冒険者の底辺
Previously on YazinTensei(前回までの野人転生は)
「なにジロジロ見てやがんだゴラァ!」
「へへへ、旦那があまりにも立派なもんでつい見とれてやした、すいやせん」
あいつらただ酒だからって馬鹿みたいに飲みやがって。
ふて寝をするためベッドに飛び込んだ。
のどの渇きを覚えて目を覚ます。意識の覚醒を待ってから、
階段を下りて、酒屋の親父に水を頼む。裏に井戸があるから汲んで飲めと言われた。昨日とは違う親父だった。
交代要員までおっさんってどういうことだよ! むさ苦し過ぎる。
井戸から水を汲み、近くに置いてあった桶に水を入れる。手で器を作り、桶の水を水をすくい喉を潤す。ふぅと息を吐き、桶にためた水で顔をバシャバシャと洗った。
太陽は真上に位置しており、昼まで寝てしまったらしい。朝方まで飲んでいたから仕方ないか。
俺は味覚が小学生なので、お酒は苦くてとてもじゃないが飲めない。だけど、昨日は付き合いで結構のんだ。
味は嫌いなのにぜんぜん酔わない体質なので、いつも飲み会が嫌だった。まずいし酔って楽しくもならない。まるで罰ゲームだ。
そんなことを考えながら、酒場に戻る。金を払い昼食を食べていると、ゴンズたち三人が酒場に入ってきた。
「おう、ヤジン! 今頃めざめたのか? いいご身分だな」
「昨日はアルさんのお話が楽しすぎて、つい飲みすぎてしまいやした」
「ヤジン、アルで良い。さんなんてつけなくて良い」
「俺もキモンで良い」
「ぬぅ、おめぇらいつの間にそんなに仲良くなりやがった。ヤジン! 俺様もゴンズで良いぜ」
「ゴンズさんを呼び捨てになんてできやせんぜ。ゴンズの兄貴、そう呼ばせてくだせぇ」
「兄貴だぁ? おめぇを兄弟にしたつもりはねぇが、まぁ呼びてぇなら好きにしな。がははは」
好きにしろと言いながら、ゴンズはとても嬉しそうだった。チョロい、チョロすぎる。これで美少女ならチョロイン枠なんだがな。俺よりゴリラだしなコイツ。
やたらとおだてに弱いゴンズが、ご機嫌になった。この空気なら大丈夫だと判断した俺は、本題を切り出した。
「ゴンズの兄貴、俺を兄貴のパーティーにいれてくだせぇ」
俺がそう言うと、機嫌の良かったゴンズが一変した。
「あぁ? てめぇ俺たちに寄生しようってのか?」
ゴンズがギロリと俺を睨み付ける。
「おめぇ昨日冒険者登録したばかりじゃねぇか。それに、そんなにちいせぇからだで戦えるのか? あぁん」
「レベルを上げれば、小さい体でも大丈夫でさぁ。それに分け前も、俺っちが一人前になるまで少しでもいただけりゃありがてぇ。このまま何もしらねぇまま冒険者になったら、すぐにくたばっちまう」
「分け前が少しで良いって言ってもおめぇ、役立たずなら寄生にかわりねぇぞ」
「斥候として働かせてくだせぇ。これでも索敵は得意なんでさぁ」
俺がそう言うと、今まで無関心そうだったキモンとアルも、俺に厳しい目を向けてくる。
「おめぇ、斥候がどういう役割なのか知ってんのか?」
「敵の痕跡を探して追跡したり、あたりの索敵をして効率的に敵を狩ったり、不意打ちを避けてパーティーの安全を守る仕事じゃねぇんですかい?」
「おめぇ、マジでしらねぇのか?」
「ゴンズ。ヤジンはものすごい田舎から出てきたらしい。よく知らないのかもな」
アルがそう言うと、みんなの厳しい視線が少しやわらかくなった気がした。
「ヤジン、おめぇどうして冒険者になろうとしてんだ?」
ゴンズにそう尋ねられた俺は、あらかじめ用意していたカバーストーリーを話した。
祖母は誘拐され奴隷としてこの国につれてこられた。紆余曲折あり、ド田舎の村長に奴隷として買われる。俺の母親が、村に貢献したとして解放奴隷になる。
息子の俺は、村長の仕事を手伝いながら普通に暮らしていた。村長が死に、息子の代になると露骨に俺を差別しだした。
危険な仕事を押し付けられたり、不当な扱いを受けた。母親が死んだのを機に、村から出てきた。身元が不確で、人相もここら辺では珍しい。
そのため、まともな仕事に就けない。
村では、森で獣やモンスターを追跡をさせられていた。その技術を生かして冒険者になろうと思った。
俺はそう答えると、アルに基礎値やレベルの壁は知っているか? と尋ねられた。俺は知らないと答えた。
