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狩りの獲物

Previously on YazinTensei(前回までの野人転生は)


ムキムキスキンヘッドのツンデレとか需要がねぇよ。

俺にとってはある意味癒しだ。

俺は今、森で冒険者8人に追い掛け回されている。

俺は何を間違えた。

「どこ行きやがった」

「いねぇぞ! 探せ!」

「見つけた、こっちだ!」


 ヒュンと俺の近くをを矢が通り抜ける。


「クソ! どうなってやがる」


 俺は逃げながら悪態を吐くが、状況は変わらない。弓を射掛けられながら追い込まれている。


 森の奥へと誘導しながら、徐々に包囲を狭めているようだ。このままじゃまずい。雑魚の斥候職に8人がかりとかありえねぇだろ。


 今まで戦った奴らは、俺を雑魚だと侮っていてやりやすかった。分け前が減るからなのか、人数もそこまで多くなかった。


 今回は違う。2パーティー合同で行動している。儲けも減るし、金の分配で揉めるはず。なのに、そんなそぶりは見えない。


 目的は金じゃない……俺の殺害だ。完全に殺しに来てやがる。どうしてこうなった? この前の世間知らずの小僧と揉めたのが原因か? 考えがまとまらない、今は生き残ることだけを考えないと。


 雑念を振り切り、俺は走る。森に慣れているおかげで、俺に追いつける奴はいない。


 しかし、明らかに逃げ道を誘導されている。人数を掛け、矢を放ち、俺を森の深層へと誘導している。


 自分の手で処理できなくても、森の奥地のモンスターに殺されればそれで良いと思っているのかも知れない。


 すでに森の中層だ。このまま奥地に進めば、俺の勝てないモンスターが出てくるかもしれない。なんとかこいつらをまいて、町へ逃げないと。


 そう思っていると、気配察知に大量の反応があった。よりによって逃走方向に反応がある。距離が縮まり輪郭が分かった。


 この感じはゴブリンか? どうやらゴブリンの集落があるらしい。


 冒険者を相手にするよりゴブリンの方が楽か? いや、ゴブリンといえど囲まれると厄介だ。


 追い詰められた俺は、酸欠気味の頭で考える。時間がない、なのに何も思いつかない。焦燥感だけが募る。


 途中まではうまく行っていたんだ、それなのに……。


 回らない頭で現実逃避を始めた俺は、今日のことを思い返していた。













「おはよう、ヤジン」

「おはよう、アル。良い依頼はあったかい?」


 ゴンズがいないときは、下っ端しゃべり止めてくれとアルに言われた。なので、普通の口調で話している。


「んー割の良い依頼はないな、今日も休みだね。まぁ、金に困ってるわけじゃない。無理に依頼を受ける必要もないさ」

「それなら今日も森に行くとするか」

「大して金にもならないのに、よく行くね」

「あまりサボると感覚が鈍るからな。冒険者になって日も浅いし、努力しないと」

「勤勉さは美徳か……」

「ん?」

「メガド帝国の(ことわざ)だよ」

「そんな立派なもんじゃないさ。それじゃ、またな!」


 適当な採取依頼を受け、町をでる。今日は棒手裏剣の練習をしよう。そんなことを考えながら、森へと向かった。




 町をでてからしばらく歩き、森へと入った。


 森の中に入り、しばらく進む。そして、森の影に隠れながら気配隠蔽を発動した。気付いていないフリをしていたが、町から尾行されていた。相手は四人。


 棒手裏剣の技術は、実戦で磨くことにしよう。


 木の影から棒手裏剣を投げる。精密な狙いはまだできないので、大雑把に腰から太股に掛けて投げる。


 棒手裏剣は相手の太股に刺さり、攻撃された冒険者は悲鳴を上げた。一撃離脱! 俺はすばやく森の木々にまぎれながら、気配隠蔽を発動する。


 棒手裏剣はそこまで深く刺さらなかったようだ。それでも、機動力は確実に削いだ。手応えを感じた俺は、攻撃しては隠れるを繰り返し相手を削っていく。


 棒手裏剣の数が足りないので石をまぜ、相手にダメージを蓄積させる。四人組のひとりがパニックなり、剣を遮二無二振り回しながら森へと入っていく。


 俺は木の上から、そいつを見下ろしていた。そいつの首から肩に掛けて狙いを定め、棒手裏剣を投げる。


 打ち下ろしでのアングルで、思い切り力をこめた棒手裏剣は、後ろから男の肩に深く突き刺さり、男が悲鳴を上げる。


 男の仲間が駆けつけたときには、俺の移動は完了している。いい感じだ。徐々にダメージを蓄積させ、冒険者たちの体力を削っていく。


 棒手裏剣の扱いになれたら、毒を塗るのも有りだろう。これはいい、遠距離攻撃があるだけで戦いの幅がグンと広がった。


 町に帰ったら、こいつらの装備を売った金で棒手裏剣を量産しよう。


