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ゴブと腰蓑と俺

Previously on YazinTensei(前回までの野人転生は)


「君には異世界に転生してもらう」

「モンスターとかもいるんですよね」

「いるね、いっぱい、気を付けないと死んじゃうね」

「もういい? めんどくさいから送っちゃうね」

「ちょま、うわあああああ」

森で目を覚ますと俺は全裸だった。

 マジか神の野郎、チートどころか服すらねぇじゃねぇか! 落ち着け俺、素数を数えるんだ。こういうときはすべきことに順位付けをして一つずつこなせばいい。


 まずは飲み水の確保だな。いや、まずは靴だ。小さな傷でも、ばい菌が入れば大変なことになる。この世界にばい菌が存在するのかわからないが、用心するに越したことはないだろう。


 木の皮を剥がしツタで縛り、落ち葉をインソールの代わりにする。ディス〇バリーチャンネルの秘境〇活見といて良かったぜ。


 サンキュー! 〇ド!


 次は水だ。人は水がないと3日で動けなくなる。どれだけタフな人間でも数日で死んでしまう。


 水を探す方法はいくつかある。一番手っ取り早いのは高い場所から探すことだ。


 高い木に登ったり山に登ったりする。周囲には山はなさそうだ。木を登るしかない。この森は人の手が入っていない原生林なのか、樹齢を重ねた木が豊富にある。


 高い木が多いので、見下ろす場所には困りそうにない。だが、全裸で木登りはハードルが高い。樹皮は硬いものが多く、怪我のリスクが高い。


 靴を履いていれば、靴紐同士を結んで挟み込むように登ったりできる。しかし、全裸だ。靴紐どころか、丸出しノーガード。


 困った俺は、ディス〇バリーチャンネルを思い出していた。木の中には、蔓がかなり上から伸びてきている木がある。


 それを探せば、縄登りの要領で木の上に登れる。サンキュー!  ベア・グリ〇ス。


 少し歩くと運のいいことに、蔓が上から伸びてきている木を発見した。蔓を登り、木の頂点近くの枝に慎重に乗る。


 高さにビビリ、玉がヒュンとする。落ちたら終わりだ。蔓を腕に巻きつけ、周囲を見渡す。


 木々が生い茂り視界が悪いが、運良く川を発見することができた。


 やった! 助かったぜ。っと、危ない。水を確保できた喜びでバランスを崩し、危うく落下死するところだった。


 木登りは下りの方が事故が多いと聞いたことがある。安心して気が抜けるからだろう。俺は慎重に木から降りた。


 川が見つかってよかった。大量の水を安定して手に入れることができる。川が見つからなければ、水を好むコケ類を探したり、水を蓄える性質がある木から水分を補給するなどの方法がある。


 ただ、コケが生えている水源は、水たまりのような綺麗じゃない水の可能性もある。この世界の植生がわからないから、水を蓄える木を判別できないし、木を切る道具もない。


 動物を追跡して水場に案内してもらうという方法もあるが、難易度が高い。危険な野生動物に出会うリスクも有る。


 この世界にはモンスターがいるらしい。地球の森より危険度は上だ。慎重に行動しなければいけない。


 幸いなことに、すぐに川が見つかった。それらのリスクが高い方法を取らなくても飲料水が手に入りそうだ。


 水場には動物が集まりやすい。モンスターを警戒しながら慎重に川に近付く。川に住む生物を見れば、その川が安全かどうかの指標になる。


 エビなどがいれば、水がきれいな証だ。昆虫の幼虫などがいると、煮沸が必要になる。あくまでも目安程度だが、ここは異世界。


 地球での常識が通用しない可能性がある。慎重を期すために、煮沸してから飲みたい。


 できれば不純物を取るために濾過したいが、あいにくと全裸だ。森にあるもので濾過装置を作りたいが、作り方がわからない。


 ペットボトルを使った濾過装置の作り方は知っていても、全裸で森にあるものだけて濾過装置を作る方法が思いつかない。


 上を見ればキリがない。とりあえず、飲料水のめどがたった。日が落ちる前に拠点を定めなければ。

 

