番外編 夢ともしもとありえた世界
番外編です。ゾンビ? 何それ、美味しいんですか? 酢味噌にあいますか?
甲高い電子音が響く。脳の随にまで突き刺さるような不快極まる音は、人間の本能を痛いほどに刺激し脳髄に覚醒を促す。だからこそ、目覚ましの音源に使われているのだろうが。などと余計な事を思索しつつ、寝床にてぬくぬくと温まっていた生物は寒さを堪えるように手を寝床より引っ張り出した。
ふらつく動作で高々と掲げられた手は、おおざっぱな当たりを付けて地に向かい叩きつけられる。と、言うよりは筋肉を弛緩させて保持させる力を減衰、後は重力と体の構造に任せて行う適当な打擲だ。
掌は中心からは大きく逸れた物の、枕元でトーンの高い電子音を連続して発していた目覚まし時計に命中し、天面に備えられていたスイッチを押し込む事に成功する。目覚めを報せる操作に、時計は職務を果たしたと言わんばかりに沈黙した。後は、寝床の生物が二度寝の微睡みに沈んでいこうが、仕事に遅刻しようが時計の預かり知らぬ事だ。もう、彼は十分以上に仕事を果たしたのだから。
真冬の二度寝ほど心地よい物は無い。暖かな蒲団に籠もる自家熱と毛布やシーツの柔らかさ。脳にうっすらとけぶる眠気の靄に浸りながら、じわじわと再び睡魔の沼へ落下するのは快楽さえ伴う。古くは漢詩や古文の歌に歌われるまでに人類を堕落させる行為に、その生物も埋没しようとしていた……。
が、そうは問屋が卸さぬと言わんばかりに部屋の襖が開かれ侵入者が微睡みを打ち消すようにやってきた。畳の上で発せられる足音は、軽く、かつ小さい。
細くしなやかな指を持つ手が、大判の蒲団にくるまる生き物の肩口と思しき辺りを揺らした。一度、二度。しかし、それでも心地よさにしがみつくように、それは動かない。
揺する回数が二桁を大きく上回った頃、拉致が明かないと手の持ち主は判断しかのか、アプローチの方法を変更する。そのまま僅かに手を動かし、蒲団の端を掴む。引き剥がそうというのだ。
地面に固定されているのではなく、ただ乗っかっているだけの蒲団を退き剥がすのは難しくも何ともない。にも関わらず、蒲団は引っ張っても動かない。突っ張って伸びるだけで、中身を晒そうとはしなかった。再度引っ張ってみたところで、返ってくるのは微かな呻き声のみである。
今度は潔く諦め、手を離す。すると呻き声もやんだ。その下から響く呼吸音は、一定で穏やかだ。既に体は寝入る体勢に入っているらしい。
仕方があるまい、と乱入者は再び蒲団を引っ掴んだ。ただし、今度は足があろう側の端っこを。
今度は、蒲団は呆気なく退き剥がされた。足下から勢いよく跳ね上げられた蒲団は、そのまま頭の方まで翻り覆っていた足先から胸程度までをさらけ出す。放り出された蒲団の下部が、枕元の目覚まし時計を吹き飛ばす。
「さっむぁ!?」
中途半端に言語化されていない声が響き渡る。真冬の朝方の空気は、まるで刃引きでもされているかのように冷たく肌に突き刺さるのだ。分厚いスェットなら幾分か抵抗の余地もあっただろうが、着ているのが薄いシルクのパジャマでは脆弱すぎて冷気の侵略を妨げる牙城としては些か以上に頼りない。
気温が高い所から低い所に引っ張り出された際に感じる寒さは筆舌に尽くしがたい。それも、気分良く二度寝に耽ろうとしている時に受けた不意打ちであれば尚更だ。珍妙な叫び声の主は、自らの体をかき抱きながら、胸から上だけを隠していた蒲団の残りから這いだした。
「……起きた」
ある種、滑稽と言えるような動作を身ながらも、蒲団の略奪者から溢れた感想は極めて無機質な物であった。小さな声は凛と高く、感情の色は極めて薄い。
「何するんだ!?」
対して、溢れた叫びは実に大きく感情に豊かな物であった。階下で包丁を振るう存在が、その残響を聞いて溜息を零すほどに。
「お父さんが、馬鹿を起こしてこいって」
