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74 奇病の治療

本日10月10日「釣りの日」に「異世界釣り暮らし」が発売されます! されました! たぶん! 私も書店に行って確認したいところですが、時間が取れなくて……。発売記念釣行の結果は下の後書きに載せました。

「ざっくり説明します。ざっくりですよ? 完璧な理屈ではないですからね?」


 とおれは言ったが、めちゃくちゃ緊張している。だって、おれたちがいただだっ広い空間を、埋め尽くす海竜たち——人化していたり海竜のままだったり。

 もともと世話役の老人とクロェイラの叔父であるイケメンにだけ説明していたのだが、途中でイケメンがパチンと指を鳴らしたんだ。

 ——聞きたい者はここに来なさい。

 と言った。家から顔出してたり、物陰からこっちをうかがってるヤツとか多かったからな。

 で、この状態である。


「我々の食事というのは、動物や植物を食べます。これら生物を食べると、消化し、栄養を吸収し、尿や糞となって排泄します。では質問ですが、石や金属を呑み込んだらどうなります?」

「それは……気分が悪くなりましょう」


 と老人が答えてくれた。他の海竜もうなずく。

 えーっとそういうことじゃなくてね。


「まあ、そうですね。もっと小さいもの——たとえば小指の先くらいの金属の玉を呑んだら、身体の中を通ってそのまま糞として排泄されるはずです。一切消化も吸収もされず」

「それはそうでしょうな」


 すると群衆から「石を食う魚もいるぞ」と声が上がった。そういうのは石の表面についている藻を食っているんだと教えてやると「すごい」「物知り」と感心された。いやーそれほどでも……あるけど! 魚に関しては!


「ですが、金属というのは水に溶けるものもあるんです」

「はあ……」

「簡単に言えば、粉状にした金属であれば簡単に呑み込めるでしょう?」

「ああ、それはそうですね」

「それをもっと小さくすると——水にも溶ける。それを摂取すると体外に排出されずに身体に蓄積するんです」


 水に溶けやすい、あるいは蒸発しやすい金属——水銀なんてものもあるんだが、そのあたりの説明はがっつり省いた。


「でも海は広い。粉状の金属をばらまいてもたいしたことはありません。がぶがぶ海水を飲んだところで有害になるほど身体にたまったりもしません。でも——例外もあるんです。まず小さい生物、オキアミなんかが金属を呑みますね。それをイワシなんかが食べます。次にイワシを中型魚が食べます。——こうしていくと、効率よく有毒な金属が濃縮されていくんです。つまり大型になればなるほど、体内に有毒な金属を貯め込みやすくなる」

「ハッ。食い意地の張った者が発症するのはそのせいですか」


 おれはうなずいた。あと、妊婦の海竜も、つがいは張り切って大型の魚を集めてきたのではないだろうか? だから、妊婦ばかりが大型魚を食べてしまった。

 人間でも妊娠するとマグロやカツオをあまり大量には食べないほうがいいとか言うもんな。胎児に影響があるとか。


「4月のあのときの!」


 と、どこかの海竜が叫ぶと、「そう言えば」「ああ、あれのせいか!?」なんていう声が上がった。なに? なになに? 4月になにがあったの?

 老人がおれたちに説明してくれる。


「実は今年の四月、川の河口で大量の魚が出ましてな。それをたらふく食った若者たちが一気に奇病にかかったことがありまして……」

「え? その魚ってなんですか?」

「マスです」

「————」


 そのときおれは、得も言われぬイヤな予感に身体をわしづかみにされた。


「——ハヤト殿。それで、どうやって治療すればいいのでしょうか?」

「あ……あ、はい。ええと、確か回復魔法で、特定の内臓から毒素を抜くものがあるんですよね? で、その魔法は、毒素の種類がわからないと発動しないと」

「はい、さようです」

「中枢神経や腎臓、肝臓を中心にかけてください。わかりますよね? 内臓。毒素は金属です。ものによっては常温で揮発するようなものもあります」

「なるほど……やってみましょう。これ!」


 老人が言うと、海竜の若者が数人走り出した。回復魔法を使える者はすぐさま病床に向かう。

 周囲が慌ただしくなった。


「ちょいと見て参ります」


 老人もまた去っていく。

 後に取り残されたのはおれ、リィン、カルア、それにクロェイラの叔父だ。

 おれの推測は合っているんだろうか? 合っていて欲しいと思う。やっぱり、病気で苦しんでいる人がいるのはイヤだもんな……まあ海竜だけども……。

 この推測は、日本でもあった公害——水俣病やイタイイタイ病のことを元にしている。水銀やカドミウムといった金属が体内に蓄積された結果、発症するのだ。

 他にも鉱毒とかあるんだろうけどおれが知っていたのは、魚が関係しているからだった。人間もまた食物連鎖の一部なんだと思い知らされる。


「長! 長!」


 世話役の老人が駈けてくる。


「彼の言うとおりです! 明らかに症状がよくなりましたぞ!」


 わぁっ、と海竜たちが明るい声を上げる。中にはウオオオオと叫び出す者までいておれの耳がヤバイ。

 ふう……どうやら推測が当たってたみたいだな。っていうか、ピンポイントで治せる魔法ってのがすごい気もするけど。どうやって毒素を排除するの? 瞬間移動(アポーツ)するの?