 川から少し離れたところに、木の洞を見つけた。意外と中は広い。雨風も凌げそうだ。入り口をカモフラージュすれば、立派な住処になりそうだ。


 何とか飲料水を確保し、拠点を作った。木の皮で作った腰蓑(こしみの)を付けて股間を隠す。なんとか人としての尊厳を守った。いつまでも丸出しだと落ち着かない。


 周囲の果実などの食べられそうな物は、パッチテストなどを用心深く行い、安全性を確かめてから食した。


 幸いなことに、この森には食べ物が豊富だ。極端に飢えるということはなさそうである。


 物語を見ていつも疑問に思っていた。なぜ主人公たちはろくに準備もせず移動するのだろう。町までの距離も分からず食料も持たず適当に歩いている。


 俺には考えられない。最低でも水を確保してからでないと、怖くて移動などできない。


 俺は森を出る前に燻製干し肉やドライフルーツなど、食料を揃えてから町を目指すと決めた。


 まずは火を(おこ)さねば。


 手の皮を破りながら、何とか棒を擦るスタイルで木を使い火を(おこ)した。この森はそこまで湿度が高くない。


 幸運なことに、最近は雨が降っていなかったようだ。


 火熾しで一番大事なのは乾燥していること。意外と知られていないが、木の質も大事だ。


 摩擦で温度を上げるという性質上、適度に抵抗がある木がいい。スカスカだったり、棒が回転しないほど抵抗が強いと火をおこしづらい。


 棒を擦るときは、回転速度ではなく摩擦を意識する。上から押し付けるように棒を回転させていく。


 動画サイトなどで、摩擦を使い、一分も立たずに火をおこしている動画を見たことがある。


 乾燥した空気と、適切な木材を適切に加工しているため早いという理由はある。


 逆に言えば、適切な道具で適切な手順を踏めば、意外と簡単に火はおこせるということだ。


 熱帯雨林など、湿度の高い場所では難易度が高い。下手をすれば一日中棒をこすっても、火をおこせないこともある。


 今回は幸運なことに、手の皮がボロボロになるぐらいで火を熾すことができた。日が沈み、暗くなる前に火を熾せて幸運だった。


 全裸スタートのときはどうなるかと思ったが、運がいい。飲料水確保のめどが立ち、拠点も確保できた。


 暗くなる前に火をおこすことにも成功。果実などを食べ、多少のカロリーも摂取できた。


 初日のスタートとしては完璧に近い。


 後は、獲物を狩り肉を燻製にする。色々と試行錯誤は必要だろう。塩やソミュール液などの必要な素材も足りない。


 ただ、水分を飛ばせば日持ちはするはずだ。フルーツも同じである。動物の皮なんかで水筒も作らねば。


 すでにあたりは暗くなっている。今日はここまでだな。やることはたくさんあるが、今日は寝るとしよう。


 寝ていると、猛烈なかゆみで目が覚めた。股間が虫刺されだらけになっていた。


 大事な部分が痛痒い。


 しまった! 煙で(いぶし)腰蓑(こしみの)を虫除けするのを忘れていた。


 まったく、ひどい目に遭った。虫には病気を運ぶ虫もいる。完璧には防げないだろうが、気を付けないと。



 翌朝、石をぶつけて石器を作り、木の皮を剥ぐ。水を沸騰させるための鍋を作るためだ。意外なことに、水分を含んだ生木は燃えづらい。


 水分を沸騰させる用途なら、火にかけても平気だ。サバイバル知識としては知っていたし、修学旅行で行ったアイヌ資料館では、立派に加工された樹皮を使った鍋が展示されていた。


 知識があり、現物を見ている。加工技術は未熟で、ノウハウもないが作れないことはない。


 あそこまで立派なものは作れなくとも、飲料水用の水を煮沸する用の鍋ぐらいなら作れる。


 ただ、毒を持っている木もあるので、少しだけ飲んで様子を見る必要がある。喉は乾いているし、川は一見綺麗そうだ。そのまま飲みたい衝動に駆られるが、我慢する。

 

 樹皮の鍋を使って沸騰させた水を飲んで思った。オーガニック臭せぇ。思わずえずいてしまった。強烈な木の香りがする。


 しばらく使っていけば匂いは薄れるだろうが、これは強烈だ。時間が経っても、体調に変化は現れない。強烈な臭いとは裏腹に、人体に害はなさそうだ。


 俺は涙目になりながら、臭いオーガニック汁を飲み干した。



 その後、現在位置を確認するため高い木に登った。慎重に登り続け、周囲を見渡せる高さへ到達する。


 水場を探したときも高い木に登ったが、あのときは川の発見に注力していた。そのため、周囲をしっかり見渡す余裕がなかった。


 改めてしっかりと周囲を見渡す。残念ながら、道や建物などの人工物は見当たらない。


 改めて辺りを見渡して見たが、ひたすら森だった。森から抜けるのに、どのくらいの時間が掛かるだろうか……。


 森を抜けるには、日持ちする食料を多く確保する必要がある。罠などで動物を狩り、保存の利く肉を確保せねば。


 食料確保のため、本格的に狩りを始めることにした。


 狩りを始めてから数日たった今日、はじめてモンスターに遭遇した。動物を捕まえるためのシンプルな罠を設置し、木の上で待ち構えていたところにモンスターがやってきたのだ。


