。


 そのため、膂力で勝っていても技術で負けている。


 効率的な剣の使い方ができない。そのため、せっかくの膂力を生かしきれずにいる。お互い、体中に小さな切り傷を負いながら、体力を消耗しあっている。


 狩人冒険者とゴブリンメイジは、にらみ合いながらお互いの隙を探している。ゴブリンメイジが詠唱に入ろうとすると、冒険者が弓で邪魔をする。


 ゴブリンメイジは、飛んできた矢を杖で打ち落とす。魔法職といえど、近接戦闘力はしっかりとありそうだ。


 弓を捨てて近接攻撃を仕掛ける。というわけにもいかないらしい。お互い、決定打を生み出せない膠着状態に入っている。


 狩人冒険者の矢筒が空になりそうだ。膠着はしているが、狩人冒険者は追い込まれている。


 一見して膠着状態だが、気配察知で位置関係を把握している俺は、ゴブリンたちが意図を持って行動していることを見抜いていた。


 おいおい、冒険者。頭脳戦でゴブリンに負けてんじゃねぇぞ。


 ゴブリンたちは戦いながら、お互いのポジションを確認している。そして、目的の位置へと冒険者を誘導していく。


 ゴブリンメイジが魔法の詠唱に入った。狩人冒険者が、邪魔をするために弓を放つ。だが、ゴブリンメイジの魔法発動がいつもより早かった。


 詠唱短縮的なスキルがあるのか、今までわざと遅く詠唱していたのか。魔法を放ったゴブリンメイジは、矢の回避行動が間に合わず、肩に矢が刺さった。


 魔法の阻止に失敗した狩人冒険者が、ゴブリンウォーリアと戦っている冒険者に声を掛けたが遅かった。


 ボンと小さい爆発音と、冒険者の悲鳴が聞こえる。斜め後ろからファイアーボールを食らった冒険者は顔を焼かれ、悶え苦しんでいた。


 ゴブリンウォーリアが冒険者に止めを刺す。ゴブリンたちは戦いながら、死角から魔法で攻撃できるポジションへと、少しずつ相手を誘導していたのだ。


 この集落のゴブリン、かしこすぎない? あと覚悟がすごい。命を捨てる特攻に、被弾覚悟の魔法攻撃。


 冒険者たちより、よっぽど肝が据わっている。集落を襲撃されたことで、やばいスイッチでも入ったのだろうか?


 味方がやられ一人になった狩人冒険者は、ジリジリと森の方へと移動する。隙を見て逃げる心算(つもり)らしい。


 狩人冒険者が、最後の矢をゴブリンメイジに放つ。


 ゴブリンメイジが矢に対処している隙を突き、狩人冒険者は森へと走り出す。ゴブリンメイジは矢を杖で打ち落とした後、魔法を詠唱する。


 すると、冒険者の足元に小さな穴が開いた。


 その穴に躓いた冒険者は、足を痛めたらしい。絶望の表情を浮かべながら、片足をかばい必死に逃げようとする。


 しかし、森まであと少しの場所でゴブリンウォーリアに追い付かれてしまう。その後ろには、ゴブリンメイジ。


 狩人冒険者は短剣を抜きながら、ゴブリンウォーリアと対峙する。絶体絶命のピンチ。そのとき、俺はヒーローのように森から飛び出す!