掴んでいた蒲団の端を離し、二度寝の妨害者たる少女は事も無げに言う。そろそろ就学を控えているのでは、と推察させる外見をした年の頃の少女は相手の抗議に何ら感想を抱いていないらしい。零した言葉も、単なる自分に下された命令の伝達に過ぎなかった。
「あいつ……」
軽く憤りながら蒲団の主、寝こけていた長身の女は寝起きで乱れた長髪を軽く掻き毟った。束ねることも無く寝床に頭まで潜っていたせいか、髪の毛は方々で思い思いに跳ねており纏まりが無い。ただ、髪質は柔らかな直毛なので、絡んだ部分も梳いてやるだけで容易く元に戻るはずだ。
「もっと起こし方があるだろう……」
寝起きで軽く低血圧な女は、どこか不機嫌そうに少女……自らの血を分けた子に告げた。真っ黒な髪にブラウンの瞳と血色が悪い肌色。そして、人形のように整っていながら感情の色が滅多に浮かばない造顔。無機質、と見る者に感じさせる雰囲気に違わず少女、彼女の娘は余計な事を話さない。
自分の良い所と相手の良い所を足して二で割り、そして自分の悪い所と相手の悪い所を足しっぱなしにしたようだと女は思った。今も、感情が全く伺えない黒曜石の瞳が彼女の目を灼くように注がれている。
「分かった分かった、起きるよ……二度寝くらいさせてくれ……」
「ごはん」
「ああ、分かってる。下でお父さんと待ってなさい」
少女は頷くと、とてとて、とでも擬音を付けるとしっくりくる走り方で去って行った。こういった動作だけは、年相応の子供じみているのが何とも不気味だ。
最初は、泣かないし笑わないし話さないのでサイレントベイビーが聾唖かと思った。しかし、検査の結果どちらでもないと分かったのだが、逆にそれが不思議でならなかった。
そして、その有様は今も変わっていない。物静かで大人しく、我を出す事は滅多に無い絵に描いたような良い子。ただ、その良い子が笑ったりしない人形のような有様であったなら、周囲からの評価は当然の如く変わる。不気味だと。
娘には言語障害も無く感情があるらしい言動はするし、よくよく観察してやれば食べ物に好き嫌いもある。例えば、彼女の夫に似たのか娘はトマトを最後に回し、数十秒ほどじっと逡巡するかのように見つめてから食べるなどだ。
ただ、そんな物はよく見られる立場にあるからこそ分かる事だ。故に、他人は娘を見て、こう考える。もしかしたら虐待されて心を閉ざしているのではないか、と。
子供を放置していたり、怒鳴り声と共に泣け叫ぶ声が響く家の親は得てして面倒くさいから誰もが無視するが、女のようにまともに見える人間相手であれば他人の遠慮は無い。何かあったとしても、有形の害が自分に及びづらいと想像出来るからだ。そして、そんな相手に限って児童相談所も仕事がやりやすいとばかりに干渉してくる。よくそれで給料を貰えるな、と女は怒鳴りつけてやりたい気分にされるも、仕事は仕事だ。特に文句を表に出すことは無い。
娘は正常であるはずだ。肉体的にも、そして恐らくは精神的にも。幼少時から言葉をかけて愛情たっぷり、と言うと疑問が残るものの普通に育ててきた。だのに、この有様である。
血は水よりも濃いというが、何とも因果な物だ。深い溜息を吐きながら女は寝間着を脱ぎ捨ててシャツとパンツに着替えた。今日も面倒くさいが仕事だ、スーツという甲冑に着替えなければならない。
下着を就寝時用の適当な物から平時用に着替える。少なくとも、社会人ともなれば三枚千円程の安物を着けてはいられない。
豊かな、しかし経産婦となり育児の結果か若い頃から比べて幾許か張りを失い色素の沈殿が目立つ乳房をブラジャーに収める。劣化した己の体を見る度に、女は自分が母親になったのだと認識させられる。何と言うべきであろうか、嬉しくもあるのだが不本意でもある。女とは厄介で複雑な生き物なのだ、他人にとっても、勿論自分にとっても。
