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初めての討伐依頼

Previously on YazinTensei(前回までの野人転生は)


「あっし、実は気配察知と気配隠蔽のスキルをもってるんでさぁ」

「なんだって! 本当かよヤジン!!」

現在進行形で小国家群に犯罪者が集まってきているからだ。

獲物や仕事を求めて歩き回る冒険者は犯罪者と相性が良いらしい。

同業者が一番危険とか、ハードモード過ぎる。

 周りの同業者が犯罪者だらけ。という恐ろしい話を聞かされ、なかなか寝付けなかった。


 寝不足でぼんやりする顔を冷たい井戸水で洗う。服を脱ぎ、全身に水をぶっかけた。


 臭いで獲物に気付かれないよう、全身を丁寧に洗う。水なので冷たくてキツイ。お湯は高い、お金を貯めねば。


 本当は全身に泥を塗っていきたいのだが、門の衛兵に槍で刺されるに違いない。しかたなく諦める。


 宿泊費に含まれている朝食を食べる。クズ野菜と肉の切れ端の入った、塩の足りていないうっすいスープとカチカチのパン。


 スープでパンをふやかしながら、もそもそと食べる。食事を終えると、装備を確認する。


 確認が終わったら、井戸のある裏庭の隅でストレッチをして体をほぐす。動きすぎて汗をかかないように気を付けながら、ゆっくりと体をほぐしていく。


 そうしていると鐘が鳴る。俺は待ち合わせ場所に向かう。


 教会には時間を測る魔道具があり、日中は鐘を鳴らして時間を教えてくれる。鐘がなったら待ち合わせの場所に向かう。そういうスタイルだと教えられた。


 待ち合わせ場所に着いたが、ゴンズたちはまだ到着していなかった。


 しばらくして、眠そうなゴンズ、いつもどおりのキモン、常に身だしなみが整っているアルの三人がやって来た。


 ゴンズたちと挨拶を済ませ、門で衛兵に木札を見せて外に出る。この木札は、ギルドの依頼を受けた証明になる。


 入るときに木札を見せて照合が終わると、入市税なしで町に入れるそうだ。


 町の外に出た瞬間、さっきまでダルそうに歩いていたゴンズが隙のない動きに変わった。


 長く冒険者をやっているだけあって、ここら辺の切り替えがうまいと俺は感心した。常に気を張っていると大変だからだ。


 といっても、ゴンズだから町中で気を抜いていられるという部分はある。


 襲ってきた冒険者たちを片っ端から返り討ちにしたそうで、町でゴンズに逆らうような人間はほとんどいない。


 唯一スラムの顔役だけがゴンズより上位者であるようで、ゴンズも頭が上がらないと言っていた。


 俺はというと、気を張り詰めまくっている。常時、気配隠蔽と気配察知を意識して発動し続けている。


 すれ違う人がみんな詐欺師か強盗に見える。冒険者で一番身長の低い俺は、ゴンズたちに寄生している雑魚というのが冒険者の共通認識らしく、背筋がゾクッとするような視線を何度か感じた。


 アルにも、依頼中は何があっても助けるし見捨てないけど、それ以外は自己責任。絡まれても自分で対処しろと言われた。


 俺はビビりまくり、まったくリラックスできなかった。町を出てむしろ気が楽になったぐらいだ。


 気は楽になったが、城壁の外はモンスターが蔓延る領域だ。油断してはいけないと索敵に集中する。


 道中にモンスターを見かけても、無理して倒さなくていい。なるべく避ける方向でと言われたので、言われたとおりモンスターを避ける。


 依頼の行きで獲物を倒しても荷物になるだけなので、避けて進むそうだ。気配察知を頼りに、モンスターを避けて、依頼のあった村へと急いだ。


 馬車を使えば、獲物を運びながら移動できる。馬車を使わないのかと尋ねた。


 馬車には馬が襲われないように、魔物避けの魔道具が設置してある。燃料の魔石が高いので、大人数が乗る乗合馬車、貴族、物資を大量に運ぶ商人ぐらいしか使わない。そう言われた。依頼のたびに馬車を借りたら赤字確定なのだとか。