「——ウシオくん、と言いましたね?」


 長であるイケメンがおれに感謝を、


「先ほどなにか気づいたような顔をしましたが、まだなにか思いついたことがあるんでしょう?」


 と思ったら違った! 全然違った! むしろこっちを追い込もうとしてる!

 確かに。おれちょっと思いついちゃったことがあるんだよ……でもそれは言いたくないんだよ!


「長! それより早く治療を受けてください! 長だって相当悪いんですよ!」


 え? そうなの?

 イケメンはやせ我慢してたの?

 おれが見ていると鼻の頭にシワを寄せてクロェイラの叔父はイヤそうな顔をしたが、渋々といった感じで立ち上がると去っていった。

 代わりにクロェイラがやってくる。


「ハヤト様。このたびは里の者を救ってくださってありがとうございます」


 丁寧に頭を垂れる彼女を見て、


「……誰? ふぐぉっ!?」


 と聞いたおれはクロェイラに足を踏まれた。痛いって!


「……ここではおしとやかな少女で通ってるんだから、余計なこと言わないで」

「……す、すみません」


 いや、そういう情報は先に教えてよ! わかるわけねーだろ!

 こほん、と彼女は咳払いをひとつ。


「それで——叔父様とは話されたのですか?」

「あ、ああ……」

「……なにか気になることが?」


 おれはうなずいて、小声でクロェイラに言う。


「……もうクロェイラは大丈夫なのか?」

「……うん。ありがとね、すっかり元気」

「……そんなら、できれば早くここを出たい」

「……なんで? まだ釣り大会には全然間に合うじゃん」

「……いや、実は」

「なにやら面白そうな話をしていますね? 私も混ぜてください」

「うおわ!?」


 このイケメン、音もなく背後に立ちやがった! 反応できなかったリィンが驚愕の目で見てるぞ! あともう治ったのかよ! 魔法万能すぎる!

 いや……原因がはっきりわからないとダメだとしたら万能でもないのか? 科学と魔法が組み合わされば万能なんだが。


「ウシオくん……話、聞かせてもらえますね?」

「…………」


 う、うう……あんまり話したくないんだが……。


「あのー、ひとつだけ約束してもらえます?」

「なんでしょう?」

「おれの言うことは推測に過ぎないので、裏が取れるまでは行動を起こさないで欲しいんです」

「ほう。物騒なことを言いますね? もしや——今回の奇病の原因が、人間にあるのですか?」


 うっ!


「ど、ど、どうですかねー? あははははー?」

「詳しく聞きましょう。みんなも聞きたいでしょう?」


 ウオオオオ。

 おれたちは海竜に囲まれていた。人化してない、ガチの海竜たちに。




 おれの推測は——世話役が教えてくれたことに端を発する。

 4月にマスを荒食いしたということだ。

 マスと言ってもいろいろいるが、ここで面白い話をひとつ。川魚でヤマメやアマゴというのがあるが、あれは、サクラマス、サツキマスと同じ魚なんだよな。サクラマスとサツキマスは川で生まれて海に出る。その後海から帰ってきて川を上る。で、サクラマスはヤマメと、サツキマスはアマゴと産卵する。

 サクラマスにはメスしかおらず、ヤマメにはオスしかいない——ほとんど。何事にも例外はある。

 だから4月に荒食いしたマスというのは産卵のために戻ってきたメスのマスだと思うんだけど……そのときおれが思い出したのは、ここに来る前までにいたイオという集落のニジマスの養殖だ。うん……リィンがブラックバスを刺し殺したあそこな。

 あそこのニジマスが重金属を摂取して海に出てたとしたら……。それを海竜たちが食べてしまったとしたら……。

 海竜さん、ブチ切れますよね?

 イオの集落、襲いますよね?


「さあ、話してもらいましょう」


 にこやかに、そのくせ、まったく逃す気のない目でイケメンが言ってくる。

 うーん、だけどおれひとりで勝手に考え込んでも埒が明かないし、意見を聞かないことには話も進まないよな。

 おれは、腹をくくった。

ヤマメはオスしかいないという定説と、メスもいるじゃん、みたいな声もありますね。何事にも例外はあります(便利な言葉)。

あと魔法は万能。しょうがないね。


というわけで発売記念釣行ですが——大・漁! でした!

イナダが釣れすぎて「船長、もうイナダとかいいんで……違うの行きましょう」とか人生で言ってみたいセリフベスト10に入る言葉を口にしました。今年の相模湾にはマジでイナダしかいない。


そんなわけで釣果は、イナダ5、ヒラソウダ2、ゴマサバ1、マアジ2、って感じで、あとは小さいものでイトヨリダイ、カイワリ、よくわからない小さいタイなんかでした。小さいのはリリースですね。

同行者に分けてもらったアマダイとマアジは、七輪を出して炭火焼きに。

イナダは多いので逆に分けてあげたりお裾分けしたりして、残りを、刺身、漬けにしました。

あと本稿でもやった「イナダしゃぶしゃぶ」。これは「茅乃舎(かやのや)」で出汁をとって白だしも加えたところに、茸をゆでたゆで汁を使ってしゃぶしゃぶやりました。最高やったでぇ……。イナダの味も入っただし汁は今朝、味噌を溶いて味噌汁として食しました。


ヒラソウダは漬けにすると最強なのは確定的に明らかなので漬けてます。

ゴマサバは最近学んだのですが圧力鍋で水煮にすると骨まで食える(いわゆるサバ缶)。


しばらく晩酌の日本酒が進みそうです。

やっぱ釣りって最高だね!

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