「助太刀する!」


 絶望を浮かべていた狩人冒険者の表情に、希望の光が差し込んだ。


「うおおおおお、喰らえゴブリン!」


 そう叫びながら俺は、狩人冒険者の背中を蹴り飛ばし、ゴブリンウォーリアの方へと吹き飛ばす。


 驚く、狩人冒険者とゴブリンたち。虚をつかれた狩人冒険者とゴブリンウォーリアが、絡まりながら倒れる。


 俺はポケットに入れていた石をゴブリンメイジに投げながら突撃する。


 ゴブリンメイジは器用に石を杖で打ち落としていたが、投石の対処に精一杯で俺の接近を許してしまう。


 肩に矢が刺さったままなのにすごいな。俺は警戒のレベルを上げながら、ゴブリンメイジへ接近する。


 接近した俺に、ゴブリンメイジが突きを繰り出す。杖の突きが、俺の喉目掛けて突き出される。


 俺は杖をかわすと、もう片方のポケットに入っていた土をゴブリンメイジの顔面へと投げ付ける。


 視界を塞がれたゴブリンメイジの動きが止まる。その瞬間、突撃の勢いを乗せた正拳突きが、ゴブリンメイジの胸へと突き刺さる。


 胸骨が砕け、その奥の心臓が破壊されたゴブリンメイジは、ガハっと血を吐き出した。血を吐き出した後、うつぶせに倒れ動かなくなった。


 念のために頭を踏み砕き、ゴブリンウォーリアの方を見る。


 ゴブリンウォーリアは、冒険者に馬乗りになり首を切り裂いているところだった。


 組み打ちになると、膂力の強いゴブリンウォーリアの方が有利だ。それだけではなく、狩人冒険者は俺に蹴られた背中のダメージもある。


 犯人は自分なのに、どこか他人事のように推察していた。俺は返り血で、顔を赤く染めたゴブリンウォーリアへと近付いていく。


「がああああああ」


 ゴブリンウォーリアが、怒りの声を上げながら攻撃を繰り出す。怒るのは良いが、攻撃が雑になるのは頂けないな。


 上段から振り下ろされたゴブリンウォーリアの剣を、半身になりかわす。


 踏み込み距離を詰めつつ、左手で手首のスナップを使い左手を打ち出す。パンとはたくように、拳を握らない裏拳のような技を目の周辺に当てた。


 目付近をパンとはたかれたゴブリンウォーリアは、数瞬動きを止める。眼球は小さいので、動いている相手の目を突くのはかなり難しい。


 不意打ちだったり、別の技で動きを止める。などをしないとなかなか決まらない。それに眼球は意外と頑丈で、指を骨折したりする。


 なので、目の辺りをパンと叩く。手の甲や指が眼球に入ってくれれば、数瞬目を閉じさせれる。


 相手が目をつぶり、まぶたで防がれても衝撃が伝わる。衝撃に反応した、体の反射で涙が滲んで視界が歪む。


 ベストは眼球に触れることだが、目をつぶることで防がれても、衝撃で涙を滲ませ視界を制限することができるのだ。


 今回は、眼球に指が触れる感触があった。数瞬だが、相手の視界を奪える。ゴブリンウォーリアを仕留めるには、数瞬の隙だけで十分だ。


 俺は、視界を塞がれたゴブリンウォーリアに技を放つ。右手のしなりを意識して腕を下から上へと振り上げる。


 狙いは金的。


 インパクトの瞬間、手首を返す。ぶら下がっている睾丸を、パンと跳ね上げるように掌で打ち付ける。


 掌に睾丸が破裂する感触が伝わり、生臭い匂いが周囲に漂う。


「ぐぎゃああああああ」


 ゴブリンウォーリアが悲鳴を上げながら内股になり、膝から崩れ落ちる。


 崩れ落ちたゴブリンウォーリアの延髄に蹴りを放った。思い切り振り抜いた蹴りは、ゴブリンウォーリアの延髄が破壊される感触を脚に感じさせた。


 残心をしながら、気配察知を集中させる。そして、用心深く、ゴブリンウォーリアを観察する。ちゃんと死んでいるようだ。


 警戒しながら近付き、頭を踏み砕く。


 気配察知で周囲を警戒しつつ、冒険者やゴブリンから装備を剥ぎ取る。残るは、冒険者リーダーとホブゴブリン。


 俺は少し離れた場所から、一人と1体の戦いを眺めていた。