 徒歩だと時間かかるんじゃないか? そう思ったが、レベル15の身体能力は現代日本の常識の枠外にあることを忘れていた。かなりの速度で移動し、昼には村に着いていた。


 依頼者である村長に詳しい話を聞きながら昼食を取ることにした。ゴンズとアルのすばらしい交渉術の結果、昼食は村が用意して村長の家で食べることになった。


 保存食は見るからに不味そうだったので、ゴンズとアルに感謝した。


 村の昼食は茹でたジャガイモっぽい芋とスープだけだったが、宿の飯より断然うまかった。


 宿の飯が不味いというより、宿泊費に含まれる食事がまずいのだ。高い金を出せばうまい食事も食える。


 ギルド酒場の料理は、ロック・クリフでも上位に位置するそうだが、いかんせん金がない。


 保存食を回避して、ただで温かい昼食にあり付けた幸運に感謝しながら村長の話を聞いた。


 灰色狼(グレイ・ウルフ)が家畜を襲って困っている。群れは最小単位の5体だが、村人の手に負えないので早く討伐して欲しい。ということだった。


 群れは東にある森からやってくる。他のモンスターは見ていない。などなど、必要なことを聞き出していく。


 アルは村長の話に矛盾がないか、嘘をついていないか、探りを入れながら表面上は丁寧に質問をしていた。


 村長との話が終わった後、アルが討伐対象である灰色狼(グレイ・ウルフ)の特徴などを教えてくれた。


 灰色狼(グレイ・ウルフ)は5体、10体と5の倍数で群れを作る習性があり、連携して狩りを行うそうだ。


 なにそれ、始皇帝時代の秦の()ですやん。もはや軍じゃねぇか! モンスター恐るべし。


 中途半端な実力の冒険者だと返り討ちにあう。アルがそう言っていたが、恐ろしく厄介そうだ。


 食事と打ち合わせが終わり、腹がこなれるまで休む。休憩が終わり、灰色狼(グレイ・ウルフ)が居ると思われる森へと向かった。


 俺は索敵だけで、戦闘には参加するなと事前に言われている。相手が連携して動くため、足手まといがいると危険なのだそうだ。


 森に着くと、ゴンズたちに待つように指示する。敵を発見したら報告にいったん戻る。そういって俺は森の中に入っていった。


 森へ入っていく俺にポツリとキモンが言った。


「お前の腕前を見せてみろ」


 おそらく猟師のキモンが今まで斥候を兼任していたのだろう。ここでキモンを満足させる結果を出さなければパーティーには入れない。






 森の中に入り、匂いの強いハーブを探す。全身泥スタイルができないので、自生する植物の匂いを体に付ける。森に溶け込むためだ。


 狼型ということは鼻が利くはずだ。


 森を探してすぐ、ミントを見つけた。異世界なのでミントと全く同じなのか分からないが、この世界は動植物が地球に似ている。


 あの神が転生させた世界なので似ているのだろうか。


 ミントは繁殖力が強いので、どこにでも生えているイメージだ。ミントをある程度採取すると、体にこすり付けた。


 匂いが薄いと体臭がごまかせず、匂いがきついと不自然だ。ここら辺のバランス感覚は、1年の野人生活で身につけた。スキル外スキルといっても過言ではない技術だ。


 足音に気を配り、気配察知を全開にする。気配隠蔽を発動し、気配を消してターゲットを探す。


 気配察知は『おぼろげに生物の気配が感じられる』というものだが、俺が気配隠蔽のスキルを持っているように、モンスターも気配隠蔽が使えるかも知れない。


 スキルを過信すること無く、目で耳で鼻で空気の味で皮膚で、文字通り五感全てで異変を探る。しばらく歩くと、僅かに動物の糞の匂いがした。


 肉食だとう〇こが臭くなると聞いたことがある。草食動物は逆なのだろうか? 小学生の頃、飼育係になりうさぎの世話をした。


 うさぎは、う〇こがあまり臭くなかった。草食動物だからなのだろうか。


 匂いを辿ると、糞を発見した。糞の近くの足跡を見る。たしかに複数の足跡がある。足跡を追跡しながら周りにも目を配る。


 木に付いている抜け毛の位置などから、大体のサイズを予測しながら歩く。たまに上位種の灰色狼(グレイ・ウルフ)リーダーが混じっていることがあるので要注意だと言われた。


 灰色狼(グレイ・ウルフ)リーダーは一回り大きいそうだ、足跡にひとつだけ深い足跡があればリーダーが居る可能性が高い。


 大きい分体重が重くなるので、足跡が深くなるのだ。幸いなことに追跡中の群れにはリーダーはいないようだ。


 足跡を追跡していくと、洞窟の入り口を発見した。足跡は洞窟へと続いている。洞窟はそこまで奥が深くないらしく、気配察知で5体分の気配を感じられた。


 俺はそっと、来た道を戻りゴンズたちに灰色狼(グレイ・ウルフ)を発見したと報告をした。そして、ミントの自生地にゴンズたちを連れていく。


 ミントを擦り付けることをゴンズは嫌がり、自分でやると言った。塗る量が難しいと説明すると、てめぇホモか! 俺様にさわるんじゃねぇと騒ぎだした。


 俺が困っていると、アルが説得してくれた。


 俺だって2メートルの斧スキンなんてさわりたくねぇよ。そう思いながらミントをゴンズに擦り付けた。


 最初は不満たらたらだったのに、おぉ、スーッとしていい匂いがしやがる。こりゃますます女共にモテちまうな。そう言ってがははと笑っていた。


 灰色狼(グレイ・ウルフ)に気付かれたらどうするんだこの野郎! そう思ったが、文句を言うと頭に斧が降ってくる。俺はぐっと我慢した。


 なるべく風下から洞窟に近付いていく。ゴンズが雑にガサガサを音を立てるので、いつ気付かれるかとビクビクしながら進む。なんとか洞窟前までたどり着いた。


 ここからは俺たちに任せろ。アルがそう言うと洞窟の前に向かっていく。


 ついに、自称ロック・クリフ最強のパーティーの戦闘が見られるのだ。本物の冒険者とモンスターの戦いを見られる。


 俺は高鳴る胸を押さえ、気配を消して隠れた。

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