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初報酬の使い方

Previously on YazinTensei(前回までの野人転生は)


絡まれても自分で対処しろと言われた。

てめぇホモか! 俺様にさわるんじゃねぇ。

ここからは俺たちに任せろ、アルがそう言う。

本物の冒険者とモンスターの戦いを見れる。

俺は高鳴る胸を押さえながら気配を消して隠れた。

 気配察知で、洞窟の中にいた灰色狼(グレイ・ウルフ)の動きを感知した。出口に向かっている。ゴンズたちに気付いたらしい。


 洞窟から灰色狼(グレイ・ウルフ)が飛び出した瞬間、先頭の灰色狼(グレイ・ウルフ)の眼に矢が突き刺さる。キモンの放った矢が、灰色狼(グレイ・ウルフ)の眼を的確に(つらぬ)いた。


 ギャン、と声を上げ灰色狼(グレイ・ウルフ)の動きが止まった。


「ぬおりゃああああ」


 ゴンズが気合の掛け声と共に、斧を斜め下から振り上げる。豪快な動きとは裏腹に、無駄のない綺麗なフォームだった。スキルのおかげだろう。


 振り上げられた斧が、眼を射られ動きの止まった灰色狼(グレイ・ウルフ)の頭を叩き割りながら吹き飛ばす。


 吹き飛ばされた灰色狼(グレイ・ウルフ)にぶつかって動きの止まった灰色狼(グレイ・ウルフ)に、ゴンズは振り上げた斧をまっすぐ振り下ろした。


 ゴンズの振り下ろしをくらった灰色狼(グレイ・ウルフ)は、首が完全に切断された。なんて馬鹿力だ、みんながゴンズを恐れている理由(わけ)が分かった。


 重さを利用して叩き切る武器なのに、振り上げて頭を砕きながら吹っ飛ばして巻き込ませる。むちゃくちゃだ。


 大きな攻撃をして隙だらけになったゴンズに灰色狼(グレイ・ウルフ)が飛び掛る。


 盾と片手剣というオーソドックスなスタイルのアルが、ゴンズと灰色狼(グレイ・ウルフ)の間にすばやく入りる。


 アルは盾を巧みに操り、灰色狼(グレイ・ウルフ)の攻撃を防いだ。


 ただ盾で防ぐだけではなく、盾でシールドバッシュを加える。灰色狼(グレイ・ウルフ)の着地位置を誘導し、着地と同時に浅く前足に剣を突き刺した。


 アルはゴンズの隙のフォローをしつつ、相手の足などを攻撃して機動力を奪っていた。派手ではないが隙がなく、うまいと思わず唸ってしまうような的確な動きだった。


 キモンの矢もすごい。灰色狼(グレイ・ウルフ)は素早いが、着地や方向転換の隙を狙って、後ろ足の筋肉や前足の爪周辺などを狙い機動力を潰していた。


 動きが遅くなった灰色狼(グレイ・ウルフ)は、次々とゴンズの豪快な攻撃によって殺されていく。


 機動力が落ち数も減ったため、脅威度が下がったと判断したゴンズたちは、なるべく毛皮を傷付けないように気を付けて殺す余裕すらあった。


 驚異的なパワーですべてを破壊するゴンズ。広い視野と的確な指示で戦いを支配するアル。動きの素早い灰色狼(グレイ・ウルフ)の眼を、矢で正確に射抜く凄腕のキモン。


 ロック・クリフ最強のパーティーはすごかった。


 すべての灰色狼(グレイ・ウルフ)が討伐された後も、俺は油断せずあたりを探っていた。気配察知には、小動物の気配すら感じられなかった。灰色狼(グレイ・ウルフ)が餌にしたのだろう。


「ゴンズの兄貴、すげぇパワーだった。アルも隙がないすごい動きだった。キモンの弓の腕も尋常じゃねぇ」

「がっはっは、俺様にかかれば灰色狼(グレイ・ウルフ)なんぞ敵じゃねぇぜ」

「俺は褒められるような動きはしていないさ」

「お前の斥候の腕もたいしたものだ」


 俺が戦いの感想を述べると、三者三様の返事が返ってきた。


 その後、周囲に脅威になる存在の気配を感じないと報告した。討伐は完了したが、これで終わりじゃない。灰色狼(グレイ・ウルフ)の処理をするために、死体を担ぐ。


 あらかじめ村長に聞いておいた川へと向かい、そこで灰色狼(グレイ・ウルフ)の解体をする。


 俺の解体技術は、転生する前の中途半端な知識を元にしたものだ。


 一時期、猟師の人と交流があった。


 その人が仕留めた獲物の解体を手伝い、代わりに肉を貰う。高齢で重い物が持てない猟師さんとのギブ・アンド・テイクだった。


 そのときの経験を元に、野人生活では自己流で解体していた。灰色狼(グレイ・ウルフ)の毛皮は売り物なので、丁寧に剥ぐ必要がある。


 俺は自己流の解体しか知らない。


 売り物になる毛皮の剥ぎ方をしらないので、教えてくれ。猟師であるキモンに、そう頼むと、彼は快く教えてくれた。


 ここで初めて、武器屋で買った俺の武器が登場する。剥ぎ取り用ナイフである! 金がなかった上に、斥候ならほとんど戦闘もないだろう。ということで俺の武器はナイフになった。


