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7 ママカリ最強伝説

しばらく1日2回更新していきます。

 さて、集会場に戻ったおれである。

 ぼちぼち起き出した村人たち。さっきおれの釣りを見学してた村人たちもあわてて走ってきて何事かを話しているが、もしかしたらアレかな、アジといっしょで真鯛もかなりレアな魚という認識なんだろうか。

 異世界人の魚への執着が怖い。

 チャリコサイズは逃がしてあげましょうよ。


「さて、ママカリはどうなったかな~?」


 ウキウキしながら平皿に漬けておいたサッパを見に行く。うん、漬ける前と見た目は変わらんわ。当たり前だわ。こりゃもう食ってみるしかないな。

 おれ、美人(人妻)にお願いしてご飯を用意してもらう。米を炊いていたらしくてちょうどよかった。っていうか今さらながら米食なんだな。パン食じゃなくてよかった。


「ハヤトォッ!!」


 白米を茶碗によそってもらっていると、血走った目のランディーが走ってきた。

 美人は目が血走っても美人。初めて知ったわ。ただし怖い。


「お、おはよう、ランディー……もうママカリのニオイを嗅ぎつけたのか。早いな」

「おおおおお前は、魔鯛を逃がしたと聞いたが……」

「その話? あれはチャリコだよ。逃がさなきゃ」

「チャリコであっても魔魚(マナフィッシュ)なら逃がすなんてあり得ないだろうが!」

「マナフィッシュ……って、昨日のアジの仲間? あれってデカイ魚じゃなかったっけ」

「違うと言ったろ! 光をまとっている魚だ!」

「まあ、いいじゃん。チャリコだし。リリースでしょ」

「よくない!」

「やけにこだわるな。そんなに食べたかった? 腹減ってるから執着するんだよ。ママカリできたからいっしょに食おうぜ」


 おれがご飯を差し出すと、金魚みたいにぱくぱくと口を開けたり閉じたりしてから、


「……お前といると、私の常識が覆されていくようだよ……」


 ため息混じりに言われた。

 小さい真鯛(チャリコ)のリリースはルアーマンの常識だろうが。




「それじゃ、いただきます」


 人影もまばらになった集会場。ほとんどが家に戻ったらしい。

 ママカリを箸でつまんで口に運ぶ。ん~~~酢の酸味がまず来る。身を噛みしめると寿司ネタのコハダにも似た食感。だけど、魚の旨みが違うんだよな。上品というより、野趣というか、個性的な魚肉の味わい。そこに鷹の爪のピリ辛。米が食いたくなる。

 どーん。ここには米があるのだ!

 炊きたての白米。つややかで固めに炊いたヤツ。それを箸でかっこんでいく。

 くは~~~~うめぇ~~~~~。

 ちょっと手間をかけるだけで美味くなる。ママカリは最強だな。


「は、ハヤトは美味そうに食うな」

「だって最強だもんよ」

「最強?」

「いいからランディーも食ってみなって」


 ごくり、とランディーが喉を鳴らす。給仕してくれた美人(人妻)たちもランディーに注目している。

 ランディーがママカリを口に放り込む。


「お、おおっ……これはこれは」

「飯といっしょだと――」


 おれが言う前にランディーが白米を口に含んだ。だよな。おれが言うまでもなく米食いたくなるよな。わかってるじゃん。


「二日酔いの朝には最高だな」


 ランディー、お前いいこと言うなあ。若くて美人なのになあ。

 他の美人(人妻)たちも食べたそうにしているのでもちろん勧めたところ、大絶賛の嵐だった。

 話を聞いてみると、どうもこの村――というか大陸? 世界? では、食生活がかなり偏っている。

 肉、肉、肉。

 野菜は少々。

 魚は極少。

 それもこれも海竜のせいで漁業が発達してないからだ。魚釣りはここ数年で爆発的に普及したが、釣り具がしょぼすぎて小魚が少々釣れる程度だとか。

 食材がなければ料理も進歩しない。

 よって、ママカリのような料理は存在しないのだとか。

 この日以降、フゥム村ではサッパ釣りからのママカリ作りがブームになったんだが……サッパじゃなくて大きいの釣りましょうよ、とは、とてもじゃないが言い出せない雰囲気だった。


「網漁はやらないのか? あれだけ魚がいるならゴッソリ取れるだろ」

「網は破られるからな」

「破られる……?」

「海魔の類は網を嫌うからな」


 カイマ?

