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Mの悲劇

Previously on YazinTensei(前回までの野人転生は)


灰色狼グレイ・ウルフの上位種だと!」

殺されて死体を喰われるなんて絶対に嫌だ。

俺は必死にしがみ付きながら首を絞め上げる。

下手をしたら、このまま殺されるかもしれない。

 ぶち切れたゴンズに、頭を斧で叩き割られる心配をしていた。しかし、そうはならなかった。


 力を使い果たした俺は、力なく地面に座っている。そんな俺に、ゴンズが掛けた言葉は……。


「おめぇ、やるじゃねぇか!」


 だった。


 罵声を浴びせながら攻撃してくるのでは? そう思い身構えていたが、掛けられた言葉は称賛の言葉だった。


 さすがに皆、無傷とはいかなかった。簡単に治療をした後、灰色狼(グレイ・ウルフ)の解体に入る。


 俺が素手で殺した灰色狼(グレイ・ウルフ)リーダーは、傷が少なく綺麗な毛皮が取れる。なので、本職であるキモンが丁寧に解体した。


 無口、無表情なキモンが、珍しく笑顔になっていた。


 灰色狼(グレイ・ウルフ)リーダーの毛皮は、完璧な状態だった。上位種の完璧な毛皮は高値で売れそうだ。報酬を考えると頬が緩む。


「おお! 魔石だ。しかも、かなりでかいぞ」


 キモンが大声を上げる。こっちの世界にも魔石があるらしい。無口なキモンが声を上げるほどだ。かなり貴重なのかもしれない。


 俺がアルに聞くと、分かりやすく説明してくれた。小国家郡はダンジョンが存在しないため、魔石の確保が難しい。


 魔石は魔道具の燃料、錬金術の触媒に使用されている。消耗品のため、常に需要がある。


 ダンジョンのない小国家郡では、輸入に頼るしかない。そのため、かなり高価になっている。


 魔石は、長く生きたモンスターの体内に生成される。長く生きたモンスターは、上位種になっていることが多い。そのため、倒すのが難しい。


 ダンジョンは、魔素と呼ばれる物が高濃度なので、比較的短時間で魔石が作られるようだ。


 しかし、短時間で作られた魔石は質が悪いらしく、比較的に安価で取引されている。天然物の魔石は値段の桁が違うそうだ。


 それを聞いて俺は、養殖物の魚と天然の魚は値段がぜんぜんちがうからなぁ。そんなことを考えて魚が食べたくなった。


 天然物は価値が高く、上位種が多いため討伐難易度も高い。さらに、需要もあるため、高額で取引されているようだ。


 へたり込むぐらい疲れ切っていたが、大金が手に入ると聞いて、元気が湧いてきた。俺は疲れた体に鞭打って、解体作業を続けた。


 解体を終え、村へと帰る。村に着くと、ゴンズが村長にぶち切れた。ゴンズの怒りは洒落にならないレベルで、危うく村長を殺しかけた。


 アルが盾で軌道をずらさなければ、斧で頭を叩き割られていただろう。


 依頼と内容が違う。そのせいで死にかけた。村長に詰め寄るゴンズ、それをなだめるアル。ゴンズの剣幕にすっかり怯えてしまった村長に、アルが優しく賠償金の話をした。


 いつものコンボが炸裂。気がつけば、村長は多額の賠償金を支払っていた。


 ギルドに討伐依頼をだすと、領主が費用を半分負担してくれるそうだ。それでも村は大丈夫か? という額をふんだくっていた。


 俺は村人たちが困らないかな? そう思った。顔に出ていたらしく、アルが説明してくれた。


 おそらく村長は、群れが5体だけじゃない可能性に気付いてた。


 最初から多くの冒険者を雇って5体の群れだった場合、無駄にでかい出費をしてしまう。領主からの補助金も出ない可能性が高い。


 そこで、5体で依頼を出す。群れが本当に5体ならそこで依頼終了。5体以上なら、冒険者が殺される。


 冒険者が森から帰ってこなかったら、複数パーティーの依頼をギルドにだす。冒険者が帰ってきた場合でも、契約失敗として違約金が取れる。


 その違約金で、複数パーティーを雇う費用を賄う。


 最初から、俺たちパーティーを囮にする気だった。まさか、1パーティーで上位種を含む、15体を討伐してくるとは思っても見なかったのだろう。


 欲を出した村長が悪い。村長は村の代表なのだから、村人が困っても自業自得だと言われた。


 今回は本気で死に掛けた。その話を聞いて、村人に同情するのは止めた。アルがそう言っているだけで、事実は違うかもしれない。


 そんなことは問題じゃない。俺が納得できるかどうかだ。

 