ゴンズは、どれだけ田舎だったんだよ。普通のやつはみんな知ってるぞ。そう言いながら呆れていた。
緊迫した空気が
運ばれた昼食を食べながら、レベル、スキル、基礎値などを、アルは説明してくれた。
自分の強さを確認するためには、
現代の技術では、製造どころか解析すらできない物が多い。そして、レベルを確認する
レベルの確認だけなら、大きな街の教会に行けば確認できるそうだ。もちろん、それなりの寄付を求められる。
さらに高性能な
そのため、身元の確かな貴族、一部の軍属でしか、使用を認められていない。
冒険者は、自分のスキルを確認できないため、感覚で理解するしかない。そして、習得したスキルは本人にしかわからない。
私は、〇〇のスキルを所持しています。なので、PTに入れてください。そう言われても確認のしようがないため、発言した人物の信用度が必要になる。
自分のスキルを隠したがる冒険者も多い。スキルの話は慎重にしろ。アルは、そう忠告してくれた。
昔は、レベルとスキルしか確認できていなかった。なので、そのふたつが人の能力を表していると思われていた。
だが、その常識が覆る。
今から数百年前のこと。迷宮都市マリベルで、ダンジョンから発見された
マリベルで発見された
表示された項目は5つ。迷宮都市マリベルの領主は、莫大な予算を投じて、数値の効果、レベルとの関連性などを調べた。
その結果、数値の詳細がわかったそうだ。
筋力 力の強さ
頑強 肉体の頑丈さとスタミナ、毒、麻痺、石化などの状態異常耐性
知力 魔法関係(貴族と教会が魔法関係の知識を独占しているため詳細不明)
精神 魔法抵抗、恐慌、魅了、混乱なのど精神異常耐性
器用 手先の器用さ、弓の命中率や生産系スキルの効果に影響
このような知識は独占するのが普通だ。しかし、とある事件が切っ掛けで、情報が広く公開されたのだという。
迷宮都市マリベルは、周辺に3つのダンジョンを抱えている。ダンジョンから採れる様々な素材は、マリベルに富をもたらした。
3つのダンジョンは、それぞれ出てくるモンスターの種類が違う。そのため様々な生物素材、鉱石、薬草などが手に入り、好景気にわいていた。
マリベルの領主は、3つのダンジョンを発見した、冒険者の子孫たちが代々努めてきた。ダンジョンを深部まで攻略した、伝説的な冒険者の子孫であり、ダンジョンを知り尽くしていた。
領地経営は非常に安定していた。
ダンジョンは、うまく管理しないとスタンピードを起こす。大量のモンスターが、ダンジョンから溢れ出してしまう。
溢れ出したモンスターは暴走しながら、周囲を破壊し尽くし、恐ろしい被害をもたらす。
迷宮都市は、膨大な富を生み出すと共に、常に破滅のリスクが付きまとう。ダンジョンの専門家一族、冒険者の子孫以外に管理をさせるのは難しかった。
しかし、力を蓄え過ぎた迷宮都市は危険視されてしまう。帝都から無理難題を押し付けられたり、大金を支払わされたりと、不遇な扱いを受けていた。
迷宮都市が力を付け過ぎないようにしたのだろう。当然だが、領主一族は帝都にいる官僚、貴族、皇族に対する憎しみを募らせていく。
そんなとき、帝都が多くの時間と大金を費やして手に入れたステータスのデータと、
それを聞いた領主一族はついにブチ切れた。
帝都の要求を拒否したあげく、研究データを公開したらしい。人類の共通の敵である、モンスターとの戦いに役立てて欲しい。そう、メッセージを添えて。
人族以外にも公開したというから驚きである。理不尽に奪われるぐらいなら、全部ぶちまけてやる。
そう思ったのだろうか? 領主一族の怒りの強さが窺える。
迷宮都市の反逆に、皇帝は激怒した。迷宮都市に軍を派遣し、領主一族を断罪しようとする。
いくら栄えているとはいえ、一地方の都市でしかないマリベル。皇帝の軍勢に為す術なく蹂躙されると思った、そのとき。
マリベルの領主一族は、とんでもない発言をした。
迷宮都市に軍を差し向けた場合、3つのダンジョンで人為的にスタンピードを起こす。周辺を巻き込み、迷宮都市マリベルごと滅ぼし尽くす。そう発言したのだ。
ハッタリだと思うが、万が一でも本当なら洒落にならない。
迷宮都市と帝都までの距離は意外と近く、3つのダンジョンが同時にスタンピードなど起こそうものなら帝都は崩壊する。
それどころか、メガド帝国自体滅びかねない。
