初報酬の使い方
Previously on YazinTensei(前回までの野人転生は)
絡まれても自分で対処しろと言われた。
てめぇホモか! 俺様にさわるんじゃねぇ。
ここからは俺たちに任せろ、アルがそう言う。
本物の冒険者とモンスターの戦いを見れる。
俺は高鳴る胸を押さえながら気配を消して隠れた。
気配察知で、洞窟の中にいた
洞窟から
ギャン、と声を上げ
「ぬおりゃああああ」
ゴンズが気合の掛け声と共に、斧を斜め下から振り上げる。豪快な動きとは裏腹に、無駄のない綺麗なフォームだった。スキルのおかげだろう。
振り上げられた斧が、眼を射られ動きの止まった
吹き飛ばされた
ゴンズの振り下ろしをくらった
重さを利用して叩き切る武器なのに、振り上げて頭を砕きながら吹っ飛ばして巻き込ませる。むちゃくちゃだ。
大きな攻撃をして隙だらけになったゴンズに
盾と片手剣というオーソドックスなスタイルのアルが、ゴンズと
アルは盾を巧みに操り、
ただ盾で防ぐだけではなく、盾でシールドバッシュを加える。
アルはゴンズの隙のフォローをしつつ、相手の足などを攻撃して機動力を奪っていた。派手ではないが隙がなく、うまいと思わず唸ってしまうような的確な動きだった。
キモンの矢もすごい。
動きが遅くなった
機動力が落ち数も減ったため、脅威度が下がったと判断したゴンズたちは、なるべく毛皮を傷付けないように気を付けて殺す余裕すらあった。
驚異的なパワーですべてを破壊するゴンズ。広い視野と的確な指示で戦いを支配するアル。動きの素早い
ロック・クリフ最強のパーティーはすごかった。
すべての
「ゴンズの兄貴、すげぇパワーだった。アルも隙がないすごい動きだった。キモンの弓の腕も尋常じゃねぇ」
「がっはっは、俺様にかかれば
「俺は褒められるような動きはしていないさ」
「お前の斥候の腕もたいしたものだ」
俺が戦いの感想を述べると、三者三様の返事が返ってきた。
その後、周囲に脅威になる存在の気配を感じないと報告した。討伐は完了したが、これで終わりじゃない。
あらかじめ村長に聞いておいた川へと向かい、そこで
俺の解体技術は、転生する前の中途半端な知識を元にしたものだ。
一時期、猟師の人と交流があった。
その人が仕留めた獲物の解体を手伝い、代わりに肉を貰う。高齢で重い物が持てない猟師さんとのギブ・アンド・テイクだった。
そのときの経験を元に、野人生活では自己流で解体していた。
俺は自己流の解体しか知らない。
売り物になる毛皮の剥ぎ方をしらないので、教えてくれ。猟師であるキモンに、そう頼むと、彼は快く教えてくれた。
ここで初めて、武器屋で買った俺の武器が登場する。剥ぎ取り用ナイフである! 金がなかった上に、斥候ならほとんど戦闘もないだろう。ということで俺の武器はナイフになった。
剣とか槍とかちょっと憧れてたんだけどな、しょうがない。
キモンに習いながら、丁寧に毛皮を剥ぎ取っていく。切れ味の悪い石のナイフと違い、切れ味がよくて逆にミスをしそうだった。
時間は掛かったが、丁寧に毛皮を剥ぎ取った。
すべての処理が終わると、夕方になっていた。日が暮れる前に、村へ足早に戻る。ゴンズとアルの交渉の結果、ただで村に泊めてもらえることになった。
これは夜中に村の若い娘がきて……みたいなパターンか! ちょっとドキドキしながら、藁にシーツを被せた粗末なベッドで待っていた。
しかし、現実は非情だった。誰もこねぇ……。俺は一人寂しく、粗末なベッドで一夜を明かした。
村長から討伐完了のサインを貰い、ロック・クリフへと戻る。それなりに距離はあるが、移動速度が早い。昼にはロック・クリフに到着していた。
ロック・クリフの立派な城壁に目をやる。一日しか離れていなかったのに、何故か懐かしく感じた。
衛兵に木札を見せると、スムーズに町に入れた。町に入るための行列をスルーして、別の入り口から待ち時間なしで入ることができた。
素材が傷まないための配慮らしい。あんな感じのギルドなのに、意外とちゃんとしていることに驚いた。
冒険者ギルドで報酬を受け取った。俺の取り分は1割、残りをゴンズたちで3等分するそうだ。
一割でも、普通の市民の稼ぎ1週間分にはなるそうだ。毛皮の金は討伐に参加してないので貰えないが、なんの文句もない。
ゴンズたちは今日はゆっくり休んで、明日また依頼をこなすと言った。
明日、冒険者ギルドで待ち合わせだ。そう言うとゴンズたちは、各々町へと散っていた。
俺は一応、合格らしい。斥候の腕は今のところ問題ないそうだ。
キモンも猟師なので、最低限のことはできる。ただ、追跡などより弓が得意なため、そっちの技術は磨かなかったといっていた。
森で
ゴンズたちはあっさり倒していたが、
森で
ゴンズたちは、それで怪我はしても倒せると言っていた。ロック・クリフ最強のパーティーは自称ではなかったらしい。
俺は運が良い。何も知らないまま冒険者になっていたら、同業者に殺されていた。もしくは、知識不足でモンスターに殺されていたと思う。
せっかく、最強パーティーの一員になれたのだ。彼らの技術や知識を吸収させてもらおう。
冒険者の仕事は命懸けだ。実際にモンスターとの戦いを見て、改めてそう思った。多少なれはあると思うが、精神的な重圧は尋常ではない。
知らない間に精神的な疲労が溜まっている。精神的な癒やしが必要だ。町では気を抜けないので、リラックスも糞もない。
そんな状態でも、精神的な癒やしを見つける必要がある。
冒険者として、初めての稼ぎを手に入れた。何か記念になる物でも購入しようかと思った。だけど止めた。
うまい飯を食う。
食った物は俺の血となり、肉となる。これからの冒険者生活の支えとなってくれるだろう。
記念品より、自分の肉体に投資する。脳筋らしい初報酬の使い方だ。
酒場のおやじに食い物を頼むと、てめぇ金持ってんのか? 的な厳しい視線を飛ばしてきた。さっきゴンズたちから報酬受け取ってただろうが。
日本では考えられない、パンチの利いた接客に苦笑いする。疑うおやじを納得させるために、金を見せる。
俺は運ばれてくる料理に舌鼓を打ちながら、ゴンズたちのパーティーに入れた幸運をかみ締めていた。