 野営を一日はさみ、再びロック・クリフに帰ってきた。さすがに今回は疲れた。荷物が多いこともあるが、ガチで死にかけた精神的疲労が大きい。


 街に入り、外とは別の警戒を全力でする。


 今回は、がっぽり儲かったみたいだ。せめて、美味しいものでも食べて癒やされよう。


 ギルドに入り、素材を売り払った。分け前を貰ったが、かなりの額だった。俺が戦力になると判断したアルから、今後は戦闘に参加してもらうといわれた。


 斥候としての能力と、戦闘能力をある程度認められた俺は、正式にパーティーに加入することになった。


 報酬はきっちり4等分だった。ボスは俺一人で倒したが、ゴンズたちが敵を引き付けてくれた。そのお陰で、一対一でボスと戦えた。


 ボスの毛皮を独り占めしようという気はない。それに、加入したばかりの新人にも同じだけ分け前をくれるのだ。金額に文句はなかった。


 ゴンズたちの方も、貴重な斥候スキルを持ち、普通に戦える人材は逃したくなかったのだろう。


 大金を手にしたゴンズたちは、さっそくギルド酒場で一杯やるようだ。ゴンズが、ホクホクした顔で酒を飲んでいる。


 ゴンズよ、結構な怪我しているのだから、酒は止めときなさい。そう思ったが、ご機嫌なゴンズに水を差すのは怖かった。余計なことは言わないでいよう。


 そうなのだ、ゴンズが怪我をした。結構深い傷だった。キモンの首筋に灰色狼(グレイ・ウルフ)が噛み付く寸前、自分の腕を出してかばったのだ。


 灰色狼(グレイ・ウルフ)に思い切り噛まれたゴンズの傷はかなり深く、しばらくは冒険者稼業は休みだという。


「どっちにしろ、大金が手に入ったら働かねぇけどな。がっはっは」


 豪快にゴンズは笑った。


 ほかのメンバーも傷だらけだ。俺も深い傷はなかったが、全身傷だらけ。これはしばらく動けんな、そう思った。


 ところが、異世界の傷薬が驚くべき効果を発揮した。


 異世界産の傷薬は、ペースト状の軟膏になっている。俺が村娘に治療されたとき、傷口に当てられていた、スーッとする薬草が使われているようだ。


 その薬草と何かの油を混ぜて、軟膏にしている。


 ポーションのように『飲んで一瞬で治る』みたいな効果はない。ただ、自然治癒力を促進するようで、かなりの速度で傷が塞がった。


 戦闘終了後、適当に傷薬を塗った。解体作業が終わる頃には、小さな傷はかさぶたができていた。傷が腐らなくなるという表現だったが、殺菌効果もあるらしい。


 ゴンズの深い噛み傷も一週間もあれば治るそうだ。ゴンズの傷の治りが異常に早いだけで、ほかの人はもっとかかるとアルが教えてくれた。


 頑強の基礎値が桁違いに高いのかもしれない。ゴンズ恐るべし。ゴンズの兄貴は、冒険者になるために生まれてきたような男ですね。


 おべっかを言うと、ゴンズは顔を赤くしながら嬉しそうにしていた。


 チョロい、チョロすぎる。大丈夫かゴンズ。そんなチョロさで大金を持っていて騙されないかゴンズ。おじさんは心配です。


 アルがいるから大丈夫だとは思うが……。


 ゴンズたちは、しばらくゆっくりするそうだ。俺の傷は、3日で塞がってしまった。ゴンズたちが休んでいるため、やることがなく暇で困った。


 今回でかなり稼いだ。だけど、黒鋼製の武器を買うには、まだまだ足りない。それに今回は出費も多かった。


 硬貨を投げたが、銀貨が数枚行方不明になった。命には代えられないとはいえ、地味に痛い。


 ちなみに銅貨100=銀貨1 銀貨10=金貨1 というレートだ。金貨10枚分の大金貨というのもあるが、貧乏人の俺には縁のない物だ。


 小国家群の金貨は混ぜ物が多く、メガド帝国やリーガム王国の金貨の半分の価値しかない。大金貨は金貨10枚より金の量は少ないので、金貨で持っていた方が良いといわれた。