階下に降りて洗面台で顔を洗ってから居間に向かうと、大きめの座卓の上には既に朝食が並べられていた。
暖かな湯気を立てる炊きたての麦が混ぜられた米飯。味噌汁は出汁から取ったらしく非常に薫り高く、中に浮いているワカメも瑞々しければ絹ごし豆腐に煮崩れもない。塩鮭は自身から油を滲ませながらも皮はぱりっと焼き上げられ、よく利いた塩はうっすらと水分が飛んだ表面に浮き出ている。
付け合わせに添えられているのは柔らかそうでありながら形を維持した南瓜の煮付けだ。三人分並ぶ食事の中で、女の定位置に置かれている物の内容だけが他と違った。他の二つは南瓜の煮付けではなく、小鉢に移された納豆だ。女は関西人によくあることだが、臭いのきつい納豆が好きではないから、別メニューなのだ。
「おはよう」
そう、声をかけると等閑ながらも返事が二つ返ってきた。返答の発生源は、それぞれの為に用意した座席の一つに腰掛ける娘と、給仕がし易いように入り口側に座った一人の濁った目をした男。
背は低く表情は平坦だ。どことなく、雰囲気が娘に似ていた。量販品のスラックスとシャツに身を包み、側には割烹着が丁寧に畳んで置いてある。朝食を用意した者であり、女の夫であった。
この家における食事という行為には、全員が揃うのであれば揃ってから、という不文律がある。家族とは全員で食事を摂るもの、という理屈を取り出したのは、目の前の死んだ魚の方が幾分か生気に溢れている目をした男だ。
三人のいただきます、という声が唱和する。めいめい好き好きに箸を付け、朝食を胃にねじ込む作業に没頭する。味は、文句なしに美味と言えた。味噌汁は出汁の風味が深く濃厚だ。炒り子と鰹だしの味噌汁は、味付けそのものは薄味だが風味と香味がたっぷりと込められている。口腔を通り、鼻から抜けていく香りは味わいをより深くするのだ。
食事とは舌だけで味わう物では無い。味そのものと、口腔から鼻腔へ抜けて感ぜられる香気の二つが合わさって始めて本来の味になる。どちらが抜けても、食べ物は味気ないものになってしまうのだ。
塩鮭は、今時珍しく一欠片で口中の水分が無くなるのでは、と思う程に塩が利いている。塩辛さを中和する為に米をかき込み咀嚼すると、二つが混ざり合い丁度良い塩梅になる。
米に運ぶ箸を進めるのは南瓜の煮付けもだ。甘く、ねっとりと濃い味付けは米のデンプンに由来する甘みと混じり合うと絶妙な物となる。混ざり合った甘みは、どちらか一方だけでは感じられない調和の取れた甘み。箸を三方に散らしながら米を消費していると直ぐに無くなるのでお代わりを要求すると、男が椀を受け取って直ぐにキッチンの炊飯器から米をよそってきた。
この米もよく炊けているし、米自体の質も良い。男の田舎から大量に送られてきた新米らしい。それも、普通に買うなら一〇kgで四千円はする良い銘柄の米である。
実に舌に楽しい朝食を片付けて、全員が食べ終わるのを待ってから、ごちそうさまの唱和がなされた。食べ始めるのも、食べ終わるのも全員でだ。その間、誰も口を開かないのは、男が食べながら喋るのは行儀が悪いから、と嫌っているからである。
「今日は、早く帰れるんですか?」
外見と同じく男の声も特徴の無い声だ。強いて言うなら、平坦で抑揚が無く、感情が籠もっていない程度であろう。女は、その問いかけに、まだ分からないと告げた。
この家庭では女が働き、男が家を護っている。娘が産まれるまでは共働きだったのだが、女が仕事を辞めるに辞められぬ立場にあったが、娘は普通に育てたいと主張する男の意思に従った結果、このような形に落ち着いたのである。
男は男で軽い在宅業をしているので完全な主夫ではないが、それでも家は常に小綺麗に保たれ食事も三食手を抜いていない。女も弁当を持たされており、それは今も御厨やの中であら熱を取るためにひっそりと置かれている。