スタンピードを恐れた皇族たち。迷宮都市で手に入る素材で商売をしていた大商人。その大商人から金を受け取っていた貴族たち。
それらの勢力が、迷宮都市へ軍を派遣することを反対した。
聖域の森事件で求心力を失っていた皇帝は、無理やり己の意見を通すことができなかった。
話し合いの結果、迷宮都市マリベルは、高度な自治権を有する特区として存在することになった。
そういう理由があり、ステータスには表示されない5種類の能力と、レベルの関係性が広く知られているのだという。
5種類の数値には基礎値という物が設定されている。この数値は生まれながらに決まっており、18才になるとその数値通りの能力に固定される。
肉体が成長仕切ったときの性能、ということなのだろう。基礎値は生まれた時点で確定しており、幼少期に鍛えたとしても基礎値が変わることは無い。この基礎値が非常に重要なのだという。
人の能力は、基礎値に係数を掛けて算出した数値と、基礎値の合計数で決まる。
たとえば、筋力基礎値10の人物がレベル2の場合 基礎値10 係数0.2 10×0.2)=2
この2がレベル補正になる。つまり基礎値10とレベル補正2で 10+2=12
筋力基礎値10の人物がレベル2のとき、この人物の筋力は12となるわけだ。
体を鍛えた分の数値は、この12にプラスされるという形になるらしい。
基礎値10レベル補正2死ぬほどがんばって筋トレ3 10+2+3=15
この人物の筋力は15となるわけだ。恩恵は低いが鍛えて損は無いといったところだろうか。
レベル補正の係数は、レベルが上がれば上がるほど数値が大きくなっていく。細かい数字などは、学者ぐらいしかしらないそうだ。
つまり高レベルになればなるほど、基礎値の差がでかくなる。
基礎値=才能としても良いのかもしれない。
5種類の能力数値を伸ばす方法は他にもある。そう、スキルだ。
剣術や斧術などのスキルは、筋力や頑強の数値に補正がかかる。基礎値とレベルが同じ人間でも、数値に差が出ることがある。
そのため、確認はできていないが、スキルにもレベルがあるのでは? そう推測されている。
武器を扱うスキルのレベルは、ほとんど重要視されていない。なぜなら、スキルを覚えたてでも、高レベルと思わしき人物でも、太刀筋に変化は無いからだ。
スキルレベルを上げても、肉体に補正がかかるだけなら、レベルを上げたほうが早い。戦っていればそのうち勝手にスキルレベルも上がる。
なので、スキルがあるかどうかは重要視されるが『あるかもしれない』程度の認識である、スキルレベルは重要視されていない。
この世界で重要視されているのは、基礎値とレベルだ。ところが、レベルには5レベルごとに壁があるらしい。
レベルの壁は、
レベルの5の壁を破るには、格2以上のモンスターを倒せば壁を超えられる。レベル10なら格3といった感じだ。
冒険者の討伐依頼も、自分の格に合った依頼を受けるのが普通だ。ひとつ上の格のモンスターは、文字通り格が違う。
レベルの壁を超えるのは、命懸けだと言われている。
ステータス的な壁とは別に、15レベルの壁というものが存在するそうだ。冒険者の8割以上が15レベルで停滞している。
なぜ15レベルの壁を越えられないのか? その理由は非常にシンプルだ。金が掛かるから、それが理由だ。
格4のモンスターを倒すとなると、鉄の武器では無理なのだ。
この世界の鉄は、ものすごく高価だ。まず木炭を手に入れるのが大変だ。木を切りに行くにもモンスターがいる。そのため、護衛が必要だ。
人件費がかさむため、木材の値段が高くなる。その高価な木材を炭に加工する。さらに高価になった炭を大量に使って、鉄を精錬する。精錬した鉄を加工して、鉄製品を作る。
高額な燃料費と、職人の手間賃。それらを考えると、鉄製品が高価になるのは容易に想像できるだろう。
黒鋼は加工するのに高い火力が必要で、上質の炭がいる。それに、加工できる腕を持った職人が少ない。そのことが、値段の上昇に拍車を掛けている。
冒険者は、一般人よりは稼ぎがいい。それは確かだ。それでも、おいそれと買える代物ではないのだ。
冒険者には階級制度がある。ゴンズたちは6級冒険者らしい。この世界の冒険者ギルドは、10級が一番下で一番上が1級なのだそうだ。
5級になるためにはレベル15の壁を越えていないと駄目らしく、5級冒険者以上は一目置かれる存在になるのだという。