 文明の進んだメガド帝国などに移住されないよう、わざと金貨に混ぜ物を多くしているのではないか? そうアルが言っていた。


 移住するにしても、家財道具は持っていけない。一旦金に変える必要がある。


 全財産を持ち運びのしやすい金貨に変えても、メガド帝国に着くと価値は半分になる。価値が半分になるなら、国外には出にくい。


 そういう意図があるのかもしれない。


 香辛料など、換金率の高い品物に替えればいいのでは? そう思ったが、多くの香辛料を国外に持ち出すには、王の許可が必要なのだとか。


 特別な免状を得た商人、貴族以外が香辛料を大量に国外に持ち出すと、一族郎党まとめて処刑されるそうだ。


 いつかメガド帝国やリーガム王国に行ってみたいと思っていた。しかし、財産が半分になるのか。相変わらずハードモードだ。


 何の話だったかなっと、そうだそうだ。意外と出費が多かったって話だ。やることもなく、宿のベッドでボーっとしていると、思考があちこちに飛ぶ。


 しかし、この町に来てからずっと気が抜けなかった。今は気を抜くことができる。正式にゴンズたちパーティーに入ることができたからだ。


 下の酒場ではゴンズたちが大騒ぎしてる。この状態で俺が襲われたら、すぐに助けてくれるだろう。声も出す暇もなく、一瞬で殺されない限りは安心だ。


 ゴンズたちにも面子がある。


 自分たちの手の届かないところで殺されるならまだしも、近くにいるパーティーメンバーに危害を加えられたら、黙ってはいないはずだ。


 ずっと張り詰めていたから、疲れが溜まっていたのかも知れない。気を抜けるという今の状態が嬉しくてたまらない。


 えーっとそうだそうだ、出費がでかかった。ボスにぶつけた粉の袋、胡椒も痛かった。


 いきなり逃亡することになっても大丈夫なように、服の内側に縫い付けておいたのが役に立った。


 汗などが染みないように、わざわざ高級防水革で作った袋に入れていた。逃亡先で粉にする道具が手に入らないかもしれない。そのため、粉の状態で入れておいたのが功を奏した。


 粉にすると劣化が早くなるが、劣化してきたら自分で使えばいい。その都度つど、新しく買いなおせばいいと思っていた。


 一瞬で全部使うことになるとは……。


 産地なのでよそで買うよりは安いと思うが、需要が多いため値段は高い。一袋丸ごとはかなり痛い。


 まぁ、今は命あることを感謝しよう。ホブゴブのときも激辛トウガラシに命を救われた。今回は胡椒か……。おいしいうえに命を助けてくれる、香辛料様には足を向けて寝られませんな。


 そういえば、ステータスを最近見てないな。ボスを倒したことでレベルの壁越えてないかなぁ。


「ステータスオープン」


レベル

15


スキル

空手

気配察知

気配隠蔽


称号

新種のゴブリン

怪物

M字ハゲ進行中


 残念、レベルの壁は突破できずか。スキルにも変化なしと。ん? 新しい称号が……ってなんじゃこりゃあああ。


 誰がM字ハゲじゃい! 俺じゃい! うわーん。油断していた。身体的特徴をいじったらだめなんだからな! それは『いじり』じゃなくて『いじめ』なんだからな。


 最近ストレス半端なかったけどさ、確実に頭皮にダメージ受けてたけどさ、称号で現実みせつけてくんじゃねぇよ! あの神ゆるせねぇ。好きなスポーツチームと頭皮をディスったら戦争だって昔から決まってんだ。


 神の野郎、俺が不幸になるのを見て喜んでいる節がある。


 そうは行くか! 強くなって、大金稼いで、良い暮らしして異世界を満喫してやる! 幸せそうにしてる俺をみて悔しがるがいい!!


 チクショー! 絶対幸せになってやる。

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