御夕飯は一応準備しておきます、との言葉に女は頷いて席を立った。男も食事の後片付けを始め、少女は居間の押し入れを開けて黄色い通園鞄を取り出した。
男は主夫であるが、それでも幼稚園に通わせて社会生活に早くから慣らしておく必要があると考え、娘を幼稚園に通わせている。滅多に話さず表情も変えないので、少女は園でも浮いていたが、それでもちゃんと通わせている。
「今日はお弁当だから、まだ鞄閉じちゃ駄目だぞ」
鞄の中身を確かめている娘に男が声を掛ける。娘の通う幼稚園では、給食が出るが衆に一回だけはお弁当の日になっていて、弁当を持たせなければならないのだ。娘は、頷く事だけで返事をするが、男はそれを視界の端に留めていたので何も言わなかった。
親が何でも先回りしていては子供の成長を妨げる、と考えているからか、男から娘に殊更何かを要求することは無い。子供らしくしろだの、大人しくしなくてはならないだのと言った事は無い。ただ、危なければ注意をし、悪い事をしたら叱る、その程度だ。
しかし、どうして、こうも自分に変な所で似てしまったのだろうと男は考える。軽く首を傾げて、思い当たる節を数えても、精々血の宿業程度だ。それにしても、強く引きすぎではないか? と少し残念に思う。自分は男だから仏頂面貼り付けて無口を決め込んでもどうにでもなるが、女だとそれは難しい。せめて、妻のように愛嬌があって元気ならば、どれだけ内実が歪んでいても生きやすかろうに。
いや、娘はきっと歪んでは居ないのだろう、と男は考えた。臭いがしないのだ、同類の。それは、物理的に感じられる臭いでは無い。何となく、で察する同類とでも評するべき雰囲気、それが自分の娘にはないのである。
そこだけは似ないで居てくれた事に男は心の底から安堵した。その部分が似てしまっては、例えどれだけ他の部分が恵まれていても生きる上での苦労は計り知れないだろうから。
弁当に詰められた米やおかずが十分に冷めた事を確認してから蓋をする。そうしないと、中に籠もった半端な熱で傷んでしまうからだ。
箸箱を添えて弁当箱を巾着袋にしまうと、上からスーツのジャケットと鞄を小脇に抱えた女が降りてきた。跳ね放題の髪の毛をさておけば、薄化粧を施した姿はキャリアウーマンそのものである。
男は女の髪を見て、少し溜息を零してから台所に置いてある椅子を指し示してから、洗面台に足を向けた。座れと言葉も無く命じられた女は、毎日の事なので何も言わずに鞄とスーツを綺麗に磨かれた調理用のテーブルに置いて座る。
洗面台に向かった男が戻ってきた時に手にしていた物は、木製の櫛だ。艶々とあでやかな飴色をした櫛は、つげで作られた上質な物である。
「髪の毛くらい、自分で梳かしてください」
「いいだろ、別に。夫婦のスキンシップだよ、スキンシップ」
やれやれと言うように顔を僅かに顰めながらぼさぼさの髪に櫛を通す男と、機嫌良さそうに笑い子供の如く長い足をぶらぶらさせる女。時折、嬉しそうな笑みを浮かべながら頭を反らして背後に立つ男の鳩尾に擦り付ける女は、こう見えて実に甘え上手であった。だからこそ、男も面倒くさそうにしながらも朝の貴重な時間を使って女の髪をといてやっているのだか。
「はい、できました」
髪の毛を梳きすかし、最後に髪ゴムで頭の高い所で一括りにする。子供が産まれてから、幾分か切って短めにした髪でも背中の半ばに届く程に長い。歩く度に揺れるそれは、まるで猫の尾のようであった。
「ん、悪いな」
髪の状態に満足したのか、女は柔らかく破顔して男の頬に手を添え、軽く口づけを落とす。身長差が二〇cm以上あるので、正しく落とす、という表現が似合う光景だった。
女はジャケットを羽織ると、弁当を鞄にしまい始める。男も、唇にほんのりと移った口紅を舌先で拭いながら居間の鴨居にハンガーで引っかけられていたオーバーコートを手に取る。流石にスーツだけでは寒いだろうから、外に出るのなら防寒具は必須だ。