「ゲギャゲギャ」

「ギャガギャゲギャギャ」

「ゲギャギャ」


 皆さんお馴染みのモンスター、ゴブリンさんと初遭遇である。うわー、本当にゲギャゲギャって言うんだ。やばい、テンションが上がる。


 ゴブリンたちは、俺の仕掛けた罠の近くへと歩いていった。経験値を稼ぐチャンスだ! 俺はゴブリンが罠に掛かるのをジッと待った。


 すると罠の付近でゴブリンがスンスンと鼻を鳴らして俺の仕掛けた落とし穴などの罠をあっさり見破った。


 そうか! 匂いを消さないと駄目なのか。俺は自分の失敗に気付き落ち込んでいた。


 するとゴブリンたちが罠を指差し大爆笑しているのだ。まるで間抜けな奴だな、とでも言わんばかりだ。


 ゴブに馬鹿にされて俺は顔真っ赤である。


 気が付くと俺は怒りと共に木から飛び降り、ゴブリンの頭に杖代わりにしていた木の棒を叩き付けていた。


 木の上に俺が潜んでいることに気付いていなかったようで、ゴブリンたちは驚いたまま固まっていた。


 木の棒を叩き付けたときに確かな手ごたえを感じた。頭を殴られたゴブリンは、糸が切れた操り人形のようにばたっと倒れた。


 しかし、力いっぱい叩き付けたせいで木の棒が折れてしまった。


 ゴブリンは三体、一体倒れて残り二体である。突然の出来事に驚き固まっているゴブリンの喉めがけて、上足底(じょうそくてい)を突き刺すように前蹴りを放った。


 ぐちゃっと喉がつぶれる感触と共にゴブリンが倒れた。


 残り一体のゴブリンはようやく事態に気付く。突然現れた襲撃者である俺に敵意をむき出しにして、うなり声を上げながら粗末な棍棒で殴りかかってきた。


 大振りの軌道丸分かりの攻撃だ。俺は冷静に横に避け、がら空きの顔面に正拳突きを放った。


「せい!」


 気合と共に放たれた正拳突きはゴブリンの人中にヒットしゴブリンが吹き飛んだ。確かな手ごたえを感じた。


 しかし、ゴブリンはふら付きながらも起き上がってきた。そうか、急所が人体とは違うんだ。


 俺は自分のミスに気付き舌打ちをした。


 ふら付きながらも狂ったように棍棒を振り回すゴブリン。最初の攻撃は動揺したままだったこともあるのだろう、回避しやすかった。


 今は手負いのゴブである。死に物狂いで繰り出す攻撃は、ゴブリンとはいえ脅威だった。下手に綺麗な攻撃より、こういう荒い攻撃の方がよけづらい。


 しかも身長が低いので軌道が読みづらい。しばらく回避に集中することにした。攻撃に目が慣れ、ゴブリンのスタミナも切れてきた。


 動きが鈍ったところでわざと隙を作り、攻撃を誘う。疲れてキレの無い攻撃に後の先(ごのせん)を合わせるのは簡単だ。


 上から振り下ろした棍棒が空振りになり、隙だらけのゴブリンの延髄に手刀を叩き落とした。


「えいしゃああああ」


 気合と共に放たれた手刀はゴブリンの延髄にめり込み、ゴブリンの体がブルリと震えて動きが止まった。


 俺はダメ押しとばかりに、ゴブリンの脳天に肘を縦方向に落とし突き刺した。


「せりゃあああ」


 ぐしゃりと何かが潰れるような音の後、ゴブリンの鼻からドロリとした粘着性の液体が流れ、そのままバタリと倒れ動かなくなった。


 俺は油断すること無く他のゴブリンにも目を配る。


 最初に木の棒で殴ったゴブリンは、頭から血を流し死んでいる。頭が割れたのか、自らが流した血の海に沈んでいた。


 二体目のゴブリンはまだ息があった。喉が潰れて呼吸ができないのか、苦しそうにもがいていた。俺は二体目に近づくと頭を踵で踏みつけ止めを刺した。


 俺は三体のゴブリン全員を視界に入れられる位置まで下がり、今の騒ぎで他のモンスターや動物が来ていないか気配を探る。


 足音も気配もないと判断しゴブリンも動かないことを確認してからようやくふぅと息を吐いた。