 気配察知に反応? 冒険者四人組か。タイミング的にこいつらの仲間って線はなさそうだ。たまたま依頼で森に来たのか? めんどくさいことになった。


 殺し合いになって数が減ってくれれば楽なんだけどな。そんなことを考えていると、冒険者たちが合流したのが気配察知で確認できた。


 俺は木の上に登り、様子を窺う。何度か言葉を話した後、冒険者たちは行動を共にしだした。


 知り合いだったのか? さすがに八人はキツイ。無理はせず、あいつらをまいて町へと帰ろう。


 このとき俺は、まだ事態を重く受け止めていなかった。


 冒険者たちを避けるように、森の中を迂回しながら移動する。ところが冒険者たちは、的確に俺を追跡をしてきた。


 それどころか、人数差を生かして徐々に俺を包囲する。


 気配隠蔽が通用していない? 徐々に追い詰められ、俺はようやく自分に危機が迫っていることを実感した。


 俺は完全に捕捉され、矢が飛んでくるようになった。


 俺は必死に走り、相手との距離を稼ぐ。気配隠蔽を発動しても的確に追跡される。本職の斥候か、追跡技術を持った猟師が敵にいる。


 気配隠蔽の効果を過信しすぎた。


 何度、死に掛ければ学ぶのだろう、我ながら嫌になる。


 俺は、死が己の傍らにいる感覚を味わいながら走り続けた。








 俺が酸素の足りない脳で現実逃避をしていると、いつの間にかゴブリンの集落へ突入していた。


 待ち構えていたゴブリンは、オレの気配を野生動物だと思っていたようだ。俺が森から飛び出してきたとき、驚いて固まっていた。


 疲れた、休みたい、もう走りたくない。あらゆる負の感情を押し殺し、勢いそのままにゴブリンの顔面に飛び膝蹴りをぶち込んだ。


 顔面がぐちゃっと潰れる感触を膝に感じながら、勢いそのままに走り続ける。ゴブリンの集落の中心部へと。


 正直、何も考えていない。足を止めれば殺される。その思いだけが、俺を走らせる。ゴブリンたちが俺の包囲を完成させようとした、そのときだった。


「うわ、ゴブリン!」

「なんだ、ゴブリンの集落か」

「だから止まれと言ったんだ」

「ええい、やるしかねぇ」


 俺を追いかけてきた冒険者たちが、ゴブリンの集落に突入したようだ。斥候職が止めたにもかかわらず、違うパーティーの奴らが先走ったのだろう。


 ゴブリンの集落は突然乱入してきた冒険者たちに混乱し、俺の包囲が緩む。その隙に俺は走り続け、ゴブリンの集落を横断し走り抜けた。


 冒険者たちとゴブリンたちが乱戦になり、俺から意識がそれたのを確認する。木の陰に隠れながら、気配隠蔽を発動し息を整えた。


 ゴブリンたちの数は多いが、所詮ゴブリン。最終的には、冒険者たちが勝つ。ドサクサにまぎれて冒険者たちの数を減らすしかない。


 散々、追い掛け回しやがって。やられたらやり返す、10倍返しだ! 俺は息吹で呼吸を整えると、森の木々に紛れながら冒険者たちを狙う。


 冒険者の一人が、背後を守るために木を背にして戦う。


 冒険者は、ゴブリンと戦うのに夢中で木の裏に潜んでいる俺に気付いていない。冒険者がゴブリンを斬り倒した瞬間、俺は木から飛び出した。


「ゲギャギャ」


 ゴブリンだと思い振り返った冒険者の顔面に、俺の正拳突きが突き刺さる。無言で奇襲をするより、雑魚のゴブリンだと勘違いさせた方が油断を誘えると思った。


 倒れた冒険者の顔面を踵で踏み砕くと、落ちている冒険者の剣を拾い、ゴブリンと戦っていた別の冒険者に向かって投げ付ける。


 適当に投げたのだが、太股に剣が突き刺さっていた。悲鳴を上げる冒険者に群がるゴブリン。引きずり倒され、顔面を棍棒でタコ殴りにされている。


 俺にもゴブリンが襲い掛かってくる。さっと横に身をかわし、前蹴りを喉に突き刺す。ゴブリンの対処をしながら棒手裏剣を冒険者へと投げ付ける。


 冒険者が攻撃目標を俺に変更したら、森へと逃げる。ちまちまと嫌がらせを繰り返していたが、ゴブリンの数が減ってきた。


 二人しか倒せていない、追跡技術を持っている冒険者を倒せなかったのが痛かった。このままだとまずいと思っていると、気配察知に反応があった。


 ゴブリンが10体ほど、それとこの反応は……。


「ぐごおおおおおおおお」


 ビリビリと森が震える。ゴブリンだけで、森の中層に集落など築けるはずがないのだ。群れを守る強いリーダーがいる。


 集落には小さい、おそらくは若いゴブリン。それとメスと子供しかいなかった。戦える強いオスは狩りに出ていたのだろう。


 狩りから帰ってきたら、人間に集落を荒らされていた。許せないよな。存分に暴れてくれ、ホブゴブリン。


 俺は気配を消し、森に隠れながらニヤリと笑った。

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