 牛とか馬が食うヤツだっけ。それは飼い葉~。

 脳にある機能だよな。それは海馬~。

 とか一瞬で思いついたけどそんなジョークは冷凍マグロのボーリングより滑ることは確実なのでおれは口を閉ざしていた。

 説明によると、魚ではない生き物がいるらしい……。海魔。海洋性モンスター。マジかよ、海竜だけじゃ飽き足らず通常モンスターもいるのかよ。どこまでファンタジーなんだこの世界は。

 海魔は魚を食わず、陸上の動物が落ちてくるのをひたすら待っているんだとか。海水浴気分でどぼんしたら土左衛門になる可能性が……いや、海魔に食われるから土左衛門にはならんか、よかった! よくねーよ。


「アレだ、海釣りって危険なんだな」

「……当然だろう?」


 釣り人のくせにお前なに言ってんの? みたいな目で見られた。なにも知らずに異世界転移してきてほんと申し訳ない。


「船での漁は、水深が15メートルに満たないところで釣り糸を垂れるくらいだ。シロギスや、底物を狙ったりな」


 なるほど。

 シロギスがいる砂地ならカレイもあるな。

 根回りなら底物……カサゴにメバル、ソイなんかも狙える。

 船があれば海上から根を見つけてピンポイントで釣りができる。


「釣り魔法の使い手がいれば漁獲量は増えるんだがな……」

「はいランディーさん(ダウト)ー」

「な、なんだっ!? 嘘などついてはいないぞ」

「なんだじゃねーよ! 釣り魔法ってなんだよ!? おかしすぎんだろ!」

「釣り魔法は……ハヤトの国ではポピュラーではないのか?」

「ポピュラーどころか聞いたこともねーよ。魔法って言ったらファイアーボールとかヒーリングとかで、ドラゴンと戦うのに使うもんだよ」

「それももちろんそうだが、照明や炊事、消毒などの生活魔法もあるだろう」

「…………」


 そうだった。割となんでもできる魔法の世界だったわ。


「……釣り魔法ってなにか教えてください」

「き、急にしょんぼりしたな。どうした」

「知りたい! 知りたいよ! 釣りの魔法って――そんなもん実装したらぶっ壊れ過ぎてユーザーから苦情ガンガンくるぞ!」

「ユーザー? 実装?」


 おっと、弊社の課金ゲーのことは関係なかったですな。デュフフ。


「それで釣り魔法って?」

「あ、ああ……そうだな、軽い浮きや仕掛けを遠くに飛ばしたり、海中に沈める速度を速めたり、道糸を強化したり、そういう魔法だな」


 便利すぎィ!

 なんだよそれ! 釣り道具メーカー殺しじゃねーか!


「ハヤト!? いきなりエビぞりになって頭頂部を床にこすりつけてどうした!?」

「謝れ! DA●WA様やSHIM●NO様に謝れ!」

「それがハヤトの国の偉人の名か? 我が国、いや、大陸ではやはり賢者が偉人で――」

「おれも釣り魔法使いたいです」

「……今、釣り魔法を否定していなかったか?」

「背に腹は替えられませんので」

「丁寧語になると調子がくるうな……しかしな、ハヤト。釣り魔法にも欠点があるぞ」

「魔法の才能かっ! そうか……幼少期にしか魔力総量を増やせないとかそういうヤツか……水晶玉に手をかざして適性を測ったり……実力がとんでもないと王立魔法学院に入学していけ好かない貴族に目をつけられたりしちゃうのか……」

「い、いや、そうではなくてな――まあそういうこともあると聞くが」


 あ、やっぱりあるんだ。


「だが釣り魔法はあまり一般的ではない。魔力の扱いが非常に繊細になるのでまず使える人間が少ない。それに釣り魔法を使っていると魔魚が釣れないのだ」

「……ん? どうして?」

「釣り魔法を発動していると術者の魔力と魔魚の魔力が干渉し、釣り上げようとすると魚の身が腐る」


 おおう……なんということ。


「やはり魔魚を釣ってこそ釣り人よ。釣り魔法の使い手は生活を豊かにするが、二流の釣り人。一流は道具と餌と己の腕で勝負する」


 うんうん、とうなずいているランディー。

 なんかごめんな。最新鋭の装備でもって魔魚とかいうの釣っちゃって。

 でも魔魚がいちばんというのはなんとなくわかるよ。

 食った瞬間、幸せが押し寄せて、肌がつやつやするんだもんな。おれのフルコースのメインディッシュに入れてもいいよ。ト●コかな?


「あ、そうそう。ハヤト、お前が魔魚を釣ったことはすでに王都に報告済みだ」


 さらりとランディーは、聞き捨てならないことを言った。

東京湾最奥の若洲で釣ったサッパで作ったママカリは……美味しかったんですが、なんかちょっとケミカルな味がしました。

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