 ゴブリンの強さも確認しないまま、ついカッとなってやってしまった。今は後悔している。


 物語によってはゴブリンはそこそこ強いという作品も多かった。勢いでやってしまったが危険な行為だった猛省しよう。


 戦利品を確認したら、粗末な棍棒のみである。どうなってんだよ普通、冒険者から奪った錆びたナイフとかあるだろ。


 というか腰蓑(こしみの)すら付けてないのかよ、こいつら丸出しじゃねぇか! こんな奴らに馬鹿にされたのか、なんていうか心に刺さるわ~。


 気を取り直して討伐証明回収タイムだな。


 異世界物のライトノベルとかだと、耳が討伐証明だよな。ゴブリンの死体を前に俺は迷った。


 一応耳を取っておきたいが刃物が無い。耳は捻りながら手前に引くと千切れると聞いたことがあったので、嫌だったが試してみた。


 断面は汚いが何とか耳を削ぐことができた。しかしこれ腐るよな、どうしようかな。仕様がない、ドライフルーツ作ってる乾燥場の近くに置いて乾燥させるか。


 そうだ、ステータス確認しないと。俺はゴブリンの耳を削いでから拠点に戻り、ステータスを開いた。


 異世界に転生してすぐは全裸で混乱していた。その後川を見つけ、その近くにいい感じの木の(うろ)を見つけた。


 枝で入り口を塞ぎ葉っぱで隠し、そこそこ安全な拠点を手に入れ一息ついた。安全な拠点を手にれ、ようやくステータスを見る余裕ができた。


 このステータス表示がクソの役にも立たない。レベルとスキルしか書いていないのだ。次のレベルに必要な経験値なんて親切機能どころか『力』や『すばやさ』などの数値も、HPやMPの表示すらも無い。


レベル

1

スキル

KARATE


 これだけである。これ意味あるのか? というか何で空手がローマ字表示なんだよ。


 海外のインチキ「KARATE」道場か! BABY〇ETALの曲なのか! 長年真剣に空手やってきたからすげぇむかつくんだけど。


 あの神の仕業か! マジでクソの役にもたたねぇな、このステータス。見るたびにイライラしてしまうので、なるべく見ないようにしていたのだ。


 ゴブリンを倒したことで、久しぶりにステータスを確認してみた。


レベル

2

スキル

KARA-TE


 なんで外国人風の発音になってんだよ! カラーテってなんだよ。あの神、絶対見てて煽ってきてんだろ! この世界の神も実はお前だろ!! ふぅ~落ち着け素数を数えるんだ。


 レベルが上がっていた。なんだかんだいって少し嬉しい。


 後で身体能力のチェックしないとな。これからは、なるべくゴブリンを狩ってレベルを上げておくとしよう。

検索すれば簡単に調べられますが、わかり難いと思われる用語などを解説します。

私、個人の見解です。


用語解説


上足底じょうそくてい

足の指の付け根の部分、面ではなく点での攻撃になるので破壊力が高い攻撃が可能、突き刺す様な足攻撃に使用する。


人中じんちゅう

唇と鼻の間にある溝。もしくはその溝にあるツボの事。流派によっては最大の急所とも呼ばれ、正拳突きの練習をする時は人中を狙って突くように指導している人もいる。


後の先ごのせん

相手に攻撃をさせ、攻撃の隙を突いて反撃する技。カウンターの一種。


KARA-TE

映画、ベスト・〇ッドのヒットによりアメリカに空手ブームが起こった。今のように情報が簡単に手に入らない時代だったので、偽者の指導者によるインチキ空手道場がアメリカ中に広まった。

インチキ道場の指導者は実際に空手の指導を受けた事もないので空手の発音すらまともに言えず、外国人が発音しやすいカラーテという発音をしていた。

カラーテ=インチキの公式が成り立つぐらい、インチキ空手家達は空手の発音をまともに言えなかったのだ。


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