コートを手に男がキッチンに戻ると、女から弁当を手渡された娘が、自分の通園鞄に弁当をしまい込んでいた。女は小さな手で苦労して膨らんだ鞄のジッパーを閉める娘を愛おしげに数度撫で、額にキスを落とす。娘は、少しだけ恥ずかしそうに目尻を緩めた。
コートの両肩を持ち、軽く掲げる男に女は背を向ける。腕を伸ばして掲げられたコートに女は袖を通し身に纏った。薄手だがカシミヤ製のコートは保温性に優れ防寒能力は高い。これは、女の誕生日に男が自分の貯金から調達して贈った物だった。
「それじゃあ、行ってくる」
「お気を付けて。お早いお帰りを」
鞄に指を引っかけて持ち、見送りの言葉を背中に受けながら女は颯爽と出勤していく。今日も、代わり映えは無いが大切な仕事が待っている。今の生活を守るための仕事が。
ヒールの低いパンプスに足をねじ込み、玄関の戸を開く。底冷えのするような外気が飛び込んできて、コートから覗く首筋が泡だった。軽く襟を立てながら、今度はマフラーでもねだろうか、などと勝手な事を考える。
玄関の向こうには家の一階を刳り抜いて作った屋内ガレージが広がり、一台の車と大型バイクが停まっていた。車は男の希望で買った中型のワゴンで、バイクは女が趣味で大学時代から乗り続けている大型バイクだ。昔は通勤にも、この市販モデルのレーシングバイクを使っていたが、今ではとんと乗らなくなってしまった。
たまには吹かしてやらないと、エンジンがへたってしまうなと思うと、何やら硬質な物がコンクリートの床に当たる甲高い音を響かせながら影が車の向こうからやって来た。
一頭の大型犬だ。黒銀の毛並みも艶やかなシベリアンハスキー。男が、子供の教育に生き物を飼うのが向いている、と理由を並び立てながら自分の趣味で買ってきた犬。ガレージの中に置かれた犬小屋から、女を見送るために出てきたのだ。
「おー、今日も行ってくるぞ。二人を頼むな、カノン」
少し乱暴に頭を撫でてやると、犬は機嫌良さそうに吠えた。
掌に僅かに移った獣臭を気にしながらも、女はシャッターを開けて表に出た。真冬の薄ら寒いほどに澄んだ青空には雲一つ無く、乾ききった空気は爽やかに町中を吹き抜けていく。
「さてと……今日も頑張りますか」
ふと、寒さで寝床にくるまっていた生き物は目を覚ました。毛布を二枚に掛け布団までして寝ているのに、寒いとはどういうことだと思い身じろぎすると、寝相で蒲団がめくれている事に気付く。
寝ぼけ眼で周囲を見回すと、そこは自分が住み慣れた住処に他ならない。狭苦しい部屋に狭苦しい寝床。乱雑に積み上げられた生活物資達。
夢だったのだ。
何と、勝手な夢を見たものかと夢の主は小さく頭を振った。もしも、を何処までも好意的かつ希望を含んで発展させた未来。挙げ句、自分以外の思考や存在までねつ造し演出された悪趣味な夢。
我ながら阿呆臭い、そう思いながら、夢の主ははだけた蒲団を正すと、中に籠もる熱に再び身を浸した。まだ、起きる時間にはなっていない。なら、二度寝しても良いはずだ。今度は、もう少しまともな夢を見られれば良いのだが。
そう考えながら、夢の主は蒲団の中で身を丸めた…………。
どうも私です。番外編は、本当に思いついて現実逃避にやってしまっただけなので、特に気にしないでください。就活で頭が茹だっただけなんです。
先輩と、就活しないで主夫やりたいねー 的な事を話しながらした勝手な妄想です。家事できるし、在宅業なら続けようと思えば続けられるので、誰か養って貰えない物でしょうか……。
番外編は、気が向いたらちまちまやる予定です。ゾンビ発生直後のおやっさん達が苦労する話も、恐らくは番外編扱いになると思いますので、今暫しお付き合いください。……仕事見つかるといいなぁ。