ゴンズたちは、ロック・クリフ最強のパーティーと呼ばれていて、6級と言えども一般人とは比べ物にならないほどの収入があるそうだ。
だが、冒険者は実入りも多いが経費も掛かる。武器は高い。戦闘中に武器が壊れれば、それだけで赤字確定だ。装備のメンテナンスにも金が掛かる。さらに、傷薬などの消耗品もある。
怪我をすれば治るまで働けない。依頼に失敗すれば、依頼料の倍額を賠償金として支払わなければならない。
中には賠償金狙いで、わざと依頼失敗になるように情報を隠したり、嘘を教える依頼者もいるのだとか。
最も悪質なケースは、冒険者ギルドの職員と依頼人がグルになっているケースだ。そうなると、どうしようもない。
そこまで悪質でなくても、依頼料をケチるため、モンスターの規模をわざと少なく報告する依頼者も多い。
ゴンズたちも、悪質な依頼者にハメられて、違約金の支払いに困り、借金奴隷になりかけたことがあるそうだ。
もちろん悪質過ぎると、冒険者ギルドのブラックリスト入りをする。そのため極端な例は少ないが、
どれだけ気をつけても、こういったトラブルからは逃れられない。
命懸けでモンスターと戦うストレスから、酒や女に走ることも珍しくない。戦いの後は特に高ぶるので、女が欲しくてたまらなくなるそうだ。
様々なトラブルを乗り越えて、酒も女も我慢して、必死に金を貯める。そうやって努力しても、ストレスや疲労から、あっさり命を落とすことも少なくない。
黒鋼の武器をパーティー分購入することは、非常に困難なことだ。
金持ちの道楽や貴族の庶子のように、最初から金銭的な援助を受けられる立場の人間は別だが、一般的な冒険者の多くは、黒鋼装備が買えずにくすぶっている。
鉄の武器で目を狙うとか、罠に掛けるとか知恵と工夫でどうにかできないかと聞いたが、非常に難しいようだ。
格4より上のモンスターは、文字通り別格だそうだ。装備をそろえず戦いを挑んで、成功したやつはほとんどいない。
なので、多くの冒険者がレベル15でくすぶっている。アルはそう言った。
この話と斥候に何の関係があるのかな? そう疑問に思った。顔に出ていたのか、改めて説明してくれた。
高レベルになるほど、基礎値が大事だ。だけど、低レベルでも基礎値の差はでかい。ほとんどの冒険者がレベル15で止まっている。
だから、基礎値の差が能力的な差に直結する。基礎値15と基礎値10では、レベル係数に極端な差はでない。
だけど、基礎値が1.5倍もあるため、レベル係数を掛けた数値に大差は無くても、合計値はぜんぜん違う。
頭の悪い俺でもわかる、当然の話だ。そう思っていると、冒険者に必要なのは筋力と頑強の二つだ。そう言われた。
筋力は攻撃力に直結するし、スタミナは重要だ。
この世界は時空魔法もアイテムストレージもない。魔法鞄はあるらしいが、ダンジョン産の
つまり、狩った獲物を自力で運ばなければならない。生物というのはとても重いため、かなりの筋力とスタミナがいる。
筋力とスタミナがあれば、それだけ多くの獲物を運べる。収入に直結するというわけだ。
アルは、ここからが本題だ。そう言った。
「検証した結果、生まれつき体格の良い人物は、筋力と頑強の基礎値が高い傾向にある」
なるほど、デカイやつが多いわけだ。冒険者の2~3割ぐらいは女性だが、みんな背が高い。冒険者ギルドで、一番背が低いのは俺だろう。
俺の身長は170センチ。日本だと平均的な高さだが、ギルドに居るメンツは180センチを超えている。
背の低い冒険者は、どこのパーティーにも入れてもらえない。ソロで無理をして野垂れ死ぬか、盗賊に身を
それ以外でも、パーティーに入る方法がある。それが斥候と呼ばれる囮である。自分を餌にしてモンスターを引っ張る役目だ。
戦闘では役に立たないので、自分の命を餌に敵を引き付ける。それでも戦闘で貢献できないため、寄生していると冒険者たちから馬鹿にされている。
「才能のない冒険者の底辺を、皮肉を込めて斥候と呼んでいるんだ」
アルは気まずそうに言った。
うわーやっちまった、そりゃゴンズたちがあんな顔になるわけだ。斥候として俺を使ってくれなんて言ったら、暗に雑魚を囮に使い潰す極悪パーティーの皆さんですよね? と言っているようなものだ。
やっちまった、どうしよう。俺は頭を抱えた。