 剣とか槍とかちょっと憧れてたんだけどな、しょうがない。


 キモンに習いながら、丁寧に毛皮を剥ぎ取っていく。切れ味の悪い石のナイフと違い、切れ味がよくて逆にミスをしそうだった。


 時間は掛かったが、丁寧に毛皮を剥ぎ取った。


 灰色狼(グレイ・ウルフ)の肉はまずいらしい。それでも肉は貴重だ。安い値段で良いなら村で買い取る。村長にそう言われていたので、枝肉に処理して素材用のリュックに入れた。


 すべての処理が終わると、夕方になっていた。日が暮れる前に、村へ足早に戻る。ゴンズとアルの交渉の結果、ただで村に泊めてもらえることになった。


 これは夜中に村の若い娘がきて……みたいなパターンか! ちょっとドキドキしながら、藁にシーツを被せた粗末なベッドで待っていた。


 しかし、現実は非情だった。誰もこねぇ……。俺は一人寂しく、粗末なベッドで一夜を明かした。


 村長から討伐完了のサインを貰い、ロック・クリフへと戻る。それなりに距離はあるが、移動速度が早い。昼にはロック・クリフに到着していた。


 ロック・クリフの立派な城壁に目をやる。一日しか離れていなかったのに、何故か懐かしく感じた。


 衛兵に木札を見せると、スムーズに町に入れた。町に入るための行列をスルーして、別の入り口から待ち時間なしで入ることができた。


 素材が傷まないための配慮らしい。あんな感じのギルドなのに、意外とちゃんとしていることに驚いた。


 冒険者ギルドで報酬を受け取った。俺の取り分は1割、残りをゴンズたちで3等分するそうだ。


 一割でも、普通の市民の稼ぎ1週間分にはなるそうだ。毛皮の金は討伐に参加してないので貰えないが、なんの文句もない。


 ゴンズたちは今日はゆっくり休んで、明日また依頼をこなすと言った。


 明日、冒険者ギルドで待ち合わせだ。そう言うとゴンズたちは、各々町へと散っていた。


 俺は一応、合格らしい。斥候の腕は今のところ問題ないそうだ。


 キモンも猟師なので、最低限のことはできる。ただ、追跡などより弓が得意なため、そっちの技術は磨かなかったといっていた。


 灰色狼(グレイ・ウルフ)は鼻が良いため、いつも先に発見されて厄介だった。今回は先制できたので楽だった、そう言われた。


 森で灰色狼(グレイ・ウルフ)に連携されながら攻撃されると、ゴンズたちでも無傷とはいかないらしい。


 ゴンズたちはあっさり倒していたが、灰色狼(グレイ・ウルフ)たちの動きは素早かった。遠くから見てあれなら、実際目の前で動かれると目で追うのも大変だろう。


 森で灰色狼(グレイ・ウルフ)から突然攻撃される。そのことを頭の中で想像してぞっとした。


 ゴンズたちは、それで怪我はしても倒せると言っていた。ロック・クリフ最強のパーティーは自称ではなかったらしい。


 俺は運が良い。何も知らないまま冒険者になっていたら、同業者に殺されていた。もしくは、知識不足でモンスターに殺されていたと思う。


 せっかく、最強パーティーの一員になれたのだ。彼らの技術や知識を吸収させてもらおう。



 冒険者の仕事は命懸けだ。実際にモンスターとの戦いを見て、改めてそう思った。多少なれはあると思うが、精神的な重圧は尋常ではない。


 知らない間に精神的な疲労が溜まっている。精神的な癒やしが必要だ。町では気を抜けないので、リラックスも糞もない。


 そんな状態でも、精神的な癒やしを見つける必要がある。


 冒険者として、初めての稼ぎを手に入れた。何か記念になる物でも購入しようかと思った。だけど止めた。


 うまい飯を食う。


 食った物は俺の血となり、肉となる。これからの冒険者生活の支えとなってくれるだろう。


 記念品より、自分の肉体に投資する。脳筋らしい初報酬の使い方だ。


 酒場のおやじに食い物を頼むと、てめぇ金持ってんのか? 的な厳しい視線を飛ばしてきた。さっきゴンズたちから報酬受け取ってただろうが。


 日本では考えられない、パンチの利いた接客に苦笑いする。疑うおやじを納得させるために、金を見せる。


 俺は運ばれてくる料理に舌鼓を打ちながら、ゴンズたちのパーティーに入れた幸運をかみ締めていた。

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