 タイミングを見て介入しようと思ったが、下手に手を出して共闘でもされると厄介だ。それなら、生き残った方を倒すほうが不確定要素が少なくていい。


 俺は装備を運びやすいようにまとめ、戦いを見物した。




「ぐがあああああ」

「甘い!」


 膂力と剣速で勝るホブゴブリンが、バスタードソードを体の捻りと遠心力を使いながら加速させ、冒険者リーダーを横殴りに攻撃する。


 冒険者リーダーは正面から受け止めず、剣に角度を付けて攻撃を受け流していた。


 防御に徹し、ホブゴブリンが大きな隙を作った時だけ反撃をするという堅実な戦い方だった。


 冒険者で攻撃を受け流している人物をはじめて見た。的確な指示といい、優秀な冒険者なのかもしれない。


 ただ、受け流すと言っても相手の攻撃をそらすので精一杯。相手の体勢を崩したり、反撃に即座につなげるような技術はない。


 まだまだ荒削りのものだ。


 ホブゴブリンは、かなり強く背中を斬られていた。出血多量でくたばるかと思っていたが、すでに出血は止まっている。


 出血は無いが、痛みはあるはず。その痛みも、怒りで上書きすることで無視しているようだった。


 出血があれば、防御技術にすぐれた冒険者リーダーが勝てたかもしれない。しかし、思ったよりホブゴブリンのダメージが少ない。


 この様子だと、冒険者リーダーは厳しいか? 俺はそう思いながら、戦いを見ていた。冒険者リーダーもそれを感じたのか、勝負に出た。


 ホブゴブリンの袈裟斬りを、斜めに構えた剣で受け流しながら前進する。


 剣の柄で顎をカチ上げ、ホブゴブリンの体勢を崩した。体勢が崩れたホブゴブリンの首へと、冒険者リーダーが剣を走らせる。


 冒険者リーダーの勝ちかと思った、そのとき。


 ホブゴブリンは顎をカチ上げられ仰け反った状態で、さらに後ろへと倒れこむ。剣をかわしながら、脚を振り上げ冒険者リーダーを蹴り飛ばした。


 不安定な状態で出した蹴りだったので、威力はそこまでなかった。それでも、ホブゴブリンが起き上がり、体勢を立て直すまでの時間は稼げたようだ。


 仕切りなおしになり、また同じような攻防が続く。このままだと体力負けすると感じたのか、さっきの攻防で手ごたえを感じたのか。


 冒険者リーダーがまた、受け流しからの前進を仕掛けた。さっきは柄で顎をカチ上げたが、今回は柄で水月狙いらしい。


 剣術の発展していないこの世界で、受け流しを身に付けた冒険者リーダーはすごいと思う。その技に自信をもつのも分かる。


 受け流しつつ距離を詰め、相手の虚を突く。奥義と言えるかもしれない。前進してからのパターンも複数あるのだろう。


 だが、冒険者リーダーよ……。その技はさっき見せてしまった。それに受け流しのとき、相手の体勢の崩しが甘いんだ。


 もっと研鑽を積み、その技が完成していたならお前の勝ちだったかもな。


「ぐあああああああ」


 攻撃を受け流しながら前進し、ホブゴブリンの水月に剣の柄を打ち込むところまでは良かった。


 だけど、あれだけ接近したら、剣の柄以外で攻撃できないと分かってしまう。


 ホブゴブリンのフィジカルなら、来ると分かっている柄の攻撃なんて簡単に耐えられるんだよ。


 ホブゴブリンは水月に剣の柄を打ち込まれた瞬間、冒険者リーダーの首筋に噛み付いてた。


 首筋を噛み千切られた冒険者リーダーは、ゴポゴポと空気の音を出しながら血の海に沈んだ。


「こぉぉぉぉ」


 俺は息吹で呼吸を整えると、ホブゴブリンへ近付いていく。


「ボロボロだな、ホブゴブリン。お前とは、お互いベストな状態で戦いたかったよ」

「ごがあああああああ」

「俺がどれだけ強くなったか、お前で試させてもらうぜ」


 俺はホブゴブリンへと飛び込んでいく。

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